――結局、扶桑皇国は大きく目減りさせられた士官と下士官層の多くを義勇兵で埋める事になった。特に航空部門の減り方は致命的であったため、カールスラントを始めとした欧州の軍隊を追い出された熟練者達を受け入れるのが手っ取り早かった。扶桑の航空要員の育成増加等はどう考えても、数年以内には間に合わないからだ。特に日本側が懸念したのが、レシプロ機の感覚でジェット機を扱おうとすることであった。そのため、扶桑の既存レシプロ機の操縦桿と武器発射機構をジェット戦闘機と統一する(スロットルレバーの把柄をジェット戦闘機と同じ方式へ変更。これは扶桑生え抜きの将兵から文句が出たが、発射機構の違いはジェット戦闘機への機種変更に支障を来す他、ジェットエンジンはレシプロ機のようなラフなスロットル操作はエンジン故障のもとであることの啓蒙、操縦桿に引き金がついていれば、片腕のパイロットの復帰に寄与することから)改造がダイ・アナザー・デイで進められた。無惨な敗戦の史実を振りかざされれば、軍関係者、特に技術者はぐうの音も出なかったのである――
結局、扶桑軍独自の風習等はダイ・アナザー・デイを契機に、消滅に向かった。怪異が未来兵器と異能者に封殺され、時勢が戦争の大規模化による育成の大量・短期間化へ向かったからである。坂本も『前』と異なり、それに反対しなかったことから、魔女の必須課程を除いた航空兵科は短期課程が当たり前となった。戦間期にジェット練習機が普及したため、多少は長期化した。ダイ・アナザー・デイはジェット戦闘機の登場に伴う変革の時期であったのだ。F-86の改造型(アフターバーナー装備と後期の一部の型のみであった20ミリ機銃装備へ変更)は日の丸の国籍表記以外はリベリオン軍と共通のカラーであった。これは旧軍のカラーリングへの変更に日本の政治側が難色を示したからである。そんなゴタゴタはあったが、F-86はダイ・アナザー・デイの二週目に、第一陣が(元空自の義勇兵の手で)実戦投入。以後は主に、既に手慣れた空自出身の義勇兵に使われ、ミサイルも次第に装備されていった。旧来の野戦飛行場は使えないので、コンクリート造の滑走路完備の飛行場が用意されていき、次第に欧州レシプロ機は(航続距離の問題で)淘汰されていった。日本型レシプロ機は(あまりに格闘戦特化であったので)欧州のパイロットには回せないため、彼らは在来の兵器が消耗した後は、F-86の補充を受けることになった。これは欧州型レシプロ機の多くが生産中止に追い込まれたからで、大半の期間で日本連邦の足手まといになるだけ。故に、日本連邦が『魔女の世界の覇者』になっていくのである。
本来は戦えぬ魔女の行き場と想定していたルミナスウィッチーズだが、扶桑が世界の覇権を握った影響で、その活動は大幅に限定されていた。そのため、戦いに全てを費やす日本連邦への非難も大きかったが、本土に攻め込まれれば、史実の惨禍の繰り返しになる以上、日本連邦としては死活問題であり、逆に援軍をとっとと寄越せと怒鳴り返される出来事が多発した。カールスラント軍の物資と人員はこの時に『ポーズ』として活用され、半分は『死んでこい』も同然の見切り発車で送り出されていった。ルミナスウィッチーズも半分は推進していた士官を納得させるための設立であった。
「ルミナスウィッチーズはどうして、扶桑で公演できないのです」
「老人たちが騒ぐからだよ。彼の国の老人たちは自分の親世代から教えられたブシドーをまだ信じている。君は武士という存在を知らんだろうから、そんなことが言えるのだ」
ルミナスウィッチーズは扶桑を避ける形で公演している。これは老人たちの『貴重な魔女に曲芸させている』というクレームを避けるためだ。
「扶桑の老人たちは気が短い者も多い。財政的衰弱で、我々が援軍を送らない事も理解を得られていないのだ。東洋には、触らぬ神に祟りなしという諺があるが、君もそれを学び給え。ミーナ中佐のようになりたいのか」
「……」
「わかればよろしい」
ルミナスウィッチーズ隊長のグレイス・メイトランド・スチュワード少佐は悔しそうであった。日本連邦が覇権を握った影響で、非戦闘ウィッチの居場所が狭まったからだが、日本連邦が倒れれば、ティターンズの支配が決定的になってしまう。また、部下を誹謗中傷等から守るため、彼女は現役に復帰して、戦果を挙げている。対外的には『戦技研究班』とされているからだ。こういう形でしか隊を実現出来なかったところに、世界の命運を握る死闘になりつつある太平洋戦争の情勢が、慰問専門であるルミナスウィッチーズの活動に影を落としていた。
「扶桑の上級の魔女はなんなのです?」
「今、扶桑を裏で動かしている連中は、正直言って、バケモノだよ。ありとあらゆる分野で一流、それでいて、一騎当千の強者だ。口の悪い連中は『太平洋は連中に任せて、今のうちに国を立て直せ』なんて声まである。しかし、日本連邦だけ戦わせると、戦後に太平洋の権益に何も口出しできなくなってしまう。故に、君に戻ってもらったのだ。そうなら、終戦後に、君の隊が(扶桑で)公演できる余地が生まれる」
結局、連合軍の影響力はその構成国が権益を争い合う形で衰退していくことになり、真面目に戦う日本連邦の外征の方便と化していく。扶桑はこの教訓で、地球連邦政府による統一を目指し始める。ドラえもん世界と違い、他国の財政的衰弱が進み、日本連邦の軍事力が冷戦後も依然として突出していたことにより、統合戦争も小規模なものとなり、迅速に統一は進む。そして、21世紀を過ぎた後は日本連邦主導のもと、人類の生存のために、宇宙開発に狂奔していくのであった。
問題の一つは、扶桑で自衛隊員が戦死した場合はどうなるのかというもの。のぞみの一件以来、ゴタゴタを避けたい日本政府は『扶桑で戦死した場合は、扶桑政府の裁量で恩給等の支給を行える』とした。戦後の日本人は近代の軍人をとかく悪役にしがちであるが、扶桑では、武人が尊ばれていることの妥協的な兼ね合いであった。また、日本では戦争遺族の高齢化などで慰霊碑も撤去され始めていたが、扶桑との国交樹立でそれができなくなっている。これは扶桑軍人が見に来るからで、彼らへ粗雑な扱いをする=外交問題になってしまうため、のぞみの一件以降、扶桑軍人は腫れ物扱いに等しくなっている。そんな風潮で不利益を被った者達が、裏で利敵行為を働いていたりするのだ。その一方で、扶桑のもたらした富と人員で日本の景況感が改善されたのも事実であったので、日本連邦の解消論は出てこない。自衛隊の余剰武器を与えたいという思惑が扶桑の独自戦略で潰えた後は、そうした動きが増えている。彼らが恐れたのは、ガンダムやバルキリーが自分たちに向けられることであったが、64Fとその支援部隊が独占しているので、その心配は杞憂であった。さらに、扶桑の戦艦は『核兵器に耐えられる』。扶桑の体制を(敗戦を理由に)転換させようとする勢力は連合艦隊や64Fに無理難題を押し付け、その間に陸軍主力を粉砕させようとしたが、扶桑軍は史実の日本軍が嘘のように近代化されていたという事実があった。結局、そんな政治的暗闘もあり、太平洋戦争は長引いているのである。
のび太とドラえもんが静香に教えなかったことはもうひとつある。それは『キー坊のいた植物星は23世紀までに白色彗星帝国か、はぐれゼントラーディに無惨に滅ぼされ、その衛星にごく僅かな生き残りがいるのみ』という事実である。植物星も抵抗はしたものと思われるが、圧倒的軍事力に屈伏させられ、国をあっけなく滅ぼされた。当然、そこにいた『天上人』も全滅か、それに近い有様に陥ったと思われる。それを知った地球連邦軍は『白色彗星帝国は殲滅あるのみ』と決意し、「オトナ~」世界を舞台に、最終決戦を挑んだのである。地球連邦軍はのび太達からもたらされた、あらゆるメタ情報を基に、来たるイルミダスとの戦争に備えようとした。また、20世紀半ばに現れたという『ゴジラ』らしき怪獣への対策も(念のために)進めた。ある意味、21世紀日本でフィクションとされていたものの多くが裏で『本当に起こっていた』というべきだろう。
『植物星の壊滅』は地球連邦軍の探査船団が偶発的にその空域に到達したことで判明した。その衛星に逃れた『数十万程度』の生き残りは民族の元々のアイデンティティも失い始めていたことから、22世紀中盤以前の頃に滅んだと推測された。全盛期には星間文明であった植物星が容易く滅び、その生き残りが原始的な暮らしへ退化してしまう点は、星間戦争の厳しさの表れであった。他の空域にも生き残りがいる可能性があったが、折しもボラー連邦と地球の関係が悪化しつつあった時期にあたり、その国境線近くの星であったのが災いし、それ以上の探査は見送られた。地球連邦は(バード星の弱体化もあって)銀河連邦の主要国になっていくが、その過程で時代錯誤の思想(地球でいえば、ソ連型共産主義に近い)を信奉するボラー連邦との対立は避けられなかったのである。それまでに白色彗星帝国の残党を始末しておきたいというのが、地球連邦軍の本音であった。また、ピリカ星も地球からそれほど離れていない空域にあったのが確認されたので、地球連邦はその彼らの庇護のためにも、強大な軍事力を持つことを使命とするのである…。
のぞみAはブライアンとしての生活にも慣れてきていた。また、気質の差によりブライアン本人より穏やかな態度を取るので、周囲から(ある意味では)ウケが良かった。これはブライアンは全盛期に孤高を気取ったために、周囲から孤立気味であったためで、ある意味、日本人の本質を表す事例であった。
「だいぶ、この生活にも慣れたよ」
「しかし、よく単位を取れましたね」
「大昔に教師だったからね。それに、今は戦前期の陸士をいい成績で出てるんだ。今さら、戦後の高校レベルは屁じゃないさ」
のぞみAは転生後、覚醒前に陸士を出ているので、並大抵の文系の大学生(戦後レベル)は目じゃない(実は前世、教育学部の卒論でえらい目にあったが)。また、この時点では聖闘士なので、肉体が他人のものであろうと、現役時代を遥かに凌ぐ戦闘能力を発揮できる。
「昔、親父が付き合い程度に競馬してたけど、まさか、自分が(形は違えど)その世界の当事者になるとは思ってもみなかったよ」
ブライアンは史実では復調は叶わぬままであったが、のぞみの尽力で、王者に返り咲きつつあった。
「私もよ。まさか、高校生活をこんな形で体験するなんて」
同じく、キュアアクアこと、水無月かれんもジェンティルドンナと入れ替わった。こちらは現役時代からの転移者であるので、本人としては、まだ『中三』であったが、それが『高三』の生活をさせられているので、かなり大変であった。
「いいじゃないですか、かれんさんは元々、家柄の関係で、それなりに競馬の知識あったんですから。あたしなんて、ズブの素人だったんですから」
「まぁ、大学はバラバラになる運命だったっていうけど、まさかこんな形であなたと高校生活をするなんて。私は現役時代から来てるから、最初からしてみたかったわね」
かれんは本来(医師の道を歩んだため、史実ではバラバラの進学先になった)、現役時代から直接呼ばれたため、中学生であった。体感時間で言えば充分に高校生になっているが、重要イベント無しに高校生活は抵抗があるようだった。とはいえきっちりとレースは勝っており、ジェンティルドンナ本人と同様に『資産家の令嬢』(かれんの場合は音楽家)でありながらの運動神経の良さを持っていたわけだ。ただし、親と違う道に入るのは、本人もかなり後ろめたさがあったのも事実だ。
「その割には、レース勝ってるでしょう。しかも、余裕で」
「この子(ジェンティルドンナ)のポテンシャルが高かったおかげよ。それに私は元々あれこれ習い事していたから、陸上競技のセオリーガン無視の姿勢で時速70キロを出せる貴方達のほうが信じられないわ」
「その代わりに全盛期は本来、ものすごく短いのが我々なのです。水無月氏」
ルドルフは対外的には生徒会長を退いているが、実際には理事会の要請で『院政』を引いていた。キングヘイローの失踪の責任を取ったためだが、理事会が退任を認めなかった。だがルドルフは既に高等部卒業を控える年頃であり、いい加減に対外的意味での後継を決めないと対外的にまずかった。その兼ね合いであった。
「貴方にはトリプルティアラを目指してもらいます。同世代にはヴィルシーナしか太刀打ちしえるウマ娘はおりませんので、比較的に楽かと」
と、ルドルフは事実を述べる。ゴルシとジェンティルの世代は大物が多いが、ジェンティルに同路線で太刀打ちしえた者はいない。ゴルシは親友のジャスタウェイなど、ライバルも実は多いのだが、ジェンティルは同世代の最強格の一角であったので、敵があまりいない。上の世代もひっくるめなくてはならぬほどに。
「それ、何気に残酷よ?」
「しかし、紛れもない事実です」
この会話によりこの年、ゴルシ世代がクラシック期であることがわかる。1個上のオルフェーヴルがシニア級を迎えたのもこの年。だがオルフェーヴルは(ブライアンが絶頂期の能力で立ちふさがったことで)思わぬ敗北(僅差だが)を味わう羽目に陥っていた。
「とはいえよくオルフェーヴル相手に勝てましたね、夢原氏」
「先輩やゴルシから暴君のことは聞いたからね。あの青二才はパワータイプには弱いから、そこで攻めた」
オルフェーヴルは史実では、ブライアンの時代から20年近く後の競走馬である。実際にウマ娘としても年下であるのだが、それとは別にオルフェーヴルの(どこぞの英雄王じみた)不遜な物言いにのぞみはムカついたらしく、(わざと)『青二才』と呼んだ。それでレースに勝ってみせるのだから、絶頂期のナリタブライアンの速力は(成長途上の時期の)オルフェーヴルをも超えていたことがわかる。最も、オルフェーヴルはパワータイプではないというお互いの相性も関係したが。
「それに、ああいうキャラは学生の時とかの若い時だから許されるんであって、大人になると痛い目で見られるもとだ。いっぺんは灸を添えたくてさ」
のぞみ自身が前世の青年期、学生の時のように振る舞えず、精神的に疲弊した経験持ちなため、オルフェーヴルに灸を添えたかったらしい。
「新世代が旧世代を超えるのは、実際にはめったにないもんさ。競馬を見たって、オグリちゃんの一個後の世代がそうだし、他のスポーツでも黄金世代が終わった後には『谷間』が来るもんだ。うちの親父、読売ジャイア◯ツのファンでさ」
のぞみも、父親から読売ジャイア◯ツの黄金世代が引退して、その次のスターが現れるまでの低迷期を聞かされたらしく、その手の議論には一家言あるようであった。(前世での)父親を『親父』と呼ぶのは、女性であっても『よくあること』である)
「まぁ、かなりのギリチョンだったけど」
「夢原氏、それは……」
「あたしの現役時代でも、まだ使ってるのいたけどね」
のぞみは、2020年代には大人になっている人間であるので、言葉のセンスは現役時代で止まっている。更に言えば、流行に乗れているわけでもないため、親世代から聞いた言葉を使っている面がある。
「2020年代にそれは古いかと」
「そー?とはいえ、最近の子のパリピ語はわかんないしなぁ」
「多少不遜な物言いがブライアンらしいかと」
のぞみは前世での学生時代が2015年までであった関係で、それ以降に生まれた『パリピ語』はまったくわからない。幸い、ブライアンはそういうものに興味はない気質なのが救いか。
「この間の新春杯はお見事でした」
「いやぁ、オルフェーヴルが成長途上だったからね。全盛期に突入した後なら、わからないと思う」
オルフェーヴルはピークアウトが明確ではないのが史実であったので、彼女が成熟した後に戦えば自分が不利であると、のぞみは明言する。これは『ブライアンズタイム産駒はピークアウトが起きると、ガクンとパフォーマンスが低下する』という弱点が多くの場合で見られたのに対し、サンデーサイレンスとその子孫らは、ピークアウト後も一定の能力値を保つ』という明確な差があったからである。
「オルフェーヴルはそれほどの?」
「凱旋門賞を二回も二着になる野郎だよ」
「つまり、彼女をしても?」
「ディープで無理だったのが、オルフェーヴルにできると?」
「……」
凱旋門賞は鬼門。サトノダイヤモンドは出走がもとで精彩を欠くようになる運命であるし、ディープインパクトは経歴に傷がつく。ディープインパクトが遠征を嫌がっているのは、前世で死後も残った『偽りの英雄』という中傷の記憶があるからだ。
「協会は行かせたがってるけど、ディープは行くまい。代わりに、オルフェを行かせようとするだろうが、私が行ったほうがいい。因果に縛られないから、勝てる可能性がある。今年の春にでも、海外遠征の表明をする」
「言語は大丈夫で?」
「本当の仕事の関係で、欧州の主要な言語は使えるからね。崩し文字も読める。士官学校で習った」
のぞみAは仕事柄、欧州の主要な言語はあらかた使えるので、凱旋門賞に出ることも苦ではないのだ。むしろ、ネイティブ級に四カ国以上の言語を操れるので、間接的に素体となった『中島錦』のハイスペックさを証明していると言えよう。
「近頃はドバイのほうがコスパはいいからね。足をダメにするリスクと、一時でも賞金王になれる安全牌。それを考えるとね」
凱旋門賞で得られるのは名誉。だが、日本馬は出走だけで脚を潰すケースが多かった。そのことから、2020年代には出走自体が減っている。
「だから、海外遠征も良し悪しさ。良い結果が出りゃいいが、失敗すればクソのように叩く。それが日本って国だしね」
のぞみAはダイ・アナザー・デイでの戦果がありながら(中島錦と同一人物と見られなかったこともあり)、日本側が粗雑に扱おうとした。だが、ダイ・アナザー・デイの戦功第一かつ、プリキュア変身者とわかった途端に掌を返した。その経緯から、そういうところがある大和民族の悪癖に溜息であった。
「だけど、後輩のためだ。凱旋門賞は勝たないとね。フランス野郎共に一泡吹かせてやる。本業で、フランス絡みで嫌な事があったんでな」
と、ブライアンとしての喋り方も板についてきたのぞみ。何気に、軍人生活で、フランス(正確にはガリアだが)絡みで嫌な出来事があったらしい。
「何かあったので?」
「軍人生活してると、欧州の連中に『田舎者』って馬鹿にされんの。東洋人はいつの頃も侮られてるのさ」
東洋人が一騎当千の力を見せつけると、途端に掌を返す。それは万国共通であったが、フランスの将校はそれが(突出して)露骨であったため、こうして反感を持たれる原因となっていた。
「で、自分たちより強いとわかると、今までのは冗談だと笑いやがるからな。そういう連中はとりあえず、一番えらいのをぶん殴ることにしてる」
逆に、欧州人の間では『日本人は完全にキレると、手がつけられないから、怒らせないように気をつけろ。どうなっても知らんぞ』と注意事項が通達されている。彼らの高慢な言動が日本人の琴線に触れるのだが、中国が明の頃に怪異のせいで完全に滅んだため、東洋人と出会う機会が戦争以外で少なかったのも不幸であった。ミーナにも、その意識が無かったといえば、嘘になる。
「特にフランスが嫌味ったらしかったんだよ。まだ、ドイツとイギリスはいいほうさ」
ガリア人は『自分たちが欧州の盟主である』と思っている空気が強く、それがのぞみにすら、反感を強く持たれる理由であった。
「あたしが転生した先、中国が怪異のせいで、近世で滅んだ世界だから、余計に田舎者扱いされるんだよね。先祖が騎士団だった連中がまだ理解してるって皮肉があるんだ。そういう連中が抑えないと、血を見る事態になったって聞いてる」
ダイ・アナザー・デイ中に、こうした惨事を味方同士で起こしたのも、統制が効かないとされた理由であった。
「そんなことが?」
「せっかく来てやったのに差別用語連発で不当な扱いされてみ?連中はイカれてんのかってなるよ」
結局、ダイ・アナザー・デイでそうした人種差別行為があったことは、欧州の政治・軍事的発言力を縮小させる原因になったわけだが、のぞみすらも根に持つほど、一部のガリアの『愛国者』は後々の衝突の火種を蒔いていったわけである。
「その鬱憤晴らしをレースでさせてもらう。あっちで台頭してきた青二才は、モンジューの弟子だったな?吠え面かかせてくれる。こちとら、全盛期のラムタラに対抗し得ると言われた身の上だからね」
ブライアンが(競走馬として)全盛期であった1990年代半ばに世界最強と謳われた馬がラムタラであった。彼自身は種牡馬としての資質には恵まれず、散々たる有様だったが、競走馬としては一時代を築いた。そのラムタラに対抗し得る存在と言われたのが、全盛期のブライアンであった。オルフェーヴルが凱旋門賞に勝てないのが決まっているのは、因果律によるものも大きい。
「ディープインパクトやオルフェーヴルは因果に縛られるが、あたしは縛られん。因果律自体を変えられる能力があるからね。そうすれば間接的に、サクラローレルの運命も変わる」
サクラローレルをフランスに行かせれば、史実の因果で競走生命を失うことが高い確率で起こり得る。それを避けるには、先に海外遠征をした上で、勝利する。かなりの難行であるが、歴代随一の基礎能力を持つブライアンであれば、比較的に容易い。
「まだ時間はかかるだろうけど、色々と布石を打っておきたい。次のレースの選定を考えておくよ」
「遠征の支援委員会の長である、ドリームジャーニーに連絡を取ってください。彼女が相談に乗ってくれます」
「ドリジャが?こいつは面白いことになったな」
と、アオハル杯も決勝ラウンドに近づきつつある時期、のぞみは最終目的への布石を打つため、ルドルフらを巻き込む形でブライアン本人も構想していた『来るべき海外遠征』の構想をじっくりと練っていく。ブライアン本来のものとは違うが、史実でなし得なかった海外遠征が『日本の悲願を背負う』形になるのは、三冠馬としては最も不遇の後半生を送ったナリタブライアンの辿った運命への意趣返しであった。