トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
開会式はつつがなく終わりを迎えた。
いつもなら、ここらで悪の組織を名乗る邪魔者達が乱入して一騒ぎ起こすところだ。
ガラル地方は他地方に比べて治安がいいのだろうか。いや、そもそもそんな騒ぎが起こることが稀なのだ。イレギュラーに慣れすぎて普通の感覚を忘れてしまっているようだ。
そんな自分に呆れてしまう。
一つ物思いにふけっていると、マスターがカップを拭いている音が聞こえてくる。ふとグラスを揺らすとからんと氷がぶつかる音が響く。
そうここは昨日ダンデに連れられてきた店だ。
ただ雰囲気は昼間に比べて、夜の妖艶さが加わりBARのような感じになっている。
普段は研究所に篭りぱなしの身なので、このような店に来るのは慣れていないのだが悪くない。人は来ず、飯も飲み物も美味い。静かに1人の夜を過ごすには、こんな理想的な場所はない。
……故に彼がなぜ、あそこまで追い詰められているのかも分かってしまった。
がらりと店のドアが開いた。
ぴったり時間通り。私は後から来た人に顔を向けて。
「今度は遅れなかったようですね、ダンデ」
「はは、それを言ってくれるな。俺だって悪かったと思ってるんだから」
困ったような笑みでダンデは頭をかく。
謝罪の気持ちがあるのは理解しているが、私だって何時間も生殺し状態にされたのだ。このくらいの嫌味は許容しろ。本当なら初対面の時に言ってやりたかったのだが、子供達の前で喧嘩腰になるのは良くないと自重したのだ。むしろ感謝してほしいくらいだ。
ダンデは私の隣に座ると、慣れたようにサイコソーダを注文する。
やはり夜にも何度も通っているようだ。この店は昼と夜でメニューが違う。サイコソーダは夜に提供される唯一のソフトドリンク。彼の職業上か性格上かは知らないが、酒を飲まない常連なら自然と出る注文である。
少しして氷が入ったグラスのサイコソーダが出された。
場が整ったと理解したのか、ダンデはさっそく聞いてくる。
「それで、何で俺を呼び出したんだ? わざわざメールじゃなくて、直接会いたいってことはそれなりのことなんだろ?」
「ええ、まあ。下手にメールなどして第三者に会話が漏れでもしたら面倒ですから」
「マスターにはいいのか?」
「大丈夫でしょう。この話を聞いてマスターが吹聴するメリットがありません。あなただって、マスターを信頼しているからここに通っているのでしょう?」
「その通りだ」
からりと笑う。観衆の前の時の笑顔はチャンピオンとしての笑顔だったが、この笑顔はダンデのものだろう。
「話というのは簡単です。先日ソニアから相談されたんですよ、あなたの様子がおかしいとね」
「ああ、そう言えば言われたな。ダンデくんがあんなに迷いなく道案内できるはずがない! 大丈夫、頭でも打ったの? 病院行く?って」
けっこう辛辣な言葉をかけているな。本当に心配してるのか?
私の考えを読んだのか、ダンデは苦笑を浮かべ。
「ひどいだろ? しかもそれを本気で心配そうに言うんだから余計にだ。まあ、俺の方向音痴でソニアには子供の時から迷惑をかけているからな。仕方もないか、はっはっはっ」
本人も方向音痴を認識しているらしい。
克服しろとも思うが、自分が未だにもふもふポケモンに目がないことを思い出して頭から消した。体質は仕方ない。手の平くるっくるっだ。
「でも、そんな風に純粋に人を心配できることがソニアのいいところだからな」
「そうですね」
「だが、今回は杞憂だ。俺はどこも悪いところはないぞ。この前の健康診断も異常がなさすぎて、医者に驚かれたくらいだからな」
「でしょうね、身体は悪くないのでしょう。むしろ身体の調子が悪いのに放って置いたら、正気を疑いますよ」
そう言いながら、研究所の仕事中毒者たちを思い出す。毎度栄養失調で運び込まれるのはやめてほしい。役所の調査が年々厳しくなっているのだ。調査官を丸め込むこちらの身にもなってほしい。
「なんだ? その言い方じゃ、まるで身体以外は悪いみたいじゃないか?」
「その通りですよ。ダンデ……
ーーーあなたは心を病んでいます」
□
私の言葉に意味が分からないとばかりにダンデは数秒固まった。そして、からりと笑い。
「はは、なんだそれ。カントージョークか? あまりに迫真に迫ってるから一瞬信じそうになったぞ」
「ジョークではありません。まだ初期段階ですが、あなたはたしかに心を壊し始めてる」
「……何を根拠に?」
眉をひそめて聞いてくる。どうやら、自分に異常があるなど断固認めないつもりらしい。
私はバッグからタブレットを取り出して、とある動画をダンデの前に映し出す。
「……これは、俺とキバナのトーナメントの試合か?」
「ええ、そうです。あなたのライバルであるジムリーダーキバナが、初めてあなたを追い詰めた試合。このバトルをきっかけにキバナは最強のジムリーダーと呼ばれ、あなたの無敗神話を破るのに最も近いトレーナーと呼ばれるようはなりました」
「その通りだ」
「しかし、本当にそうなのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
「あなたのバトルと一緒にキバナのバトルも少し調べました。そこで一つ疑問が沸いたんです。あなたの実力はおそらく他の地方のチャンピオンと比べても遜色ないでしょう。しかし、キバナはシングルバトルでは一般的なジムリーダー級の実力だ。正直、あなたを追い詰める実力があるようには思えない」
「……要するにオレンジは俺が手加減していたと言いたいのか?」
声が鋭くなる。
当たり前だ。彼はチャンピオンであり、ポケモンバトルのプロだ。誇りを持ってやっていることを馬鹿にされたと受け取ったのだろう。
「違いますよ。意図的に手加減したなど、毛ほども思ってません。むしろ、無意識だから問題なんです」
私は動画を一度閉じて、ダンデを見る。
「ダンデ、あなたは根っからのエンターティナーだ。しかし、同時に無敗のチャンピオンでもある。そのためにあなたは負けられない。しかし、客と言うのはスリルが大好物だ。あなたの試合は常に圧倒的であり、番狂わせなどあり得ない。世間はあなたを最強のチャンピオンだ、英雄だと囃立てるでしょう。しかし、その裏にはあなたの負ける姿を期待している人も一定数いる」
彼の論評で、『チャンピオンの唯一の欠点は負けないことだ』、『結果の決まっている勝負は面白くない』と書かれているものが多数あった。
要はチャンピオンに不満はない、しかしつまらない、という矛盾が世間の深層意識には多少あるのだ。
私には有名人がファンの意見をどう受け止めているのかなんて分からない。しかし、実際に影響が出ているということは、ダンデもそういう意見があることは理解しているのだろう。
いや、もしかしたらスタジアムの空気で何となく察したのかもしれない。その方がキツイ。
「その結果、あなたは無意識にキバナとのバトルで手心を加えた。接戦を演じる事で、ファンが喜ぶようなドキドキハラハラの試合をしてみせた。その結果、そのバトルは名勝負として語り継がれることになった。あなたは全力でやっていないのに」
「……根拠は?」
「この動画で見るだけでも16回、相手のポケモンを戦闘不能にするチャンスを見逃しています。他にもりゅうのまいを積めるタイミングで使わなかったり、不自然なくらいに勝つ気が感じられませんでした」
むしろ手加減していてもそれだけチャンスがあると言うことは、チャンピオンとその下との実力差はかなりあるということだ。
ガラル地方は新興リーグで、ローズ委員長の元ここ数年で急成長している、いわば発展途上だ。
それなのにポケモンリーグとしての人気は他地方にひけを取らない。興行的にも大成功していて、注目度はものすごく高い。
その歪みがダンデを追い詰めてしまったのだろう。
「そうか……」
ダンデは顔を歪ませて打ちひしがれていた。
おそらく、本人も薄々気がついていたのだろう。そうじゃなければ、今頃激怒されてもおかしくないくらいには失礼なことを言っている。
「……初めて違和感を覚えたのは半年前だ」
「自分の心のズレを感じたのがですか?」
「いや、ファンのみんなが俺が負けることを望んでいることに気がついたんだ。ヤローさんと試合している時、少しヤローさんのポケモンが優勢になったんだ。そうなった途端、観客が沸いたんだ。そして、一斉にヤローさんを応援し始めた」
その試合は確認した。たしか、3対3の試合。ヤローとダンデの残りポケモンが同数の場面での話だ。
その程度で番狂わせを期待するのだから、ダンデの実力の突出度が分かる。
「その試合は結局勝ったんだが、その時の観客のため息は今でも耳に残ってる。あの時理解したよ、俺は応援されていると同時に負けることも期待されているんだって」
「トップ選手の宿命……だと割り切れれば楽なんですがね」
「はは、そうだな。だが、そうもいかない。俺だって、1人の人間だ。そんなことがあればショックも受けるさ」
当然、それが人間だ。
「それから、その時のことがずっと頭を離れなくてな。それでキバナとのバトル、観客の空気がヤローさんとのバトルの時と同じなことに気がついた」
彼は前にも言ったように根っからのエンターティナー。観客の期待に、身体が反応してしまうのだ。
「でも、負けることはできない。なぜなら、俺は無敗のチャンピオンだからだ」
観客の期待に応えなければ、しかし負けるわけにはいかない。その相反する気持ちは、負けない程度の手加減という形で現れた。
だが、彼は同時に手加減を知らない男としても有名だ。前にテレビ企画で人気俳優とポケモンバトルをするという企画で、ハンデがありながら俳優をボッコボコにしたのは有名な話らしい(ソニア談)。
言うなら、彼は無意識に自分の信条までも曲げてしまったのだ。
今はいい。しかし、その歪みは猛毒のようにだんだんと彼の心を蝕んでいく。
「最初は普通にバトルしようと思っていた。だけど、チャンスだと思い技を指示しようとすると、思考が固まったんだ。そして気がつけば、まったく違う指示をポケモンにしていた。これが何度も続いて、かろうじで勝つことができた。俺としては最低のバトルだと今でも思ってる。でも、ファンは名勝負だって言うんだ。……正直、俺は何でバトルしているか分からなくなったよ」
純粋にバトルが好きで常に全力でバトルに勤しんだ結果が否定、手心を加えた最低のバトルでは全力の称賛。……本当に観客は勝手だ。
ダンデは一通り話し終えたのか、私の方を見てにかりと笑い。
「ここまで腹を割って話したのはオレンジが初めてだ。少し楽になったよ」
「それはよかった」
「立場上弱音を吐きにくいからなぁ。マスターはいてくれるだけで、話は聞いてくれないし」
「……それは仕事じゃないんでね」
マスターはボソリと言った。
むっすりと言う姿がおかしくて私とダンデは笑い合ってしまう。
一頻り笑った後ダンデは改まって聞いてくる。
「なあ、オレンジ。無茶なお願いをしていいか?」
「ほう。私はあなたに一度裏切られたのですが、そんなあなたが私にお願いできるとでも?」
「それはもう忘れてくれ。あの時はソニアに電話口で散々怒られたんだ」
どうやら、ソニアは私との約束を守っていたらしい。まあ、元から疑っていないが。
「それで、お願いとは?」
「聞いてくれるのか?」
「内容によります。無茶なお願いと前振りがあるので、拳だけは準備しておきますよ」
シュッシュッとシャドーボクシングをして見せる。
「何簡単なことだ。俺とバトルしてくれないか? もちろん6対6のフルバトルで」
ずっとむっすりとしていたマスターが吹き出した。
「なんだそんな事ですか。いいですよ。いつですか?」
何言ってんだこいつ!? とばかりに目を見開かせたマスターが私を見てくる。
「意外にあっさりだな。てっきり、オレンジはもうバトルをする気がないと思っていたが」
「表舞台に出るつもりはありませんが、野良バトルなら友人とよくやってますよ。よく地形が変形するので、場所を選ばなければなりませんが」
「はっはっはっ。やんちゃだなぁ」
いや、それで済ませていいのかよ!? というマスターのつっこみが聞こえるような気がした。
「それなら場所はエンジンスタジアムがいいかな? カブさんに頼めば使えるはずだ」
「倒壊したらあなたが弁償してくださいね」
「任せろ。これでも稼ぎはあるからな」
マスターは反応しない。もはやこれは酒の席のジョークだと考えるようにしたようだ。
2人とも素面だけど。
「それじゃあ、時間は明日の夜、場所はエンジンスタジアムで」
「手加減は無用ですよ」
「分かってるさ。じゃあ、俺は今から色々準備があるから失礼するよ」
「お金はこちらで払っておきますよ。昨日奢ってもらったお返しです」
「ありがとう」
そう言ってダンデは店から去っていった。
店の中に残されたのは私とマスターだけ。私がサイコソーダをごくりごくりと飲んでいると。
「……お客さん。あんた何者なんだい?」
どうやら、チャンピオンダンデとの話やらバトルの約束を取り付けた事で、マスターの興味をひいてしまったらしい。
しかし、何者なんだいと聞かれてもこれしか言えない。
「私はただの研究者ですよ」
嘘つけ!? と遂にマスターから言葉でつっこまれてしまった。
□
ダンデは珍しく笑っていた。
いや、普段から彼は笑っている。ファンのために兄弟であるホップのために太陽のような笑みを浮かべている。
しかし、今の笑顔は違う。
野生の獣のような獰猛な笑みだ。
リザードンは自分の上に乗った主人が昔の表情になっていることに気がついた。
そう、子供の時のダンデはよくこの目をしていた。
まだ弱かった頃の彼がよく見せていたのたが、強くなることと並行して目が優しくなっていったのだ。
否、正確には強くなるにつれて獰猛な笑いをする必要がなくなっていったのだ。
リザードンは思う。
久しぶりに強い相手と戦えるのかと。
「オレンジ……。あの時のガブリアスを見ただけで分かる。あいつは俺より強い」
強者は強者を知るという。
それは自分という強者の見続けたが故に、相手の強さが図れるようになっていったのだ。
そしてダンデは初めて明確に自分よりも強いと思える相手と出会った。
「リザードン……。久しぶりに楽しくなるぞ」
「ガァァァァ!」
そう言うダンデの声は、遠足が待ちきれない子供のようだった。
簡単設定シンオウ編。
オレンジ
なんやかんやでホウエン地方を大災害から守ることに成功。
その後は一年くらい研究を続けていたが、ある時シンオウ地方に拠点を置くナナカマド博士に研究のお手伝いをすることを依頼される。内容は考古学者であるシロナの遺跡調査に同行してほしいと言うものだった。なぜなら、オレンジはスイクン(初出し)の主人だったり、レックウザを従えたり(一時的に)と伝説のポケモンとの縁が深いことがりゆうだった。
以前からシンオウ地方のポケモンに興味があったオレンジはそれを二つ返事で了承し、シンオウ地方へ。
シロナ事態がチャンピオン業もあり忙しいので、遺跡調査は不定期。その間は自由に動き回っていいという条件だった。
そこで、ナナカマド博士の助手であるヒカリと行動を共にすることに(案内とヒカリの勉強として)。
その後、ヒカリの願いで子弟関係になる。
ポケモンは、エーフィ、ウィンディ、ピチュー。
性格は完全に今と同じ。
ヒカリ
父の影響で何となく助手をやっていたが、自分の進む道に迷っていた。そんな時、幼馴染みのジュンとコウキが楽しそうにしている姿に感化され、自分もジムバトルに挑戦することを決意する。
性格……とっても素直。天然なところもある。少し泣き虫なところがあったが、成長するにつれてそれも無くなってきた。料理、おしゃれ好き。ホラーが苦手。口癖は大丈夫。
オレンジ的には初めてまともな人間が旅の同行者になった喜びで、可愛がりまくった。今でも妹のように思っている。
ガブリアス
後のオレンジのエース。
弱いという理由でガバイトの頃とある山に捨てられる。その後、やけになって山賊のようなことをして暴れたいたところを、噂を聞いたオレンジが制圧に行った。そこでウィンディにフルボッコにされプライドをへし折られる。
その後、一時的に保護するという名目でオレンジのパーティーにいたが、オレンジに心を開き正式な仲間に。
カントーに帰った後、ウィンディとの一騎打ちで勝利し、オレンジのパーティーのエースを勝ち取った。
ナナカマド博士
ポケモンの進化についての第一人者。
ヒカリ父
娘が、オレンジの話しかしなくて凹んでいる。めがね。
シロナ
見た目は100点、中身0点を体現したような人間。シンオウについて最初の1週間は一緒に過ごしていたが、オレンジに甘えまくってお世話がかりのようにしていた。
オレンジ的にはワタル並みにウザいとのこと。
なお、本人はオレンジなら処女あげていいだの寝言を言っているが、オレンジには冷たい瞳で断られた。
コウキ
努力家の少年。ヒカリに淡い気持ちを抱いている。そのためオレンジを敵視するが、つっかかるたびに遊ばれて泣いて去る。実力はなかなか。
ジュン
せっかちな少年。面倒見がよく、3人の中では兄的なポジション。コウキの気持ちには気がついていて、よく相談に乗っている。
アカギ
電波。ギンガ団のボス。
見たいのは?
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オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
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オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
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オレンジが女の子だったら
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オレンジの日常