かくして、そんな経緯があったのである。時間軸は戻り、一同が定期的な地下街とその入口付近の見回りをしていると。
「うお!!来やがった!」
怪物が姿を見せる。付近の地面(未舗装)を陥没させながらの登場である。菅野はとっさに、手持ちのG3アサルトライフルを撃つ。アサルトライフルは1940年代前半期の軽機関銃の役割を一部でも代替する目的も、生まれる理由に含まれている。ボルトアクションライフルが歩兵のメインウェポンから陥落しつつある時代だが、扶桑陸軍では嫌われ者に近かった。弾の消費量が増えることの懸念からであったが、もはや、ボルトアクションの時代ではないので、扶桑陸軍も最終的に配備を了承した。史実日本軍の惨状を知り、上層部が顔面蒼白になったからである。
「以前よりはマシになったけど、接近戦出来ねぇのはなぁ。固有魔法も宝の持ち腐れだぜ」
菅野は元々、拳で最後の決着をつけるのを好んでいたが、今回は接近戦ができない相手なので、大いに愚痴る。
「俺だ!D地区に出やがった!」
「なんとか、ダメージを負わせろ!」
「今やってる!」
と、発砲音を響かせつつ、戦闘を行う。怪物はやがて悲鳴を挙げ、開けた穴へ引っ込む。
「逃げやがった。が、どうにかダメージは負わせた」
「ご苦労。今のうちに弾を補充して、合流しろ」
「了解」
扶桑軍は極度の人手不足により、佐官であろうとも、このような使い走りが常態化している。これは航空部隊の中堅将校の不足によるものであった。元々、主軸としていた下士官層が一斉に士官とされた影響で、再教育が必要となったためである。元々、無学な地方出身者が立身出世のために入ってきていたのもあり、いきなり、戦後基準の高度教育を施すのは不可能に近い。そのために、軍人の再教育のための手段の構築が急がれていたが、それには、長い時間が必要になるので、結局は現場に負担を強いるのみであった。また、黒江たちのような逸材を後方に回すと、今度は前線が瞬時に崩壊してしまうため、リベリオン方式の定期ローテーションは取れない。扶桑の根本的なパイロット人口の不足によるものであると同時に、扶桑の人間は武士時代の倫理感が根強く、前線勤務者の後方勤務への異動=冷や飯食いか、引退者の隠居先という認識であったための世論の無理解も大きかった。実に極端であるが、異能者でなくとも、ずっと前線で戦っているほうが、世間に英雄扱いされるという風潮があるため、魔女に限らずも、一回は前線勤務の経験がなければ、世間に臆病者扱いされてしまう。64Fへの在籍はそんな風潮への免罪符としての役目をも持たされつつあった。通常兵器部門はGフォースの者や、地球連邦軍からの派遣で賄られていたわけだが、極僅かに、扶桑軍の機動兵科設立の準備のための研修生も含まれており、扶桑は静かに、人型機動兵器を主軸に添えようとしていた。これは少数精鋭で大多数を打ち破るのを好む、日本の政治家へ受けが良かったのもあり、公然と推進された。戦車の大量更新を阻むものがあったためで、結果的に、このMSなどの配備推進が扶桑を最強の国家へ躍進させていくことになった。
おおよそ数十分後
「マガジンを一個使い果たすまで撃ったが、ダメージは軽そうだったぜ」
「元々、カンブリア紀の硬い外殻を持ってた生物の生き残りだ。闇雲に撃っても、効かねぇな。かといって、ヘビみたいな姿だから、殴るにも、殴れねぇしな」
「どうする?」
「マジカルが、ガキを拾ったそうだから、明日には作戦会議だな」
「割に新しい世代のガキだろ?大丈夫なのかよ」
「戦闘向けの特性ありだから、大丈夫だそうだ。定食屋の娘だから、ひかりの負担が減る。宮藤が産休で、いちかとローテーションさせてるが、ハードだし」
「そりゃいい。しかし、兵学校の同期から聞いたんだけど、超甲巡の名前が完成直前で変更されたんだって?」
「黒江さんが言ってたが、元々は新高って名前が内定してたんだが、新高山は戦後は外国の山になったから、日本側が撤回させようとしたんだそうだ。しかし、この世界の中国はとうに滅んでるから、揉めてな。二番艦に予定されてた『黒姫』をネームシップに繰り上げすることで妥協されたそうだ」
結局、超甲巡に予定された『新高』の名は21世紀世界の中華民国(台湾)への配慮で、封印の措置が取られたことが語られる。書類の修正が間に合わなかったため、黒姫は二番艦とされているが、ネームシップに繰り上がった。二番艦は『蔵王』という風に改訂され、結局、この騒動後に台湾関連の地名が扶桑の軍艦につくことは(政治問題化の回避ということで)無くなった。大衆の不満解消のための措置が、台湾地域への高速鉄道の敷設であったという。
「政治的横槍かよ」
「仕方ねぇだろ。台湾と揉めるわけにはいかないし、玉山ったって、扶桑の台湾在住者が納得するか?」
「確かに」
「それに、ダイ・アナザー・デイの時、中国の諺を知らないだけで、各国軍の将校を減俸処分にしまくっただろ?あのせいで、文句が出たそうでな。結局、座学の徹底で決まったが、前線にそんな余裕あるか?それもあって、大学に行けって言われた奴は多いが、中学相当の学校にも行ってねぇ奴が大半だぞ?ったく」
「カールスラント軍の連中も、ギムナジウムなんて、はなっから縁がない家柄の奴が多いんだぜ?それを無学者って笑うか?戦後日本みたいに、中学、高校をほぼストレートでいくのはな」
結局、時代的な限界で、連合軍全体の魔女そのものに中等教育すら怪しい者が多すぎたのもあり、大学に通った、あるいはそれに匹敵する学識を持つ異能者が酷使される状況は固定化されつつある。また、この時代は最高学部に行くよりも、軍人としての立身出世が尊ばれていたご時世。学費等の問題がない貴族や富裕層の子弟は最終的に軍人になることで、ノブリス・オブリージュを果たしていると見なされていたので、侯爵家の分家筋の黒田であっても、士官になっていたのである。それに無知な戦後日本の政治家と官僚が問題を起こしたので、大卒相当の学識を持つ者が幹部層である64Fは、なんでも屋扱いされだしたのである。
「そういう問題があったから、うちらがこういう仕事もやらされるんだ。他の部隊は問題を起こしそうだからってな。最低でも、21世紀の日本の進学校の高校生くらいの学識があるってんでな」
「ったく……」
他の部隊は『変に武人ぶってる奴がいるだろうから、問題起こしそう』という理由で、こうした害獣駆除にも駆り出されない。64Fは21世紀以降の職業倫理を持つ者が幹部層なので、大衆と揉め事を起こさないと期待されているからである。また、扶桑軍で当たり前にあった『攻撃精神』が否定されてしまったことで、自暴自棄に陥る者が海軍系のパイロットや魔女に多かったため、海軍の古参は嫌われ者になっていた。日本の政治家は陸軍を嫌うが、航空分野では逆であった。
「海軍航空は嫌われ者だぞ、戦後は。精神論に凝り固まったとか。そういう嫌味言われっから、不貞腐れはやめとけ」
「わーってるよ」
菅野は海軍航空の出身である。攻撃偏重と叩かれる、元の所属組織を憐れんでいるためか、政治家などを嫌っている。政治側も『軍をやめさせたら、鉄砲玉とかになりそうだし……』ということで、菅野を手元に置いている。菅野は(平行同位体が戦死者であるため)自分は平和な世界に馴染めないだろうと思っており、軍に骨を埋めるつもりであった。このような思考に至るのは、軍人に多々見受けられ、かの古代進も、世界線によるが、家庭を顧みずに仕事に没頭していたほどだ。こうした『平時には無用の長物と見なされていたのが、いざという時に大活躍する』事例が相次いでいるため、64Fは『有事に使える人材のストック先』と見なされているのである。平時には問題児でしかない菅野も、有事では撃墜王と持て囃されるからだ。これはイサム・ダイソンとも共通する。
「で、海軍はどうすんだよ、戦闘艦艇の更新」
「日本側は従来式の巡洋艦や水雷艇を一律で廃するつもりだったらしいが、巡洋艦としては重装甲のデモインが量産されちまったから、ミサイル巡洋艦の需要が低くて、困ってるそうだ。ミノフスキー粒子で、ミサイルは宛にできなくなってるから、ミサイル艇も求められてねぇしな」
「おまけに、ゴジラの実在が現実味を帯びてきたんで、巡洋艦はかなり、立場が危ういんですよ。それも、長門型戦艦の41cm砲でも、火力不足と罵る始末だそうです」
「何がいいんだよ、連中は」
「ドーラじゃねぇの?」
「クソッタレ」
扶桑は結局、この頃には、ゴジラの存在を恐れ始めた日本政府の要請により、61cm砲の研究を(対怪獣用に)再開せざるを得なくなった。本来は扶桑も『さすがに実用性はないよなぁ』ということで、ダイ・アナザー・デイ中に中止していたが、対ゴジラの観点を優先した日本政府の要請で、開発が再開されたわけである。これは原爆が非実用的だとされた世界故に、『敵は絶対に、56cm砲艦を造ってくる』という強迫観念があったことも関係している。今回の怪物も、太古の大絶滅を怪異などの要因で生き延びた種族であろうと推測されており、日本政府も(過去の闇に葬られた事案から)、戦艦や列車砲級の火力を必要とした。その兼ね合いによる兵器開発であった。
「三代目相当以上のゴジラには、ビームもレーザーも意味ないし、死ぬとしたら、体内炉心のメルトダウンだろう。日本はせめて、撃退できる火力を……ってことで、求めてんだろうさ」
「あっちこっちを軍から切り離した弊害も出てますから。競馬を軍から切り離した上で、振興しようにも、適齢期になってた軍馬は引き取らなきゃならないからなぁ。軍馬種の復活を日本でしようにも、気性が荒いのも多いし」
このように、事業を国家から切り離したら、損害補償金が(却って)嵩んだ事例も続出したため、結局は『戦時の継続中は現状維持を認める』という方便で、現状維持が図られた。民需への転換にも、金がかかるのである。同時期に比較的に軍需と民需の両立が出来ていた自由リベリオンも似たようなことで苦慮しているので、連合軍全体の資金難は、戦争の長期化の原因であった。
「だから、他の部隊が動かないってのはな」
「下手に動かれて、マスコミに不手際を挙げ連ねられるよりは……ってヤツですよ。だから、私達は高い給料もらえてるんですから」
「割り切ってんな、お前」
「師匠が歴史を変えないと、普通に死刑されそうになってた身の上ですからね、私は」
調は古代ベルカでの生活の経験もあり、結構割り切っている様子を見せた。この仕事ではプリキュアとしての初仕事であるので、プリキュアの姿を維持している。大人びた外見になっているが、精神面で完成された状態で覚醒したため、声色に変化はない。
「日本に罪があるとすれば、歴史の流れに支流があることを認めようとしなかったことですね。なのはさんのミッドチルダにしても、TV版時空と劇場版基準の時空に大別されるように。ドラえもんも声の違う自分はどこかにいるだろうといってましたし」
「それな。日本の官僚とかって、大衆文化を軽んじてねぇか?」
「世界的に、そういうもんですよ。大衆娯楽はお偉い学者さん達は馬鹿にされるものですよ、いつの時代も」
「で、侵略戦争に巻き込まれ続けた末の答えがあれ(ゲッターエンペラー)か?」
「ええ。地球人類の存続という行動原理だそうで、地球人類を根絶やしにしようとする輩が出てきたら、星系ごと粉砕するのは当たり前だそうです。エンペラーが来たら、極道兵器でもいない限りは勝てません」
「なにせ、空間支配能力持ちだって話だしな……。あたしらは戦い続けて、そこに至らきゃならないんだろ?気の遠くなる話だぜ」
「対等に戦えるのは、マジンガーでも、カイザーやZEROクラスしかいませんからね。ZEROも因果律操作を無効化されれば、ただの強いマジンガーでしかありませんし」
「それも凄い話だぜ」
「しかし、あんなのが眠ってたんだ。ゴジラやガメラがいても、俺は驚かねぇよ」
「ゴジラにしても、初代や二代目ならまだいいが、三代目や四代目だと、特性的に不死身だから、災害扱いでいいよ」
ゴジラは大まかに、不死身ではない初代と二代、体内炉心のメルトダウンを起こさない限りは不死身である三代目、四代目などが存在する。シャーリーもそれは知っている。自衛隊は大まかに、二代目が三代目、もしくは四代目に進化する可能性を危惧しており、メカゴジラ等の開発を極秘裏にしていた。ガメラのように、先史文明が最終決戦兵器として創造した生物兵器であった存在もあるが、元はただの恐竜の生き残りであったのが、自然の猛威の象徴として君臨するゴジラは『宇宙意思の生み出した化け物』とさえ言われている。
「その撃退のために、61cm砲を?」
「おそらくは。要はビームやレーザーは一定以上の文明なら防御法があるが、実体弾は原始的故に、恐れられているんだ。ガミラスもそれで大艦隊があっさり全滅して、地球を馬鹿にしなくなったから」
ガミラスは実体弾への対処法を既に失伝していたため、ブラックタイガー等にしてやられることが常態であった。連邦軍はこの戦訓を重視し、実体弾の生産を継続。デザリアム戦役でも、『原理が原始的故に、高度文明は対処法を忘れている』事がプラスに働いた。その度重なる『古いものが最新の科学を屈伏させる』実体験が、地球人類が古いテクノロジーを維持する理由付けにされていくのである。
「ゲッターもマシンガン持ちだもんな。あれ、かっけーよな」
「マシンガン系は弾数管理が難しいですよ。竜馬さん曰く、レーザーキャノンは大ぶりだし、ビームランチャーは言うまでもない。だから、炉心に負担のかからない実体弾式は好みなんだそうで」
「で、コンバトラーVとボルテスはどっちが強いんだ?」
「後発の分、ボルテスに分があるそうです。コンバトラーはサーメットが装甲なんで、実は意外に耐弾性は強くないそうな。まぁ、スーパーロボット基準ですけど」
「そういえば、あいつ、ちゃんとやれてんのか?」
「トレセン学園の生徒会からの映像です。ちゃんと代役をこなせているようですよ」
トレセン学園の生徒会やブライアンと近しいウマ娘達の特訓により、ブライアンの肉体を使う『コツ』を覚えたらしいのぞみAは、この頃には、GⅢクラスのレースは余裕で勝利できるくらいになっていた。流石にGⅠはブライアンの絶頂期ほど、他との差がない(サンデーサイレンス系にあたるウマ娘らが台頭し、他のウマ娘の地力の平均値がブライアンの絶頂期より上がっていたので)ので、そこはテクニックで勝つ方法も覚えたとのこと。
「あいつは素の運動神経は音痴だったから、プリキュアでなくとも、運動神経がいい生活は初体験だ。多分、大人になっても、そんなには良くならなかっただろうからな。新鮮だろうな」
「かもな。……アメリカから圧力がかかってきたと、メールが来てる。吉田の翁だ。自由リベリオンの権利をどう獲得するか。それが上の懸案だとさ」
「そりゃ、占領期の失策が知れ渡れば、目の敵にする連中も出てくるからな。名古屋城、広島城……まぁ。爆撃部隊は当分、本土に立ち入り禁止でいいんじゃないか?軍事交流は現地で充分にできるだろ」
「今のアメリカの大統領の意向だそうだ。それに、日本の敗戦はな。防空網の無力ぶりと、連合艦隊のサイパンでの敗北が招いたんだから、その心配がない以上、観光目的の本土への上陸は許可するしかないだろうな。それに、旧諸侯や公家に勝手に財宝を処分されても困るから、国宝級の建造物と財宝は国の管理下に置くしかないだろうということになる。金閣もオリジナルだし、この世界だと」
「あ、日本だと、戦後に、どっかのイカレポンチが焼いちまったんだっけ」
「おう。1950年だったな。だから、旧諸侯と旧公家は大慌て。結局、財産の保全のために、あれこれと民間に出資するアホが増えたんだそうな。まぁ、史実だと、華族はよほどの名門でもないと没落していくから、ある意味じゃ幸せだが。結局、男爵や子爵の家柄は華族っていう看板が無くなると、あえなく断絶していくことになるから、天皇陛下も妥協して、身分自体は残すことにしたそうだ」
「グダグダだな」
「まぁ、全部を日本に合わせる必要はないしな。それに、勲功華族に代わる、国家功労への労いを日本が考えつかなかったから、らしい。扶桑じゃ、勲功華族のほうが多くなってたしな」
と、シャーリーの口から、日本が扶桑に変容を強要できなかった点が語られる。扶桑は戦艦と重巡という、戦後には無い『直接打撃が設計目的の艦艇』を持つ上、空母機動部隊を持つ。大半が二次大戦式と言っても、重装甲の戦艦を想定した爆弾や魚雷に、戦後型艦艇、それも戦後基準の駆逐艦やフリゲート艦に当たる自衛隊の艦艇が真っ向から耐えられるはずはない。その軍事的威圧も、扶桑の日本への外交的優位を醸成していた。とはいえ、硬直化が進んでいた扶桑の国家統治のやり方を変えたという功績が、日本にはあった。また、戦艦大和と武蔵が国家の守護神として、史実よりは恵まれた艦歴を刻んでいることは、概ね歓迎されている。ただし、天皇が史実より国家行政に介入してきたことは愚の骨頂と断じられているものの、好意的に受け止めている扶桑の大衆も多いことから、日本は内政干渉になるとの言い分で、扶桑の昭和天皇への言及を避けている。連邦を組むとはいえ、扶桑は別世界線の国であり、自分たちが口を挟む余地はあまりない。日本国の政府はそれを理解しているが、末端の官僚や市民団体などはまったく理解しておらず、彼らが問題を起こすか、複雑化させるのが常態化していた。むしろ、最近はアメリカ大統領からの干渉が(代替わりで)増えつつある。そんな政治的暗闘の犠牲になるのは、前線の兵士たちであった。