トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
エンジンジムを勝ち抜いた1週間後、私たちは次の目的地であるナックルシティに向かってワイルドエリアにいる。
そういる。歩いていない。
なぜなら、現在私の目の前でユウリとホップがバトルしているからだ。
経緯としてはユウリがエンジンジムに勝利してから、マスコミが騒ぎに騒ぎ立てて、ユウリはしばらく表も歩けないほどだった。
ホップはその間にジムをクリア。ユウリに追いついた。
ちょうど同じ場所にいるし、どうせならお互いの実力を確認しあうという流れだ。
もっとも、取材攻勢が落ち着いたとはいえ、ユウリは今注目度がとても高い。街中のフィールドでバトルしては人が集まり収集が付かなくなってしまう。そこで私の提案で広くて人も少ないワイルドエリアでやろうという話になったのだ。同じ理由でライブ配信もない。
それで肝心のバトルなのだが......。
「......」
「......」
2人の間は沈黙。吹き抜ける風に煽られる草が唯一のBGMだ。
一方は戦闘不能になった自分のポケモンも戻せずに茫然と立ち尽くし、一方は気まずそうにほぼ無傷のエースをボールに戻す。
どちらも悪くない。全力でぶつかり合った結果だ。しかし、その結果はとても残酷な現実を突きつけた。
「嘘でしょ......」
観戦していたソニアは口元を抑えながら唖然としている。
それはそうだ、二人はついこの間までほぼ互角だった。ここまで明確に力の差はなかった。
しかし、ショックなのはわかるが瀕死のポケモンを放っておくのはいただけない。
私は茫然としてる方のトレーナーの肩に手をかける。
「ホップ、ショックなのはわかりますが、瀕死のポケモンを早く戻してあげなさい」
「......はっ。も、戻るんだぞ、ゴリランダー」
ホップは急いでゴリランダーをボールに戻した。
我に返ったホップは何とか笑顔を取り繕い。
「ユウリすごく強くなったな! 俺びっくりしたぞ。俺ももっと頑張んなきゃな!」
今にも泣きだしそうな顔だが、ユウリを傷つけないために必死に我慢している。
「ありがとう......です」
噛み締めるように言う。
ユウリは、ホップの気持ちに気が付いているから、あまり喜びを表に出さないようにしているようだ。
「もっと強くなるために修行しないとな! さあ、修行修行! じゃあなユウリ、ソニア、オレンジ!」
そう言ってエンジンシティの方に走って行った。
私は明らかに落ち込んでいるユウリに声をかける
「ユウリ、あなたは悪くありません。むしろ、最後まで全力で戦って偉かったです」
「でも......私ホップを......友達を」
ホップが去って限界がきたのか、ついにユウリは泣き出してしまった。私は抱き着いてきたユウリの頭をなでる。
「勝負ですから、こういうこともありますよ。強さとは気持ちのいいものばかりではないんです」
強いからこそ、失うものもある。それこそずっと競い合っていたライバルを潰してしまうことなんて、いくらでもある。
それに耐えられなくなって、トレーナーを辞める人間もいるくらいだ。
「しかし、ホップがこのまま折れるような人間でない。友達のあなたが一番知っているでしょう?」
「そうよ、ユウリ。あいつがトレーナーを辞めるなんてないわよ。その内、いつもみたいに笑って、強くなった姿を見せてくれるって!」
「……です」
ユウリは小さくうなづいて、私の胸に顔を埋めた。
□
その日はユウリの調子が戻らずあまり進めなかった。そのため、ワイルドエリアに用意されているキャンプエリアで一夜を過ごすことにした。
夕食後、私は自分のテントの前に椅子を立てて星を見ていた。大自然に囲まれた空は澄んでいて星が鮮明に見える。
カントーとはまた違う、自然の芸術。とても綺麗だ。
私が外国の空に感動していてると、ザッと砂を踏む音が聞こえた。そちらの方を見ると上着を羽織ったソニアがいた。
「星見てるの?」
「はい。ガラルの空はよく星が見えて綺麗ですね」
「オレンジは星見るの好きなの?」
「そうですね。少し臭い台詞ですが、星を見ていると自分の悩んでいることが、すべてちっぽけに感じるんです」
「オレンジに悩みなんてあるんだ」
あっけらかんとソニアは言ってくる。普段の私はどれだけ楽天家なのだろう。
私は少しぶーたれながら。
「ありますよー。それはもうたーくさんあります。仕事のことだったり、研究のことだったり、それこそユウリのことだったりね」
「そっか……責任感じてない? ユウリとホップのこと」
「……感じていないと言えば嘘になるかもしれませんね。私自身、ユウリの教えれば伸びるところに調子に乗っていた節があるのは否定できませんから」
成果が出ると楽しくなる。それが続くと、自分でと歯止めがかからなくなるなんて、まるっきり子供だ。少しは成長したと思っていたが、私もまだまだ青いな。
なんて思っていたら、ソニアに背中をバンと叩かれた。
痛くはなかったが、急な衝撃に身体がびくりと反応した。
「やっぱりそうだったんだ。どうりで夕食の時から元気ないと思った」
気づかれてたのか。上手く誤魔化していると思ったのだが。
「オレンジが責任感じる必要はないでしょ。だって、オレンジはユウリを強くするために頑張ったんじゃない」
「……」
「私はね、トレーナー時代ダンデ君とのバトルがきっかけでトレーナーを辞めた。でもね、それはダンデ君が強すぎるからじゃない。ダンデ君に一生かけても届かないと思った自分に絶望したから。でも、ホップは違う。あいつは小さい頃から最強と呼ばれた兄と比べられながら、ずっと兄を超えるために追いかけてるの。そんなあいつが、今更ライバルにボロ負けしたくらいで折れるはずない」
ソニアの語りに熱が入っていく。
「オレンジもいつも言ってるでしょ? 子供はすごいって。なら、信じてよ。ホップはいつかユウリに絶対追いついてくるって。だから、自分はもっとユウリを強く育てるんだって。あんたが迷ったら、ユウリは誰を信じればいいのよ」
「はぁ、ソニアは本当にすごいですね」
私は可能性というものを基本的に信じない。論理的に裏づけされた事象のみを信じる。
しかし、ソニアはその可能性を純粋に信じている。その純粋さは私には絶対的に欠けているものだ。
私が迷ったら、ユウリは誰を信じればいいのか。
もっともな言葉だ。
「ありがとうございます、ソニア。少し元気が出ました」
「まだよ!」
「え?」
「まだ話足らないことが山ほどあるのよ〜!」
明らかに様子がおかしい。ソニアの顔をよく見てみると、ほのかに赤みがかっていた。
「もしかしてソニア、私がオーキド博士用に買っておいたビールを飲んだんですか!?」
「ジュースしか飲んでないわよ! なんか見たことない瓶が冷蔵庫にあったから、それを飲んだの!」
「それが酒ですよ!?」
ガラルで有名な地ビールなのだが、見た目がジュースに似ているため、ユウリが飲まないように冷蔵庫(携帯型)の奥に隠しておいたのだ。オーキド博士に送るために買っておいたのだが、まさかソニアが飲んでしまうのは。
どうりでいつもより熱く喋ると思った。ソニアは酔うと普段より感情的になるようだ。
これなら、無理してエンジンシティで送っておくんだった! マスコミに見つかると面倒だから、どこにも寄らずにいたのに!
ソニアは据わった目のまま、私の胸ぐらを掴み上げる。
「ソ、ソニア?」
「いい〜、私はね、あんたに言いたいことが百個くらいあんのよ! なんかこそこそやってるし、仕事抱え込むし、秘密主義だし、少しは私のことも信用しなさいよ〜!」
「い、いや、誤解です! 私はソニアのこと信用してますよ!?」
「どう信じろってのよおおお! いっつも一人でやってるし、私には何も教えないじゃない! それでどこをどう見て信用してるって……どの口が言っとるんじゃああああ!」
「すいません、すいません、すいません〜」
一つも否定できなかった。
その後、ソニアの取り調べは1時間ほど続いた。なお、翌日ソニアはこの時のことを一切覚えていなかった。
めでたし、めでたし。
Q.お酒は好きですか?
橙「嗜む程度です。酔うと何されるか分からないので……。特に酔っ払った
アラサーはやばいです。マジで食われます」
見たいのは?
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オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
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オレンジの日常