ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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前話の続きです。


第二十五話「次元震パニック出張版その七」

――時空管理局はM動乱で疲弊し、一時は次元世界の覇者として振る舞っていたのが嘘のように、地球連邦政府のミッドチルダ出張所の様相を呈していた。首都をバダンにまともな抵抗もできずに制圧され、とうとう奪還できなかったことで組織の威信とミッドチルダの住民の選民意識は木っ端微塵に打ち砕かれ、時空管理局そのものが地球人によって造られた事という事実が明るみに出たため、管理局の上位組織たるミッドチルダ政府は地球連邦への参加を決議。動乱の結果として、時空管理局は正式に地球連邦政府の支配体制に組み込まれた。次元航行部隊は連邦軍に編入され、司法部門との分離が正式に決定された。だが、現場の要請で優秀な執務官の武装隊出向は人材不足がより顕著になったこともあり、継続されることになった。フェイトはその関係で、現場勤務を続けている。その時空管理局で異端視されたのが、歴史改変と転生の恩恵を受け、戦士になったフェイトの実姉『アリシア・テスタロッサ』であった――

 

――ダイ・アナザー・デイ中のある日――

 

「つぼみちゃん、今日は肉体本来の姿なんだね?」

 

「ええ。今日は管理局のほうで仕事が入ってるんですよ」

 

花咲つぼみ/キュアブロッサムの転生の素体になったため、アリシア・テスタロッサは魔導師としては平均以下の技量であっても、プリキュアとしての能力は経験値もあり、かなり強い。本来はプリキュア・ピンクチームの一翼を担うべき立場だが、今回の本職は研究者であるため、あまり戦闘に参加していない。

 

「本当は皆さんと一緒に戦うべきなんですけど、本職をサボるわけにもいきませんから」

 

「そうだよね。この間はありがとう。久しぶりに昔に戻れたよ」

 

「私も妹にいいところ見せることができましたし、いつか、えりかとも会えると思いますから」

 

「えりかか。実は大学の頃、卒論手伝わせちゃったんだよなぁ。同じ学部の同じ学科だったんだ」

 

「そうなんですか」

 

「あたしのいた世界で、だけどね」

 

のぞみはつぼみ(アリシア)に来海えりかが自分と同じ大学の同じ学科で、卒論の時に手伝わせた事を告げる。あくまで自分の世界での話だが。

 

「のぞみさん…、大学をよく出れましたね…」

 

「卒論書くのにカンヅメだったよ。えりかには悪いことしたよー」

 

のぞみは前世で大学の教育学部を出ているが、その際の卒論を書くのに、同じ学科にいた後輩の来海えりかを駆り出した事を告白する。ココとの約束を守るために教育学部の在籍中の頃が前世の人生で最も充実した時期だったともぶっちゃける。

 

「振り返ってみれば、大学の頃が前の人生で一番充実してた時期だったよ。はなちゃんとの約束も守れて嬉しかったし。あたし、どこで道を間違っちゃったんだろう…」

 

「のぞみさんらしくないですよ、そんなネガティブな事をいうなんて」

 

「上の娘がダークプリキュアになっちゃったからなのかな…。あたしなりに向き合ったはずなんだよ?あの子はあたしの全てを否定して、あたしを殺そうとした。それを下の娘が止めようとしてる時に寿命が来た…。たとえ、あたしの子供でも、一族にダークプリキュアが出た以上は倒すしかない。はなちゃんが聞いたら止めようとするだろうけど……」

 

「それ以外の方法も考えておくべきです。ゆりさんの時のような思いは誰にも味わって欲しくないですから…」

 

「…そうだったね」

 

「それに、二番目のお嬢さんがあなたの立場を継いだのなら、きっとなんとかしてくれてますよ。あなたの娘ですから」

 

「有希子……」

 

「それが二番目のお嬢さんの?」

 

「…うん。二番目だったから、お母さんが一族の通字じゃない名前をつけたんだ。だけど、結果的には、あの子があたしの立場を受け継いだ……」

 

のぞみの出身世界での二番目の娘の名前がここで明かされた。幼少期は病弱だったが、少女期以降は自分の特徴を色濃く受け継いだ面を表し、遂には成人後に後継者となったとも伝える。

 

「上の娘は何が不満だったんだろう…」

 

「たぶん、子供の頃に構ってくれなかった事、一族の通字を受け継いだのに、あなたの持っていた力は妹さんが受け継いだ。その事への悔しさが結果的に…」

 

「あたしも要素あるからな…。もし、りんちゃんに何かあったら…。怖いんだ。りんちゃんがいなくなったら、あたし……」

 

のぞみは転生後、りんを何が何でも守り抜きたい本心を吐露する。前世でりんに先立たれ、半ば鬱状態になってしまった事も告白する。アリシア(つぼみ)は精一杯、のぞみを元気づけるが、のぞみは心中にある一抹の不安を拭えなかった。この時の不安が最悪の形で現実となるデザリアム戦役は、のぞみにとっての転生後初の試練であり、友情と自身の心の強さが試される事になる。

 

「考えすぎですよ」

 

「だといいんだけど……」

 

のぞみは自身でも、前世での悔恨を引きずっている自覚があるらしく、不安気な表情であった。ただし、前世での経緯からか、『りんを失いたくない』思考を強めてしまっている。それがデザリアム戦役での自身の暴走を招くのである。また、自身の失いたくない者を傷つけられた時に、錦が持っていた攻撃性が表に出るようになった事が怖いとも言い、つぼみは精一杯の言葉をかける。

 

「たとえ、肉体が持つ錦さんの攻撃性が表に出たとしても、それも受け入れるしかありません。それもひっくるめての『現在』なんですよ、のぞみさん」

 

「つぼみちゃん……」

 

アリシア(つぼみ)の笑顔は精神的に不安定気味なのぞみには何よりの癒やしであった。表面的には現役時代の雰囲気を取り戻したように見えていても、前世の記憶がある故に、現役時代のような『拠り所』を求めている。それを感じ取ったアリシア(つぼみ)はカウンセリングを勉強し始め、数年後、カウンセラーの資格を取得する。のぞみはカリスマになれるが故に、悩みを戦友にすら中々打ち明けられないという弱点を抱える。その弱点がデザリアム戦役で表面化したことが、後にキュアアクアとキュアミントの参戦を促す事になる。

 

 

――デザリアム戦役中――

 

「フェリーチェ、教えて。あの子に……、のぞみに何があったの?」

 

「一言で言うなら、狂乱に近い状態です。りんさんがアナーキストのテロリズムで記憶喪失に陥ったのです…。それから、のぞみさんはみるみる内に憔悴していき、遂にはありもしない幻覚に怯え始めました。うららさんやくるみさんも『精神病患者になりかけている状態』と認定しています。私はそれをなんとかするために、自分の判断であなた方の協力をお願いしているのです、アクア、ミント」

 

アルカディア号の格納庫で変身を済ませたかれんとこまち。幻覚に怯えるほどに心を病んでしまったという戦友に哀しげな表情を見せる。

 

「でも、こっちののぞみさん達の事はどうするの?まだエターナルとの戦いは終わってないのだけど…」

 

「対策は分身ハンマーで済ませました。多少はチートですが、ああも泣かれてしまっては、私も気が引けるので…」

 

アクア、ミントの世界ののぞみは目の前で二人を連れて行かれた事に大泣きした。流石に気まずくなったことははスペアポケットから『分身ハンマー』を取り出し、二人の分身を作り、キュアモ(変身アイテム)のコピーを分身に渡すことで事態の解決を図った。

 

「そちらののぞみさんには悪いのですが、あなた方にはさっそく、実戦に入ってもらいます。なにぶん、こちらは宇宙戦争の真っ只中なので」

 

「宇宙戦争…!?まさか、あの時の!?」

 

「覚えておいででしたか、アクア」

 

「でも、あれは現実に起こっているの!?」

 

「とある世界の23世紀に実際に起こる出来事よ、かれんちゃん、こまち」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「久しぶりね、こまち。大決戦の時以来ね」

 

キューティーハニーがやってきた。彼女の前世は秋元こまちの実姉のまどかである。大決戦の際に再会しているため、面識がある。

 

「まどかさん、どういう事なんですか?」

 

「あの人が前に説明したとおりよ。それに、あなた達の後輩に同名の子が出てくるから、かれんちゃんには名前呼びはこの姿での名前にしてもらいたいわね」

 

「え、後輩って…?」

 

「2019年のプリキュアである『スター☆トゥインクルプリキュア』のキュアセレーネ。その子の本名なのよ。あなた達から12年後くらいのプリキュアよ」

 

『じ、12年!?』

 

「そうよ。このキュアフェリーチェもあなた達が現役を終えてから7年後のプリキュアのメンバーよ」

 

「はい」

 

『えぇ~――っ!?』

 

アクアとミントはこの時に、プリキュアが自分達が大人になる時代でも代替わりを重ねていく事を改めて知らされた。また、平成の次の時代の事も。

 

「平成の次の令和になっても、後輩がどんどん生まれていくから、某光の巨人も真っ青な勢いなのよ、あなた達」

 

「れ、令和!?」

 

「平成の次の元号よ。その頃には、貴方達もアラサー女子になってる頃だけど」

 

「そんな先の時代まで、プリキュアが!?」

 

「光あれば闇あり、よ。それに、昭和の頃から戦ってるヒーローはごちゃまんといるわ。仮面ライダーのようにね」

 

「そんな、そんな昔に人の臓器や筋肉を機械に置き換えられる技術が…」

 

「ナチスドイツの遺産よ」

 

「ナチスドイツ……!?そんな、彼らがそんなオーパーツを有してたのなら、第二次大戦は枢軸国が…」

 

「実用化が間に合わなかったってやつよ。とある世界での日本とドイツはオーパーツに一発逆転の望みをかけたけど、間に合わなかったってやつ。その遺産は戦後にむしろ完成され、仮面ライダーを生み出す土壌になった。最も、1970年代初頭当時の技術では、心技体が強靭な者しか改造手術に耐えられなかったようだけど」

 

「ですが、中には既存技術と組み合わせられて戦後に完成され、世界征服に使われているものもあります。日本はそれと同種の戦艦として、戦艦大和の姉妹艦にオーバーテクノロジーを導入し、その系列のプロトタイプとなる戦艦は完成されています」

 

「要するに、あなた達がこれから戦う相手はナチスドイツの残党よ。異次元を股にかけるくらいに肥大化した、ね」

 

「残党がなんで、そんな…」

 

「残党と言っても、ドイツ軍の全部が連合国に投降したわけじゃないし、戦後の扱いに絶望した旧日本軍人も多数が合流しているわ。彼らはドイツ軍と日本軍を主体にした一種の暗黒組織なのよ。それが彼らを生み出した」

 

ハニーの話は未来世界(ドラえもん世界)での現実である。ナチスドイツそのものを操っていたのは大首領であり、敗戦時に機材や人材を選抜して生み出したのがバダン帝国であり、ショッカーはその最初の尖兵である。

 

「彼らは改造人間になることで数百年もの時間を生き永らえ、歴代のヒーロー達と暗闘を繰り広げてきた。旧日本軍と旧ドイツ軍は日本列島のあちらこちらや、南米の奥深くに大量の貴金属や宝石類を隠匿したから、それを軍資金に使ったんでしょうね」

 

「M資金や山下財宝はそこから?」

 

「ええ。組織がほとんどを持っていったんでしょうね。そうでなければ、バブル崩壊の時に日本の経済力が徐々に衰えていくのに為す術がなかった理由の説明がつかないわ。そして、宇宙戦争をする時代を迎えた後に生まれた船の代表格の一つが、このアルカディア号よ」

 

「アルカディア…」

 

アルカディア号はトチロー曰く、プロトタイプとなる『デスシャドウ二番艦』、その改良型である二番艦、艦首周りを設計変更した三番艦以降が存在する。キャプテンハーロックの友情と意思の象徴でもある同艦級、生前のトチローは九番艦まで設計済みと語っていた。この時に三人が乗艦したのは、鋭角型の二番艦である。三人はそのまま、デザリアム戦役に参陣。アクアとミントはその後にいったんは故郷に帰還したが、元の世界での役目を終えたと判断した後、正式に黒江達のもとに馳せ参じたわけである。

 

 

 

 

――ウィッチ世界の1947年――

 

「そんなわけだったんすか」

 

「ええ。元の世界でののぞみを裏切るようで気が引けたけど、のぞみが不幸になった世界線があるのを知って、居ても立っても居られなくなったのよ。元の世界での役目は終えたからってのもあるのだけど」

 

白衣姿の水無月かれん。元々、大人びている外見である事もあり、とてもいちかやあおいの一学年上(現役時)とは思えない。食堂で後輩の宇佐美いちか&立神あおいの二人と話をしている。

 

「元の世界には、ドラえもんの分身ハンマーで作った分身を置いてきたってか。元の世界ののぞみさんは納得したのか?」

 

「大泣きされたわ。だけど、ことはが自分が不幸になった世界線の事を話して、その自分を救いに行くって話した時には、信じられないって顔してたわ。当然でしょうけど」

 

「それであんたはインターン中か」

 

「元々、医者志望だったし、みゆきがコネで軍医学校に入れさせてくれるっていうのも魅力だったわ。普通に医局に行けば、教授連中に媚び売るのは目に見えてるし、自分がついた教授が派閥抗争で負ければ、自分の出世も絶たれる。そんな汚い世界、私が望んだものではないわ。だけど、一定年数の医局経験がないと、日本では開業もできないのも現実なのよ。軍医なら、そういう派閥抗争と無縁でしょう?」

 

「そりゃそうだけどよ、現実は厳しいなぁ」

 

「そういうものよ、あおい」

 

かれんは医局で繰り広げられる『白い巨塔』と揶揄される派閥抗争ややりとりの数々を嫌っていたため、軍医という道を選んだと告白し、あおいも現実問題にため息な顔を見せる。だが、『Gウィッチとしてののぞみ』が看板を背負わされたが故に精神的な負担、りんの記憶喪失という出来事で均衡が崩れてしまった後の狂気は戦友たちに危惧を抱かせた。その危惧が日向咲と美翔舞を呼び寄せたと言っていいとする推測をかれんは話した。

 

「咲さんと舞さんをあたしたちの心が呼び寄せたんですか、かれんさん」

 

「あくまで、私の推測だけど、おそらくは。のぞみはあの時は荒れてたから。うららとくるみが、ことはを後押しするのも理解できたわ。あの子はりんを引き離すと、精神不安定に陥るというのは、あの時に理解したわ。あの子にとって、りんは『いて当たり前の家族』なのよ」

 

「案外に脆いんだなぁ、あの人も」

 

「戦闘の時に見せるのは、あの子の一面にすぎないわ。あの子は自分を変えるきっかけが欲しいから、ココの誘いに乗ったのよ。ラブみたいにすんなりと受け入れたわけではないの」

 

「ラブさん、ああ見えて、ヒーロー番組大好きって言ってたんだよなー。のぞみさんとそこが違うところかな?」

 

「そういうこと。のぞみがヒーロー番組を見たのは、自分がプリキュアになってからで、あの事があった時に、ラブから勧められて、だもの」

 

「布教かよぉ!?」

 

「ええ。自分がその立場になってるのだから、見てもしょうがないと思うのだけど…。もっと後輩のやよいは完全にオタクだし」

 

「前、バンドのライブ行く途中で、やよいさんの姿見たっけ。ありゃガチだよなぁ」

 

ここで、かれんの口から、桃園ラブがヒーロー番組大好き(ヒーローとしての憧れが地球戦隊ファイブマンのファイブイエローであるという)であること、ヒーロー番組を見させることがのぞみを立ち直らせる一助となったため、ラブの布教活動を認めた事(かれんは自分達がその立場にいることから、それはどうなのか的心境らしい)が語られた。ラブは黄瀬やよい(キュアピース)とヒーローグッズを取引しあうほどの仲で、ラブが現役時代には隠していた『オタクな一面』である。また、それがのぞみの精神的治療に役立ったため、黒江もラブにオタクであることの公言を許した。ラブはその流れで2019年冬のコミケに売り子として参加した。心配になったので、自分も参加したかれん。黒江と秋雲のサークルの売上が前年比150%の売上を記録したのは、ドリーム、ピーチ、メロディ、フェリーチェ、アクアの組み合わせの売り子を配しただけでなく、ひったくりなどに瞬時に対応し、犯人を取り押さえるという大手柄を立てたからである。

 

「とはいうものの、去年(2019年の事)の冬コミは大変だったわ。のぞみ達が心配だから、私も参加したのだけど、変身して売り子しろって言われた時は流石に素っ頓狂な声を出しちゃったわ。怪我の功名と言おうか、会場に出たひったくり犯は捕まえられたから良かったけど」

 

「た、大変だったな…。つか、あの地獄の中にいたんだな、アンタ」

 

「だけど、私たちの現役時代から12年も経った時代でも、私たちのことを覚えてくれていた人達がいたのは嬉しかったわ。普通、それだけ経ったら忘れ去られるでしょう?」

 

「今はインターネット配信やDVDで、いくらでも昔のアニメが見られるからなー。それに、覚えてる人は覚えてるもんさ。ブラックやホワイトの現役時代からはあたしらの頃で20年近くになるけど、エールは同年輩として接してたろ?あいつらが現役を終えた時、言おうと思ったんだけど、止めた。野暮だし」

 

「なぎささんとほのかさんは1990年生まれ。はなの生年月日はいつだったかしら、いちか」

 

「えーと、2005年っていってましたよ、かれんさん」

 

「……なぎささん達の現役時代よ…。その年代」

 

「し、しょんなー!?」

 

「私たちは2007年から2年間だけど、あなた達から見ると、親や先生くらいでいいくらいの年齢差あるのよね。これも次元世界の七不思議ね」

 

スプラッシュスターの二人が圭子達と共に戦っていたのと同時刻に食堂で繰り広げられた光景。シリアスとギャグが交錯する会話。軍医としてインターン中の水無月かれん、パティシエとして修行中の宇佐美いちかと立神あおい。三人は次元世界の不思議を身を以て体験している最中であった。


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