トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
こんにちは。今回は前にやったアンケートの短編を投稿しました。
これは私がヒカリと一緒にシンオウ地方を回っていた時の話だ。
あの時の私は遺跡の調査のためにカンナギタウンに滞在していた。その時なんやかんやで町おこしのNo.2の地位を押し付けられたりしたが、あの騒動が一番印象に残っている。
ーーーーーーー
明朝6時、私は目覚まし時計に起こされる。
上半身を起こしてふあと小さなあくびをしてから、布団を出たのだが……。
「うーん……。ちょっとオレンジ。寒いんだから布団取らないでよ」
「ああ。これは失敬……はあ!?」
私は驚愕の声を上げる。
なぜなら、先程まで私が入っていたはずの布団の中にシロナが入っていたからだ。
おかしい、私は昨日一人で寝床についたはずだ。
「なぜここにいるんですか?」
「え〜、だってここ私の実家よ? いてもおかしくないでしょう?」
寝ぼけでとろけた口調の23歳児はそう言い訳してみせる。
たしかにここはカンナギタウンの村長の家、つまりはシロナの実家だ。しかし、ここは客室だし、シロナの部屋は別にある。
「すいません。言い方が悪かったですね。なぜあなたが私の布団の中にいるんですか?」
「人肌が恋しくなったから?」
「なんで疑問形なんですか……。取り敢えず出てってください。私は今から仕事を片付けるので」
「もう素っ気ないわね。もしかして照れてる? オレンジったら、私のナイスバディに性欲わいちゃってる?」
「ハハ、マッサカー」
「ものすごく純粋な微笑み!?」
むしろ、ここまで隙だらけの異性と密室でいるのに欠片もトキメかないことに驚いている。私の性欲は死んでしまったのだろうか?
いや、ミルタンクパジャマのボサボサ髪の女性に性欲を感じないのは正常だ。
まったく意識されていないことに焦ったのか、シロナは布団から飛び起きて。
「どういうこと! こんな顔もよくて胸も大きいお尻もちょうどいい、男の夢を詰め込んだような私の身体のどこが不満なのよー! 感じるでしょ!? 男の本能刺激されるでしょ!?」
「ないない」
「なんでよぉー!?」
泣きだしたシロナは、私の胸倉を掴んで前後ろにふってくる。
……少なくともそんな発言をしている内は無理だろう。
□
シロナを部屋から追い出して二時間後、朝食の時間になったので大広間の座敷にやってきた。部屋を跨ぐほどの長い机に朝から豪勢な食事が並んでいる。
先に座っていたヒカリはまだ眠そうで髪はボサボサだ。しかし、それも可愛げに変換できるのが23歳児との差だろう。
「おはようございます、ヒカリ」
「おはよう、オレンジ」
目をゴシゴシしながら言う。可愛い。
隣でわざとらしく、しくしくと泣き真似をしているアホとは違う。
私は無視して手を合わせる。
「それではいただきます」
「いただきまーす」
「ねぇ、人が泣いてるのに無視は酷くない!? せめて、どうしたのって優しく声かけて、たくさん甘やかすべきでしょ!?」
せめてから多いな。
私は無視してみそ汁を啜る。ヒカリは特産のおかずでご飯を食べている。
「というかヒカリちゃんまでスルーしてることに、すっごく傷つくんだけど!? 前までなら、心配そうにどうしんですか? って言ってくれてたのに!?」
「……どうせシロナさんが、オレンジの部屋に侵入して追い出されたんでしょ?」
「一言一句その通りですね」
「いつも通りじゃないですか」
「いつも通りです」
「うわーん、2人がいじめる〜!」
顔を伏せてまた泣き出した。
しかし、ヒカリはやれやれとまた始まったと食事を再開した。優しいヒカリにすら呆れられていることに手遅れ感が否めない。
「何をしておる」
そこに村長、いわゆるシロナの祖母がやってきた。シロナはすぐに背筋を伸ばしたが、村長は泣くまでの過程を見ていたようでひどく呆れた様子だ。
村長が席に座ると、私は急須からお茶をいれて差し出す。
「ありがとう」
そう言って、ズズズとお茶を啜った。ふうと一息つき。
「はあ、オレンジさんがこやつをもらってくれればこの家も安泰なのじゃが……」
「すいません。私はお孫さんを妻にもらうくらいなら、裸でテンガン山を往復します」
「それ遠回しに死んだ方がマシって言われてない!?」
「言ってます」
「無理もないわ」
「自業自得ですね」
上から、私、村長、ヒカリと言葉のリレーをする。
シロナは泣きそうになるが、村長の手前我慢していた。
しかし、村長は気がついていたようで、さらに深いため息をついた。
「……シロナ、お主いい人はいないんか?」
「何よ急に」
「彼氏はいないんか? と言っとるんじゃ」
「い、今はいないけど……今は!」
「彼氏などいたこともないくせによく言うわ」
「うぐっ!?」
痛いところをつかれたシロナは胸を押さえて苦しむ。
村長は顔を引き締めて。
「シロナ、お主に見合い話がきておる」
そう言った。
「え、ええええええ!?」
シロナの叫び声が食卓に響き渡った。
□
「お見合いってどういうことよ! 私聞いてないわよ!?」
「言ったらお主が逃げるじゃろ。昔から付き合いのある村の孫が、お主のことをえらく気に入ってな。では、一度合わせてみてはどうかという話になったのじゃ」
「そ、そんな勝手な……!」
シロナは何かを思いついたのか余裕のある笑みを浮かべ。
「私はポケモントレーナーとして、自分の結婚相手は私より強い相手って決めてるの。その人は私より強いのかしら?」
一応どんなに駄目人間でもシンオウチャンピオン。しかもシンオウで歴代最強のチャンピオンと名高い彼女より強いとなればかなり限られてくる。
だが、村長はシロナと同じように含みのある笑みを浮かべ。
「安心せぇ。相手のお孫さんも、とある地方のチャンピオンじゃ」
「なん……だと……!?」
「よかったじゃないですか。あなたの好みにバッチリですよ」
とある地方のチャンピオンと聞いて、中2か石マニアが頭に浮かんだ。……まあ、どちらも悪い人間ではない。ちょっと癖があるだけだ。
取り敢えず私は2人とも2度と関わり合いになりたくないが。
「ほれ、シロナ。観念せい」
「う、うう……」
追い詰められた犯人のようにシロナは唸る。ちらりと私の方を見てくる。明らかに助けを求められているようだ。
「まあ、村長の顔を立てるために一度会うだけ会ってみればどうでしょうか?」
「この鈍感! ちがうだろー! そこは私が誰かに盗られることに嫉妬して、俺がこいつを幸せにするって言うところでしょ!」
「言うわけないでしょう。私が地獄です」
「わあああ! オレンジが酷いこと言った!」
シロナは泣きながら私の胸倉を掴んできた。
……なんだかデジャブを感じるな。
□
村長の話によると、その孫とやらは明日やってくるらしい。シロナは必死に逃げようとしたが、あえなく捕まった。今は部屋の中に軟禁されている。
私には関係ないので、ヒカリのバトルの稽古を行なっていた。
「ポッチャマー! バブルこうせん!」
「ポッチャマァァ!」
「ドラピオン、ミサイルバリ!」
「ドラァ!」
無数のバブルをハリが貫く。
そのまま、ハリはポッチャマへと直撃した。
「ポッチャァァ!?」
「ポッチャマ!?」
「とどめのクロスポイズン」
「ドラァ!」
毒々しいクロスがポッチャマを襲う。弱ったところに技を受けたポッチャマは目を回して倒れてしまった。
「ポッチャマ戦闘不能ですね。いいバトルでした」
「うん。……大丈夫ポッチャマ?」
「ポチャポーチャ」
大丈夫と言っているようだ。時計を見ると今はお昼前。すでに2時間以上トレーニングをしていることになる。
「ここらで一度休憩しましょう」
「うん」
私はドリンクを差し出すと、ヒカリは慣れたように受け取った。小さなありがとうと言うのも忘れない。
ごくごくとドリンクに口をつけながら一息付いたヒカリは。
「シロナさん大丈夫かなぁ……」
今頃軟禁されて、明日のお見合いの準備をさせられているだろうシロナのことを心配していた。
「あくまでお見合いですから。無理矢理結婚させられるわけではないでしょう。それにシロナは渋っていますが、会ってみたら案外気が合うってこともあるかもしれませんし」
「……それシロナさんに言ったら駄目だからね」
「別にいいと思いますけどね。シロナは仕切りに私に迫ってきますが、本心から私を好いているとは思えませんし」
たんにあれは自分を世話してくれる人間が欲しいだけだろう。
私がそう言うとヒカリは困り顔になる。
「うーん、私も正直どっちなんだろうとは思うんだけど……」
「少なくとも、はっきり言葉で伝えなければ私は気持ちに応えません。行動で察しろというのは傲慢です。言われたら、しっかり考えた上で丁重にお断りします」
「断るんだ!?」
「当たり前でしょう」
むしろ承諾する根拠を教えてほしい。
昼時になり、私たちはトレーニングをやめて村長の家に戻ってきた。
田舎らしく鍵のかかっていない扉を開ける。すると奥からドタドタと誰かが歩いてくる音が聞こえてきた。
その正体は、エプロンを着てお玉を片手に持った新妻のようなシロナだった。
「おかえりなさいオレンジー! ご飯にする、お風呂にする、それともわ・た……いひゃいいひゃい!?」
「子供の前で何を言おうとしているんですか、己はああああああ!」
「りゃ、りゃから、にゃにをしないかって……いひゃいいひゃい、ごめん! 私が悪かったから許してよおおお!」
新妻のようでも中身は安定のシロナだった。私はヒカリに先に昼食を食べているように伝えて、避難させる。
そして引っ張っていた頬から手を離して、なぜこんなことをしているのかわけを聞いた。
「はあ、なぜそんな格好を?」
「エプロンに新妻セリフ。男を落とす最強のコンボっておばあちゃんが言ってた」
「……その男を落とす最強のコンボをなぜ私に喰らわせようとしているのでしょうか?」
「もう、オレンジったら鈍感なの? 鈍感系主人公は昨今嫌われるわよ」
「現実逃避だよ」
痛む頭を押さえる。
シロナは私の手をつかんで、目をしっかりと見てきて。
「私はオレンジが好きなの。だから、付き合って」
「ごめんなさい、無理です」
「なんでよおおお!」
シロナは泣きながら掴みかかってきた。
□
私に雑な告白してからというもの。
「オレンジー!」
シロナは。
「オレンジさーん!」
何度も何度も。
「オ・レ・ン・ジ」
それこそ今までよりも情熱的に。
「ねええええ! お願いだから無視しないでよおおお! せめて、反応くらいしなさいよおおお!」
私に迫ってきていた。
昼食の間も、仕事をしている時も、夕食の時も。無視するのが骨なほどしつこく迫ってきた。
今も寝室に入ろうとしている私の腰にしがみついてきている。私は気にせず引きずっているが、それでも離す気配はない。
私は一度立ち止まり。
「今日はどうしたんですか? 望まないお見合いするのが嫌なのは理解できますが、別に会ったからと言って必ず結婚しなければならないわけじゃないでしょう?」
「うちのおばあちゃん舐めないでよ! こんな厄介払いのチャンスをみすみす逃すような人じゃないの! お見合いしたら、色々理由つけて結婚させられるに決まってるじゃない!」
厄介者という自覚はあるのか。
それはそれとして、まあ、あの村長ならやりかねない。私が町おこしの副責任者にされたのもあの人の策略だ。
外堀から埋めて行って、気がついたら後戻りできない状態にするくらい軽くやってのけるだろう。
「あなたの見解も理解できます。それでも私があなたと付き合う理由にはならないでしょう。そこは身内同士、村長と話あってください」
「話が通じる人じゃないでしょ! 偽の恋人でもいいから! お見合いさえ断れればいいから!」
「もはや目的を隠す気もありませんね」
「おーねーがーい! 私だって1人の乙女なのよ! 結婚くらいちゃんと好きな人としたいの! 人に決められた仲なんて絶対に嫌なの!」
人に決められた仲……か。
私はそこそこいい家系に産まれたが許嫁がいたなどの経験はない。しかし、親に勝手に道を定められ、それを歩まされる。それに対する気持ちは未だに覚えている。
人に人生を決められるつらさは理解できてしまう。それを言われるとキツいなぁ。
「……はあ、分かりましたよ。明日のお見合いが終わるまで、あなたの恋人役をやってあげます」
「本当!? 本当に本当? 嘘じゃないよね? 今更撤回とか許さないわよ!」
「本当ですよ。村長にもお伝えください」
「うん。わかったわ!」
元気よくシロナは走って行った。
今更ながら後悔してきたのは内緒だ。
□
翌日、約束の時間になった。
いつもの毛皮コートではなく、振袖を着て化粧を決めたシロナは凛とした表情で相手を待っている。あの見た目通りの性格ならば、私も惹かれるのだが。ここから残念すぎる内面を見せられると、拒否感しかない。
お見合い相手が来る時間なのだが、それらしき人影は見当たらない。
正直、私はお見合い相手が誰なの知らない。地方のチャンピオンと聞いてもある2人が出てきている。その2人の内のどちらなのか。
そういえば村長は知り合いの村と言っていたような……。私がわりと重要な話を思い出していると影がかかった。
その影の正体はカイリュー……ああ、ハズレの方か。
そしてそのカイリューから飛び出してきた人の影。
ーーとおおおお!
ああ、聞き覚えのあるうざい声だ。
シュタリと着地する。その男は、いつもの趣味の悪い服装に、トレードマークのマントにきめっきめの髪型。もはやこれ以上の説明は不要。
カントーチャンピオンのワタルだ。
シロナはお見合いに来たとは思えない男の服装に顔を引きつらせている。
ドン引きされているとは知らずに、ワタルはつかつかとシロナの方に歩いてくる。
「君がシンオウチャンピオンのシロナか。はじめまして俺様はワタル。カントーのNo. 1(妙に発音がいい)トレーナー! 又の名を『竜王(キングドラグーン)』!」
ヘンテコな決めポーズをしながら堂々と言うその様は、シロナのこの見合いを絶対に断るという意志をより強固にさせた。
会って1分も経たずにこの評価。さすがはワタルだ。
シロナは必死に外面を保ちながら、ワタルを家の中へと案内した。
「本日は遠い田舎町までわざわざ来ていただきありがとうございます」
「何々。君に会うためならこのワタル。地の果てでも駆けつけるつもりさ」
普通にストーカーである。
引きつる顔を我慢しつつ、シロナは早速本題に映った。
「本日はお見合いということで話が進んでいると思います」
「その通りだ」
「ただ、申し訳ございません。実は私には既に愛し合っている恋人がいます」
「なんだと!? 聞いていないぞ!?」
「私はチャンピオン業が忙しく、あまり祖母と連絡が取れておらず。恋人のことも伝え忘れていたものですから。すべて私の不始末が原因です。気持ちを害されたら、申し訳ございません」
嘘をつけ。考古学の研究を言い訳にしてチャンピオンの仕事サボりまくって実家で寝ているくせに。何が忙しいだ。
ただ、ここまでの対応は完璧だ。相手が相手なら、普通に諦めてもらえるはずなのだが。
「なるほど」
「ご理解いただけましたか?」
「要するにあなたに認められるには、その男を超えてみろということだな!」
「は、はい?」
シロナは戸惑った声をだす。
大丈夫だ。私も意味が分からない。何を持ってその理論に至るのか。私は仕方なく、部屋に入った。
「なんでそうなるんですかねぇ……」
「むむ!? 君はオレンジじゃないか! まさか君が俺様の恋敵(ラブエネミー)なのか!」
「そのまさかですよ」
できれば恋人の単語だけで退散してもらいたかったが、ああ言われれば出ざるを得ない。
「あなたなので、理屈っぽい話は抜きにしてこれで決着つけませんか?」
暗に話すのが面倒くさいと言いながら、モンスターボールを見せつける。すると、ワタルはふっと笑い。
「なるほど、理解した。君が恋敵となれば俺様も本気を出すしかないな!」
どうやらカントーNo.1トレーナーが本気を出してくるらしい。いやぁー、こわいわぁー。
なお、ワタルは3分で手持ちを全滅させられた。
□
その後、「恋に障害はつきもの! 次こそは振り向かせてみせるぞ!」と言い残して去って行った。
その夜、私が玄関で夜空を眺めていると、飲み物を持ったシロナがやってきた。
「飲み物いる?」
「ありがとうございます」
飲み物を受け取り、口を開ける。何度か口をつけながら、夜空を眺めていると。
「オレンジって星が好きなの?」
「好きですよ」
「もう一回言って」
「好きですよ」
「私のことは?」
私は一度面をくらい。
「……そうですね、嫌いではないですよ」
自由奔放に生きている様は煩わしく感じることも多いが、尊敬する部分でもある。
「むぅ、曖昧ね……。まあ、今はそれでいいかな」
「それでいいとは?」
「昨日言ったじゃない。私、結婚するならちゃんと好きな人としたいのよ」
私はすべてを察した。
「ほぉー頑張ってください。ちなみに私は家事ができて綺麗好きで働き者の女性が好みです」
「なるほど、私ね」
「その自信はどこからくるんですかね……」
ドヤ顔で言うシロナに私は頬が緩んでしまった。
Q.シロナと結婚する確率は?
橙「100通りの世界があれば、一回くらいありえるんじゃないですか?」
次回はガブリアスメインの番外編です。
見たいのは?
-
オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
-
オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
-
オレンジが女の子だったら
-
オレンジの日常