1話
俺の名前は、宮永達也。
ごく普通の清澄高校1年生。
「お~い達也!こっちだ、こっち!」
「判ってるよ京。そんなにデカイ声出すな」
俺は、学食のおばちゃんから豚カツ定食を受け取り、俺の名を盛大に叫びながら手を振る友人の下に向かった。
「うん?京は食べないのか?」
対面に座る様にして豚カツ定食の乗ったトレイを置きながら目の前に座る友人【須賀京太郎】を見ると、スマホを弄りながら何かを待っている様子だった。
「俺のはなぁ~」
京太郎が、そう言いかけると……。
「はい、京ちゃん!!レディースランチ!!」
ドンっと音を立てながらトレイを置く女子生徒に目線を向けると、頬を膨らませながら京太郎を睨み付けるのは、我が妹の【宮永咲】だった。
「おっ!サンキュー咲!」
「なんだ、京のパシリか咲?」
俺のその言葉で漸く俺の存在に気付いた咲は………。
「ねぇ、聞いてよ達ちゃん!京ちゃんてね、このレディースランチが食べたいが為に、わざわざ私を学食に呼んだんだよ!」
「だって、あまりにも今日のレディースランチが旨そうだったからさぁ………」
そう言って、嬉しそうにレディースランチを頬張る京太郎の姿に、俺は溜め息を吐くしか出来ないでいた。
「まぁ、咲。京の事は今に始まったもんでもないから………諦めろ。それに嫌なら断れば良いのでは?」
「そ、それは、そうだけど…………」
「そんな事言ったてよ………頼める奴って俺には咲しか居ないしなぁ………」
「きょ、きょ、京ちゃん!?」
京太郎の何気ない一言で、咲の顔は真っ赤になっている。
奴は、純粋に『頼めるのが咲しか知らないから』と思って言ったのだろうが、咲に取っては『俺には咲しか居ない!』と変換されたのだろう。
まぁ、昔から咲は京太郎に想いを寄せている節があるし、天然ジゴロの京太郎の言葉となれば尚更だろ。
身体をクネクネしながらトリップしている妹を余所に、京太郎はスマホを弄りながら食事をしていた。
「京、食べながらスマホを弄るなよ。行儀が悪いぞ!」
「んぁ?あぁ、すまん。今、良いところだったんでな!」
そう言って京太郎はスマホの画面を俺達に見せた。
そこには『麻雀の役』が3つ程あり、下の方には『満貫:12,000点』と表示されていた。
「お前、麻雀なんて出来たんだな?」
「あぁ、やっと全ての役を覚えたばかりだけどな!けど………麻雀って面白いのなぁ!」
「私、麻雀って嫌い………」
先程までトリップしていた咲が、スマホの画面を見た後に俺と京太郎の会話を遮る様に呟く。
「えっ?咲、お前麻雀出来んの?」
「出来るちゃ出来るけど…………私は嫌い。何時も家族麻雀で負けていたんだもん……」
「へぇ~。まあ咲は達也と違って何をやらせてもダメだからな?じゃあ、咲が出来ると言う事は達也も?」
「まぁ、それなりにな。と言うか俺は家族打ちでは、もっぱら観戦していただけだし、咲や親父達と打ったのは数える位しかない」
そう、よく宮永家では家族で『家族麻雀』を打っていた。
その頃の俺達は、まだ小学校低学年だった。
プロ級の腕前を持つ両親に加えて、麻雀の素質に目覚め始めていた姉と俺達は一緒に麻雀を打っていた。
我が家では、何事を決めるにも麻雀で決めていた。
おやつや小遣いは勿論、家族旅行の行き先や欲しい物のおねだりまで麻雀で決めていた。
まだ、その頃の咲は姉の照姉に憧れを抱いており、姉の様に強くなろうと一生懸命に麻雀を打っていた記憶がある。
数年が経ち、咲の実力がみるみる上昇し、勝つ機会が増えた頃に異変が生じ始めた。
突如咲は、常に±0の成績で終える様に成っていた。
そんな咲に、姉と母親は激怒した。
激怒する2人に親父は狼狽え、咲自身も泣きながら俺の背中に隠れる始末だった為に、俺は咲の為に声を荒げた。
「2人供、いい加減にしろよ!咲が何したって言うんだよ!たかが麻雀で、家族関係がギクシャクするなら麻雀なんてやらない方が良い!」
その頃の俺は中学年だったとは言え、身長は姉より高く力もそれなりに付いていた為に、俺は目の前に在る麻雀卓を蹴り飛ばした!
それ以降、我が家では麻雀をする機会が無くなり、母は仕事を理由に姉を連れて東京に行ってしまった。
「なんだ2人供麻雀出来たんだな!んじゃさぁ、放課後にちょっと付き合って欲しい所が在るんだけど?」
「放課後?それに何処へ行くって言うんだ京?」
「いやさぁ、面子が足らないんだよ」
「えっ、面子って?」
咲が驚きながら京太郎に訪ねると、京太郎は白い歯をキラッと光らせて答えた。
「ふふん!麻雀部」
「ふぇ!?」
「なっ!?この学校に麻雀部何て在ったのか!?」
「旧校舎の最上階に部室が在るんだ!そして、俺も今や麻雀部員なんだぜ!」
その答えに俺は盛大に溜め息を吐くしか出来なかった。
誘われたのが俺だけなら、適当にあしらってやり過ごす事も出来ただろうが、問題は咲だ。
咲は頼まれると嫌と言えない体質だし、何より京太郎の頼みとあれば尚更の事。
まぁ、恐らく京太郎は俺達の実力を自分と同等だろうと思って言ったんだろうが。
「はぁ~仕方ない。放課後、お前達の教室に行くから待っていろ」
俺は、そう言ってトレイを持って席を後にした。
この出来事を切っ掛けに、俺達兄妹の止まった歯車が再び回り始めるとは思いもよらずに…………。