トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
なんか、メイに感情移入しすぎてもはや好きになってきたわ。
余命宣告を受けた翌日の朝はとても晴れやかだった。
いつも来るかどうか分からないようなトラブルが、半年後に来ることが予見されてすっきりしたのかもしれない。もはやトラブルが起こることが当たり前になっていることに嘆くことすらできない。
のそりと身体を起こし、手を使って立ち上がろうとすると、柔らかいものを掴んだ。
「あん♡」
色っぽい喘ぎ声が聞こえてきた。
すぐに手を離して布団をはぎ取る。するとそこにはランジェリー姿のメイがむにゃむにゃと寝ていた。......いや、狸寝入りだ。
「起きているのでしょう? いい加減目を覚ましたらどうです?」
「むにゃむにゃ......あ~、王子様のキスがあれば起きれる気がするなぁ~」
「なるほど。では、今からヒュウを呼んできますね」
「うそうそ、ちょっとした冗談ですって~」
「......はあ。できれば寝ている間に侵入するのはやめてほしいのですが」
「無理です」
笑顔で拒否された。
「そんなことより、私のアピールタイムは今日で最後です」
「まさかアピールって映画の役を押し付けることと、こうやって部屋に侵入することですか? 一回恋愛映画を見返すことをおススメします」
「え~、私イッシュ1の恋愛映画の主演ですよ~。今更そんなことする必要がありませんよ」
「では、もう直しようがありませんね」
要するにここまで確信犯ということだ。どういう狙いがあったのか知らないが、何かしら狙いがあったのだろう。
私のげんなりとした顔に、メイはふふんと得意げな顔をしている。
「そんなわけで、オレンジさんはメイとデートしなくてはなりません」
「どんなわけですか......普通に嫌なんですが」
「ええっ、オレンジさんは私とデートするの嫌なんですか。ひどい、私傷つきました......」
うるうると目に涙を貯めながら言う。そしてぐすぐすと泣き出してしまった。
「嘘泣きはやめなさい」
「てへっ」
あっさり涙を引かせて舌を出した。女優の涙は五割嘘だと言うが、この子の場合9割嘘のような気がする。
とはいえ、嫌なことに不満があるのは事実だろう。この辺りは説明しなくてはならない。
頭をかきながら。
「昨日ソニアと出かけたのに、次の日に他の女性と出かけるのが嫌なんですよ。完全にやってること女たらしじゃないですか」
「え、そうですよ? むしろ各地方につき一人女性を誑かしてるのに、自覚なかったんですか?」
「私はあれを女性と認めていません......」
特にシンオウからは絶対に認めない。絶対にだ。
「そもそも、ソニアさんと出かけた日の夜にナツメさんと食事してるじゃないですか~。今更、私と出かけたところで変わりませんよ」
「うぐっ......たしかに」
何と私は軽々しく女性と出かける軟派男だったのか。何気にショックだ。
「......それに今日で最後ですから」
「......?」
何だかメイの雰囲気がどこかしおらしいというか、この言葉は演技ではないように見える。
メイは頭をペコリと下げて。
「だから、お願いします。一日だけ私に時間をいただけませんか?」
「うむ......まあ、一日くらいなら構いませんが」
「ありがとうございます! じゃあ、準備してくるのでホテルの入り口で待っていてください♪」
「こらあ!? 外に出るなら服を着なさい!?」
私は露出狂を必死に引き留めた。
□
一応、今日はメイと出かけることはソニア達には報告しておいた。それが礼儀だと思うし、変に誤解を招いてもめんどくさい。
ソニアは笑って承諾してくれた。ユウリは顔を青くしていたが体調でも悪かったのだろうか?
最低限の義理も果たし、私はホテルの前でメイを待っていた。服装は昨日とは少し変えラフな感じにして、髪のセットもイッシュ風にした。昨日と同じはメイにもソニアにも失礼だからだ。
少しして、メイがやってきた。眼鏡とベレー帽のような帽子を被り、顔はしっかり隠していた。服装はいつもの胸を強調した服ではなく、青いタートルネックに花柄の白いロングスカートと清楚なお嬢様のような服装だった。
一瞬別人かと目を疑ったが、いつものメイの得意げな笑顔で間違っていないと確信した。
「どうですか?」
「いいと思いますよ。嫌いではないです」
「でしょ~? オレンジさんっておっぱい好きな癖に露出の多い服が嫌いじゃないですか~? だから、こういう方が好きなんじゃないかって思ったんですよ~」
間違ってはない。正確には露出の多い服装は見られるのが目的なところがあるから、見たくないという反骨心を煽られて好きじゃないのだ。相手の思惑に乗るのが嫌なのだ。
「そうですね。どちらかと言えば、こういう服装の方が好きですね」
「似合ってます?」
「ええ、とっても似合ってます」
「かわいいですか?」
「かわいいかわいい」
「もう適当だな」
不満そうに口を尖らせるメイ。
私はため息をついて。
「というか今更でしょう。あなたは全イッシュ中にかわいいと言われてる存在なんですから」
「ブー、こういうのは有象無象に言われても大して嬉しくないんです! 好きな人に言われるから嬉しいんですよ!」
「なるほど、言われるように頑張ってください。影ながら応援しています」
「オレンジさんに応援されたら、私どうすればいいんですかあああ!」
ぶんぶんと腕をふって不満を示す。そして二人して堪えきれずに吹き出してしまった。
「何だか前に戻ったみたいですね」
前に旅をしている時は、彼女も子供なりに健気にアタックしてきていた。それを私は子供だからと笑って流していた。それをメイが文句を言う。
なんだかんだ、悪い旅ではなかったのかもしれない。
「そうですね。前旅していた時は、もう少し可愛げがあったものの......」
「元から魅力的だったのに、成長してさらに魅力的になった? もう、オレンジさん褒めすぎですよ~」
「よくもまあ、そんなにプラス思考で入れますね。まあ、その底抜けの前向けさは魅力的だと思いますよ」
「オレンジさんが私のこと好きって言った!」
「言ってないですよ!? こら! 呟こうとするな!
私は必死に携帯を取り上げた。
この辺りが成長しておいてほしいのに、変わっていない。
これ以上、会話していると勝手にプロポーズしたことにされかねないので街に向かおう。
「取り合えず行きますよ」
「あれ? オレンジさんがエスコートしてくれるんですか?」
「はい。あなたに任せていたら、勝手に密室に連れ込まれかねないですからね」
「しませんよ~。それはオレンジさんからしていただきます♡」
「はいはい。100年後くらいに生きていれば、してあげますよ」
暗に拒否しているのだが、メイの顔はなぜか笑顔だった。
「何で笑顔何ですか?」
「だって、しませんじゃないってことは可能性はゼロじゃないんでしょ? 前の女扱いされてない時よりましじゃないですか」
そういうメイの笑顔はとても眩しかった。
□
やってきたのはナックルシティの中心街。都会で観光地だけあり、人の数は多い。昨日のように他地方の人間もいるからより多くなる。
しかし、昨日よりも人が多いように感じるが、何かイベントでもあるのだろうか? まるでスタジアムの売店のようだ。
メイも人の多さに少々違和感を感じているようだ。
「何か人多くないですか?」
「ですね。これではゆっくり買い物も難しいですね。何かあったのでしょうか?」
2人で不思議がっていると、どこからかこんな声が聞こえてきた。
「女優のメイが目撃されたのってここ~?」
「うん。キバナさんがポケッターで呟いてたよ」
その言葉が聞こえた途端、私は携帯を取り出しキバナのアカウントを検索する。すると、キバナのツイートにこんなことが書かれていた。
キバナ:昨日女優のメイっぽいやつ見た~
なお、そのツイートはメイのファンや芸能人のプライベート守れ派、またデマやめろ派から激しい批判に合い炎上していた。
ただ、この街にはガラルでも有名な撮影スタジオがある。また、メイが今度映画の新作の主演に内定していることから、案外本当なんじゃないかと囁かれていた。
そして決定打だったのは。
※メイがリツイートしました。
本人からお墨付きを得ていた。私はぐりんとメイを見て。
「本人が認めてどうするんですか!? アホか!?」
「す、すいませ~ん。何か人気なジムリーダーさんが私についてツイートしてるっていうから、特に内容見ずにリツイートしちゃいました......」
適当リツイートだが、今回はそれが真実に基づいているのだ。
有名な女優が近くにいるとなれば、一目見ようと人が集まってきてもおかしくない。
「ともかくこんな状況では変装していてもバレルのは時間の問題ですね」
「は、はい。どうしよう......」
メイは不安そうに顔を曇らせる。たしかにこの街でデートをするなら、この辺りは外せない。色々とやりたいことがあったのだろう。
時間のない彼女が言った最後の意味を考えると、この時間はメイにとってよほど重要なのだろう。
......はあ、ここは男の見せ時だな。
「やれやれ、しょうがないですね~」
--------ーーー
「きゃっほおおおお!」
「こらこら、女性がそんな声出して大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよおお! だって、ここは空中ですから!」
そうメイの言う通り私たちは今、ガブリアスに乗って空を飛んでいる。
メイは前から空が好きだ。人に見られ続けてきた彼女にとって、ここは唯一静かに過ごせる場所なのかもしれない。
しばらく飛んでいると、ワイルドエリアに出た。
「あ、オレンジさん! あの原っぱに着陸してください!」
「構いませんが......いいんですか? 他の街に行けば買い物ができますよ?」
「人の目を気にしてこそこそ買い物するより、大自然でゆっくりしたいんですよ」
「なるほど、わかりました。ガブリアス、着陸してください」
「ガバァ」
ガブリアスは返事をすると、ゆっくりとワイルドエリアに着陸する。
「わあ、こんな巨大な自然は初めて~! 靴脱いじゃお! きゃっほうぅぅぅ!」
メイは靴を放り出して、芝生の上を走りだす。
無邪気に自然に触れ合う姿は、普段の大人びた彼女ではなく、年相応にはしゃぐ少女だった。
別にラブコメにありがちな、そちらの方がいいなんて言うつもりはない。女優として努力する彼女も十分魅力的だ。ただ、表があるから裏が活きるように、計算があるから純粋がギャップになる。言うなら、そんな魅力もあるだ。
「オレンジさんも来ませんか~? 気持ちいいですよぉ~!」
メイが手を振っていた。頭に芝を付けて、顔は土で汚れていた。ヒュウが見たら頭を抱えかねないな。
「仕方ありませんね~」
私は袖をまくりながら、すたすたと歩いて行った。
□
あの後、たっぷり遊んだ。鬼ごっこ(ガブリアス、エーフィ、ピチュー参加)したり、水遊び(ギャラドスと競争したり)、かくれんぼ(メイのお得意の演技でかなり見つけるのに苦労した)等など、久々にはしゃいだ。
空はすっかりオレンジになっている。
体力を使い果たしたのか、メイはごろんと芝生の上に大の字になって転がる。
「はあ、疲れた......」
「おやおや、女優がそんな恰好をしてはしたない」
「襲ってくれてもいいんですよ~? どうせ誰も見てませんから」
「襲いませんよ。私はリスクリターンの計算はできますから」
「余所行きの服をびしょびしょにしてへこんでいた人が、よく言えますね」
「はて、何のことやら」
そんな記憶はとっくに消した。
「はあ、こんなはずじゃなかったんだけどな~。かわいい服着て、オレンジさんを悩殺してホテルに連れ込むつもりだったのに~」
「さらっと怖いこと言わないでください。あなたに手を出したら、私は社会的にまずいですから」
「結婚しちゃえば合法ですよ~」
「しませんよ」
そう言うと、メイはコテンとこちらを見てきて。
「私のこと嫌いですか?」
「嫌いではないですね」
「好きですか?」
「好きですよ」
「じゃあ、付き合いましょう」
「付き合いません」
「何でですかぁ......」
メイの目に涙が溜まっていく。しかし、その涙は朝のように嘘ではない。私は1人の女性を傷つけたのだ。
「たしかにあなたのことは嫌いではありません。しかし、私が愛している女性はあなたではありません」
「......そうですかぁ。えっぐ、えっぐ......ふられちゃった.....私ふられちゃった......」
正直罪悪感がある。しかし、その気がないのに中途半端な優しさで気を持たせるのはメイのためにならない。自分の気持ちが決まっている以上、きっぱりと断るべきだ。
......それから、メイが泣きつかれて眠るまで、私はそばにいた。
□
翌日、メイたちが帰る日となった。
オレンジたちは見送りのために、ナックルシティ駅に来ていた。
「お世話になりました!」
昨日の大号泣を感じさせないはつらつな笑顔でメイは頭を下げる。しかし、まだ引きずっているのか少し演技っぽい。また目も腫れているのか、ファンデーションを少し塗っているようだ。
「オレンジ。世話になったな」
「大したことはしていませんよ。困ったことがあったら、また言ってください」
「では、落ち込んだ女優の立ち直らせ方でも聞こうかな?」
そのセリフはオレンジに聞こえる音量で言ってきた。当然ながらヒュウはオレンジがメイの交際の申し出を断ったことに気が付いていた。
オレンジは顔を引きつらせる。
その顔を見て、ヒュウは笑い出した。
「冗談だ。少し意地悪をしたな」
「いいえ。苦労を掛けますね」
これからメイの傷心で、しばらく仕事にも影響を残すだろう。ヒュウもオレンジもそれは予感していた。
ただ、ヒュウならば見事メイを立ち直らせることもできるとオレンジは信じていた。
その端で。
「ソニア。これ、私の番号よ。これが不埒なことをしてきたら、電話してきなさい」
「え、ええ!? ナツメさんの電話番号!?」
「いい度胸ですね。インチキ貧乳エスパー。言っておきますけど、私は女性には紳士なんですよ」
「あら、変態紳士の間違えじゃない?」
「すいません。女性の前でしか紳士ではないので、あなたにはその姿を見せたことありませんでしたね」
暗にお前は女扱いしてねえから、というオレンジ。
「......そう。よかったわ」
「え?」
また喧嘩をしてくると思ったら、あっさりと受け入れるナツメにオレンジは目を疑った。
そんなオレンジを気にせずに、ナツメはソニアを見て。
「頑張ってね」
「は、はい?」
何を応援されたか分からないソニアは戸惑いながら返事した。
その時、電車が到着したというアナウンスがなる。
「それじゃあ、行くか」
「うん」
「ええ」
ヒュウの号令に二人は相槌を打つ。
「じゃあなオレンジ、ソニア」
「さよなら」
「次があるといいわね」
平静に、少し悲し気に、含みを持たせ、三者三様の言葉を残して電車のホームに消えていった。
「いなくなっちゃうと、少し寂しいね」
「静かになってせいせいしましたよ~。さて、次の町に向かいますかね~」
「ふふっ」
「?」
なぜ笑うか分からないオレンジは首をひねる。
「だって、オレンジが悪態吐く時って大体思ってることと反対のこと言ってるからさ」
「はてはて、何のことやら」
惚けながら、オレンジの耳は少し赤みがかっていた。
Q.やっぱり、告白を断るのはつらいですか?
橙「まあ、嫌いではないですからね。その方の好意を受け入れられないのは、つらいです」
Q。ところで好きな人って......
橙「ガブリアス、ギガインパクト!」
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