HRが終わり俺は、咲達が居る教室へと向かった。
「待たせたな京、咲」
「おっ!来た来た。じゃあ行くぜ咲!」
「あっ!ちょっと待ってよ京ちゃん!」
意気揚々と先頭を歩く京太郎に、小走りで後に続く咲の背中を見ながら俺も彼等の後を付いて行く。
京太郎の先導に続く俺達は、本校舎の裏手に在る古びた旧校舎に辿り着いた。
旧校舎の中に入ると、隙間風だろうか窓ガラスがガタカダと音立てる度に、咲は驚き俺の背中にしがみつく。
「た、達ちゃん………」
「怖がる事無いよ咲。単なる隙間風だから大丈夫だ」
怖がる咲にしがみつかれながら階段を昇り最上階に辿り着くと『麻雀部』と書かれたプレートが壁に張られた脇の扉の前に立ち止まる京太郎は此方に振り向き。
「ようこそ、清澄高校麻雀部へ。お姫様、王子様」
どこぞの王族貴族に仕える執事の様に迎え入れる京太郎。
「何がお姫様、王子様だボケ!」
「痛ッ!!軽いジョークだろ!ジョーク!」
下げている京太郎の頭の脳天に軽く肘打ちを咬ます俺に、後ろで見ていた咲はクスクスと笑い、京太郎は涙目になりながら部室の扉を開け放つ。
「お~い!カモ連れて来たぞ!」
「誰がカモだ!カモはお前だろ京」
そう言いなが中に入る京太郎の脳天にチョップを咬ましながら中に入り視線を前に向けると………1台の雀卓とピンク色の髪を2つの赤いリボンでツインテールが特徴的な同じクラスメイトの『原村和』が対面の席に座っていた。
「あっ!?」
「あん?」
「お客様?」
驚く咲の声と同時に、対面に座っていた女子生徒は立ち上がって俺達に訪ねる様に話す。
「あっ、あの時の………」
「えっ!なに、なに、咲。お前、和の事知っているの?」
「ああっ!先程、橋の所で本を読んでいた………」
「えっ!?観られていたんですか!」
この会話から察するに、咲と彼女は知り合いと言うより顔見知りに近い間柄だろ。
「君も麻雀部の部員だったんだね。原村さん」
「はい。それはそうと宮永君は須賀君とお知り合いなんですか?」
「あぁ、こいつとは小学校からの腐れ縁でね……」
「なんだ、達也。和かと知り合いなのか?」
「お前は本当に馬鹿か?原村さんと俺は同じクラスだ。知っていて当然だろ?」
「あれ?そうだっけ?」
「それはそうと、咲。自己紹介したらどうだ?」
1人蚊帳の外状態に成っている咲に自己紹介する様に促すと、慌てて自己紹介する咲。
「初めまして、宮永咲と言います。兄が何時もお世話になっております。京ちゃん、須賀君とは同じクラスなんです」
「お兄さん?」
「あぁ、俺と咲は双子の兄妹なんですよ」
「なるほど!道理で似ていると思いました………初めまして、原村和と言います」
「自己紹介は終わったな!和は去年の全国中学生麻雀大会の優勝者なんだぜ!」
「えっ?それって凄い事なの?」
「当たり前だろ!」
あたかも自分の事の様に自慢する京太郎に、こういった大会が在る事も知らなかった咲は、彼女が何れだけ凄いのか今一解らなかったらしい。
「凄いじょ!どぉぉぉぉん!」
そう言いながら小さな袋を持ちながら突入して来た、咲より小柄な女子生徒。
「学食でタコス買って来たじぇい♪」
「又、タコスか?」
「ぬっ!やらないじぇい!」
「取りゃしねぇよ!」
「お茶淹れてきますね」
な、なんだ?こののほほんとしたやり取りは!?
呆気に取られている俺達兄妹を余所に、小柄な女子生徒は勢い良く咲へと近付き、咲を指差しながら説明しだした。
「和ちゃんは、本当に凄いんだじょ!去年の全国中学生麻雀大会の優勝した最強の中学生だったわけで!」
「はぁ………」
「しかも!ご両親が弁護士さんと検事さん!男子にもモテモテだじぇい!」
「誰かさんとは大違いだな?」
「むぅ………」
「お前も人の事は言えんだろう京?ところで君は?」
軽く咲をディスる京太郎に脳天チョップを咬ましながら、小柄な女子生徒に訪ねた。
「うん?あぁ、ゴメンだじぇい!私は1年C組の片岡優希。和ちゃんとは同じ中学なんだじぇい!」
「へぇ~そうでしたか。俺は、宮永達也。原村さんと同じクラスで、妹の宮永咲とは双子の兄妹なんだ」
「み、宮永咲です。どうぞよろしくお願いいたします」
「2人供、よろしくだじぇい!」
片岡さんと軽く挨拶を交わしていると、原村さんが人数分のティーカップが乗ったトレイを持ちながら現れた。
「あの、お茶出来ました」
そう言って、雀卓の隅に設置されている2つテーブルにティーカップを置き出す。
「あれ、部長は?」
「奥で寝ています」
「じゃ、うちらだけでやりますか。咲と達也どちらが入る?」
などと勝手に進行し俺達のどちらが参加するのか聞いてくる京太郎に、俺は待ったをかけた。
「なに勝手に話しを進めているだ京?俺は兎も角、咲が戸惑っているだろ?」
「わ、私はまだ麻雀をやるって………」
俺達の会話を聞いていないのか、咲の言葉を遮る様に原村さんが………。
「そうですね、始めましょうか?」
「………はい」
可愛らしい笑顔でそう言われた咲は2つ返事で答えてしまった。
「達ちゃん、どうしよう………」
「はぁ~。了承したのはお前だろ?まぁ、今日は好きに打って楽しめ。俺に言える事はそれだけだ」
俺は、そう言って咲の頭を撫でて咲を落ち着かせると、咲の顔は何時もの笑顔に成っていた。
「うん!私、やってみる!」
「達也、お前は?」
「俺は、咲の付き添いだからな。遠慮しておくよ」
「そうか。じゃ、25000点持ちの30000点返しで、順位点は無し」
「「はい」」
「タコスうま~」
「じゃ、俺はここで待たせてもらう」
京太郎が賽を振るのと同時に、俺は近くに在ったソファーに座り、鞄から小説を取り出し読み始めた。
どうやら親は咲に決まったらしい。
配牌が終わり『タン!』と牌を切る音が部屋中に響き渡りはじめる。
「ふふんッ!チー!てぇい!」
片岡さんが3回鳴いて3副露に成ったようだ。
そして、親の咲が牌を切ると。
「ロ~ン!混一色、2000点!」
「ええっ!?振り込むか普通?ピンズ集めているの見え見えでしょうがこれ」
「えへへへ………」
京太郎の指摘を受けて苦笑いする咲。
恐らくだが咲の奴、業と振り込んだな?
さて、この咲の行動に京太郎は兎も角2人は気付いているのか?
視線を小説から原村さんと片岡さんに向けると、どうやら気付いていないらし。
全中大会の優勝者とは言え、その程度実力とは………。
相手の力量を見抜けない相手など、咲に勝てる訳がない。
恐らく咲は±0で凌ぐつもりらしい。
「良し!リーチだーぁ!!」
「あっ、ゴメン。それロン」
「はぁっ!?三色捨てて、それは無いだろが!初心者にも程があるぞ!」
「あはは、ゴメン京ちゃん」
「これで終わりですね」
半荘1回の結果は。
1位、原村さん 33,000点 +23
2位、片岡さん 31,800点 +2
3位、咲 29,700点 ±0
4位、京太郎 5,500点 -25
まぁ、結果からみて順当な順位だろ。
京太郎の1人負けは端から解っていた事だし、咲も±0にする事が解っていた。
そして直ぐ様2回目の半荘がスタートした。
この半荘で原村さんが次々と上がり、ほぼ独走状態だった。
結果は。
1位、原村さん 41,000点 +31
2位、咲 30,000点 ±0
3位、片岡さん 17,800点 -12
4位、京太郎 11,200点 -19
原村さんは2連続首位で、咲が2連続±0を達成する。
そんな咲の表情を見ると、あれ程毛嫌いしていた麻雀を打っているにも関わらず、何処か楽しそうな表情をしていた。
俺は読んでいた小説を閉じ、咲の下へと向かい咲の耳元で呟いた。
「咲、次の半荘。3人を飛ばしてみろ」
「えっ!?で、でも達ちゃん……」
「お前自身気が付いてないかも知れないが、お前は3人より強い。もしお前が3人を飛ばしたら、京はお前を彼女にしたいと思うかもな?」
「…………ッ!!」
最後の言葉が効いたのか、咲の表情はヤル気に満ちていた。
いくら妹とは言え、こんな手でヤル気になるなんて安直過ぎないか妹よ………。
「解った!私やる!やるよ達ちゃん!」
「あぁ、頑張れ咲。これは家族麻雀では無い。お前の本気を見せてやれ!」
そう言って咲から離れ、原村さんと片岡さんの牌が見える位置に近くに在ったパイプ椅子を移動させて静観する事にした。
はてさて、彼女達は本気と成った咲に一矢報いる事が出来るだろうか?
非常に楽しみだ………。