ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

707 / 787
説明回です。


第百九十四話「自衛隊から、のぞみへの伝言」

ーー21世紀の日本は結局、扶桑との連邦の主導権争いに敗北する形となった。全体でポカをしすぎたためで、軍事的貢献のため、Gフォースを自衛隊とは別の軍事力として創設する羽目に陥るなど、どうにも間抜けな印象は拭えなかった。扶桑軍人への暴力行為に、日本の当局が悩殺されてしまう事態にもなったため、日本滞在の扶桑軍人に『自衛官の格好で出歩け』と要請せざるをえなくなった。軍人の立場が弱い世界である故だが、日本側の自業自得の面も否めないものだった。結局、軍事面で扶桑に優位なものが実は少ない事が判明したことから、日本は日本連邦内で一時ほど居丈高に振る舞えなくなった。皮肉なことに、戦艦大和と武蔵が近代化改修済みであることの判明が、日本の政治家を震え上がらせたのである――

 

 

 

――実際、扶桑の戦艦部隊はM動乱で全滅の危機に陥った後、急速に装備の近代化が進み、地球連邦の協力で、新造艦の短期間での完成に至っている。1949年次では、超大和が主力化しているので、大和は相対的に旧型になっているが、史実が嘘のように近代化された艦容により、日本への威圧の役目を果たしていた――

 

 

 

――旧軍港のいくつかに、扶桑艦隊の滞在を許している日本。ただし、扶桑にはある大神と室蘭軍港は日本には存在しないので、史実の軍港に分散してもらっていた。そのため、各地の軍港はいっぱいいっぱいの様相を呈してしまった。もはや、日本の大神は戦争遺跡に近い扱いなので、扶桑が買い上げるわけにもいかなかった。そのため、妥協策として、日本国内の各軍港を更に拡充する選択が取られた。魔女の世界のように、民間の港湾整備を間借りするわけにもいかないからだ。これは扶桑に専用設備を与える事を日本国民は嫌がったが、同じ大和民族である以上、無下にもできない。かといって、民間の港を間借りされたくはないし、扶桑を怒らせたら、沿岸部の都市は艦砲射撃で吹き飛ばされてしまう。その相克の妥協が主要軍港のさらなる拡充であった。結局、軍港はどこまでいっても、軍港ということだ。米軍は扶桑艦隊の存在を理由に、駐屯する艦艇を減らしたので、その空きに扶桑艦艇が収まる形である――

 

 

 

――扶桑艦隊は見事な威容である。空母こそ大戦型であるが、戦艦、巡洋艦といった『大型水上戦闘艦』は威圧感たっぷりである。近代化改修でSFチックな外観になっているものも多いが、大まかな艦容は保っている。史実にはない『超甲巡』はM動乱の戦訓で急遽、計画が復活したもので、ダイ・アナザー・デイで有効性が示された。大きさ的には戦艦サイズであるので、政治的都合で『BC』(巡洋戦艦)の符号を宛てがわれるなど、流転の艦生を辿っている。M動乱後に空軍ができる過程で、海軍空軍化の推進者の井上成美が(提督としては)失脚したため、水上戦闘艦の計画が一挙に復活。超甲巡は当初予定よりも多く建造された。甲巡群が大打撃を受けていたためである。ところが、政治的理由で巡洋戦艦にカテゴライズされてしまったため、甲巡を改めて計画せねばならないなどのゴタゴタが起こった。結局、乙巡の消滅、駆逐艦の大型化と万能化の進展で甲巡の重戦闘艦化が進められていくという経緯となり、その関係で、戦艦の主砲口径も20インチ(51cm)砲級が当たり前となりつつある――

 

 

 

――ドラえもん世界での海自の大型イージス艦は『イージス・アショアの失敗』を大義名分にしているが、実際には『扶桑の超大和への海自の背広組の対抗心で転換された』という噂が流れるくらいに唐突に計画が発表された。実際、海自の戦闘艦はあたご型、まや型でも、排水量は一万トンがせいぜい。扶桑の重戦艦は10万トンを超える威容を誇るので、組織のメンツ論が絡むと囁かれ、日曜の討論番組で格好のネタにされた。特に、主砲の破壊力は(日本向けの偽装データだが)大和の46cm砲を凌駕し、ノースカロライナ以前の旧式であれば、数発で戦闘能力の半減に追い込めると豪語していることは、大艦巨砲主義の究極と評された。実際、50cm台の艦砲は(艦砲としての)実用限界点と言っても過言ではなかった。砲弾の重量が『(緊急時に)人力で運搬できる』限界を完全に超えてしまうからである。戦艦用の砲塔の最低ラインも更新され、強大なリベリオン艦隊を想定しての更新であるのが丸わかりである。この情報に興味を抱かなかったガリア海軍だが、後年にそれを後悔することになる。ガリアは停滞により、40cm砲の実用化すら遅れていた。だが、日本連邦は50cm台の砲を矢継ぎ早に実用化。もはやスペック上の貫通力という小手先の違い程度で埋められない差があったのだ――

 

 

 

 

 

――21世紀 日本――

 

他の世界線と違い、ロシアが事を起こせる常態ではなくなったが、その代わりに中国が蠢く状況となったドラえもん世界。表面的には友好関係の日中だが、中国は野心が見え隠れする状況であった。皮肉にも、史実より強力な艦艇がある扶桑艦隊の威容が抑止力になっていた。現代型の戦闘艦は接近戦に弱いからである。対艦ミサイルは戦艦の重装甲に決定打とはならず、装甲の表面で爆発するのみ。それは色々な都合で隠されていた。現代兵器が過去の兵器に万能に働くわけではないのは当たり前だが、財務規律しか考えていない、財務当局の横槍を防ぐためであった。――

 

 

 

――魔女の世界では、人同士の戦争は久しく起きていなかったので、それについては楽観論が蔓延っていた。だがリベリオンが『分裂』し、本国側が敵に回るという事態に右往左往。日本側の不手際もあり、数カ国の軍隊が作戦前に無力化してしまう有様であった。そのため、地球連邦の未来兵器無しに戦線は崩壊を避けられなかったと断言されている。扶桑の陸軍はM動乱のショックで機甲戦力の拡充を図っていたが、軍縮を目論んだ日本の左派の妨害で旧式兵器を処分されてしまい、結局は超兵器と超人頼りの有様に落ちぶれた。特に、真ゲッターロボ(漫画版基準のイカれた能力値の個体)やマジンカイザー(OVAの姿ではない)の超絶パワーが奮われ、ティターンズも怪異も構わずに蹂躙する。その様は、扶桑が裏でどういうコネクションを持つかの証明であった。魔女ら(サボタージュしていた者ら)はこの二大スーパーロボットの超絶的な力に震え上がった――

 

 

――マジンカイザー、真ゲッターロボの二巨塔はどこの世界の住民か?――

 

という記事が紙面を飾ったのは、ダイ・アナザー・デイから数年後、扶桑が機密を解除してからである。真ゲッターは漫画版基準の能力と姿であり、『アブナイ機体』であった。だが、その戦闘力は本物であり、魔女たちの手に負えない大きさと再生能力を持つ怪異の巣を(炉心出力が抑えられた状態での)ストナーサンシャインの一発で殲滅するなど、その超絶ぶりが示された。また、圭子がその加護を受けた『ゲッターの使者』であることも明らかにされ、日本は扶桑の『異能排除派』を排除し、異能を国防に活用する事を連邦全体の方針として提唱。将来の軍縮を考えていた昭和天皇の内諾も得た。この時点で、魔女閥を含めた『排除派』が何をしても、活用派は錦の御旗を得たのだ。

 

 

「やぁ」

 

「こんちわ。お仕事にいくところですか?」

 

「内閣参事官をしているおじの頼みで、扶桑の高官らの説得に行かされることになってね。息子を野比君のところに預ける途中さ」

 

出木杉英才は代々、科学者や政治家などを輩出する名門の出。戦中に彼の祖父が戦死しているなど、意外と波乱万丈な背景を持つ。出木杉本人はJAXAの宇宙飛行士であるが、政治家である親族の頼みで、度々、扶桑を訪れているとのこと。

 

「今回は何日くらいですか」

 

「五日間ほどになる。今回は高官らと会談するので、スケジュールがいっぱいでね」

 

出木杉は2020年代中頃の時点では、エリートの宇宙飛行士である。同じ宇宙飛行士である外国人の妻を娶り、息子の『英世』共々、野比家とかなり親密な関係を保っている。医者である彼の従兄弟はウマ娘らの診察を佐渡酒造と共同で行っている一人だ。

 

「息子をまた頼むことになる。君等にまた迷惑をかけるが、家内も『よろしく』と言っていたよ」

 

出木杉はのび太との友人関係を深め、成人後はお互いの子どもを預け合うほど。まさに家族ぐるみの付き合いであった。野比財団の政治面での後ろ盾でもあり、彼の存在で、野比財団は急速に社会的信用を得たと言える。

 

「わかりました。のび太さんに伝えておきます。会長に連絡をお願いします」

 

「私から、ルドルフ君に言付けをしておくよ」

 

出木杉を乗せたハイヤーが走り去っていくのを見届けたナリタタイシンは、のぞみに『ドラえもん世界の自衛隊の状況』を伝えるため、海自の見学ツアーに(黒江のツテで)申し込み、当選。数時間ほどかけて、神奈川は横須賀へ向かった。黒江は自衛隊の高官でもあるので根回しを済んでおり、タイシンの事は『統括官ご指名の伝言役』ということとなり、のぞみへの伝言を護衛艦の食堂で、護衛艦の艦長直々に伝えられた。

 

「あなたが統括官ご指名の伝言役ですか。難儀な事を」

 

「本当はゴールドシップの仕事なんですけど、あいにく、あいつは今、留守にしていまして。それで私にお鉢が」

 

「なるほど。あなたは『前世』からは想像もつかない姿なのも理由でしょうな」

 

「これでも、一時は三強と言われたものですよ?」

 

「存じてますよ。その頃に若かったもので」

 

2020年代に艦長クラスの自衛官は入隊年次がちょうど、昭和の終わりから平成の初期にかかるため、タイシンの『前世』を見ている者もいるわけだ。

 

「まさか、同じ冠名同士で『縁戚』関係とは」

 

「私とブライアンみたいなケースは珍しいほうです。エアグルーヴとエアシャカール、マチカネフクキタルとマチカネタンホイザのように、『偶然に同性である』事のほうが多いんですよ」

 

タイシンは前世と同じく、デビューはブライアンより早い。その関係もあり、(公の場では)ブライアンはタイシンに敬語を使う。普段はタメ口(姉の親友である上、元から縁戚関係なので)でも、だ。

 

「伝言役は本意ではないんですけど、恩義があるんで、引き受けたんです」

 

「伺っております。統括官と出会ったことで、あなたは不本意な形での引退を事前に回避できたそうですね?」

 

「ええ。ご存知かと思いますが、前世での私はライスシャワーが亡くなったレースで……」

 

「競走能力喪失レベルの怪我で引退……ですな。それを統括官は……」

 

「ええ。例の『超技術』や『波紋の呼吸の伝授』で、私たちに今一度の機会を与えてくれました。私たちは『内面の衰え』が普通の人間より、うんと早く訪れます。種の宿命と言うべきものです。ですが、それに納得できない場合がある。私やブライアンのように」

 

タイシンも、ブライアンもだが、前世の記憶の蘇りで『闘争心』が燃え上がる一方で、肉体的に『ガラスの脚』と形容されるウマ娘の宿命に抗うには、超技術と波紋の呼吸などが『どうしても必要』であった。

 

「それで、あなたとブライアン嬢は……」

 

「賭けでした。丁が出るか、半が出るか。そのくらいの。私とブライアンはそれに勝ちましたけど」

 

そこで、タイシンの表情は和らぐ。効果が出るかはわからない。だが、年齢的に『ピークアウト』が迫ってきていたか起き始めている中、それに抗い、レース界に爪痕を残したい、前世の悔いを晴らしたいという、二人の切実な願いは叶った。

 

 

「その一助がゲッター線…。ある意味、ゲッターが貴方方の願いを叶えてくれたかもしれませんな」

 

「そうだと思ってます」

 

そこまで世間話をした後、のぞみへ伝える事項が話される。2024年の日本(ドラえもん世界)は『扶桑のコントロール』に世間が(のぞみへの失態もあり)飽いてきている事、目下の目標が経済復興の完遂となった事で、扶桑の軍事力を上手く使おうとする考えが台頭してきた事、それにより、日本の国連での発言力が(それまでが嘘のように)上昇を始めたとも。

 

「金づる扱いされてたのが、扶桑の海軍力を日本が使える状況なのを理解して、ブルったんですか?」

 

「有り体にいえば。もっと言えば、戦艦大和よりも大型で強い改良型の戦艦が彼らの手にあることが示されたから、です。元々、大正の遺物である戦艦長門の時点で、原爆に耐える耐久力を持っているのに、それよりも直接防御が段違いの戦艦大和の更に強化タイプなど……。現代の状況では、大戦中のように、多数の飛行機での攻撃ができなくなりましたし、史実と段違いの工業力で造られた以上、防御力は坊ノ岬に眠る『こちら側の大和』を遥かに超えるのは確実。加えて、主砲の破壊力はドイツの列車砲並にまで増大している。そんなものに接近を許せば、アメリカの原子力空母も木っ端微塵です。それが皮肉なことに、我が国のみならず、核保有国への抑止力となったのです。化石扱いの大艦巨砲が周りに回って、国を守ったのですよ」

 

彼はその様を『かつての日本海軍が滅亡まで抱いていた執念が、時を越えて本懐を遂げたようなもの』と述べた。

 

「この護衛艦も、現代基準では大型に入るのですが、超大和型の前では笹舟も同然ですよ」

 

タイシンが乗艦した護衛艦も、現代の戦闘艦では大型と言っていい。だが、比較対象が『大和が巡洋艦に見える』ほどの巨大さを誇る大艦巨砲の申し子相手では『笹舟』も同然。

 

「確かに、あれじゃ、子供とムキムキマッチョの大男みたいですね」

 

「現代艦は見かけが貧弱なので、子供受けもよろしくない。ですが、いくら近代化改修済みと言っても、如何にもという雰囲気は残っていますから」

 

扶桑の一線級の戦艦は(近代化改修などの余地を考えて)大和型以降の新世代型で統一が完了しつつある。地球連邦軍の協力で、上部構造物の外観と機能などは宇宙戦艦ヤマトのようになっているが、城郭のような美しさを称えられた、最終世代の日本戦艦(大和型)の基本シルエットは保たれている。素人目にも、『強そう』である。

 

「そのようなわけで、お偉方は『メンツに関わる』と宣っています。統括官は呆れておいでですが、政府は本気ですよ」

 

 

と、彼は上層部が『海自のメンツに関わる』と裏で言い合っており、行政の失敗を利用し、うまいこと『大型イージス艦』の建造に乗り出した事を『夢原少佐への伝言』として伝える。扶桑海軍へ示しをつけたいのだろうが、21世紀の前半時点の日本は概ね平和を保つので、(平時の兵力)としては金食い虫と言われそうなものだ。二次大戦後に各国の戦艦が『時代遅れ』を理由に、急速に姿を消したのは、その側面もある。海自としては『扶桑の戦艦に迫力で負けない艦がほしい』のが本音だろう。(現代の戦闘艦としては最大級だが、戦艦に比べれば、重巡相当だが……)

 

「メンツか……。どこの組織も、昔のヤンキーだがみたいなことをいうんですね」

 

「いつの時代も、そういうことはありますよ、タイシン嬢」

 

日本政府のメンツなど、ダイ・アナザー・デイとその後の混乱で、とうに潰れているも同然である。自衛隊は現場が奮闘しているものの、上層部の多くは日本連邦内部の派閥抗争にかまけている。この悪癖は地球連邦時代に最悪の形(ティターンズの台頭)で表に出てしまったことになる。

 

「事務方は現場の我々と違い、警察のおまけだとか、戦前の日本軍とは関係のない組織だの言ってますがね、実際は多くの伝統を受け継いでいます。昔から派閥抗争はありますが、同じ立ち位置でも『別の歴史を辿った国』に『同じ目に遭え』というのは違うのですが」

 

防衛省の内部でも、警察官僚出身者たちは『増長した軍隊は危険だから、負けるように仕向ける。戦力などはいくらでも、後で再建すればいい』という論理で、扶桑が不利になるように仕向けた。だが、扶桑は異能者と超兵器でダイ・アナザー・デイを勝利した。日本の警察官僚。彼らが日本と扶桑の友好関係のガンと言える。

 

「連中は嫉妬してるんでしょうな。我々の先祖が『勝てるはずのない戦争』で失った、全てを『彼ら』(扶桑)は持つ。だから、敗戦した我々と同じ目に遭わせたいと。みっともないことだ」

 

彼がため息をつくが、実際のところ、扶桑は44年のある時期からは、地球連邦の提言に従って、建艦計画を決めていた。だが、そこに21世紀日本が横槍を入れる形になったのも、混乱のもと。最も、(雲龍が予定通りに複数が竣工していたことから)大鳳の増産は少数(造船所の独自判断で製造が続いていた個体がいたが)に終わった理由であった。魔女用という意識であったが、魔女の軍事的意義の低下で通常艦上機が主力となると、急速に空母の少数精鋭化が進展。それに伴い、大鳳の規模では小さすぎる問題も発生。結局、85000トン以上の排水量が必要になり、空母のコンパクト化を推進していた者らは『技術発展で、結局は艦が大型化してしまう』現実に打ちのめされ、大半が軍を去ったという。

 

 

「扶桑には悪いですが、我々の先祖は不相応な背伸びで負けた。その繰り返しをさせまいとする勢力もいる。彼らにも、一定の理はある。それが、かの地の混乱のもとかもしれません」

 

彼の予測通り、扶桑は太平洋戦争を期に、海洋国家に専念することになる。だが、大陸領の元住民の心情への配慮から、施政権の『委託』という形に落ち着くが、正式な発表は1990年代以降と定められた。『撤退時に大人であった世代はそこまで生きていないだろう』という計算からである。1940年代から50年もの月日も情報を秘匿させる方針になったのは、政府が暴動を恐れたからである。現地からの宝物の回収の時間が必要であったからでもある。大陸領奪還は事実上、消えたも同然になったが、連合軍の主力に担ぎ上げられた以上、一定程度の陸軍は必要。その結論と、戦況が(皮肉なことに)外征軍としての扶桑陸軍を必要としたのだ。

 

「扶桑は兵器を揃えられても、熟練の兵士や士官が少ない。だから、一握りの才ある者に最高の兵器を与え、どうにかしようとした。貴方方の世界で言えば、地方から出てきた誰かが中央の最高峰のレースをいきなり取ろうとするようなもの。だから、こちらでのレベル5以上の能力を駆使できる統括官と、そのご友人らは天然記念物もの。言い方は悪いですがね。ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケという、ドイツの将校も馬鹿なことを。素直に厚意を受け取ってれば、今頃は悠々自適な生活だったろうに」

 

と、第三者である自衛官にまで、こう評されるほどに、ミーナの行為は(この頃には)知れ渡っていた。

 

 

「有名ですからね、彼女。アニメでも、百合要素があるように描かれてましたけど……」

 

「だが、時代的に、それは早すぎた。私の祖父の青年期の頃ですから、そんな頃に百合は公にできない。男なら、その場で破滅ものだ。女でも、一歩間違えれば、異常者扱いでしょう。それは不幸ですよ」

 

同性愛は1940年代では、ある種のタブーである。21世紀でも、古い偏見が残っているというのに、戦中の時期では異常者扱いされる。ミーナは幼馴染の戦死で、同性愛に傾いてしまった。本人に自覚はなくとも、だ。彼がいうように、書類を一回でも確認していれば、隊を丸ごと『扶桑の管理下』に置かれることにはならなかったのは確実であろう。上層部による査問では、黒江たちの『年齢』を理由に、戦力にならないではないかと強弁したが、逆に魔女と異質の『異能者』であることを示され、愕然とする有様であったとも伝わっており、『思い込みで破滅したドイツ人』とのレッテル貼りもされていたのが窺えた。

 

「統括官らの異能を理解していれば、そのドイツ人も甘い汁を吸えたでしょうに。最も、東條英機が否定していたといいますが……」

 

ミーナの破滅の遠因に、東條英機が魔女以外の異能を否定した点があるとされたため、東條の名誉回復は『より困難にした』。江藤が前線に復帰せず、裏方に徹し続けているのは、その原因に自分が絡んでいるからで、その償いであった。

 

「あの人(黒江)はどうして、そこまで」

 

「あの方は三回も転生したと言っています。その三回目が今回であり、異能との付き合いを覚えたと言っています。空自に籍がありますが、職責の都合上、三自衛隊に指揮権が及ぶ。現場型の人なので、陸自のレンジャー訓練にも参加しているし、我々の訓練航海にも同行した。扶桑出身でなければ、統幕入りも成ったでしょう」

 

革新政権時代の内部通達は(自衛官が扶桑軍の指揮を取る可能性が現実味を帯びたことから)有名無実化が進んだが、組織の防衛本能により、慣習として残っていた。だが、Gフォースの結成により、それも消えようとしている。日本駐在の扶桑軍人に自衛官の籍を付与するのは(法的問題のクリアのため)慣習となっている。

 

「異能持ちと分かれば、上は掌返しで優遇するようになる。その点、貴方方の協会のほうが平等性を担保していると言える」

 

「ですが、オグリ先輩が『走れなかった』ことで、協会は相当に叩かれましたよ。変えたのは、彼女の引退後。その恩恵に預かったのがオペラオーですが……」

 

「テイエムオペラオーか……。強かったのは事実ですが……」

 

テイエムオペラオーは強さの割に、スターとして語られることは少ない。賞金額、勝利数は文句なしに、歴代でも相当の上積みのはずだが、スペたちの直後の世代であるのも災いしたのか、引退後に早世した、アドマイヤベガの影に隠れている。それが競走馬としての立場だ。

 

「そちらではどうなのです?」

 

「はぁ。あの子は強いことは強いんですが――」

 

 

タイシンはオペラオーが大衆人気を得られなかった理由を話す。オグリやスペ、テイオーのようなドラマ性を持たないこと、ライバルらしいライバルが(全盛期に)メイショウドトウのみになってしまったこと、ナリタトップロードは(この年のステイゴールドの『ある行為』のせいで)成績が低迷してしまったことで、ライバルの座をラスカルスズカに追われたことを語る。

 

「そこも史実通りなのですか」

 

「違うのは、トプロに闘志が残っている点ですね。ライバルの座をラスカルスズカに奪われ、衰えを囁かれても」

 

タイシンはトプロ(ナリタトップロード)に闘志が残っている事を明言。間接的に親類を擁護した。ナリタ一族では(おそらく)、最後の(中央での)大物であることが確定しているからだろう。

 

「運命に抗うのは、本能かもしれません、私たちの」

 

「でしょうね。だからこそ、異能が生まれていったのでしょう。少佐と統括官によろしくお伝えくださるよう……」

 

「ええ。しっかりと」

 

伝言役とはいえ、自衛隊に黒江が深く入り込めた理由を垣間見れたタイシン。同位体も日本陸軍のトップエースかつ、空自の高官にまでなったというので、士官として最高級の人望があるのだ。言動は『ガラの悪いねーちゃん』(一人称が『俺』なのも大きい)なのだが、現場型かつ、総軍でもトップファイブの戦闘能力を誇ること。あまり見せないが、場面に応じて、適切な口調と、かしこまった態度を使える特技がある。現場型であるので、当然、現場で人望があるのも、出世の理由だ。

 

(日本だと、事務処理型は人望得られない事多いんだよね。石田三成とか……。現場型は伊達政宗しかり、真田幸村しかり、人望を得られる。かと言って、福島正則みたいな戦バカだと、平和な時代には冷遇される。あの人は平和な時代の生き方を心得ていて、なおかつ、有事に強い。それで現場型。人望と能力で自衛隊の中枢に食い込んだわけね)

 

黒江は日本への滞在中は概ね、デスクワークが実は主体。技能維持の飛行と、突発的なスクランブル以外は日本では飛んでいない。だが、一度飛べば、飛行教導群も裸足で逃げ出す腕前を維持している。なおかつ、現在進行系でジオン残党狩りにも参加している。これで人望を得られないほうがオカシイのである。だが、日本型組織では『現場での優秀さ』は出世の条件とは言い硬い。事務処理はできるが、趣味ではないと公言することで、防衛省の背広組に疎んじられている点もある。

 

(現場型って、日本の組織じゃ生きにくいのよね。シンザンさんが会長になれたのも、現役の時の実績以外だと、政治力なのよね)

 

ルドルフは帝王学を身につけていたこともあり、組織の切り盛りのイロハを知っていた。だが、テイオーは若く、そうしたイロハを持たない。

 

(だから、エアグルーヴとブライアンを留任させたんでしょうね、前会長は)

 

実際、テイオーはこの後も『史実の心残り』を晴らす目的で、現役に留まる。ルドルフ~オグリまでの時代、アスリートのウマ娘たちの選手としての寿命は平均で一年~一年半。二年を超えて活躍したウマ娘は少ない。ルドルフは祖母のスピードシンボリが(アスリートウマ娘として)異例の長命であったこともあり、一瞬の栄光で終わってしまった自らを悔やみ、夢を愛弟子のテイオーに託したが、そのテイオーも『異なる世界線との接触』がなければ、四度目の骨折が起こり、選手生命が尽きるはずであったという事実。生徒会長の後継に添えたのは『前世での父親としての償い』だろう。また、一年半から二年で世代が完全に入れ替わることでの『人気の持続性の無さ』に協会が悩んでいるのも事実。

 

(引退する時を個人の裁量に任せられるようになれば、後輩達は長く現役に留まる。その分……)

 

 

 

アスリートとしてのウマ娘の寿命は『脚が肉体的に限界を迎える時』とされる。だが、史実持ちのウマ娘の場合、『史実での役目を果たした瞬間にピークを終える』としか思えないものが多い。ルドルフ、マルゼン、シービー…。歴代の強者を見ても、史実の戦績に到達した瞬間、故障やピークアウトが起きている。三人はそれを知ってしまうことで、走ることへの欲望が蘇っている。意志力の減退、魂に刻まれた『史実』もピークアウトに個人差がある理由の一つである。そうでなければ、サクラチヨノオーの異様に早いピークアウトの説明がつかない。タイシンは自身の心残り(前世で、自身のサイアーラインが孫の代で途絶えるなど)に折り合いをつけたいこともあり、翌年も現役に留まる決意を固めていくのだった――

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。