――Gウィッチは基本的に、生前に強力な力を持つに至り、死後に何かかしらの使命を背負わされて転生した女性達を指す。広義の意味では英霊も入るため、ジャンヌ・ダルクやアルトリア・ペンドラゴン、モードレッドもその類である。肉体の性別が変化したアストルフォも入るだろう。歴代のプリキュアは現役時代か、それに近い時間軸から参加した者もいるが、その主軸は転生者である。生前の悔恨を超えるために、以前と違う立場を受け入れる者もいる。夢原のぞみは生前は最終的に教職についたが、年月とともに理想と現実の差に気づき、教職という職業に幻滅した上、その多忙さが仇になって長女に反抗され、成人後にダークプリキュアになられたという悔恨を抱えていたため、転生後は中島錦の立場を継ぎ、職業軍人に転じた。つまり、彼女は生前と全く方向性が異なる職業を選択したのである――
――空戦の後の夜――
「あれ、アルトリアさん?」
「ああ、あなたでしたか、ノゾミ」
「今日は勤務ですか?」
「旧506の残務整理ですよ。表向き、私はハインリーケの立場を継いだので」
アルトリア・ペンドラゴン。かのアーサー王の『あり得た可能性の一つ』を体現する円卓の騎士の長であり、かつてのブリタニア王。現在はカールスラントの夜戦エース『ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン』を素体に転生を果たし、彼女が有していた立場を受け継ぎ、ウィトゲンシュタイン家当主である。ウィトゲンシュタイン家当主は代々、カールスラントの王位継承権を有するが、アルトリアは経緯上、かつての母国の王位への興味と執着は無くしているため、もちろん、ハインリーケの立場を継いだ関係でで有するカールスラントの皇位継承権にも興味はない。ただし、貴族としてのノブリス・オブリージュの意識は王位経験者であるのもあり、強い。その発露の仕方に子供っぽさが残ったままのハインリーケと違い、アルトリアは真に高潔な騎士である。もっとも、騎士であらんとするあまりに国の維持に興味を持たなかったことが円卓の崩壊に繋がったという悔恨がないわけではないので、生前より気さくな態度を取る。
「あなたの事、日本で話題になってますよ?属性盛りすぎとか、生まれ変わっても貴族はズルいとか、他人の空似は何人いるのか、とか」
「は、はは……。それらについては答えかねます。何人いるのかは、私にも予測不可能なので。転生しても貴族だったことについては偶然ですからね、本当に」
多少不満げなアルトリア。この頃には、氏名も正式に『アルトリア・H・P・Z・ザイン・ウィトゲンシュタイン』に改名ずみであり、正式にウィトゲンシュタイン家を継いでいる。最も、幸か不幸か、ウィトゲンシュタイン家の親類縁者の大半はリベリオン本国軍のB-29による大空襲の際に死に絶えてしまっており、残った者も散り散りになったため、国内に残った者は実質的にアルトリア一人だけになっていたりする。それがアルトリアのいい隠れ蓑になっているのも事実だ。
「まぁ、わたしは錦ちゃんの家族にバレても問題なんで、錦ちゃんの声色出して、電話とかは誤魔化してます。記憶はあるのが幸いでした」
「それはご苦労さまです。ところで、クニカのあの戦闘力は何が由来なのです?」
「黒田先輩は黒江先輩と同じで、黄金聖闘士です。神を守護する闘士になってる上、私達も持つ空中元素固定能力を活用してるし、斬艦刀使いの一人でもあるんです。昔から黒江先輩の懐刀だし、うん、人外ですよ」
「……マリアン大尉が愚痴ったはずだ」
「マリアン大尉は黒田先輩の戦歴を知らなかった。そこも彼女を動かしたんでしょう。クリムゾンスマッシュやらかして、『戦うことが罪なら、あたしが背負ってやる!!』って言い放ったんでしょ?そのリスペクト元、平成ライダーですね。仮面ライダー555、変身者は乾巧。彼へのリスペクトでしょう」
「何故、それを?」
「先輩が自分でバラしましたから。黒江先輩は昭和、黒田先輩は平成派ですから」
「クニカはどこか、割り切って戦っている印象がありますが、そういう事ですか」
「先輩は守銭奴の流れで、平成ライダー好きになったらしいですから、黒江先輩とコンビ組んでる割には趣向は微妙に違うの、面白いですよ」
「それで、あなたは何故、アヤカの配下に?」
「錦ちゃんがキ44-Ⅲのテスパイで、士官学校の後輩ってんで、興味があるとかで。わたしはその流れを引き継いだんです。それとシャーリーがキュアメロディに戻ったんで、同室に」
「そういう事でしたか」
「私とシャーリーを皮切りに、昔の友達が現れ始めたのは嬉しいですけど、わたしのわがままにみんなをつきあわせたみたいで、悪い気がするんです」
「私も立場は似たようなものですよ。今のブリタニアの王位には興味はないですし、そもそもの資格も無いと思っています。何回も王朝が変わってますからね、ブリタニアは」
のぞみは職業軍人の道を選び、錦の全てを受け継いだことに後悔はないが、自分のわがままにかつての戦友達を付き合わせる格好になったことに負い目があることをアルトリアに告白する。実質的な最古参になってしまった事で仲間にも弱音を吐けなくなったという事情が絡むため、のぞみはまったくの第三者であるアルトリアに告白したのだろう。アルトリアも『自分は王位に相応しくなかったのでは?』とする疑問を懐き続けていたため、のぞみの気持ちを理解できたのである。
「こういう会話を口の悪い連中は『傷の舐め合い』って罵るんだろうなぁ」
「連中の戯言に耳を傾ける事はありませんよ。連中はノブリス・オブリージュの何たるかも知らず、安全な場所から罵詈雑言を言って、自分のちっぽけな自尊心を満たす。日本の大衆は卑しい国民性を持っているようですね」
「太平洋戦争で自尊心と誇りを木っ端微塵に砕かれた後は強者に媚びる事で戦後世界を生きてきましたからね、日本は。自分から動くのに、国際社会のお墨付きを欲しがる。21世紀にもなると、国連のお墨付きは単なるステイタスなのに」
「日本は孤立の道を選び、結果的に世界の敵と認定されたことに強いトラウマを持っています。そのトラウマが強い承認欲求になっているのでしょう。そして、自分の気に入らない何かに精神的にマウントを取って、出る杭は打たれるを地で行く社会を官僚社会の確立後は作った。その硬直性が太平洋戦争の敗北の一因であることを顧みないとは…」
「私達への誹謗中傷って…まさか」
「そのまさかですよ、ノゾミ。日本の大衆は判官贔屓を好みますが、私達はそれぞれの分野で強者と言えるだけの力を持っていますが、通常航空ウィッチは多くが通常の戦闘機と大差ない程度の能力しか発揮できない。そこが判官贔屓の対象になるのでしょう。航空ウィッチは少数精鋭がそもそもの運用法ですし、私達は上からは好まれますからね。エースになる確率は20人に一人くらいですから、もっとも、ハインリーケのナイトウィッチとしての能力は私に取っては儀礼的なものですが」
アルトリア・ペンドラゴンは夜間でも特段、戦闘能力に差が出ず、ハインリーケから受け継いだナイトウィッチとしての索敵魔法に敢えて頼る必要はない。その事から、ハインリーケがついていたナイトウィッチとしては、引退同然の状態であるが、円卓の騎士であるので、実質は『剣士』にジョブチェンジしている。ちなみに、アルトリアは水上でも戦えるため、ハインリーケから受け継いだ魔力を自身の技能のキャパシティ増強に使用している。
「ウィッチは能力が千差万別ですから、本当は近代軍隊には不向きなものなんだよなぁ」
「戦闘向けの能力を持たない者もいるでしょうし、持っていても、気質がそれと正反対のものもいますからね。ウィッチは近代軍隊という、ある程度の能力の均等が求められる組織には不向きなのでしょうね。おそらく、法的問題の処理のためでしょうが…」
「でしょうね」
ウィッチは基本的に、最長でも『10年』しか戦えない。その上、芳佳(多くの世界の場合)やリーネ(同上)のように気質が戦争に向かないが、義務感や自身の想いで軍隊に籍を置いた例もある。Gウィッチは個々の魔力値はともかく、魔力の永続性は魔導師と同等である(一生、枯渇しない)ため、ウォーモンガーなどの誹りを受けやすい。最も、ウィッチの儚さこそが次元世界では異端の部類であるのだが。
「上は気づいているのです。せっかく金をかけても、それに見合う働きができるとは限らない上、エースが多い特定の部隊のみが戦局を動かす事が多い事に。多くの場合は統合戦闘航空団が、この世界では七勇士がそうです。なので、大々的に育成する事がバカらしくなったんでしょう。雑兵同然の数千人よりも、私や貴方達のような一騎当千の強者に金をかけたほうが効率的と見たんですよ。普通の軍人なら、20はまだ士官候補生の年齢ですからね」
アルトリアは真理を突く。ウィッチはこの時代には『女の花嫁修業』と見なす世論が確立されており、普通の軍人とは違う物、期限付きの特権階級と見なす考えも定着していたので、ウィッチ全員に軍人として一定の能力を求め、21世紀の高卒・大卒と同等の学力も付随させようとする日本の要望は『戦前の教育制度の名残が色濃い』扶桑にいきなり求めるのは無茶もいいところであった。日本としては防大が目指すように、軍学校卒業から数年の勤務実績がなければ、軍学校の学費を返還させる制度の整備を目指しているが、扶桑の貧困層にとっては『農家の子供でも栄達できる最たる手段なのに』との認識で、その事の反発が大きく、日本も予想外の反発に狼狽し、対応に苦慮する有様であった。扶桑の貧困層は地方に多く、その子供ほど、親が軍人にしたがるもので、圭子も武子も実家は北海道である。これについては農業高校の設立で農家の要望に応じ、軍学校卒業後に10年(後、7年に緩和)の勤務実績さえあれば、学費免除と再就職斡旋を受けられるようになるように制度が整えられる事になった。
「そういえばそうですね。日本なら普通に学生の年頃だし」
「そこです。この世界では15歳を超えれば、普通に就職もできますが、21世紀の日本では高卒以上でなければ、まともな就職口がない。その差が浮き彫りになったのです。おまけに、ウィッチは10代のうちに戦士としての寿命が終わり、それ以降は他兵科に転科するか、教官や海援隊へ天下りするのが一般的だった。ですが、日本の世論が天下りを規制するのを後押しし、10代の兵士を減らす意向な以上、扶桑はそれに配慮する必要がある。世界的にこれからは20代や30代のウィッチも珍しくはなくなるでしょうね」
「これもタイムふろしきがデッドコピーでも23世紀で再生産されてるおかげですか?」
「そういうことです。私達は突然変異的な経緯で永続性がある魔力を得たと見られている。その建前とは関係なしに、通常ウィッチへの配慮は必要ですからね。まぁ、福利厚生制度が充実する引き換えと思えば、気は楽ですよ」
「そういうものですかね?」
「日本の大衆は費用に見合う戦果だけを求めている。ウィッチは元々、費用対効果の薄さから、近代以降の軍隊での存在意義をずっと問われてきた。あの方々のとてつもない戦果は確かに、今の我々の立場を確立させはしましたが、同時に高慢な者たちが居丈高に振る舞う素地を与えてしまった。ですから、我々はその者たちの高慢とエゴを、国家への献身という形で打ち砕かなければなりません」
アルトリアは言う。服装や肉体の背丈はハインリーケの勤務時のそれであるが、姿はアルトリア・ペンドラゴンそのものであるため、生前よりかなり背が高く、彼女の凛とした振る舞いもあって、独特の雰囲気を醸し出す。ドイツ軍人の立場でありながら、生前の宝具を奮うため、キングス・ユニオン、領邦連邦の双方の国民からはかなり苦笑いされているが、ハインリーケの立場を受け継いだ以上は仕方のないことだ。
「かなり無理難題じゃ?」
「いつの時代も大衆は無理難題しかいいませんよ。ヒトラーも、ナポレオンも民衆を上手く誘導して権力を得たように、民衆というのは、自分たちさえ平和に暮らせれば、王朝が倒れた後に独裁政権が生まれようと、民主政治になろうとも容認するのです。私はそのような闘争と無縁ではありませんでしたし、不肖の息子が反乱を起こした理由も悟れませんでしたが…」
自嘲が入っているが、モードレッドを不肖の息子と言うのは、自身に関心を寄せて欲しいという理由で円卓を崩壊させた事と、それに無関心で高潔な騎士を気取っていた自分への怒りからの言葉で、その直後からのかなり割り切れない感情があるのがわかる。
「通常ウィッチは関心を寄せて欲しいのですよ。一握りの英雄が戦局を左右する時代は終わったはずですし、みんなでできる事を褒めてもらいたい。タケコも自嘲してましたよ」
「隊長は部隊戦果にこだわってた時期がありますから」
「それが戦局が混迷を極めるにつれ、かつての円卓の騎士やカエサル、アレクサンドロス大王、私はイスカンダルという名を名乗った彼とどこかの世界で会ったことがありますが…。彼らのような英傑が今一度求められた。我々は生前、もしくは転生前の時点で何かを成した経歴がある。それが大神『Z神』(ゼウス)に認められ、転生を果たした。
はるか以前、イスカンダル、あなた方のいう『アレキサンダー』に言われたことがあります。私は臣下を“救う”ばかりで、“導く”ことをしなかったと。『王の欲』のカタチを示すこともなく、道を失った臣下を捨て置き、ただ独りで澄まし顔のまま、小綺麗な理想とやらを想い焦がれていただけと。身につまされましたよ。自分の臣下であった者たちの末路は知っていますからね。彼の器に圧倒されましたよ」
「世界征服に最初に近づいた人ですからね。無敵を信じて、無数の矢の中を平然と突進したって話も聞きますから、豪放磊落なのは想像できます」
「その通りの男でしたよ、彼は」
アルトリアははるか以前の記憶という形でだが、イスカンダル、つまりはアレクサンドロス大王に言われた言葉を口に出す。自分の生き様を第三者から見ると、滑稽ですらある事を突きつけられ、それは転生した今でも、胸に突き刺さっていると。彼から見れば、自分は単なる『理想に取り憑かれ、挙げ句に時代の光を背負わされた故に、その生を大きく狂わされた小娘』だと。
「彼から見れば、私も単なる小娘です。それも、聖剣や騎士王の幻想に踊らされ、自分の臣下もまとめ上げられなかった『時代によって、騎士の王にされた小娘』です。だからこそ、私はハインリーケの立場を継いだのですよ」
彼に言われた事に身につまされたアルトリアは転生後はハインリーケの立場を単純に受け継ぐ事を選び、自分の欲望に素直になろうとしている。王位に就いていたからこその苦しみもあるのだ。ましてや、古代の王位は中世以降の王位とは全く意味合いの異なるものであるからこそ、ハインリーケの立場を受け継いだのだろう。
最も、ハインリーケも家が王位継承権持ちの貴族の家柄であったので、どのみち、『騎士』であることには縛られているのだが、生来の騎士気質から、そこは気にしていないらしい。
「でも、ハインリーケ少佐も王位継承権持ってましたけど?」
「順位は低いので、気にしてませんよ。ただ、家の者は大空襲で散り散りになり、ハインリーケに近い親類縁者は殆どが亡くなってしまったようなので、爵位を継ぐハメになりましたが」
「大変ですね」
「家が名家だと、それなりに世間体を気にしなければならないのですよ。ハインリーケには『指揮官・将校の器でない』という陰口がありましたし、私も苦労はしています。彼女は子供っぽいところがありますから」
「噂で聞いた事があります。年功と階級を振りかざすとか、完璧主義すぎて、部下や同僚から顰蹙を買ってるとか」
アルトリアはこの頃、徐々に自分主体で統合されていくハインリーケの人格に配慮し、のび太が誘う北海道旅行において主導権を一時的に戻す事を提案し、ハインリーケも『妾の末期の思い出には丁度いい』と受け入れた。それがハインリーケとしての人格が表に出た正真正銘、最後の記録となった。また、この時にハインリーケは箱入り娘気味であった事もあり、子供っぽさが多分にあった。軍部からも『個人としては優秀だが、年功と階級を振りかざし、家柄を過剰に誇示する問題児』扱いされていたので、精神的に遥かに成熟し、凛とした佇まいを保ち、何事にも謙虚に取り組むアルトリアの姿は余計に『理想的な軍人』のプロパガンダの材料であった。言動から何まで、まるっきりの別人なので、事を知らない者は変貌に大いに驚く。ハイデマリー・W・シュナウファーもその内の一人である。
「ハイデマリーにも驚かれましたよ。全ては話せませんが、とりあえずは」
「事を荒立てるのもアレですしね。今日はこれからどうするんです?」
「凛…、もとい、はやてとのホットラインが出来た事をタケコに報告します。昔、共に戦った仲ですので」
「あ、ああ~…。イリヤちゃんやクロとも関係あるとか言ってたなぁ、はやて」
「凛はうっかり気質はありますが、優秀な魔術師でした。はやてに転生した事で、はやての難点の殆どは解消されます。…腹黒くなりますが、基本的にはお人好しですよ」
「言いますねぇ」
「凛との付き合いはそれなりにありましたから…。もっとも、今は八神はやて、でしたね?」
「ええ…。」
武子の執務室に向かうまでの二人の会話。色々と腹の中をさらけ出したアルトリア。それが彼女なりの自分への誠意であると悟ったのぞみは以後、アルトリアと良い友となり、彼女の凛とした佇まいに憧れてゆくのだった。
アルトリア・ペンドラゴン(青セイバー)は「ZERO」か、それに極めて近い体験を過去にしていたとする前提であります。