トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
初めて彼の顔を見たのは、写真だった。
リーグ委員会の役員からこの人の迎えと案内を頼むと言われた時に受け取ったのだ。
失礼な話だがこの話を告げられた時は俺がやる仕事なのか? とも思った。
そして何やら彼はカントーで著名な研究者の使いの者だから、失礼のないようにとも言われた。俺は自他共に認める方向音痴だ。時間通りに着くはずもないのに、役員達は何を考えているのか。
いや、分かってる。ローズさん以外の役員連中は俺をチャンピオンから降ろしたがっている。だから、他地方の客人相手に失礼を働かせて世間の俺の評判が落ちることを狙っていたのだ。
……まあ、そこまで分かっていながら案の定遅れる俺も俺だがな。
結局、ソニアにまた迷惑をかけた。すごく怒られた。
そのカントーからの客人も怒ってはいたけど、ソニアが謝って許してもらえたらしい。大事にはするつもりはないとも言われた。
だが、なぜか俺は少しがっかりしてしまった。
今思えば、俺はこの時からだいぶ参っていたのかもしれない。
初めて顔を合わせたのはエンジンシティだった。
ソニアから彼がユウリのバトルの師匠になった話を聞いていたから、少しはバトルの腕が立つ人物なんだなとは思っていた。
しかし、そんな甘い推量は彼のガブリアスを見た途端に変わった。
一目見ただけで理解できた。あのガブリアスは俺のどのポケモンよりも強いこと。そして、そのトレーナーは俺よりも強いと。
その後、そのトレーナーが俺が迷惑をかけたトレーナーだと聞いてかなり後悔した。
ぜひバトルしてみたいと思ったが、公的な約束をバックれた人間の頼みなど聞いてはもらえないだろう。俺だってふざけるなと思う。
そして、この時俺はあんなくだらない謀略を仕掛けてきた役員共に殺意が湧いた。
しかし、覆水盆に返らず。俺は彼とバトルすることを半分諦めていた。
だから、彼から連絡が来た時は驚いた。
たしかに連絡先は交換していたが、本当に連絡してくるなどかけらも思っていなかったからだ。
その後俺の行きつけの店に呼び出された。そこなら俺が迷わないだろうからと。
チクリと皮肉を混ぜられ苦笑を浮かべた。
その後、俺の心の歪みを言い当てられたのには驚いた。
なんせ同僚どころか家族にも悟られていなかった程度の誤差だ、自分でも最近自覚してきたものを的確に指摘されさらに驚いた。
その時、彼とバトルしてみたいという気持ちが再度湧いてきた。
そこで俺はダメ元のつもりでバトルすることを願い出てみた。
……あっさりと承諾されて拍子抜けしてしまったが。
そして今、俺は最高の気分だった。
劣勢、明らかにレベルの足りないポケモンを出され、自分のスタイルまで崩されてなお、気持ちは晴れやかだ。
これだ、俺が求めていたものは。負けるかもしれないギリッギリのバトル。
別にチャンピオンとして挑戦者の壁となることが嫌いになったわけではない。ただ、毎日三つ星レストランの料理が出されても同じ味では飽きてしまうのと同じで、(傲慢だが)負ける気がしないチャレンジャーの挑戦ばかりでは退屈してしまうのだ。
しかし、ここで俺の強欲なところが出てしまった。
良いバトルができれば満足なはずだった。だが、それだけでは足りなくなった。
勝ちたい。
オレンジに勝ちたい。
無敗のチャンピオンという肩書やガラル中のファンの夢など関係なく、俺という1人のトレーナーとして心の底からそう思った。
□
「行きなさい、エーフィ!」
「フィー!」
私が繰り出したのはエーフィ。エスパータイプだ。
「ほう、エーフィか。珍しいポケモンだな」
「この子は私の1番な相棒です。油断なきよう」
「……おもしろい」
噛み締めるように小さく呟いた。
そしてダンデはどうやら交代はせず、オノノクスのまま行くようだ。オノノクスはかなりダメージが溜まり、その上状態異常にもなっている。私はてっきり1度交代させるものだと思っていた。
何か狙いがあるのか?
「オノノクス、ギガインパクトだ!」
「ノノグスッッ!」
白い螺旋のエネルギー体を纏った状態で突っ込んでくる。
どうやら小細工なしで自慢のパワーで押し切るつもりのようだ。
「なめるな。エーフィ、サイコキネシス」
「フィーア!」
オノノクスは青いエネルギー体に抵抗も出来ず動きを止められる。
メタグロスならば突破できたかもしれない。しかし、私のエーフィのサイコパワーはメタグロスの数倍ある。突破したければりゅうのまいを5回は積んでから出直してきて欲しい。
「そのまま地面に叩きつけなさい!」
「フィア!」
首をぶんと下に振ると、地面が砕ける轟音が響いた。
「オノノクス、戦闘不能! エーフィの勝ち!」
「よくやりましたエーフィ。次もお願いします」
「フィア」
表情を変えずにうなづいているが、尻尾をぶんぶん振っているから感情が丸わかりだ。可愛い。
対するダンデは自分のポケモンがあっさりと倒されたのにも関わらず、悲観した様子はなかった。
気味が悪い。こういう時は何かしら仕掛けてくる可能性が高い。警戒しておこう。
「行くぞ! バトルタイム、ドラパルト!」
「パルッド!」
……何だあのポケモンは?
小さなヌメルゴンのようなフォルムで頭は戦闘機のような形。
初めて見るポケモンだ。おそらくガラル地方にしか生息していない。
チャンピオンが使用するということは優秀な種族値をしているのだろうが、タイプや特性が分からない。見た目からしてドラゴンタイプだろうか?
くそ、こういう時トレーナーでない弊害が生まれる。トレーナーならば図鑑が支給されるから、調べることができるのに。
ともかく探り探りやっていくしかないか。
「エーフィ、でんげきは!」
「フィーアアア!」
「パルッ」
ドラパルトは青い電撃をまともに受ける。しかし、目を瞑っただけで大して効いた様子はない。
やはり、予想通りドラゴンタイプを含んでいる可能性が高い。
では複合タイプなのか単体なのかが気になるところだ。
「エーフィ、シャドーボール!」
「かわして、りゅうのまい!」
「パルパルパァ!」
速いっ!
ドラパルトはあっさりと黒い球体をかわして、りゅうのまいでステータスを上昇させた。
素早さはかなりあるようだ。
それなら、かわせない状況を作るまで!
「エーフィ、足下にシャドーボール!」
「かわせ」
予想通り次の動きができるように横にかわす。
「そのシャドーボールをサイコキネシスで曲げなさい!」
「なんだと!? くっ、かわせドラパルト!」
直線の軌道からスライダーしてきたボールをドラパルトはかろうじでジャンプしてかわす。
だが、それは空中だ。飛べない限り、かわすことさできない。
「そこです! エーフィ、シャドーボール!」
「フィア!」
「ドラパルト、ゴーストダイブ!」
「っ!? ゴーストダイブ!?」
ドラパルトが影に隠れたところを、シャドーボールが素通りする。
まさか複合タイプの上に、ゴーストタイプとは。エーフィには相性が悪い。ドラゴン・ゴーストにゴーストダイブとは、まるでギラティナの下位互換のようなポケモンだ。
とりあえず、影に隠れられてしまえば、こちらの技はなかなか当たらない。
影から出てきたところを狙い撃ちするのがベターだ。
「エーフィ、影から出てきたところを狙います。準備してください」
「フィア」
こくりとうなづくと、エーフィはダンデに勘付かれないようにみがわりを使う。
あとはみがわりに気がつかずに攻撃したところにシャドーボールを撃てばいい。
「いまだ!」
ダンデの掛け声と共に、エーフィの右後ろ足側からドラパルトが飛び出してきた。
「フィー!?」
しかし、それはみがわり。ダメージを与えれば消える……。
「フィ……フィア」
「消えない!?」
私の目の前には苦しそうに倒れ込むエーフィの姿があった。
どうやら攻撃を受けたのはみがわりではなく本体のようだ。
どういうことだ? たしかにゴーストダイブはまもるなどを貫通する特性を有しているが、みがわりは関係ない。ということは、ポケモン自体の特性に関係があるのか?
「すりぬけ、それに類似する特性を有しているのか」
「ご名答。ドラパルトの特性はすりぬけ。みがわりは無効になるぞ」
やはりそうか。
厄介なポケモンだ。ドラゴン・ゴーストと珍しい複合タイプに高い種族値、その上まもるやみがわりを無効化することも可能ときている。なにか欠点がないか、どのような生態系で過ごしているのか、調査してみたい。
ここで第一声が調査してみたいと思うところをみると、やはり私は根っからの研究者のようだ。
「エーフィ大丈夫ですか?」
「フィー!」
エーフィは力強く鳴く。まだやれると言わんばかりに。
ある程度情報は集まった。一度交代するのもありだが、それはエーフィのプライドが許さないだろう。
残りの体力は少ないが頑張ってくれ。
「ドラパルト、これで決めるぞ! ゴーストダイブだ!」
「パルパル!」
ドラパルトはまたも影の中に姿を隠す。
あのポケモンの素早さはかなり高い。後出しでは避けきれない。ならば、相手の居場所を見破るしかない。
では、どうするのか。その鍵はゴーストダイブという技の特徴にある。
「エーフィ、フィールド全体にでんげきは!」
「フィアアア!」
電撃はまるで雨のようにフィールド全体に降り注ぐ。
これはでんげきはを威力を捨てて範囲を最大限まで広げたバージョンだ。
そして、元々必ず命中するという付随効果があるこの技は包囲網のようにドラパルトを襲う。
なぜなら、ギラティナが使うシャドーダイブは別次元に隠れてしまう技だが、ゴーストダイブはただ影に隠れているだけ。いうなら特殊なフィルターがかかり視認できないだけなのだ。
「これはっ」
ダメージとしてはタイプ相性もあり静電気レベルだろうが、集まった電気はドラパルトの形となって、姿を表してくれる。
右後ろだ。
「エーフィ、電撃が集まった場所を狙いなさい! シャドーボール!」
「フィーア!」
「ドラパァァァ!?」
ゴーストタイプにゴーストタイプの技はこうかばつぐん。威力に押されたのか、ドラパルトは後方に吹き飛ばされ地面を転がる。
「追撃です! シャドーボール!」
「フィア!」
「ドラゴンアローで弾け!」
「パル……パルッ、パルッ!」
ギリギリで体勢を立て直したドラパルトはシャドーボールを上空に弾き飛ばす。
余裕がなくその方向になってしまったのだろうが、それは悪手だ。
なぜなら、上空にはサイコキネシスで飛んでいるエーフィが待ち構えている。
しかし、ダンデの目の前には地面に立つエーフィがいる。
「なんだと!? なら、あのエーフィは!?」
「お忘れですか? いたでしょう、すりぬけで攻撃されずに残されたみがわりがね」
本来の用途とは違うが、リサイクルだ。騙し討ちに利用させてもらう。
「エーフィ、飛んできたボールをしっぽで叩きつけなさい!」
「フィーア!」
エーフィは一回転して勢いづけたしっぽで、黒い球体を打ち付けた。球体はメテオのようなスピードで落下し、ドラパルドは避ける間もなく直撃した。
砂煙がおこる。晴れると目を回したドラパルトが倒れていた。
「ドラパルト、戦闘不能! エーフィの勝ち!」
「……よく頑張ったドラパルト。ゆっくり休んでくれ」
「よくやりましたエーフィ」
「フィ、フィ……フィーア」
エーフィは肩で息をしている。それだけ追い詰められたということだ。
相性や情報で遅れを取ったものの、はじめの推量ではここまでてこずるものではなかった。
いや、最初の1体目、2体目は確実にダンデの実力はその程度だった。ポケモンの能力任せの単調なバトル。それが今ではしっかりと戦略を練って全力で私のポケモンを倒しにきている。
今思えば、オノノクスのギガインパクトもエーフィを倒すための方針決めのためと考えればしっくりくる。行き当たりばったりの搦手でなく、しっかり方針を持った搦手だったことが何よりもの証拠だ。
……成長している。この短期間で恐ろしい速度で。
私は無敗のチャンピオンの才能を少し甘くみていたのかもしれない。
彼は叩けば叩くほど成長する。
ならば、今私がやるべきは、彼を持てる力の限り叩き潰すことなのかもしれない。
□
「お疲れ様ですエーフィ。休んでいてください」
オレンジはエーフィをボールに戻す。息を切らせていたのを見れば妥当な判断だ。
その時一迅の風が吹いたような感覚をカブは覚えた。しかし、このスタジアムは密閉されていて風なんて入ってこない。
辺りを見回すとその理由が一目で理解できた。
オレンジの雰囲気が変わったのだ。まるで全てを悟った仙人のような穏やかな雰囲気は、獲物を見定める殺し屋のようになっていた。
そうカブが感じたのは風ではなく、寒気だったのだ。
「ダンデ。あなたに一つ謝罪させていただきます。私は少々あなたをみくびっていたようだ」
言葉の一つ一つが重力を持っているかのように、カブの足が重くなっていく。
その現象が何かすぐに理解できた。
重圧だ。
「ここからの私はあまり優しくありません。全力でやらなければ、
ーーー死にますよ?」
数十年のトレーナー人生の中で一番の恐怖だった。後にカブはそう語った。
□
久しぶりにバトルに殺気を孕ませてみたが、間違いではないと思えた。
なぜなら、ダンデは笑っているからだ。まるで楽しんでいたゲームの隠し要素を発見した子供のように無邪気な笑みだ。
末恐ろしさと同時に頼もしさを覚える。
「行きなさい。ウインディ!」
「ガアウァ!」
私が繰り出したのはウインディ。私が初めてゲットしたポケモンであり、元エースでもある。ただ、現エースのガブリアスに敗れてその座を譲ったが、タイプ相性も考えれば実力は十分である。
ウインディは私の雰囲気の違いを悟ったのか、黙ってうなずき唸った。
「俺はこいつだ。バトルタイム、ドサイドン!」
「ドッサイ!」
ダンデが繰り出したのはドサイドン。じめん・いわタイプで、ウインディとは相性がかなり悪い。
しかし、問題ない。チャンピオン、シロナのガブリアスすら子供のように扱えるウインディだ。ドサイドンとも戦える。
「ドサイドン、ストーンエッジだ!」
「ドッサイ!」
星の軌道にのる衛星かのように、ドサイドンの周りを無数の岩が回転する。そしてそれを打ち出すと、ウインディの四方八方を覆い尽くした。
「しんそくで回避しなさい」
「ガアウ!」
岩の僅かな隙間をまさに消えたかの如くスピードで走り抜ける。
「そのまま、だいもんじ」
「ガアアウ!」
『大』の字型の炎がドサイドンへと向かっていく。
しかし、炎はドサイドンではなく、ドサイドンの足下の地面に命中した。燃え盛る炎が壁となってドサイドンに立ち塞がる。
予想外の事態にドサイドンは困惑して立ち往生している。
「そこです。フレアドライブ!」
「ガアアアァァウンッッ!」
炎を纏ったウインディが炎の壁を突っ切った。
壁を突っ切ると纏っていた炎は数倍に膨れ上がり、ドサイドンを飲み込んだ。
これはウインディの特性もらいびを利用した戦法で、炎の壁を突き破ることで炎技の威力を数倍にできるのだ。
「ドサイドン!?」
「……ドッサ」
かろうじで生き残ったようだ。
ドサイドンは膝をついて肩で息をしている。身体にはところどころ焦げた痕が付いていた。
「頑張ってくれドサイドン! がんせきほうだ!」
「ドッサアアア!」
「焦りましたね。ウインディ、しんそくでかわしなさい」
一直線に飛んでくる巨大な岩の塊をウインディはあっさりとかわす。
そしてがんせきほうは反動でしばらく動けなくなる、いわば諸刃の剣。使うタイミングが迂闊すぎる。
「だいもんじ!」
「ガアアウ!」
『大』の字型の炎が向かっていき。けして速くはない、だいもんじは元々命中率が良くない技だ。
しかし、動けないドサイドンはかわすことが出来ずに炎が直撃した。
竜巻状の炎が巻き起こる。炎が四散すると中から黒焦げのドサイドンが現れた。
「ドサイドン戦闘不能! ウインディの勝ち!」
「よく頑張りましたウインディ」
「ガアウ」
対するダンデは顔が強張っている。この土壇場での判断ミスは流石にショックを受けているようだ。
「……すまないドサイドン。俺のミスだ。ゆっくり休んでくれ」
ドサイドンをボールに戻した。
並の人間なら心が折れてしまう場面だが、彼が並なわけがない。
ダンデは顔をパンッと両手で叩いた。そして私を睨む。目は死んでない。むしろ追い詰められて、凄みが増したようにも思える。
「フェアじゃないから本当は使うつもりはなかったんだがな……」
ダンデはボールを構えて。
「行け。バトルタイム、リザードン!」
「ガアァァ!」
リザードン。ほのお・ひこうタイプ。カントー地方の御三家ポケモンであり、ダンデのエースポケモン。
しかし、どうやらそれだけじゃないらしい。
ダンデの手首につけているリストバンドが薄赤いエネルギーを帯びている。
「全力全霊で行かせてもらう! キョダイマックスタイムだ!」
リザードンをボールに戻すと、そのボールはリストバンドのエネルギーが蓄積され巨大化した。ダンデはその巨大化したボールを投げ出した。
「ガアァァァァ!」
出てきたのは怪獣のような巨大化したリザードン。羽はファイヤーのように炎を纏っている。
これがダイマックス現象。そしてキョダイマックスとは、特定のポケモンがダイマックスした時になる姿で、なぜそうなるかはまだ研究が進められているところである。
映像では何度もみたが、目の前で対面してみるとやはり迫力がある。
その内私もダイマックスを使ってみたいものだ。生憎ダイマックスをするためにはダイマックスバンドなるものが必要で、そのバンドはガラルリーグの挑戦者にしか配られていないのだ。
「なるほど、これはこちらも出し惜しみしていられませんね。戻りなさいウインディ」
普段感情を表に出さないウインディなのだが、この時ばかりは少し残念そうにボールに戻った。
というか、私のポケモンたちバトルがしたすぎる。オーキド博士に頼んで今度ガス抜きをしてもらおう。
「出番ですよ、ガブリアス!」
「ガバァ……ガバァ!?」
ガブリアスは目の前に見える巨大なリザードンに目を飛び出して驚いた。
「何を驚いているんですか。あのくらいの大きさウルトラネクロズマとの戦いの時にも経験したでしょう?」
「ガバァ……」
そう言われても……と言いたげだった。
まったく情けない。たしかにあの時は少し死にかけたが、何とか倒せただろうに。
「ちなみにこの勝負に負けたら、あなたエースを剥奪でウインディと強制交換しますからね」
「ガバァ!?」
「マジです。大丈夫ですよ、こちらも全力でやりますから」
私はメガリングに二本指をかける。
「限界突破! 進化を超えろメガシンカ!」
メガシンカの光に呼応するように、ガブリアスの身体も光を帯びる。そして光が散ると姿が変わったガブリアスが現れた。
「ガバアアァァ!」
「……これはなんだ!?」
カブが審判の仕事も忘れて声を上げる。
まあ、無理もない。メガシンカはガラルには伝わっていない力だ。管理してるメガシンカおやじも、あまり表には出したがらないから認知度も低い。
しかし、ダンデはあまり驚いた様子はない。
「聞いたことがある。カロス地方に伝わる古代からの力。その力の源は絆」
「ご名答。まあ、私とガブリアスに絆はありませんが」
「ガバァ!?」
ひでぇ!? と言いたげに鳴いた。
「はっはっは」
その様子を見てダンデは笑い出した。
「なるほど、君たちの絆は相当だな」
「……ふっ」
私は何も答えない。
ガブリアスのおねだり目線が気持ち悪いからだ。なんだその素直になれよと言わんばかりの顔は。
「さあて、夢の対決といこうじゃありませんか。キョダイマックスVSメガシンカ。こんな対決は初のことでしょうから」
「はは、スタジアムが無事でいられるかな?」
「大丈夫でしょう。……多分」
私の自信なさげな返答に、カブが苦笑を浮かべた。
「まあいい、始めよう! リザードン、キョダイゴクエン!」
「ガアァァ!」
「ガブリアス、ドラゴンクロー!」
「ガバァァァ!」
ビルを飲み込むような巨大な炎とガブリアスの光る両腕がぶつかり合った。
あまりの衝撃に客席がビリビリビリと揺れた。カブも手で顔を守っている。
威力はガブリアスが勝った。
「まだまだ! どんどん行くぞ。リザードン、ダイロック!」
「ガアウ!」
地面から柱状の岩がいくつも生えてきながらガブリアスに向かってくる。
飛んで逃げるしかないように思えるが、それをすれば炎の餌食になるだけだ。ここで正解は前に進むことだ。
「ガブリアス、突っ込みながらドラゴンクローで岩を砕きなさい!」
「ガバァ、ガバァ、ガバァ!」
突破したガブリアスはリザードンの懐に入り込む。
「ストーンエッジ!」
「ガブリァァ!」
「ゴガアァ!?」
無数の岩が至近距離から直撃したリザードンは、ドシンドシンと巨体を後退させ斜め方向の客席に倒れ込んだ。
ミシミシミシと客席が潰れる生々しい音が聞こえる。
……人がいたら大惨事だったな。
そしてふとカブを見ると白目を剥いて今にも倒れそうだった。ご冥福してください。
「大丈夫か、リザードン?」
「ガアゥ」
いくらキョダイマックス化しようとも、メガシンカしたガブリアスのストーンエッジが至近距離から直撃したのだ。一撃で戦闘不能になっていてもおかしくない。
証拠にリザードンはすでに息が上がっている。限界が近い。次が最後のぶつかり合いになるだろう。
ダンデも察したのか、覚悟を決めた顔をしている。
「リザードン、全ての力を出しきれ! キョダイゴクエン!」
「ガアアアァァァァッッッ!!」
「ガブリアス、これで決めますよ。ギガインパクト!」
「ガバアアァァァァッッッ!」
つい先程よりもパワーを上げた巨大な炎と、大きな螺旋状のエネルギーを纏ったガブリアスがぶつかり合った。
「ガアアァァァァァァ!」
「ガバアァァァァ!」
「ガアウ……ッッッ!?」
「ガバアアアアァァァァァァァァァッッッ!」
競り勝ったのはガブリアスだった。
ガブリアスは炎を貫き、リザードンにギガインパクトを叩き込んだ。炎とギガインパクトのエネルギーとが混ざりぶつかり合い、フィールド全体を飲み込んでドーム状に拡張し、最後には四散した。
すると、中から小さくなったリザードンが目を回した倒れていた。
呆然としていたカブは我に帰り。
「リザードン戦闘不能! ガブリアスの勝ち! よって勝者オレンジ!」
カブがそう言い上げると、ダンデは憑物が落ちたような晴れやかな顔で笑っていた。
□
「フィールド倒壊、壁破壊、天井焼損、客席破壊……etc。よくもまあ、ここまで壊してくれたもんだ」
「いや〜、それほどでも」
「褒めてないと思うのですが」
明らかにカブの口調は恨み節だ。
心なしか顔色が悪いし、少し老けたように見える。おそらく、これから降りかかってくる後始末に頭を痛めているのだろう。
「心配するなカブさん。いざとなったら俺の名前を出してくれればいいから」
「それは余計に面倒ごとになる気がするからやめておくよ。……修理代金は後日請求するから」
「おう。小切手でいいよな?」
「……億はするよ? 一括で払う気かい?」
「ああ、そのくらいなら払えるさ」
あっさりと言ってのけるダンデ。
この男、貯金はいくらあるのか。チャンピオンとはそれほど儲かる仕事なのか。研究者の給料など微々たるものなのに。
……もしかして、私の収入って弟子より低いのだろうか?
いや、考えないでおこう。悪い夢だ。
カブとは別の意味で頭を悩ませている私に、ダンデが
「オレンジ、今日はありがとう。夢のような時間だった」
「いえいえ、大したことはしていませんよ。それよりどうですか? 人生で初めてバトルに負けた気分は?」
「もの凄く悔しい」
だろうな。
「だが、悔しいと思えることが嬉しいんだ。これで俺はまた前に進める」
「それはよかった」
濁りのない笑顔に、私はダンデが完全に吹っ切れたことを理解する。
「またバトルしてくれるか?」
「構いませんが、次はバトルする時は前もって言ってください。今回は時間がなさ過ぎて、調整が間に合わなくて使えなかったポケモンがたくさんいたんですから」
「……まだ上があるのか?」
「エースは(一応)ガブリアスですよ。ただ、別枠に強いポケモンが他にもいますが」
スイクンやダークライなどの伝説組のことだが、普段バトルに使わないので別枠扱いだ。
「なあ、オレンジ。お前よりも強いトレーナーはいるのか?」
「そうですね。世界は広いですから、探せばいくらでもいるかもしれません。しかし、今のところ私が知っている中で、私より強いトレーナーは1人います」
「はっはっは、そうか。……世界は広いな」
その通り、世界は広いのだ。
私が伝えたかったのはそれだ。ガラル地方では敵なしでも、外に出れば強いトレーナーはいくらでもいる。
退屈など、する暇がないほどにたくさん……。
「あなたはこれからどうするんですか?」
「そうだな。とりあえず、久しぶりに修行に行こうと思ってる。負けたままは悔しいからな。強くなるんだ」
「君がこれ以上強くなったら、挑戦者たちはやってられないな」
「構わないさ。それに俺には大きな目標ができたからな」
「ほう、目標とは?」
ダンデはわけのわからないポーズをとりながら、指を天に向けて。
「世界一強いポケモントレーナー。まさに俺が世界のチャンピオンになるのさ」
子供のように無邪気な笑顔でそういった。
「ふふ頑張ってください。でも、世界一のポケモントレーナーになる前に、世界一強いポケモン研究者に勝たなくてはなりませんがね」
「ああ。すぐに勝ってやるさ!」
私はダンデと拳を合わせて、にこりと笑い合った。
▲チャンピオンダンデのレベルが上がった。
▲ユウリは絶望した。
簡単設定集、イッシュ(2回目)編。
オレンジ
1度目のイッシュ旅から2年後、幼馴染のナツメの招待でポケウッドの上映会パーティーに出席するためにイッシュ地方に向かう。ナツメの招待なんて何かしら裏があると思っていたが、案の定新作映画のアクターにされる。そこで生まれたのが『ガブリアスキッド』
そして、撮影の休憩中女優が1人誘拐されたと報せが入り、オレンジはそれを捕まえる。そこで拐われていたのが若手ナンバーワン女優メイだった。そして拐ったのがプラズマ団ということもあり、国際警察(ワタル)の命令でなぜか捜査することに。
そして何故かその度にメイが付いてきたりと大変な旅が始まった。
ポケモン、今と同じ。
メイ
誘拐犯から助けたくれたオレンジに惚れ込み押しかけ女房のように旅に無理やり付いてきた。実は2年前にもオレンジに迷子のところを助けられており、その人に名前を伝えられなかったことを後悔していた。
性格……表向きはとても愛想がいいが、わりと腹黒。小悪魔系。口調がわりとあざとい。
びこう……ツインテール。発育いい。
大体なところもあり、よくオレンジのベッドに侵入してはエーフィとピチューのフラストレーションが溜まり、ガブリアスが被害を受けた。
ポケモン.バルチャイ、ゴチム。
ナツメ
言わずと知れたエスパー少女。オレンジの幼馴染。
スカウトがきっかけでポケウッド女優に。暇な時にテレポート(自力)でジムに帰り、ジムリーダー業もこなす。偶に回らない時はオレンジに頼んでいる。
今回は監督から「若く、顔が悪くなく、中背で、身体能力が高い人物の知り合いはいないか?」と聞かれ、オレンジを推薦。とんとん拍子に話が進んだ。
カントーにいる時はよくオレンジを食事に誘う。理由は、ほかに誘う人がいないから。店は高いところを押さえて、自分が払い、オレンジが屈辱に震えているところを見るのが好き。
なお、側から見ればただのお忍びデート。
今は2人とも大人になったので、食ってかかるような喧嘩しない。
ワタル
中二病。カントーチャンピオン。国際警察特別捜査官。
喋り方と、チャンピオンよりも強いジムリーダー(グリーン)がいるので、ネットではただの玩具。
最近の悩みは、イブキにすらそろそろ大人になれと言われたこと。
ゲーチス
懲りない男。小物。
アクロマ
マッド。同じ研究者としてオレンジに興味をしめすが、本人は一緒にするなと言っている。
ヒュウ
メイのマネージャー。メイとは幼馴染。妹のチョロネコを探し続ける。
トウヤ
地元のことなのに今回蚊帳の外。後で話を聞いてちょっと寂しかった。
N
電波が少し治り、まともな好青年になろうとしている。現在ポケウッドの俳優にスカウトされている。
見たいのは?
-
オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
-
オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
-
オレンジが女の子だったら
-
オレンジの日常