トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
30話到達! 初めてこんなに続きました。
ついにユウリのエンジンジム挑戦当日となった。
相変わらずユウリの人気は衰えるところを知らない。それどころか前よりもファンが増えたように思える。ルリナに快勝し、世代No. 1トレーナーのビートと互角の戦いをしたことで、ルックスに加えてわりと強い少女から、本当の実力者であると認知されてきたのだ。
おかげで今日の観戦チケットの倍率は10倍を超えている。そんな倍率のチケットを運が最強に悪いオレンジが入手できるわけがない。
しかし、カブさんの計らいで関係者席に招待されたオレンジは、なんとかスタジアムの中に入ることができた。
一般席よりもフィールドに近い特等席にオレンジはご満悦である。
「いやぁ。まさか、関係者席にいれてもらえるとはね。やはり持つものは運より人脈ですね」
「よくカブさんも入れてくれたわね。私だったら、自分の仕事場ぶっ壊した当事者を招待なんて絶対しないわ」
「元々ふっかけてきたのはダンデの方ですよ。私が責められる謂れはありません」
過失でフィールドに地盤沈下を起こしたことは忘れたようだ。
ソニアはじとりとした視線を送るが、オレンジは口笛を吹いて誤魔化していた。
ソニアは諦めた。
「でも、ユウリは勝てるかな? カブさんってジムの中でもかなり難関なんでしょ?」
「そうですね。カブさんのジムの突破率は約10%。要するに90%のチャレンジャーはここで挫折するということですね」
「90……そんなに」
「ユウリの勝つ確率は五分五分といったところですかね。勝利の分かれ目は、流れを掴めるかどうかでしょう」
五分五分という言葉にソニアは顔を険しくする。
もっとも、相手はトレーナー歴三十年以上のベテランだ。バトルの酸いも甘いも経験してきたカブ相手にジムチャレンジャーが五分の勝率というのは異常なことなのだ。
それでも保護者として心配が尽きるはずがない。
それを理解しているオレンジはにこりと笑って。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ユウリの努力を信じましょう」
「……うん。そうだね」
二人がフィールドを見ると、会場の電灯がゆっくりと消えた。
□
深呼吸を何度も、何度も重ねるが心臓の鼓動は遅くならない。早鐘のようになり続ける。
通路口の気温は、この会場に万を超える観客がいるとは信じられないくらい寒い。これが建物の素材のせいなのか、自分の緊張のせいなのか、もはやユウリには判断できなかった。
「緊張しているようだね」
不意に聞こえてきた声にユウリは心臓が飛び出そうになるほど驚いた。ぎゃあ!? と女の子らしくない声が出てしまう。
ワントゥーとステップを踏んで後ろに下がりながら振り向くと、そこには今日の対戦相手であるカブが立っていた。
カブはいつものように赤いユニフォームに、手拭いを首にかけて端を両手で掴んでいる。
「カ、カブさん!? どうしてここに!? ジムリーダーはあっちの通路口からじゃ……」
「ああ、今日は特別さ。少しユウリくんと話しておきたいとおもってね」
「話しておきたい?」
ユウリはカブとまともに顔を合わせるのはこれが初めてである。そんなことを言われても、まったく見当がつかない。
「ぼくは、君の師匠のオレンジくんとは少し縁があってね。彼の実力もこの目で見させもらったことがある」
「そうなんですか」
「だから、君が彼の弟子と聞いた時、今の快進撃にも納得してしまったよ。その努力は素直に尊敬する」
「ありがとうです」
緊張で返事が塩だが、内心ではとても喜んでいる。それはそうだ、カブはユウリが小さい頃から活躍していたジムリーダー。ダンデとの名勝負はいくつもある、いわば憧れの存在だ。
そんな人間に努力を認められたら狂喜乱舞したくもなる。
しかし、カブは和やかだった雰囲気を一変させる。
「だからこそ悔しさもある。君たちが努力している以上にぼく含めジムリーダーたちは努力してきている。それを軽々しく踏み越えられるのは、本当に悔しい」
ユウリはずっと疑問だった。なんでカブがわざわざ試合前に自分のところに来たのか。世間話なら後でもいいはずなのに、なぜ今なのか。
カブの鋭い瞳を見てようやく理解できた。
「今日のバトル、ぼくのプライドにかけて勝たせてもらう。ガラルのジムリーダーはそこまで甘くないことを教えてあげよう」
宣戦布告だ。
途端ユウリの顔に笑いが溢れてきた。憧れの人間が自分を倒す相手と認識して、全力でかかると言ってくれたのだ。
それは、彼女にとって最高位の喜びである。
「なら、それを打ち破ってやるだけです! 絶対勝ってやるですよ!」
「……なるほど、彼に聞いた通りだな」
ーー『さあ、遂にこの時がやってきたああああ! 出てくるのはもちろんこの男! いつまでも燃える男こと、灼熱のジムリーダー、カブだああ!』
「おっと、呼ばれてしまったか。では、ユウリくんいいバトルをしよう」
そう言って、小走りでフィールドへと向かって行った。
カブが来る前と通路の温度も、胸のドキドキも変わらない。
しかし、もはやユウリの心に憂いは一切なかった。
□
ーー『そして次はこの人。すでにジムリーダー2人に快勝し、先日は世代No. 1の呼び声高いビート選手と互角のバトルを演じて見せました。その才能は今やジムチャレンジャーの中でもトップクラス! 今日も魅せてくれ、ユウリちゃんスマイルこと、ユウリ選手の登場だああああ!』
ユウリちゃんスマイルという謎単語に関係者は首を捻りつつも、観客はそんな細かいことは気にせずに歓声をあげた。
前回の満員だったバウジムの歓声を優に超える応援に、元来目立ちたがりのユウリは気合いを入れ直した。
カブは若手の勢いに心を揺らすことなく、顔の変化は特にない。
「それではこれよりジム戦を始めます! 使用ポケモンは3対3のシングルバトルです! それではバトル開始!」
審判が旗を両断するように下げると、決戦の火蓋が切られた。
「行くぞ、ウインディ!」
「ガアウ!」
「行くですよ、ホルビー!」
「ホルッビ!」
カブはウインディを出し、ユウリはホルビーを出した。タイプ相性では互角であるが、ホルビーはじめんタイプの技を持っている。その面ではホルビーに分があると言える。
「ウインディ、にほんばれだ!」
「ガアァ!」
口から発射された丸い光は、まるで小型の太陽のようにスタジアムを照らし始めた。
急激な気温の上昇に初見の人は暑い暑いと服を脱ぎ始めて、経験者はバトルが始まると同時に半袖だ。年季が違う。
「ホルビー、あなをほる!」
「ホルッビ」
ホルビーは地面に潜って姿を隠した。陽が強くなるとほのおタイプの威力が上がる。となれば、遠距離では文字通り火力で負けてしまう。
そう判断したユウリはあなをほるで奇襲をしかけて、接近戦に持ち込む腹づもりだ。
「ウインディ、地面に向かってかえんほうしゃ!」
「ガアァァァ!」
「何のつもりです!?」
ユウリの困惑をよそに、ウインディの炎が地面を炙っていく。
火に煽られ続けた地面は段々と土色を熱熱した赤に変化させていき、最後には地面の温度に耐え切れなくなったホルビーが地面から飛び出してきた。
「ホルビーッッッ!?」
「そこだ! ウインディ、かえんほうしゃ!」
「ガアァァ!」
「ホルビー! 地面にかわらわりして横に避けろです!」
「ホルッビ!」
地面を叩いた反動で横に身体を飛ばすと、その横をかえんほうしゃが通り過ぎて行った。
ギリギリの回避を成功させたが、まだまだ息を抜けない。
「ウインディ、かみくだくだ!」
「ガアウ!」
「ホルビー、そのままつっこめです!」
「ホルッビ!」
歯を光らせて走ってくるウインディに対抗するように、ホルビーも走ってくる。
接点に差し掛かる寸前。ウインディの大きな口がホルビーに迫ってくるが。
「ホルビー、そのどでかい口に向かってマッドショット!」
「ホルッビィィ!」
「ガアウッッッ!?」
大きく開けていた口に無数の泥玉が撃ち込まれた。こうかばつぐんの技にウインディは後ろに吹っ飛ばされて地面に倒れ込む。
立ち上がるものの、若干元気がなくなっていることからダメージは受けているようだ。
「ガウッ、ガア」
ウインディは痰が絡まったような咳をしている。
その様子にユウリはしてやったりの顔をしていた。要は泥の粘着性を利用してウインディの喉の通気性を悪くしたのだ。
ほのおタイプはじめんタイプに弱い。この構図のせいなのか、口にじめん技が詰められるとほのお技を出しにくくなるという、研究結果があるのだ。
オレンジにオススメされた論文解説を読んでいて閃いた戦法だ。あの時はこんな分厚い本読んで何の意味があるんだと考えていたが、こんなところで役に立った。
「一気に決めるですよ! ホルビー、マッドショット!」
「ホルッビィィ!」
「ウインディ、ソーラービームだ!」
「ガアァァァァ!」
「へへっ!?」
泥が詰まって出しにくくなるのはあくまでほのおタイプの技。くさタイプの技であるソーラービームは関係ない。
ウインディの口から放たれた緑色光線は、泥玉を全て飲み込んでホルビーをも飲み込んだ。
爆音と同時に土煙が舞い上がる。晴れると、目を回したホルビーが倒れていた。
「ホルビー戦闘不能、ウインディの勝ち!」
ーー『まず先手を取ったのはカブさんだ! 対して、ユウリ選手はジム戦を通じて初めて先手を取られる結果となりました。さあ、この先どうなっていくのか!』
□
「自分の作戦が上手く行ったからといって、調子に乗りすぎましたね。にほんばれを使ってるなら、普通ソーラービームも警戒するものだろうに。まったく、この辺りがまだまだ甘いんですよ」
「それにしてもカブさん強いね。素人目に見てもレベルが違うのが分かるわ」
「ですね。最近のバトルは守りを重視したバトルスタイルだったのですが、今日は攻めてきますね。何か心境の変化があったのでしょうか?」
自分が原因とは知らない男は呑気にそんなことを言っていた。
そんな中、オレンジはソニアをジーと見ている。視線に気がついたソニアは。
「な、何?」
「いや、ソニアって意外に着痩せするタイプなんだなぁと」
「こんな時にどこ見てんのよ!?」
「あべし!?」
オレンジはソニアに捌かれた。
どことは言わない。あえて曖昧に書くのなら、にほんばれの影響でソニアは上着を脱いでいたということだけだ。
Q.おっぱいは好きですか?
橙「嫌いな男はいないと思いますが?(真顔)」
見たいのは?
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オレンジの日常