トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ   作:サンダー@雷

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ヒスイ編 5

 カイに連れられてきたのは、ギンガ団の団長の部屋だ。カイに紹介されたといえ、私はよそ者だ。責任者へのあいさつは必要なことなのだろう。

 

「私がデンボクだ。ギンガ団の団長をしている......」

 

 いかつい見た目に威厳を感じる瞳、立派な髭。どこかナナカマド博士の面影を感じる。とはいえ。

 

「はあ......」

 

 そんなことどうでもいいくらい私の気分は落ち込んでいた。それこそ偉い人を前にしても体育座りして顔をうずめるくらい。

 そんな私をデンボクは怪訝な顔で指さしながら。

 

「......カイよ。本当にこやつがシンオウ様の力を借りてやってきた者なのか?」

「あはは......ちょっと待ってくださいね」

 

 焦った様子のカイが私の首根っこをつかむ。

 

「ちょっとオレンジ! 落ち込むの気持ちは分かるけど、デンボクさんの前なんだからしっかりしてよ!」

「もう無理です。おしまいです。おうち帰ります」

「おうちに連れて帰るのがあなたの使命でしょ!?」

 

 その通りだ。しかし、その目的が帰ることを拒否しているわけで......

 さらに落ち込んでいると、カイは囁くような小さな声で。

 

「それにショウは元の世界に帰りたがっていたはずなの。だから、あんなこと言うのは何か理由があるはずよ」

 

 そうなのか。てっきり、元の世界に未練はないと思っていた。

 ヒカリが帰りたいと言えない理由、それを探して解消しなくてはならない。そうと決まれば、落ち込んでいる暇はないな。

 

「どうもどうも、初めましてオレンジと申します。この度は私の大切な弟子を保護していただき、大変感謝して

「む、むう......。こちらこそショウには大変世話になった」

「さっきまであんなに落ち込んでたのに......」

 

 私の変わりように、二人とも引いた様子だった。

 その後、とりとめのない話をして、私は村に滞在することを許された。

 

 

 

 

 さて、ヒカリに帰れない事情がある以上、その事情を解決する必要がある。なので、まずはヒカリが抱える問題がなんなのかを知る必要がある。

 カイに心当たりを聞いてみたが、分からないと言われてしまった。デンボクに聞けるはずもないので、自分の足で探すしかないか。

 

 1.某シェイミ好きのゴズロり少女似の床屋の話

 

「ショウのことをどう思っているか? それは村を救った英雄よね。元気溌剌でいい子だし。髪型も色々教えてくれるしね。でも、最近はあまり話せてないのよね」

 

 2.ドクケイルを連れた警備隊の話

 

「ショウか。あいつは俺に大切なことを教えてくれた。彼女のおかげでアゲまると仲たがいしなくてすんだんだ。......ところで君は彼女の彼氏か何かなのかな?」

 

 

 3.某バトルキャッスルの執事似の呉服屋の話

 

「ショウさん? ヒポポタスの任務の時はお世話になりましたよ。うちの服も気に入ってくれてるみたいねで。ただ、最近はあまり来てないわね」

 

 

 この後も色々な住民に話を聞いてみたが、特に手がかりらしい話はでなかった。得られた情報はヒカリは村人から評判がいいことと、任務をたくさん受けていること。

 任務を受けていることが原因? しかし、ギンガ団にはヒカリ以外にも調査隊はいる。損害はあるだろうが、帰れなくなるほどだろうか?

 見方を変えてみるか。この村の住民はよそ者に対して厳しい。話しかけると嫌な顔をされるのも珍しくなく、話すら聞いてもらえないことも多数あった。ヒカリはよくこの村の調査隊になれたな。

 そもそもなぜ素性の分からないヒカリが調査隊になれたのだろうか?

 

「少し聞いてみましょう」

 

 

 □

 

 

 それから二日後の夜更け。私はとある宿屋を訪れていた。

 こんこんとノックをすると、中からはいと聞こえてきた。がらがらと扉が開くと中からヒカリが

出てきた。

 

「どうも」

 

 ヒカリは驚いた顔をしたが、すぐに怪訝な顔になる。

 

「こんな時間にどうしたの?」

「すいません。突然お邪魔してしまって。少し話をしませんか?」

「......分かった」

 

 中に入ると昔話に出てきそうなレトロな雰囲気だった。

 ただ、やはりというかそこにあるのは大きな物入れと布団のみ。寝て休むだけの場所といった感じで、生活感はなかった。

 座布団を受け取り、対面する。

 

「それで話って何?」

「察しはついているでしょう? 元の世界への帰還についてです」

「......その話なら断ったでしょ」

 

 予想通りだったのか、もともと怪訝だったヒカリの表情がさらに怪訝になった。

 

「はい、断られました。しかし、その後カイからあなたは元の世界に帰りたがっていたという話を聞きました」

「カイ......」

 

 呆れた様子だった。

 

「だから? たしかに帰りたいって話はカイにはしたけど、その後から色々考えて心変わりしたんだよ」

「それは嘘ですね」

「何を根拠に?」

「人はそこに居つく覚悟をすれば、その場所は自ずと自分色に変化していくものです。それを総じて生活感と呼びます。それがこの部屋からは感じられません。あなたが元からそういうタイプだというのならば話が変わりますが、現世のあなたの部屋はかわいくデコレーションがされていますから」

「......」

「それにあなたは本当の名前のヒカリではなく、ショウという名前で通している。この世界で生きていく覚悟を決めたのに本当の名前を明かさない理由はなんでしょうか?」

「それは......」

 

 困ったヒカリは口どもる。この反応から見るに、帰りたくないはヒカリの真意ではない。私はそう確信した。

 

「変な問答はここまでににして本題に行きましょう。なぜあなたが帰りたがらない、否帰れないのか」

 

 これから事件の顛末を説明する探偵のように指をピンと立てる。

 

「この村はとても大きいですよね。ヒスイで一番発展しているのはこのコトブキ村だとか。そしてその理由がギンガ団が使用しているポケモンボール。これによりポケモンの力を借りて、村を発展させているとか」

「そうだね」

「ですが、あなたも知っての通りこの時代ポケモンボールは最先端の技術。それを満足に扱える人間はそうはいない。そんなところに現れたのが、ボールとポケモンの扱いに秀でたあなただ。村にとっては僥倖を超えたほどの幸運に思ったことでしょう」

「何が言いたいの?」

「もう終わるので落ち着いてください。そしてその幸運を証明するように、あなたは様々な地を開拓して、キング、クイーンを鎮め、村の英雄となった。間違っていますか?」

「少し誇張がある気がするけど、だいたいあってる」

「そうですが。しかし、あなたは活躍しすぎた。そして、その活躍こそあなたが帰れなくなった原因です」

 

 ヒカリの目の開きが少し大きくなった。

 

「村はあなたの活躍で栄えた。しかし、裏返せばあなたがいなければそこまで栄えなかった。科学は一人の天才の発見により数十年進むことがある。では、もしその天才がいなかったら? この村の状況も同じです。あなたがいたから調査できるはずがなかった場所まで、ポケモンまで調査が可能になった。そして、難しい依頼でも受けることができた。では、あなたがいなくなったらどうなるのか? 答えは簡単です。今までのバランスが一気に崩れ去る」

 

 Rpgに例えるとレベル1のパーティにレベル100の戦士が加入して魔王を倒したようなものだ。しかし、レベル100の戦士が消えれば何もできない。これが今コトブキ村が陥っている状態だ。

 

「......はあ。よくわかったねオレンジ。さすが」

「当然です。この程度の調査私には朝飯前です」

 

 まあ、カイが詳しく教えてくれたおかげだが。それがなければ、夕飯前くらいにはてこずっていた。

 

「でも、分かったでしょ? 私が帰らないって言ったわけが」

「まあ」

 

 これは帰れない理由ではく、理由を解消しようとしないのかというわけだろう。

 手っ取り早い解決方法は後進を育成すること。しかし、それをするには時間がないし、ノウハウもない。責任感の強いヒカリがこんな状況の村を放り出して帰るなんて口が裂けても言えないはずだ。

 しかし。

 

「でも、言いましたよね? 朝飯前って? そしてなぜ二日時間を空けたのか。答えはこれです」

 

 私はヒカリに和紙の束を差し出す。

 

「これは?」

「読んでみてください」

 

 和紙を読み進めていくと、ヒカリはどんどんと紙をめくるスピードが上がっていく。

 そして最後の紙を見終えると、ヒカリはばっと私の方を見て。

 

「これって......」

「その通り。ボールの投げ方、性質をまとめた言わばポケモンボールの教科書です」

 

 この世界ではポケモンボールの扱いについて効率的な指導を記した本がなかった。これではどう頑張ってもレベル1から2に上げるにも時間がかかってしまう。そのため、レベル上げを効率的にしたのだ。

 

「ちなみにすでに調査隊や警備隊、村の子供などに試してもらいましたが、近くの的になら当てられるまでに成長しています。近いうちにそれなりの成果がでるでしょう。それとポケモンの育て方や、バトルの仕方など簡単にですがまとめた資料をデンボクさんに渡しています」

 

 本当に簡単なことだ。私があまり干渉しすぎると、未来が変わってしまう可能性もあるからな。

 

「これですぐには無理でしょうが、一年もすればヒカリがいなくても今の範囲の土地も問題なく調査可能でしょう」

 

 誤解してほしくないのは、すべて私の手柄というわけではないということだ。

 教科書のモデルはスクールで使っているものを引用したものだし、どのくらい鍛えれば危険が少なくなるかの基準はヒカリの調査の賜物だ。私のやったことはそれを利用しただけにすぎない。

 

「こんな量二日で終わらせたの? よく見れば、オレンジ隈が」

「まあ、この二日寝てないもので」

 

 うす暗いのでわかりにくかったのだろう。ヒカリはなぞるように私の瞼を触る。

 

「なんで......なんでここまでしてくれるの?」

「馬鹿ですね。かわいい弟子が困ってるのに助けない師匠がいますか」

 

 やることを終えて緊張の糸が切れたのか急に眠気が......。

 

「すいません、ヒカリ。眠気がひどいのでそろそろお暇しますね。それでは......ヒカリ?」

 

 ヒカリは私の袖をつかんでいた。これでは帰れない。

 

「も、もうちょっといない?」

「いや、もう眠気が限界なのですが」

「ここで寝ればいい」

「この年の男女が同じ屋根の下一夜を過ごすのはまずいと思うのですが」

「大丈夫」

「だいじょばない......」

 

 うう、限界だ。

 

「わかりました。泊まりますよ。おやすみなさい」

 

 その後、ヒカリが布団を用意してくれたので私は倒れこむように入りそのまま夢の中に旅立った。

 

 

 □

 

 

 小さな寝息を立てながら眠るオレンジの横で、ヒカリはその顔を覗き込んでいた。

 シンオウを旅していた頃飽きるほど見た顔。不満も持ったし、怒気すら抱いたこともある。そんな顔なのに、今はなぜか心臓の鼓動が速くなる。

 

「たぶんこれってそういうことだよね」

 

 その原因も分かってる。

 治ることのない不治の病だ。

 いや、もしかしたら治るかもしれない。ただ、それには障害も多い。

 彼は自分のことを大切なものとして見ているだろうが、それはloveではなくlikeだ。あっても家族愛に近いもの。

 それに彼を慕う女性は多い。そして軒並み綺麗だ。

 自分なんてという負の感情が湧き上がる。しかし、それではダメだと自分を奮い立たせる。

 

「マイナス思考禁止! これから頑張れば大丈夫!」

 

 英雄の少女は小さく拳を握った。

 

 





 平行世界という設定を十二分に悪用していくスタイル。
 アニポケにヒカリが出た時はリアルで叫んだ。

見たいのは?

  • オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
  • オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
  • オレンジが女の子だったら
  • オレンジの日常

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