――2019年。黒江が艦娘・秋雲と共に10年近く営むサークルの同人誌に精を出す中、のび太の子のノビスケにおやつを食べさせた後にサッカースクールに送り出したプリキュア達。この日はコスモがノビスケの付添で行ったが、それ以外のプリキュア達はというと……――。
「……先輩、あたしたちになにやらせてるんですか?」
「ページ数確認に決まっとるだろ」
黒江は秋などは同人誌づくりに精を出す。それはどこにいても同じで、すっかり21世紀人で通用するほどに生活に慣れている。本職の艦娘でありながら、同人漫画家/イラストレーターとして一定の評価を得ている秋雲もそうだ。れっきとした『陽炎型駆逐艦』(夕雲型駆逐艦ではない)の末妹という戦歴を持ちながら、同人漫画家/イラストレーターが副業という
「あたしたちにさせる仕事じゃないっしょー?」」
「そう拗ねるな。この作業が終われば、印刷屋に出すだけだ」
黒江らのサークルの同人誌は意外に硬派な内容であり、『その点はガチな内容』と同人界隈で有名である。秋雲にしても、陽炎型駆逐艦として意外に壮絶な戦歴を持っているため、それだけで一冊出せるレベルである。
「いやあ、すまないねぇ。今回は続きもんだから、ページ数が多くなっちゃって」
「秋雲さん、どうしてあたしたちに?」
「従姉妹達や姉達に頼んだんだけど、逃げられてね」
「あー…なるほど」
ちなみに、秋雲の従姉妹である夕雲型駆逐艦の三番艦『風雲』が断りきれずに売り子を引き受けたため、彼女も以後、巻き込まれていく事になる。
「意外にハイテクなんですね…」
「ま、今どきはタブレット扱えないとね。雪風姉さんは時たま宝くじに行かせてる。姉さん、よく当てるんだ」
秋雲はタブレットでイラストを作画する。ひどい時は徹夜するが、曰く、『昭和17年からの二年の地獄に比べりゃ、どうというこたぁないね』との事。修羅場を見てきた駆逐艦として腹の据わった面も持つ。
「よしっ。これで今回の分は終わった。後はあーや。印刷屋への入稿は頼むよ」
「仕事の合間にやっとく」
「先輩、終わりました」
「うっし、ノビスケが帰ってきたら飯だが、それまではおやつでも食っとけ」
同人誌づくりが終わると、キュアアクアはアフタヌーンティーを始め、メロディ(シャーリー)と黒江はコーラを冷蔵庫から取り出す。
「そう言えば、アフタヌーンティーって何が始まりなんだっけ」
「ん、ああ。元は産業革命期のヴィクトリア朝時代の英国だ。俺たちの世界じゃ中国は滅んだから、メインがセイロンティーとかになってるって聞いたな」
「確か、ベッドフォード公爵夫人が始めたのが若かりし頃のヴィクトリア女王に知られたのが知られたことで広まったはずだよ。日本の有名紅茶ブランドのパッケージに書かれてるのは彼女だったはず」
「へー」
「産業革命で人々の活動時間が伸びたから生まれた文化でもあるわ」
「その代わりに伝統レシピの多くは断絶して、イギリス人の味覚は残念な事になったけど。俺も食った事あるが…」
「どこの世界でも、英国は食事が残念なんですね」
「アルトリアも言ってたが、あそこは土地柄が良くないからな。大陸のような農業もあまり盛んでなかったし」
「セイバーもそこは相当に苦笑いしてたよー?」
「あいつは粗食でも食うくせに、そこは突っ込むのか?」
「コンプレックスあるんだよ。ボクのとこは世界三大料理だし」
「ドイツからはゼータク者と言われてんぜ?」」
「ジャガイモとビールとウィンナーのとこには言われたくないね」
「ソーセージは手間かかってて美味いじゃん?」
「それを魔改造レベルで作ってるの日本じゃ…」
「ドリーム、そこは言っちゃいけないとこ」
「そ、そうなんですか、秋雲さん」
「ドイツ人が持ち帰るレベルだし」
「そ、そうなんですか、あはは……」
「東京は食の魔都、世界中のあらゆる国の料理が一流の出来で食せるグルメホイホイだからな」
「あ、あーや。なのは達がクランクアップしたって」
「やっとか。あいつら、まだガキの姿か?」
「大人の姿じゃ色々と日本で不都合出るそうで、とーぶんは子供の姿で通すって」
「仕事の時は?」
「大人に戻るってさ。なのはがキュアエースへの対抗心で駄々こねたみたいでさ」
「いい年こいて、なにしてやがるんだ、あいつ」
「ま、親友がキュアエースだからって、ライバル意識あるんだろうね。しかも成長変身だし」
「おまけに、あいつのコピーはアムールだしなぁ」
なのははダイ・アナザー・デイの際に親友がタイムふろしきで若返った上でキュアエースに覚醒した事にショックを受けた。歴代でも相当に高いポテンシャルを持つキュアエースは刀を持たせても炎を扱い、普通に強いため、魔砲特化を捨てて成長したなのはに対抗心を抱かせた。
「アムールは人工知性体繋がりで持ってかれたらしいな?」
「でも、エースが刀を持って、炎を出すってどっかで聞いたような?」
「ああ。
「あの時のなのは、ギャグ顔で涙目になってましたからねぇ」
「それと、お前。アクアの技、借りてただろ?」
「そうだったー!アクア、技を借りてたけど、事後承諾ってことで…」
「いいわ。事実は事実だし、以前よりパワーアップしているのなら、私も以前の技と、この姿での技を併用できるはずだもの」
「他のプリキュアの技も使えてるんですよ。あとで事後承諾を取ってもらうつもりで…」
「ま、お前はあたしと違って、自前のネタがカットバックドロップターンしかねぇし」
「メロディはいいよね。ミュージックロンドが通じなくても輻射波動撃てるしさ」
「あれ、使いどころむずいんだぞ?ワイドだとエネルギーが拡散して威力下がるし」
「貴方達、何気にすごい事いってない…?」
「ボクも宝具とか撃てるから、人のこと言えないけどね」
圧倒されるアクア。それ以外のプリキュア達は多くが現役時代の能力値を何かかしら上回っているため、まだ新参者な上、現役終了間もない時期からの来訪であるアクアは成長途上であると言える。
「多分、現役時代とかけ離れたのはフェリーチェじゃないかな?マジンガーとゲッターの技を素で撃てるようになってるし」
「ええ。私は元々、攻撃魔法は覚えていませんでした。それで自分の無力を恥じたのです。特訓を重ねた結果です」
「あたしもこの体の元々の持ち主が完全に受け入れてくれたから、シャインスパークとストナーサンシャインを使えるようになってますし、それに拳法を覚えましたし…」
「貴方が!?」
「あたしも色々あったんですよ」
「俺が教えた。こいつに覚えさせるのは骨が折れたが…」
ピンクチームのうちの数人を重点的に鍛えた結果、のぞみは肉体の基礎技能だった草薙流古武術の他に流派東方不敗、黒江が教えた『機神拳』などを会得。ラブリー、ハート、ピーチと共に武闘派扱いである。
「あたし、覚えいいほーじゃないんで、体で覚えるしかなくて」
「覚え悪い方が皆伝した後伸びるとも言うから最初に苦労するのは良いとも言うぞ」
「確かに。うららは?」
「うららは今の出身世界での残務処理を終えたら戻るって言ってました。先輩、うららの銃…、送ったんですか?」
「いや、あいつが自前で用意してきたんだ。前世でのドラマ撮影でモデルガンを使った事あるってんで…」
キュアレモネード/春日野うららは戦車道世界が現在の故郷であるため、サンダース付属高校の副隊長としての残務処理をしている。ちなみに愛銃は前世でのドラマ撮影の関係でワルサーP99の二丁拳銃。黒江は『P99はマズルフラッシュ目立つし、他のにしたらどうだ?』と言った事があると伝える。
「そう言えば、前世で
「アニメ版の声帯の妖精繋がりだと思うぜ。それ、心当たりがあるし」
プリキュア5で自前でサイドアームを用意してきたのは、うららのみ。あとは黒江やのび太からの供給品である。また、ドラマ撮影の際に殺陣をするために剣術も覚えたため、何気に二刀流の使い手であるのもあり、『明らかに生前より強くなっている』疑惑がある。
「あの子、将来のために色々とやってたけど、まさか、そこまでとはね…」
「あいつも努力家だしなー。で、黒江さん。そろそろ起きるパニックのことだけど、同位体にどう説明するんだよ」
「別世界で生まれた双子みたいなもんだって言うよ。芳佳なんて、どう説明すんだよ、一言でリーネが納得するか?」
「確かに。アイツ自身、別の自分がバリバリの武闘派でいて、ガーデルマンさんの教え子って説明は飲み込めないだろーな…。そもそも、プリキュアだし…」
「リーネは?」
「特務に引き抜かれたって言う。カーチャン向けの説明はこうだし、あいつは今やエーデルフェルトだ」
「ルッキーニはどーすんだよ」
「あいつは本国で士官教育中で押し通す。だって、今はクロエ・フォン・アインツベルンだぞ?」
「しかもイリヤの親戚扱いだしなー…」
「ミーナさんは?」
「隊長じゃ無くなってるし、今は単に戦車兵と兼任してる少佐だ。佐官に戻ってよかったぜ。大尉なら説明がもっとややこしいし、嘘を多めにせんといかん」
「あ!あんたらの事、坂本少佐に納得させるのは骨だぞ?あんたら、とっくにいないはずの年齢だし、戸籍上」
「そこだよ。あいつのことだ。ぜってー、模擬戦してくるぞー」
黒江達は年齢的に1947年には、智子で20代半ばに差し掛かるため、説明が一番ややこしい。他の世界ではその年齢で飛んでいるのはガランドやルーデルくらいだからだ。坂本の思考パターンは青年期以降であれば、黒江達は容易に読めるため、事前に対応が立てやすい。曰く、『ミーナのほうが読みにくかった』とのこと。元々の性格だと、温厚を装うわりに、坂本のことになると前後の見境がなくなり、坂本が荒療治を選ぶしかないほどに荒れてしまう一面があるからだ。
「坂本少佐はマカロンの…いや、北郷さんの真似っ子をすることから始めたっていうからなぁ。ある意味読みやすいのは確かだよなー。口は似なかったけど」
「あいつ、後輩に口で教えるのは苦手だから、意外に人望がないんだよな。昔気質だから、裏で陰口叩かれてるタイプだ」
「坂本先輩はスパルタだから、新兵の頃の定子にも懐かれてなかったしなぁ。ただ、逆に心酔する弟子も多くて、タチが悪いんだよね。静夏なんて、そうだし」
「あいつ、この機会にゆっくり考えを纏めて本にするそうだ」
「大空のサムライでもだすんですか?」
「それだよ。最近はケイのとこにこもりっぱなしだぜ」
ダイ・アナザー・デイ終了後、坂本は現場を引退後は圭子に頼み込み、圭子が南洋に用意した邸宅に泊まり込んで、本を執筆中であった。『大空のサムライ』を出版するつもりである。この本の出版は坂本の意向もあり、1948年。自身が入籍する日になり、扶桑航空兵の必読書の一つに数えられるようになる。黒江がその十数年後、ベトナム戦争前に回想録を出版し、二代目レイブンズの時代に航空兵の聖典扱いになっていたりする。黒江、坂本の両名は文才があったのか、軍隊にはもったいない文豪の一人とされ、圭子共々、ベストセラー作家としても知られていく。
「あー!思い出した。ちょうど、ウチのガキが持ってきてたんだよ、大空のサムライ!坂本が出したヤツ!」
「改訂版ですか?」
「坂本のやつ、細かい日付を覚えてないからな。2009年の時点で第四刷だ」
坂本は細かい日付を当初は書かなかったため、引退していた同期らに戦友会でどやされ、後年の改訂の際に日付を加えている事が『それ』には記されていた。
――「訓練は死を覚悟させねばならない。だが、決して殺そうとしている訳では無い。死ぬ可能性を死なぬ様に新人に体験させ、その時にどうすれば死なずに済むかを教えてこそ一人前の軍人としての成長が得られ、心の強さの篩にかけて精強な物だけが残っていくのだ」――
坂本の教育論がまず目に入る。坂本のポリシーであり、精神的フォローは竹井や黒江たちに任せる方針であったと明記されている。また、自身の絶頂期であったリバウ時代のストライカーを履いた自身のスナップも記載されている。クロウズと呼ばれていたその頃の輝かしい実績が序盤に赤裸々に記されている。個人としては最も輝かしい時期だったというクロウズ時代の機体番号も分かり、同位体の台南空時代の番号と偶然にも一致していた。
「坂本先輩の絶頂期の頃にあたし…正確には素体の子ですけど…が入隊したんです。その頃に一緒に飛んだことあるんです。忘れられてましたけど」
「あいつ、今回はケイと俺のことは覚えてたくせになー」
坂本の完全覚醒は黒江達と再会して一週間ほど経った頃であるが、覚醒後も錦の事はすっぽ抜けていた。それが錦が拗ねていた一因である。その一方で、のぞみとしては坂本との関係はのぞみの責任感もあり、至って良好である。(坂本からお歳暮がくるとの事)
「今はお歳暮がくるくらいに信頼はされてます。北郷さんの口利きもあるんでしょうけど、一応はピンクチーム筆頭ですから」
「あいつにそんな習慣あったのか?」」
「お姉さんに叱られたそうで…」
「あいつの姉貴、そこはきちんとする人だから。本土に帰った時に挨拶したんだが、モガだったぜ?」
「うっそだろ」
「それがマジだよ。だから、あいつが愛国教育されちまったんだよ。姉貴の反動で。スポーツカー乗り回す自由人で、去年会った時はフェラーリ買ってた」
「うぇ!?」
坂本の姉は1947年当時の女性像の類型を超越する自由人である事が語られた。タバコを嗜み、当時としてはハイカラな洋装で、スポーツカーを乗り回す。しかもサブリナパンツを着こなすなど、当時としては最先端を行く。坂本の母が若かりし頃に大使館のメイド経験があるのが由来とのことだが、それを昔気質の父親は反対し、坂本は軍隊に行かなければ、高等教育を受けさせてもらえなかっただろうと愚痴っている。片親にいまいち恵まれない点は黒江と似ている。ただし、娘たちの誰かが国に奉仕さえすれば、振る舞いに口を出さない寛容さもあるため、そこは黒江の母親よりはまともであると言えよう。
「坂本の親父さんは戦国武士の生き残りみたいな思考回路なんだよな。ウチの親父顔負けだぜ」
黒江の父も士族だが、坂本の父親は珍しいくらいに武士然とした考えである。長女が妻に似た事を悟ると、次女に愛国教育を施すなど、恐妻家気味でもある。
「坂本、あまり口に出さんのは自分のイメージと正反対の身内がいるからだよ」
「坂本先輩のイメージは古風な武士を目指すヤマトナデシコですからね」
「本人、乾いた笑い出してたよ、それについては」
坂本はハイカラな姉の事は口に出さない。周囲からのイメージを大事にしているからで、そこは気さくな人柄にイメチェンすることで人気の回復を狙う智子とは対照的なところだ。智子は日本ルートで本来の人柄がネタバレされたための否応なしの方向転換だが、坂本は自分のイメージを保つストイックさを見せた。本人と関係なしにコミカルなイメージが定着しつつある智子と対照的に、坂本は本質は志願当時のままだが、あくまで豪放磊落な自分を演じ通す。ある意味では芳佳の師であり、北郷の弟子である自らなりに周囲からのイメージに気を使っていると言える。(イメージをかなぐり捨てた圭子と黒江と対照的である)
「そうだ、先輩。アクアがきたんだし、そろそろあの時のネタバレしても」
「もう知ってるよ。つか、あたしがバラした。つか、みんな暗黙の了解で言わなかっただけだし」
「え、そ、そうなの…?」
「ええ。動きが違いすぎたし、何より、あなたにしては強すぎたもの。ブラックとホワイトが霞むくらいに」
「おまけにディケイドや歴代昭和ライダー、何人かの戦隊レッド、宇宙刑事、ハニー、デビルマンも来てくれたから、ブラック達の見せ場が殆ど無くなったんだよ。つか、殆ど原作崩壊レベルだったなぁ」
黒江曰く、最後は『ファイナルダイナミックスペシャル』で百鬼帝国などを撃退、勝利を得たとのことで、『ハートキャッチがデビュー当時のプリキュアオールスターズの手に負えない』レベルの大決戦になり、スーパーヒーロー大戦の様相を呈して終結したとのことである。
「せ~んぱ~い?」
「すまんすまん。加減して治まるレベルで無くなったからな。本気出したんだよ。それでも相当にヘビーだったけど。ハートキャッチの見せ場は0に近かったよ」
「それは事実よ、ドリーム。あの時の私達じゃ、あの脅威に対抗できなかった。彼らのおかげで、私達は負けないですんだのよ」
「でも、つぼみちゃんとえりか、腐ってませんでした?」
「えりかが愚痴ってたわ。『次の時』も愚痴ってたから、相当に悔しかったんでしょうね」
「えりからしいや」
「あなた、えりかと付き合いあったの?」
「大学で同じ学部で~…。卒論書く時に手伝ってもらったんです」
「なるほどね」
アクアはなんとなく納得する。少女がプリキュアの使命を終えた後のことは多くは語られない事が多かった。これは第一世代のプリキュアでは当たり前であった。この場にいるのぞみは夢を叶えた事自体が後の人生を暗転させてしまったという状況になったため、『夢が叶っても、それが幸せにつながるとは限らない』現実を突きつける形になり、彼女がダイ・アナザー・デイの戦功で与えられた予備役に退くのを条件にしてだが、教職に就く権利をしばし保留としてきた。だが、前世での記憶から、教壇に立つ事に魅力を感じられなくなっており、最終的にはその権利を辞退し、中島錦の持っていた『職業軍人』の立場で居続ける事を選んだ理由でもあった。(そもそも、扶桑で教職につくには、師範学校卒の経歴が必要とされてきたが、のぞみは前世で教育学部卒であるための特例と言うことで認められていた)デザリアム戦役後、その権利を正式に辞退し、職業軍人として骨を埋める事を選んだ。『教壇に立った事が却って自身の家庭の幸せを壊してしまった』事実は転生をもってしても拭い難かったのだ。(ただし、士官学校教官などの任にはつくため、人に教える事自体は嫌いにはなっていないのがわかる)
――この経緯はちょうど、日本で教職のブラックぶりが脚光を浴び始めたことで注目され、『プリキュア経験者ですら、最終的に折れるほどのブラックぶり』とセンセーションを巻き起こした。のぞみの経緯は少なからずは自己責任ではあるが、教職の過酷な勤務実態が家庭を崩壊させていった事は真に不幸なことだ。カウンセラーの分析によれば、『教職の激務さが彼女の築いた家庭を崩壊に追い込んだのは事実だろう』との事――
「本当に良かったの?『戻れる権利』を持っていたのに」
「いいんですよ。昔の夢を叶えたのは事実だし、それに、士官学校卒なのに、中尉や大尉で退役すると、却って見下されますからね。軍隊に骨を埋めたほうが、却って社会で評価されるんですよ」
日本では士官学校卒が尉官で退役(退職)すると、却って周囲から低評価を受けかねない風潮があるためと、従来の陸海軍に存在した『予備士官』制度が日本の左派からの強烈な圧力もあり、殆ど形骸化してしまい、機能不全であった(実態は即応予備自衛官と同じようなものなのだが…)ため、のぞみはその兼ね合いもあり、デザリアム戦役後も現役将校の地位で居続ける事を選んだ。(予備士官制度さえ、まともに機能していれば、平時は教職に戻っていたとも語っている)日本の予備士官へのあまりの無知ぶりと思い込みが結果的に扶桑軍の雇用形態を制限してしまったが、予備士官制度の実質的な復活は『有事』たる太平洋戦争で行われたため、一種の問題提起となった。
「予備士官制度もあったんですけど、日本の圧力で陸海の両方が形骸化しちゃってて。あたしが現役将校の地位で居続けてるのは、その制度が死に体になったからです。それに日本じゃ軍隊出身の教諭は睨まれますからね…」
「予備士官?」
「予備役の将校の事だ。外国じゃ有事のみ復帰させる前提で多数を抱えてるんだけど、日本は扶桑軍出身者の他組織への一種の天下りを嫌がって、再就職活動開始期間に厳しい制限を加えたんで、扶桑はパニックだよ。おまけに即応予備自衛官とのすり合わせもしてなかったからなぁ…」
シャーリーも同意する。日本側(警察関係主体)が扶桑国防関係部署の有機的連携関係を崩してしまったため、却って軍隊そのものを肥大化する必要に迫られていた。海援隊と海軍の連携関係を海上保安庁が崩してしまう不祥事が起こったからだ。海援隊は警察関係が強硬に解体を主張したが、解体しようにも組織が既に第一線人員だけで数十万以上の規模に拡大し、海自を有に上回る事、装備は明治~大正期の遺物主体で旧式であるが、規模は中小国の海軍と同等になっていて、後方支援要員と合わせると、100万人規模になりかねないことでの大量の現地雇用の維持問題が海上保安庁に突きつけられたことで、海保は遂に上層部が折れた。この時期には『有事には海上護衛総隊の傘下とする』規定が創設され、事実上の手打ちが行われた。混乱の侘びとして、海上保安庁は自分達が建造中の巡視船を前弩級戦艦と準弩級戦艦の代替物として、無償で譲渡せねばならなくなり、ロシアとの戦争で負った痛手からの回復を目指していたのに、それが却って、政治的敗北で遅れてしまうという本末転倒となった。のぞみが現役将校で居続ける事になったのは、この政治的混乱に伴う『予備士官制度』の混乱が原因である。(制度がきちんと機能さえしていれば、のぞみは軍人の地位を維持しつつ教職につけたが、日本では睨まれの対象に入る)
「今度の太平洋戦争は日本とに戦略で対立があるし、すんなりとは勝てんだろう。それに向こうが焦土作戦を取るだろうから、勝つとしても、あっちこっちにミリシャが乱立するだろう。どの道、お前は予備士官になれたとしても、すぐに召集されるから、現役のほうが楽だぞ。その方が人事課としても良かったそうだ」
「戦争ですもんねー…」
「それに日本があれこれ変えたから、今じゃ、予備士官にも正規の兵科士官が頭が上がらない状況で、現場で問題になってるしな。船にカウンセラーを乗せることにもなったし、不燃性の調度品を置くことで手打ちだ。大和型の居住区に家具が置かれてないので問題になったから、不燃性の家具を置くことで手打ちになったんだよ。武蔵の艦長が首飛ばされそうになって、軍令部が防衛省に抗議入れたくらい揉めたからな。日本製の不燃性の家具を置くことでどうにか収めたが、日本の役所にゃ、自分の思うままに相手を抑えつけて、都合が悪くなりゃ、現場に押し付けるしか能のない役人しかいねぇ。アクア、お前、医局に行かなくて正解だぜ。日本の医局は白い巨塔だからな。小判が裏で飛び交うし」
「ですね。開業するのにも実績が必要だし、若くして開業できても、大抵は整形外科だし」
キュアアクア/水無月かれんは医者志望であったが、日本の汚れた医局周りの空気を嫌い、誘いに乗る形で軍医としての道を歩みだしたため、黒江の言葉に同意する。かれんの実家は名家であるため、かれんが若年でも開業させられるだろうが、もれなく周囲の嫉妬の対象となる。その醜さを嫌ったかれんは軍医の道を選んだ。
「戦後の日本人はアメリカにひたすら媚びることで戦後世界に居場所を得た。扶桑からすれば『卑しくなった』そうだが、軍事力を奪われた国家は八方美人にならないと生き残れないからな…。だが、国家の衰えがやってくる事に無策でいたから、バブル崩壊後の不景気を招いた。日本と扶桑の違いは、自分たちが享受する平和が無条件で続くと思っていたとこだろうよ」
「誰かが血を流さないと、平和は守られないって言うけど、のぞみ、貴方は…」
「その矛盾に気がついちゃったんですよ、あたしは。大人になっても戦い続けてましたから」
「お前の不幸は教諭生活のストレスを発散させられる場がいつしか、プリキュアとしての戦場になっちまってたとこだろうな」
黒江の指摘に自嘲気味に頷くキュアドリーム。のぞみの不幸は、いつしか、教諭生活にも疲れ、育児も行き詰まり、自分個人の存在意義の証明がプリキュアとしての戦場でしかできないように追い込まれた事だろう。自身の加齢でそれもままならなくなった時、彼女の精神が一種の破綻に追い込まれたのは、ある意味では自業自得の面もあった。その自覚はのぞみに大きな悔いを刻み、絶頂期の頃に戻るのを望んだ心境に繋がった。
「だから、若い頃の姿に戻れたのは実は嬉しいんです。やり直せるってことですから。だけど、上の娘がダークプリキュア姿で自分を責める幻覚に苛まれた時期もある…。あたしは決めたんです。娘が世界を闇に染めるのなら、あたしはそれをぶち壊す。あの子があたしを否定するなら、あたしはあの子をキュアドリームとして倒す。それがせめてのみんなへの罪滅ぼしです」
のぞみはダークプリキュアを自分の血族から出した事を自分の犯した罪の象徴とし、自分の子であろうと、ダークプリキュアであれば、キュアドリームとして倒す事を罪滅ぼしと考えている。現役時代にダークドリームと和解した経緯のある彼女にしては短絡的ではあるが、自分の子である以上はケリをつけなくてはならないのも事実だ。故郷の世界で自身の死後に正式に自分の立場を継いでくれたであろう次女のためにも…。