トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ   作:サンダー@雷

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 二重の意味で長い。すんまそん。


エンジンシティ〜VSホップ〜

食後、私たちはホップとユウリのバトルをするために、ポケモンセンター近くに常設されているバトルフィールドにやってきていた。

カントーよりも少し広いくらいで、基本的にフィールド構造はカントーと殆ど変わらない。

私含めソニアとダンデはフィールドの外に立ち、ユウリとホップはそれぞれトレーナー用の白線の中で立っていた。

ついにバトルが始まると思っていたら、ユウリが何かを思い出したかのようにして私に走ってきた。

 

「どうかしましたか?」

「師匠、暇だったらこのバトルを撮影しておいて欲しいです!」

「撮影? ああ、なるほどバトルレコーダーで記録しておけということですか」

「違げぇですよ。ライブ放送の撮影をお願いしたいんです!」

「……ライブ放送?」

 

ライブ放送とは、要するに生放送のことだ。だが、それは一般的にテレビなどで用いられるもの。一般人が生放送をするなんて聞いたことがない。そもそも一般人が生放送して誰が見るのか。

私がちんぷんかんぷんと言いたげにハテナを浮かべていると、ソニアが。

 

「あ、カントー地方にはないのね。ガラルではポケチューブっていうアプリを使って個人のトレーナーが自分のバトルを生放送することができるのよ」

「なるほど、そのバトルを通じて自らの実力を宣伝してサポーターをゲットすると」

「その通り。さらに言うと生放送中は投げ銭と呼ばれる金貨をトレーナーに授与することもできるんだ。要するにいいバトルをすればそれだけ旅の資金を集めることができるってことだ」

「ほう。うまくできているものだ」

 

たしかにトレーナーの旅で1番ネックとなるのは金だ。才能があっても資金が底を尽き旅を断念したという話は山のようにある。しかし、この制度を使えば実力があるトレーナーは自然と支持されて資金を調達できるのだ。

「ついでにバトルの解説なんかもしてくれると嬉しいです。解説ありの方が人気になりやすいんですよ!」

「まったく師匠使いが荒い弟子ですね……。分かりました、やりますよ。ソニアと」

「なんで私!? 普通そこはダンデくんじゃない!?」

「チャンピオンが素人放送の解説なんてやったら色々問題になるでしょう。そうでしょう、ダンデ?」

「そうだな。特に俺は解説の仕事は苦手で大体断ってるから、余計に問題になるだろうな」

「うぐ……分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば」

「ありがとうです! じゃあ、師匠、ソニアさんよろしくです!」

 

ビシッと可愛く敬礼してユウリはフィールドに駆けて行った。

なんだがいつもよりユウリのテンションが高い気がする。ダンデの前だからだろうか? はりきりすぎて、空回りしなければいいが。

 

「ふふ。ユウリったらダンデくんの前だから、はりきってるのね」

「ん? ユウリはいつもあんな感じだろ?」

 

いや、あなたの前だけだ。

当の本人はまったく気がついていないようだが、はたしてユウリの恋の行方はどうなることやら。

そうしてユウリとホップが向かい合いバトルが始まろうとしていた。

 

 

 

 

※ここからは解説=『』、トレーナー「」で進行します。

 

【バトルライブ放送 新人トレーナーホップVS新人トレーナーユウリ※解説あり】

 

『ライブ放送を視聴している皆さん、こんにちは。今回解説を務めさせていただきます、通りすがりの研究者Xです』

『お、同じく通りすがりの研究者Yです』

『今回のバトルはジムチャレンジの開会式を明日に控えた2人の対戦となりましたが、Yさんはどう見ますか?』

『そうね。ホップのバトルはあまり知らないけど、性格通り攻めることが多いと思う。対するユウリは、前までは攻めてばっかりだったけど、最近は考えて戦うことを覚えてきたから、そこに注目かしら』

『なるほど。同じ攻めでもテイストが変わると言うことですか。面白いですね〜』

『そうですね……。ねぇ、通りすがりの研究者ってなに?』

『ネットで本名を晒すのは危険ですから。ハンドルネームのようなものですよ』

 

そんな雑談をしているうちに視聴者は100人を超えていた。初心者トレーナーのバトルにすらここまで集まるとは。この制度は余程ガラル地方で馴染まれているようだ。

そしてユウリとホップがボールに手をかけた。似たような豪快な投球フォームを取り。

「行くですよ、アオガラス!」

「行け、ココガラ!」

 

2人が出したポケモンは互いに空中へと飛び立つ。

 

『さて、いよいよバトル開始のようです。ユウリはアオガラス、ホップはココガラを最初のポケモンとして繰り出してきました。得てして進化前、進化後の対戦となりました。どう見ますかYさん?』

『普通に考えたら進化後のアオガラスが有利なんじゃない?』

『そうですね。たしかに一般的にポケモンは進化した方が種族値が上昇し強いポケモンになります』

『……なんか含みのある言い方ね』

『まあ、含んでますから。意味は見ていれば分かります』

 

先手を仕掛けたのはホップだ。

 

「ココガラ、先ずはつつく攻撃だ!」

「ココガァ!」

「アオガラス、ついばむで応戦しろです!」

「カラァ!」

 

くちばしを光らせた2体の鳥ポケモンが、空中でぶつかり合う。

 

「ガラァッッッ……!」

 

競り負けたのは体格で劣るココガラのようだ。ココガラは後方に飛ばされるが、なんとか体勢を立て直した。

「ううん、やっぱりパワーじゃ敵わないか。それじゃあココガラ、アオガラスの上をとるんだぞ!」

「ココガラァ!」

 

ココガラは羽を広げて上昇し、アオガラスの真上にぴったりとつけた。

 

『これはホップが上手いですね。進化前のアドバンテージを活かしています』

『進化前のアドバンテージって何?』

『簡単に言えば体格差ですよ。ポケモンは進化するに当たって能力の上昇と共に体格も大きくなることが多い。特に今回のアオガラスなど全長が10倍近く変わりますから、あれが真上に付かれたら攻撃が届かないでしょう』

『へぇー、バトルって能力だけじゃなくて体格でも戦法が変わるのね。奥が深いわ』

『と、旅を始めたのに先日3キロ太ったYさんが言っております』

『違うから2キロだから! って、何言わせるのよバカ!? これ数百人に見られてるんだからね!?』

『何で毎日歩いてるのに太るんですか?』

『しょうがないでしょ! 歩くとお腹すいて食べちゃうんだから!』

 

雑談はさて置き、上を取られたユウリは苦い顔をする。

仕方がない、先程も言った通りこのままでは攻撃が届かない上に隙を常に見せている状態なのだ。しかし、ここからが修行の成果を見せる時とも言える。

 

「アオガラス、振り切れです!」

「無駄だぞ! ココガラ、つつくだ!」

「ガラァ!」

「カラァッッ!!」

 

真上から守る暇なくつつくを受けたアオガラスは、バランスを崩して地面の方向に落ちていく。

 

「アオガラス、地面に向かってスピードスターです!」

「カラァ!」

 

アオガラスは重力にくちばしを曲げられながらも、何とか無数の星を地面に向かって放った。

星が地面にぶつかり大きな砂煙が舞い上がる。フィールド全体を覆う煙にアオガラスの身体はすっかり隠れてしまった。

 

「上手く威力を落下の威力を殺したな! でもその状態ならスピードは出せないぞ! ココガラ、アオガラスが戻ってくるところをつつくで迎撃するぞ! 準備をして待ってるんだ!」

「ココガァ!」

 

砂煙から戻ってくるアオガラスを迎撃しようと、ココガラはくちばしを光らせる。

たしかに、ひこうポケモンはスピードを出すのにある程度助走が必要だ。だから、一度地面に足を付けたアオカラスはある程度飛行しなければトップスピードは出せない。

まあ、それがただの新人トレーナーならの話だが。

 

「甘ぇですよ! アオガラス、トップスピードでついばむ攻撃!」

「アオカラァ!」

「なんだって!? くっ、ココガラかわせ!」

 

無理だ。間に合わない。

 

「ココガァッッーー!」

 

私の予想通りココガラはアオカラスの攻撃を避けることができずにまともに受けてしまった。

地面に落ちたココガラは目を回してしていた。

 

『ココガラ戦闘不能でユウリが先手を取りました』

『どういうことなの? ひこうタイプは一度地面に落ちたら、トップスピードを出すまでに少し時間が必要のはず』

『その通り。その特性は羽を持つひこうタイプ共通のことですから、アオガラスも例外ではありません』

『じゃあ、ユウリはどうやってアオガラスのトップスピードを実現させたの?』

『簡単なことです、要はアオガラスは落ちないで滑空していたんですよ。落下途中ユウリはスピードスターをアオカラスに指示しました。あれは一見すると落下の威力を殺すために放ったように見えますが、実は砂煙をあげてアオガラスの身を見えなくして、ホップにアオガラスが落下したものだと錯覚させるために放ったものだったのです』

『あの一瞬でそんな判断をしてたのね……』

『はい。しかし、ユウリはいいですね。その場の状況を利用し相手の先を行く、修行の成果がしっかり出ています。逆にホップは少々軽率でしたね。アオガラスが落下したものだと楽観視して、悠長に構えていましたから。あそこはもう少し慎重に行くべきでした。まあ、新人トレーナーですから、これから学んでいけば十分でしょう』

 

私のコメントにソニアもうなづく。そして横にいるダンデも「その通りだ」と呟いていた。

しかし、先手を取られた悔しさと自らの判断ミスに対する不甲斐なさを隠しきれないホップはボールに戻したココガラに何かを語りかけていた。おそらく謝罪の言葉だろう。

そして2体目のボールを手に持つ。

 

「行くぞ、ウールー!」

 

出てきたのは白いもふもふの毛に覆われた羊型のポケモン。ウールーと言って、ハロンタウンでも見かけた。

 

『もふもふ! ……はっ、失礼しました。ホップの2体目のポケモンはウールーのようです』

『落ち着いてよ? ……ホップとウールーは小さな時から一緒。それこそ付き合いで言えば私よりも長い家族のような存在よ。だから、このバトルでは2人のコンビネーションに注目ね』

『もふもふと小さな頃から一緒だと!? ホップ、貴様の罪を数えろ!』

『はいはい、馬鹿なこと言ってないで解説しなさい』

 

呆れたように諌められてしまった。私はこほんと小さく咳をして気持ちを切り替える。

ここでユウリは少し考え込む。一見すると空にいるアオガラスの方が地の利があるように見える。

しかし、ユウリが取った選択はポケモン交代だった。

 

「お疲れですアオガラス。行け、ホルビー!」

「ホルビー!」

 

出てきたのは兎型の愛らしい見た目のポケモン、ホルビー。

それも修行初日にユウリのラビフットを戦闘不能にした個体だ。

煮え湯を飲まされたユウリが絶対にゲットしたいとワイルドエリア中を探し回り、ようやく捕まえたポケモンだ。

 

『ここで交代? 空を飛んでるアオガラスの方が有利だと思ったんだけど、ダメージが残ってるのを嫌ったのかな?』

『いいえ。おそらく交代した理由はウールーの特性もふもふにあります』

『……ふざけてる?』

『違いますよ。本当にそういう特性があるんですよ』

 

ソニアも解説しやすくするために知っててつっこんでいるのだろうが、トーンが本気なので少し怖い。

 

『もふもふとは、直接攻撃のダメージを半減させる特性です。だから、直接攻撃しかないアオガラスではダメージが与えにくいと判断したのでしょう』

『へぇー。便利な特性ね』

『まぁ、その代わりと言ってはなんですが、ほのおタイプの技のダメージが2倍に増える効果もありますがね』

『あれ? でも、ユウリはほのおタイプのラビフットを持ってるでしょ? なんでラビフットじゃなくて、ホルビーなの?』

『それは分かりません。ただ、ユウリもウールーの特性は理解しているでしょう。それならば、何かしら理由があるのは確かです』

 

私が話を切って、フィールドに目を向ける。

そして先に動いたのはユウリだ。

 

「ホルビー、マッドショットです!」

「ホルッビ!」

 

投げられた3つの泥玉が、野球の打球のようなスピードでウールーに向かう。

 

「ウールー! 構うな、そのまま突撃しろ!」

「もふ! もふ! もふー!」

 

ウールーは迫ってくる泥玉を意に介さずにホルビーに向かって走る。そのスピードは泥玉がぶつかっても落ちることはない。

 

「そのままとっしんだ!」

「もふふ!」

「ホルビーッッ!」

 

とっしんをまともに受けたホルビーは、後ろに吹き飛ばされて地面を引き摺られる。

 

「ホルビー、大丈夫です!?」

「ホルッビ!」

 

 心配するユウリに、ホルビーは無事を知らせるように激烈な鳴き声を上げる。

 

『これはホップは思い切りましたね。いくらダメージが半減しようとも、とっしんが中断される可能性もある中、やり切りました。パートナーとの信頼関係がなければできない攻撃でしょう』

『うん。さすがだわ』

 

 バトルの流れがホップに行きかけたところで、ユウリが仕掛ける。

 

「ホルビー、いつものいけです! あなをほる!」

「ビー!」

 

 ホルビーはあなをほり地面に潜り姿が見えなくなってしまった。

 ウールーは姿を消したホルビーの位置を特定しようとキョロキョロと辺りを見回す。

 

「ウールー、惑わされるな! あなをほるなら半減されるし、マッドショットも十分受け切れる威力だぞ! どっしり構えてればいいんだ!」

「もふもふ」

 

 戸惑うウールーを落ち着かせようとホップは声をかける。

 さてさて、そう上手くいくか。

 そしてホルビーはウールーの真後ろに飛び出した。

 

「後ろだ!」

「遅ぇですよ! ホルビー、マッドショット!」

「ホルッビ、ビ、ビー!」

 

 背後からのホルビーに投げ出された泥玉をウールーはかわすことができず、まともに受けてしまった。

 

「も、もふふ……」

「ウールー!? どうした? しっかりしろ!?」

 

 ウールーは目を回して倒れてしまった。戦闘不能だ。

 

『どういうこと? 私はバトルは得意じゃないけど、それでもウールーの体力はマッドショット一撃で倒れるほど少なくなかった。なんでウールーは戦闘不能になったの?』

『単純は話ですよ。ウールーはマッドショットが急所に当たってしまったんです。だから、1回目よりも受けたダメージが増加したんです』

『急所……。なるほど、ユウリは運が良かったのね』

『それも違いますよ。ユウリは急所に当てるところまで計算していたんですよ』

『ええっ!? ということは狙って急所にあてたってこと? どうやって?』

『とぎすますという、攻撃を必ず急所に当てる技があるんですよ。おそらくユウリはそれを使ったのでしょう』

『でも、そんな技いつ使ったの? そもそもユウリはそんは指示してなかったじゃない』

『していましたよ。いつものいけと。そして技は地中から使ったのでしょう。あのホルビーは元から好戦的な性格のようで、あの戦法を普段から使っていたようですから。それを利用して、相手に勘付かれることなくとぎすますを指示したということです』

『ユウリがそんな高度な戦法を使うなんて……! これも修行の成果なの?』

 

 それは修行の成果ではなく、私とバトルした時の戦法をマネしたものなのだが。説明すると長くなりそうなのでスルーしておこう。

 

 ホップはウールーをボールに戻す。そして不甲斐なさを押し殺したような笑みを浮かべる。

 

「やるなーユウリ! アホだったお前があんなすごい戦法使うなんて思いもしなかったぞ!」

「誰がアホですかー!」

 

 いやユウリ、あなたはわりとアホだ。

 

「俺はこいつが最後のポケモンだ! でも、絶対に諦めないぞ! 行け、バチンキー!」

「ウッキー!」

 

 バチンキーと言われたポケモンは、登場すると同時に手に持っている2本のスティックを叩いて軽快なビートを奏でる。

 

『ホップの最後のポケモンはバチンキーですか。見た目はくさタイプのようですね』

『そうよ。ガラル地方では初心者トレーナーに最初に渡す三体のポケモンの内の一体。あのスティックのような棒で音楽を奏でるのが特徴なの』

『ほう。愛らしい見た目をしているのにそんなにロックな一面も持っているのですか。ギャップ萌えというやつですね。ちなみにYさんは鋭いつっこみをしますが、案外責められるとしょんぼりしてしまうタイプです』

『そ、そんなことないわよ! 何を根拠に言ってるのよ!』

『前におばあさんの(に提出するはずだった)大切な物(書類)をなくして大目玉を受けた時、泣きそうになってたじゃないですか〜』

『そ、それは……あったけど……』

 

 横でダンデが吹き出して笑っている。

 それを見たソニアがキッと睨むとしゅんと黙り込んだ。幼馴染のパワーバランスが垣間見えた。

 この血筋は人を圧する才能があるのかもしれない。マグノリア博士の怒った時の迫力はすごかった。一瞬エンティと相対している錯覚を覚えたほどだ。

 まあ、経費報告の領収書をなくすなんてわりと大事だから仕方ない。

 

 フィールドに戻り、一方のポケモンが一度戦闘不能になれば、もう一方にもポケモンの交代が認められる。

 それにユウリは。

 

「お疲れ様ですホルビー。行けです、ラビフット!」

「ラビフッ!」

 

 ユウリは交代を選択し、エースであるラビフットを出した。

 迷いのない交代なところを見ると、初めからこの対戦カードは決めていたようだ。

 

「久しぶりだな、ラビフット……。今度こそお前に勝つぞ! なあ、バチンキー?」

「ウッギー!」

 

 ホップの言葉に呼応するように、バチンキーはスティックを振り回して気合をあらわにする。

 なるほど、2人のセリフを聞く限り、あの二体は何度もぶつかり合っている因縁の相手ということか。

 

「行くですよ、ラビフット。まずはニトロチャージ!」

「ラビラビラビ、ラビフッ!」

 

 炎をまとったラビフットがバチンキーに突進していく。

 

「その攻撃は対策済みだぞ! バチンキー、さわぐんだ!」

「ウッキャアアアアアアア!」

「ラビィィ!」

 

 バチンキーのさわぐを受けたラビフットは耳を塞いその場で膝をついてしまった。苦悶の表情を浮かべている。

 

『これもうまい技の使い方ですね。ラビフットは普通のポケモンよりも耳がいいですから、あの騒音は相当な苦痛でしょう』

『証拠に技も出せてないしね』

『さてさて、ユウリはこの状況をどうやって攻略するのか。見物ですね』

 

 まあ、そこまで難しくはない。要は相手の集中を解けばいいのだ。しかし、その手にユウリが気がつくか。

 

「くっ、ラビフット! とびはねるです!」

「ラビフッ……ラビフッ!」

 

 違う、その手は悪手だ。

 

「焦ったなユウリ! バチンキー、はっぱカッター!」

「ウキキ!」

 

 宙ぶらりんになっていたラビフットは撮りもちろん身体を自由に動かせずにはっぱを受けて後ろに飛ばされる。

 

「追撃だ! バチンキー、ダブルアタック!」

「ウキ、ウキャ!」

 

 体勢を崩されているラビフットに、2本のスティックを光らせたバチンキーが襲いかかる。

 

「ラビフット、にどげりで防げです!」

「ラビッ、ラビフッ!」

 

 ラビフットは地面に腕と耳を立て上手く体勢を立て直し、足でバチンキーの攻撃を捌いた。

 

『うまいわよユウリ!』

『しかし、あれは意表をついたから成功した手。おそらく二度目は通用しないでしょう』

『でも、ラビフットが倒されてもユウリにはまだポケモンが二体残ってるんだし、そこまで悲観しなくてもいいんじゃない?』

『まあ、バトルの勝敗的にはそうでしょうね』

『どういうこと?』

『ユウリがわざわざリスクを負ってまでラビフットを温存していたのは、おそらくバチンキーに当てるためでしょう。それだけこのカードは2人にとっては特別なものということ。もしも試合に勝利しようとも、勝負に負けている。ユウリにとっては意地でも負けられないのでしょう』

 

 実際に試合そっちのけで負けられない勝負とはトレーナー同士ならザラにある。私のエーフィだって、レッドのピカチュウと戦う時は普段のバトルとは気合が全く違う。

 そういう勝負は、試合に勝とうとも、どこか敗北感を引きずるものだ。

 絶対に負けられない。

 

『いくら負けられなくても、あのさわぐの妨害をどうにかしなくちゃどうしようもないわ。でもラビフットは遠距離に対応できる技がない。ユウリはどうすれば良いの?』

『簡単ですよ。バチンキーはさわぐことに集中している状態ですから、それを妨害すればいいんです』

『そう言うなら、Xさんはその手を理解しているんですよね?』

『……ええまあ。案外単純な手ですよ? Yさんでもできます』

『私にでも出来る……?』

 

 難しく考えているな。まあ、ポケモンバトルにおいて出来ることなど通常は作戦を指示することだ。私の言葉の意図は読めないだろう。

 

「くぅ! ラビフット、ニトロチャージ!」

「無駄だぞ! バチンキー、さわぐ!」

「ウキャアア!」

「ラビフッッッ……」

 

 耳を塞いだまま、膝をつくラビフット。

 ユウリは八方塞がりな状況に苦い顔をする。それでも考える。この状況を打破する一手を。

 そしてその時バトルの衝撃に飛ばされた石や土がユウリの横に転がった。

 

「はっ、そうです! ラビフット、地面の石を投げろです!」

 

 ラビフットは地獄のようか状況の中、何とか石を探し出す。そして残る力全てを持ってバチンキーに投げつけた。

 石はバチンキーに直撃はしなかったが、近くを通り抜けた。

 しかし、それで十分だ。

 

「ウキャ?」

 

 バチンキーの気が一瞬逸れた。

 

「今です! ラビフットでんこうせっか!」

「ラビフッッッ!」

「ウキャアア!?」

 

 でんこうせっかを受けたバチンキーは後ろに足をすり足するように後退する。

 

「まだまだ! ラビフット、ニトロチャージ!」

「ラビラビラビ、ラビフッッッ!」

「ウキャアアアア!?」

「バチンキー!?」

 

 こうかばつぐんのほのお技を受けて、ホップにも焦りが見える。しかし、状況はようやく五分だ。

 ユウリ、攻撃の手を緩めるな。

 

「もう一回です、ラビフット! ニトロチャージィィ!」

「ラビラビラビ、ラビフッッッッッ!」

 

 その攻撃を当てた瞬間、爆発が起こり砂煙が舞う。

 そして砂煙が晴れた中から現れたのは目を回したバチンキーだった。

 それを見たホップは緊張が解けたようにふにゃりと笑い。

 

「俺の負けだな」

 

 その言葉を聞いたユウリは笑顔でガッツポーズを突き上げた。

 

 

 

 

 ーーー『バトルはユウリの勝利に終わりました。しかし、場合によってはどちらにも勝機のある見応えのあるバトルでした。たしかに結果はユウリの完封ですが、結果ほど2人の実力には差がないことは見ていた人がわかるでしょう。その中で2人の勝敗を分けたポイントがわかりますか、Yさん?』

『ええ!? ええっと、ユウリはホップの対策の常に上を行っていたこと?』

『その通り。ホップは色々と仕掛けて行きましたが、ユウリはそのすべてを攻略しました。ようはユウリの方が臨機応変にバトルに適応していたと言うことです。これは才能の問題ではありません。ただの反復練習ですから、どんなトレーナーでも訓練で身につきます。なので、この動画を見ている視聴者の方達は、けして悲観することがないようお願いします。私からは以上です。解説は通りすがりの研究者Xと』

『通りすがりの研究者Yでした』

『次回があるかは知りませんが、もしあればまたお会いしましょう。さよなら』ーーー

 

 ホテルの部屋に静寂が戻る。

 私は自分の解説している動画を見終え、スマフォの画面を消しバッグにしまう。

 教える身としてユウリのバトルを見返していたものの、自分の解説を聞くのは少々照れ臭い。

 息を吐き、上気した心を整える。

 私は休憩を終えて、手を止めていた書類に向き直る。

 これはオーキド博士に提出するガラル地方の生態調査の報告書だ。これが後々、カントー地方の研究者の研究に活かされる。そのため手抜きは絶対にできない。

 事細かに今日までに発見した、ガラル特有の生態について書き込んでいく。

 ペンを走らせていると、ドアがノックされた。

 

「オレンジ、起きてる?」

 

 どうやらソニアのようだ。

 私はドアを開ける。ソニアは髪を下ろしメイクもしていないすっぴんで(とても綺麗だが)、ワンパチ柄のパジャマを着ている。わりと見た目を気にする(研究者比でだが)ソニアにしては珍しい、完全にオフの姿に私は驚いた。

 

「どうかしましたか?」

「ちょっと話があるんだけど、今時間いいかな?」

「ええ、構いませんよ。部屋の中の方がいいですか?」

「うん、そうだね。へ、部屋の中……」

 

ごくりと息を飲む姿は、未開の地へ足を踏み入れようとする探検家のようだった。

 

「そんなに警戒しなくても何もしませんよ。まあ、不安なら下のロビーでも構いませんが」

「う、ううん! 違うの、男の人の部屋に入るって初めてだから、ちょっと踏ん切りがつかなかっただけなの! オレンジが酷いことするなんて、まったく思ってないから」

 

 それは少し思っていて欲しいのだが。私だって一応男だ。純粋に信用されてしまうと、邪な考えをする毎に罪悪感を覚えてしまう。

 まあ、特にナニする気はないが。

 

「では、どうぞ」

「お、おじゃましまーす」

 

 私はソニアを中に招いた。

 適当な椅子に座ってもらう。だが、ソニアはソワソワと部屋を見回す。

 まだ緊張は拭えないのか挙動はぎこちない。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。ちょっと男の人の部屋を観察してただけだから」

「ホテルの部屋に男も女もない気がしますけどね」

「そうだけど!」

 

 ソニアは目をぐるぐると回しながら顔を真っ赤にして声を大きくする。

 どうやら、緊張して自分でも何を言っているのかよく分かっていないようだ。

 あまり長引かせると余計に混乱しそうだと思い、私は話を進める。

 

「それで話とは?」

「あ、うん。ダンデくんのことなんだけど……」

 

 わりと物騒な発言をしていたわりに、何食わぬ顔でコミュニケーションをとっていた件だろうか?

 

「ああ。ダンデのことなら、ソニアに一任しましたから。今更気にしていませんよ」

 

 まあ、ユウリとホップの手前、喧嘩腰になるのは大人気ないと思ったのもある。

 

「それじゃないの」

「それじゃない? はて、それ以外に私とダンデに因縁はないと思うのですが?」

「うん。分かってる。本当はね、今からしたいのは、話っていうより相談なんだ」

 

 相談。2人は幼馴染であり、解説の時もその仲の良さは随所に見られた。その関係性を考慮すると。

 

「まさか、ソニアもダンデが好きでユウリとの泥沼修羅場展開が起こりそうで、それをどうすれば防げるかという相談ですか?」

「ちっがうわよ!? そもそも私はダンデくんのことは別に何とも思ってないし、向こうも私のことなんて何とも思ってないわよ!」

「そうなんですか。それは失礼しました」

 

 色恋関係ではないとしたら、どんな相談なのだろうか?

 

「ダンデくんの様子がおかしいの」

「……はぁ」

 

 深刻そうな顔で言われても、私はダンデの普段を知らないのでどう反応していいのか分からない。

 

「具体的にどのあたりが?」

「ダンデくんはね、ものすごい方向音痴なの」

 

 一体何の話だ。

 

「それこそ、このホテルから6番道路に行くだけでも迷うレベルの方向音痴なの」

「よくもまあ、そんな人間に人の迎え役を任せましたね」

「私だって反対したわよ! でも、リーグ役員の見栄っ張りのせいで勝手に決められたのよ! 私だって迷惑だったんだから!」

 

 どの地方にも権力によりゴリ押しはあるらしい。

 しかし、その話が本当ならおかしいことがある。

 

「はて? たしか彼の案内で飲食店に行った時、まったく迷いなく歩いていましたよね?」

「そう! そうなのよ! あの常軌を逸した方向音痴が、道に迷わないで目的地にたどり着くなんてあり得ないわ!」

 

 酷い言われようだ。まあ、それだけソニアがダンデに振り回されてきたということだろう。

 

「でも、それは単純に方向音痴を克服したのでは?」

「ダンデくん。さっき電話で、自分のホテルまで辿り着けなくて今日は野宿するって言ってたけど?」

「おかしいですね」

「でしょ!?」

 

 ダンデとはユウリ達のバトルの後別れたが、彼のホテルはあそこから歩いて5分もかからないところにある。その距離を迷うのは、ある意味神技だ。

 

「本人には聞いてみたんですか?」

「うん。でも、笑ってはぐらかされちゃった」

「なるほど」

 

 そういう時笑うのは、何かしら隠し事をしている時だと相場は決まっている。

 

「もしかしたら、近しい人には話し難い内容なのかもしれませんね。特にソニアには」

「え? 何で特に私なの?」

「男は近しい女性に弱味を見せたくないのですよ。見栄っ張りですから」

「そういうものなの?」

「そういうものです。まあ、ダンデは明日の開会式に参加しますよね。そこで上手く接触して、それとなく聞いてみますよ」

「……任せてもいいの?」

「ええ。ソニアにはいつもお世話になってますから、そのくらいお安い御用です」

「ありがとう、オレンジ」

 

 ソニアはふわりと笑う。

 

「もう夜も深いですから、そろそろ寝たほうがいいですよ。明日も早いですし」

「うん、そうだね。おやすみ、オレンジ!」

「ええ、おやすみなさい。ソニア」

 

 ソニアが部屋を出て、自分の部屋に入るのを確認して、ドアを閉める。

 そして緊張を解いた私は、安堵からはぁと深いため息をつく。

 今まで一緒に旅してきた異性はすべて恋愛対象に見れない子供だった。そんな私に、あんな美人のラフな格好は毒すぎる。

 何が男の部屋に入るのは初めてだ。私だって、プライベートで異性と同じ空間で一緒になったのは初めてだ。

 しかも、当の本人は信頼し切って疑いすら持たずにいる。

 

「……まったく、地獄か」

 

 私は頭を抱えてひとりごちった。

 

 

 




 誰か髪を下ろしたパジャマ姿のソニア書いてくれねぇかな(他力本願)

 
 設定第2弾。ジョウト地方

 オレンジ
 チャンピオンロードでレッドに敗れ、その年のリーグ挑戦は諦める。
 そして修行してレッドにリベンジするために、ジョウト地方のバッチを集めることにする。(リーグへの参加条件は、カントーのジムバッチ8個か、ジョウトのジムバッチ8個)。
 そこで、何故かゴールドと名乗るチンピラ小僧に無理やり弟子入りされ、一緒に旅することに。あれこれトラブルを運んでくるゴールドのことはいまだに許していない。
 色々あって親からは勘当されたが、未だに色々引きずっている。
 性格的には1番荒れていて、尖っていた時期。
 ポケモンは、カントーから引き続きイーブイとウィンディ(初だし)を連れている。

ゴールド
性格はポケスペゴールド。
シルバーに敗れ、悔しさのあまり八つ当たりにバトル仕掛けたらシルバーよりも強かったので弟子入りした。
 いまだにウバメの森に閉じ込めて、修行させられたことを根に持ってる。(感謝もしてるけど)。
 
 レッド
リーグチャンピオン。病み気味。

グリーン
一瞬チャンピオン。現在トキワジムのジムリーダー。




 

見たいのは?

  • オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
  • オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
  • オレンジが女の子だったら
  • オレンジの日常
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