――カールスラントがドイツに抑え込まれ、急激に軍事面で衰退すると、代わって扶桑が軍事大国の地位になることを強いられた。日本の一部は軍の雇用形態を変革させ、21世紀基準の兵器を配備することで軍隊を合法的に縮小させようとしたが、扶桑の国力が彼らの想像より遥かに上であったことで目論見は外れた。民需が優先されたり、兵器の近代化と自衛隊規格への統一に設備投資が追いつかないなどの弊害も表面化し、前線はシッチャカメッチャカ。二代目レイブンズの援助がなければ、ストライカー装備の弾丸の補給の頻度も低下していた始末であった。(これがカールスラントならNATO規格への変更になるため、余計に大変なところであった)ダイ・アナザー・デイ途中から顕著になった同位国の政治勢力による軍事への介入(シビリアン・コントロールを大義名分にしているが)はかなり連合軍の顰蹙を買っていた。だが、国力増強のためにインフラの近代化の必要性は認識されていたが、文化財保護に資金を費やし、文化財保護、人種差別撤廃の観点からの軍部の統制など、やることが増えすぎたため、1945年度のウィッチ世界は銃後もヒッチャカメッチャカであった。――
――カールスラント軍人達はゲルマン民族至上主義的な口ぶりを一言でも公の場で発すれば、懲戒免職処分を含めた厳罰を直ちに下される事がドイツ主導で決まったため、戦々恐々とならざるを得なくなった。当人達からすれば、そういう口ぶりは『他国軍人の実力を試すため』に利用しているにすぎず、本気で信じてはいないのに、懲戒免職処分と恩給受給資格の剥奪もありえるという規定を作られては、たまったものではない。また、史実ナチスドイツ軍人達が日本軍人を裏で見下していたことが公になり、日本側からかなり問題視されており、今や、カールスラント軍将校は針の筵状態に陥っていた。44戦闘団はその規定が作られる事を予期していたガランドの手で、部隊ごと日本連邦の外人部隊となることで難を逃れた。カールスラントでこの規定が現場の抗議で緩和されるのは、二年後の1947年の事になるため、その間に起こった空軍の『人材流出』が軍部にはかなりの衝撃であった事が分かる。比較的にその類の『冗談』に寛容な日本連邦軍の外人部隊に予備役に編入されたカールスラント軍将校らがまとまった数で移籍(本国で一斉に予備役になった上)してゆく動きが大規模に、公然と行われる。なお、この時期にカールスラント軍将校の中には、旧日本軍義勇兵らと喧嘩になった際に海軍精神注入棒でぶん殴られ、悶絶する羽目に陥った者も多く生じ、『日本人怖い……、もうやだ…』というのが通説となった。旧日本軍義勇兵は自衛隊員より手荒い者が大半なので、喧嘩になると、カールスラント軍よりめっぽう強い。そこもカールスラント軍の中での日本連邦へのイメージが塗り替えられた理由だろう。(史実では日本を利己的で得体のしれない連中と見下していたドイツ軍人も多かったため、それと真逆に自分の死をも恐れずに戦う日本人を心底から恐れるようになった者が多く出た)また、カールスラントをドイツが過剰に締め上げたため、日本連邦軍への有能な人材の流出が大規模化したことへの軍部の抗議をドイツ政府が聞き入れるのがウィッチ世界での2年後にあたる1947年のことであり、カールスラント国内に失業軍人が溢れかえり、ノイエ・ベルリンの治安が悪化してしまった事にも当初は他人事のような一言を言うなど、あまりにドイツが連邦相手を顧みなかったため、見かねた日本連邦による砲艦外交が仲介という形で行われるに至る。そこが双方の明暗であった――
――二年後の1947年、ウィッチ世界は一見して、翌年の東京五輪に向けて邁進しているかに見えた。だが、実際は太平洋戦線の構築準備に追われており、軍備の再構築と近代化を極秘裏に行っていた。扶桑皇国は膨大な資金力に物を言わせ、F-8やF-4EJ改などの近代機を続々配備し、その更に次世代機も試験段階に入っていた。局地戦闘機もドラケンとスターファイターの配備を促進しており、太平洋戦線への準備を進めつつあった。その関係で純然たる戦略爆撃機の保有に疑問符がつけられたが、空中給油機や早期警戒機などに転用可能ということでどうにか保有が許された。基本的に日米同盟の関係上、アメリカ合衆国の支援で空軍の近代化が進められているため、アメリカ合衆国系の機材が優先的に選定されているが、クーデターを鑑み、『ご機嫌取り』で国産機も開発が継続されている。(海軍系の国産機の開発が中止された事が横須賀航空隊の加担理由であったことから)クーデター関係者は極刑を含めた厳罰に処せられたが、扶桑国民は蜂起の理由とウィッチが首班であったことから、扶桑国民は大規模に助命嘆願をしたが、日本連邦評議会は事の重要性から、中枢部を担ったウィッチへは問答無用で極刑を下した。これが扶桑国民の精神的萎縮を招き、窮した扶桑軍部の要請で、昭和天皇による玉音放送が行われるに至る。それを受けて、農村部のウィッチの集団就職が始まったが、実態は不敬罪を恐れ、地主や村がクーデターの結果を受け、蔵に幽閉していた者も含めて、片っ端から送り込んできたために『質が低く』、また、幽閉から一転して、『家を守るため』に強引に入隊させられた者もおり、士気も総じて低く、とても実戦部隊ではいろんな意味で使いものにならない者も多かった。それに伴い、扶桑皇国軍の前線の担い手は義勇ウィッチや亡命ウィッチが中心になり始めていた。言うならば、ウィッチ兵科の『命運』は1947年の時点で『先が見えていた』と言える――
――ただし、扶桑もけして『不利益』を被らなかったわけではない。有事徴用の大義名分であった政策『優秀船舶建造助成施設』及び『大型優秀船建造助成施設』が廃止され、その政策で作られた艦船の大半が日本主導で軍籍から外されてしまったため、軍部はその代替の空母として大型空母の建造をせねばならなくなったので、その補償も急務とされた(軍籍を解かれた船の中には、航海中で、『大鷹』と名付けられることが間近であった春日丸も含まれていた)なお、日本郵船がもっともこだわった橿原丸級貨客船は既に飛鷹型航空母艦として就役している上、稼働状態の完全な『ウィッチ母艦』として、軍部のウィッチ閥が頑として手放さなかった(既に北海で任務中であった)ため、日本郵船の目的は完全には果たされなかった。しかし、扶桑軍部としても『有事に徴用する前提で調達した船を理不尽に奪われた』(しかも、軽空母化した艦艇用として、工廠に納入済みのウィッチ発進促進装置が使われずに倉庫で不良在庫化した)形であるため、代替の艦艇の建造予算を1946年からの数カ年がかりで得る形で補填を図り、日本の民間船が軍部の要請に応じない可能性が大きかった事もあり、タンカー、輸送船、病院船も自前で建造することとなり、主力艦艇よりも調達が優先されるという珍事になった。扶桑海軍が軍備整備に手間取ったのは、これらの政策の方針転換により、建艦能力を補助艦艇の増強に割かなければならなかったからである――
――二年間で没落したカールスラント空軍は兵器開発予算が減らされ、技術者も多くが流出したことで開発能力が下がり、二年前の試作兵器がようやく開発完了するにすぎなくなった。カールスラントはプライドが高かったため、アメリカ合衆国系の機体を下請け生産する事を屈辱と捉え、我慢ならなかったが、ドイツからの締め付けを嫌がった有力将校達が予備役編入と同時に日本連邦の外人部隊に公然と入隊していく事は流石に問題視されたため、問題の事柄の罰則の緩和が急がれた。だが、それが双方で決議された時には既に手遅れであった。かつて、カールスラント空軍トップ10の撃墜王とされた者は日本連邦空軍の外人部隊『魔弾隊』にすでに入隊済みであったからだ。カールスラント空軍総監のグンドュラ・ラルも『連合軍としての折衝業務のため』と称し、南洋に滞在しているため、権威の低下は否めず、かつての欧州の空の王者は見る影もなく没落していた。カールスラント軍高官らは空軍の権威の低下を自らの手で食い止められなかった事を泣いて後悔したという――
――この時期、黒江は多種多様な機体を私的に入手し、乗りこなしていた。次元震の時間軸では、自分の道楽も兼ねて、クフィール最終型を『運用試験』と称し、購入。自身の配下の数名と共に運用試験を行っていた――
――格納庫――
「わーお、黒江さん。クフィールかよ。凝ってんなぁ」
「色々試してんのさ。自衛隊の航空開発実験集団が俺の存在をいいことに、各国機を買える事に気がついたからな」
「アンタの趣味が入ってるだろ?」
「半分はな。改修してあるから、航続距離は気にしなくていいしよ」
「どうやって手に入れてんの、熱核タービン」
「23世紀にもなると、VF-11用までの熱核タービンはバンキッシュレースでも使われてるからな。その関係で調達した。レースに最新の熱核バーストタービンも出回り始めてるしな」
「そこからかよ。過剰性能じゃね?」
「パルスレーザーに機銃を変えてあるから、そのためだ。M3.5+出りゃ、高度10000mじゃ充分だしな」
黒江の乗機は通常戦闘機に見えても、中身はVF仕様に改造されており、『外見しか元が残っていない』と揶揄されている。ウィッチ世界では過剰性能気味だが、ジェット機時代の機銃の多くは『気休め程度に積んでいる』と21世紀頃には言われており、エネルギー供給さえあれば、弾切れの心配がないパルスレーザーに取り替えるのは必然である。そのため、この時期には64F仕様のドラケンやスターファイターが遠距離邀撃訓練で飛んでいる様子が扶桑の軍事雑誌のピンナップを飾っていたりするため、扶桑は公には『エースパイロットの要望で、ライセンス生産機にチューンナップを高度に施した機体である』としている。
「日本はそれ認めてんの?」
「B公殲滅のために了承したよ。絶対殺すマンだもん、日本は」
日本はB-29を封殺する目的を果たせるのなら、部内の反対を押し切ってでも超兵器の使用を推進する。技術のまっとうな進歩を無視しているという趣旨のウルスラ・ハルトマンの提言が退けられたのは日本の執念によるものだ。
「あの野郎がぶーたれたはずだ」
「ウルスラは良くも悪くも、技術屋だしな」
ウルスラは技術士官に転向したため、Gウィッチであってもカチコチとされ、この時期はいまいちパッとしない活動経歴である。変に柔軟性がないことから、石頭と仲間内でも言われているが、『He162やMe262を成功させたかったから』とダイ・アナザー・デイ後に釈明している。だが、政治的要因で両機種は制式量産ストライカーとしては成功しなかった事のショックからか、政治家嫌いを公言する事になる。
「で、あんた、これから非番だろ?」
「ああ。お前は勤務だろ、シャーリー?」
「のぞみの奴、りんの快気祝いとか言って、ついつい買いすぎちまって、新京のデパートから動けなくなったって」
「アホか、あいつは。しゃーない。トラックでも運転して迎えに行くか。咲と舞の面倒は任せる」
黒江はそう言い、自身で73式大型トラックを運転し、新京に向かった。基地から新京中心部までは新設の高速道路を使えば(モータリゼーションの進展前なので、軍用車両しか当時は走っていないが)1時間半ほどでたどり着くため、のぞみの想定より速く到着した。
「おーい~」
「あ、先輩」
「荷物を荷台に載せろ。お前らもだぞ」
「トラックで来たんですか」
「高速使ってな。買いすぎだぞ、お前……どうやって持ち帰るんだよ」
「す、すみません。りんちゃんの快気祝いだし、給料出たし……。」
「はーちゃんを付き合わせてまでか?ったく…。」
「流石に参りましたよ。これだけの量は持てないし…」
「確かに」
「魔法、使えませんかね…?」
「このバカ…」
紙袋が何個もある上、ギフト包装された箱もごちゃまんとあるため、黒江も呆れてしまう。1947年にもなると、Gウィッチの資産は黒田の設立した企業が一括で管理しており、コミュニティ全体をみると、かなりの資産を保有していた。その関係上、のぞみもこの頃には、かなりの財産を保有していたのである。自身の心身とりんの快気祝いとして、デパートのあちらこちらの階でかなりの品物を買ったらしく、同行していたことはを呆れさせるほどであった。紙袋だけで六個を超えており、ギフト包装された箱も含めると、ことはでは到底持てない量であった。
「ま、それはいいとして、仕事の問題も山積だ。向こうの芳佳達がお前らの力を知ったんだが、それで飛ばせろと、うるさく言ってきてる。ああいうのは扱いに困るぜ」
「こっちと違って、頑固なとこありますからねぇ」
「それで向こうの芳佳のヤツ、向こうの智子を泣かせたんだよ。ああいうトラブルを勝手に起こされてもなぁ」
「大変ですねぇ」
「そーなんだよ。俺も処理に困ったよ。あいつとリーネは何かしてないと落ち着かない気質らしいな。向こうの智子と俺の言い分を芳佳は殆ど無視だ。参るぜ」
芳佳は基本世界に近いと、性格に頑固な一面があり、周りが見えなくなる事がある。既に力を失った智子Bと黒江Bを批判し、場の空気が険悪になった事をのぞみに教える。
「向こうの坂本が模擬戦を持ちかけるようになったのは、それが理由だよ。顔を隠しての救難任務をやらせる事にした。こっちの芳佳はプリキュアとしても有名だしな、顔出しじゃ出せんよ」
「確かに」
「『このバカチンが。ここにいるこいつらは既にあがって何年も経っとるんだぞ?少しは立場を考えてやれっての!』って叱ったんだがなぁ」
「それであの時、あたしと向こうの直枝を?」
「そうだ。あれはいい薬になったが、まだまだ、ヒヨコ以下のタマゴだな、向こうの芳佳は」
黒江は芳佳Bの行動を指して、『ヒヨコ以下のタマゴ』と評する。これは地球連邦軍の航空隊で使われる隠語で、素養のある未熟者、口ばかり達者な若造の意味を持つ。エイジス・フォッカーがオズマ・リーに対して使うことで有名である。黒江はそれを芳佳Bへ使ったのである。
「お、この時間は下が混んでるから、もう少し待ってから出すぞ」
「あれ、新京もまだそんなにはモータリゼーション…」
「日本の観光客の車だよ」
「ああ、なるほど」
「本当、向こうのガキどもはエクスウィッチに敬意を払わねぇな。向こうの智子へのケアが大変だった…」
黒江も苦労する、B世界の若手達の人心掌握。実力の違いを見せるしか方法がない者も多い事(ブレイブウィッチーズなど、血の気が多い者が中心だが)から、色々な苦労がある。二年前ののび太の事のように。この出来事は普通は7年も時間が経てば、自分達の活躍も忘れ去られていく事の証明だ。黒江は相変わらずのニヒリズムぶりを見せる。
「お前の気持ちが分かったよ。忘れ去られていくっていう事の恐怖ってのがな。時間は残酷って事だな」
そこでトラックのエンジンをかける。のぞみとことはは荷台にいるため、会話をテレパシーに切り替えつつ、ニヒリズム全開の黒江。のぞみも会話をテレパシーに切り替えつつ、続ける。
『先輩、二年前からニヒリズム出してますね』
『のび太のことを散々に誹謗中傷されればな。重介護だの言われてたし、ダチを公然と侮辱されてたんだ。ニヒリズムに染まりたくもなるぜ』
トラックは賑わいを見せる新京の中心市街地をゆっくりと走り出す。当時はモータリゼーションの本格到来以前の時期であったため、道を走る車の大半は軍用車両で、それ以外は日本の観光客、扶桑華族が道楽で輸入した輸入車、公共交通機関のみだ。黒江はダイ・アナザー・デイ当時からニヒリズムじみたことを言うようになった。友人であるのび太を公然と侮辱される事が多かったためだ。キュアマカロン/琴爪ゆかりも『愛も友も捨てろと言うなら、真っ先に人類を見限るよ、愛され敬われるから戦う意味があるんだ、便利な道具位にしか思われないなら、国ごと滅ぼして、一人で生きる方がマシさ』と述べている。
『のび太は俺たちの不屈の闘志に敬意を抱いてるし、姉代わりみたいにとして慕ってる側面もある、その辺が力しか考えに無い連中には読めてないんだよ。愛玩動物だの、養豚場だのと屁理屈だの言われる筋合いはない。どっかの美少女仮面も言ってるだろ?愛ある限り戦いましょうって』
『先輩、それあたしが産まれる前の特撮ヒロインだし、2020年代には通用しない可能性が…』
『のび太の従兄弟の五郎さん曰く、当時は流行ってたそうだが?』
『30年くらい前でしょ、その時代からは。あたしもその頃には15年選手くらいだけど』
『お前、そこはツッコむのかよ』
『ま、ハートに愛がないと、スーパーヒーローなりスーパーヒロインになれないってのは昭和の頃からの常識ですって』
『超獣戦隊ライブマンのイエローライオンが言ってたぞ。夢を追いかける事は素晴らしい事だ。だが、それに執着して、悪魔に魂を売る事はゲスの極みでしか無い。君達の友達がもし、悪魔に魂を売ったら、心だけでも救ってやれってな。お前の前世の罪もたぶん…。』
『それは分かってますよ。だから、あたしはまた……、戦う道を選んだんです。見失った戦いの答えは新しい戦いで見つけます』
のぞみは前世の行いと選択に関する事柄についてだけは、自嘲も入ったニヒリズムな物言いをする。二年間の戦いで得た答えは『かつて見失った戦いの答えを新しい戦いの中で探す』こと。草薙流古武術の継承者としての立場にもなったためか、戦いの中で答えを探すやり方を選んだ。生まれ変わった『自分』に帰るべき場所を与えてくれたのび太のためにも。
『こんな駄目な母親だったあたしにも、やり直せるチャンスが巡って来た。そして、あたしに本当に帰るべき場所をくれたのび太くんのためにも、前世の贖罪は戦いでしていきます』
のぞみは前世での子育ての失敗を自嘲しつつも、転生者である自分にも分け隔てなく接してくれたのび太の天衣無縫の優しさに惹かれていた事、現在は『自分に本当の意味での帰るべき場所を与えてくれた存在』として大切に想っている事を明言する。青年のび太の天然スケコマシぶりの面目躍如と言える。黒江はのび太との友情が自分達に奇跡をもたらしたことを自覚しているので、のび太こそが真に『神に愛されし者』であると悟っていた。のび太も語る。種まくものから宇宙の未来を託され、地球人類の未来と良心を担う存在と見做されたと…。
――夕方の再開発途上の新京を走る自衛隊式トラック。新京中心市街地の大正浪漫の香りと再開発開始地域の近代的高層ビルとが混在する時代の狭間を妙実に表す不思議な光景はウィッチ世界のこれからを暗示するかのようである。開通したばかりの新京高速道路に入り、時速120キロほどで疾駆する。のぞみはトラックの荷台の幌の端っこのところから見える矢のように去っていく新京の景色を妹分のことはとともに楽しむ。
「はー!これが新京の景色なんだ……」
「進行方向とは逆だけどね。もうじき、郊外に入るからインターチェンジだよ」
高速道路は将来のモータリゼーション時代を見越して作られたが、この時期には一般車両は殆どいない。なんとも寂しいが、誰も彼も自動車を持つ時代になったが故に、高速道路の渋滞が当たり前になっている日本の高速道路と違う新鮮な景色がそこにはあった。日本よりも道路が大きく、車線も多いのは南洋島が日本列島より平地が多い上、日本本土よりも広大な大地である故だが、扶桑がモータリゼーションの実験に選ぶだけの理由が南洋には存在していた。そして、カールスラントにかつて存在していた『アウトバーン』を参考に作られているのがわかる区画も存在しているのが、扶桑の築きつつある南洋高速道路網の特色だった。