異能者が正式に国防の要と決められたのは、軍縮と軍拡を短期間に繰り返せば、国家財政がガタガタになるからである。これにより、軍艦の量産に歯止めがかかった。個艦あたりの戦闘能力を極限まで上げる方向となったため、超大和がバンバン量産されることになった。敵がモンタナ級戦艦を量産したからである。現代艦は戦艦の代替になりえないことが怪異の存在で明らかとなったため、保有目的の半分は怪異への直接火力の維持に切り替えられた。ミサイルは迎撃の危険があるからで、そこもミサイルが砲熕装備を駆逐しきれなかった理由であった。また、船体装甲は生存性確保のため、構成素材が変更されるに至った。
扶桑皇国は地球連邦軍の技術で戦艦を改装、あるいは新造した。その手引は野比財団が行った。また、居住性も政治問題化したため、不燃材を使用した家具が普及していった。また、調度品も元に戻された。家具の撤去を主導した武蔵の先任士官が『兵のことを考えていない』との猛批判を浴びたショックのあまりに、傷心の勢いで拳銃自殺してしまったのを受けての緊急処置であった。坂本もこの政治問題化に『武蔵は連合艦隊旗艦ではないんだし、一戦艦での取り組みに目くじらを立てんでも……』と苦言を呈した。扶桑は欧州戦線の参戦のため、史実の日本海軍よりは居住性を重視していたが、武蔵の居住性の問題が政治問題化した結果、大パニックを誘発。軍楽隊の練習機会の確保の問題なども絡んだため、結局は自衛隊の基準での居住性に統一することが決められた他、飲酒は(兵の士気に関わることから)当面は据え置かれることになった。これは軍に卸している酒造業者への補償の問題があったからで、どうにもしまらない結果となった。
その一方で『士官専用食堂』は経費削減で廃止されようとしたが、マナー等を学ぶ場所としての存続が嘆願されるなど、日本の思うような結果にはならないことも多かった。また、軍人が来なくなったことで経営が立ち行かなくなる料亭も続出。結局は『自主的に行く分には文句は言わない』という妥協で、料亭への物的補償がなされた。こうした『余計な出費』が嵩んだことが、扶桑海軍の形骸化を進展させた。日本側も『まさか、こんなことになるなんて』と、想定外の連続にしどろもどろ。この有様を隠蔽するための工作に多額が費やされた結果、空軍が事実上の海兵隊代わりに酷使され、人員に白兵戦能力まで高度に求められるに至った。そのため、1939年~43年に育成された『促成世代の魔女』は『実務で役に立たない』という烙印を押され、その代表格たる魔女たちは64Fで『同期の名誉回復』のため、最前線で生きていくことになった。
空軍は旧・陸海軍の基地航空隊と一部の艦載機部隊で構成されていた。艦載機部隊に関しては手違いであり、該当部隊は『旧任務の継続』が指令されるというグダグダ。現場のほうが大パニックになってしまった。これは日本の警察系防衛官僚らが『航空戦力の一括管理』を目指したためだが、却って現場のパニックを引き起こしたために白紙撤回され、海軍航空隊は存続した。また、レシプロ機からジェット機に切り替わる時期を迎える時代であった故に、装備や運用思想の更新が早急に必要とされるなど、空軍とて順風満帆ではなかった。64Fはそんな中でのトップエリートかつ最精鋭部隊とされたため、一般隊員でも使用装備は『ドラケン』、『F-5E』、『クフィール』などの世代のジェット戦闘機であった。現代の目から見れば『旧式』だが、レシプロ機や最初期のジェット戦闘機が飛び交う時代では『別次元の飛行機』であり、一回の出撃で一機あたり40機を叩き落とすのもザラであった。
「ドラケンは誰の趣味ですの?本来、南方での運用は想定外のはず」
「のび太とドラえもんの趣味だよ。あいつら、エリア88を読んでたそうでな」
「確か、ジェット戦闘機の空戦での古典でしたわね」
「この時代はまだ、零戦の時代からそんなに経っていない。そんな時代にマッハ2級の戦闘機なんぞ、本来はオーバーキルだ。だが、人が死んだだけで野党の政治家は不手際と叩くそうでな。それで、機体の性能差でボコボコにしとけという政治決定だそうだ。この世界は通常兵器が遅れがちな世界だから、ハチロクで15年は制空権を握れるという見通しだったそうなんだが、「楽観論にすぎる」と参謀が何人も更迭されてな。その結果が現用レベルの戦闘機の配備だそうだ」
「いい戦闘機を与えたとしても、早期警戒機や地上の支援は必要ですのに。多少噛んだだけの私にもわかることですのよ?」
「そんなハイカラな装備は、この部隊だけだ。他は戦後水準の電探と地上設備用の無線電話を与えただけだそうだ。まぁ、他は最近まで零戦や隼、下手したら昭和初期の複葉機に乗ってた連中だから、下手にハイテク与えても、猫に小判だと思ったんだろう」
64Fは21世紀水準以上の探知装備、無線通信装備、整備体制を整えている。現用レベルの装備をきちんと整備し、円滑に運用できる唯一の空軍部隊と言える。
「とはいえ、重要地域の防空はレシプロ機じゃ荷が重くなってきたそうでな。F-104やドラケンが採用された。ドラケンはのび太の後押しだそうだ。F-20もエース用に採用された。西側諸国の戦闘機だから、防衛省も文句言えんよ」
「戦車は?」
「自衛隊の61式や74式はライセンスの発行を日本側が渋ってな。イギリスのセンチュリオンやチーフテンが数的主力になる見込みだそうだ。それも最終型相当での生産になる。敵はやっと、90ミリ砲戦車の量産が軌道に乗ってきたんだぞ?そこに105ミリ砲や120ミリ砲を載せろと言われればな。自走砲に至っては155ミリ砲だ。現場のほうが泡吹いたそうだ。75ミリ砲戦車がトレンドになったと思ったら、その時代の重戦車の火砲が中戦車に載せられる時代に入ったから」
「だから、この大陸で戦場を留めろと?」
「本土はチハの運用すら覚束ない道路事情でな。今、急いで改善させているが、この戦争には間に合わん。だから、既存のインフラに左右されんMSに傾倒しているそうだ。それも、自分で空輸できるTMSに」
地球連邦軍では可変戦闘機と小型MSの登場で廃れかけていたTMSだが、物理的耐久力の限界により小型機が衰退したことで生き返った。扶桑は積極的に導入しているが、そのエース機の大半は64F専用である。それはガンダリウムの加工設備があり、燃料であるヘリウム3ガスの貯蔵庫も備えているからだ。
「第一次世界大戦の高射砲が普通に残ってる状況だったそうでな。日本側がやたらめったらに高級将校をクビにしまくったから、現場は恐慌状態。あいつらが軍全体の装備計画を整えてるそうだ。世界大戦になった以上、戦後の迎撃ミサイルは高すぎるからな」
迎撃ミサイルは戦略爆撃機を如何な高高度でも叩き落とせるものの、一発あたりの値段があまりに高額である。黒江たちが軍全体の整備計画に関わるのは、史実の惨状を理由に防空責任者の多くを懲戒免職にしてしまったからで、現場を恐慌状態に陥らせては本末転倒である。仕方がなく、自衛隊で近代的防空を学んだ黒江が防空計画を整えるしかなかった。この体たらくは扶桑軍の勢力図を塗り替えるには充分で、黒江たちが軍隊の行政決定権をも握るきっかけとなった。これは日本側が『史実で防衛を軽視したから』という理由で本来、軍行政を動かすべき将官と佐官を大量に免職に追い込んだからで、内政干渉の批判を恐れた日本側は代替の人員も充てがうこともしなかったため、その心得がある黒江たちが複数の部署を統括管理せねば、まともに機能しない始末であった。
「おかげで、『こいつ』も装備の採用に一定の権限を持たせられてるようでな。面倒な仕事が多いんだ」
「日本側はヒステリーを起こしても、史実で過ちを犯した方々とは『似て非なる者』だと認識していますの?」
「わかっている連中も多いが、政治家や一般人がそんな概念を理解するのは、のび太の時代が終わった後だそうでな。連中は溜飲を下げられればいいんだ。その後にどうなろうとも。だから、この国はあいつらに命運を託しているんだ」
「軍部の高官達を排除したとて、その後に『職責に耐えうる』人材を用意できなければ、組織は機能不全に陥りますのに。故に、あの方々の一騎当千に?」
「ああ。こいつらもだ。私たちはしばらくの間、戦争に関わることになる。それも、背後にナチの亡霊共が絡んでいる……な」
「ナチの残党など、とうに消え去ったものと思いましたが、しぶとく生き残っていたとは」
「それがティターンズ残党やネオ・ジオン残党を利用するって堂々巡りみたいな話だ。それも同盟国だった日本を狙う。だからこの世界のドイツ人は、血の献身で友好姿勢を示さんと、信用されんそうだ」
ミーナの不祥事の報道後、在扶カールスラント人は身分を問わず日本連邦に尽くさなければ、社会的信用を得られなくなった。これは決定的な不信を招いたからで、ミーナが数十年も故郷の土を踏めなかったのは、国の大衆に精神的にも多大な苦労を強いたからである。さらに言えば、連合軍全体で『扶桑の不信を決定的にすれば、連合軍は今度こそ瓦解する』という危機感が共有された故、人種差別思想が今度こそ淘汰されたのである
「裏で侮蔑していたのがバラされ、経済制裁で国家が滅びかけたという報を聞けば、連合軍も人種差別思想は捨てるでしょうね」
「アメリカという兵器庫がなくなった以上、日本に現状の軍事力を持ち続けさせるしか、国際協力体制の維持もできんご時世だ。おまけに、ティターンズの残党は旧米露製の弾道ミサイル、それも水爆搭載のものを数百は持っているらしくてな。それを使われちゃ、この世界の欧州は滅ぶ。あるいは『捨てた街ごと敵を吹き飛ばす』なんて戦術をするかもしれんそうだ。100発もあれば、有にアメリカの全部の主要都市を滅ぼせる。それもあって、諜報機関は核兵器の貯蔵庫を探っているらしい。」
地球連邦軍と連合軍が危惧していたのが、リベリオン領内で核兵器を意図的に地上で起爆させる戦法をティターンズが行うかどうかで、それをしてしまえばリベリオンの完全な復興は21世紀になろうと消えてしまう。そうなってしまえば、日本連邦に自然に飲み込まれる。自由リベリオンは『90年代の再統一』を目指しているため、なんとしても、今時大戦での西海岸の奪還は必要であった。そのため、アメリカ合衆国に援助を要請し、兵器開発を促進させているのである。つまり、地球連邦軍は波動砲、ティターンズは核ミサイルでの相互破壊確証の時代を魔女の世界で迎えようとしていた。
「遠からず、相互破壊確証での冷戦の時代を迎える。その時のアメリカ役をやらされるのは確実だから、自国のサブカルを育てるほうに資金を費やすそうでな。政治が戦争を許すのは、この10年以内。その時間で軍事的な優位をなんとしても得ろとの御達しだ」
「出資者は無理難題を仰ること……」
「旧来の地主や華族の地盤を戦争でガタガタにして、立身出世した企業家に社会の中枢を入れ替えたいんだろうが、連中は一度でもコケたら、無力なんだがな」
「それをわかってるから、史実の名家の温存を試みているのでしょうね」
「ある程度は名家がなければ、欧州の信用を得られんからな。メジロとシンボリが凱旋門賞の勝利への模索を始めているようにな。史実ではディープインパクトも、オルフェーヴルも無理だった。だが史実の因果が終わった私なら、却っていい結果を引き出せる。それはあいつも指摘してるはずだ」
「ローレルさんが納得なさるとお思いで?」
「だが、奴は遠征自体がフラグだ。行かないほうがいい。少なくとも、芝が硬いと見込まれる年はな」
と、サクラローレルの脆弱な足のことが気がかりであるというブライアン。ロンシャンを走れば、儚く散ってしまうほどの弱さ。
「サトノダイヤモンドも、あれで脚を潰しているからな。あそこは鬼門なんだ。ディープインパクトは名声に傷が入って、下手すればトレーナーが責任を取らされる。だから、私が行く。既に終わったと言われていた身だ。何を言われようと、怖くはない」
それがブライアンなりの史実への反逆であった。ブライアンは全盛期を終えれば、後は周囲からの冷たい視線を背に、ターフから孤独に去るはずであった。だが、記憶の覚醒がそのチャンスをもたらした。オルフェーヴルは何もしなくとも、栄光が約束されている。だが、ブライアンに待ち受けているのは、下手すれば『病魔』もセットになる。
「あ、一つある。ゴルシに伝えとけ。ウインバリアシオンには気の毒だが、奴は絶対にオルフェーヴルには勝てない。史実の引退寸前の頃の出来事は知ってるな?」
「ええ。余命いくばくもない子供と交流したのですわね……」
「その出来事は起きるだろうから、オルフェーヴルは絶対に負けん。ウインバリアシオンは下手したら、勝ち逃げされたショックで脚を潰し、その後に車椅子になってしまうかもしれん。ゴルシに『釘を刺しておけ』と伝えろ」
「わかりました。そのように」
ゴルシはこの日、ルドルフに呼び出され、正式な報告のために戻ったので、ブライアンとジェンティルは居残っているわけだ。
「お前、医学知識はどこで?」
「叔母夫婦が総合病院を経営しておりまして。もう一人の叔父も診療所を。医学部に誘われていますけど、アスリートとして大成してしまいそうなので、返事は保留してあります」
「医学部は六年+研修期間で八年近くだし、戦力と見なされるのは30代半ば以降だ。おまけに、近ごろはクレーマーも増えているから、どこかの医局に属するのは馬鹿らしい。漫画のような、高潔な精神で働く医師などはいないからな」
「ええ。なので、この方(水無月かれん)が医局の派閥抗争を嫌がったのは理解できますわ」
「かと言って、漫画のような闇医者も現実にはいない。軍医で実践力を得るというのは理に適うことだ。幸い、日本軍と違って、医療品は余るほどあるからな」
「魔力の治癒魔法はどのような?」
「応急処置や緊急救命以外での使用が規制された。おそらくは免疫の獲得などとの兼ね合いだろう。まぁ、近代的な抗生物質は耐性菌が生まれるから、それに比べれば便利だが」
「仕方ありませんわ。時代を考えれば、ペリシリンが持て囃されている頃。ステロイドは愚か、ペリシリンの次の世代の抗生物質は影も形もない。安易に使えば、現代の抗生物質にも耐性菌は生まれるもの。それを理解させるために、講習を行っているのでしょう?自衛隊は」
「ウム……。魔法はガンの治療にも使えるが、医学の発展との兼ね合いもあるからな」
こうして、治癒魔法の安易な使用(任意的な)が法的に規制され、近代医学の発達が促される環境となったが、朝鮮半島が滅んだために、『伝承の残るだけ』とされていた『朝鮮人参』(オタネニンジン)の復活が人工島で実験されるなど、交流の恩恵も表れている。ブライアンとジェンティルは個人トレーナーが医療の心得(親類に医者がいる、あるいは研修医の期間の時に、家の事情の悪化で、医局への就職を断念したとのこと)を持つ者であったので、医療知識も多少は持ち合わせている。その関係か、その方面のことに興味があるようだった。
「オグリさんが現役の頃に言っていたことだが、私たちは『魂に刻まれた役目』を終えると、能力が衰え始める。記憶の蘇った今なら、なんとなくわかる。だから、私たちは抗っていこうじゃないか。種族の宿命に」
「ええ。サクラチヨノオーさんのように、ダービーを終えた途端に衰え始め、早期の引退を余儀なくされた例もあります。オグリさんはそれを知ったために、自らとライバルの方々のレース寿命を引き伸ばした。その弟子である貴方は、自らの転落の史実を超えるために。方向性は違えど、選ぶことは似たようなものですのね」
「お前も、アーモンドアイが台頭すれば、歴代最強と言われる名声は色褪せる。それは望まんだろう?デアリングタクトも、それで名声を落とした感があるからな」
「アイさんの罪は、二人の後輩に十字架を背負わさせたこと。さらなる後輩のグランアレグリアさんなら、アイさんに勝てますが、彼女はマイル限定ですからね」
「王道の距離で敗北を味あわせる。あいつを精神的に育成するには、敗北の味を教えるのが手っ取り早いと、アーモンドアイのトレーナーは言っていた。だが、あいつは当代最強である故に、太刀打ちできる者がいない。お前がその役に相応しいと言っているそうだ」
「やれやれ。王者であると、次世代を育てるために、悪役を演ずる事も課されるとは。気は進みませんわね」
「だが、アーモンドアイが無自覚に叩きのめした結果、後輩二人は後ろ指を刺されることになるからな。それを緩和するために、お前にはヒールになってほしいとのご達しがあった」
「会長を介してのご指示とは…。難儀なことを」
と、ジェンティルに『アーモンドアイに対しての悪役を演じろ』という御達しがあった。これはスポーツマンシップを教えるためでもあると、ルドルフはブライアンに伝えたという。
「次世代を育てるのも、最強の役目だ。私はそれすら許されなかった身の上だ。だが、お前には立派な子供がいる。今の私にはできないことをやってほしい」
ブライアンは正確に言えば産駒は儲けられているが、いずれも親の才能は受け継いでおらず、母系で僅かに血が残るのみ。一方、ジェンティルドンナも子どもたちは殆どが母親の才能を継承出来なかったが、ジェラルディーナがG1ホースとしての継承者になっている。
「フフ、貴方も丸くなられましたわね」
「一匹狼を気取って、ガキのようにイキるような年では無くなったし、そう振る舞ったために、失いたくない誰かから引き離されたからな……」
多少の自虐を含みつつも、自身の個人トレーナーに親愛を抱いていたことを明確にするブライアン。その悲しい体験と、父親と袂を分かったからか、『自分の跡継ぎがいる』者が羨ましいような素振りを見せる。これは、ブライアンは後継種牡馬になれる子供を儲けられないままで夭折した前世を持つが、ジェンティルドンナはジェラルディーナという後継ぎを残したことによる。全盛期であれば、絶対に口にしないであろう、ブライアンの『柔和な物言い』に、ジェンティルドンナは『落ち目を迎えた後は復活は叶わなかった』という史実を知ってしまった故の哀しさがあるのだと悟ったのだった。