――太平洋戦争は核(反応)兵器による早期終結も議論に上がっていたが、日本側が(非核三原則を理由に)議論すらさせなかった。その代わりに、それ以外の兵器の規制は(未来兵器も含めて)されなかったため、本来は対怪獣用の兵器であろうとも、躊躇なく投入された。スーパーXシリーズやメカゴジラがそうである。第二次世界大戦~戦後直後の水準の兵器しか持たぬ相手に無双と言える戦いを見せた。それでも、肝心要の陸軍が物量差でジリ貧状態。日本は扶桑に外地を放棄させようとする(資源採掘権は残してやる)勢力の工作もあり、扶桑本土の陸軍を動かせず、高射砲をミサイルに置き換えるほうに情熱を注いでいた。とはいえ、流石に扶桑国民の突き上げは無視できず、やむなく部隊の出征を認めた。この時に問題となったのが、『新兵器を与えても、将兵が使いこなせなくては意味がない』という点である。64Fに南洋戦線の維持を依存しているのは、南洋軍自体の消耗が限界に達したこと、少数の新兵器で多数の旧型を抑えられるとは限らないという事実に、防衛省が困惑したことも大きかった――
1949年の秋口。常夏の南洋には季節は関係ないが、南洋方面軍の消耗はもはや限界に達していた。日本は扶桑の外地放棄推進派が補給を意図的に妨害していたが、扶桑との関係悪化を恐れる政府がそれを止めさせた。今の扶桑本土には、外地の人間を受け入れるだけの余裕はないし、世界情勢の違いにより史実の理屈は通用しないからで、64Fと連合艦隊の最新鋭艦の活躍がなければ南洋の放棄もあり得た。結局、日本の左派は扶桑の戦争の妨害工作を公然と行い、日本政府がそれを表沙汰にならないように隠蔽した上で、妨害行為を是正するという有様であった。
扶桑連合艦隊は本来、1947年までに任務部隊制への移行を前提に解散の見込みであったが、扶桑国民が『独自の伝統を守ること』を重視した都合で立ち消えになった。結局、妥協的に第三艦隊=空母機動部隊という編成が定められ、第二艦隊が打撃艦隊という編成で落ち着いた。妥協的なものだが、日本の無知な政治家向けのパフォーマンスも多分に含まれていた。扶桑が数的主力として整備していた雲龍型航空母艦は大きさが『ジェット機には適さない』事から、大半が他用途に転用・改造される結末を迎えた。この代替となる空母の整備が迷走しまくった事から、事実上の後継は鹵獲したミッドウェイ級という有様であった。結局、コア・ファイター空母とされたのは『鋼材の質がいい』と判定された初期の六隻、その他は粗製乱造と見なされた。実際には『簡易化が進んでいった』だけだが、甲板の仕上げが明らかに雑な艦もあり、その判定もやむなしであった。大鳳も(史実が史実なので)量産が差止めにされたが、(コンコルド錯誤の要領で)造船所の独自判断で竣工させてしまった艦が現れる事態になり、その改装に手間を取られるなど、日本には予想外の出来事が続いた。日本の思惑は『信濃があるだろう』という楽観論によるものだが、実際には扶桑での信濃は大和型戦艦の三番艦であり、空母ではない。このショックにより、結局はミッドウェイを強引に接収する羽目になるなど、しまらない結果となった。(実際には空母化の設計自体は史実通りにできていたが、その間に『モンタナ・ショック』が起こったことで造船所が突貫工事をしてしまったため、もはや『空母として改装するほうが、却って金がかかる』状態となっていた)
日本はその状況に頭を抱えた。信濃が戦艦のままで完成してしまった世界線であったからだ。しかも、第三者の手で高度に近代化がされた状態(正確には、M動乱での修理の際に近代化がなされた)。日本の技術よりも数段上のレベルの技術で。戦艦が必要とされる世界線であるので、大和型戦艦だけでも五隻(『三河』という最終艦が存在する)というだけでも想定外だが、八八艦隊が存在した世界線であれば、さほどの違和感はない。加えて、扶桑皇国の国力は日本帝国の数倍以上。八八艦隊がある程度進捗しても別段おかしくはない。怪異の脅威も近代兵器で薄れたとはいえ、ミサイルは彼らへの決定打になりえない。そこが戦艦の生き永らえた理由だ。64Fの勇士らもいつか定年になれば退官していく。それが各国が通常の軍備の整備を急ぐ理由ともなっていた。だが、財政難に陥るか、国自体が崩壊の危機に陥った場合は軍備どころではない。それも、日本連邦の超大国化の理由である。
実際に、連合国は財政難に陥った国が多数派であった。連合国軍に供出できる戦力も大きく目減りし、日本連邦の『海外遠征の方便』のようになりつつあった。とはいえ、日本連邦も艦艇の行動範囲をアジア太平洋地域に抑制しつつあったため、艦隊規模の欧州遠征はダイ・アナザー・デイが最後となった。連合国はこうして、次第に有名無実化が進んでいった。欧州は弱体化し、リベリオンは内戦状態。アジア地域もシャムと扶桑の関係悪化により、防衛力の基盤が揺らぐ有様。そのため、太平洋戦線はまさに『ティターンズ残党とバダンの連合が勝つか、連合国の秩序が勝つか』の天王山であった。
かくして、シャムは結局、ティターンズに刃向かえる軍事力はないし、扶桑からは軍事侵攻をちらつかせられるという究極の二択を迫られた結果、反扶桑派の首相とその一派がクーデターで失脚、後任者は扶桑側につく選択を取った。だが、その過程でかなりの魔女が戦死。これでシャムは扶桑に刃向かえる力を失った事になる。シャムはタイの同位国であり、現代の王国の前身の名でもある。扶桑のヒモ同然である現状に不満を持った一派はティターンズの力を背景にしての『独立』を志向していたが、結局は扶桑陣営に居残る事になった。ティターンズはシャムを(理由をつけて)滅ぼすつもりであったので、その選択は(結果的に)正しかった。これにより、同世界の同盟国に疑念を抱いた扶桑政府はブリタニアへ猜疑心を持つに至る。ブリタニアとしても、扶桑に切り捨てられては(現状の兵力では)とても守りきれるものではないため、シャムの失脚した首相らを処刑するようシャムの新政権に圧力をかけ、自分らの保有する太平洋方面の油田からの燃料供給を増強させた。シャムの行為は結果的に、連合国の連携を自分から崩してしまうきっかけとなり、連合国の組織はますます弱体化。世界は日本連邦一強体制へ変貌してゆくのである。
皮肉な事に、日本と扶桑の連携がこの事件で深まることとなり、扶桑で新型艦艇が全て完成し、投入可能な練度に到達する1953年以降に集中的な反攻作戦を正式に実行すること、原爆が都市部に使われた場合、扶桑の裁量での独自行動(報復攻撃。何でするかは明言されず)の一定範囲の容認の覚え書きが交わされた。実のところ、扶桑は地球連邦から既に『反応兵器』を購入済みである。核融合反応を用いない、新世代のものだ。つまり、日本の知る範囲での核兵器ではない。23世紀の宇宙開拓時代、20世紀から21世紀型の核兵器は『閃光花火』扱いの玩具なこともあるが、技術革新で旧来の原爆を起爆に使う方式が廃れたのが大きい。
日本では魔女の覚醒が起こり始めていた。更にその質がなぜかとんでもなく高めであった事、10代後半~20代の若年層から出現したが、極少ながらも東條英機の編成しようとしていた『巫女部隊』(魔女という単語を避けた)のメンバーの直系子孫も含まれていた。日本も扶桑のご機嫌取りの手段を探っていたのと、魔女の代替になりえる『能力者』が散り散りになっていた事実の判明で、扶桑の異能者との均衡を図れる算弾が立たなくなったこともあり、結局は魔女の『供出』と日本での『1970年代までの兵器』のライセンス発行を認めることで『共栄路線』を選んだ。その過程でようやく『義勇兵や観光客の扶桑軍人への暴力』に法的規制が入り、扶桑軍人は久しぶりに安眠できるようになった。とはいえ、公然と士官(将校)に暴力が振るわれたことは軍人の地位低下を妙実に示すことになってしまい、扶桑皇国は長い期間、『軍人街』の形成とその問題解決に煩わされていくことになった。
軍人街とは、故郷への帰省の際に故郷の村で『掌返しで迫害された軍人が一家ごと所属部隊の基地近くに移住する』ことで形成されていった。これは日本から反戦思想が持ち込まれたことの影響であった。とはいえ、農村としても掌返しして、働き手となり得る青年層がいなくなってしまうという問題がすぐに表面化。田舎の小農村はこのムーブメントが原因で衰退が加速。老年層が災害や獣害で全滅してしまい、廃村となった地も複数生じた。軍としても人事異動の際に不都合が多いため、基地内に官舎(主に兵~下士官用)、士官用の住宅街などを建設せねばならなくなった。この問題へ予算が振り分けられたのも、太平洋戦線の苦戦の遠因であった。また、本土部隊の出征を日本が避けていた事も大きかった。結局、損耗補填名目での増援が許可されたのは1949年も秋にさしかかる頃。人員の引き抜き防止のためという名目での派遣であった。南洋軍の消耗が激しく、人的消耗を幹部の個人的なコネで補おうとしたためで、さすがに日本の防衛官僚も『事の重大さ』に気がついたのだ。(リベリオン軍の強大な火力は史実通りであり、これに戦後日本の『少数精鋭主義』が正面から立ち向かえるはずはない)
官僚たちは64F主力の不在を詰ったが、彼らは連合国全体のために遠征をしており、帰還はもう暫く先だと、連合軍司令部から、日本連邦評議会に通達がなされた。その衝撃により、黒田の政治的立ち回りもあり、Gフォースのさらなる拡充が決まった。この時にリベリオン軍を恐れさせたのが『メカゴジラ』である。自衛隊が統合戦争まで有するであろう『オーバーテクノロジーで建造された超ウェポンシリーズ』の第二期にあたり、公には『対学園都市用』という名目で複数が建造された。オーバーテクノロジーの研究と取り扱いが成熟した時代(1990年代前半)に建造されたとされ、Gフォースはそれに改修を加えて投入した。装甲材の刷新、武器の換装などの大規模なオーバーホールを兼ねての近代化改修であった。動力を旧式のレーザー核融合炉からM/Y式融合炉に換装、その出力に耐えられる電装品に取り替えるなど、多岐にわたる改良が施された。その結果、後継機種のMOGERAと共に、リベリオンの通常の軍隊を文字通りに蹂躙。数個師団と、旧式戦艦の艦隊を文字通りに全滅させる戦果をもたらした。20世紀前半の技術による火砲では、メカゴジラとMOGERAの装甲には『傷すら入れられない』ため、戦線の怪物として恐れられた。こうして、Gフォースは64F不在の期間、戦線の要として奮戦していた。仕方がないが物量で対抗できない以上、質を遥かに強化せねばならない。それは日本系の国家の宿命であった。故に、こうした超兵器を使わざるを得ない。ある意味では超大国となるはずであった国家と戦わざるを得ない故の悲劇であった。
それはジェット戦闘機がいきなり主力となった航空分野にも言えた。零戦よりも前の世代が数的主力であったのが、いきなり戦後型ジェット戦闘機が主力になったため、パイロットの教育が追いつかなくなるという問題が発生。日本の自衛隊出身者は『空母搭乗員にはなりえない』(空母が存在しない時期が70年近くあったため、空母への着艦の技能がない)ため、アメリカ海軍の協力が必須であった。また、ジェット空母として満足の行く性能は80000トン以上で(ようやく)達成できるという事実は扶桑皇国に大いなるショックを与えた。ジェット機は世代を経る事の大型化が激しく、21世紀の現役世代は『レシプロ時代の双発機以上』の体躯になっている。それには油圧カタパルトは時代遅れであったのも。結局、扶桑海軍は核融合炉を新式空母に導入し、蒸気式と電磁式のカタパルトを導入することとした。それにより、新式空母は330m級に大型化。これにより、艦政本部の『被弾面積の極小化』の研究は放棄され、以後の艦艇は(電子装備やミサイル装備の搭載スペース確保のために)軒並み大型化。戦艦で平均が350m、空母で330~400mという状況となっていく。同時に船体構造・装甲の強化が既存艦にも施されていったが、大和は度重なる損傷と酷使で疲労が蓄積しており、退役と代艦の用意が決議された。この時、大和は(機密保護のための)解体論も扶桑から出たが、(戦後の知名度が長門と比較にならない)である事から)長門に続き、日本に記念艦として売却し、その代金を軍資金に使うという結論となり、大和は(黒江たちの記憶する『前史』よりかなり早く)退役による代替わりが起こる事になった。これは扶桑が多額の資金を必要にしていたためである。
結局、扶桑は北方戦線から帰ってきた将兵の取り扱いに困り、そのまま太平洋戦争に使うか、アリューシャン諸島で飼い殺しにするか、その二択を迫られた。扶桑は前者を取った。太平洋戦線が風雲急を告げていたからである。本土の将兵の動員ができない故のやむを得ない選択であった。扶桑は本土の将兵による増援を何度も議題に上げていたが、日本が(本土が戦時色に完全に染まる事から)猛反対。だが、南洋軍の消耗は限界に達しつつあり、猶予はない状況であった。日本はこの状況に、Gフォースの増強と、九州・四国の師団の動員の出征の許可で応じた(装備を近代化した上で)。扶桑は元々、大陸領奪還のために陸軍を増強していたが、その分を太平洋戦争で全て使うこととなっていく。近代化の名目で削減する予定の師団も『南洋で全滅するのを前提で』投入するなど、日本の背広組(防衛官僚。警察官僚の出向も多い)の冷酷さを伺わせる。Gフォースは日本と扶桑の相反する思惑の板挟みになりつつも、その超兵器群で奮戦。64F主力不在の状況を支えていた。
この奮戦により、リベリオン本国は第一次世界大戦型戦艦のほとんどを喪失、陸軍と海兵隊の一個軍団を殲滅されるという大損害を短期間に負う羽目となった。特に、旧型とはいえ、戦艦を五隻以上失った事は大打撃と言える。また、この期間に異能の分類基準も定められ始めた。シンフォギアなどは異能に分類されるが、シンフォギアが攻撃のエネルギーに耐えるには限界点が存在する(核融合クラスの爆発には、マリア・カデンツァヴナ・イヴの固有特性がなければ耐えられない)。それは平行世界(アニメとして存在する世界を含む)の情報が必要であった。また聖衣にしても、神聖衣とそれ以外では『越えられない壁』が存在する他、青銅聖衣と黄金聖衣の力が融合する事による特異的進化も観測されている。また、プリキュアの力も『滅びに向かう世界線』では不安定なものであるのも実証されたため、異能者はそれらを状況に応じて使い分ける柔軟性も『区分分け』に関係した。64Fの主力メンバーはGフォースの幹部も兼ねている都合上、『異能の複数保有』も珍しくなりつつあった。
のぞみに代わって、キュアドリームの業務を代行するナリタブライアン。ウマ娘としては『衰えの始まる』年齢に到達しつつあったのを、あれこれの方法で回避に成功した礼も兼ね、表向きはのぞみとして生活している。体をお互いに入れ替えて。その事をC世界の面々に伝えたわけだが。
「あなた、どのくらい入れ替わってるつもり?」
「私は元々、根を詰めすぎだと言われていてな。私の世界での時間で数年単位は休む。それくらいあれば、有終の美と言われるくらいに、自分の評判を立て直せるはずだ」
「いいの?留年……」
「何、私たちはスポーツ選手を兼ねている分、単位を取るのに必要な時間がかかるんだよ。見かけもあまり変わらないという利点を活かしていると言える」
一流所のウマ娘となると、勉学よりレースを優先する傾向がある(レースで強くとも、勉学はあまり得意でないというウマ娘も多い)。ブライアンは最盛期にサボリ魔(ミスターシービーほどではないが)であった事もあり、のぞみが入れ替わった時点では(実は)単位が危ない授業が多く、のぞみAとの入れ替わりは元より長期計画であった。(とはいえ、意外なことに、テストの成績自体は元より優秀ではあった)
「名が売れると、タレントみたいな事もやる奴も出てくる。いくら全寮制で、午後に練習をするとしても、午前中は普通に授業があるからな」
忘れられがちだが、ウマ娘たちは午前を学業、午後に練習やレースを入れている。ブライアンはデビユー後にサボリ魔化していたため、実は入れ替わった時点で単位の取得がヤバい科目がいくつもある。のぞみはその消化もやらなくてはならなかった。
「それと、私は普通に単位がヤバくてな。名が売れてから、無我夢中でレースに邁進したのが不味かった。のぞみには、その辺も任してある。仮にも副会長の職にある者が単位を落として、文字通りの留年は不味いからな……」
「あの子にそれができるかしら……」
「本人曰く、高校と大学は中の上くらいの成績で、転生してからは、旧軍の陸士を出てるエリートだそうだ。転生後の今なら、数カ国語の会話は普通にこなせると言っていた。私も立場上、英語とドイツ語、フランス語くらいはわかる。あとは片言で中国語か」
「普通に、四カ国語以上も使えるってわけ!?」
「全盛期に海外遠征を考えていたからな。今でも、世話になってる寮長(ヒシアマゾン)がアメリカの出で、引退までに遠征を誘われているんでな」
ブライアンは海外遠征を視野に入れていた都合上、四~五ヶ国語程度は普通に使うことができる。世話になっている、ヒシアマゾンがアメリカの出身であったのも大きい。
「昔、なんかであっただろ。酔わせた隙に傭兵の契約書類にサインさせちまうっての。そんな類のトラブルの防止のために、海外遠征を考えている場合、数カ国語のスキルは必要だ」
海外遠征が盛んになったのは、オグリの時代が終わり、サンデーサイレンス系など、種牡馬御三家とその血縁関係の前世持ちのウマ娘たちが増加する時代のこと。しかし、それでも、不思議と凱旋門賞は勝てていない(それが歴史的な事実であるのは確かだが)。サトノ家が総力を挙げてのプロジェクトをぶち上げているが、それぞれの挑戦の時点での日本最強を自負していたディープインパクトやオルフェーヴルを以てしても、一位が無理であったことなので、相当にハードルの高い挑戦である。
「今しがた、連絡があった。私の世界で新興のコンツェルンを率いる一家が古くからの名家のバックアップを得て、凱旋門賞……フランス最高のレースだが……に勝つためのプロジェクトを発足させたそうだが、あのディープインパクトを以てしても、どだい無理な注文だったことだからな……おまけにヤツは……」
凱旋門賞。ディープインパクトは期待を背負い、三位に入着したが、フランスで禁止されていた薬物が検出された事により、失格。キャリア唯一の汚点となってしまった。ウマ娘となった後も、その記憶から凱旋門賞は避けている節がある。因果を考えると、それへの挑戦自体が鬼門であるウマ娘もいるはずである。キャリアの終焉に明確に絡むのはサクラローレル(フォワ賞の段階で競争能力を失う)、サトノダイヤモンド(帰国後は怪我の影響で精彩を欠く)が確認されている。
「ヤツは?」
「獣医の処方した薬が引っかかって、フランス最高のレースである凱旋門賞の入着を取り消された事件があってな。おそらくヤツもそれを覚えてるから、凱旋門賞は出たがらないだろう。私はその代わりを求められるだろうな。ディープは良くも悪くも、現役生活に執着しておらん」
ディープインパクトの性格と史実を鑑みると、現役生活に執着を持っていないことは充分に考えられる。そのため、もし勝利の可能性があるのなら、史実の因果を乗り越えた者ならば可能性があるだろうと、ルドルフたちは結論づけている。しかし、オルフェーヴルが二回とも敗れたのを考えれば、壁はベルリンの壁並の難度である。
「私は乗り越えた者として、凱旋門賞に最後に挑むことになるだろう。お前たちからみれば単に陸上競技にしか見えんだろうが、私たちの身体能力を活かせる場所だからな。だが、不思議と勝てん場所がある。フランスだ」
日本のウマ娘はサンデーサイレンス系の登場後の世代については、単純な能力値では、世界水準に達している。だが、不思議とロンシャンレース場では勝てない。史実でも、2020年代以降の世代であろうと、凱旋門賞は鬼門のような扱いに近く、ドバイに行くほうが増えている。それはロンシャンレース場と違い、『脚を潰す』可能性が少ないからで、それも日本での凱旋門賞への挑戦が減った理由だ。
「フランスはいい加減なところあるから。おそらく……」
「2020年代になると、オイルマネーを持つ連中が金に物を言わせる時代になったから、そっちの方に行く連中のほうが増えた。フランスが持つのは権威だけで、得られる金そのものは少なめ(かつては世界最高水準であったが)とくれば、な。それに走っても、脚をダメにするケースが増えたのもネックになってな」
凱旋門賞に行ったがために、全盛期の輝きを失う事になった例はサトノダイヤモンドが有名である。ウマ娘としては、サトノ家の令嬢である彼女が脚をダメにすれば、サトノ家自体がレースに消極的になる危険がある。それはルドルフも、スピードシンボリ(祖母)に具申している。
「あなた達は馬と同レベルのスピードで走るから、ロンシャンレース場を走ると、脚に負荷がかかる。ヒトと構造が同じなら、なおさらね」
「お前、本を持ってきたのか?」
「ちょうど、図書室で競馬関連の本があったの。それで。この間、あなたに話を聞いた後で調べたの」
「学校になぜあったんだ?」
「元々、この街は昔の華族の避暑地だったみたいなの。その関係かしら」
秋元こまち(C)が本を開き、ブライアンに見せる。競馬関連の本で、元は有力華族の避暑地であった関係で、学校に本が置いてあったらしい。
「入れ替わって分かったが、魂の力も関係するらしい。史実がある場合は特に。だから、肉体が変わろうと、能力自体は引き出せるらしい。無論、負荷がかかるが」
「ヒトはアフリカ系とかでないと、走る能力そのものはさほどではないもの。昔は100m走とかで白人や黄色人種が勝てていたけど、最近はアフリカ系、ないしは南方にルーツを持つ人達が上位を独占しているわ。つまらないという人もいるわ」
「そうでなければ、彼らは生きていけなかったりするから、当然だな。私は素で能力が自分たちに追いついている人間と入れ替わったからなぁ」
「そちらののぞみ、どれだけ鍛えていたの?」
「旧軍の軍人、それもパイロットをしていたヤツの体が素体な上、現地の古武術の継承者だったようでな。その関係で、現役時代から能力がかけ離れたらしい。その気になれば、サッカーもユース級の腕前らしいぞ」
のぞみAは転生後の体が運動神経抜群であった関係で、転生直後の時点でも、以前より強い状態であった。その体が熟れた状態にあるこの時点では、ブライアン本来の身体に引けを取らないスペックを発揮できる。変身前は運動神経がズブいことが魅力であったのもあり、それは公表していない(ただし、変身後がパワーアップした事は公表している)。
「ただし、それは公表していないそうだ」
「なんで?」
「現役時代からかけ離れてると、ネットで『炎上』するからだそうだ。……この時代だとわからんか?」
「なにそれ」
「お前らもあと数年以内にわかるだろうが、この時代だとネットの掲示板か何かで手を付けられん状態になる事があるだろ?ああいう状態が違う媒体で起きる事を言う」
2000年代終わりの頃はまだSNSが現れる前の時代なので、説明が難しい事に困るブライアン。2010年代後半の10代後半と、2000年代終わりの頃の10代とでは、文化が微妙に違うのだ。
「ただし、変身後はいくら盛っても文句はでないそうでな。波紋法使おうか、ペガサス流星拳打とうが、文句はでなかったそうだ」
「なんですか、それ」
「知らんよ。こちらとしてはやりやすいがな。後輩達はスペックにインフレを起こしてるそうだぞ、お前ら」
それを聞いて、複雑な顔のC世界のプリキュア5。とはいえマジンガーとゲッターの力を得た分、破壊力の側面でいえば、のぞみAは現役時代と比較にならぬ破壊力を誇っている。ゲッターエネルギーを用い、リボンを放射板代わりに『ファイヤーブラスター』とその派生を撃てたり、カイザーブレードを召喚できるなど、プリキュアからかけ離れた側面も持つ。また、パワーアップがシンギュラリティポイントを超えるほどであった関係で、自己意思のみで変身を可能としており、アイテムは補助器具のような扱いになっている。
「これに入っているのは麻酔弾だが、暴漢が街に出たら使うつもりだ。私たちの時代には、イカレポンチも増えてるし、田舎に行けば熊にエンカウントも珍しくなくなっていてな。その場合は普通に狩る。後輩に狩猟免許持ちがいて……」
ウマ娘世界ではウマ娘用の狩猟免許が存在しており、デアリングタクトが有している。ブライアンものび太らと出会った後、デアリングタクトのつてで取得したという。その都合上、成人後は猟師になれるということでもある。また、ブライアンは他世界では『家の関係で、狩猟免許の取得を目指している』と説明しているが、自分の世界では既に取得済みなのだ。
「猟銃、扱えるの?」
「母方の叔父の一人が猟師でな。ガキの頃についていった事あるし、引退後の身の振り方の選択肢を増やせということで教わったんだ。日本で手に入れられる銃だと、熊に通じなくなってきてるんで、アメリカ産を薦められたことがある」
実際、日本で手に入れられる猟銃では一撃で仕留められないこともあるので、のび太が30代になった時代では『扶桑から個人輸入した、払い下げのボルトアクション式小銃』を使う猟師も現れているくらいに、熊の大型化と異常個体の出現は社会問題である。これはウマ娘世界でも似たようなものだ。
「どこの世界でも日本は少子高齢社会で、猟師の担い手がいなくなりつつある。世知辛いことだ」
それは地球温暖化が進むことをも意味しているので、2000年代終わりの頃に学生である彼女たちには残酷な事実だが、たった数十年では社会はそれほど変わらない。その表れであった。