トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ   作:サンダー@雷

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ワンパチを枕にしたい。


1番道路

 

「ここが、うちのおばあさまの研究所よ」

 

そう言ってソニアは建物に手を向けながら、少し誇らしげに言った。

こちらの研究所はオーキド研究所より規模は小さいが、なかなか新し目な建物だった。

プラッシータウンは都会ではないものの、マサラタウンよりは人が多いから土地が少ないのだろう。と言うよりオーキド研究所が大きすぎる。森が丸々研究所の土地なんて前代未聞だ。その辺りは田舎の利点と言える。

「どう?見た感じ、こっちの研究所は?」

「いいと思いますよ。ただ……初めて見た研究所の感想よりも、ようやく辿り着けたという安堵感が先に来ますね」

 

おそらくこの時私は心底疲れた顔をしていたのだろう。

総移動時間約24時間、新たなポケモンとの出会いを我慢して生殺しにされた時間約2時間。私はすでに心身共に疲れ切っていた。

 

「あははは、たしかにね……。なんかごめん」

「いいえ。悪いのはソニアではなく、約束を破ったダンデという男でしょう。もし会うことがあったら、少し懲らしめてやります」

「気持ちは分かるけど暴力はダメよ?」

 

1発殴りたい気持ちもあるが、そんなつもりではない。

 

「心配無用です。私は荒事は好きではないので。暴力ではなく、少しポケモンバトルをするだけですよ」

「余計にダメ」

「なぜです?」

「とにかくダメ! ダンデ君には私からよ〜く言っておくから! お願い!」

「は、はぁ……」

 

ソニアは顔の前に両手を合わせて懇願してくる。

納得はいかないが、ここまで必死になるのには何か事情があるのだろう。ここはソニアを信頼しておくのが無難だ。

 

「では、お任せします」

「うん。任せて。じゃあ、入ろう」

 

ソニアは鍵を鍵穴に差し込みドアを開ける。

彼女に続いて中に入ると部屋の電気はすべて消えていた。はて? 誰もいないのだろうか? てっきりマグノリア博士がいるものだと思っていたが。

「誰もいないのですか?」

「うん。今は基本的には私1人だけ。おばあさま前に足を悪くしちゃって、今は主に自宅で仕事をしてるの」

「なるほど。それは大変ですね」

 

よく考えたら、オーキド博士と同世代と言うことはすでに還暦は超えていることになる。身体に1つ2つ不自由な点があってもおかしな話ではない。

心体共に健康なオーキド博士が特別なのだ。

「とは言っても、リーグの仕事でよく杖を片手にガラル中を飛び回ってるけどね」

「はは、逞しい方なんですね」

 

老人になろうともアグレッシブなのは、どこの地方も変わりないらしい。

 

「本当は一度ここで休憩した後に、1番道路を案内して、終わったらうちで晩御飯にしようと思ってたんだけど……」

「元々マグノリア博士への挨拶は後にする予定だったのですか?」

「うん。おばあさま曰く、研究者ならこんな老人への挨拶なんかよりも、早く調査に行きたいだろうからって」

 

図星を突かれ私は苦笑いを浮かべる。

たしかに身体は疲れ切っているが、今すぐにでも草むらに走ってポケモン達と出会いたい気持ちが勝っている。

「ダンデ君のせいで大分予定が狂っちゃったけど……。どうする? 今から1番道路に向かう?」

「行きましょう」

「あはは。即答なんだ……。まあ、大分焦らしちゃったみたいだしね。荷物置いたら早速行こうか」

「ええ、分かりました」

 

 

 

 

穏やかな風が草むらを揺らす。運ばれてきた香りは草の香りだが、我が故郷のカントーとは違う匂い。ガラル地方の匂いだ。

この匂いを嗅ぐと新たな地方に来たという実感が湧いてくる。

私は首元にカメラを引っさげてソニアの後ろを歩いていた。

 

「うーん。ポケモン達はどこにいるかなぁ……。あ、そうだ」

 

ソニアは何かを思いついたようで、腰元からボールを取り出し中に投げた。

 

「出てきてワンパチ」

「イヌヌワン!」

 

出てきたのは全身を黄色っぽい明るい色に染めた犬型のポケモン。イメージで言えばガーディが近いかもしれない。

つぶらな瞳でとても愛らしい見た目をしている。

私は身体を屈めてワンパチと言われたポケモンをじっくりと観察し始める。

「ソニア。このポケモンは?」

「この子はワンパチ。私の相棒よ」

 

どうやらワンパチというのはニックネームではなく個体名らしい。

「触ってもいいですか?」

「ワン!」

「いいって」

「ありがとうございます」

「イヌヌワン!」

 

いいってことよと言いたげな鳴き声だった。

私はお言葉(鳴き声?)に甘えて首元をもふもふと撫でるように触る。ふわふわとした感触で羽毛布団のような吸い付きだ。

 

「ほう、お尻にはハート模様が」

「そうそう、可愛いでしょ!」

「ええ、とっても可愛いです」

 

さわりさわりとお尻を撫でる。お尻は首元ほどもふもふではなかったが、独特な肌触りで、これもまたこれで気持ちいい。

すごい。ガラルのポケモンすごい。

 

「あ、あの〜、オレンジ? 目が据わってるんだけど……」

 

もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。

 

「イ、イヌヌワン!」

「オ、オレンジ!? もうやめてオレンジ! ワンパチが! ワンパチが怖がってる!」

 

さわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわりさわり。

ぴりっ……ん? ぴり?

 

「ワーン!」

「あべべベベベベベベベベばばばばばばばばばばばば!?」

「キャー!?」

 

ワンパチのスパークを食らった私は、新手のレントゲン撮影のようになりながら倒れ込んだ。

はっと我に返り、自分でも信じられない暴走をしてしまったことに気がつく。おそらく、ぶつけどころのない鬱憤やらストレスやらが爆発したのだろう。反省、反省。

私が起き上がると、ソニアが血相を変えて駆け寄ってきた。

 

「立ち上がっちゃダメ! 安静にしていなくちゃ! ポケモンの技を受けたのよ、早く病院に行かなくちゃ!」

「大丈夫ですよ、これくらい。カントーにいる時もよく10万ボルトやかえんほうしゃを受けますし。カントー人ならこれくらい慣れっこです。ほらね」

 

と得意げに言いながら、片足を上げて直立をして無事ならことを見せつける。身体に異常があればフラフラするはずだが、私はビクともしない。

その様子にソニアは私が本当に平気なことを知ると、今度はあんぐりと口を開けて驚いていた。

そんなに驚くことだろうか。レッドのような超人は別にして、カントー人ならば格闘タイプと殴り合いの特訓をしたり、水ポケモンと競争してたりとよくある話なのだが。

 

「……カントーの人は逞しいのね」

 

またドン引きされてしまった。やはりカントー人の感覚は他の地方の人間には理解できないらしい。

ただワンパチを怯えさせてしまったのは事実。私は瞳を震わせたワンパチを見て申し訳なさそうに。

 

「すみません。怯えさせてしまって。お詫びとして良ければこちらをどうぞ」

「オレンジ、それは何? お菓子みたいだけど?」

「こればポフィンと言ってシンオウ地方で作られているポケモン用のお菓子です」

「へー。ほら、ワンパチ。せっかくもらえるんなら、食べてみたら?」

 

警戒心を露わにしていたワンパチだったが、自分のトレーナーに催促されたからか、渋々ながら寄ってきた。

すんすんと危険がないかを確認して、一口かじった。

 

「イヌ……! イヌヌワン!」

 

食べた瞬間、顔色が明らかに喜色を帯びた。

どうやら、口にあったようだ。甘い味が好きに見えたから、甘い味のポフィンをあげたのだが正解のようだ。

「ワン! イヌヌワン! ヘッヘッヘッ」

 

もう一個くれ! と前足を私の足にしがみつくようにして催促してくる。先程まで不審者を見る番犬のようだったワンパチが今は文字通り犬と化している。

どうやら、散々もふられてたことはすでに忘れたらしい。

「この子、意外にちょろいですね。……はっ、もしやポフィン1つでもう1もふり」

「させないから!」

 

ですよねー。

ソニアのしかめた目が、お前いい加減にしろと言っていた。当然である。

 

「ほらワンパチも。あなたを出したのは、お菓子食べさせるためじゃないのよ」

「ワフー?」

 

ワンパチは違うの?と言いたげに首を傾げた。

「そうですよ。あなたを出したのは、私にもふらせるためです」

「違うわよ! 真面目な顔して何言ってるのよ!」

 

何だろう先程の暴走からソニアのツッコミに遠慮がなくなった気がする。

距離が近くなることはいいことなのだが、少々釈然としない。悪い気はしない。ただ気になるだけだ。

 

「あなたを出したのは、あなたの鼻で野生のポケモンの住処を探して欲しいの。お願いしていい?」

「イヌヌワン!」

 

おそらく任せろ!と言いたいのだろう。ワンパチは元気な鳴き声をあげた。

さっそくワンパチは地面に鼻を近づけてクンクンと鼻を動かす。数分ほど鼻を動かし続けていたが、少ししてワンパチは何かを嗅ぎ取ったのかピクーンと耳を立てた。

 

「ワン!」

 

ワンパチが草むらの方に駆け出した。

私たちはそれに追随する。しばらく走ると、ワンパチはある草むらの前で止まっていた。

ソニアが音を立てないようにそっとワンパチに記された方を確認した。

「見て」と小さな声で私も覗くように指示された。

言われた通り草むらの陰から覗くと、頬を膨らませたチラーミィのようなポケモンと、赤く耳を尖らせたゾロアのようなポケモンが対峙していた。チラーミィ風のポケモンはきのみを保持して、ゾロア風のポケモンは唸り声をあげてそれを狙っている。

私はそっとソニアの耳元に語りかける。

 

「ソニア、あのポケモンは?」

「きのみを持っているのはホシガリスってポケモンよ。あの膨らんだ口袋があるでしょ? あれは口の中にきのみを溜め込んでいるからなの。それでもう片方はクスネって言って、とても用心深くてズル賢いって言われていて、他のポケモンの餌を横取りするの」

「ほう。と言うと今はちょうど横取りの現場というわけですか。それは興味深い」

 

私はそう言いながら、首にかけていたカメラを準備する。

 

「ちょっとカメラを使う気? 音で逃げちゃうわよ!」

「大丈夫ですよ。このカメラは特別製で音もフラッシュも出ません!なので、ポケモン達を驚かせることなく自然体のまま写すことができるんです」

「すごい性能ね」

「ええ、そうでしょう」

 

ちなみに行く先で壊れないように耐久性もずば抜けている。その証拠に電気技を受けた後だが問題なく起動している。さすがは安心と安全のシルフ・カンパニー。

「まあ、欠点もあるのですが」

「何? 値段が高いとか?」

「それもありますが性能良すぎてカントーで盗撮が横行してしまったんですよ。そのせいで使用するにはポケモン協会からの許可が必要になってしまったんです」

「あーなるほどね」

「後、職質されるとわりと不味いです。特に許可証を家に忘れた時など、本当につらいです」

「実感こもってるのね」

「実話ですので」

「そ、そうなんだ……」

 

おっと、笑い話のつもりだったが笑えなかったらしい。

正直、笑ってくれた方が気が楽なのだが。

 

「あ、あっちにもポケモンがいるわ」

 

話題を逸らそうとソニアは強引に話を変えた。

気を使われてしまったようだ。

その後、私たちは微妙な空気のままポケモン観察を続けた。

 

 

 

 

 

探索を終えた私たちは、置いていた荷物を取るために一度ブラッシータウンの研究所に戻って来ていた。

 

「んー。疲れたぁ〜」

 

ソニアは身体の疲れを逃すようにぐんと伸びをする。

どれくらい探索を続けていたのか。日はすっかりオレンジ色になり、写真の残メモリーも大分減った。

しかし、私に後悔など欠片もなく満足感だけが心をいっぱいにしていた。

「ソニア。今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです」

「楽しめてもらえたならよかった」

 

つい昨日もグリーンから同じような言葉を言われたが、感じ方がまったく違った。こちらのよかったは本当にホッとした様子だった。

「じゃあ、私の家に行こうか」

「そうですね。マグノリア博士が待っているはず……」

 

ですからと続けようとした時、ソニアのスマートフォンが鳴った。

かかってくる予定がなかった相手なのか、ソニアは画面の名前を見て少し戸惑いを浮かべていた。

 

「ユウリのお母さん? どうしたんだろ?」

 

何となく嫌な予感がした。これが虫の知らせと言うものなのか、はたまた何度も巻き込まれてきて直感が培われてしまったのか。

正直、その電話に出て欲しくない。

しかし、そんな願いが届くはずもなくソニアは電話に出ると。

 

「ええええええ!? ホップとユウリがいなくなったあああああああ!?」

 

またもやトラブルに巻き込まれそうな気配を感じ、私は頭を押さえた。

 

 




簡単キャラ紹介

オレンジ→本作の主人公。知的で落ち着いたキャラかと思ったら、だいぶメッキが剥がれてきた。もふもふとしたポケモンも好きだが、バトルさせたくなくなるので手持ちには入れていない。
相変わらずのトラブル体質に最近いつトラブルが起こるか察知できるようになってきた。

ソニア→研究者なのにチャンピオンに喧嘩売ろうとしたり、なんか狂ったようにもふりだしたらして、扱いがお客様から変な人に下がった。

ユウリのお母さん→ユウリのお母さん。





見たいのは?

  • オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
  • オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
  • オレンジが女の子だったら
  • オレンジの日常
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