――現地の雇用がめちゃくちゃになった事の責任を追求された日本は結局、魔女の雇用問題もあり、現状維持を決め込んだ。MATの設立を進めたのも、現地人に怪異のことを丸投げするためであった。結局、魔女の根幹は『根本的に進化しない限りは変わらない』ことがわかったため、日本は『雇用を現状維持にする』と決めた。装備が一挙に近代化した影響で、怪異特化に近い魔女装備は優先順位がガタ落ちになったのも、怪異の出現率低下の現実を表していた。だが、その代わりに怪異は飛躍的に強化されており、北方戦線の崩壊を決定づけていた。二重コア持ちになった事で、練度が下がりつつあった北方戦線の魔女たちにはどうしようがなくなり、通常兵器では撃破が更に困難になった事から、北方戦線の放棄が決まり、生き残った魔女達は失意のうちに。本国へ逃げ帰ることとなった。北方戦線は太平洋戦線の勃発で、上層部から切り捨てられたも同然の扱いであったので、その敗北は既定路線のように扱われた。結局、北方戦線の生き残りは、反乱を恐れた日本の判断で、多くが太平洋戦争の最前線にすぐに送られ、戦死していった。その判断も人手不足に拍車をかけていた。太平洋戦線のほうが重大事であったからだが、北海道や樺太が脅かされる事でもあるので、結局はヒーローユニオンに泣きつく羽目になった――
――アクマイザー3の後継者(ヒーローとしての)であった超神ビビューン。アクマイザー3が呪いから解放されたのに合わせ、消滅したかに思われたが、初代の変身者の子孫らに変身能力が受け継がれる形で、21世紀頃に復活を果たしていた。これこそが、アクマイザー3からの人類への最後のプレゼントであったのかもしれない。また、ビビューンの初代変身者は仮面ライダーストロンガー=城茂の親類縁者であったらしく、彼の一族の血筋は(城茂も知らぬところで)続いていたのだ。神をも超えると評されたその力は強大で、キュアフェリーチェでも不可能であった事をやってのけるほどだという。これはアクマイザー3が持っていた『アクマ力』と魔力が進化した産物と思われる。そのため、初代変身者の孫(現役期の祖父と同年代になっていた)達が祖父らに代わって、ヒーローユニオンに参加していた。名は祖父たちのものをストレートに受け継いでおり、彼らは『孫たちが自分たちに代わり、超神としての使命を果たすために生きることになる』事を見越していたと思われ、2010年代に病気で亡くなったという。また、アクマイザー3から完全に独立した(祖父たちはアクマイザー3から与えられた力を拠り所にしていた)存在になった事で、力を失うこともない。彼らはその旨をビックワンへ伝え、『自分たちはアクマイザー3と超神ビビューンの後継者である』と表明。ヒーローユニオンに加入した――
――同じ頃、自由リベリオンの科学者から、『亡きルーズベルト大統領はマンハッタン計画を完遂させよと、トルーマンに厳命していた』との証言を得た連合軍は南洋島の各地域の地下シェルターの整備と都市化を急いだ。史実通りに事が進んでいた場合、少なくとも、『ファットマン』タイプまでは完成しているからで、21世紀の水爆からすれば『チャチな代物』であるが、それでも、日本随一の都市を一瞬で消し飛ばすだけの威力を持つ。史実と違い、全ての情報を得ている扶桑は防空網整備に血道を上げており、F-104Jの配備が進められた。史実よりもだいぶ早い配備であり、超音速かつ、上昇限度が15000mを超える同機の登場はリベリオンの主力戦略爆撃機『B-29』を陳腐化させた(同時に、富嶽も)。とはいえ、ジェット機はレシプロ機より高価で、(国家予算的意味で)量産も困難であるため、迅速な配備はとても不可能であった。そこがレシプロ機時代との違いである。また、ジェット機時代のパイロット育成はレシプロ機のそれより遥かに育成費がかかり、戦死した場合の戦力的損失も大きい。パイロットの確保のため。民間航空の勃興を促したい日本であったが、自分達がそうだったように、自動車と鉄道、船のほうが日本列島には向いているので、史実のように飛行場を作ったとしても、経済的に貧しい部類の扶桑の大衆が大っぴらに使うとは思えなかった。そのため、民間航空の議論は先送りにされ、飛行艇の路線をどうやって通常の旅客機に置き換えていくか。その事だけが議論されていた――
――海軍の空母不足は『民間船を徴用して、軍艦に改造する』手段を禁止され、改造済みの艦艇も大半を手放す羽目となったからである。その一方で、旧式化した雲龍型航空母艦を『航空機運搬船』に転用する方法が取られた。レシプロ機前提の空母であるので、反対もあったが、(改造すれば)十数機分のスペースは確保できたので、当座の対策として進められた。新型の大型艦の完成は(どう早く見積もっても)1952年以降。その事も、現存艦隊主義に大義名分を与えていた。ただし、戦艦は(レシプロ機相手には充分な)強力な近代的対空装備を備えていたため、積極的に運用された。全てを動かさないわけにもいかなかったからだ。それにより、船体疲労が進んだ艦も存在したので、戦艦の新造は続けられた。大和は激戦で船体疲労が蓄積した事から、新造艦への置き換えが決まった。竣工から10年も経っていないが、戦時の酷使は疲労を予想以上に進めさせたのである(裏の理由に、エンジン含めての新装備のテストベッドに使われた事も大きい)。大和は史実と異なり、盛大な退役式典が予定され、日本に売却の見込みである。これは日本が(史実では戦没した)退役した艦艇を観光資源にしたいためであったが、大和は史実よりかなり近代化された外観になっている上、元の母港である呉に停泊させようにも、大きさが史実より30mも拡大していたので、停泊場所に困る事態となっていた――
――扶桑の新鋭戦艦らのほうがむしろ、観光資源になっているとも言えた。大和の基本デザインを引き継いでいた(設計段階で電子機器を組み込む事を想定しているので)事、米軍の新鋭空母に引けを取らぬ大きさ(史実の大和はいずも型護衛艦とほぼ同程度の大きさ)であること(これはM動乱の戦訓で、小手先の被弾率を下げるよりも、被弾することを前提にしたほうが最善であったためである)であること、史実より大型の艦砲を持つ事で、威圧効果が充分であったからだ。扶桑軍は不燃対策として、艦内家具の撤去を進めていたが、日本側から『兵を人間扱いしていない』と猛批判され、大問題になってしまった。それで、家具の撤去を提唱した士官が失意のうちに、家族諸共に自刃する事態に発展し、造船官も相次いで自刃してしまった。この展開に日本側も困惑。結局、『日本製の不燃家具を導入し、艦の塗料も不燃に変える』事で落ち着いたが、事件の報で、現場の士気はどん底に落ち込んでしまい、全力出撃には耐えられないと判定されるほどであった。そのため、司令部直属の精鋭艦によるゲリラ的活動が散発的に行われる程度になってしまった。日本側が旧式駆逐艦と旧世代の巡洋艦の扱いに困った事も要因であった――
――カールスラント空軍の弱体・形骸化が急速に起こったのは、ガランドの退役とミーナ、ノイマンの政治的不祥事が重なった上、ドイツによる無理な軍縮によるものだった。特にコンドル軍団出身の軍人を排除しようとした事で、彼女らを慕う有能な魔女たちが一斉に予備役編入を願い出る有様。ドイツが手を引いた後に残ったのは、『セミの抜け殻』と揶揄されるほどに弱体になった組織であった。日本連邦に有力な軍人を根こそぎヘッドハンティングされ、空軍の装備は内乱と処分でまともに残っておらず、1949年当時の稼働機数は数百の戦闘機(旧式含む)とそれ以外の機種が数十残るのみであり、ノイエ・カールスラントの防衛すらおぼつかない。NATO軍政が長期化したのは、中央の統制が失われ、同胞同士で殺し合う地域が多すぎたからだ。ドイツが大量の有能な軍人をナチス信奉の嫌疑で次々と摘発、無実の罪で凄惨な拷問をし、有無を言わさずに罷免した代償であった。日本連邦が急速に『空の王者』になったのは、この時期に追放されたカールスラントの将校を好待遇で空軍の教官に迎え入れたからであり、カールスラントはドイツに恨み節であったという――
――とはいえ、日本連邦も日本連邦で、シッチャカメッチャカであった。扶桑は空軍設立にあたり、ブリタニア空軍を手本にしようとしたが、日本はアメリカ空軍流で空自を形成したので、結局はその流儀で組織が形成されていく事になったが、それに馴染めない海軍基地航空隊系の部隊が命令に従わずに玉砕してくるなど、海軍の基地航空の出身者は次第に厄介者と見なされていった。志賀が天皇に諭された一件もあり、海軍航空隊の政治力は急速に低下していった。空母航空隊が(ジェット機への刷新の影響で)再育成期間に入った事もあり、空中勤務者全体で熟練者が不足していた。さらに、扶桑の世論は『前線勤務こそが華』と考えているため、後方支援業務全体が軽視されているのもあり、教官も不足。それを亡命してきたカールスラント軍人に委託する事で、場繋ぎしようとしたのである。黒江たちのようなトップエースは(アメリカ空軍であれば)本来、後方で教官をやらせるべきだが、日本(扶桑)人は後方任務を軽んじる風潮が強く、黒江達はそこで疎んじられ、いじめを受けた経験を持つため、上層部も(そういった事情もあって)64Fのような人員配置を容認しているのである(なお、黒江達をいじめた者たちは大半がダイ・アナザー・デイの時期までに戦死、あるいは行方不明になっており、部内で因果応報と囁かれている)。関連して、64Fの(通知段階での)人員配置に反対論は多く、志賀以外にも、結局は隊長に就任した武子自身も不快感を抱いたという。だが、黒江達、ひいては自分自身も転生者であることで、『他の部署では持て余す』事を自覚したこと、三人との長年の友情から、隊長の職責を引き受けたのである。極天隊という育成部門を置いたのは、育成重視で鳴らす武子の方針であった――
――64Fが重宝されたのは、軍全体が動いているわけではないという言い訳を使えること、デルタフォースやグリーンベレーのような精鋭部隊を自前で持っているという説明ができるからでもある。そんな理由により、64Fは扶桑全軍の精鋭中の精鋭が集められることとなっていった。これは北方戦線の劣勢、日本による粛清人事からの防衛が重なっての偶然も作用したが、部内の反対意見関係なしに、精鋭部隊として固定化していった。隊長の武子自身は『人材は育てるのが醍醐味であり、既存の優秀な人材はいくらでも使い出があるというのに』とうんざりな様子だが、政治の意向には逆らえないので、やむなく割り切った。武子は本来、『後方で教官をして過ごす』のが事変後の夢であったが、それは扶桑自体が『世界の命運を握る』戦争に突入したことで潰えた。武子自身は今の地位は欲しくはなかったが、友人の頼みを断れなかったので、引き受けただけである。とはいえ、前世以来の智子への罪の意識があるのも事実であった――
「ドラえもん、あの子たちの状況は?」
「プリキュア5の世界の争乱は収まりましたが、別の派生世界で動乱が起きまして。その世界ののぞみちゃんが代理をすると」
「大丈夫なの?」
「記憶と能力は共有されますし、肉体年齢もZEROと1000年女王の力で『最盛期』(高校二年ほど)に調整されたそうなので、なんとかなるでしょう。それより、家を焼け出されたとかで、ヤマトに寝泊まりしてます」
「事が済んだら、隊の予算を使っていいから、家を建ててやって。1000年女王になるって言っても、表向きの暮らしは必要でしょうし」
「わかりました。誰の名義で土地を?」
「その世界のプリキュアの誰かの名義を使って、土地を確保しときなさい。名義は、後でいくらでも変更できるでしょ?」
武子の指示により、大人のぞみは家をもらえる事になった。戦災で所有者不明になった土地がいくらでも生じていたので、その土地を購入する形を取ることになった。大人のぞみは今後、のぞみAの代役を務める事になるので、相応の褒美を与えたかったのだろう。実際、この後の大人のぞみは自衛官という表の身分を手に入れ、地球連邦艦隊の一翼を担うことになるので、そこで立てる戦功を見越しての決定でもあった。扶桑皇国は元来、魔女であろうとも、昇進は比較的に遅めであったが、日本連邦化で『戦功抜群かつ、士官学校卒であれば、20代のうちに大尉まで昇進する』という規定に変わったため、大量に大尉が生じ、今度は佐官を増やさないと、均衡が取れないという事態になり、扶桑軍の統合参謀本部は『便宜上の理由で定めた階級を適応する』という決定のもと、戦功充分な者を佐官に命じた。本来は専門教育を受け直させるべきだが、戦時であり、前線要員が不足しているのもあり、結局は現状維持が決まった。佐官の不足が目も当てられぬほどのものであったからである。武子はそれも鑑みての報奨をあらかじめ用意しときかったのだ――
――のぞみAはウマ娘世界で学生生活をエンジョイしていた。彼女は前世では大学でも(一人娘であったため)両親に心配され、実家から通っていたので、学生寮暮らしは初めてであった。また、ナリタブライアンとしての粗野な言葉遣いにも慣れていった。タニノギムレットがあれこれと協力してくれたからである。また、ルドルフの生徒会退任による混乱などもあり、生徒たちは『現状維持』が協会からの直接の要請として出され、ルドルフ、エアグルーヴらは卒業が先延ばしにされた。ウマ娘は(能力面とは裏腹に)若い姿を長く保つので、それを上手く利用した形であった。のぞみAは転生で運動神経の問題をクリアしていた上、戦いで培った勝負勘をレースに活かすことで、勝率はブライアン本人よりも高くなっていた――
――アーモンドアイ、クロノジェネシス、グランアレグリアなどの新世代が入学し、さらなる世代交代も始まりつつあるトレセン学園。とはいえ、トゥインクルレースにまだ在籍中の古参勢も以前のような顕著な『衰え』を(波紋法で)回避できるようになったため、ほぼ全盛期相当の能力値を保てるようになったので、『満足して引退する』事が叶うようになっていた。オグリのように『最後のレースで満足し、なおかつ勝利できる』のは、幸運なウマ娘に限られていたからだ。のぞみAは骨休みも兼ねての成り代わりをエンジョイしていた。現地時間で年単位になっていたが、トウカイテイオーがまだ若い(会長としての政治力に欠けている事から)故に、年上のサポートが必要な事から、エアグルーヴらは留任し、テイオーのサポートの任に就いていた――
「いよいよ、キタサンの下の世代も入ってきたか……ますます歳食った感覚だ」
「夢原氏、地が出てます」
「だって、94世代だしさ……」
ブライアンは史実では『94世代』(1994年にクラシックを迎えた世代)なので、競走馬の基準で考えれば、アーモンドアイの世代は孫かひ孫ほど離れている計算になるので、本来は現役としては絶対に会うことはない。
「アーモンドアイはあの世代の筆頭になる星の下に生まれてるが、有馬と安田は『普通に行けば』鬼門だ。そこはトレーナーの手腕次第だが」
「ブライアンはトレーナーが協会に解雇されたのを期に、負のスパイラルに堕ちていきましたからな……。私たちにとってのトレーナーとは……」
「たぶん、前世の因果を超えられるかの是非を決めるファクターなんだろう。愛の力は無限だからね……」
「ブライアンは普通にいけば…?」
「レース人生の後半を、失意のうちに過ごす事になったかもしれない。史実を考えれば……」
そこで、言及をやめるのぞみA(体はブライアン)。競走馬としてのブライアンは引退してから数年で夭折してしまっているからだ。それはエアグルーヴも既に知っている。
「しかし、そうなるとは」
「うん。救いはあるべきさ。そうでなければ……」
「ウマ娘そのものの存在意義に関わりますからね……。前会長も『現役時代に知りたかった』と、ふと漏らされました」
「普通はそうなるさ。前世のロールプレイをやらされていることに気づいた場合はね。最も、あの子の場合は引退後でも間に合うけど」
この頃になると、ルドルフはドリームレースの枠組みの変革に情熱を注いでいる。老人会と揶揄された事もあるが、ルドルフが現役時代の能力値で席巻した後、オグリとタマモも現役最盛期の力の復活を誇示し、更にマルゼンスキーも続いたため、以前にあった『馴れ合い』という揶揄は消え失せ、最高峰のレースという『セールストーク』に偽り無しとなりつつある。
「シービー先輩は?」
「今んとこはのび太くんちで留守番担当。処置は受けて、波紋の呼吸の修行中だって」
波紋の呼吸は老化を遅らせる(個人差あり)効果がある。内的な全盛期が終わるのが、(人間に比して)早い種族であるウマ娘にとっては福音であるので、特に全盛期を既に終えていた、あるいは『先が見え始めた』ウマ娘らが率先して特訓。措置との相乗効果で、最盛期の能力値を『取り戻していった』。シービーはその最中にあると、のぞみはスマホのメールに添付されている写真ファイルを見せる。自由を目指していたシービーにしては珍しいが、『種族の宿命』に縛られていた事を知ったのと、全盛期の状態(ルドルフの台頭期には、シービーは既に盛りを過ぎていた)で再戦したいという(種の宿命で『叶わぬ夢』と諦めていた)欲望に突き動かされているためだろう。
「シービー先輩は何のために?」
「全盛期がお互いにズレたせいで、直接対決で敗者の側にあったことへの悔恨を晴らすためだよ。口じゃ、なんともないように言い繕ってても、本心じゃ、世間の評判に傷ついてたんだろうね」
ミスターシービーは史実の記憶が宿ったことで、自身の競走生活の晩年の衰えぶりに自己嫌悪を感じていた。それを晴らし、現役時代のトレーナーの名誉回復につながるだろう最後の機会をモノにする。そのことがシービーが波紋の呼吸の修行に真面目に取り組む理由であった。
「だから、今度のドリームレースまでに、コンディションを間に合わせたいんだよ」
「前会長も、全てが万全の状態ではなかったと述懐してましたが?」
「それでも、まず負けなかったでしょ?」
「ええ……」
ルドルフは『負ける』ほうがレアケースだが、シービーは最盛期であっても、意外に一敗地に塗れる事が多かったし、その衰えも急激であったので、意外と敗北を見ている人間は多い。それは前世がそうであったためで、シービーはそれもひっくるめての『名誉回復』を狙っている。絶頂期の状態であれば、勝利の可能性は充分にある。それがミスターシービーが世を去った後の時代に夢想されている『もしも』なのだ。
「ブライアンちゃんは引退しても、ろくに生きれなかったこと、シービーちゃんは絶頂期が短すぎて、ルドルフちゃんが出てきた時には『終わりかけてた』こと。それぞれ違う理由で心残りがある。波紋の呼吸は老化を遅らせ、身体能力を高くする効果がある。あなた達は内面の老化を遅らせ、身体能力を保つ方にベクトルを向けるってことさ。普通の人が修行した場合、最大で実年齢から30歳程度は若い姿を数十年は保てる事が判明してるからね」
「それほどに……」
「貴方達は素質があるのさ。普通の人より」
波紋は基本的に、素質があるかどうかの判別は困難だが、ウマ娘は外面の若さを長く保つという種族的な特徴があるのと、呼吸もヒトのそれと違うリズムであるため、常人よりは遥かに高い確率で『素質』があるのだ。
「引退するにしても、スターが引退した後に、すぐ下に後継がいない場合は『暗黒時代』って言われる。オグリちゃんの一個下の世代がそうだったように。これはちょっと『かじった』人なら、誰でも知ってることだよ」
オグリらの引退後、二世代下のトウカイテイオーたちがスターになったように、ウマ娘界隈は黄金世代の後には必ず『谷間の世代』が生まれてしまう。特にオグリの時代が終わった後にスターダムに登ったのは、その二世代後のウマ娘たちなのだ。
「確かに」
「他のスポーツでも似たような例はあるからね」
のぞみAはブライアンのキャリアの立て直しが使命になっている。この時期にもなると、復活は確かと認識されつつあるが、ブライアンの年齢的に『燃え尽きる直前の蝋燭の炎では?』という揶揄もないわけではない。ウマ娘の全盛期は人間で言う『15~17歳』という認識がブライアンの家庭に不和をもたらしたとも言える(ブライアンが『復調』してしまったので、この時期、彼女の父親は周囲から針の筵になった事もあって、病気がちになっていた。オグリという先例があるのにもかかわらずなので、余計にそうなった)
「夢原氏、ブライアンの家庭の様子は?」
「金目の問題で揉めると、親類縁者も宛にならないっていうからね。ありゃ、代替わりしない限り、ブライアンちゃんは敷居を跨げないよ。頑固な職人気質の人間は手がつけられないから」
のぞみAが入れ替わって、二年目になろうとしている時期になると、ウマ娘たちの世代交代が緩やかになり始めた。波紋法がトレーニング法として定着し、ピークアウト後の能力低下の具合を抑えられるようになったからである(今までは『史実持ち』はその史実に則った怪我などをきっかけに、能力の衰えが始まっていたのである)。ウマ娘の謎が少しづつ明らかになると、『前世のロールプレイ』から外れようとする動きが波及しつつある。
「大学の準備は?」
「始めてる。近い内に、私物をのび太くんの家に移し始める。ブライアンちゃん、このままアスリートでもするって言ってるし」
ウマ娘の進路は大学卒業後については、普通の人間と同様、OGとしての立場を使い、後進の育成に回る、プロのアスリートとしての生活をする、レースから足を洗い、家業を継ぐ者。千差万別だ。たとえば、ナリタタイシンは家業を継ぐつもりであったが、自身がある程度は成功した事もあり、当面はアスリートであり続ける選択をしているように。
「ところで、あなたの戦闘能力はこの世界では持て余すでしょう?どうなされているのです?」
「トレーニングは自主的にしているよ。最も、あたしは元はテクニックタイプで、パワー型じゃないけど」
とはいえ、ブライアンがパワー寄りのウマ娘である事もあり、その体に慣れたこともあって、以前よりはパワーがついている。もっとも、素でコンクリートを粉々にできるカワカミプリンセス、更に上のパワーを誇るジェンティルドンナもいるので、ブライアンのパワーは『中の上』程度だろうか。のび太も彼女らの来訪を見越し、マンション内のトレーニング器具をガンダリウムε合金や超合金ニューZ製のものに取り替え始めたという。未来世界の最新クラスの金属でなければ、彼女らの使用に耐えられないという判断からだ。
「つか、ジェンティルのパワーって、どのくらいなの?」
「トレーニング器具や計測機器が本気を出されると破損してしまうので、ヤツの全容はトレーナーでも把握していないと思われます」
「のび太くんのメールで、トレーニング器具を未来世界の特注品に取り替え始めたとあるけど、耐えられると思う?」
「超兵器の装甲に使われる金属で構成されているなら……いや……奴なら壊しかねん……うっ…」
エアグルーヴは考えただけで胃痛になったようで、そこまで言ったあたりで胃薬を服用する。
「大丈夫?」
「カワカミよりはマシですがね、ジェンティルは。制御できる分……」
ジェンティルドンナの力はゴルシ曰く、『一年戦争のジオン標準の超硬スチール合金くらいは軽く砕けるだろう』とのことで、50%以上のパワーで『ザクの正面装甲に風穴を開けられる』ことになる。カワカミプリンセスは『戦車を壊せる程度』なので、桁が違う(ザクの正面装甲は155ミリ滑腔砲を弾けるので)ことになる。
「今回の事は、カワカミにはまだ?」
「下手に言って、大張り切りされて、騒動起こされても困るしねぇ。あの子の制御のできなさ的に、校舎が軽く壊れちまうよ。あれで二冠取れたんだから、大したもんだけど」
その事から、既にカワカミプリンセスは二冠を獲得。その次の世代のウオッカとダイワスカーレットの時代が間近に迫っているか、あるいはその最中であることがわかる。
「あなたは大丈夫なのですか、本業のほうは」
「別世界の並行同位体に代役を頼んである。記憶と能力は共有されてるから、能力に差はないし、記憶の差異もない」
これも融合したマジンガーZEROのなせる業であった。
「さて、そろそろ、アオハル杯のブリーディングの時間だったね」
「そうですね、行きましょう」
二人はこうして、ブリーディングへ向かう。のぞみAに託したブライアンの願いは道半ばといったところであった。全盛期のブライアンは相当に無茶なローテーションを組んでいたので、そのツケが回ってきたという批判が多かった。だが、それはブライアンの本質である弱さが顕にならないようにと、当時の個人トレーナーが考えたものであったのも事実だ。事実、それでブライアンは強者になっていったのだ。怪我をしたのは事実だが、それは前世の因果による運命であり、個人の努力でどうにかできる領域の話ではない。怪我そのものは完治しても、本人が心の何処かで恐怖を感じた場合はフルポテンシャルは出せない。ウマ娘の場合はそれが容易に表面化する。ブライアンはのぞみのとんでもない胆力が羨ましかった(戦闘時は特に顕著になる)のもあり、話を持ちかけたのだ。のぞみの尽力もあり、ブライアンは自身の評価を立て直しつつあったが、同時に家庭での不和が表面化し、父親が死なない限りは実家の敷居を跨げない事態となっていた。昔気質の職人であったのが仇になったのである(ウマ娘世界での更に数年後、ビワハヤヒデが酒蔵を継いだ際、長妹やその次の世代の『三冠』たちとタイアップした酒を売り出し、大成功を収める。その成功で酒蔵の経営を安定させ、それを武器に、レース界に復帰したという)。この日、のび太宛に、のぞみAが地球連邦の定期便で送ったビデオレターには、アオハル杯の第三戦までの様子が収められていたという。