トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ   作:サンダー@雷

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年末は忙しい……


ワイルドエリア

数時間にも及ぶ列車の旅は一旦幕を閉じ、大自然を歩く旅が開幕した。

足が隠れるくらいに伸びた草が数えることが気が遠くなるほど生えている。 一歩踏み出すごとに水溜りを叩いたような水が足にこびりつく。

少し目線を上げて、辺りを観察すればカントーでも馴染みのあるポケモン、見たことないポケモンと色々なポケモンたちが生態系を形成している。

これがガラル地方最大の大自然、ワイルドエリア。

あまりの光景に私は感動を抑えきれず、気がつけばカメラのシャッターを切っていた。

これはすごい。調査のしがいがありそうだ。

 

「師匠ー! 師匠ー! 早く修行やろうです! 修行!」

 

ユウリはぴょんぴょん跳ねながら私に催促してくる。

 

「ふぁ〜……。なんで寝起きなのにあんたはそんなに元気なのよ」

 

可愛いあくびをしているソニアは、まだ眠気が覚めていないのか身体が重そうだった。

 

「歳の差では?」

「そんなに歳とってないわよ! というかあんたも同い年でしょうが!」

「……はぁ。すいません」

 

単に子供の活力の多さを言ったつもりだったが、ソニアには違う捉えられ方をされたようだ。女心は難しいものだ。

 

「まあ、それはそれとして。修行ですね。ちゃんと考えてますよ」

 

私の言葉に、ユウリはいかにもワクワクしてますと言った風に期待の眼差しを送ってくる。

おそらく活気的な特訓を期待しているのだろう。しかし、申し訳ないがその期待は裏切らせてもらう。

「今回の修行は野生のポケモンと戦うことです」

「え〜? 野生のポケモン……」

 

ユウリは露骨に嫌そうな顔をしていた。まあ、その反応は予想通りだ。

この修行方法に疑問はあるのはソニアも同じようで、口を挟んできた。

 

「ユウリはもう野生のポケモンとは戦ったことがあるんでしょ? なんで今更野生のポケモンと戦うの?」

「そうですね。たしかにユウリは野生のポケモンとはある程度戦えるのでしょう。しかし、それが出来たのは相手がバトル慣れしていなかったからでしょう」

「バトル慣れしていなかった?」

 

いまいちピンときていない2人に私は説明を続ける。

 

「簡単に言えばユウリが主に戦ってきた野生のポケモンたちは1番道路や2番道路のポケモンですが、あの辺りは餌が豊富ですから生存戦争があまり活発じゃありません。それ故にポケモンたちもバトルの経験値が低いのです」

 

私は草原の方を向いて。

 

「ですが、このワイルドエリアのポケモンたちは違います。厳しい弱肉強食の世界の中生き抜いてきたポケモンたちですから、バトルの経験値は通常のポケモンよりも段違いに高い。このポケモンたちを相手にすれば、自然とユウリの弱点も克服できるでしょう」

「私の弱点ってなんです!? すっげぇ、気になるです!」

「それに気がつくのも修行なのですが……。まあ、初回ですし今回はサービスしましょう。ズバリ、あなたの弱点は不測の事態への対応力です」

「要するに不意打ちに弱いっこと?」

「その通りです。それを克服するためには、バトルを重ね様々な状況を経験することが1番の近道です」

 

私が言い切るも、ユウリはどこか釈然としない様子だった。

 

「思っていた修行と違うのは理解しています。しかし、私の教え方はまず基礎を固めて、そこから発展です。その考え方を変える気はありません。私のやり方に異議があるのなら、他の人間に教えを請いなさい」

「……大丈夫。やるです」

 

ユウリは渋々だが納得したようだ。

「そうですか。では、私とソニアはあちらの方で調査していますので、終わったら連絡します。それまで適度に休憩をとりながらで構わないので、バトルを続けなさい。以上です。行きますよ、ソニア」

「え? う、うん。分かった」

 

私がスタスタと歩いて行くと、ソニアはユウリの方を何度も見ながら私について来た。

 

 

 

「あれで良かったの?」

 

私がしゃがんで草の材質調査をしていると、後ろからソニアが声をかけて来た。

「良かったの、とは?」

「ユウリのことよ。言いたいことは分かるけど、もっと言い方があったんじゃない?」

「駄目ですよ。教える立場である以上、相手の機嫌を伺うことはタブー中のタブーです。私は教えてあげている、ユウリは教えてもらっている。この関係を崩せば、それは師弟関係とは言いません。ただの仲良しこよしの関係です」

「……でも、あの子はまだ子供だし」

 

なおを食い下がるソニア。やはり、ユウリの別れ際の不満顔が不安なのだろう。

人を心配できるのは美点だが、やり過ぎればただの過保護だ。

私は呆れたようにため息をついて。

 

「だからこそですよ。ある程度メンタルコントロールができる大人に比べて、ユウリのような年齢は感情に行動が左右されます。そんな精神的に未熟な相手だからこそ、文句を言えば自分の思い通りになると思わせてはいけないんです」

 

私の言葉を聞いたソニアは、目を見開いて驚いていた。

おそらく、私がここまで深く考えているとは思っていなかったのだろう。

まあ、この歳で人に教え慣れている人間も少ないだろうし、ソニアが理解できていないのも無理はない。

それにしても今回はなかなかの跳ねっ返りな弟子だ。こんな弟子はゴールド以来だ。

ヒカリは素直だったし、セレナは理知的だったし、ムーンに関しては元々私の人柄を知っていたから特に文句もなく言うことを聞いていた。

しかし、言うことを素直に聞くから絶対に強くなれるわけでもない。なぜ強くなるのか、どうやって強くなるのか人それぞれで不透明。だから、人を育てることは面白い。

私はスマホの時計で時間を確認すると。

 

「それにユウリも今頃はこの修行の本当の意味を理解している頃でしょう」

「本当の意味って、ユウリの弱点克服が目的じゃなかったの?」

「それではまだ50%の答えです。本当に全部教えてしまうわけないでしょう。それでは修行になりませんよ」

 

私は草の一部を袋の中に入れる。後で成分を詳しく調べるためだ。

そして立ち上がり、ユウリが修行しているであろう方向を向いて。

 

「さてさて、どうなっていることか」

 

 

 

「まったく! なんなんですか、師匠は!」

 

珍しく私は怒っていた。スクールにいるときだってこんなに胸がムカムカとした経験はない。

もっと、いきなりバーンと強くなるような秘訣を教えてもらえると思っていたのに、蓋を開けてみれば野生のポケモンと戦えだ。

そんなこと1人でもできるだろ! そもそもホップ以外近所に子供がいなかったから、もっぱら私の修行方法は野生のポケモンとのバトルだったのだ。野生のポケモンとのバトルなんて腐る程経験している。今更何の意味があるのか。

もしかして師匠は私を育てるつもりはないのだろうか。今だって私の修行をそっちのけで自分の仕事をしているし。

もしそうだったらどうしよう。チャンピオンリーグまで時間もないのに……。

 

私の心の中に疑心が渦巻いている時、草むらがカサカサと揺れた。

私はばっと臨戦態勢をとる。

そして草むらからうさぎ型のポケモンが二匹飛び出して来た。

ポケモン図鑑で検索すると、あのポケモンはホルビー。ノーマルタイプのようだ。

群れの対戦だが、その対戦は何度もしたことがある。

「ノーマルタイプには、かくとうタイプ! 行くですよ、ラビフット!」

「ラビフッ!」

 

ラビフットはほのおタイプだが、ノーマルタイプに効果抜群なにどげりが使える。私のポケモンの中では1番ベストな選択だ。

……こうなったらこの修行を余裕でこなして、こんなことさせても非効率だと師匠に教えてやるです!

 

「ラビフット、先手必勝! でんこうせっかで接近するです!」

「ラビフッ!」

 

ラビフットはその名の通り電光石火の速度でホルビーに接近する。ホルビーはあまりの速度に反応できていない。

いける!

 

「そこです! にどげり!」

「ラビッ、ラビフッ!」

「ホルビっっっ!!」

 

にどげりを顔元へまともに受けたホルビーは、飛ばされて1、2とバウンドした。

ふらつきながらも何とか立ち上がったが、かなりダメージを受けているようだ。

「トドメです! ラビフット、ニトロチャージ!」

「ラビラビラビ、ラビフッ!」

「ホルビ……」

 

ホルビーは目を回してその場に倒れこんだ。戦闘不能だ。

「よくやったです、ラビフット!」

「ラビッ、ラビ!」

 

どうですか! たしかにワイルドエリアのポケモンは通常に比べて強いかもしれないが、今の私なら問題なく戦える!

まったく、師匠は私の実力を理解していない。

これなら、次のステップに進むのも時間の問題だろう。

「さあ、次行くですよ!」

「ラビッ!」

 

そう言って、残りのホルビーの方を見やる。

仲間がやられて怒ったのか、ホルビーは私のことを睨んでくる。しかし、最初のホルビーの戦いを見れば私が負けることはない。

 

「ラビフット、ホルビーにでんこうせっか!」

「ラビフッ!」

 

ホルビーはさっきと同じ要領でものすごい速度でホルビーに接近する。

しかし、相手のホルビーはラビフットが接近する直前にあなをほるで姿を消してしまった。

 

「っっ! どこ行ったです!」

 

私はキョロキョロと辺りを見回してホルビーを見つけようとするが、どこにも見当たらない。

どうして! もう1匹のホルビーは反応もできなかったのに!

「ホルビっ!」

「ラビフー!」

「ラビフット!?」

 

地面の真下から飛び出してきたホルビーの打撃。あなをほるはじめんタイプ技、ラビフットには効果抜群だ。

地面に倒れ込んだのはラビフットだが、すぐに立ち上がる。

しかし、かなりのダメージを負ったようで、手を地面につけて身体を支えていた。

おかしい。たしかに効果抜群の技を受けたにしてもダメージが大きすぎる。

もしかして急所に当たったのか。ついていない。

 

「ホールビッ!」

 

追撃を与えるように、ホルビーはマッドショットを放ってきた。

3つの泥玉がラビフットを襲う。

 

「くっ! ラビフット、にどげりでマッドショットを撃ち落とせです!」

「ラビフッ、ラビフ……ラビフー!」

 

なんとか2つは撃ち落とせたが、最後の1つは間に合わず食らってしまった。

しかし、ダメージはかなり抑えられ……。

 

「ラビフ……」

「そんな!? ラビフット! しっかりするですラビフット!」

 

ラビフットは目を回して倒れてしまっていた。

そんな馬鹿な! たしかにダメージを負っていたけど、泥玉1つで倒れるほどじゃない!

私の心の喧騒をよそにホルビーは臨戦態勢のままこちらの出方を見ている。

私の残りのポケモンは、最近捕まえた一体のみ。正直、分が悪い。

そう考えた私はその場から逃げる選択肢を取った。

「ホビッ、ホビッ!」

 

ホルビーは追いかけて来ていた。仲間を傷つけた私が許せないのか、かなり殺気立っているようだ。これはしつこいかもしれない。

走る、走る、ただ夢中になって走る。

しばらくすると、洞穴が見えてきた。私はその洞穴にラグビーのトライのような体勢で飛び込んだ。

私はすぐに外を確認するが。

「はっはっはっ……どういうことです?」

 

私の予想ではホルビーは洞窟の近くまで来て、私のことを探すものだと思っていた。しかし、ホルビーは私を探す素振りすら見せずにそそくさと退散していった。

あれほどまでに追いかけて来ていたのに急な態度の変化に私は首を傾げる。

「ラッキー……です」

 

危難が去り力が抜けた私はずりずりと背中を壁に預けながら座り込む。

口には血の味がしていた。 悔しさに唇を噛んでいるせいだ。

楽勝だと思ってた。スクールの成績も優秀だったし、努力も人よりしていると自負もあった。野生のポケモンなんて簡単に倒せる、そう思っていた。

だが、結果はどうだ。

ラビフットを倒され、逃げ出して、運で逃げ延びて。……情けない。

マイナス思考のスパイラルに陥りそうになった時、師匠の言葉が浮かんできた。

「後悔はするな、反省しなさい」

 

そうだ反省しよう。そして、次に繋がるのだ。

私は図鑑を取り出して先程のホルビーのデータを画面に出す。

これは師匠に教えてもらった機能で、使いこなしている人は少ないがとても便利な機能だ。これのおかげで戦った野生のポケモンの特性や技、能力が知ることができる。

そして早速発見があった。さっきのホルビーは最初のホルビーに比べてすばやさが高かったようだ。もちろん、でんこうせっかの速度について行けるほどではないが、それについてはおそらく学習されたんだと思う。

 

「ポケモンの学習能力を見くびってはいけない。彼らは人間が思っているよりもずっと賢い」

 

これも師匠の言葉だ。

あの時、私は最初のホルビーと同じ戦法をとった。しかし、それを見て後のホルビーは私のでんこうせっかでの接近のタイミングを掴んだのだ。

バトル慣れしている。この言葉の意味がようやく理解できた。

バトル経験豊富な相手は、私の戦法になどすぐに対応してくる。そしてその戦法に1番効果的な戦法をとってくる。私はそれに対応して……要するにポケモンバトルとは究極のイタチごっこなのだ。

野生のポケモンですら一度見ただけで対応してくるのだ。ちゃんとしたトレーナーとの戦いなら、一度どころか最初から対応してくるかもしれない。

ならば、それこそ野生のポケモンくらいしっかり倒さなければならない。

師匠が伝えたかったことはそれだったのか。

育てる気がないなんてとんでもない。あの人は最初から私を育てることに真剣だったのだ。

 

「……ごめんなさいです、師匠」

「別に気にしていませんよ」

 

意識の外から聞こえてきた声に私は顔を上げる。

すると、そこにはいつもの優しげな顔をしている師匠がいた。ど、どういことです!?

「師匠、どうしてここに!?」

「最初からガブリアスに監視させていたんですよ。ワイルドエリアにはエリアボスと呼ばれる強いポケモンがいると聞いていましたので、保険としてね。極力介入しないように指示していましたが、つい助けてしまったようですね」

「ガブ〜……」

 

いや、すいません。と言いそうな感じでガブリアスは苦笑いして頭をかいていた。

助かけられた?

 

「あ! もしかしてホルビーが不自然に逃げやがったやつですか!?」

「ガバ」

「そうでしたか。ありがとうですガブリアス」

「ガバァ」

 

いいってことよと言う感じで、ジェスチャーしていた。

そうか。結局私はここでも師匠に助けられていたようだ。

 

「また助けられてちまったです……」

 

泣きそうになるのを堪えて下を向いていると、ポンと頭に温もりを感じた。師匠の手の体温だった。

「いいんですよ。あなたはまだ子供なんですから。子供は大人に迷惑をかけて成長するものですよ」

「でも、私師匠のこと疑ったです。師匠は私のこと真摯に育てようとしてくれてたのに」

「言ったでしょ? 気にしてませんて。というか、その程度で怒るなら初めからあなたを弟子にしようなんて思っていませんよ」

 

師匠は膝をつく。私は視線を合わせるように顔を上げる。

 

「強くなることは難しいです。強くなるとは、果てのない地平線をずっと歩いているようなもの。しかし、どんな経験もあなたの一歩にはなる。人を疑うことも、それが間違いだと気がつくこともその一歩なのです。だから、けして悲観することはありませんよ」

「うう〜、師匠ー!」

 

私は師匠に抱きついて泣き出した。

 

 

 

しばらく泣いた後、私はこの場にソニアさんがいないことに気が付いた。

 

「師匠、ソニアさんはどうしたですか?」

「ああ。ソニアなら置いてきましたよ。ここまで移動するのにガブリアスで飛んできましたから。ソニアはガブリアスの飛行が苦手なようですし、その方がいいと思いまして」

「……え? ということは、この野生のポケモンがひしめくワイルドエリアで、ソニアさんは1人っきりてことですか!?」

「……あ」

 

サーと師匠の血の気が引いた音が聞こえた気がした。

 

「ガブリアス! 急いでソニアの下に向かってください!」

「ガ、ガバァ!」

 

……やっぱり師匠間違えたかな。

かっこいいのにどこか詰めが甘い師匠を見ていて、私はそう考えた。

 

 

 

 

……一方その頃ソニアは。

 

「はぁはぁはぁ!」

「ドラァ!」

 

紫色の体色に、大きな身体、逞しい腕には鋭く大きな爪。凶暴でお馴染みドラピオンだ。

ポケモンをレベルの低いワンパチしか持っていないソニアは、追いかけ回してくるドラピオンから必死に逃げ回っていた。

 

「ドラァ!」

「はぁはぁ 、オレンジィィィ! あんた絶対許さないからねぇぇぇぇ!」

 

その後、ガブリアスが着くまでソニアは逃げ続けたのだった。




この後ドラピオンはガブリアスの『ドラゴンクロー』でワンパンされました。
そしてオレンジはしばかれました。

Q.あなたの相棒は?

オレンジ→エーフィ
ソニア→ワンパチ
ユウリ→ラビフット
レッド→ピカチュウ
グリーン→ピジョット

見たいのは?

  • オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
  • オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
  • オレンジが女の子だったら
  • オレンジの日常
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