扶桑皇国は、機体性能に自信を持っていた二式単座戦闘機三型の量産頓挫に伴い、場繋ぎとして、五式戦闘機を採用したが、それで戦場の需要を十分に満たしてしまったため、紫電改と似通った機体規模・構成の四式戦に居場所はなかった。
『紫電改でさえ、途中で陣風へ世代交代しているのに、史実と大差ない性能水準の四式戦はなぁ……。』
……となったが、二式戦の老朽化が進んでいたのと、紫電系は海軍機であったために、結局は一定数が生産された。だが、空軍の設立で生産計画はご破算となった。以後、独自制作機は(安全牌と運用経費のバランスで)ほとんど制作されなくなるため、扶桑皇国陸軍航空隊の一からの新規設計は四式戦が最後の単座戦闘機となった。当初は魔女の嚮導機運用が主な開発目的であったが、魔女の軍事的価値の大幅低下に伴い、完全な戦闘機となった。それに伴い、史実より機体の熟成が大幅に遅れ、活躍できる時期を逸してしまう結果となった。とはいえ、他国は大半が時速600キロ後半台すら出せない世代の戦闘機が主力なので、輸出用にする案も出たのだが、技術の流出を日本が恐れたために没になった。(早晩にジェット機の時代が来る故でもあるが、ジェット機をまともに運用できるのは、連合側でも、たった三カ国のみである)結局、日本が保存していた同機種の再レストア用のパーツにされたり、大半が博物館の展示機になる道を辿った。その後継・代替がF-86であるのも、各国の独自開発時代の事実上の終焉を示していた。
とはいえ、プロペラ機は『燃料と弾薬さえ入れれば、とりあえずは戦える』という単純な構造故の利点があったため、戦闘爆撃機用途でなら、1949年の時点でも、戦線での需要がまだ残っていた。紫電改や烈風の初期型がまだ使われていたのも、その用途に転用されているからである。北方戦線からの転戦者は訓練の時間すら惜しんだため、レシプロ機は主に、死を望まれて転戦してきた(裏で)彼らのために残されているに等しかったが、一定の軍事的価値は残されていたのである。
戦線は64FとGフォースの活躍で(どうにか)拮抗状態を保っていた。リベリオン本国軍は(物量で)絶対的優位を誇っていたが、人員の質が『烏合の衆』であったため、戦うたびに万単位で負傷者が出る。これは扶桑軍の兵器が少しづつでも、戦後型へ強化されてきたため、火砲の一基あたりの火力が大戦型より遥かに強力になってきたからである。それもあり、流石に史実のような攻勢を控えるようになっていた。まさに怪我の功名である。この隙に、扶桑軍は手っ取り早く、戦闘車両と航空機の刷新を行っていた。船と違い、自動工場で迅速に作れるからである。南洋軍の窮状が少しづつでも、日本側に周知されてきたのも大きかった。特に戦闘車両は鹵獲品を大々的に使っている有様であったからである。とはいえ、扶桑が蓄えていた戦闘車両の多くは大戦前期までの性能水準のもので、大戦末期の兵器がある戦いには『お呼びでない』。そのため、鹵獲できたM41軽戦車は(チハやチヘよりは高性能であったので)特に好まれた。重戦車隊には(南洋島の地盤が強固であった幸運により)コンカラーやM103などの重量級が続々と配備され、五式改の代替とされた。74式の本格配備までの繋ぎという方便であったが、(重戦車を好まなかった陸軍としては)偉い進歩であった。これは砲兵の立場が低下したこと、大和民族は機甲戦の弱者であるという認識が当たり前であるという事実に、陸軍そのものがショックを受けていたためである。
M動乱以来、扶桑皇国は機甲戦力の脆弱さを痛感していた。五式中戦車を75ミリ砲で完成させていた同国には、バダン陸軍のバケモノ戦車たちは『異次元の怪物』であった。いずれも、扶桑皇国軍の常識を軽く逸脱する火砲を搭載していたからである。扶桑皇国陸軍は88ミリ砲搭載で同戦車を完成させなかった事を後悔したが、動乱の時点で既に、戦車の搭載砲は105ミリ砲、120ミリ砲も実現が迫ってきていたため、五式に88ミリ砲を積んだところで、早晩の陳腐化は避けられなかっただろう。MSやコンバットアーマーなどの超兵器に頼らざるを得ないのは、この機甲戦力の急速の進歩に現場がついてこれないからであった。特に、平均身長も(1940年代時点では)低く、基礎体力も低い傾向があった扶桑人には、外国産の大型戦車の運用は苦労の伴う作業であった。故に、国産陸戦兵器の復興の要望は絶えなかったのである。
扶桑は自衛隊式戦車までの場繋ぎも兼ねて、MSなどを導入した。配備は(反乱の危険のない)司令部直属の精鋭部隊に限るとの条件が明記されるまでに、扶桑は陸空の最前線部隊に配備を終えていた。旧・近衛師団は連隊規模への縮小改編中であったが、MSの配備を受けていた。近衛部隊自体、日本からは(史実の宮城事件のせいで)まったく信用されておらず、現地の皇宮警察への装備引き渡しと部隊の即時解散(将兵は直ちに前線送り)が日本主導で検討されていたが、皇宮警察がその検討中に(こともあろうに)存在意義を揺るがすレベルの不祥事を起こしたことで立ち消えとなるなど、どうにも冴えない行為の発覚も続いた。結局、平時の常識でしか考えられない故の齟齬が戦争遂行に悪影響を及ぼしていたのである。結局、日本は(学園都市が分捕っていた『極東ロシア地域の警備のために)扶桑の兵力を必要とする状況となっていた事に気がついたために、『扶桑兵を手荒に扱うな』と、内部通達を行った。遅きに失したという感じは否めないが、償いであった。これにより、日本の官僚が扶桑の人間に居丈高に振る舞える理由は消えた。以後は逆に、日本人が『怯えた目で扶桑の人間を見る』ようになったので、扶桑人を大いに呆れさせたのは言うまでもなかった。
かくして、扶桑はこうした混乱もあり、戦争遂行は大いに困難な作業であった。軍隊は世間の誹謗中傷に耐えつつ、少ない人的犠牲での勝利を強いられたからである。その関係上、64Fの連合軍の都合による出征に不満が溜まっていたが、国際協調は必要なため、64Fとの質の差を埋めるのが先決だとされ、縮小された近衛部隊の余剰人員からの抽出が積極的になされていく。この関係で近衛部隊は皇室の儀仗目的の部隊と前線に出征する部隊とに完全に分割される事になるが、思想調査が厳格に行われ、危険思想に染まっている者は直ちに免職とされたため、意外に人数は確保できなかった。この近衛の縮小改編は扶桑の皇宮警察の組織拡充の大義名分に使われることになる。根本的に異なる歴史を歩んだ国を、自分たちの歴史の歩みに近づけてしまった事への償い。それが日本なりの誠意であった。
扶桑はこの『償い』により、通常の科学こそ一気に発達したものの、魔導理論の発展が停滞していた『魔導装備』の根本的な革新はならず、時空管理局からの技術協力でジェットストライカーの燃費と加速性能改善が起こったのがせいぜいであった。とはいえ、F-86と同水準であった速度性能が音速超えに成功し、マッハ2の世界に入門を果たせたのも事実であった。エネルギーの変換効率が数倍に跳ね上がったおかげである。ただし、弊害もあった。シャーリーの超加速は(ジェット時代では)設計限度を越えた加速で、機体の爆発が起こる危険があるので、以前のような使用を封印されたのは言うまでもない。プリキュアとしての戦闘のほうが多くなったからでもあるが、超加速は機体の設計限度を越えてしまう事があるので、技術陣や整備から(責任問題になるので)止められたからでもある。シャーリーは憤慨したが、もはや、以前のように『ユニットを使い捨てできる』時代では無くなってきたため、泣く泣く封印した。その鬱憤晴らしのためか、紅蓮シリーズに乗る時は(前世より)スピード寄りの戦術を多用している。仕方がないが、加速系の固有魔法はジェットの特性と相性が悪いのだ。
そのナイトメアフレームは、のび太が子孫らに命じ、シャーリー向けに用意したのが始まりである。ブリタニアが帝政に至った世界線で生まれる兵器なので、地球連邦の構成国である、旧・キングス・ユニオンからは文句が出たのだが、本当にいちゃもんなので、そのまま製造された。シャーリーは(64Fそのものが正規戦に縁遠いことから)ゲリラ戦を想定している紅蓮聖天八極式を好んだ。とはいえ、技術の実証実験も必要なため、紅蓮特式も製造された。オリジナルは燃費の面で性能が悪化していたが(正規軍で運用されるため)、そもそも、オリジナルで使われていた『サクラダイト』が存在しないので、第三世代式のM/Y式核融合炉で代用されている。その都合上、オリジナルより性能が高い部分も多い。シャーリーの愚痴とは別に、技術的には『MSなどの開発資産で造られたレプリカモデル』である。軍部に採用させるために、右腕部に合成鋼Gが導入されており、通常の腕部と輻射波動機構の両立がなされている。その関係上、ゲッター炉も搭載されていたりする。名目上は『ミドルモビルスーツサイズでの戦闘兵器の開発実験』なので、予算を潤沢に得られたためである。未来世界では、16~30m級が主流であり、スーパーロボットの類では、一昔前(一年戦争中の)巡洋艦サイズもザラである。そのため、のび太の末裔にして、転生体のノビタダも、ナイトメアフレームの開発を軍に承認させる際、ある種のセールストークをしたという。その都合上、シャーリー(キュアメロディ)はデータ収集を行うように通達がなされている。それもあり、魔女・シャーロット・E・イェーガーとしての活動は縮小している(シャーリーとしての年齢が1949年の段階で、20代前半になるのを隠れ蓑とした)。その都合上、表向きは『半引退状態』とされている。実際、1949年には『年少組』でも、芳佳とリーネが20代に到達するので、ある意味でのカモフラージュとして機能している。
南洋島で、数年前に開業したばかりのリゾートホテル。そこに『もう一つの魔女の世界から転移してきた魔女たち』が匿われていた。軍部がホテルの一棟を丸ごと借り上げ、そこが彼女たちに提供されていた。その魔女らのうち、もう一人の宮藤芳佳は(良くも悪くも)史実通りの一本気なところを持っていた。それが悪い方向に作用してしまい、B世界の智子と黒江を鬱病に追い込むという大失敗を引き起こしてしまった。これはリーネの実姉のウィルマ・ビショップが、引退後も精力的に活動していたことが理由。そのため、リーネも同調していた。しかし、B世界の黒江と智子はもはや、戦う力などは微塵も残っていない『ロートル』。転生を繰り返した末に超人化したAとは比べるまでもなかった。しかし、坂本が身近にいたため、芳佳Bはそんな無気力気味の二人を公然と詰ってしまった。それが二人を精神的に追い込むことになり、A世界の同一人物である二人からも、不快感を顕にされる始末である…。
「すまんな、坂本。あの二人の病状を報告させてしまって」
「なに、こちらの子供たちの軽率な行動が原因で、あの二人を神経衰弱に追い込んでしまったんだ。このままでは、元の世界の江藤中佐に合わす顔がないからな。もうしばらくは厄介になるぞ」
B世界の坂本は、芳佳BとリーネBが引き起こしてしまった問題が大きすぎた事から、元の世界への帰還を先延ばしにし、A世界に滞在を続けている。他の部隊の魔女も(A世界で64Fのエースとして、顔が有名な者も多いので)管理を預かっているためか、史実より態度が落ち着いてきていた。話しているのは、A世界のグンドュラ・ラル。二つの世界で『古くからの友人』である関係だからだ。
「子供たちはあれからどうなんだ?」
「夢原少佐のおかげで、引退者への接し方を学んだが……私の教育が至らなかったせいだ。すまない」
「あの二人は身近に、魔力の減少をポジティブに捉えたか、戦士であることを誇りとしている人物がいる。それで、引退した後は精力的でない者をとっちめるつもりだったんだろうが、あの二人がお前の先輩だという事に、青ざめたって?」
「ああ。あいつらは昔から童顔でな。22を超えているというのに、現役の年頃と間違えられるくらいに若々しいからな。特に、穴拭のヤツは人形のモデルその人だ。宮藤に『本当にいたんですか!?』と言われたのが来たようで……」
「仕方がない。あの方の現役時代は、子供たちにとっては、はるか昔の出来事にすぎん。そう言われるのも当たり前だ」
「そちらではふてぶてしくなったが、あいつは本来、意外に涙もろい質でな。事変の英雄と言っても、子供たちにはわからんだろう。なにせ、この私がルッキーニくらいの年ごろだった時に『気鋭の若手』として鳴らした世代だ。ましてや、宮藤はアレを知らん」
智子も、A世界では、転生を繰り返したおかげでだいぶ肝が座ったところがある。当然、それが起こっていない世界線の存在であるBは、年齢の割に打たれ弱い。そして、芳佳は扶桑海事変の映画を見ていない。それが悲劇を起こすことになった。芳佳Bは『人形にモデルがいた』事に驚くと同時に、智子が坂本の更に先輩という事を知らされ、当然ながら青ざめた。だが、後の祭りであった。芳佳Bは肩身の狭い立場に追い込まれ、ワーカーホリックが更に加速してしまうという悪循環となっていた。
「ワーカーホリックすぎて、あれでは健康を害するぞ」
「あいつは休むことも害悪だと考えてるからな……。鎮静剤を打たせんと、まともな休養も取らん。穴拭への罪滅ぼしのつもりなんだろうが……」
「こちらの普段からテキトーに休んで、今は産休の身とは真逆だな」
「うむ……それもあるのだよ、グンドュラ」
グンドュラ・ラル(A)はカールスラント空軍の総監にして、御坂美琴の平行同位体の転生体でもある。ドイツは(平行同位体が総監の在任中、採用した戦闘機が事故を頻発させた事から)総監就任に反対したが、より先任のメルダースが(曰く付きの)コンドル軍団の出身であるため、妥協的に認めた。以後、ドイツはカールスラントへの関与を避けたため、人事への口出しはこれが最後となった。本人も『F-104のことで疎んじられる』事はわかっており、総監の職にありながら、太平洋戦争に『帰国不能』を理由に、深く関わっている。本人も(史実の敗者側である事から)理不尽な批判を日本から浴びる場合がある。
「私も、メッサーフェチだと批判されている。Fw190に乗っていないわけではなかったのに、だ。そちらの零式フェチとは違う。いくら、リベリオンの超重爆が相手とはいえ……」
グンドュラはそのような『重爆迎撃軽視?』の理不尽な批判にはかなり鬱憤が溜まっているようである。相手大型機がBf109では太刀打ち困難な、B-29以降の超重爆になってしまったこと、史実の所属部隊の戦果に粉飾疑惑が生じたという不幸が重なったためだ。魔女の世界での彼女は史実のギュンター・ラルと異なり、Fw190に搭乗経験があったので、史実の批判は外れている点もある。また、ダイ・アナザー・デイでは、日本義勇兵にグーで殴られたこともある。
「四年前の戦いで、私はB公の脅威を目の当たりにしているんだ。機種にこだわってたら、銃後の批判を浴びる。近ごろは銃後の機嫌をとらんと、予算確保もままならんからな……」
重爆に国土をほとんど焼け野原にされた日本の戦争に関わったため、重爆迎撃に神経質になっている様子を見せるグンドュラ。仕方がないが、日本は(史実の経験者ほど)重爆を『特攻してでも止めろ』と言うので、重爆との戦闘経験の薄い彼女にはキツイ小言を政治家から言われる始末であった。御坂美琴としての能力と記憶が蘇った今でも、銃後との関係には神経質になっている。
「銃後が軍に発言力を持っていいのか?」
「そんなこと言ったら、もれなく罷免されるぞ、こちらでは」
「!」
「民主主義の世の中では、とにかくペコペコして、愛想良くしろ。今どき、サムライ気取りでもなかろうに」
坂本は基本的に、武士道に傾倒している。それに釘を刺す。一歩間違えれば軍国主義と捉えかねない発言だからだ。坂本Bのような武士気取りの人間の居場所はいずれ無くなる。貴族階級の衰退とともに、西洋の騎士道も廃れつつあるので、坂本はどこの世界でも、『ラストサムライ』なのだろう。
「私はこの生き方しかできん。檜舞台から引く時が来たということか……」
「お前は昔気質すぎる。教官に専念すれば良いものを」
「そんな柄じゃないよ。私の世代には、そういう気質が多いのだ」
坂本は本質的に、一戦士としては優秀だが、大部隊を統率する指揮官の器ではない。同時に、技能を後輩に伝えようとする気もあまりないので、軍人としては『戦時でなければ、佐官以上に出世できない』タイプである。Aと違い、戦時でなければ、上に持て余されるタイプの人間なことがここで明確になる。
「平和になった世界に、私のような武士はいらんということか……」
坂本Bは武士道に傾倒している。生涯の半分以上を軍で過ごしていることもあるが、家族のことも語らない(Aも、自身の家族の事はあまり語らない)、自身の過去も語らないなど、武士という存在をおかしな方向に解釈しているとしか思えない。
「お前なぁ……」
呆れ顔のグンドュラ。坂本はどこの世界でも、武士道に強く傾倒しているが、Bは戦場での死に場所を求めている節がある。そこが『小学生のうちから軍にいた』故の不幸だろう……。
「黒江たちだが、神経衰弱ではなぁ……」
「うむ。元の世界に今のまま帰しても、精神病認定で、除隊と同時に精神病院だ。そちらの倫理観的に、二度とシャバの空気は吸えんだろう。当面はこちらで療養させる。だが、精神病というものは……」
「うむ……」
精神を病んでしまうと、1940年代の倫理観では『まともな扱い』はされない。芳佳Bが責められたのは、そのことがあるからである。うつ病等の『心の病』は23世紀世界の医療を以ても、完全な治療法は存在しない。
「まったく……リーネも宮藤も厄介な事を。精神病に追い込むなど……」
坂本Bは部下を詰る。普段は大らかな彼女だが、尊敬する先輩をうつ病に追い込んでしまった事は許せないようである。芳佳Bのワーカーホリックは事件で余計にひどくなっている。
「宮藤のほうはどうだ?」
「鎮静剤打たんと、まともに休まん。罪悪感があるようだが、医者志望が体を壊してどうする?まったく」
「二人への贖罪のつもりなんだろうが、あいつはお前の見せてきた事を素直に信じている。あの子をああしたのは、お前だぞ」
「うむ……純真すぎるのも考えものだな。似た者同士といわれればそうだが」
芳佳Bの現況にため息の二人。芳佳の頑固さが悪い方に表れるのを目の当たりにしたためで、坂本Bも宮藤博士の早世を、この時ばかりは強く嘆かずにはいられなかった。
「呪い。そう考えていいのだろうか」
「だな。博士の言葉を信奉するあまりに、引退者に冷酷な発言を自覚なしにする。一種の呪縛だよ」
芳佳はどの世界でも、父と早くに死別したため、幼い頃に言われた事を大切に想っている。問題はそれを他人にも強いる傾向があること。Aは緩和されているが、Bはそうではない。
「この世界の二人はもはや、魔女を超えた何かに変わっている。それをわからせるのに、夢原少佐の手を煩わせるとは……。不徳の致すところだ」
「まぁ、この世界でバリバリの現役だから、自分たちの世界でも……と、考えたんだろう。子供らしいといえばそうだが……」
「それが、あの二人には、どんなにつらいことか」
坂本Bはこの一件に関しては、芳佳とリーネ(共に『B』)の責任を問う立場を貫いている。上官としてのけじめであり、二人との友情のためでもあった。
「のぞみに預けて、もう何年になる?」
「今年の秋で……ほぼ二年だな」
のぞみはこの事件をきっかけに、人材教育に携わる事になった。この功績も加味され、1950年に中佐に昇進する見込みである。前世で教職についていた故か、周囲の予想以上に上手くやっている。
「宮藤は何が気に食わなかったんだろうな」
「この世界が戦争中なのに、傍観者でいることなんだろう。リネット曹長もだが、彼女も、軍を引退した長姉が精力的に活動を続けている。それでだろう。だが、あの二人(黒江と智子のB)には戦う力は残されていない。名うてで知られていた者にとって、それは一番辛いことだ。まして、この世界での『国家の英雄』として、長年君臨する姿を見ることなどは……」
グンドュラもだが、A世界は特異な変化が生じた世界線である。芳佳Bは(自身が減衰と縁が無い体質なため)A世界の二人を先に知ったため、(自分の世界でも)そういうものだろうと考えたのだろうが、実際は異なる人生を歩んだ『似て非なる者』と言っていい。故に、B世界の二人は『単なる引退者』にすぎない。それが今回の『事件』の背景である。事件以来、坂本Bと芳佳Bの人間関係もギクシャクしてしまっているらしく、どこか冷たさも感じさせた。
「このままでは、あいつの父上に顔向けできんよ」
「博士がご存命なら、やんわりと諌めてくれたんだろうな…。のぞみはそれをわかったんだろう」
「うむ……あいつは父親っ子なのかね」
「さぁ。今となってはな」
宮藤博士の早世を嘆く二人。芳佳は本当に父親っ子であったのか?彼が亡くなった時代では(タイムマシンを使わぬ限りは)確かめる術はない。だが、彼の存在と教えが、芳佳Bを教育するにあたっての手がかりとなったのも事実。わかることは『早くに父親を亡くしたことが、芳佳を頑固な性格にしてしまった』ことだろうか。秋口(と言っても、南洋では季節は関係ないが)のある一日。今後のことを話し合う二人であった。