結局、日本自衛隊はジオン残党の襲撃で、実戦を経験した者を持て余したために、Gフォースという形で厄介払いした。だが、義勇兵が下士官・将校に見境なしの暴力を振るった事から、正規兵の増加が要望された。防衛省は『時代が100年近く離れている』ということで及び腰であったが、やむなく承諾。また、義勇兵は『個人の恨みさえ晴らせれば、後は従順になる』事も明らかになりつつあり、仕方がないが、扶桑生えぬきの将校・下士官には涙を呑んでもらうことになった。その都合もあり、旧軍の将官・佐官級の将校でもあった者達の数は減少し、代わりに大尉以下であった者たちが台頭していった。
橘花と火龍は扶桑初のジェット機という名誉は得たが、戦闘機としてはクーデター軍に使われた程度となり、1946年度に退役の運びとなった。既に次世代の『F-86』や『T-1練習機』が控えていたからである。また、双発でも運動性能が向上した次世代機が続々登場。空技廠はこのショックもあり、活動が低調化。軍需産業も『他国設計の機体のライセンス生産の時代に逆戻りだ』と嘆いたという。また、偵察機も彩雲と司令部偵察機時代の高速は(ジェット時代における相対的な要求の変化で)求められなくなり、むしろ、如何に危険な状況でも、高解像度画像を撮影できるかという風に変化していった。また、陸軍は過去における二宮忠八への冷淡さを責められることになり(陸軍の高官達は『今更ァ!?』と絶叫したが、陸軍の数の削減のいい口実であったために、いいように使われた)、結果として、(懲罰的な予算削減で)人手不足に拍車をかけた。南洋方面の陸軍はこういう理由で、ゆっくりとジリ貧状態に陥った。このあまりの理不尽さを見かねた地球連邦軍は大型陸戦艇や特殊MS師団の供与や投入で援護。ティターンズ率いるリベリオン陸軍に大打撃を与えた。その際のワークホースはやはり、ジェガンであった。また、扶桑軍は(戦略ミスをすれば、良くて、僻地に飛ばされるのが確定コースになりつつあった事から)この頃から、地形が変わるほどの火力を短期間に浴びせた後に突撃を敢行して、敵兵の殆どを生かして返さないという戦法に変遷しつつあった。これは日本が軍事費を抑制したいと要望したこと、扶桑が捕虜虐待の濡れ衣を着せられたことに由来する。これは史実の裏返しのような様相であり、これはこれで、批判を受ける羽目となった。結局、この批判の連続にうんざりした扶桑陸軍の士気は低下していた。
結局、扶桑陸軍は地球連邦軍の助力で均衡を保っている有様であった。銃後からのそしりで、部内の士気は見る影もないほどに、ズタボロであった。機甲本部は特にそうで、M動乱以降の『時代を読めない』との批判で、部員の士気はどん底であった。トーションバー方式のサスペンションの実用化、砲塔バスケットの導入、砲塔旋回の自動化など。1943年以降の革新の嵐は機甲本部の幹部級を左遷させるのに充分な革新であった。結局、扶桑の在来構想の集大成である『五式中戦車』は砲とエンジン、サスペンションの換装を行った型が生産されたが、それでも、砲火力の早晩の旧式化により、史実で成功した『外国産戦後型戦車』の大量購入で場しのぎを行うことになるなど、国産化推進閥にとっての血涙の事態が続いた。また、砲戦車の自走砲兼任により、155ミリ砲に強化する必要に迫られるなど、予想外の連続であった。また、魔女用装備への傾倒が咎められるなど、やることがことごとく裏目に出続けていた。軍馬も芦毛を育てていなかったことで、元の騎兵将校が理不尽な暴力に遭うなどの事態も発生したため、結局は陸軍そのものが『儀仗目的以外の保有から手を引く』、『芦毛を嫌っているわけではなく、戦場で目立つから導入しなかっただけであり、動物愛護の観点からの差別ではなかった』と説明。モーターリゼーションを迎える時代故の説明の苦しさを滲ませた。怪異に探知されにくいという、残された軍事上の利点も『抜き足差し足忍び足を身に着けた超人に偵察させればいいだろ』との意見で一蹴される有様で、この瞬間、『騎兵』兵科は太平洋戦争で完全に世界戦史から姿を消すことが確定したのである。
最後の騎兵師団である『騎兵第四師団』は怪異相手の斥候に有効であるという一次大戦当時の戦訓を拠り所に、部隊が維持されていた。時代錯誤と言われつつも、『魔女の世界』では、騎兵突撃すら戦訓がろくに蓄積されていなかったため、日本の想定より遥かに良好な結果を残していた。また、人同士の戦争に忌避感を持つ若年層が多い世界であるのも、騎兵の活躍が可能な理由であった。部隊自体が太平洋戦争終戦で解体が確定とされているのはよく認知されていたため、兵たちの士気も高く、意外な戦果に繋がった。これは豊富な石油資源を扶桑が持ちつつも、1930年代に『地盤沈下』を懸念した、ある御用学者の提言で、採掘量が制限されていたために、騎兵が据え置かれた感があるのだが、この戦争で完全に『杞憂であった』とされたので、採掘量は遥かに増加しつつ、省エネのエンジンの開発自体は尊ばれた。その関係上、数千kmを飛んでの作戦行動が当たり前となった。日本側が野戦基地の無闇な設営で予算を圧迫することを恐れたからだが、兵士達は補給基地を欲した。空軍の宇宙戦艦や超弩級輸送機はこの用途に使われた。特に、魔女は空中給油だけでは、作戦行動可能範囲を延伸できないので、移動拠点の存在意義は大きかった。皮肉なことに、統合戦闘航空団の本来の構想を大世帯化した64Fが単独で実現してしまったのである。また、逐次、宇宙戦艦や輸送機の防空能力も改良されたため、海軍の存在意義は以前より低下した。とはいえ、そんな事は幹部層の地球連邦軍との強力なコネが可能としているための賜物である。空軍はその利点を政治的に利用され、人員の疲弊は極限に達していた。
空軍も司令部直属以外の部隊は『無理に陸海の航空隊をまとめた』ための相克で、連携がまるで取れていなかった。時代的に、リベリオン設計の機体にアレルギーを持つ将兵も多いので、震電シリーズはその将兵を慰めるためのお情け生産という位置づけであった。とはいえ、独自生産機が主力の座から駆逐されてしまう(後年の民間機製造計画も頓挫する)未来が確定事項かつ、自分達の如何な努力も無駄であったという事実は、扶桑の技術陣のやる気を削ぐのには充分であった。その一方で、自由リベリオンは陣営の主力を事実上、自分たちで開発しろと言われたに等しいために困惑。結局は扶桑の軍需工場に生産させ、設計は自由リベリオン担当という分担が取り決められ、この時に軍需産業の統廃合が進む。軍需は民需の片手間仕事という感覚が定着していくからである。結局、官営工廠の廃止を目指した層は真逆の『官営工廠無しでは、扶桑軍の需要に応えられない』現実に困惑する事になった他、自由リベリオン軍への武器供給の都合も生じた。官営工廠の廃止は総力戦を理解できない者達の戯言。部内でそのようになじられていた。
兵器の生産より消耗の多い状況は部隊の物量差で生じた。地球連邦軍の参陣で、立て直しの時間は稼げたが、問題は人員補充のやり方であった。反戦思想の拡大で、旧来のやり方では人は集まらない。窮地に陥った扶桑の取った手段が義勇兵の募集であった。思想や信条を後回しにしてでも、扶桑は南洋方面に派遣する人材を欲した。だが、問題が多く発生したのも事実であった。正規部隊による増援が政治的に難しい事は問題視されたため、流石に九州方面からの派兵が決まった。旧大陸領からの避難者が多かったからである。日本の一部からは『華々しく死んでくれれば良し』という口減らし同然の扱いだが、日本で熊の獣害が増えたため、日本の法律に囚われない扶桑軍人による熊狩が要請された。その需要により、扶桑軍本土部隊の外征が許可された。扶桑の魔女であれば、熊を(三八式歩兵銃でも)一撃で仕留められるからで、地方出身かつ、マタギの家系の者も多い時代であった幸運により、比較的容易に人員の確保は成り、三八式歩兵銃や九九式小銃を携えて、魔女による熊狩が行われる運びとなった。旧式装備の再利用だが、ある意味では、魔女の第二の人生のモデルとしてのテストケースでもあった。
扶桑皇国海軍航空隊の士気が崩壊状態なのは、士官が公然と、下士官経験のある日本軍の生き残り義勇兵にリンチされたからでもあった。そのため、士官が指揮を怖がるようになってしまった。仕方なく、兵隊あがりの特務士官(1946年度に特務種別の廃止)の該当者が現場を指揮することで妥協された。また、正規士官でも、実戦経験者であれば、義勇兵から歓迎されたため、M動乱やダイ・アナザー・デイの数少ない従軍者は優先的に、義勇兵との混成編成の指揮官に宛てがわれた。また、扶桑の上層部としても、航空雷撃が時代遅れとなり、急降下爆撃もA-1スカイレーダーが掉尾を飾ることになった事は予想外であり、国産の『流星』がスカイレーダーに完全に駆逐されてしまった事は遺憾であった。特に、攻撃機乗りが完全に余ってしまう(航空雷撃の陳腐化、スカイレーダーは単座機であるので)事は大問題だが、航空雷撃自体が時代遅れとなり、完全新規の雷撃機は開発されなくなったため、スカイレーダーの増産で、より高性能のジェット戦闘爆撃機の普及まで凌ぐことになった。これは流星の搭載量がわずか800kgなのに対し、スカイレーダーは3130kgを誇るからであった。全てにおいて、流星はスカイレーダーに比べて非力であり、日本側からも『敢えて量産する価値はない』と判定されてしまった。これは流星の設計が旧式化していたからで、慌てて、翼部にハードポイントの増設などの改修を行ったものの、2000馬力程度では、2500馬力以上の出力を誇るスカイレーダーに及ぶべくもなかった。だが、リベリオン製を嫌う部隊の要望で、天山の代替機として、おおよそ数百は最終的に生産され、『最後の(国産)艦上攻撃機』として、太平洋戦争中は使用されたという。こうした艦上機の大型化は旧来の空母の価値を低下させた。扶桑がやっとのこさ導入した、油圧式カタパルトも、次の世代の技術である蒸気式や電磁式などの次世代カタパルトの登場で駆逐され、戦時量産の都合で機関出力の統一されていない雲龍型航空母艦が早期に『正規空母』の扱いから外れることになった。この時に導入された『コア・ファイター』は雲龍型航空母艦の延命措置としての選定であったが、日本側から『コア・ファイターより、本式の艦上機のコスモタイガーを買え』などと言われるなど、不評であった。だが、21世紀の戦闘機よりは圧倒的に高性能(最高速はマッハ5)を誇るため、扶桑の予定していた機数は導入された。だが、実際の問題として、23世紀の現用機であるコスモタイガーは(使用技術の高度さにより)扶桑の整備兵の手に余るため、在来技術の延長線にあるコア・ファイターは好評であった。コア・ファイターは22世紀以降の技術で、ミサイル等の搭載量が(見かけによらず)多く、対多数戦が常の扶桑軍に好評であった。日本も(ジェット化での保有機数の圧縮を提言していた事から)この性能ぶりに感嘆。結果的に、旧来のレシプロ機の多くを退け、割にまとまった数で制空戦闘機として運用された。コア・ファイターの大きさは二次大戦型のレシプロ機と大差ないため、レシプロ機の時代のパイロットに歓迎されたのも大きい(21世紀の現用機は二次大戦中の大型機に匹敵する大きさなため、忌避感も大きかった)。また、ジェットへの反対論をねじ伏せるため、コア・ファイターの運動性能は必要とされた。これが、量を整備する方向を潰された扶桑軍が選んだ方法である(この決定を聞いた、日本・財務省のある役人は『レシプロ機の時代のような物量合戦は出来ないから、自分から保有機定数を抑えろと言っただけなのに』とボヤいたという)これは日本の役人が『レシプロ機時代の感覚で、高性能ジェット機を買われても困る』という考えで、軍部に釘を差したつもりの発言だったが、扶桑が明後日の方向にすごい物をもらってきてしまったため、何も言えなくなった。扶桑は地球連邦軍からの援助で『日本の現用機がカスな代物』を調達できる。その実例であった。
扶桑空軍は南洋に『TINコッド』などの地球連邦軍の前世代戦闘機の配備を急いだ。コスモタイガーに比べ、地球の在来技術中心の構成である分、調達費が安価であったからだ。野戦防空を考慮しない日本に不信を抱いた『原忠一』中将が主導しての施策であった。彼は『日本は(役人たちが)防衛しか頭になく、攻勢をことごとく却下したことで、却って戦力がジリ貧になった』と怒り心頭であった。これは彼が(史実でB級戦犯であった事から)役人たちに『戦死させるべし無能』と扱われていたからだが、実際は有能の部類に入る軍人であったからである。空軍の戦線に新式戦闘機の配備は全体的におざなりにされていたという(やむにやまれぬ)事情もあった。要は(コスモタイガーの増産に伴う)余り物の処理であったが、2020年代の現用機よりは遥かに高性能な機体であるのには変わりなかった。また、前線に(F-86すら)ジェット戦闘機が満足に行き渡っていない実情が伝わり、日本側も流石に気まずくなり、彼の独断専行は不問に処された。まさに、本土の機材更新を優先していた事の弊害が表れたのであった。Gフォースはそんな現状を敵に悟らせぬように奮戦し、扶桑基準で感状ものの武功を挙げた自衛官が続出した。
――こちらはプリキュア5の世界――
Gフォース用の機材として、ウルトラメカを再現したものが配備されたわけだが。
「ビートルや、ウルトラホークの再現をやるたぁな」
「軍縮時代に倉庫行きにされてた、コスモタイガーやコスモ・ゼロ用のエンジンが大量に余ってたからな。それを軽くチューンして、ガワに入れた。大気圏内じゃ、あれで必要充分な推力だ」
「初期シリーズのもんが多いな?」
「普通の航空力学を考えるとな。第二期のは変なの多かったし、第三期(80)のが作れたのも、本当は儲けもんだ」
「よく、予算降りたな?」
「メーサー兵器やメカゴジラを造ってた部署とメーカーを抱き込んで、数年がかりで造らせた。口止め料兼ねて、予算が計上され続けてたからな。スーパーXなんか、カドミウムで原子力反応を抑えるつもりだった。イタイイタイ病の原因物質だから、バレたら、幕僚長どころか、統合幕僚監部全員のクビが飛ぶ。往時の患者がまだ生きてるからな。だが、21世紀までの技術理論では、原子力反応の抑制はそれに頼るしかない。だから、使用しないのを願って、当時の自衛隊の幹部らの命令で秘匿されていたそうだ」
核エネルギーの制御でブレークスルーが起きたのは、22世紀のこと。しかし、核エネルギーは以前のような『最終兵器』としての地位を失い、機動兵器の動力源として一定の普及を見た。M式反応炉などの実用化のおかげである。艦艇の動力としての地位は波動エンジンや『フォールド機関』などの実用化で失ったが、機動兵器の動力としては依然として主流であった。
「で、どんくらいが現存してた?」
「同位体の名声を使って、あれこれ聞き取りをしたが、スーパーXは1が落雷事故で喪失、2はデータ収集の後に解体。改めて造らせる予定だ。で、Ⅲが万一に備えて、松代大本営跡で秘匿されてた。Ⅲは近代化して、別の中隊に使わせてる」
黒江は帰投準備中も、Gフォースの実戦部隊への衣替えに伴う事務作業に追われていた。片腕が骨折しているので、包帯姿だが。ゴルシ(姿はキュアビート)もそれを手伝っている。自衛隊はデンジ星人やバード星、バイオ星などの遺したテクノロジーを裏で用い、超兵器をいくつも生産していたのだ。元は旧日本軍が起死回生のために使用しようとしたもので、自衛隊はそれを引き継ぎ、遺した研究を実用段階にしたのである。
「出どころは宇宙刑事や、いくつかのスーパー戦隊の技術の開発元か」
「そうだ。自衛隊は黎明期に旧日本軍の研究を組織を挙げて回収して、数十年がかりで実用段階に持っていった。運よく、実用段階になる頃には、バブルの絶頂期。その頃の日本なら、いくらでも資金を使えたから、らしい」
日本自衛隊の装備の充実が成る頃は、それらの研究が実を結んだ頃でもあった。90年代後期以降にその改良作業が停滞したのは、バブルが弾け、研究資金が確保できなくなったからであった。
「その頃の状態のままか?」
「試験で使われた以外はモスボール保存されたままだったしな。近代化は必須だった。動力も旧世代のレーザー核融合炉だったし。それを取っ替えて、電装品を最新式に取っ替え引っ替え……。それで、第一線級の能力になった。多くは扶桑の南洋に送った。司令部直轄だから、むやみに使われる心配もない」
メーサー兵器は南洋戦線に送られ、一騎当千の活躍をしていることが語られる。スーパーXシリーズはワンオフの兵器である事から、『戦争に使うべきではない』と官僚は喚き散らしたが、せっかくの逸品を死蔵するのは、実にもったいないため、結局は『扶桑に恩を売る』ために、黒江の提言を通したのである。
「あんたら、無駄に遊び心あるな。この場合は自衛隊か」
「まぁ、警察に普段は頭を抑えられてるしな。旧日本軍の反動で、世間もそれが正しいと思ってるからな。警察じゃ、戦前はともかく、21世紀の武装レベルじゃ、熊狩れないから、のび太が40近くなる頃に社会問題になるそうだ」
「古臭いニューナンブだもんな、最近まで」
「ライフル班だって、熊を撃つ訓練積んじゃいねぇからな。だから、うちの退役軍人に狩猟免許与えて、狩ってもらおうなんて案が出てんだそうだ」
「三八式で狩れるのか?」
「当たりどころが良きゃ、熊は殺せる。扶桑から弾を持ち込む必要があるがな。俺にも話が来てるくらいだ」
「あんたに?」
「日本の法のしがらみがないからな。2018年ごろに、知り合いのじいさんに頼まれて、ハンティングしたことがあるんだが、ハンターも高齢だろ?それで、プロの俺がハンティングした。おばの一人の夫がマタギでな。その人に教わって」
「あんた、色々いるなぁ」
「時代考えろ。俺の生まれたの、大正だぞ」
「そうだったな」
黒江は言動などが現代人だが、生まれ自体は大正の頃である。ゴルシも思い出したと言わんばかりの顔をする。令和のご時世に生きていた場合、確実に100歳超えだ。
「外国や異世界暮らしのほうが長いんだよ、俺。だから、故郷(クニ)に滅多に帰らん。俺、地元の方弁はわかるけど、使う機会無くなったからなぁ」
「九州弁なんて、ネイティブアメリカンのコードトーカー並にわからねぇぞ。まだ、北海道弁のほうがわかる」
「スペがいるからな、お前んとこ。つか、殆ど地方出身だろ、馬としては」
「馬はほとんど北海道だからなー。ウマ娘としてはバラバラだがな」
「で、お前。お前がそろそろ、クラシックってことは」
「その次のアーモンドアイの世代が新入生の段階だよ。キタサンブラックの時代は、あと数年以内。それまではあたしらの時代さ」
メタ情報を持つ故に、ゴルシは『次代の俊英』と持て囃される、ドゥラメンテの運命をそう表現する。彼女は普通に行けば、ダービー、ないしはその次のシーズンで競走生命を失う怪我を負い、その数年後に病で夭折する。刹那の栄光と引き換えに、後年まで自身の子(ウマ娘世界では、妹弟子達というべきか)らがレースを賑やかせる。ドゥラメンテ自身は名家出身であるのもあり、凱旋門賞にこだわっているが、彼女は(普通に人生を送っていれば)凱旋門賞に赴く事は出来ない。彼女の後を受けて、王者となるのが、キタサンブラックだ。
「何気に残酷な事実だぞ、それ」
「ドゥラは普通に行けば、ダービーで大怪我。それが治癒しきらずに、その次のシーズンで引退。本人の運がなきゃ、さらに数年後に亡くなる。ブライアンも似たようなもんだが、ヤツは後継を出せなかった。ドゥラメンテはまだいいほうだぞ。その後の代のエリートの少なからずはヤツの子だ」
「問題はキタサンが王者になっても、あいつは打たれ弱いことだ。史実を考えれば、ヤツに来る衰えは大きくない。あたしは最後は勝てないだろうが、ヤツはオグリの再来だ。人気もあったしな」
「達観してるな」
「最後は負けるほうが当たり前だぞ?ルドルフさえもそうだった。テイオーは『次』を願っていたが、ヤツの体が持たなかった。ラストが結果的に有馬になったが、それで、テイオーの名が後世に残った感はある。だが、オグリの奇跡は功罪入り混じるよ。あれで、『最後は勝たないと…』って風潮が年寄りの間で強まったからな。引退レースで勝てたのは、体質的に衰えが緩やかか、オグリのように、祈りが摂理をぶっ飛ばした時のみの奇跡だ」
自分は引退時に勝てなかった記憶からか、若干の自嘲が入っているゴルシ。彼女は『オグリのチームの後輩である』世界線の存在なため、偉大なるオグリの起こした奇跡の功罪をもっとも間近で見てきたと言える。ウマ娘の中でも、引退時に花道を飾れた者は指で数える程度。ルドルフでも、それは叶わなかった。ブライアンなど、(普通に行けば)キャリア後半は『三冠の栄光を頂く者にふさわしくない』と言われるほどに凋落してしまう。そのほうが当たり前。オグリ、ディープ、オルフェーヴル、ジェンティルのように、引退レースを花道で終えられるケースはシンザンの時代まで遡ってさえ、希少である。
「故に、キタサンは覇王の後継なんだよ」
「ああ、オペラオーか」
「オペラオーと違って、大衆人気はあるし、ライバルもいる。オペラオーが全盛期の頃には、アヤベは第一線から遠ざかり、トプロは伸び悩んだからな。ドドウしかいなかったからな、張り合えたの」
キタサンブラックは諸説あるものの、史実では、テイエムオペラオーを思わせる『覇王』のポジションに落ち着く。史実では、キタサンが全盛期に入る前に引退してしまったため、ドゥラメンテとの関係は『数回戦っただけ』である。ウマ娘としては『同期』故に、面識はあるらしい。
「あたしと入れ違いに、奴が本格化するだろうから、オルフェからコントレイルあたりまでの6~7年はレース界が賑やかだろうさ」
「ディープはなんと言っとる」
「早期引退で悪口言われてるの気にしてるから、凱旋門賞を数回走るくらいには、現役でいると言ってるぜ、オジキは。誰が言い出したんだとか、大いにボヤいてるぞ、件の悪口」
「凱旋門賞の失格が発表された時期からじゃないか?あの時(2005年前後)は結構荒れたからなぁ」
「それで、おフランス嫌いになったらしーのよ」
「マジ?まぁ、不名誉な記録になっちまったし、評判も落としたからな」
ゴルシの口から、ディープインパクトのキャリアで唯一の汚点になってしまった『凱旋門賞』のことは、本人も強く気にしていることが語られる。また、史上初の失格馬になった事から、ウマ娘化してからは『フランス嫌い』になっている事も併せて伝えられる。
「その本人はなんて?」
「最後に、スカーレットとウオッカをブチのめして、ドリームトロフィーにいくってさ」
「やめてさしあげろといえ。ディープインパクトなら、余裕でできるだろうけど」
ディープインパクトは全盛期のうちに、種牡馬となっている事から、ウマ娘として、その制約から解放された以上、スカーレットやウオッカの全盛期が始まる頃まで現役に留まっている可能性はある。そして、円熟を迎えているであろう切れ味があれば、スカーレットとウオッカの二人を完封しえただろうか。ウマ娘としてならば、実現しうる組み合わせだろう。
「ただ、問題はディープが三冠を取っただろ?学園の警備はどうなってんだ?」
「理事長が傭兵雇ってるらしーが、問題になんぞ?」
「はぁ?傭兵だと??私設部隊持ってんの、お前んとこの理事長」
「オグリの時代に、一度目撃されてる。ディープインパクトの報道が過熱すれば、今一度、表に出すそうだ」
「やめとけ。日本で傭兵を表に出してみろ。大スキャンダルだ。俺の名を使え。Gフォースの手空きの中隊を貸し出す。スーパー戦隊に警備頼んだら、それはそれで、マスコミが詰めかけるしな。お前のとこの協会には、ルドルフとラモーヌを使って、手引きさせとく」
「頼むぜ」
オグリキャップの引退する間際、史実では、暴動の一歩手前にいっていたともされる。ウマ娘世界では、暴徒鎮圧のため、協会とも、学園理事長の私兵ともいう、大勢の傭兵が空挺降下で投入されたとも噂される。無論、事後に大問題になったらしいことは伝わっている。そのため、黒江は(ウマ娘世界では)出どころのわからない部隊として、Gフォースの錬成中の中隊を貸し出し、ディープインパクト~オルフェーヴルの引き起こすフィーバーに備えさせようとした。暴徒化した民衆は時として、凄惨な光景を熱狂の名のもとに起こすからだ。ゴルシはそれをルドルフへ伝え、ルドルフとラモーヌはそれを更に、トレセン学園の理事長へ伝え……のリレーで協会に伝わり、シンザンはその提案を承諾。警備員に偽装される形で、かなりのGフォース隊員が送り込まれ、ウマ娘たちの身辺警護に活躍することになった。
その頃、ウマ娘世界では、新入生のアーモンドアイの手並みを確認するため、のぞみA(体はブライアン)併走させてみた。
(ふぅん。これが平成最強の女王と誉れ高い……。確か、先輩の話だと、府中専用機って揶揄されてるんだっけか)
アーモンドアイの適正距離はおそらく、2400mまで。2500mの有馬記念では勝てていないこと、グランアレグリアに遅れをとった事から、マイルと長距離に不安があるというべきだろう。先代の三冠(牝馬)であるジェンティルドンナが有馬記念を勝てているのと対照的であるが、お互いに古馬時代に勝てている(牝馬三冠は殆どが古馬時代に勝てていない)希少な競走馬である。
(全盛期のブライアンちゃんの走りに、ジュニア級の段階でついていける……。評判通りのポテンシャルらしいな)
歴代の牝馬三冠馬で、牡馬と真に対等に戦えた者は少ない。メジロラモーヌは古馬時代には体調の悪化を来たしていたし、スティルインラブは気性の荒さの顕在化で低迷。その一方で、アパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイの三頭は古馬時代でも戦績を残している。歴代の三冠でも屈指のポテンシャルであるブライアンにジュニア級の時点で追従できる時点で、アーモンドアイの伸びしろがわかる。
(ウマ娘のレースは『後半にスタミナを温存出来ていて、どの程度の加速力を出せるか』で決まる。あとはパワー。ラムタラは鍛錬でそれを得たから、種牡馬としてはコケた……)
ラムタラの種牡馬としての悲運は、ウマ娘としても、『指導者に致命的に向いていない』点で反映されていると思われる。ブライアンもだが、一代限りの強さというのも存在する。ラムタラは本人のポテンシャルと精神力で最強たりえたが、鍛錬で得た強さは『子孫に遺伝しない』。似たような経緯で強くなったミホノブルボンが(種牡馬として)苦戦したように。
(あたし、前世はいつも補欠だったからなー。小・中・高と。大学じゃ運動しなかったし。もっと走っときゃよかった。ブライアンちゃんの持つポテンシャルは一代こっきり。これも、ラムタラと似てるんだよな。)
のぞみAは前世では、一貫して帰宅部であったので、運動会や体育祭の類は(出るが)苦手であった。その事もあり、ブライアンの持つポテンシャルを引き出しきっていない(全盛期の速力を取り戻しているのを加味して、75%ほどか)。それでも、並大抵のウマ娘は余裕でぶっちぎれる。ブライアンの持つポテンシャルが歴代屈指であったためで、既に、三人は時速50キロを有に越えた速度に達している。
(就職してからも、原チャリにも乗んなかったから、スピード感に無縁だった。それが今じゃ、普段が機動兵器乗りで、今はウマ娘に成り代わってるんだから、変われば変わるもんだな)
本来、のぞみは就職後も車やオートバイと無縁であったが、転生後は戦闘機やMSなどに乗り、ついにはウマ娘を擬似体験するに至った。ウマ娘は数キロを自動車並の速度で走破できるが、筋肉の損傷の蓄積等で容易くそれを喪失する。これは『ヒトと同タイプの肉体である故に、その耐久限界を時間経過で越えてしまうから』ではないか?という疑問が呈されている。また、ヒトと同じ構造なのに、屈腱炎や繋靭帯炎と言った、馬類特有の病気を発症する謎もある。これについては、ナノマシンで筋肉そのものの強度を上げたり、波紋法で生命エネルギーを活性化することで、回避や治癒が可能であることがわかっている。また、極限まで鍛えられた精神と異能を持つのぞみAの影響で、ブライアンの体は全盛期以上の切れ味を発揮しつつある。それに余裕を持って追従できるアーモンドアイは『神に愛されし者』であることがわかる。
(直線だ。大抵のヤツはここで追いつけなくなるが……)
最後のコーナーを曲がる。自動車と違い、複雑なコースがあるわけではなく、陸上のトラック競技と同じような感覚である。人であれば、ここでだいたいは決まる。だが、アーモンドアイは見事に追従してみせた。
(適正距離なら、勝てたのが、グランアレグリアくらいだってのは……マジなようだね)
グランアレグリア。アーモンドアイの更に後の世代の競走馬で、アーモンドアイに土をつけ、マイルの絶対王者ともなった。アーモンドアイは(適性距離の範囲では)当代最強クラスであり、それをも超える力を持つのがグランアレグリアくらいしかいないあたり、彼女の非凡さがわかる。
「うーん。ブライアンちゃん、ここのところ、雰囲気違うんだよなぁ」
と、この日はトレーニングの休養日であったサクラローレルが、近くの校舎から様子を確認していた。サクラローレルは(基本的には)気のいいお姉さん気質だが、同期のナリタブライアンに脳を焼かれたらしく、ブライアン関連のことになると、変な気を起こす(他の同期の談)。とはいえ、(それ以外では)凱旋門賞への出場を一途に夢見る一面も持つなど、割に複雑な心境のウマ娘である。競走馬としては、競走生命を怪我で失ってしまった悲劇の最たる例である。
「あ!!」
マヤノトップガンがそれに気づき、ブライアン(のぞみA)にアイコンタクトを送る)。彼女も気づく。
(マズイ、見られてるな…。とはいえ、加減できない相手だから、シリアスにいくか!)
ブライアンは本来、レースと食事(肉)以外に興味を示さない。だが、のぞみAは(軍生活の習慣で)野菜は多少食べる。これは自分が過去に教師であった頃の名残りである。(家族以外には)柔らかい表情も殆ど見せない。だが、のぞみは(マスコミ対応は前世のうちに慣れていた)無難に対応し、後輩や同期に(頻度は少なくしているが)笑顔も見せる。ローレルはそこに違和感を感じているのである。とはいえ、表沙汰にすべきことでもないので、気づいていないフリをしている。つまり、ローレルはどこからか(事の次第に)なんとなく気づいていたのだ。愛のなせる業であろうか?のぞみたちも、ローレルの言動から、気づいている』のを感じており、学園が落ち着き次第、『巻き込む』ことが合議された。つまりは『引き込み』作戦である。扮したのぞみA曰く、ブライアンの本質は『純真で、臆病』とのこと。つまり、ブライアン個人の隠している本性は普段と真逆(メイショウドトウに近い)にあるということだろう。ある意味、臆病さが攻撃的な意味で発露しているというべきか。
その数秒後、三人はゴールする。アーモンドアイは最後の追い込みで、ブライアンにかなり肉薄しており、ジュニア級相当以前の状態でも、現役の古参ウマ娘の大多数を上回るポテンシャルを素で発揮することがわかった。
「どうですか、先輩」
「『完璧で究極』でも目指しとるのか、お前は?」
「ええ。私は負けずぎらいなもので」
「まぁ、お前なら成し得るかもしれんな。スティルインラブや、ラモーヌの成し得なかったことを」
「そのお二方と比べられるほどじゃ……」
「謙遜するな。貴様は鍛えればモノになる。今しばらくは自分を磨け。引退した後のことも考えてな。私など、この有様だからな」
ブライアンはレース以外の事を考えていなかった事は周知の事実なので、アーモンドアイも頷く。実際、ブライアンは生徒会で重要なポジションを担っていなければ、留年も普通にありえる出席日数であった。のぞみAはそれを回避させようと奮闘中である。
「先輩、留年がありそうなんですね?」
「うむ…。恥ずかしながらな…。低迷した時にヤケを起こしていたんだが……流石にな」
「お察しします」
「まぁ、貴様は真似するなよ?」
「は、はい」
自嘲まじりの発言に、若干の呆れが入った返事を返すアーモンドアイ。彼女は文武両道であるからだが、流石にブライアンのさぼり魔ぶりは呆れていたようだ。とはいえ、彼女も後々のデビュー後に『何度かの敗北と失策』で自棄を起こすことになり、かなり荒れてしまうのであった。また、のぞみの努力とは関係ないところで、留年のピンチなのは、ブライアンが『負のスパイラル』に陥っていた時期の名残りであり、トレーナーを(低迷を理由に、協会が解雇した)失った直後に自暴自棄を起こしていた証であった。学業にも身が入らなくなかった模様で、ゴルシやルドルフは、それに青くなり、のぞみAも思わず、腰を抜かした。そのくらいに授業に出ていなかったのである。ルドルフが卒業を待つ身になりつつあるのと対照的であった。