ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第二百三十二話「二つの世界にて 10」

結局、外圧に屈する形で扶桑皇国の軍隊の維持に同意した日本政府。日本国内では(主に左派が)非難轟々であったが、扶桑は植民地ではないので、自前の軍隊を持つ権利はある。左派は『彼らの自衛権は尊重してるぞ!だからこそ、今の侵略的な軍隊を解体し、自衛隊の一部署として、必要最低限の装備での再建を……』と傲慢不遜全開の物言いをするなど、外交的に失態を重ねた。左派は、こうした失言等で、日本連邦評議会での議席を喪失するに至る。魔女も迫害する気満々であったからだ。日本はこの事態で極端な主張をする者たちは異端と扱われ、代わりに『中道派』の者たちが主導権を握った。扶桑皇国が『戦争などは金だけがかかるが、やるしかない時はあるのだ』と、史実より遥かに穏やかな思考回路をしていたためもあり、以後の日本と扶桑の外交は『中道派』が主導権を握ることになる。

 

 

 

 

 

 

こうして、1949年の世界は、ダイ・アナザー・デイでの戦後処理を主導した国々が動かすに至った。スオムスは騒動の当事者になり、勲章の名誉も傷つけられたのみならず、鞍替えする風見鶏のレッテルを貼られ、政治的・軍事的に冬の時代に入った。ガリアは『民主共和制の負の側面をあまりに見せすぎた』との責めを受け、ペリーヌの努力も虚しく、旨味にありつくことも叶わぬ結果に終わった。ロマーニャは打撃が大きすぎ、軍の維持どころでなくなり、ブリタニアは議会主導での軍縮が決まった。扶桑は『軍隊の現状維持を認めてやったんだから、国際貢献のために過労死くらいしろ』と、日本の大衆に揶揄される立場であった。ただし、扶桑は人員削減のしすぎで、人材の空洞化が激しくなり、士官の多くを義勇兵や自衛隊の厚意で賄う有様となった。特に自衛隊が困ったのは、軽巡以上の大型砲熕式戦闘艦が生き残っているので、艦隊編成にそれらを入れなくてはならないことであった。特に、やっと空母運用を再開するのにこぎつけた段階の日本にとって、100年近く前に絶えた『水雷戦隊と戦艦部隊』の運用など、門外漢に等しかった。特に、史実と異なる造艦史を辿り、超大和型に至った世界は。八八艦隊型が陳腐化を突きつけられ、最新型での更新を余儀なくされた世界線。扶桑海軍が最も世間の罵りを受けた『呉軍港の壊滅』。呉そのものは復興しつつあるが、軍港機能は横須賀に移されている。しかも、数隻の大型戦艦に蹂躙されたという事実は『空母計画の撤回と、戦艦造艦の増加』を決定づけた。結局、空母は『ジェット機を載せられる空母に変更する』という流れで遅延しまくったため、先に戦艦のほうが完成する始末であった。旧式艦の乗員が大量に余ったため、乗員の手配に不都合はなかった。特に旧式艦は戦艦で数千人を抱えていたため、廃棄処分になった艦の乗員が万単位で余っていた故の措置であった。また、自動化で必要な乗員が減ったのも作用した。『戦艦のほうが空母より訓練時間が短いから』という、史実の裏返しのような状況も味方した。また、二式大艇が救難任務に専念させられることになり、水上機母艦の保有の必要がなくなった。人員の輸送任務も自衛隊のジェット輸送機が担当することになったからである。こうした技術革新により、空母機動部隊の規模は(ジェット機化による世代交代で)却って縮小へ向かい、潜水艦も近代化で保有数が減らされる見通しであったため、戦艦部隊は(日本連邦が政治的制約無しに)自由にあらゆる任務に供する事のできる、唯一の駒と言ってよかった。この数年で、対怪異用に研究されていた徹甲弾の多くが対艦、対戦車用に転用されたが、その成果で、扶桑海軍の攻撃力は大きく向上した。怪異の脅威度は総合的には下がったが、日本が北方戦線にまったく興味を示さなかったため、結果的に、同戦線には敗北している。これはウラジオストクより先の領土の奪還を非現実と見なしていたからであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扶桑海軍の士気が壊滅してしまったのは、日本海軍が『無惨な最期を遂げたこと』が伝えられ、自分たちが必死に研究してきた『不沈対策』は無意味であった事が突きつけられたからでもあった。それに加え、戦艦武蔵の不沈対策が(当事者の必死の弁論も虚しく)『兵隊を人間扱いしていない』と不祥事にされたからでもあった。この不祥事で、扶桑海軍の艦政本部は大混乱に陥り、幾人もの若手造船官が自刃。最後には、(提言を行った)戦艦武蔵の当直士官が失意のうちに拳銃自殺するに至った。この不祥事により、戦艦武蔵は旗艦任務と戦艦の籍に『二度と』戻れなくなった。その実質的な代替が戦艦三河であった。この不祥事により、皮肉なことに、扶桑海軍艦艇の居住性は劇的に改善していった。自衛隊と実質的に一体化して運用されていく都合もあり、艦内の私的制裁行為も鳴りを潜めていった。また、武蔵が港に降ろしたという、艦内の調度品は日本側に根こそぎ持っていかれるなど、扶桑海軍の面子丸つぶれな事件が続いた。この不祥事で扶桑海軍の在来の風土の殆どは淘汰されたが、在来の風土で教育された人員の士気が下がってしまうという事態に陥った。この時に空軍への移籍者が続出。人員を繋ぎ止める事が風土の近代化の理由であったが、最大の目的であった『宮藤芳佳』に移籍されてしまった事は『ここ数十年最大の痛恨事』として記録された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

64Fはこうした政治の思惑も作用して、唯一の『魔女による万能部隊』の性格を帯びていった。64F以外に、魔女主導の部隊が創設できなくなっていったのは、『45年八月一五日を境に、魔女の覚醒確率が大きく低下した』こと、『質が大きく落ちるようになったから』という二重苦がのしかかったからである。また、ダイ・アナザー・デイのサボタージュが大きく報じられたことで、一般魔女への視線が冷却化したことも重なり、扶桑軍全体が『前線への魔女の人員供給を義勇兵に依存する』状態に堕ちた。この有様では、ノウハウが最も維持されている64F、その補助部隊を維持するので精一杯。新規の立ち上げなどは不可能であった。第二世代式の安定化に時間を要したのもまずかった。この間に、軍隊の政治的影響力は(文民統制を盾にしての改革で)大きく低下。中小の航空産業に統廃合の波が訪れたのもあり、扶桑は自主的な開発能力が大きく低下。リベリオン製の機体の手直しが主流になっていくのである。

 

 

 

 

 

 

教育でも、軍事教練が強引に廃されたため、大量の将校がいきなりポイッとされた。この時に放り出された将校には、北郷章香も含まれる。教育現場から追い出された将校・士官の仕事先に難儀した扶桑軍は(教育制度の変革もあって)軍学校の教官にすることもなく、多くは前線の補充に使われ、あえなく散っていった。また、軍部が(騎兵科が芦毛を嫌っていた事が)理不尽に批判の対象とされ、懲罰的に予算を減らされる事態も起こったため、陸軍の前線では、鹵獲品の再利用が相次いだ。特に、U.S.M1カービン、トンプソン・サブマシンガン等は広く用いられた。この事態が中央に把握されたのは、1949年の初秋。扶桑制式の武器の供給が滞った故の妥協策だと、現地部隊から説明され、中央もやむなく認めた。64Fは自前の武器供給網を持つが、他はそうではないのだ。結局、自由リベリオンからそれらの追加購入と弾薬一式の生産ライセンス取得などの『余計な苦労』を伴ったが、扶桑陸軍の主力小銃の近代化はこうして、端緒についた。

 

 

 

 

 

 

この承認はマタギ等の文化が(国土や風土の近代化で)衰退へ向かうことを見越してのものであった。扶桑陸海軍の魔女は、他国で進む『小銃の自動化』に反対である事が多かったが、小銃の一発で仕留められる怪異の絶滅、航空機関砲の手持ち化の進展などに押されていった。皮肉にも、その筆頭と見なされていた加藤武子が『自動化はやむなし』との結論を出したことで、この流れは止められなくなった。敵が怪異から『40トン以上もある鉄の怪物』(大戦末期以降の重戦車)に移行しつつある故で、カールスラントの生産していた中で最新の『パンターⅡ』装甲脚でさえも『火力が心もとない』と評される時代を迎え、連合軍はやむなく、ストライカーユニットの陸空での大火力化を促進させた。早晩に105ミリから120ミリ砲が飛び交う時代に入ると思われるからだった……。

 

 

 

 

 

 

 

64Fがそれほど、武器の強化に熱心でないのは、既に『人間サイズで使える限界点』を極めていたからでもあった。ヒーローユニオンから『レスキューポリスの遺産』を受け取っていたからだ。

 

 

「あの、隊長。これは」

 

「レスキューポリスの遺産よ。ドラえもんのいる世界の日本がバブル景気の頃に贅を尽くして造った超兵器」

 

それはヒーローユニオンから譲渡された『ギガストリーマー』、『パイルトルネード』、『ヘビーサイクロン』。その三つの超重火器であった。特警ウインスペクターからの三代のレスキューポリスが用いていたものだ。

 

 

「バブル景気の頃、ですか?」

 

「学園都市が裏で手を引いていたのだけど、その頃の日本は重犯罪が多発していたのよ。その対応策で生まれたのが、この超兵器。造られた時代は1990年代始めだけど、その威力は、23世紀の世界でも充分に実用に耐えるらしいわ。とりあえず、遺産として譲渡されたから、使ってみて」

 

「絵面としちゃ、アンバランスですけど。でも、なんで再結成させないんですか」

 

「21世紀の日本の若者の体力じゃ、当時に使われたパワードスーツに耐えられるかどうか。そういう問題が起こったらしいわ。昭和末期に若かった世代のように、『精神力』で装着時間を持たせる事ができない。それが懸念されたらしいのよ」

 

ウインスペクター~ソルブレインの頃のスーツは装着可能時間が30分以内と、(21世紀の基準で言えば)短時間であった。それを精神力で伸ばすには、相当な鍛錬が必要だが、平成末期~令和の時代の若者にそれを期待するほうが間違っているという判断で、(辛うじて)保管されていたスーツの再利用等はなされなかった。(平成初期に、ソルブレインのスーツの量産化が決まっていたが、程なくして起こった『バブル崩壊』で撤回されたという)そして、レスキューポリスそのものが平成の後期に入る頃に、野党の突き上げで解散に追い込まれたので、その三つは行方不明と扱われていた。実際は有志がいつの頃かに回収して保管しており、それが(無知な遺族の手で)放出されたのを、野比財団が23世紀までに回収し、最終的に譲渡されたのである。21世紀では、扶桑との交流で、『必要な時に狩猟できる人間をどう確保するのか』という問題が(少子高齢社会で)現実問題となっており、(退役した扶桑軍人に狩猟免許を特別に与えるべきかという問題もあって)ハンターの確保の難しさと高齢化が社会問題になっており、まだ若く、引退後の生活も金銭的に保証されている扶桑軍人たちを雇うべきか?という議論が活発化する。日本警察は銃刀法のさらなる厳格化を進めているため、それに事実上縛られない扶桑軍人を疎んじていたが、公安委員会の不手際等でハンターが出動を拒否する事態が起こったため、熊を数撃で仕留められる軍用小銃(ボルトアクションライフル)を自己所有する場合の多い扶桑軍人を雇う市町村が続出した。扶桑軍人、それも魔女出身者は(マタギの家系出身も多いので)精密狙撃の名手である事が多く、発砲機会がそもそも少ない日本の警察官やハンターより迅速かつ、安全に処理できる。その利点が認識されたわけだが……。

 

 

「こいつの説明だけど、これ以上してる暇がなくなったわ」

 

「なんでです?」

 

「日本の東北の市町村から、熊の狩猟依頼が舞い込んできてね。小遣い稼ぎがてらに、出張の命令が下ったわ。私なら、すぐに三発を脳天にぶち込めるからって」

 

武子は元々、屯田兵やマタギを輩出してきた家系の出であるので、狙撃兵と同等の技量を持つ。それが買われたのである。

 

「私は親類にマタギが多い家系でね。それもあるんでしょう。それに、智子の一件で上層部に責任押しつける流れになったから、気まずくてね」

 

 

智子がスオムス送りになった原因は若手時代(未覚醒状態)の自分の進言だが、軍全体のスキャンダルに絡んでしまった以上、それをなかったことにする過程で、当時の人事部に全責任を押しつけるしかなかった。武子はキュアフローラに言う。

 

「今となっては、若い頃の判断を悔やむことも多いわ。今の役職を引き受けたのも、その償い。多分、転生者や転移者を抱え込んだ以上、私は参謀本部付けにはならないでしょうね。何せ、加藤隼戦闘隊の隊長だもの」

 

武子は別次元の自分にあたる存在が死後も軍神として、軍のプロパガンダに使われた事を知ったためか、統合参謀本部へのさらなる栄転は諦めていた。本来は教官志望であったらしいが、前世の記憶や人格の全てが覚醒したことなどを原因に、『前線で使い倒されたほうが幸せだろう』と考えを変えた。黒江たちと同じ立場になった以上、教官や参謀に(厄介者扱いで)なれない事を理解していたのだ。

 

「と、いうわけで、留守番は頼んだわ」

 

「は、はい」

 

と、多少の愚痴をこぼしつつ、武子は出かけていった。この場合、隊の運営は圭子や黒江の担当だが、二人は遠征中なので、残留組が持ち回りで担当する。64Fは大世帯だが、運営は実質的に、少数の幹部たちの合議で決まる。そのほうが上層部に円滑に話が通るからである。通常の方法での人員補充が不可能である以上、歴代プリキュア等を現地スカウトするなどの方法が取られているからだ。

 

 

 

 

――食堂にて――

 

「なんか、変な流れになってますね、マーメイド」

 

「仕方がないわ。私はこの世界への転生者で、しかも、祖父の代から軍隊にいる家系。投げ出すわけにもいかないから、軍隊にいるの。この時代、中途退役は『落伍者』として扱われるからってのもあるけど」

 

キュアマーメイドは転生者であるので、扶桑の名家の息女である。日本の評論家などは『退役』を薦めているが、武人が尊ばれる扶桑では、中途退役は(如何な身分の出であろうが)落伍者と扱われるため、否応なしに定年まで勤め上げる必要が(家のために)あるのだ。

 

「父は少将、祖父が退役中将ってのも辛いわよ?」

 

「そ、それは……」

 

「だから、海軍から移ったのよ。親と祖父の七光りだと言われるから」

 

とはいえ、竹井醇子の祖父である『竹井退役中将』(昭和天皇のねぎらいで名誉昇進)はこの時期には『老いと病で、10年以内の往生が見えてきた』状態であり、魔女兵科もそれを以て解消の見通しであった。64Fは軍に残る腕利き魔女の(兵科解消後も想定しての)保護所というのも、存在意義である。

 

「ドリーム……、ここのキュアドリームはチートしてるって聞いたけれど、どうしてです?」

 

「色々あってね。一言じゃ語れないのよ。力を求めた結果、聖闘士になったし」

 

「聖闘士って、昔、少年ジャ◯プでやってた?」

 

「そうそう。それよ。うちの部隊、最低でも白銀以上の階級を得てる幹部は多いわよ」

 

「え~~!?」

 

「それに、因果律操作やら、空間支配……。私たちの小手先の力なんて、幼稚園のお遊戯よ」

 

「人外魔境じゃないですか!?」

 

「あたしたちが言う台詞じゃないけどね」

 

「ラブリー……」

 

「久しぶり。遠征から戻ってきたよ。最も、いいところなく、ベットで唸る羽目になったけど」

 

ラブリーは仮面ライダー三号の最初の襲撃で最強形態になったが、あえなく返り討ち(加速装置を使われた)に遭っていた。三号の異常な戦闘力(黄金聖闘士の攻撃に用意に対処できる)を際立たせる『引き立て役』になってしまったが。

 

「極限まで突き詰められた機能持ちの改造人間には、スペック頼りだと、手もなく捻られるよ。おかげで、プリキュアの状態で、数週間もベットで唸る羽目になったよ。それで、のぞみちゃんは求めたんだ。揺るぎない力を」

 

「揺るぎない力?」

 

「うん。マーメイド、あたしから説明していいかな」

 

「頼むわ」

 

キュアラブリーの治りきっていない片腕からは痛々しさが感じられる。フローラの隣の席に座る。

 

「ここは曲がりなりにも、軍隊だからね。マーメイドやドリームは、軍隊の将校が素体になる形で生まれ変わった。だから、転生先の家での立場ってのがあるんだ」

 

「大人の世界の理屈だけど、そうだよね」

 

「そうなのよ。家に気を使うのも疲れるわ。まぁ、周囲の大人にあまりへーこらしなくていいのは楽だけど」

 

マーメイドは現役時代には、良家の令嬢であった。その時は常に周囲に気を配ってなければならなかったので、軍の階級(この時点では、中佐)を言えば、扶桑の一般人は瞬時にかしこまり、下士官以下は怯える。日本系国家の軍隊は基本的に、将校と下士官以下との間に隔絶された扱いの差があるからである。そんな社会は(ある意味では)気が楽である。

 

「いつの時代も、良家に生まれたら、生まれたらで苦労するのよね……」

 

キュアマーメイドは生まれ変わっても良家の出、今度は武人の家系に生まれてしまった苦労を肌に染みて実感していた。それも古い時代に転生してしまった故に、しがらみが多いからだ。

 

「学生時代からの親友も、今は学歴の度合いを上げようと苦労してるけど、この国の人間達の変わり身の早さは正直、対応しきれない時があるわ」

 

 

「それがこの国(日本連邦)の生き残ってきた理由だと思うよ」

 

と、世知辛い話になる。キュアマーメイド(海藤みなみ=竹井醇子)の親友であった坂本はこの時期、第一子が生まれたばかりだが、未来技術を用いてのオンライン講義等で、日本の高等学校卒業程度認定試験の勉強をしている。坂本は(時代的に仕方がないのだが)付属小学校からの繰り上げ卒業で任官されている。これからは『まともな教育も受けていないゴロツキ』と見なされる危険が大きいため、日本で大学に通う魔女が増えている。坂本がその旗振り役である。21世紀の日本の『高校・大学を出ていないと、社会的に不利に追い込まれる』という常識が扶桑にも入り込んできているからである。これは扶桑の農村部を急速に衰退に追い込む理由であり、軍部が食料品の自主生産を決意する理由となる。

 

「世知辛い話だなぁ……」

 

「もっと怖いのは、この世界の他の国だよ。フィンランドなんて、21世紀での炎上のせいで、この世界で経済制裁されて、死にそうになってるし、ドイツはナチス関連のあれこれで、国がかき回されて、民族存亡の危機に追い込まれてる。まともに生活できるの、日本と英国くらいなもんだよ」

 

キュアラブリーの口から、魔女の世界の国際秩序は完全に崩壊。残された大国が二カ国のみという有様であることが語られる。スオムスは必死の努力を同位国に水の泡にされ、結局は強力な経済制裁を食らい、国が滅びそうになっている事、もはや欧州の権力はブリタニアが、東洋は日本連邦。この二カ国の手の中にある。義勇兵の血気盛んさはこの体制の構築に一役買ったわけだ。

 

 

「この世界は織田家の武士団が欧州を荒らし回ったから、遺伝子レベルで恐怖が染み付いてるのよ。それをこの時代に呼び起こすマネをドイツがしてしまってね。彼らは欧州中で針の筵。その原因になった士官とは知り合いだったから、かわいそうだけど、対応が遅すぎたのよね」

 

キュアマーメイドのいう通り、扶桑は武士団が遠征で暴れまくった歴史を持つ。そのため、史実ほど『舶来コンプレックス』がない(ブリタニア経由で新技術が入るためも大きい)。だが、日本と交わったことで、欧州の『裏の顔』を知ってしまった扶桑皇国臣民が激昂してしまい、いくつもの国が滅亡寸前に追い込まれた。実際に、ミーナは事の重大さを悟った後は、扱いの改善を直ちに決めていたが、迅速に事態が進展したことで、完全にスケープゴートにされた感の否めない顛末を迎えた。501をダイ・アナザー・デイの要にせんとしていたのを、64Fの復活に変更されたのは、扶桑からの抗議に、カールスラントが完全に折れたからでもある。ハルトマン達が居残ったのは、カールスラント軍なりの『お詫び』代わりの人事であったのである。結果的に、異能者を多数確保できたので、扶桑は大バンザイ……というわけにもいかず、結局は魔女の内部対立がこじれた挙句、黒江たちに依存する有様に追い込まれている。

 

「あの事件、その後にどうなったっけ?」

 

「ドイツとアメリカの仲介で、当事者の確認ミスによる手違いってことで落ち着いたわ。当事者への厳罰付きで。人種差別も疑われたけど、単純に思い込みだったから、処刑や不名誉除隊は免れたわ。ただし、二階級降格と当面の間の人事部預かり。あなたの加入手続が終わったのは、その後」

 

米独の仲介で、カールスラントは莫大な賠償金の支払いと人材の提供という実害だけで(ミーナの一件は)済んだが、独の介入が最高潮に達し、帝国は実質の崩壊を迎えた。この時に連合軍のかなりの将校が失脚させられたため、四年の間に、日本連邦の幕僚と米英軍将校がかなり増加している。ハルトマンやバルクホルン、ルーデル、マルセイユは『政治的に厄介者だが、戦場でとんでもなく強いから』という理由で、軍に留まれたに過ぎない。そのため、彼女らの残りのキャリアの大半は日本連邦で刻まれることになった。とはいえ、扶桑も生え抜きがクーデターを起こしたせいで、ベテランと新人という歪な人員構成になってしまった部隊が続出。結局はそれらは統廃合で、64Fに大半が飲み込まれていった。

 

 

 

「ラブリーはどうして、この世界に?」

 

「自分の世界での使命が終わったってのもあるけど、のぞみちゃんに個人的な恩義があってね」

 

と、理由を簡潔に述べる。歴代のプリキュアは色々な理由で集められたわけだが、ラブリーのように、恩を返すためという理由で、自主的に参加したケースもある。また、プリンセスプリキュアのように、ある特定のメンバーのみがいないこともある。国家どころか、一つの世界全体が絶体絶命の危機に陥った故に、集められた説も出ている。完全にランダムであった故に、魔女の世界にいた魔女からの覚醒者は多くない。その中で、魔女としての才はキュアハッピー(宮藤芳佳)が飛び抜けているが、個人としての戦闘技能自体は(現役時代が長いおかげもあり)のぞみが最も熟れていることもわかった。

 

「上には上がいて、あたしらが最強形態で束になっても、あっさり返り討ちに遭ったこともある。だから、揺るぎない力を求めたんだよね、のぞみちゃんは」

 

「ええ」

 

「そんなことが……」

 

「あなたがどこかの世界で見たという、超巨大なゲッターロボ……。あんな力をね」

 

この時、キュアフローラの脳裏に、流竜馬(無論、フローラは知らないが)の声で響き渡った『世界を震撼させる』叫びが木霊した。

 

――チェーンジッ!!ゲッター天(ワン)ッ!!――

 

 

「あのロボットみたいな?」

 

「ええ。既にその一端を身につけているわ、あの子は」

 

「どういうことです、マーメイド」

 

「遠征先から送られてきた手紙(扶桑内部のあれこれの回避のために、使用言語は英語である)に同封されていた写真よ」

 

それは、ノワールフォームという『通常はありえない可能性』の具現化。真ゲッターロボを思わせる翼、コスチュームの基本形は保ちつつも、色合いは完全に黒が主体になっている。ダークプリキュアではないが、黒をコスチュームにするのは聞いたことがない。

 

 

「この姿が……」

 

「最強のゲッターロボと名高い『真ゲッターロボ』の力を宿した姿。ノワールフォーム。私たちは便宜的に、そう呼んでいるわ」

 

「つか、手紙がなんで英語なんです?」

 

「陸軍と内務省の一部の極右勢力が検閲を復活させろって、うるさくほざいてるのよ。そういった連中の目を誤魔化すために、筆記体の英語でやりとりするのよ」

 

この時期でも、日本の公安は憂さ晴らし代わりに、軍人の思想調査と摘発に燃えており、そのせいで、扶桑軍隊は士官(将校)不足に悩まされていた。結局、警察は64Fしか『まともに戦闘行動のできる魔女でローテーションを組める部隊がいない』ように追い込んだわけである。皮肉なことに、64Fが日本連邦の評議会直属にされたのは、軍の暴走抑止も兼ねてのものであった。問題は『大国相手の戦争中なのに、国での権力闘争に燃えている』ことである。

 

「21世紀の人間には読めないのよ、この表記だとね。日本の警察は既得権益を崩されることに怯えててね。軍隊を土木作業員だと思ってるのよね。だから、管理能力が必要とされる士官を平気でクビにする。で、いざ火の粉がふりかかると、こっちに怒鳴り散らすしかしない。だから、熊相手にしてやられるのよね」

 

「熊、ですか」

 

「2020年を過ぎると、気候変動で熊が冬眠しないとか、あるのよ。それで、時代的にマタギも減ってきたから、警察が退治しようとしても、法律の壁がある。だから、私たちに声がかかるのよねぇ」

 

「まぁ、私たちなら、素で熊と戦えるから」

 

日本の気候変動により、熊の駆除を依頼されることも多くなったという64F。マタギが絶えそうな21世紀、狩猟免許も取得が難しいため、予算もない市町村は64Fの勇者らに駆除の依頼をしてくるようになった。

 

「2018~9年頃からかしら。熊が人里に出るようになった上に、害が許容範囲を超えてきたから、退治してくれって要請がされたの」

 

「そのくらいだね。でも、熊の肉って、個体に寄るんだよねぇ」

 

歴代プリキュアに泣きつくほど、熊による実害がひどくなったこと、ハンターの高齢化が顕著になった時代が2020年代の状況。また、異常な突然変異を起こした個体は銃弾を寄せ付けず、プリキュア達と壮絶な死闘を展開できる生命力を持ったモノもいたと、キュアマーメイドはいう。

 

「嘘ぉ、私たちとまともに戦える熊が!?」

 

「偶発的に生まれた、ヒグマと他のハイブリッドの個体がいたのよ。そいつが地域の人食いグマ共を配下に収めて、一大軍団を作って、東北を恐怖のどん底に陥れた。ハンターが次々に狩られて、討伐の機動隊も返り討ちで全滅する有様。それで、日本の法律に触れない私達にお鉢が回ってきたのよ」

 

「お父さんが持ってた漫画みたいな話……」

 

「小説より奇なりっていうでしょ?」

 

 

プリキュア達が軍務の一環という体裁で、熊退治に駆り出された最初の事件。日本警察最大の恥辱かつ、プリキュア達の公の公務としての大手柄とも言われる『人食い熊の大軍団との対峙』。その一部始終が語られ始める。

 

 

 

 

 

 

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