ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前回の続きです。


第二十二話「次元震パニック出張版その四」

――ダイ・アナザー・デイ以降、ウィッチ関連予算は減った。ダイ・アナザー・デイでボイコットが大規模であった結果、その存在意義に疑義がつけられたためだ。また、日本側の方針として、空母を狙った対艦ミサイルによる飽和攻撃が取られた事で、想定よりウィッチ戦が起きなかった(中には、空母の兵員室に海上自衛隊や米海軍の対艦ミサイルが飛び込み、部隊ごと戦死したウィッチも続出した)事も理由である。ウィッチは対戦闘機戦では火力不足、専用ストライカーでなければ対艦戦が不可能という難点が一気にクローズアップされ、1946年度を境に、実用的な兵科としての維持を諦める国家が続出した。その表れとして、フランコ政権崩壊後のヒスパニアを始めとする中小国は1946年度に相次いで兵科を解消し、カールスラントもウィッチ総監部を解散したために雇用的意味でパニックに陥っていたため、そのパニックを抑えるためにも、兵科解消の時期を公には未定とするしかなかった扶桑皇国。比較的に開発能力に優れる扶桑でさえ、前年度のクーデターを理由に、ウィッチ関連予算の削減が断行され、扶桑皇国海軍の自主開発ジェットストライカー『震電改二』の開発が遅延してしまうという誤算が生じた。(この頃には、強度試験用の六号機まで完成の段階であった)戦前の扶桑機の系譜を継ぐ系統の機体としては、この震電シリーズのみが『宮藤芳佳の愛機』という箔付けもあり、生き残っていた――

 

 

 

 

 

 

――1946年度に起こった『ウィッチ・クーデター』事件は結果的に、日本による大鉈が振るわれる大義名分となった。その過程で史実の特攻機と同名の国産ジェットストライカーは開発段階の進捗状況を問わずに問答無用で生産中止/開発中止、採用取り消しの憂き目にあったが、『宮藤芳佳の使用する機体』という箔が震電を『有望』と判定させた。その関係で実機/ストライカー共にレシプロとして完成はせず、改めて、ジェットとして作り直された。芳佳Bのレシプロストライカーとしての『震電』に予備パーツが供給できない理由は『この世界での震電はジェット機であり、レシプロ機としては死産に終わった』からである――

 

 

――ホテル―

 

「この世界に来て、しばらく経つのに、数回しか飛ばしてくれないなんて……」

 

ホテルで落胆する芳佳B。Aが既に64Fきってのエースパイロットとして有名である事もあるが、技能維持のための飛行すら制限されている状況に嫌気が差しているようだ。しかも、ホテルに軟禁状態だからか、かなりの鬱憤が溜まっている。

 

「ちょっと待て。私が先方に交渉してくる」

 

坂本Bはホテルに圭子を呼び、交渉を始めた。

 

「なんとかならんか、加東」

 

「ガキに癇癪起こされても困るぞ。躾はどーなってる?」

 

「まぁ、アイツも溜まっとるのだ。そこはわかってくれ」

 

坂本Bの世界では名前の字が『桂』だったり、アフリカに赴任していないなどの違いがある。坂本Bはアニメ通りの『ワッハッハ』な性格だが、ガンクレイジーな圭子には圧倒され気味だ。

 

「しゃーねぇ。今日の11時からの模擬戦にお前んとこのガキ連中を借りておく。いいな?」

 

「言い出しっぺだから、私も出よう。バルクホルンが心配するんでな」

 

「どこでもシスコンなのか、トゥルーデは」

 

「うむ…」

 

圭子に申し出る形で、この日の64Fの訓練での仮想敵役をB世界の転移者から坂本Bが選抜したメンバーが担当した。その一幕を見てみよう。ちなみにバルクホルンBはAと違い、バトルジャンキー的な気質であった。

 

『お前が出るなら、私も行こう!!』

 

『人数指定、指名された主に新人の訓練だから教官役で呼ばれた私以外は新人と若手のみだ、残念だがな…』

 

と、宥めるが、エーリカB共々、見学はするのであった。

 

 

――模擬戦――

 

第一回戦は智子と芳佳Bが戦った。使用機材は智子がキ100、芳佳Bは紫電改(坂本機)である。智子は芳佳Bの世界では『世代交代』で勇名が忘れ去られており、ミーナやバルクホルンでさえ、新兵時代に名前を聞いた程度の知名度であった。智子はこれに激しく憤慨し、本気を出した。

 

「こ、この人……強い!」

 

「へぇ。紫電改は零式や震電と挙動が違うってのに、よく動くじゃないの」

 

「震電より零式寄りなんで、思ったより動きやすいです、速度が出せないですけど」

 

「こっちだと、しばらくは使ってたわ。次の機体までの繋ぎで。ま、震電は局地戦の最たるもんで、制空戦闘向けじゃないから、紫電改がウスノロに思えるかもね」

 

智子はキ100の性能をフルに引き出し、紫電改に慣れぬ芳佳Bに次第に優位に立つ。智子の絶頂期を知る坂本Bは空中での智子の動きを『絶頂期と変わらん……、いや、それ以上か!?』と唸る。

 

「どういう事だ、少佐」

 

「お前らのような若い連中は知らんだろうが、あいつは扶桑で明確に撃墜王となった最初の世代のウィッチの代表格だったんだ。私が子供の頃には士官だったからな」

 

「え、それじゃ、とっくのとうに…?」

 

「普通はな。だが、この世界ではずっと現役の撃墜王だという。しかし、昔よりキレがある…」

 

智子は芳佳Bを『蝶を巣に捉えた蜘蛛』のように弄ぶ。芳佳Bは紫電改の空戦フラップを用い、旋回半径を縮め、智子に模擬弾の入った機銃を当てようとする。だが、紫電改は零式と全て同じ感覚で扱うべき機体ではない。

 

「芳佳、紫電改を扱う時はパワーダイブも用いるのを覚えなさい。2000馬力が泣くわよ?」

 

「え、読まれてる!?」

 

その様子を確認した坂本Bは智子の技量に気づく。

 

「バカな、九七と九六の時代でもあるまいし、あのような巴戦……いや、誘導されているのか!」

 

「どういうことだ、少佐」

 

「昨今の機体は時速600キロを軽く超える。私が若い頃のように、ドッグファイトで決着がつく時代ではないのは知っているだろう、バルクホルン、ハルトマン。見てみろ、宮藤は紫電改の速度の優位を活かせていないが、穴拭は乗機の性能特性を熟知しとる」

 

「確かに、あの人はミヤフジの弾を僅かなヨーイングと体の位置替えで避けきってる。ハンナ以上に格闘戦の鬼みたい」

 

キ100は水平速度では紫電改に劣るが、パワーダイブの強度は勝り、水平面での機動力は隼を思わせる『神がかり的』なものだ。智子は捻りと位置エネルギーを利用して芳佳の頭を抑える事で巴戦を強要しつつ、自分の速度を維持しながら速度を殺させる事に力を入れている。これがプリキュアでもある芳佳Aなら、智子の思考を先読みし、戦法を破られているところだが、BはAのような『狸』ではないため、完全に術中だ。

 

「ならっ!」

 

智子がオーバーシュートしたところに、芳佳Bは一撃を加えようとするが、読み切られ、バレルロールを繰り返すことで射線を外し、かつてのお得意のマニューバを敢えて見せた。

 

「いかん、捻りこみを!アイツ、十八番を!!」

 

坂本Bはそこで顔面蒼白になる。智子十八番の燕返し。海軍では捻りこみとして教えているので、語感の違いはあれど、それをやられた事に気づいたのだ。45年以降では陳腐化した嫌いのあるマニューバである上、坂本がよく模擬戦で使うことを知る芳佳Bは対処する動きを見せ、偏差射撃で仕留めようとするが、智子は更にそれを読み、エンジンカットを行い、ガクンと落下。芳佳Bの意表を突く。

 

「悪いわね。こちとら、アンタとはしょっちゅうやりあってんのよ。重力すら味方に三次元で移動方法を組み立てる、それがウィッチの戦いって物よ。次から覚えておきなさい」

 

芳佳Bの機体に撃墜を示すペイントがつく。智子はこれで昔年の栄光をB側に見せる事に成功したわけである。

 

「坂本、どうかしら?」

 

「ここではずっと現役だそうだが、腕を上げたな?」

 

「当たり前よ、あたしを誰だと思ってんの?」

 

智子は基本的に自信家的側面も持つ。黒江曰く、『ガキの頃から自信ありげに振る舞うのは得意だったしな、智子は』との事。少なくとも精神年齢はプリキュア達とそれほど変わりないと言えよう。

 

「扶桑の第一世代ウィッチの代表格が彼女なのか?」

 

「いや、奴は持ち上げられてた節もあるから、私がこれから戦う黒江の方が部内で名を轟かせてたよ」

 

坂本Bは智子より黒江を評価している事を本人を前にして明言する。実際、当時の智子は高飛車であったため、基本世界に近い世界ほど、坂本と若本からは『いい気になってる陸軍の阿呆士官』と見られていた。智子は転生後は高飛車さを抑え、謙虚に振る舞うことで周囲の反感を抑えたが、逆に黒江がド派手にやりすぎて反感を買ったのがA世界である。

 

――ちなみに、黒江は派手過ぎて広報に載せられず、圭子はブラッドバスか悪役表情が常態かつ、素行不良であるために広報に載せられないという理由で智子が広報班に祭り上げられたが、第一線から離れていた時期の手のひら返しで不信感を持ち、黒江もエクスカリバーを使って以降は持ち上げられ、下げられを経験していたため、黒江も広報には非協力的に近く、所属経験のある圭子に頼る有様であるのがA世界における広報部の苦境だ――

 

「さて、坂本。烈風丸はお前自身に折られたって聞いたが?」

 

「同田貫正国をもらったよ。黒江、お前。それは量産品の備品の軍刀ではないのか?」

 

「おりゃ、いつでも刀の予備は用意できるからな。なんでもいいのさ」

 

黒江は空中元素固定能力で剣を何時でも造れるため、出撃時の軍刀については『見栄えの問題で下げてるだけだ』と明言し、量産品を出撃時は携行する。とは言うものの、この時期のA世界の量産品は未来世界の技術が入った高性能品で、下手な古刀が霞む性能だったりする。

 

「それに、こいつはそれに芯鉄に魔力の通りが良いの使った最新モデルだしな」

 

ニヤリと微笑い、黒江は坂本Bと剣を交えた。黒江Bとは対等に戦える坂本Bはそれに絶頂期の魔力を加味した程度と見込んでいたのだが。わずか数分で坂本Bは冷や汗タラタラに陥った。

 

(バカな、こちらの動きが読まれているのは承知の上だが、なんだ、あの鎌鼬の如き風は…!?)

 

黒江Aは聖剣を宿す都合上、風王結界を操っての戦闘法を体に叩き込んでいる。つまり、黒江の持つエクスカリバーの属性は風と電気の双連である表れである。

 

「黒江、お前のその力は何なのだ!お前の固有魔法は…」

 

「フ、俺の軍刀を使ってみっか?得物はいくらでも用意出来るからな」

 

「お前、何時から手品師になった?どこから出した、その小太刀は」

 

「企業秘密だよ」

 

黒江はいつの間にか二刀流の小太刀に持ち替え、坂本に軍刀を渡す。それで模擬戦を続行する。坂本は振るう内に軍刀が『軽く、鋭くなる』事の違和感を抱くが、黒江の小太刀に容易く翻弄される。黒江は空中でも御庭番衆式小太刀二刀流を使えるため、坂本の剣道の試合じみた動きに対応する事は容易い。実戦本位の剣術使いである黒江と、あくまで剣道の延長線である坂本Bとの差である。

 

「嘘、坂本さんを押してる?」

 

「いや、少佐の攻撃を受け流している。あのような短剣で…」

 

「うんにゃ、アレは小太刀だよ」

 

「お前はこちらでのハルトマンか?」

 

「窓から覗いたら面白いのやってるからね。顔出しさ」

 

ハルトマンAはダイ・アナザー・デイ後に少佐になったため、階級章などでBとの違いがある。大まかな見分けのポイントはサーベルのようなものを提げているか、だ。態度も違い、お気楽極楽なBと違い、A世界では『Gのスポークスマン』を自負する故に、立場相応に落ち着いたものに変わっているのもポイントの一つだ。

 

「あんたがここでのあたし?」

 

「そーゆー事」

 

「あれ、少佐になってるの?」

 

「作戦中は大尉扱い、それが終わった後で正式に昇進さ。それと、色々あってさ」

 

「お前が少佐だと?戦果は分かるが、何故だ。素行不良ではなかったのか?」

 

「トゥルーデに言われたぁないね。昔は色々してたくせに~」

 

「お前、そ、それは…!」

 

「宮藤の前だ。言わないであげるさ」

 

「お前、マルセイユの考えが伝染ったのか?」

 

「ひ・み・つ♪」

 

ハルトマンAは飄々とした態度でバルクホルンBの追求を躱す。だが、黒江の動きを一目見るなり、こう言った。

 

「ふーん。あの人もイタズラ好きだなぁ」

 

…と。

 

「ハルトマンさん、あの人のことを知ってるんですか」

 

「ここだと同僚だし、付き合いも長いからね。言っちゃ悪いけど、剣であの人に勝とうなんざ、坂本少佐じゃ10年早いよ、宮藤」

 

「え、剣の事分かるの?」

 

「見て分かんない?ここじゃ、ちょっとは鳴らしてるんだけど」

 

(やば、腹…痛っ!)

 

智子は必死に笑いを堪える。ハルトマンAは『ちょっとどころではない』達人である。Gウィッチの最強級(下手な円卓の騎士より強い)の剣の達人であり、飛天御剣流の使い手である。また、日本に長くいる内に、日本語の発音がネイティブになっているという違いがあり、読み書きも完璧にこなすので、精神的には日本人になっていると言える。

 

「お前、ここでは剣術を?」

 

「嗜む程度だけどね」

 

(どこが!飛天御剣流を使いこなして、あたしより強いくせに)

 

誤魔化はしかなり露骨であるが、ハルトマンの性格か、伯爵の教育の成果か、自分自身を含めて、そこはあまり追求しない。それには内心で苦笑いであるハルトマンA。自信家の智子Aが自分より剣術で強いと認めているあたり、ハルトマンAの剣術での天才肌が分かる。彼女は一度の転生でそれを手に入れているので、他のGウィッチよりラーニングに優れていると言える。

 

 

 

 

 

 

 

――ティターンズは1947年になるまで、Gウィッチの暗殺のため、リベリオン大陸のマフィアの配下の殺し屋などを差し向けてきていた。戦闘で一部の実力者以外はGウィッチに歯が立たない事は承知しており、暗殺を躊躇せずに実行した。だが、未然にのび太やゴルゴ13によって阻止されていた。中には、ウィッチあがりの殺し屋もいたが、そんな事は二人にとっては些細なモノであった。のび太とゴルゴが殺し屋を何人となく始末してきた事がそれを証明している。日本でかつて、ゴルゴの命を救った経験を持つフィクサーの老人の依頼はそこまで含めていたからで、恩義をきちんと返す東郷の義理堅さが窺える。また、軍部の反G閥も排除を目論んだが、クーデターが失敗し、派閥そのものが解体された。クーデターの際に直接、彼女らを倒そうとした者も生じたが、無論、直接戦闘では無敵な彼女たちには何をやっても、多少の怪我はさせても(肉体の再構成の必要が生ずるほどの負傷以外は骨折でもさせない限り、回復速度は迅速である)、殺すことは不可能である事に発狂したクーデター軍の幹部も多い。(これは空中元素固定の応用でもあったが)ティターンズが正式に暗殺を諦めたのは、ゴルゴとのび太が動き始めた事を知ったからだ――

 

 

 

 

――基地――

 

「ん、先輩達は『向こう側』の連中と模擬戦か」

 

「へー。向こう側の連中はこっち側と違って、対人戦闘は経験ないだろ?」

 

「こっちが立てないと無理じゃない?」

 

タブレットに入ったハルトマンからのメールを確認するキュアドリームら。この頃には、すっかり64Fに馴染んでいるのがわかる。黒江が呼ばれて、ホテルに赴いた後はキュアメロディ(シャーリー)が場を仕切っている。生前は女性言葉を多用していたが、現在ではフランクな口調を用いているため、キュアブルームらに驚かれている。

 

「メロディ、なんか変わったね」

 

「間に別の人生をいくつか挟んだからなー。リズムが見たら、泡吹くだろーぜ」

 

「自覚あるんだ」

 

「まーな」

 

「でもさ、これを戦車相手に使うのはチートじゃない?」

 

「ブルームもそう思うか?」

 

「当たり前じゃん。怪獣映画じゃないんだし」

 

「そういえば、ブルーム。部活はソフトボール部だったな?」

 

「そ、そうだけど…?どうしたの?」

 

「思い出したんだが、上官がこの時代のニューヨークヤン○ーズの人気選手にツテあるらしいから、サインを貰えるぞ」

 

「ほ、本当!?」

 

「第三次黄金期に入る頃だから、ミッキー・マントルがチームに入りそうな頃だけどな」

 

当時のニューヨークヤ○キーズのナインが自由リベリオンに亡命してきた事が示唆される。当時は徴兵で戦前のスターであったジョー・ディマジオが最盛期の力を失い、その後継者として、ミッキー・マントルが調査されていた頃である。(史実の因果か、ミッキー・マントルはこの頃、祖父も父も炭鉱夫である身の上を憂い、自由リベリオンに亡命していたため、そこは史実通りになったという)

 

「全盛期は終わっちまったが、今ならディマジオのサインもらえるぞ」

 

「お、お願い!ひーおじーちゃんが若い頃に見たとかいうの、じーちゃんが言ってたから……」

 

「ひーじーさんか。ま、世代的にはそうなるよな。とにかく手配してもらうよ」

 

キュアブルーム/日向咲は平成の初期生まれであり、ディマジオが全盛期の頃のプレイを見た記憶があるという曽祖父母は黒江達と同世代の可能性が高い。その事にかなり苦笑しつつも、メロディはサインを手配する。

 

「ブルーム、野球の知識はあるんだな~…」

 

「当たり前じゃん。そうでないと、ソフトボールできないじゃない」

 

「そりゃそうか」

 

キュアブルームは現役時代はソフトボール部のエースであったため、往年のニューヨークヤ○キーズの名選手の名を知っていた。ちなみに、その前の世代の中心選手だった『ルー・ゲーリッグ』は黒江がちょうど第一次全盛期であった1941年、史実通りに筋萎縮性側索硬化症(23世紀の医学でも発病後は治療法がほぼない難病。ひみつ道具の医療技術が統合戦争で失われたこともあり、ハーロックの技術提供でようやく、治療に道筋が見えた段階。そこから更に100年後に『早期発見で…』という条件ながら、きちんとした治療がようやく確立された難病)で死去している。

 

「ゲーリッグは史実通りに死んでるんだよなぁ。ファンだった親父が試合を見せてくれたけど、あたしが物心つく頃には引退間近だったしなぁ」

 

シャーリーの父親はディマジオの前の世代の名選手であるルー・ゲーリッグの大ファンであったらしいが、シャーリーが物心つく頃には、彼の選手としてのキャリアが病魔によって終わりかけていたため、シャーリーはあまり印象にないという。

 

「親父の奴、泣いてたからなぁ、引退ん時。だけど、ゲーリックのプレイはあまり覚えてねぇんだ。引退間近の時に子供だったし」

 

シャーリーの『覚醒』は軍志願の後の時間軸であること、ゲーリックの引退間近の時期に年端も行かぬ子供だったので、ルー・ゲーリッグの事はあまり記憶にないと言う。

 

「それは残念だな~。聞けると思ったんだけど」

 

「あたしの先輩達なら、その事を知ってると思うよ。あたし、軍に入る前はレーサーだったし、その時に魔力が発現して軍入ったから、野球は跡切れ跡切れなんだよ。士官学校行ったし」

 

シャーリーはレーサーから職業軍人に転じた経歴もあり、野球との縁は薄かった(その点は個人的にスポーツ好きな黒江と差異がある)事がわかる。

 

「時代出るわ…。私達からすれば大昔の選手で、本の中でしか知らないもの」

 

「ま、1947年ってのは、本当なら日本は焼け野原から立ち上がる段階だし、90年代生まれのじーさんばーさん世代もまだ小さい子供のころだからな。史実なら、ここから40年でやっと、日本がバブル期だし、如何に昔かって事さ」

 

「この世界は何処が違うの?」

 

「中国が明の頃の段階で怪異に負けて、李氏朝鮮諸共に滅んだ事かな。織田信長が最終的に幕府を開いて、1868年まで幕藩体制だったから、日本は支配者が違っても、幕藩体制はあまり変わりがないよ。鎖国しなかったけど」

 

「そこは変わりないのね」

 

「日本人は保守的気質が強いからな。如何に織田信長が改革者だとしても、既存の体制の完全否定はできなかったんだろう」

 

イーグレットの質問にメロディとドリームが答えた。ウィッチ世界は織田信長が本能寺の変での落命をウィッチであった森蘭丸の献身で免れた世界だが、巷で言うほどの改革はせず、史実の徳川幕府より柔軟でありつつも、伊達政宗など、信長の統一時にも勢力を保っていた勢力への牽制も兼ねて幕府を開いた事が明言された。(奇跡的に、安土城は焼失を免れている代わりに、江戸城は皇居になっているが、天守の焼失は判明。東京五輪を大義名分に、天守の再建が検討中という)

 

「江戸城は史実通りに燃えてる。保科正之が史実通りに再建を選ばなかっただけだけど、日本側の一部から文句が出てね。仕方ないから、五輪を大義名分にして、天守の再建だって」

 

「なんだかめちゃくちゃな要求ね」

 

「21世紀の日本は文化庁や宮内庁がうるさいからね。再建は夢だよ。この世界の現存天守を保護して、観光資源にしたいんだよねぇ。元持ち主の旧大名家は困惑してるけどね、土地売って、大金を得ようとしてたから。華族も全部がテンプレ通りに唸るほど裕福じゃないからなぁ」

 

日本連邦でこの時期に問題になったのが、ウィッチ世界の現存天守の扱いである。織田家の天守である『安土城』、豊臣家の天守の『大阪城』、『徳川家の名古屋城』の天守は国宝指定のため、1940年代でも現存するが、かつての持ち城の敷地そのものの維持費が出せないとする旧大名家は少なからず、国への敷地の売却などを行っていた。この世界では本家が侯爵家である伊達家もその一つであったが、日本側が強引に軍への売却を差し止めた事で伊達家そのものがパニック状態に陥る、大阪の大阪砲兵工廠が陸軍兵器行政本部の移転などの理由で操業停止状態になる(跡地に史実同様に大阪城ホールを建てようとしたが、雇用を失うのを恐れた現地の反対で半ば頓挫している)など、国を揺るがすほどの雇用パニックが継続中である。当時、革命未遂と戦争の混乱でその能力が大きく低下していたオラーシャの軍需工場を凌ぐアジア最大の工廠(関係工場を含め、約20万人の雇用を捻出していた)の閉鎖、移転は並大抵の問題ではなく、日本側が『軍需工場を急いで地下化する』扶桑の提案を呑む理由となった。扶桑の軍事工廠の多くは本土・外地を問わずに重要分野のものを中心に地中貫通爆弾も弾く強度のジオフロントに設けられた地下街へ移転していき、地上施設の多くは民需への転換が進められていくわけだ。この頃はその転換期にあたる。文化財関連の国際条約の締結も日本連邦主導で行われた(その時にエディタ・ノイマンは発言の真意が理解されて免責され、階級も元に戻ったが、彼女は鬱病を患ったためもあり、軍務そのものへの意欲が失せ、周囲に惜しまれつつも、1948年1月付けで『大佐』として退役。以後は自身の興した機械会社の社長に転じ、財を成したという)。また、日本連邦、とりわけ日本は核兵器ではない大量破壊兵器の使用そのものは積極的であり、リベリオン東海岸への拡散波動砲、もしくはマクロスキャノンの照射を提唱し、扶桑や地球連邦軍の顰蹙を買っているなど、太平洋戦争の敗北が理由なのか、アメリカへの復讐心を垣間見せ、後のジオン公国が億単位の人々の殺戮も厭わず、大陸を水没させるほどの大量破壊を厭わない思考になることの『芽』も日本側は見せている。

 

「ああ、隊長?あたしっす。ええ。ええ、え?日本側が拡散波動砲をリベリオンに打ち込むの求めた?」

 

武子から唐突に電話がかかり、シャーリーは出る。武子から『連邦評議会で、開戦の暁には、アンドロメダ級でリベリオン東海岸に拡散波動砲を撃ち込んで、東海岸の全都市を波動エネルギーで薙ぎ払え!』とするトンデモ論が飛び出し、地球連邦軍、扶桑皇国の双方を閉口させた事が伝えられる。

 

「日本は何考えてやがるんです。核嫌いのくせに、それ以外のものでの大量殺戮は厭わないのか!?クソッタレが!」

 

キュアメロディは生前と違い、かなり血気盛んになった側面を見せる。日本側の荒唐無稽すぎる提案を聞かされ、激怒したのだろう。皮肉な事に、死に体の大日本帝国に二発(広島・長崎)もの大量破壊兵器を使ったアメリカ相当の国家がそれを遥かに超える、惑星や銀河を破壊可能な大量破壊兵器を持った日本によって、その大量破壊兵器(拡散波動砲だが……)の標的にされそうになる。歴史の大いなる皮肉と言える出来事であった。

 

 

 

 


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