扶桑は結局、史実の軍艦らの悲壮な最期に震え上がり、M動乱の戦訓を理由に、艦艇の大型化に踏み切った。また、装甲がない現代型艦艇に不安があるため、軽巡洋艦と程度の装甲を独自仕様として加えるパターンが多かった。仕方がないが、世界特有の事情によるものであった。また、ミサイルの補充をするための補給艦を帯同させるなど、戦争が現在進行形である以上の違いもあった。
大和型戦艦以降は艦の構造自体を21世紀最新の魚雷にも耐えられるように厳重にされ、艦艇も五重構造になった。これは魚雷や機雷で多くの艦艇を失った史実の戦訓によるものであった。さらに、新造艦は資材をガンダリウムなどの超合金に切り替える対応が取られた。大和や武蔵の代艦が検討されたのは、改装を繰り返す事による重量増加による、元のままであった竜骨への負担が懸念されたからでもあった。大和型戦艦の基本デザインは(予算確保のためもあり)継承され、その耐弾性能を強化した設計が続くことになる。また、大和型戦艦の問題点であった『装甲板一枚あたりのサイズが小さい』という点も解決されたため、問題は火力。一射あたりの投射量の増加であった。結局、砲塔増加による増強が行われ、三連装四基で落ち着くのだった。播磨型はその嚆矢。サイズが米国の原子力空母以上でありながら、内部は21世紀以上のオートメーション化が行われ、乗員数は1500人程度で済む。史実の大和(最終時)の半分である。これは交代を考慮しての数字である。主砲は最終的に55口径51cm砲。この時点で、史実で造られた全ての戦艦を粉砕できる。炸薬も史実の日本軍のものより数段は高性能である。砲塔の作動速度も桁違いに早くなっているので、現代艦並の対応速度となっている。
「いくら、ナチス残党の腐れ戦艦が53cmの見込みだからと、ここまでにするとは……。火力だけが取り柄だと」
「それをカールスラント海軍に言えますか」
「ご勘弁を…。しかし、これは奇跡のようなものですよ」
と、連絡士官同士がこうした冗談を言い合うくらいに、ドイツ海軍は軽んじられていた。カールスラントの場合は、最盛期は世界二位であった海軍が第一次大戦で起こった惨劇で地位を失う事態となり、潜水艦しか能がないと嘲笑されるまでに堕ちた。1949年時点では、国自体が消滅の危機であったため、海軍の復興はおざなりにされている現状である。その一方で、別世界から持ち込まれたヒンデンブルクとグロス・ドイッチュラントはまさに、恐怖の象徴となっていた。ティターンズ海軍がアイオワ級とモンタナ級を使い捨て同然に使うのも頷ける性能であり、日本連邦は意地でも世界最強の戦艦の称号を得るために、播磨以降のバケモノ戦艦を量産したのである。この狂騒曲の蚊帳の外であったガリアは、最後に設計した『アルザス級』の建造再開が認可されなかったのもあり、リシュリューを修繕しつつ使い続けることになる。これはペリーヌの影響力によるものだったが、ペリーヌがガリアを離れたタイミングで認可された。だが、50000トン近い戦艦を造る資材を確保できず、延び延びになってしまう。後々の戦争でアルザス級の不在が惜しまれることになるのは(太平洋戦争の情報収集に興味を示さなかった)、アルザス級戦艦の建造が遅延を重ね、老朽化したリシュリューを戦わせた(完成した個体はティターンズに接収されていた)からであるとされ、リシュリューは悲運の戦艦という称号を背負わされることになる。
扶桑は仮想敵と、置かれた状況のおかげで、大戦艦を多数揃えられた。呉軍港の惨劇をプラスに転じられたからである。その一方で、中型空母の量産が否定されたことで空母=大型空母という認識になってしまい、強襲揚陸艦の航空運用を増やさなくてはならないという窮状も抱えてしまった。結局、鹵獲されたミッドウェイ級は扶桑の手で使われることになり、大鳳を退け、第一航空艦隊の旗艦とされた。日本が戦間期に軍縮を進めさせたのもあり、洋上航空戦力の決定的な弱体化を引き起こした。この弱体化は軍事的意味での致命傷に近く、立て直しには長い時間をかけることになるため、結果的に太平洋戦争は『戦艦の戦』と揶揄されることに繋がった。
もうひとつは艦隊決戦兵力にしろ、巡洋艦以下が旧式揃いという有様。リベリオンが『一昔前の戦艦サイズ』のバケモノを造ってしまったため、それに対抗し得る巡洋艦の存在が必要とされた。高雄型重巡洋艦はもはや老朽化が進んでおり、特に鳥海などは、機関が壊れる寸前であった。伊吹型が巡洋艦のまま完成したとはいえ、所詮は条約型。心無い一般人からは『戦力外通告』を完成した段階で受ける始末。そのため、場繋ぎで超甲巡を巡洋戦艦に仕立て直したのである。新型は利根型をベースにする案などがあったが、結局は政治的理由で『最後の一等巡洋艦をベースにする』ということになり、高雄型重巡洋艦を基本に、デモイン級対抗の巡洋艦に仕立て直すという妥協案となった。これは鈴谷型以降は(書類上は)二等巡洋艦であった事による。また、砲装備は地球連邦軍の宇宙巡洋艦に使われているものが提供され、大まかなシルエットは史実の高雄型『摩耶』寄りのものになる見通しであった。これは21世紀では単装砲が主流であり、扶桑の用兵側に不満を持たれたからである。(そもそも、21世紀の艦砲は第二次世界大戦型の艦隊戦などは想定外である上、連装砲以上の砲塔が廃れている)駆逐艦は海自の護衛艦型世代のものに切り替えられつつあるものの、船本体の大型化と電子装備等の進歩で、再教育が必要となる始末。あまりのゴタゴタにより、空軍の発言力は増大。陸軍の発言力が(日本の意向もあり)大幅に縮小したため、空軍が事実上の緊急展開部隊としての地位を確立。以後、急速に近代化が進められることになる。
日本連邦が単独で戦争の勝者になるのを恐れた欧州だが、国民が戦争に疲れており、表立って関わることは出来なかった。特に、欧州艦は太平洋の大海原での海戦に不向きな特性であり、結局はブリタニアがかろうじて関われる程度であった。弾道ミサイルの登場で、旧来の防空網の価値が低下してしまった事も大きかった。また、メタ情報で信用度が低下した国も多く、結局はブリタニアが否応なしに、欧州代表で太平洋戦争に関わるしか手が無かった。特に小国が恐れたのは、激昂した日本連邦に国際司法裁判所に引っ張り出され、そこでならず者国家のレッテルを貼られ、名誉を失うことであった。カールスラントの没落はまさにそれを引き金に起こったともいえ、生き残っていた小国は大国のご機嫌取りに必死になった。結果的に、それが平穏を保つのに必要な選択であった。メタ情報に怯えたのは扶桑の昭和天皇も同様であったが、彼は最終的に『自身の権力を実質は捨て、人身御供に徹する』選択を取った。だが事変以来のクーデターの連続による国民の要請で、国家緊急権は持ち続けざるを得なかった。そこに、史実での敗者の悲劇があった。
Y委員会は魔女のクーデター以降に昭和天皇の要請で、実質的な扶桑の最高意思決定機関となった。明治の元老は既に亡く、枢密院も廃止されたが、議会制民主主義を正しく理解するほど、扶桑の国民は『成熟』していなかった。その兼ね合いで、黒江たちとその後援者たちに国政を導かせるしかなかった。これでも、制度疲労で国政が硬直していた大日本帝国に比すれば、だいぶマシである。こうした情勢により、黒江たちは1940年代初めの迫害からは180°変わって、『国家を担うトップエリート』と扱われた。昭和天皇の公認と後援付きである。黒江が21世紀で『考えられるかぎりの資格』を取得していたため、他の隊員もそれと同等の資格の保有が求められた。結果として、怪異討伐への一芸特化が魔女閥の衰退を招いたのである。
結局、改造空母の計画が消え、軽空母の計画も白紙撤回されたための妥協で、空母は大型の少数運用が王道とされた。信濃は空母化の設計が建造中に出来上がっていたが、改造空母自体が陳腐化したことを理由に、破棄された。その結果、空母用の機器などが工廠で大量に余る事態に陥った。油圧カタパルトも次の世代の技術である蒸気式カタパルトと電磁式カタパルトに瞬く間に取って代わられたため、工廠に在庫品が大量に塩漬けの事態となった。魔女の運用も縮小されたため、使われる機会が永久に無くなったからだ。V/STOL機の登場もトドメとなったのは言うまでもない。連合艦隊の航空戦力はこうして、『張り子の虎』と化していった。大鳳の量産が頓挫したことは大きな痛手であり、鹵獲したミッドウェイ級を最終形態に改装し、自分たちで運用することで『近代空母を学ぶ』方法が取られた。大鳳は縁起の悪さを理由に早期退役が提案されたが、加賀も信濃も戦艦のままであったことから、やむなく改装されることになった。幸いにも中規模の民間造船所が大鳳の姉妹艦を独断で完成させており、それを改装させ、翔鶴型航空母艦の4~5番艦と扱うことで妥協された。艦載機はコア・ファイター。コア・ファイターの性能であれば、魔女の世界では充分に戦えたからだ。また、一年戦争中に連邦海軍が旧主要国の戦艦の設計をもとに、水陸両用MSの排除と対地支援を目的に建造していた『ジュッドランド級戦艦』も供与された。これは扶桑が戦艦のオーバーホール中の兵力低下に悩んだからで、連邦政府としても、今や沿岸警備隊同然の扱いの海軍に割く予算が惜しかったからだ。
この供与は扶桑への供与というわけではなかったが、他国は財政的な衰弱と動員の解除を理由に次々と断ったために、扶桑が受け取ったのである。こうした偶然も、扶桑の軍備刷新に寄与した。ジュッドランド級戦艦の主砲は艦載砲としては最大の60cm砲であり、地球連邦軍の意地を垣間見せている。ティターンズはそれを有しておらず、海軍も一年戦争後は予備役にしていたため、ティターンズも存在を忘却していた。連邦政府からは『一年戦争中の冒険的代物だ』とも揶揄されていたが、その艦載砲の破壊力は本物であり、扶桑海軍の復活をアピールする絶好の材料だった。
日本は技術の流出を恐れたが、第三者である地球連邦軍のそれまで差し止める権限はなく、扶桑の時代相応の兵器は瞬く間に駆逐されていった。また、士官級の拳銃も(旧日本軍同様に、元は個人の私物扱いであったので)扶桑では(圭子が愛用していたことで)欧州型の自動拳銃が流行っており、扶桑国産の九四式拳銃は元より、大半が倉庫の肥やしであった。その後の時代の記録によれば、九四式拳銃は退役軍人の所有分もあったため、日本の意向だけでは回収出来なかったこと、軍用は(自衛隊との共通化の思惑で)戦後型の拳銃に(数ヶ月で)取って代わられたことが記されていた。倉庫のデッドストックも(日本の意向で)一斉に処分されたが、一部がなおも生き残り、博物館で余生を送ったという。
南部十四年式も生産中止にされ、(45年8月15日以降の入隊の)軍人の拳銃は官給品に統一されるため、戦前期からの将校文化も太平洋戦争開戦を理由に、正式に終焉した。古参の軍人を扶桑で見分ける方法として、『持っている拳銃が私物か』というものも定着した。新兵や新参の士官は拳銃が一律で戦後型の『P220』なので、それ以外の拳銃を持つ将校=ダイ・アナザー・デイ以前からの軍歴があるとわかるからだ。また、格闘戦の武器については(世界特有の事情もあり)規制されなかったが、好んで携行するのは、ダイ・アナザー・デイを戦い抜いた者達。若者らは武器を失うと無力化するが、古参は接近戦に対応できる。その差は個人差が大きかったが、扶桑の大人達は魔女の完全な『職業軍人化』を嫌ったが、退役者すら駆り出さなければならない時勢に陥ったため、やむなく承諾した。ダイ・アナザー・デイに真に参加していた部隊はごく少数。ダイ・アナザー・デイの従軍記章は魔女への迫害を起こさせないために制定された側面が強く、等級などの事情は(当面の間は)伏せられることになった。これは実際に戦った者たちとそうでない者との不平等性を薄れさせるための措置であったが、明るみに出れば魔女への視線が完全に異端審問じみてくるのが容易に想像できたが故であった。
日本としても、東二号作戦で戦闘部隊化させていた『明野飛行学校の教諭』達の『教育部門とは独立させ、戦闘部隊化させていた』実情を理解せずに軟禁状態に追い込んだことへの負い目があり、結局は64Fへの補充要員や南洋の防空部隊への配属として扱うことでお茶を濁した。本来は二個戦隊分いた魔女は過半数が64Fの増強に使われ、残りは防空部隊の幹部とされた。これは扶桑の世論への先手打ちと、軟禁の事実を隠蔽するためのいいわけであった。この人事措置に東二号作戦の単語が流用され、公式文章の編纂にあたっては、64Fの支援計画とされた。なんとも現金だが、日本としても『扶桑の軍事的事情に深入りする危険性』を勘案しての『現地への補償』を模索しており、64Fの『特権』の追認とセットで、死産に終わった111Fと112Fを南洋軍の人的損耗の補填と64Fの増強に使う施策を実行した。同時に、ここ数年の戦功第一である夢原のぞみの中佐への昇進を52年までに行うことも正式に決議された。日本も賛成したのは、『英雄が出てくれれば、それだけ兵が死なないから』という理由であり、事変後は突出した英雄を求めない風潮が強かった扶桑に思いっきりの冷や水を浴びせた。とはいえ、扶桑の魔女は(古い世代からの世代交代もあり)この大転換を受け入れる者が増加してきており、特段の騒ぎとはならなかった。
結局、海軍は度重なるクーデターへの懲罰人事で高級将校や熟練の前線指揮官の不足に悩むことになり、日本軍出身者を代わりに充てがうにも、扶桑軍は風土に差があるため、軋轢が予想された。自衛隊出身者はその業務を嫌がる傾向があり、黒江たちの気苦労は大きかった。Gフォースはそんな扶桑と日本の円滑な連携や連絡も業務に入っており、太平洋戦争にて、特に功を立てていた。その中で海自は主に、連絡や輸送業務等に従事していた。戦艦や重巡洋艦が生きながらえている世界故に、直接戦闘に持ち込まれると戦後型の戦闘艦は脆いのもあり、そうした裏方に徹した。史実より強い戦艦が跳梁跋扈する世界だからだ。海自は魚雷の破壊力に期待を寄せていたが、ハト派が直接戦闘を禁止した結果、自衛隊の水上戦闘艦はリベリオン艦隊との交戦の殆どを禁じられてしまった。航空機には(二次大戦レベルなので)如何様にもできたが、戦艦は(上部構造物を焼けるが)『沈められない』。せいぜい重巡洋艦までが限界。それとて、史実での最高到達点であるデモイン級の改善がなされれば、ますます難しくなる。そのため、デモイン級に対抗できる扶桑の巡洋艦の登場が切望された。
扶桑は巡洋艦の更新は『超甲巡で条約型甲巡を淘汰する』という思惑で進められたが、それが否定されてしまった影響で艦政本部が大揺れになり、艦艇設計能力が低下していた。そのため、過去の設計を手直しする程度が限界になってしまった。史実の改装された摩耶をベースに鈴谷や利根の長所を取り入れるという場当たり的対応となってしまったが、水上機が時代遅れとなったことでその運用装備を省いてよくなったために問題視されなかった。要は装甲厚と大きさが問題であったので、高雄型重巡洋艦を基本ベースにする案が結局は復活した。これは『最初から一等巡洋艦であるから』という理由であり、艦政本部を落胆させた。伊吹型はそれまでの繋ぎで造られたのである。
伊吹型は空母改装が確実視されており、造船所もいくつかの担当造船所は自主的に砲塔を船体に載せておらず、空母への改装の準備を進めていた。だが、結局は大戦型軽空母の存在意義が消滅したせいで、巡洋艦として完成させる方向に再転換。これに激怒した現場がストライキを起こしたため、完成が大きく遅延。結局は1949年までずれ込んだ上、伊吹の搭載機関に不具合が発覚し、その手直しに逆戻りする不祥事も起こった。こうして伊吹型は『生まれるのを望まれなかったが、情勢の変化で造るしかなかった巡洋艦』という不幸を背負うことになった。そのため、伊吹型は旧式艦の代わりに矢面に立たされることとなるが、そもそも船として完成しなかった史実よりはマシであった。
小型の軽空母の存在意義は消滅したが、既に完成させた個体の処遇で大いに揉めた。結局は鳳翔に代わる練習空母として、いくつかの個体が流用された以外は、資源輸送艦としても価値が低いために解体が決まったが、現場の嘆願により、最後の魔女用空母に転ずるように変わったものもある。戦前~大戦前期の魔女たちの最後の華として、その空母らは一瞬の閃光を遺すのだった。最大の客船改装空母であった飛鷹型も客船には戻されず、その生涯を空母として過ごすことが決まった。これは巨大客船を新規に作ったほうが早かったからで、完全な日本型空母が遠からずに姿を消す故の最後の意地であった。
そんな軍政のグダグダとゴタゴタに振り回されつつも、64Fは奮戦していた。ナリタブライアンはのぞみに(自分の世界でのことを)託している恩返しも兼ねて、入れ替わりを続けていた。その都合上振る舞いは武闘派であり、ある意味では戦士としてのプリキュアを体現した(かの美少女戦士のアンチテーゼとして)活躍であった。
「貴方は何がお望みですの?」
「私はお前と違って、花道を飾るどころか後ろ指をさされての引退だったからな。オルフェーヴルには悪いが、今回は王座を譲らん。その旨は伝えてある」
「私の『お父様』がなし得なかったことですのよ?」
「ディープとオルフェーヴルでなし得なかったことだ。因果に縛られんほうが、良い結果が出るやもしれん」
「お父様が聞いたら、泡吹きますわよ」
「あいつの甥っ子のオルフェやナカヤマでだめなことだ。いっそのことということになる。間接的には、ローレルのためにもなる」
「あの方が聞いたら、なんと仰るとお思いですか?」
「いらん世話だというだろうが、そうしなければあいつの脚は使い物にならなくなる。怪我が酷ければ、車いす生活かもしれんだろ」
「確かに…」
「それを回避させるには、あいつの海外行きを一回は阻止せねばならん。それには、私が王座に返り咲く必要がある」
ブライアンはそうした計画を話しており、サクラローレルの救済と自身の復権を両立させたいあたり、それなりに感謝はしているらしい。
「私達は前世由来の怪我が引き継がれる。特に前世でそうなった場合は、同じタイミングで引き起こす。わかっていれば……と思ったさ。おかげで、あいつとも別れ別れだ」
「あなた……」
「だから、確実にするために手を組んだ。私は夭折する世界線もある身だ。本当なら起きない奇跡を起こすために」
ブライアンはオグリの弟子となった世界線の存在であるので、オグリのような奇跡を信じていた。だが、親も含めての周囲の人間達は大半が『あれはオグリだから、なし得たこと』と断じ、ブライアンから個人トレーナーを奪った。それがブライアンの一連の行動に繋がり、のぞみの努力もあり、復権を成し遂げつつある。
「その恩を返すために、今はこうしている。ゴルシの口車に乗ったお前も、物好きだな」
「あら、ゴルシさんの口車に乗ったのは、私にも目的はあるのですよ」
「もしかして、お前の『娘』のことか」
「ええ。あの子……ジェラルディーナへの話のタネになるでしょう?」
「お前も難儀なヤツだな」
ジェンティルドンナも前世の記憶を得たのか、ジェラルディーナ(前世での子)の存在を知覚しているのを明確にした。
「それに、私は前世では、ヒロインと扱われてはおりませんでしたから」
「お前はどちらかというと、ルドルフ寄りの位置づけだったというからな」
ジェンティルは前世での現役時代、ヒロインと扱われず、どちらかというとヒールの位置づけに置かれたことを気にしているらしく、後輩のアーモンドアイのような『ヒロイン』をしてみたかったらしい。
「アイさんのように……というのは贅沢かしら?」
「ヤツも、さらなる後輩を奈落の底に落としているんだがな」
アーモンドアイを引き合いに出したジェンティルドンナだが、アーモンドアイとて、下の世代の筆頭格をぶちのめしてしまい、結果的に、二人の後輩の運命を暗転させてしまっている。ブライアンが復権を目指したのはその二人、さらにはルドルフの存在で名声が陰ったミスターシービーも含めての無念を晴らすためでもある。
「私が復権すれば、そいつらも後ろ指をさされないで済むだろ?シービーの頃からのお約束と化してしまったが」
ウマ娘は全盛期が短い。ルドルフが『昇り龍』になった時、ミスターシービーは黄昏を迎えつつあり、シンザンのように『最強』ではいられなくなった。その故事を知っている世代故に、シービーの裏での苦悩を省みる。
「お前のように、最後に勝てた者は少ない。三冠でも、だ。わかるな」
「ええ」
三冠馬は最強を求められるが、それに応えられた者は少ない。ディープインパクトとて、海外遠征でイメージに傷を残している。そのディープインパクトの正統な後継を期待されたコントレイルは(レースの相手が強すぎたりする不運、自身の適性がマイラー寄りであった事もあり)三冠こそ得たが、その後に苦難を味わうことになった。コントレイルの不幸は『アーモンドアイに負けたこと』。これに尽きる。
「さて、この怪物……ネウロイというんでしたのね。如何なされるのです?」
「そうだな。お前に見せておこうと思ってな」
「蒼い炎……?」
『ヤマタノオロチを討滅したという、草薙の炎だ。こいつの素体になったヤツが元々、会得していた武術の産物らしい。……喰らえ!!』
ブライアン(キュアドリームの体を借りている)の打ち出した青い炎が怪異の外殻を燃やし尽くす。怪異は防衛本能で内部のコアを射出しようとするものの、その前に炎がコアを焼き尽くす。
「この星の意思の生んだ抗体とも言われるが、詳細はわからん。神々の意思が地球人類を実験に使っている証ともいうが」
「どういうことですの?」
「神々は自分たちでも太刀打ち出来ない存在への兵器として育てるために、同族同士で殺し合うように仕組んで、地球人を作ったという説が有力だそうでな。その中でも特に有力な世界が、地球連邦軍のできる世界だそうだ」
「なるほど。ならば、そんな世界と触れ合った以上、史実の因果という鎖を断ち切ろうと?」
「私はルドルフやシンザンさんのような、絶対王者になりきれなかった。それと姉妹たちが味わうだろう無念を晴らしたいんでな」
「そういうことならば、私は邪魔いたしませんわ。ですが、オルフェさんはどう見るかしら」
「挑戦はいつでも受けてやる。そう答えるよう、あいつには言付けをしてある」
二人は競走馬としては世代が大きくズレているが、ウマ娘としてはほぼ同世代である。それを鑑みたのか、これ以後はジェンティルドンナも積極的に(プリキュアに扮する形で)共闘していくこととなる。