やってられない。
まさしくそんな様子の戦術人形と、そして青いMRVNはとあるバーに入ってきた。
行きつけ、というかここが一番彼女らにとって落ち着ける、つまり居心地がいいらしい。
戦術人形の方は人間に非常に良くにせられて作られた存在なので、酒も飲めるし見た目もいい。
ここではバーテンダーにも気に入られていた。
一方のMRVN*1はというと、こちらもその底抜けに明るく気遣い上手な性格で、また彼もバーテンダーに気に入られていた。
「よぉ!わーちゃん、今日も今日とて仕事お疲れさん!何か飲むか?人類伝統の、そうだな......オルガンウーマン......じゃなかった、ピアスウーマン......いやピアノウーマンか、とにかく何でもいいさ、好きなの頼めよ。」
マスターが吃りながらも捲し立てる。
彼は非常にお喋りで、そして相手の気を引くのが上手い。
さらに趣味なのか、店内の内装もある種凝っていた。
至るところにさまざまな装飾のなされた良い感じの雰囲気の壁紙、だが実のところその全てがなんとホログラム。
彼はこういう光学的な技術、機械を弄るのが大好きなのだ。
戦時中のホロパイロット技術に良く似ている。
「はぁ~......わーちゃんって言うな......」
吐き捨てるように、ともいかず勢いのないわーちゃんことWA2000。
相当に疲れているようだ。
「私......やりたいことががあったんだけど、日々の生活に手一杯で何も目処がつかないのよ......
案外ここって平和だしね......」
「というよりもわーちゃんとパスファインダーって知り合いだったのか?
全然タイプが異なるように見えたが、同じ仕事場だったとはたまげたなぁ。」
大袈裟におどけて見せるバーテンダー。
彼の名はエリオット・ウィット。
お調子者だがどこか親しみやすい、青いMRVN曰くいい人だ。
「聞いてよエリオットさん!彼女も今の仕事と別の所へ行きたいらしいんだ!理由を聞いても何も教えてくれないんだけど、一体何がしたいかとか知らない?」
彼はロボットなのにも関わらずお人好しすぎるくらいの性格をしている。
1を言われれば10まで気を回してくれるような奴だ。
だからWA2000が、素性の割れるのを恐れあえて口にしなかった「夢」を叶えてあげようとしているのだ。
エリオットにはそこらの事情が良くわかる。
今のアウトランズ・ジャーナル*2と言えばフロンティア戦争時のあれやこれや、隠された真実とやらばかり特集している。
数十年前に電撃終結してからずっとだ。
そして彼女は「戦術」人形。
作業用でも愛玩用でもなく、わざわざそんなものを運用するのはミリシアかIMC位のものだろう。
それくらいは誰にでも推測でわかる。
つまり彼女は会ったばかりのパスファインダーを警戒して身の上を詳しく話したくなかったのだろう。
そこでエリオットは上手いこと望みを推測し、彼らの願いをかなえる手伝い、ついでに自分の夢を叶える足掛かりを作ろうと企んだ。
「そういえばこのそこのMRVNには言ったが......わーちゃん、お前この星で開催される「デスゲーム」に興味はないか?APEXゲームって言うんだが。」
「デスゲーム?殺しあうの?」
「もちろんさ、それには命の保証はないぜ。やりたいほうだい!」
一瞬だったが、WA2000の目が輝いたのを彼は見逃さない。
沢山の兄弟の末っ子として産まれた彼は、こういった人の感情の機微を瞬時に読み取り空気を握る手腕に長けていた。
「俺はな、夢がある。
実はもうバーテンダーの仕事は辞めるんだ。
母親にも話した。俺の一番大事な家族のな。
そしたらどうしたと思う?
俺は始め夢を話して、でも諦めるつもりでいた。
なんてったって俺はマザコン、じゃなかった孝行者なんだぜ、親のためならそんな夢どぶに捨ててカクテルにできるくらいにはな。
それで、俺の母親はな、なんと辞めるな、応援する!やってこい!っていって送り出してくれたんだ。
スゴいだろ?やっぱ俺のかあちゃん最高だぜって思い直すわけよ。
んで、この装備もくれた。
見てろ!見てられないだろうけどな!」
長々と口上を捲し立てたあげく突然エリオットはカウンターから身を乗り出しこちら側にきた。
と思えば途端に消えたのだ。
足音と彼のしゃべる声だけが店内に木霊している。
まだまだお喋りは続きそうだ。
「どうだ?すげえだろ。
これならいろんなやべーやつが沢山いるAPEXゲーム会場でもどうにかして......
いやならねえんだな。
いいか、良く聞け。ここからが本題だ。
基本あのデスゲームは三人一組でいくんだ。
ボッチにも優しいように自動組分け機能があるにはあるんだが......
それじゃ俺の取り合いになっちまう。
そこでだ、お前ら二人に一緒に来てほしい。
別に怖い訳じゃないんだ。
だが、その......俺はお前らをよく知ってる。
俺は思うに、俺とお前らはいいチームになれる。
いや、なるさ。命の保証はどこにもないが、これだけは言える。どうだ?」
沈黙。
いつも間にか透明化もきれて露になったエリオットの顔は、珍しく真剣そのものだった。
するとWA2000が何時もとは逆に口を開きここに似合わない空気を裂く。
「いいわ。私はやるわよ。詳しいことは言えないし、それをあんたならわかってるんだろうけど。
私もこれだけは言える。
私は殺しのためだけにうまれた!
でもそんなの関係なしに私は戦うことが好きよ。
私の意思で手伝ってあげる。」
啖呵をきるWA2000。
エリオットの顔が分かりやすくにやつく。
それについてくパスファインダー。
「皆がやるなら、僕もやりたいかな!
だってウィットの夢も叶えたいし、わーちゃんの夢は......まだ知らないけど、僕は叶えられるといいなって思ってる。
一緒にいこうよ!」
「決まりだな!よし!次の開催期間までに訓練とか、まあとにかく準備しようぜ!準備できすぎるくらいにな!」
「ええ!
......あとパスファインダー、わーちゃんって言うのやめてくれないかしら......」
「名前どうするよ?
俺はミラージュでいくぜ。
まさかとは思うがお前、わーちゃんでいくわけないよな?流石にそれじゃださいだろ。」
「間違ってもそれでいくわけないでしょ!」
「僕は有名になってマスターを見つけなきゃいけないからパスファインダーのままでいくよ。
わー......じゃなかった、WA2000さんはどうするの?」
「クリムゾンローズ......とか?」
「とかって......いいじゃねえか!それでいこうぜ!なあ、パスファインダー!」
「うん!クリムゾンローズ、とってもいい名前だと思うよ!」
ここから、彼女たちの伝説は始まる。