扶桑海軍は結局、装甲の重量増加を承知で生存性を上げることを政治的に求められてしまったため、艦首と艦尾も重装甲で覆うことにした。間接防御では限界があると指摘されたからで、重量軽減のため、既存の装甲ではなく、ルナチタニウムなどを採用した。つまりはガンダリウムであり、その最新が最新型のイプシロンタイプ。更に、熱攻撃にめっぽう強い超合金ニューZも採用した。結局、個艦戦闘力を極限まで強くすればいいという趣旨の日本的発想の極地を生んでしまった点に、日本の貧乏性が現れていた。扶桑は『船はまた作ればいい』としていたが、それを『資源はどうする、人はどうする!?』などと、精神病院送りが続出するレベルで責められたため、扶桑がやけっぱちになった結果であった。56cm砲すらも『まだ足りない』と喚かれ、61cm砲すら俎上に載せられていたのは、『絶対に対抗手段を作ってくる』という恐怖が日本側にあったからで、結局、艦政本部はやけっぱちな勢いで、艦艇の大型化を推進させていった。
とはいえ、最盛期のブリタニア連邦張りに、艦艇の数を揃えるドクトリンがあった扶桑に、いきなり史実の個艦優越主義を押し付けたために、部内は大混乱となり、何から何までの刷新がなされた。そのために、不要になった機械式暗号機の始末や(士官専用食堂が廃された故に)軍楽隊の行き場など、日本には予想外の事柄も多かった。内務省の検閲の廃止は各地の内務省の人間にパニックを引き起こしたが、検閲に代わる仕事を保証するという声明で収まった。これにより、扶桑内務省は『戦後に分割を検討する』のを理由に、日本側に独断専行を咎められ、解体を脅されることで、検閲は完全に廃された。憲兵隊も縮小改編で検閲の権限を完全に失い、日本に完全に目の敵にされた事から、人員の士気が最低になるという結果を招いた。結果、憲兵の権限を軍警察機能に限定するという経過措置が取られた。これにより、憲兵を防衛戦力に数えられなくなった前線から抗議が来るという想定外の流れも起こった。結局、戦線を太平洋に限定するという指令のもと、連合軍の戦線自体を縮小改編させることで納得させる事になり、文字通りに扶桑は太平洋に全てを費やすことになった。地球連邦軍に他地域を丸投げするような決定だが、戦線の広げすぎで敗戦した記録を持つ日本側としては、戦線の一極集中こそが正義であった。
これにより、志半ばで他戦線から転出させられ、失意の底に追いやられた者たちが続出し、『使い物にならない』とされた兵士たちは多い。日本はそんな兵士たちに冷酷であり、口の悪い者は『人員整理の口実に使える』と嘯く始末であった。良識派はそれを見かね、『君たちの怨念返しではないか』と糾弾。結局、同様のことで『民族存続の危機』にまで追い込まれたカールスラントの実例もあり、結局はアリューシャンを左遷先として使うことになり、そこに『冷や飯食いにする』人員と装備を大量に送り込むことが横行していった。皮肉にも、それが史実と真逆の『アリューシャンは燃えているか?』的な様相を呈していく事になるのである。その兆候は48年には現れており、リベリオン軍はアリューシャンを北海道侵攻の中継点にしようとしていた。日本連邦はこの兆候を見抜けず、アリューシャンで消耗戦に引きずり込まれることになり、その打破のために、ハワイ攻略の期日の策定を早める羽目となる。これにより、リベリオンの国力の底力を思い知った扶桑は、反応兵器の(報復を名分にしての)投下を決意するのである。
仕方がないが、アリューシャンの過酷な環境でガダルカナルもかくやな消耗戦をされては、兵器の生産能力が飽和状態に陥るからで、意図的に艦隊決戦を起こすしかなく、戦略爆撃が困難。アリューシャンの封鎖を強引に解く手段がハワイ攻略しかない。それも、国土が大陸自体であるリベリオン合衆国の強みであった。扶桑皇国は南洋本島を奪われると、資源枯渇で詰みかねない。その弱さにより、防衛に全てを費やす事になるのである。この頃に、扶桑は新戦艦に備えている機能として、『潜水機能』を日本側に公表した。これはさらなる機能を隠蔽するためであるが、有力な潜水艦の不足をなじる日本側を納得させるための懐柔策であった。新戦艦は海底軍艦としての機能を全て持つこと、播磨の建造時のコードネームが『ヤマト・ワンダー』であったことを通達した。
「ジェンティル。今日付けで、日本にうちの軍隊の新戦艦の事項の一つを公表することになった。潜水機能だ」
「そちらの戦艦は超合金製でしたわね」
「新造は宇宙空間用にしてある。バレると、空軍か、海軍か。それで財務当局がヒステリー起こすから、潜水艦を兼ねられるとして、公表した。ガラクタの伊号を作ってんじゃないとヒスられたと、海軍当局から通達があってな。仕方ないから公表した。地球連邦軍の技術なら、そんくらいは軽いもんだ。マッドアングラーやユーコンは元は連邦のものだが、ジオンのものだと思われてるからな。結局、宇宙戦艦を作って、潜水機能も持たせることで妥協した。波動エンジンの噴射口は偽装してある。21世紀の技術では解析できんレベルの偽装で」
「回りくどい手段を」
「今から潜水艦隊を増やそうにも、ソナー手を育てないといけないレベルなんだ。おまけに、潜水艦の魚雷の研究も第一次世界大戦に毛が生えた程度だった。流石に、海自の潜水艦艦隊の司令といっしょに乾いた笑いが出たよ。慌てて研究させようにも、この戦争には間に合わん。だから、暇を囲ってた、連邦海軍の潜水艦乗りたちを連れてきた。宇宙時代には、普通の潜水艦なんて無用の長物に近いからな。地球連邦軍も潜水艦隊に仕事ができると、大喜びだった。宇宙時代だと、次元潜航艇が潜水艦の役目を担うが、あれは贅沢品だそうでな」
地球連邦軍は次元潜航艇(23世紀時点の最新兵器)のノウハウを持っていないため、保有していない。だが、普通の潜水艦はいくらでも在庫がある。その関係で、扶桑は潜水艦部隊の任務の多くを地球連邦軍に委託したと、黒江は語る。潜水艦関連技術の多くが(必要性の無さで)第一次世界大戦から殆ど進歩していない故の流れであり、故に、M動乱のショックを受けて、慌てて進められているが、肝心要のソナー手を育てる仕組みは殆ど整っていない始末であり、それらは戦争には間に合わないと言う判断がなされたと。
「史実の日本も、ソナーとレーダーの研究の遅れが無惨な結果を招いたと言いますが、そこまで」
「幸い、地球連邦軍が潜水艦を開戦劈頭に狩ってくれたから、連合艦隊も安心して動ける。まぁ、それで、敵の魔女は殆ど戦死したようだ。人員輸送に使ってたようだしな」
リベリオンが大規模に攻勢をしないのは、魔女の人的資源が本国では枯渇していたのに対し、扶桑は未だに主力を温存していると見なされていたからであった。実際は練度が伴っていなかったが、ハッタリとして使われている。
「だから、潜水艦を買えだの言われたが、カールスラントはあのザマで、とてもとても。だから、機能を公表せざるを得なかった。播磨型は轟天の機能実証にも使われてたから、それで開発コードが『青の6号』っぽかったんだよ」
「潜水艦漫画の古典でしたわね」
「ああ。宇宙戦艦ヤマトよろしく、各部を収容しないで潜るから、どういう金属を使ってるんだと言われたよ」
播磨型戦艦は扶桑の量産型の超大和型戦艦の第一陣である。それでも、史実の最大案の超大和型戦艦をも超える巨体を持つ。その関係で、日本側は『どこのドックに入れるのだ』と嘲笑したが、扶桑の艦艇修理ドックは既に大神や室蘭にも造られており、日本における構想が実現している状態であった。おまけに、青の6号の『ヤマト・ワンダー』よろしく、播磨型が『戦艦の形態を保って潜水する』という奇天烈な話に、日本側は度肝を抜かれた。
「播磨型は大和型のシルエットは受け継いだが、使う資材は宇宙戦艦ヤマトの時代のもので、宇宙から海底まで大丈夫な代物だ。それと、より改良された水戸型が竣工したからってのもある。まぁ、科学が桁違いに上がって、使われる金属も普通の金属じゃない。なんだったら、バイタルパートは超級のレアメタルとかだし、原材料。日本の連中も、宇宙戦艦ヤマトの技術で造られれば、あっけらかんとしてたぜ。主砲は地球連邦軍の規格だから、エネルギー砲を撃てるし」
「そこまで予算を使って……などは言われませんでしたの?」
「航空機がプロペラからジェットに切り替わる時期で、今すぐには戦力にできん状況でな。おまけに、魔女の軍事的価値の低下と、日本型の空母設計の陳腐化で、空母の設計をアメリカ式に変えるから、既存の日本空母はヘリ空母にしろとうるさいんだ。ジェットが載らないとかな。だから、地球連邦軍の倉庫で眠ってた、一年戦争の頃のコア・ファイターを改良して、載せてる。バルキリーのエンジンに載せ替えれば良いし、機銃をパルスレーザーに変えれば、弾切れの心配もない。扶桑の連中はミサイル兵器を好まんしな」
扶桑の既存空母の多くはエセックス級よりも幅が狭かったため、大鳳や翔鶴型などの新し目の大型空母以外の空母の改装に反対論があった。雲龍型は多くが『烈風の運用にも四苦八苦する』のを理由に、空母から外されていったが、空母部隊の形骸化を避けるため、初期の六隻のみがコア・ファイター運用改装を受けていた。扶桑の雲龍型は史実より格納庫の天井が高めにされていたためで、日本も史実との差異の通達に気まずくなり、改装を事後承諾したとのこと。
「第一、リベリオンとブリタニア以外に、ジェットを運用できる海軍はないんだ。ガリアは当分の間は軍隊どころでもない。つか、鉱物資源を食われたはずだから、いずれ、うちと戦争するだろうが、数十年は後のことだろう。ブリタニアは落ち目だから、ガリアは戦前から軍事的復興を狙ってたんだが……」
「愚かなことを。第一次世界大戦中の時点で、フランスにナポレオン時代のアドバンテージなど、とうに消えているというのに」
「お前、それ知ってんだ」
「世界史に踏み込めば、否応なしにフランス革命の血生臭い一面は知ることになりますわ。王家の子供を残虐な手段で死に追いやったことは知られてませんが」
「ああ、ルイ17世だろう?あれはガリアに相当に都合が悪いから、意図的に闇に葬っていたが、日本は有名な『ベルサイユのばら』の影響で、子供でも知っている。最も、あれの連載当時は原作者も17世の末路は『書けなかった』とか言ってるし」
「その後は歴史が示す通りですけど、腐った民主主義が帝政を呼び込む土壌になるという言説はフランスが証明してますから、気分のいいものではありませんわ」
「独裁者は疑心暗鬼になって、最後は破滅がお約束だが、王政や民主主義の悪い面を見た連中は、必ず『自分ならうまくやれる』と思い込むんだ。そこが始まりなんだ。中国の歴代王朝もそうだけど、どの体制にしたって、悪い面は出てくる。共産主義の国々が80年代の終りに連鎖的に崩壊に向かったように、どこかで破局は訪れる。日本はミッドウェーとサイパンでそれを思い知らされた。戦争にしろ、政治にしろ、熱狂はどこかで終わる。日本はそれを覚えてるから、うちらに引きこもり防衛を強いたんだろう」
「だからと、この戦争で、扶桑も数百万の自国民を殺せと?」
「そこが問題だ。日本は自分がされたこと、あるいは教え込まれたルールを、時代遅れになったを後の代の人間にも、理由もなく強いる文化がある。お前も聞いたことはあるだろう?」
「ええ」
「その理屈なんだよ、日本が扶桑に犠牲を強いる構造は。特に、華族や富裕層の子弟とかは目の敵にされてる。皇族も同じ。だから、日本の口の悪い連中の本音はこれだろう。自分たちだけ、戦前にあった全てが残るのは、ズルだっていってな」
黒江がいうように、扶桑には、大日本帝国として失った国際的地位、国土の古来からの景観、軍事力。その全てがある。日本は華族や地主の解体を望むが、21世紀の日本とて、富裕層が華族や地主から、成り上がりの資本家に置き換わっただけである。軍人の地位をとにかく低くして、警察官の地位を逆に上げようとする政治工作も盛んだが、扶桑では怪異の存在により、上手くいっていない。
「つまり、本土を焦土にしたいと?」
「軍隊を無くして、ごく少数を後で自衛隊として集め直せばいいと思ってんのさ。自衛の権利は否定してないって宣った上で」
「まったく…。ある意味、戊辰戦争の時の東北諸藩のような考えですわね」
「だから、扶桑は日本を利用する事にしたのさ。手頃な技術レベルのものを手に入れるために。どのみち、静香の一族が『企業が国家を超えること』を阻止するために動いてるから、アナハイム・エレクトロニクスのような企業は日本には現れん」
野比家に静香が嫁入りした後も、当然ながら、源家自体は続いており、静香の遺訓により、企業の政治的増長を防ぐための活動を行っており、アナハイム・エレクトロニクス社の『月面世界の地球からの独立』を画策していた一派を家族もろともに粛清したり、ビスト財団の解体の促進や、連邦政府に民間軍事会社への締め付けの圧力をかけるなど、野比財団に比して、全体的に強硬な動きをしている。それは静香が『企業が国家を形骸化させる』ことを生涯嫌っていたからで、その思想が反映されたのが、源家(傍流)の子孫たちのコミュニティなのだろう。
「のび太は財団って形で、死後も子孫らを統制できる仕組みを残したが、静香は公安警察にいたせいか、まとまった形でそれを残さなかった。従姉妹や再従兄弟の一族が続いているが、言い残した遺訓を伝えるのみだったそうだ。のび太より長生きするそうだが……」
と、静香は遺訓を子孫に残したものの、公安警察にいたため、直系ではないとはいえ、源家の子孫らの福利厚生は野比財団に任せ、自分の財団を立ち上げる形にはしなかったことが語られる。
「野比財団も苦労してるみたいだ。邪魔する権利もないからな。かといって、アナハイム・エレクトロニクスやS.M.S.、ケイオス、新星インダストリー、ゼネラル・ギャラクシーとかが複合体にまとまって、政治を動かそうとする動きが出てきても困るのは事実。だから、野比財団もある程度は黙認してるそうなんだが……」
その事から、のび太と静香の思想の差が死後に地球連邦政府への政治的な圧力の違いとして残り、その差が間接的に、アナハイム・エレクトロニクス社の増長と、サナリィの野望を阻止したことになる。
「野比氏の奥様はなぜ、そのようなことを?」
「公安警察にいたからな、のび太のカミさんは。そのせいで、夫にも隠してることがあったんだろう。まぁ、のび太が財団を作って、時代を超えて、俺らを支援するように仕向けてた事は読めなかったらしいな」
「どうして、そういい切れるんですの?」
「のび太はガキの頃、あれこれと裏で物事を動かすことを考えられるような奴じゃなかったんだ。元々、静香は幼馴染だったから、のび太の本来の気性をよく知っていた。それをのび太は成人後に逆手に取って、財団の運営を若いうちはノータッチなように装ってた。表向きは、扶桑から与えられた勲章とかでついてきた年金とかの財産管理で設立したからな」
「夫婦でも、全てを明かす必要はないものね」
「サンタクロースがいないことを、子供に明かさないことを選ぶようなもんだ。結婚相手はよく考えろよ?」
「そのつもりですわ」
ジェンティルドンナは微笑む。キュアアクアの体を拝借している(属性が最も近いため)が、所作などはジェンティルドンナのもの。キュアアクアが基礎パワーが高め(戦闘向け)の世代であった上、現役の競走ウマ娘(芝)では最高峰の基礎パワーを誇るので、ある意味では恐ろしい事になっている。
「でもよ、お前、医学なんて、どこで」
「親類が総合病院を経営していまして。トレセン学園を卒業した後の進学先に勧められてます。スポーツ医学には興味はありますが、その叔父には子供がおりませんから、私が経営を引き継ぐことになりそうなのです。父は姉と弟に興味はないので」
「お前んとこも大変だな」
「姉はウマ娘でしたが、現役時代は成功しなかった。弟は剛腕の父の劣化コピーにすぎず、父も『親としての務めは果たすが、後継者にはしない』と口にしています」
と、ジェンティルドンナは自分の父親へ、心の内で愛蔵入り混じることを示唆した。実力主義の行き過ぎで、『家族らしい家族ではない』事に嫌気が差した(知り合いのハルウララがあまりに純真過ぎたためもある)ブライアンの父と違い、ジェンティルに家の後継者は決めており、財産分与も極秘裏に決めているなど、分別はあるほうだ。
「史実を超えるのも一興。好きなことをできるうちに、思いきり羽目を外しますわ。いつも自分を律するのは、肩が凝りますもの」
資産家の令嬢、それも成人後は父の事業を引き継がなくてはならぬ身の上である以上、好きなことをできるのは、中高生相当の時代まで。それを悟っていたジェンティルは、普段はさほど乗らないゴルシからの誘いを受けた。そこに、ダイイチルビーと違い、元来はレースとの関係がさほどなかった家柄故の世知辛い事情があった。また、入れ替わった水無月かれんが普通に文武両道であったため、のぞみと違い、『普通にジェンティルの肉体の能力を引き出せば、トリプルティアラは固い』というイージーモードな事情があった。
「若いうちの特権だ、楽しんどけ。それに、史実を考えれば、お前には……」
「ええ。分かってますわ」
それは自身の子であり、血脈を後世に繋いだ『ジェラルディーナ』のことである。史実の記憶を宿らせた故に得たメタ情報。また、大学生以降は否応なしに、親の事業を引き継ぐ運命である身の上である故に、少しはそれを忘れたいという気持ちと、いずれは『後輩』という形で出会うであろう自身の子への母性。色々と彼女なりに複雑なのだった。