――西暦2000年 遠征前の最後の休暇を取ったのぞみは『本来なら、自身は七歳頃である』時代を(プリキュアの姿で)過ごすことになった。その時代の東京においても、牧歌的な様相のススキヶ原。(記録上)は扶桑と日本が非公式に、初めて接触したとされる年である。2001年まで間がそれほどなく、その年にはのび太は中学生になる。同時に、この時期はのび太が思春期にのんびりとした生活を送れた最後の時期にあたる――
「2000年かぁ。家にパソコンはなくて、TVもブラウン管……。こんなだっけ?」
「この時代の家庭はこんなものですよ、ドリーム」
「まさか、プリキュアの姿でこたつにあたるなんて、思ってもみなかった」
「クリスマスも近い時期ですからね。この時代は寒いですよ」
こたつにあたりつつ、のんびりとくつろぐキュアフェリーチェ。ことはの姿でないのは、ことはの姿では不都合が生じる事が多いのもある。言い回しに幼児性が強く出てしまうのも、ことはが直面した『思わぬ困り事』。変身していたほうが外見と精神年齢が釣り合うという事情も大きい。
「フェリーチェ、変身してていいの?」
「私は元の姿にしばらく戻れませんでしたし、元の姿だと、色々と不都合が多かったのです。それで、普段から変身しているように」
と、いう事情を話す。
「確かに、元の姿だと、外見よりぐっと幼い喋り方だもんね」
「ええ。恥ずかしながら」
ことは(フェリーチェ)はプリキュアに変身していれば、内面が外見に追いつくので、口調も相応のものになるが、素は子供そのものな精神年齢であるので、外見よりかなり幼い印象を受ける喋り方になる。しずかのアドバイスで『素の精神年齢が外見に追いつくまでは、変身してる時間を長くする』ということにしていたのである。これを2020年代になっても続けている。
この時期の野比家は借家である関係や、当時のPCの値段の関係もあり、家にPCはない。裕福な生活を送る叔父ののび郎のおかげで、のび太が当時最新のTVゲームを買えたので、野比家は(のび太が高校生になるまで)世の中の電子機器や家具の進化にあまり縁がなかった。玉子がこの時期に使っていた掃除機は『1994年製』であったり、洗濯機に至っては『1990年製』など、のび助が出世する前であるのもあり、意外に慎ましい生活(当時ののび助が家具を一度買うと、完全に壊れるまでは、意地でも買い替えない質であったのもある)を送っていた。だが、ことはと調が家族になり、G機関が『二人の今後のための学費と食費』を送金してくれるようになったため、生活費に余裕が生じ始めた。だが、玉子はそれよりも(自身が受験戦争華やかりき時期に学齢期であったため)息子の前途に言いようのない不安を覚え、中高の六年間の大半を『大学受験の準備』に費やせる。だが、のび太が中学生になってすぐに、ゆとり教育が始まり、玉子の時代より大学受験の難度が低下。のび太は無事に補欠合格に至るのだ。
「いいの?外見的に、学校行ってないと」
「私はまだ正式に養子にはなってないんですよ。ご両親が躊躇っていたので。正式になるのは、あと二、三年後ですね。あなたは如何様にも誤魔化しようはあるでしょう?」
「そりゃそうだけど」
「まさか、ずっと後に、あなたがのび太の養子の妻になるなんて、彼らも想像だもしないでしょうし」
「数十年も経った後の事じゃん」
「ええ。その頃には、のび太も50近くになっていますからね」
「でも、変身した状態で過ごせったって、力の使いどころある?」
「餅つきとかで使えるじゃないですか。80歳以上の御老体に餅つきやらせるわけにもいかないし」
「そういえば、あたしが前世で20を超えたあたりには、そういう町内行事は無くなったんだよなぁ。やれる人がいなくなったとか云々……。たしかに、プリキュアの姿なら、餅つきは苦じゃないけど」
「ウルトラマンだって、何代目かが餅つきしたって話があるんですから、私達がしてもいいでしょう?」
「うーん……」
と、いう感じで微妙な表情のキュアドリーム。野比家は裕福ではないが、大正~昭和戦前期には地元でそれなりの顔役であった時期がある。その名残りか、庭の物置には『のび助の曽祖父の代に買った餅つき道具』がある。戦後は殆ど使わなくなったらしいが、町内行事の時には出していたという。だが、2000年頃は町内行事という文化が廃れ始めた(以前に音頭を取る役目を担っていた老人らが亡くなり始めたため)時期である。ススキヶ原の自治会が勢いを取り戻すのは、皮肉にも、動乱の時代を迎え、のび太達も子を儲け、その子らが、『この時代ののび太ら』に近い年齢に成長した時期であった。
「えーと、次の年にアメリカを揺るがすテロ事件があって、その10年後に東北の大地震、か……。覚えてないんだよなぁ。あのテロ。当時はまだ、8歳かそこらだったし」
2001年に八歳を迎える世代に当たるのぞみには、9月11日のテロ事件の記憶はほとんどない。物心が完全についたのは、もう数年は後の話だ。
「のび太も中一なので、ご両親があまり見せなかったんですよ。あれは残酷なニュースでしたし」
「で、すぐにアフガンで戦争だっけね。転生した後だと、日本の平和さが余計に身にしみるよ」
「あなたの転生先には怪異がいますからね」
「そうなんだよ。転生先じゃ、常に怪異を意識してたからね。姉貴も軍の大佐だったしさ」
「中島家はいつから長島飛行機と?」
「親父が長島知久平と海機の同期だったんだよ。親父は家の事があるから、早めに退いたけど」
のぞみは転生先では、父の代から軍需産業と懇意にしている家柄であったので、日本連邦の樹立後の時間軸での騒動の一因は『実家が軍需産業との癒着』を疑われた事でもある。
「おかげで、実家もえらい目にあってさ。参ったね。実家はテストをおふくろが任されたのが始まりで、その子供が世襲してるだけなんだよ?魔女はそういないし」
「日本からすれば、それは癒着にしか見えないのが問題なのですよ。魔女は自然に大勢出るものだと思っている。しかも、一時期だけの儚い奇跡なのがわからない。わかったら。わかったで問題にするのですよ」
「まったく……。こっちの気も知らないで」
と、自国の窮状をぼやくキュアドリーム。扶桑の軍人として見ると、日本の高慢ぶりが目につくからで、そこはかつての教師生活よりも愚痴っぽくなってしまう点だろう。
「この時代の10数年後、日本連邦が実現しますが、それまでが長かったと、綾香さんは嘆いていました」
「先輩はこの時代から?」
「ええ。ですが、2009年頃の革新勢力。彼らは無定見でして。全部で日本を上にしたがった。一時は軍部を解体し、選抜した将校と下士官のみを自衛隊に編入するという案を平然と出したほどです」
「傲慢だね」
「軍事援護政策の一切を廃止させようと圧力をかけましてね。大和と武蔵で東京を艦砲射撃すると言ったら、彼らは押し黙ったそうですよ」
「あんな魔改造を見りゃ、押し黙るわな……」
「それと、調から聞いた話ですが、扶桑はラ號の存在をちらつかせたそうです」
「ああ、大和の五番艦を改造した海底軍艦」
「あれを持っているとちらつかせ、防衛当局に彼らを黙らせるように仕向けたそうです。実際にコピー品が建造中でしたし」
「轟天と廻天か」
「ええ。核兵器に余裕で耐える装甲を与え、波動エンジンでさらなる改良を加えた。それだけで防衛当局は震え上がったそうです」
「波動砲持ってるかもしれないって、疑心暗鬼になったわけか」
「ええ。波動エンジンを使えるということは、波動砲も造れることを意味しますから」
実際に判明することだが、扶桑の現状に日本側の官僚らは無関心であった。魔女が一時的な奇跡の産物であることに頭を抱えた。黒江達やプリキュアのような『異能』と言えるレベルのものではない上、その状態を長期間維持できない。それも日本側が2016年以降に悩む事項であった。扶桑がその気になれば、日本を逆に植民地にできるような軍備を備えているのを暗に示したのも、革新勢力が次第に政治的側面からの扶桑の植民地化を諦めていった理由だ。また、2015年頃に、扶桑が廃艦にした戦艦陸奥で対艦兵器のテストをしたところ、最新の魚雷を片舷に四発以上当てても、数時間は浮いていたという報は兵器技術者を愕然とさせたが、可能な限りの不沈対策を施されていた長門型戦艦の頑強さの証明であった。
「なぎささんとほのかさんでも、この時代は10歳前後かぁ……」
「ええ。あのお二方は1990年の生まれですから」
「ん?あたしが13になる頃には、本当は高校生になってていい計算……だよね」
「ええ。あなたが現役の頃は高二になる計算ですね」
「うわぁ……今度会ったら、敬語使おう……。タメ口聞いちゃってたし、昔は」
なぎさとほのかが自身より三歳も上なことに驚愕し、若かりし頃の自身の行いを悔いるキュアドリーム。
「咲ちゃんと舞ちゃんは?」
「1992年だそうです」
「かれんさんやこまちさんと同年輩じゃん!!うわぁ~…」
「そんな事言っていたら、キュアフローラ……はるかは2002年ですよ?」
「え!?」
「はい。ブルームが本人から聞いたそうです」
「……なんか、歳を10歳はとった気分だ……」
「ど、どんまいです」
「まぁ、転生先だと、1928年なんだけどさー……は、ハハハ……」
のぞみは転生前は1993年生まれであったが、転生後の生年月日は1928年になる。仕方がないが、魔女の世界で覚醒した時の中島錦の肉体の年齢は1945年で17歳。そこから計算すると、1928年になるのだ。
「あたしさ、転生して、覚醒したじゃん?肉体の容姿が現役の頃に戻ってたのは、ちょっと嬉しかったのも事実なんだよね」
「ああ、前世での……」
「それが願いだったからさ。でも、先輩がプリキュア知ってたのはさ……予想外だった」
「しずかがファンでしたからね。その関係ですよ。シャーリーさんも、それで多分に愚痴ってました」
「で、マジンガーZEROと融合したじゃん?気がついたら、聖闘士の闘技を使えるようになってた」
「おめでとうございます」
「まぁ、いつまでも、なぎささんたちに負担かけらんないしさ。それと、マジンガーとゲッターの技も。なんでだろう」
「ZEROのもたらした恩恵でしょう。最も、聖闘士になれば、その程度は児戯も同然ですが」
二人はこたつでぬくぬくとしながらも、半分は仕事に関する話をしていた。
「まぁ、この時代だと、人命救助とか以外は使いどころないだろうけどね。火事も怖くないし。ビルが崩れようと、脱出できるし」
「医学知識がないのが難点ですが」
「人工呼吸と心臓マッサージくらいは、前世の時に講習受けたから、できると思うんだけどなぁ。かれんさんとみゆきちゃんが羨ましいよ。本式の教育を受けてるし」
「仕方がないですよ。日本警察にも、1990年代までは人命救助を副次目的に考えてる人たちがいたんですが、その世代が退官しだした途端に『経費削減!!』ですから。2020年代になって、以前に想定された事態が起こると、そこまでは言ってない!って言い訳しかしないんです。お役所はそういうものです。ですから、彼らが『ヒーローユニオン』を起ち上げるんですよ」
キュアフェリーチェは2020年代にそうなるのを見ているため、日本の官僚や政治家の無定見と場当たり的な対応にうんざりなようであった。
「結構、苦労してるんだね……」
「お役所は10年、20年先までを見通せないし、政治家もその場しのぎの場当たり的対応しかできない連中が幅を利かせてますからね。あと20年もすれば、災害や事件のたびに騒ぐ人達が増えますからね、それも面倒ですよ、ドリーム」
「うん。例の事件で身にしみたよ」
「それを思うと、この時代は平和ですよ:
「確かに。ネットの世の中じゃないしね、まだ」
「文明が便利になるということは、同時に個人のエゴを可視化させることでもありますからね。この時代はまだ、パソコン通信時代のアングラな空気が残ってますし。インターネットが大衆化するのは、私達『プリキュア』が世に出た後の2000年代末頃のことですから」
「そうだっけ?」
「ネットショッピングが普及し始めるのは2006年以降の事ですから。SNSが本格的に普及し始めるのも、2010年代のことです」
「忘れてんなー、自分が生きた時代の流れ」
そんな感想を漏らしつつも、2001年頃のTV番組を楽しむ二人。
「子供の頃に見てた番組、覚えてんのと、覚えてないのあるなぁ。小学校ん時は帰宅部(のぞみはドジが過ぎて、クラブ活動を出禁になってしまうため、帰宅部である状態が中二の春まで続いた)だったんだけど。TV番組はどこの世界も、あまり差がないって、大人ののび太君が言ってたけど」
「のび太も、受験でTVをあまり見なかった時期ありますからね。それが2005年から2006年頃。ちょうど、咲さんと舞さんの活動していた時期なんですよ」
「そうか、それで……」
「それと、この時期ののび太は年相応にダメですから、そろそろだと思います」
「?」
「うわ~!!だめだぁ~!!」
「今日はどうしたんです?」
血相を変えて、少年のび太がすっ飛んでくる。成人後の颯爽とした姿とは正反対の(のぞみにとっては、昔年の自分を思わせる)学業不振のだめんずぶりを発揮している。慣れたのか、フェリーチェは普通の反応だ。
「今日は社会の歴史の宿題があるんだけど、今からじゃ、僕のいく先々でトラブって、朝までかかっちゃうよ~!!あーん!」
「具体的には?」
「えーと、終業式までに、自分で歴史に関しての好きなものを調べてこいっての。好きなのと言われても……」
「落ち着いて。のび太くんが興味のあるものを上げてみて」
元・教師のスイッチが入ったらしく、キュアドリームが少年のび太をなだめすかしつつも、答えを自分で出せるように誘導する。
「えーと、桃太郎、西遊記、アラビアンナイトかなぁ」
「うーん。資料が短時間で揃えやすいのは、西遊記……その元になった三蔵法師の旅とかだね。のび太くんのパパさんの時代に、ドラマが流行った事あるし。桃太郎は地域で諸説あるし、学校の先生も多くは求めてないだろうけどね」
後に、のび太の子であるノビスケも、この時点ののび太に近い年齢になった頃、似たテーマの宿題をウマ娘達と共に取り組むことになるので、のび太とノビスケは親子二代で『シルクロード』にまつわるレポートを小学校時代に取り組んだことになる。三人は街の図書館に行くついでに、小学生の域を超えた知識を、この時点で既に持っている『出木杉英才』の邸宅を訪れ、指南を頼んだ。
――出木杉英才はこの時点で既に自分専用のPCを持ち、『個人用の電話回線』を部屋に引いているなど、スネ夫以上に『進んでいた』。本棚には、大学生や社会人でも、手に取っただけで目を回しそうな専門書を(11歳で)読破するなどの神童ぶりを窺わせた。成人後はJAXAの宇宙飛行士となり、NASA勤務の宇宙飛行士の妻を娶るなど、大成功を修めているので、その片鱗が窺える――
――出木杉英才の邸宅――
「ふむ。そうですね。まずはそもそもの成り立ちから話しましょう。三蔵法師、つまりは玄奘三蔵。彼がなんで、インドまでいくことになったかというと――……」
出木杉英才は大人も眩むような専門書を取り出し、三人に西遊記の起源になった『玄奘三蔵の旅』の史実を面白おかしくも解説する。彼が生まれた時代は、隋が煬帝の暴政で衰え、やがて滅び、次の王朝である唐王朝が建つあたりの王朝の交代期であったこと、その時期に盛んであったシルクロードの往来の理由。
「シルクロードは、アジアの富をいろんな国の商人達が一攫千金を夢見て、往来した道だった。もちろん、その途中にオアシスは点在したし、その富で栄えたところも多いけれど、多くが色々な要因で盛衰を繰り返し、気候変動や水源の枯渇とかで、砂に消えていった国や都市はいくらでもあります」
シルクロードは多くの人々の夢と希望を運び、同時に『道の途中に点在したオアシスの盛衰の歴史』も内包するものだと、出木杉は解説していく。同時に、一攫千金を夢見て、多くの隊商がヨーロッパやエジプトからアジアに向かい、無数の隊商が力尽き、砂に消えていった事、なんとかたどり着けた者には莫大な富をもたらした事、人々の往来が盛んでなかった時代に権力者が『異国の情報を知る』ための手段でもあった事、アジア世界が作り出せた『絹』は当時の権力者達の垂涎の的であった事、玄奘三蔵はそんな時期に旅をしたのだと。
「彼が旅をした当時、『ガンダーラ』は既に伝説の存在であったし、インドから仏教が駆逐され始める直前の時期にさしかかっていたけれど、ナーランダ僧院(世界遺産にもなった僧院)はまだ健在だった。そこはタイミングが良かったとも言えます」
インドでは、玄奘三蔵法師が訪れた時期には既に仏教が衰退し始めていたとも言われているが、それでも彼を始めとする巡礼者達が他の地域に仏教を広めた結果、発祥の地であるインドで衰退しても、他の地域で一定の存在感を保っているのだと、出木杉は解説する。小学生とは思えない知識量だが、のび太も彼に圧倒されずに質問をするなど、後々に表れる非凡ぶりの片鱗を見せる。
「持ち帰った経典は当然、サンスクリット語で書かれてるから、それを漢字に翻訳する必要があるわけだけどね。彼は天竺(インド)からの帰り道に『楼蘭』に立ち寄ったって記録があるよ」
「楼蘭?」
「かの有名な『さまよえる湖』の近くで栄えたオアシスの国さ。最も、三蔵が立ち寄った時には、既に滅んでいて、廃墟を残すのみだったらしいけど。湖が健在だった時期には、大いに栄えたらしいよ」
「あ、昔、お父さんがTVのオンデマンドだか、再放送で見てたなぁ……。ミイラが出たとこ?」
「そうです。そこですよ」
ドリームは絵本作家であった『前世での父親』が仕事の参考に、と、シルクロードのドキュメンタリー番組を再放送か、オンデマンド配信で見ていたのを思い出した。楼蘭の美女というミイラが出土したのはあまりに有名だが、楼蘭という地がどのようにして終焉を迎え、砂に飲み込まれていったのか?それは20世紀末でも、それから10数年の時が経過した21世紀序盤でも、明確な答えは出ていない。
「彼らがどのように姿を消し、街が砂に消えていったのか?この時代では分かってないんですよ。水源が何らかの理由で枯れ、街を維持できなくなって放棄したのか、戦争で滅んだのか?ただ、水源が枯れ始めた事が絡んでるのは、確かでしょう」
「うへぇ……昔は漠然と考えてただけだけどさ、そこには多くの人々の暮らしがあったんだね?」
「楼蘭以外にも、おそらくは気候や地殻変動か……が原因で水源が枯れてしまったことで、人々が他の地に移り住んでいき、消えていったオアシスはシルクロードにごまんとあるんです。記録に残されなかった街もあるでしょうね。伝承だけで……」
「そういうのがロマンなんだよね」
「そうだよ、野比君。今は砂漠でしかない土地も、昔は豊かな水をたたえたオアシスで、そこに大勢の人々が住んでいた。三蔵法師はそんな地を訪ねていたのかもしれない」
「三蔵法師は往復に何年かかったの?」
キュアドリームが質問する。
「しめて、17年。あるいは19年。60年あまりの彼の生涯の内の三分の一近くは天竺への旅だったんです。車や列車、飛行機なんていうような、便利な乗り物なんか、一つもない時代でしたし、彼の行ったルートにはかの天山山脈があった。彼の出国は事後承諾のような形になりましたけど。行った時、唐は建国間もない時期で乱れてましたし」
「え、そうなの?」
「そうなんだ。彼はちょうど、王朝が入れ替わる時期に青年になった。その若さも、大旅行の原動力だったんだろうね」
三蔵法師は偉業を為し得たが、その人物像は完全には分かってはいない。のび太は過去の冒険で彼を助けた事があるが、かなりの貫禄を備えつつも、朴訥とした風貌の誠実な人物であったという。のび太は印象的に『40を超えている』と思っていたが、彼の記録上の生年を見ると、のび太達が会った『西暦636年』には34歳。629年に出立してから。7年ほど経過した頃である。
「若っ!」
「当時の平均寿命的には、けして若くはないさ。今の感覚より+十歳して、考えていいくらいさ。でも、彼が行ったおかげで、仏教の色んな理論が伝わった」
「へー…」
こうして、のび太達は出木杉の三蔵法師とシルクロードにまつわる解説に聞き入る。既に、扶桑・地球連邦軍でそれなりの高等教育を受けていた夢原のぞみ(キュアドリーム)、ある意味では『神の化身』であった花海ことは(キュアフェリーチェ)をも飽きさせない話術を駆使した『プレゼン力』は小学生の域を完全に超えていると言ってもいい。それについていき、質問を時たまするのび太も、青年期以降の颯爽たる姿を思わせる『地頭の良さ』を覗かせると同時に、出木杉英才と野比のび太の両者は根本で『似た者同士』ではないか?と思わせる一幕であった。