ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版   作:909GT

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※この話はシルフェニアの本編とリンクしています。


第八話「空戦とのぞみの災難」

――ウィッチ世界は急速に技術の流入が起こったのと、勝者であることが求められたのに関わらず、一騎当千の強者が是非でも欲しがられた。加藤武子の思いとは裏腹に、政治的に撃墜王が求められたのである。彼女自身にも相応の撃墜数が求められたため、ダイ・アナザー・デイ中に数十機の撃墜を記録している。武子が酒を飲むようになったのは、個人的に二の次としていた個人戦果を政治的に求められていることに個人的に嫌気が差したからである。(カールスラント系撃墜王のスコア偽造疑惑の影響だが)この政治的なものの背景にあったのが、カールスラント空軍にかけられたスコア粉飾疑惑(同時に人種差別疑惑もかけられた)である。カールスラントの撃墜王達は撃墜数を実力の指標にしていたため、この疑惑は寝耳に水であった。同時にかけられた人種差別問題は、カールスラント軍人が他国軍人の実力を推し量るために、わざと人種差別的言動をするのをドイツが厳しく禁止する大義名分にされ、カールスラント軍人は『息苦しい』とぼやく羽目に陥った。(現場では、他国軍人への洗礼という意味の慣例として伝わっていたため、却ってパニックに陥った)この決定はカールスラント軍人らの精神的な萎縮を招き、同国のエースパイロット達が自由な風紀の扶桑への義勇軍たる『魔弾隊』に次々と入隊するきっかけとなった(日に、義勇兵部隊は増設され、魔刃隊、魔眼隊も作られる)カールスラント軍の急速な衰退はカールスラント軍へのドイツの援助が遅きに失した事も絡むもので、現場はシッチャカメッチャカであった。――

 

 

 

 

――ある日――

 

「准将閣下、F-104などは部外秘にしてくれませんか?」

 

「無理よ。ウルスラ、貴方の気持ちはわかるけれど、実機のF-4やF-14が使われている以上、ストライカーだけを部外秘にするのは虫がよすぎるわ」

 

「しかし、実験の結果を実物で示すのは、技術陣の意欲を削ぐと…」

 

「より良いモノが生まれるためと思いなさい。最適解が分かれば、それだけ開発時間も短くなるわ。それに銃後の人間たちに財布の紐を握られている以上、説明の時に専門用語を使うのも憚れているのよ?」

 

それは日本連邦で特に顕著で、ジェットエンジンの再燃焼装置をオグメンターと言わずに、アフターバーナーと言わないと、機材開発予算が下りないなど、軍事面で特に、日本側で一般化した言葉を使わないと予算がもらえないという事態に遭遇し、担当部署が財務省への説明に四苦八苦している有様なのだ。

 

「銃後、ですか」

 

「民主主義国家では銃後のご機嫌をとらないと、開発予算が下りないのよ。それは理解なさい」

 

ウルスラは技術畑であるため、技術面でチートをしたがる日本連邦の気持ちがわからない。連邦の内、日本は史実太平洋戦争で国力のみならず、科学力で負けたと認識していた事から、絶対的な科学力の差を見せつけたい思惑があり、既にフェーズドアレイレーダー、誘導ミサイル装備の超音速戦闘機が大手を振って投入されており、ウルスラの進言には説得力はなかった。扶桑の戦闘艦のオートメーション化も既に進行中であるため、妥協として、未来のストライカーの存在は部外秘にするという事になった。ただし、武器の補給を円滑にするため、秘匿物資『S・F』という符号で呼び表す事が決められた。ウルスラの希望であった。これは自分が携わったプロジェクトの成否をメタ的に決めてほしくないという願いからであるが、ドイツの介入で結局はその通りになったため、ウルスラは大きく落胆したという。(ウルスラは当時、大量生産用ジェットストライカーユニットの『サラマンダー』の開発にも関わっていたためだが、計画を知ったドイツの指示で、同機は問答無用で開発中止になった。だが、後にウルスラが放棄された試作機を持ち出し、黒田の興した財団の援助で私的に開発を継続。双発化し、安定性を改善したストライカーユニットが数年後、練習機として改めて採用され、実機も双発化したものが練習機として使われたという)

 

 

 

 

 

――この当時は急速な技術革新でウィッチの雇用期間の大前提が崩壊し、ジュネーブ条約の絡みでウィッチの取り扱いが変化する時代を迎える最中であり、19、20歳が『青二才』扱いされる通常兵科と同様に扱われ始めた。これに困惑した農家の母親たちが当初の契約(ウィッチは任期制であった)通りに除隊させる例が続出し、軍部は人材確保のための玉音放送を検討したが、日本との調整が難航したため、結局は数年後まで行われないのである。(農家が不敬罪を恐れて、その場にいた者を出すため、後に質の悪さが問題になる上、長期的に軍に留まる事もないとされたのも、義勇兵と亡命者で部隊の欠員の大半が占められたという。)この当時はサボタージュが前線部隊の解散という手段の行使で減り始め、軍に残る腕利きの大半が64Fに集められるという状況の最中にあった。カールスラントの44JVがジェットの実験隊から精鋭の受け皿に変質する最大のきっかけが64Fの強大化であり、その44JVをも吸収し、扶桑欧州派遣軍の唯一無二の実働部隊となりつつある64F。その中枢である『新選組』は人外魔境と例えられるようなエースパイロットの巣窟であり、どの国にもない『エースパイロットによるエースパイロットのための部隊』というプロパガンダがなされ始めた。全くの新人がごく少数な点で問題視されたが、精鋭部隊という謳い文句通りの精強さを求められたために大して問題とされず、むしろ、引き抜きすぎと文句が出たほどに豪華であった。『若手』でさえ、343空で最強のロッテと言われた菅野・宮藤ペアを擁し、幹部は七勇士の大半が在籍している。新選組は常に最前線投入しかされない事を想定されているため、敢闘精神旺盛な事が在籍の資格であり、64Fでもっとも狭き門である。中核が七勇士+αであり、一般隊員も大半がプリキュア経験者であるため、実質は七勇士とその弟子筋のウィッチで占められている。なお、シャーリーは経験上の理由で、新選組での長機資格を持っており、猪突猛進気味のカレン時代を知る者からは大いにネタにされている。なお、ダイ・アナザー・デイ時点で、新選組に正式に属するプリキュアはドリーム、ピーチ、メロディ、フェリーチェ、ビートの五名。他の幾人かは武子が維新隊に出向させ、雁斑孝美と下原定子が鍛えている。ハートとラブリーは見習い、ダイヤモンドはマーメイドの従卒扱いだ。プリキュアでありつつ、エースウィッチである芳佳、シャーリー、ペリーヌ(正確には別人格だが)、錦、竹井の五名は特に広報で宣伝の対象となった。この内、ペリーヌはガリアの英雄である上、別人格がプリキュアであるため、人格ごとに個別に軍籍を用意された。この事がペリーヌの政治活動と軍隊生活の両立の秘密となっていく。表向き、ペリーヌとしては48年で正式な予備役編入をして、だが。(次元震パニックの段階では、正式にはペリーヌは予備役にはなっておらず、出向扱いであるが…。)キュアハートの身分は『見習い』だが、歴代ピンク随一の戦闘能力は高く評価されていたため、実質は空間騎兵に近い扱いにあった。もちろん、素体の逸見エリカの技能を活かせる『戦車兵』資格の取得を目指している。なお、64Fの基地防衛部隊に回されたセンチュリオンとレーヴェで訓練中で、74式戦車でも訓練中だ。(黒江曰く、空挺レンジャー資格をあいつには取らせる。空挺団出身の陸将に聞いてみるか、との事)――

 

 

「えーと、図上演習は一週間後か。ゲ、今日のシフト、わたしと響かぁ…。先輩にネタにされちゃうよぉ」

 

この日、のぞみは基地の掲示板の貼り紙を見るなり、転けそうになる。のぞみはシャーリーの事は姿に応じて呼び方を変えており、プリキュアの変身前の姿を取っている時は『響』と呼んでいた。現役時は『ちゃんづけ』だったが、転生後は軍隊で同期の桜に当たるためか、呼び捨てになっていた。この組み合わせは黒江が狙って決めたのが丸わかりであり、ネタにしたがるとため息だ。

 

「黒江さんめ。狙ったな、こりゃ…」

 

「えーと、響さ、バクシードクライシスとかする?」

 

「アホ!ますますネタにされっぞ!輻射波動のほーだって。あれなら、記憶が新しい分、使い勝手がわかる」

 

組み合わせ的に、『黒いサーフボード乗りのロボ』の武器を使うのかと聞くのぞみだが、シャーリー(響)は現在の記憶と気質の兼ね合いで輻射波動だと明言する。

 

「これで美遊がいたら、完全に『ニルヴァーシュ』のトリオだよ」

 

「だから、やめろよ。それ、のび太にネタにされて大笑いされたからさ…」

 

「あー…」

 

 

「あたし自身、あの世界の記憶の派生が多すぎて、どれがどれだか判別できねぇし、あの頃の感情も曖昧になっちまったからな……。」

 

「あの世界は派生が多いからね…。」

 

二人は美遊の更に前世と思われる少女が中心になって起こった出来事の記憶は有するが、経験した当人達も『派生世界が多すぎて、どれが自分の辿った道なのか』と困惑している。最も、これはニルヴァーシュなどの動力『コンパクドライブ』にそれ以前に有していた記憶が吸われた上で、レントンからのぞみへ、アネモネからカレン、そして、北条響へと転生していった両者の巡り合わせなのだろう。あるいは、その古き記憶がプリキュアになった後で部分的に開放されたと言うべきか。

 

「今更、あの世界の記憶が戻ったところで、何になるんだ?」

 

「わたしも今となっちゃ、ある種の不都合さのある記憶だよ。だけど、あの世界で生きた証として見ることにしてる。今は女の子だしさ、わたし」

 

「あの世界だと、股間にナニがあったな、お前」

 

「まーね」

 

その世界はのび太の世界では、『交響詩篇エウレカセブン』というアニメとして知られるものだ。二人は美遊・エーデルフェルトとの交流でその記憶が蘇った。だが、あまりに『前の世界』であるためか、『コンパクドライブ』にそれ以前に有していた記憶が吸われたためか、曖昧なものになっていた。その縁も二人に強い結びつきがある理由だが、プリキュアとしては代を隔てているため、メロディはブルームとイーグレットからの継承の対象にはならず、ピーチが力を継承している。そのため、プリキュアとしてはドリームとピーチに加わる形で戦っている。そして、ウィッチとしては……。

 

「今日のシフト、どーすんだ?」

 

「何で出る?撮影班はついてこないらしいけど」

 

「なら、この姿のままでF-86で出ようぜ。マルヨンは黒江さんやまっつぁんじゃないと無理だけど、ハチロクなら小回り効く」

 

「あれで空対空戦闘やらかせるの、先輩達だからだよ」

 

「だよなぁ。ハルトマンが泣いて喜んでるけど」

 

「あの子、前史で教え子が何十人と殉職して、マルヨン嫌いになったとか言うからね」

 

二人はそのままの姿でシフトに入り、姿を変えないが、武器はそれぞれの好みで決めて、出撃した。撮影班が随伴しない哨戒任務なため、二人は軍服姿だが、顔の容貌はウィッチとしてのものには変えていない。

 

「先輩の跡継ぎが未来から持ってきたから、最終型なんだよね、これ」

 

「ま、この時代に比べりゃゼータクだぞ。最終型は改良された照準器がついてるからな」

 

「ミサイル吊るしてこなくて大丈夫かな?」

 

「こいつはミサイルはあんま積めないしな。それに、リボルバーカノンありゃ、この時代のレシプロはどんな機体もバラバラだ」

 

二人の使用機体は21世紀の時点で動態保存されていた最終型のF-86。ミサイル戦闘に適応させた仕様であるので、第一世代宮藤理論式ではオラーシャのMIG-15と並び、最後の第一世代理論式ユニットになる。

 

「ん、レーダーに感あり、敵は…うん。戦爆連合の150機。仕掛ける?」

 

「待て、敵の機種が分かる距離まで接近しよう。リボルバーカノンの弾を無駄遣いしたら、お武さんにどやされる」

 

二人は高度差を利用しつつ、敵を真下に望む。機種はこの時期には標準的なF6FとSBD、TBFで、至ってありきたりな編隊であった。

 

「ヘルキャット、ドーントレス、アベンジャー…。ありきたりな海軍の編隊だ。ここまで出てくるなんて」

 

「海軍も航空機はいくらでも出せるからな。陸に揚げて、長距離侵攻中だな」

 

「あれ、SB2Cは?」

 

「ありゃ評判悪いんだよ。後部機銃にも気をつけろ」

 

「了解。だいたい、一人何機くらい?」

 

「30機も落とせば怖気づくさ」

 

二人はジェットの速度と火力で編隊を崩してゆく攻撃を選び、急降下からの洗礼を浴びせる。

 

「リベリオンは日本の連中と違って、エンジンに軽く当てただけでも逃げるから、攻撃機をやれ!戦闘機はついで程度であしらえ!」

 

「ウチの義勇兵連中は空対空特攻も躊躇ないから、味方からもバーサーカー扱いだって」

 

「そりゃそーだ。とにかく、攻撃機の後部をやれ!投弾できなくすりゃ、こっちのもんだ!」

 

「了解!」

 

二人はストライカーユニットで戦闘機と攻撃機の連合に挑む。シャーリーが長機扱いであり、のぞみは指示に従う。この場合の戦闘は『戦闘機と戦える戦闘ヘリ』に近い様相で行われた。ストライカーユニットの空中の自由度は第一世代宮藤理論式でも、後世のヘリコプターのレベルにあるため、ジェットになっても通常レシプロ機相手に無双できるだけの敏捷性はある。また、第二世代極初期の機体と違い、攻撃機の銃手を兼ねる投弾手などを狙い撃てる安定性もあるため、20ミリリボルバーカノンで後部の乗員を狙撃する方法などが取られた。

 

 

「こっちの速さに、俄仕込みの銃手の攻撃が当たるもんか!いけぇ!」

 

のぞみは錦としての技能を活かせる絶好の機会なため、積極的に攻撃を行った。攻撃機にまとわりつき、爆弾の投弾手段を喪失させる。その気になれば、ドーントレスも空対空戦闘は出来るが、パイロットにそれほどの度胸がないため、ほとんどは闇雲に後部機銃を盲撃ちするだけである。

 

「変だな。ドーントレスは腕のいいヤツなら、こっちに挑んでくるはずだぞ?」

 

「護衛機は?」

 

「見た感じ、スペックを扱いきれてねぇ感じの顔だった。…F3Fから無理に機種変更させたか?」

 

「と、言うことは複葉機から高性能単葉機に無理矢理に乗せたような連中の集まり?」

 

「宝の持ち腐れだな。軽自動車しか運転できねぇ若造をフルチューンしたスポーツカーに乗せるくらいに」

 

シャーリーは手ごたえのなさをそう表現した。ただし、リベリオンもこの時期には流石に複葉機は残っていない。残っていたF2Aバッファローからの転換組だったのだ。

 

「…いや、待てよ。さすがに古めかしい複葉機はあたしが入る頃には下げられてるはず」

 

「もしかして、ビヤ樽からの?」

 

「F2Aと言えよ」

 

「スオムスが喜んだあれ?旧式のさ」

 

「エイラが聞いたら怒るぞ?」

 

「でもさ、あれからの転換じゃ、地獄猫が泣くよ?」

 

「仕方がねぇよ。エースパイロットはこっちの手にあるから、向こうは老兵や予備役を駆り出してるんだ。そういう連中に新鋭機を充てがってもな」

 

当時の動乱の経験と義勇兵の加入で精強と化した扶桑航空部隊と渡り合える者は教官や戦地帰りのベテランやエースパイロットを要する部隊に多く、二人が襲った部隊にはほとんどいなかった。それも一方的な戦闘に繋がった。

 

「響、地獄猫が来るよ!」

 

「落ち着け、この距離だと、輻射波動のワイドレンジで落とせる!」

 

急降下性能を生かしての機銃掃射をした四機編隊のF6Fが輻射波動のワイドレンジ照射で沸騰させられ、撃墜される。

 

「今のうちに残弾を確認しとけ」

 

「うわっ、かなりエグいぃ…」

 

「ぺトロールは良く燃えるからなー」

 

「あ、隊長機みたいなのが来る!」

 

「サッチウィーブは敵には伝わってないはずだけど、別の敵の気配に気を配れ!」

 

二人は護衛隊の隊長機と交戦に入る。この隊長機に限ってはベテラン、あるいは教官級のパイロットだったのか、二人の銃撃を巧みに避け、機動力を武器にしてくる。

 

「嘘、避けた!?」

 

『馬鹿、敵はワゴンホイールで待ち伏せしとるぞ!深追いするな!』

 

「先輩、基地から無電で?」

 

『状況はこちらでも掴んでる。敵の戦術はシャーリーとお前を分断させることだ。誘いに乗るな。対進戦は不利だ、相手の裏をかけ』

 

「で、でも、どうするんだよ、黒江さん。向こうのほうが小回り効くぞ」

 

『アホ、お前らのユニットは二次元的動きをするだけにあるんじゃねぇだろ。頭を使え。ジェット機時代特有のマニューバーがあんだろ』

 

「あ!もしかして、あれを!?」

 

『実機はともかく、ユニットでなら可能だ。前史の二次事変の頃に俺が得意とした嵌め技だが』

 

「強度的にどうよ?」

 

『ヤル気になりゃ、VFの戦術だって使えるだろうが、頭つかえ!』

 

黒江は無電で基地から二人を叱咤し、二人にコブラ、クルビットの使用を促す。これこそ、黒江が得意とする嵌め技の一つである。のぞみとシャーリーはF6Fの第二射撃を避け、そのままコブラを行う。

 

(けっこうGがかかる!だけど、できないわけじゃない!だから、先輩は無敵なんだ…!)

 

(頻繁にやると腰に来そうだけど、やるしかないか、ヨシ!)

 

当時の空戦機動としては常識外のものだが、なのはなどは普通に使用し、撃墜スコアを揚げている。魔導師に出来て、ウィッチにできん道理はない!というのが坂本の持論だ。

 

「今だ!!」

 

二人はクルビットをし、それを見たF6Fのパイロットが驚く様を目の当たりにする。口の動きから、『ファッ!?』と言っているのも読みとれた。同時に二人の持つリボルバーカノンが火を吹き、彼は数秒後には愛機を喪い、落下傘降下していった。

 

「やった…!あのパイロットは?」

 

「ベイルアウトしたよ。戦闘機パイロットの鏡だな」

 

「この時代、射出座席無いのに、よく」

 

『へたすりゃ死ぬが、戦闘機乗りは生きて帰ってナンボだ。理想的選択だよ』

 

黒江が無電でそういう。僅か数分の巴戦が長く感じられる。二人はベイルアウトしたパイロットを見る事で、怪異とは違う『血の通った戦争』をしている実感が湧き、なんとも言えない気持ちがこみ上げるのであった。

 

「敵が引き上げていくよ」

 

『よし、二人共、帰りの燃料があるから、この辺で帰ってこい。処理は俺が武子に具申して済ます』

 

「了解。何機くらい落としました」

 

『攻撃機が20機、戦闘機は6機。こんくらい落とせば、敵は逃げ帰る。ご苦労さん』

 

「敵の規模に比べると、みみっちくないですかね」

 

『26機も落とせば、敵は不利を悟るよ。それに隊長機をやって、指揮系統も乱れてるからな。普通は逃げ帰る』

 

 

空戦でのセオリーは怪異の場合と違い、航空機相手では異なる。26機を撃墜したという事は50機はなにかかしらの被弾をしているという計算になる。リボルバーカノンの残弾から考えても、50機に損傷を与え、26機を撃墜するに値する消費率である。

 

「ふう。撮影班がいないから、気楽で良かった」

 

『あ、伝言だ。万一の時はそのまま変身しろって』

 

「えぇ~!?」

 

『追伸、武子はとても怒っている』

 

「おい、のぞみ!お前、また……」

 

「へ!?わ、わたしじゃないよぉ~!」

 

困惑するのぞみだが、出撃前、武子の楽しみにしていたフルーツオレを実は飲んでしまっていた事に思い当たらない。武子は自分の好きな何かが突然に無くなると、怒りに火がつくという変なところがあり、黒江も手を焼いている。そのため、黒江は注意を促したのだが、二人に為す術はない。帰還後、怒りに震える武子に絞られ、一週間のフルーツオレ禁止令が出され…。

 

 

「貴方達、今後、一週間はフルーツオレ禁止よ、禁止ー!」

 

「しょんなー!?」

 

「のぞみちゃーん、それはわたしのセリフー!」

 

黒江の指示で、代わりのコーヒー牛乳を急いでPXから調達してきた宇佐美いちかには文句を言われるなど、災難に遭うのぞみ。

 

「おいおい、ヒスるなって。航空加食の不人気メニュー消費の義務付けにしてやれ。お前も名前くらい書けよ。ガキ共にまたやられるぞ」

 

「先輩ー!?」

 

「のぞみ、お前も悪いんだから、諦めろ。一週間は辛抱しろ。来週はこってり絞ってやる」

 

黒江にトドメをさされ、ムンクの叫びのポーズで固まるのぞみ。

 

「あれ?のぞみちゃーん?」

 

「だめだ、今のショックでフリーズした」

 

目の前で手をブンブン振るいちかだが、のぞみは固まった。なんとも言えないが、戦場の中の笑いであった。いちかはパティシエの本職に専念しているが、自分も皆の力になりたいという悩みがあり、それをのび太に告白するのは、数日後のこと。

 

 

 

 

 

 


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