ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

721 / 788
説明回です。


第二百七話「のぞみAの報告と、登場、正木俊介(元・ウインスペクターの司令)」

――のぞみAは前世のトラウマもあり、(自分でも気づかぬうちに)他人の心に深く立ち入らないようになっていたが、ナリタブライアンとして過ごすことで、そのトラウマが払拭されはじめた。それは(年齢を考ええば、不相応に幼いが)ハルウララの純粋無垢さのおかげであった――

 

 

 

――ハルウララは史実を考えれば、トップエリートの集まりである、中央トレセン学園の生徒になれなさそうな存在である。だが、その純粋無垢さの織りなす人徳で、面接を突破。今や、トレセン学園の押しも押されぬマスコット的ポジションにあった。その人徳はルドルフやオルフェーヴルといった、最強クラスの猛者たちが(ウララがいじめられたと聞くと)激昂して、そのグループにカチコミ(※レース)をかけるほどのものである――

 

 

 

――のぞみAはそのカチコミをきっかけに、ハルウララと面識を持った(ナリタブライアンとして)。その純粋無垢さは(感性が年齢より幼いせいもあって、自分が因縁をつけられていたことに気がついていなかったほど(テンメイ等の首謀者はマルゼンスキーと、その先輩にあたるトウショウボーイにシメられたが、報告を受けたハイセイコーの温情で、学籍復帰となったという)ほどである。ハルウララは(無自覚にだが)人の心を開かせる不思議な力を持っており、ルドルフも(反対論者を押し切る形で)現場判断で入学を認めさせ、入学後もオルフェーヴル、メジロラモーヌといった『気難しいウマ娘』とも気安い付き合いができるなど、その名に恥じぬ清涼感をもたらしている。ただし、レース自体は(史実通りに)連戦連敗なので、周囲の反感も強い。だが、世間的には、それで人気を博している。ウマ娘世界でも、ご多分に漏れず、日本は不景気であるので、ハルウララは一筋の爽やかな風であった――

 

 

 

 

――キングヘイローが実家の騒動の収拾のため、あまり彼女の面倒を見れなくなったので、ハルウララは生徒会とその他の同期らが見ていた(キングヘイローの現役期間が結果的に他の同期より長くなったのは、家庭の崩壊の危機であったことで『無駄な時間を過ごした』からである。)。のぞみAも当然ながら、それに関わっていた。ちょうど、のぞみが小学校高学年の頃が『ハルウララのブームがあった時代』であり、名前は耳にしていたからだ。(この頃のウマ娘界隈では、『スポーツ心臓』が生物学的に失われることも、アスリートとしての衰えに関係している事が判明したのだが、波紋の呼吸で全盛時の身体能力を保つという裏技が普及しつつあったため、それほど重大な情報と見なされなかった。また、スポーツ心臓は長い休暇を取った途端に失われるともされるため、ウマ娘のトレーナー達は苦しい立場に置かれる事になった)同時期、ブライアンの名声は(のぞみが入れ替わって、二年目には)回復へ向かっていた。(トゥインクルレースからの引退については、『凱旋門賞に二回行った後を考えている』と述べている。これはブライアン本人の考えである。二回というのは、史実で最も制覇に近かった、オルフェーヴルと回数を合わせてのものである)――

 

 

 

 

 

――ハルウララはトレセン学園の清涼剤のような存在である。協会としても、学園の寛容性の証としての価値を見出しており、成績が『底辺を這っている』のは置いといて、グッズをちゃっかり売りまくっている。そんな状況は64Fの幹部たちに報告されていた――

 

 

 

――騒乱終結直後――

 

「先輩。どうにかこっちはブライアンちゃんの花道を作る作業に入れそうです」

 

「そうか、ご苦労。こっちはグダグダ。上がな」

 

「何かあったんですか?」

 

「日本が連合艦隊の大型艦を酷使しやがったもんだから、よってかかってドック入りになっちまったんだ。大和に至っちゃ、代艦が必要なくらいの疲労があったようだ」

 

「ど、どうするんですか」

 

「新鋭艦の竣工を急がせて対応するそうだ。日本は反対してるが、軍事的に戦艦が全部ドック入りってのはやばいからな」

 

この時に触れられたのは水戸型戦艦であり、超甲巡である。日本は『規格統一と装備換装の調査のため』としたが、扶桑は独自ルートで既に大型艦の近代化を済ませつつあり、日本の保有技術よりも使用技術の世代が進んだ火器すらあった。史実西側諸国の規格にバッチリ合致している事から、問題は『近代装備を載せられる駆逐艦の整備』である。大戦型の駆逐艦は2000~2800トンが平均であったが、戦後は第一世代で4000トン、現用型で7000トン級と、飛躍的に大型となった。また船体は、戦後には150m級になっているので必然的に巡洋艦も大型となる事が求められ、旧世代の戦艦と同等の体躯にまで大型化していく。空母も大鳳型が少数生産に終わったため、次の空母は一気に65000~85000トンとされ、短期間での量産は不可能。さらに、雲龍型航空母艦のように『空母の数を持つことが不可能』になるので、大型で高速の作戦機を多く積める大型艦が必要となるからだ。

 

「おまけに、日本は艦隊決戦で勝てないからと現存艦隊主義に走ってるからな。で、敷島や三笠を見た途端に『あんなのあるなら、早く言え!!』と役人がヒスってな。お上の前でだぞ?恥もいいところだ」

 

「動くと思ってなかったとか?」

 

「八八艦隊ある世界線だぞ?五〇万トン戦艦もありそうだとわからんかね?。燃料の心配も実質的にないんだぞ」

 

「日本は油田の枯渇を気にしてるんじゃ?」

 

「史実の満州とかより遥かに貯蔵量多いし、空輸も併用してるんだがなぁ。おまけに、軍は重油の使用率下がってるんだぞ?まったく、不景気続きでケチンボ思考が根付いたんだな。高度経済成長期とバブル期は湯水のように使ってたくせに」

 

「海底油田掘ったら怪異が出る危険があるとかいうからな。結局、ブリタニアから石油を買いまくることで妥協されたが、オクタン価は21世紀のレギュラーくらいなんだよ」

 

「ハイオク相当は?」

 

「油田設備を新式に変えてるが、稼働にもっていくには数年かかる。おまけにジェットだと、燃料のオクタン価は関係ない。旧世代のレシプロを動かすのに使うだけだし、ターボプロップ化を進めてるからな」

 

「あ、そうか、ジェットは軽油の類だっけ」

 

「普通のジェットはな。コスモタイガーとかは核融合に必要な物質を交換するだけだから、燃料の補給はあまり必要ないがね…ん?お前もしかして昔、車をぼっ壊した事あんのか?」

 

「恥ずかしながら……前世の就職して間もない頃、親父の薦めで買った軽に」

 

「お前、ずいぶんとアホをやったんだな。親父さんに叱られたろ」

 

「ええ。今となっちゃ、懐かしい話ですが。……ん?なんですか、その音」

 

「ん、これか?ステルボンバーが来たんだよ」

 

「アメリカのスーパーロボットですよね?」

 

「ああ。北米の軍管区が造ったやつで、テキサスマックが成果挙げたとかで量産されてる。大義名分はデブロックの後継機だそうだ」

 

ステルボンバー。先行型のステルバーの技術を応用して生み出された派生型で、こちらは『B-52』の子孫らしい爆撃形態を持つ。地球連邦軍の北米軍管区が(日本によるスーパーロボットの独占状態を憂慮して)開発・量産を担当した。スーパーロボットの名に恥じぬ火力を誇っており、弾薬の貯蔵量は『地域国家時代の頃の小国は単騎で消し飛ばせる』と豪語されている。他にも、旧ロシア軍管区は『ボルガ80000』というものを試作しており、こちらもロシア軍管区の意向で配備の予定だと、黒江は伝えた。

 

「連邦も本腰入れてるんですね」

 

「ティターンズ派の復興の阻止が本音だろう。スペースノイドは地域国家時代の遺産に無頓着だからな。それに反発するヤツは星の数ほどいる。シャアもこの辺は気をつけていたそうだが、ラサを消し飛ばしたのは擁護できんよ」

 

「しずかさんがジオンとかを嫌いなのも?」

 

「それだよ。ジオンやザンスカール、コスモ・バビロニアのしたことはつまるところ、都合の悪い連中の『間引き』と旧時代の遺産の一掃だからな。ドラえもんがいなけりゃ、未来永劫に失われてただろうものも多い」

 

「それで、のび太くんがあれこれしてるわけだ」

 

「ヤツも苦労人だぞ?カミさんは環境保全運動に熱上げてたからって、ジオンのやったことの結果を大人になるまでは知らせてなかったりしてな」

 

「コロニー落としで、地球の環境はメチャメチャですからね。コスモリバースで落ち着いたんでしたっけ」

 

「ま、最近は2000年代前半くらいの気候に落ち着きつつあるそうだ」

 

のび太が苦労したのがうなずける証拠として、息子のノビスケを襲撃した残党の兵士を叩きのめし、病院送りにしたことがある。ジオンが地球圏から追放になった要因の一つは、しずかが『過去の人間』としてジオンを糾弾したためである。

 

「しずかは雲の王国の一件があってから、環境保全運動に熱上げてたからな。それの結果がブリティッシュ作戦じゃ、20世紀末から21世紀の環境運動の全部はピエロだったことになるからな。連邦の圧政だのいっても、コロニーは維持費かかるんだ。連邦政府の財務会計のいい加減さこそ責めるべきだぜ。ガバガバだったそうだしな」

 

実際、コロニーの維持費は生命維持装置の定期更新などが嵩む。恒星間航行が実用化され、別の居住可能な惑星に移住したほうが安上がりであったので、コロニーの新規建設は旧型の更新工事が中心になりつつある。地球もコスモリバースで自然が一定の復興を果たし、ドラえもんの力で旧地域国家の主要都市の復興が(不完全ながらも)進んでいる。ジオンがしたことで良いことと言えば『連邦政府の腐敗官僚を億単位で殺した』くらいだ。

 

「あれで、パリとシドニー、キャンベラは消えましたからねぇ」

 

「シドニーとキャンベラは完全に消えたからな、地殻ごと。その帳尻合わせの地殻変動で、南洋島がこっち以上の大きさで生まれたが、居住可能になるのは20年以上先だろう。地球が落ち着けるのは24世紀以降だな。ボラー連邦やディンギルが来ることが確定済みだし」

 

「復活篇の連中は?」

 

「バード星が知らずにホシノスペースカノン(惑星を粉砕できるエネルギー兵器)で異次元の母星ごと消し飛ばしたそうで、フラグが折れた。その代わりに2520のフラグが成立した」

 

「セイレーン連邦ですね?」

 

「そうだ。ゲッペラーがシリウスの移民を捻り潰したが、あれの生き残りがセイレーン連邦の首脳陣になるそうな。で、18代目のYAMATOに滅ぼされる。その後に、グレートヤマトの時代になる。それまでに数百年ずつの平和があるそうだ」

 

「ヤマト、ずいぶん代替わりするんですね?」

 

「地球最強の戦艦が代々、襲名する名跡になるそうだ。まぁ、初代は無茶のしすぎで、ガタが数年でくるそうだが」

 

ヤマトは厳密に言えば、初代ヤマトはアクエリアスに沈み、その設計データで再建された二代目ヤマトが(書類上は同一艦扱い)後を継いだ事から、そこをヤマトの代替わりとカウントするとハーロックは言っていた。ヤマトの後継たちは『沈められた個体』も多いが、平時の抑止力として生きた個体もあるという。そして、初代と同一艦の扱いであった二代目のヤマトは長い年月をかけ、『大ヤマト』に改修されるという。

 

「多分、俺達はヤマトの艦歴を見届ける事になるぞ」

 

「大人のあたし、うまくやりますかね」

 

「戦うことで思春期の空虚感が消えていくだろうから、概ねは大丈夫だろう。ったく、ココも厄介な願いをしてくれたもんだ」

 

オトナ世界のココは『有事に対応できる力を奪った』ことへ責任を追求され、精神を病んでしまっている。ギャバン曰く、『今は二人を会わせたところで、良い結果は生まないだろう』とのことで、バード星で療養させているという。

 

「たぶん、オトナのお前はくっつかんかもしれん。青春の半分以上を空虚感に支配されていたっていうからな。1000年女王になる理由の半分はそれだろう」

 

「ったく……!」

 

「ココは善意でしたんだろうが、結果的に、ほとんどのプリキュアに影響を及ぼした。その責任を地球人に追求されるだろう。退位を迫られかねんぞ、あれじゃ」

 

「外交ミスで退位ってありえます?」

 

「下手すれば、な。地球が吹き飛びかねんし、下手したら、彼の故郷も滅ぶぞ。連動していれば」

 

 

「大人のあたし、一見すると大人になってるけど、青春を取り戻そうと?」

 

「そうだ。中学校の後期~大学までの期間、空虚感に囚われてたようだし、夢が叶っても職場で疎んじられていたようだからな。事後に教師に戻っても、小学校の教師には戻るまい」

 

「いいんですか、そんなこと」

 

「職場で疎んじられたそうだからな。同僚や上司、生徒の親御さんたちにも、な」

 

大人のぞみの精神状態は疲弊している事が語られる。表向きはなんでもないように振る舞っているが、裏では就職後のあれこれ、プリキュアの力が消えたショックで、中高大のほとんどを空虚感に囚われた状態で過ごした事への後悔で、のぞみAよりも『青春時代への執着』が強い。小々田コージのような教師を目指していたが、彼のような教師が持て囃される時代ではなくなったことも、生徒に親身になるタイプを目指していた彼女には辛い事実であった。黒江の予測はだいたい当たり、大人のぞみは『青春を取り戻す』機会ということで、Aの代役を本格的に引き受けていく他、小学校の教師は懲り懲りだと思ったのか、中学~高校の教員免許を取得しようとするのだった。

 

 

 

 

 

 

――「魔女の世界」に持ち込まれたメタ情報により、カールスラント、オラーシャ、ロマーニャ、スオムスといった『国際連盟軍の中枢を担ってきた国々』が混乱し、軍事的にも衰退した結果、扶桑はその国力の大半を戦線維持に費やさなければならなかった。しかも、日本の介入で扶桑軍隊の社会的地位が大きく低下した結果、扶桑軍は予備人員の召集に四苦八苦する始末であった。攻勢を日本が差し止め続けたせいで、前線の扶桑軍は兵員の余裕がなくなりつつあった――

 

 

 

――日本も、内部で『皇室の軍隊という意識を持つ従来の軍隊を戦争で滅ぼし、事後に自衛隊の支局に防衛組織を置き換える』という警察官僚中心の思惑と、『扶桑軍隊を活用し、日本の有事に活用する』思惑が(地球連邦と別の時代であることもあり)ぶつかりあっていたが、次第に後者が優位になりつつあった。第一に、扶桑は国土が(大陸領を実質的に放棄しても)史実最盛期の大日本帝国よりも広大であり、防衛に必要な兵力が膨大であること、義勇兵らや旅行者の凄惨な暴力で、扶桑軍は士官層、特に参謀格がガタガタになってしまっていることは日本の防衛当局を悩ませた。日本の警察組織も『さすがに、平行世界の存在に(史実の行いの)責任を負わすのは酷だろう』ということで、憲兵の業務を実質的に代行し始めた。しかし、日本の大衆は『どうせ、同じような状況になれば……』ということで、軍人どころか官庁の官僚や政治家、はたまた外国人にまで『正視に耐えぬ』暴力を振るった。その犠牲者は膨大で、日本の良識的な警察庁の幹部はこの大衆の暴走を『文革の紅衛兵まがいの行為』とし、断固たる対応をするように警察庁長官に具申。その方針は(外国の軍人や政治家にも被害が及んだため)採用され、数年間で1000人以上が検挙されたが、(警察の予想通りに)世代分布が偏っていた。

 

 

―別の日――

 

 

「正木総監、お久しぶりです」

 

特捜エクシードラフトの現役期間の終了からしばらくした後に銀河連邦警察に招かれていた、特警ウインスペクターなどの設立者にして、90年代に『日本警察のドン』と呼ばれた正木俊介。元の警視総監である。40代前半で警視監となるなど、異例の出世をしたが、日本の景気が悪化した時期に(バブル期、湯水のように予算を使ったために)疎まれ始め、定年退官後に銀河連邦警察に招かれていた。

 

「うむ。君が面倒を見ている子の研修以来だから、ずいぶんになるね」

 

「ご無沙汰しております。日本が急に検挙に動いたのは?」

 

「2025年の警察庁長官は、私の大学時代の後輩でね。銀河連邦のことも知っている。電話をかけて、ちょっとした話をしたよ」

 

「これ以上悪化するなら、銀河連邦警察が動くと?」

 

「そうだ。銀河連邦警察でもこのことは問題になっていてね」

 

「良かった。こっちでも問題になってきてるんですよ。とうとう、外国の軍人や政治家、官僚も被害に遭い始めたので」

 

「現状はどうかね」

 

「ルメイ将軍が日本の空襲被害者の遺族にリンチされて、今は面会謝絶。史実で武装親衛隊だった連中に至っては、放射能にさらして、ヒトの形を保てなくするような処刑までしたとか」

 

「……ひどいな」

 

「まさに紅衛兵って感じですよ。しかも、放射能まで使うなんて。チェーンソーで、生きながら解体されたヤツもいるそうです。旧軍令部と艦政本部も戦々恐々。艦艇の装甲を薄くする案を出した造船官は『潰されました』よ」

 

「史実で、トーペックス系火薬を用いた魚雷に、主要艦艇の多くは撃沈されたからな。日本としては、最低で500ミリの装甲を戦艦には求めるだろう。大正期の艦艇は『使い物にならない』とするだろうが……核がない世界だというのに」

 

正木の言う通り、日本の大衆の圧力により扶桑の新型艦は重装甲と重武装の両立が命題とされ、速力は(水雷突撃の無力化を理由に)強くは求められなくなった。そのため、新造戦艦は最低でも、400ミリ以上の装甲を全ての箇所で持つこととされた。史実の大和型が『弱装甲の箇所のせいで致命傷を負った』とする記録によるものだが、造船学的に(1940年代の技術では)不可能であった。そこで、宇宙戦艦ヤマトの時代の技術で既存艦に改修を加えたわけだが、元の船体に(激戦で)負担がかかったのは否めない。

 

「日本は大和を買い取ると言ってきてますが、近代化改修済みなんで反対も出てるんす。仕方がないんですが」

 

「うむ……近代的な戦闘に対応させようとすると、どうしても電子装備などの改修は必要だからね」

 

扶桑海軍も軍事的優位性の薄れた大和型の保有の継続には悩んでおり、結局は日本への売却が(妥協的に)決まった。これはカールスラントへ売却した空母の荒廃の判明で、まったくの他国への軍艦の売却の選択肢の破棄へ追い込まれたためである。播磨シリーズの生産が予定より多くなったのは、呉軍港の壊滅時に旧式の金剛型戦艦や扶桑型戦艦があえなく撃沈されたこと、八八艦隊型が実戦で『時代遅れ』とされ、大和型と同世代のアイオワやモンタナが量産される事への対応とされている。

 

「日本の大衆は最前線に司令部を送り込んで、いざという時は『高級将校は華々しく死んでこい』とヒステリーになりますからね。参謀や司令部の士気下がりっぱなしですよ」

 

「太平洋戦争で認識が止まっている……いや、それ以前かもしれん。日露戦争が最後の勝ち戦だからな。生え抜きの軍人は貴重だが、日本は思想を危険視するだろう。連合艦隊の参謀たちには遺書を書かせたほうがいい。日本の大衆へのポーズになる。陸軍の参謀は陸自の人員で換えが効くから、ある程度の犠牲はやむを得んだろう。特に、史実の継戦派は間引きが行われるやもしれん。大衆の意向で、ね」

 

「ったく……大衆はいつの時代も勝手なもんだ」

 

「彼らは独裁政権が生まれようが、自分らの暮らしに影響がなければ、気にもとめん。過去の日本が軍国主義に走ろうと、ナチスが政権をとろうと…ね」

 

正木は戦後直後の生まれで、戦前生まれの両親がいたので、太平洋戦争も昔の出来事という感覚はそれほどない世代である。さらに、バブルの絶頂期に30~40代の壮年であったので、世論の移り変わりをよく見てきた世代だ。バード星に滞在していたため、外見年齢は往時からさほどの変化はない。黒江曰く、『風見さんや番場さんが40代になっていたら?』を地で行く姿だという。声色も風見志郎や番場壮吉と瓜二つで、黒江も『生き別れの兄弟かなんすか?』と尋ねてしまったほどだ。

 

「だが、そういう人たちも守るのが、我々の仕事だ。」

 

「ええ。わかってます」

 

「君等の時代の中堅層には悪いが、軍以外の社会を知らない者たちが中枢についたことが悲劇なのだ。これは戦後の日本人なら、小学生でもわかることだ」

 

「俺のダチにもいますよ。戦時で小学校も繰り上げ卒業で、そのまま軍学校に行ったヤツ」

 

「だから、日本の政治屋や官僚に、君の国の軍人は馬鹿にされるのだよ。戦後しばらくはともかくも、21世紀の世の中に、高校も出ていない人間などは『まともに扱ってもらえない』。高度経済成長期のように単純労働で儲けられる時代ではないのだから。いくら海兵と陸士が高等教育機関を兼ねていると言っても、短大扱いになっているし」

 

「連中は自分たちの教育が正義だと?」

 

「侮っているのだよ。君等の時代、高等教育を曲がりなりにも受けられた人間のポテンシャルを」

 

Z世代などの無知な若者のみならず、戦後直後の生まれにも多い、その侮り。しかしながらむしろ、戦後の大衆化した高等教育機関と違い、戦前の『正真正銘のエリート育成機関』であった時代の教育を受けた者たちは、戦後に至るまで国家を牽引していたのだ。

 

「君がそうだろう?防衛大学校もトップクラスで卒業し、空自のトップエリートに君臨している」

 

「一時は干されましたがね」

 

「革新政権は本気に取っていなかったのだろう、扶桑との連合構想を。だが、実際に扶桑の人々の活力を得られたことで、日本は死に体の経済と少子高齢社会の解決に目処をつけられた。革新政権の関係者だった政治家は悔しがっていると思うよ。自分たちの手柄にすることもできたはずだからね」

 

「どうして、日本は負けさせようとするんですかね」

 

「そのほうが経済・文化的に栄えたという成功体験によるものだ。だが、日本も君等と出会ってなければ、今頃は死に体の経済と、極限まで進む少子高齢社会で、基盤がガタガタになっていたはずだ。常識の変化に対応できなくなっているからね。戦後の時代、戦前の常識の全てを切り捨てることで数十年の安寧と繁栄を享受したが……同じことを扶桑に強いるのは傲慢でしかない。我々の日本と、君等の国は別の国なのだから」

 

正木俊介の言葉は日本の大衆の集団心理を突いていた。大衆は扶桑を大日本帝国と半ば同一視しているが、徳川家康ではなく織田信長が幕府を開き、鎖国政策もしていない時点で似て非なる歴史になっているのだ。軍部にカールスラントびいきが多かったのも、戦前の時代の科学立国はドイツであったということを知っていればわかるはずだ。

 

「日本も、ドイツも、過ちを犯した先祖たちと同じ姿を持つ人間達を見て、義務感に駆られたのだろう。だが、彼らの道は彼らの決めることであって、我々が強制するものではない。それもわからない連中が多いのも、困ったものだ」

 

正木俊介はそう論じた。黒江は、自分がそれで(日本での生活で)苦労したからか、納得ということだろう。あっけらかんと、彼の言葉に聞き入っていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。