トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
だんだん話が進んできた気がする(他人事)
ラテラルタウンに到着した。
赤い土肌が剥きだしになった地面に、石の家。スーパーやコンビニは確認できず、露店の物売りたちが散見される。エンジンやナックルと違って伝統の空気を残す独特な雰囲気を感じさせる。
「ジム戦の予約してくるです!」
「気をつけてくださいね」
ユウリはさっそくジム戦の予約に向かった。
「相変わらず元気ね~」
「ゴーストポケモンへの恐怖心を克服できましたからね~。子供というのはできるようになったものを披露したがるものですから」
「いい意味で単純でいいよね。じゃあ、私たちも行こうか」
「はい」
それを見送ったオレンジとソニアは、さっそく歩き出した。
目的地はこの街にある遺跡だ。何でも古代のガラルの王族が書いたとても巨大な壁画で、その絵は芸術家から高い評価を受けていて、この街の観光名所となっている。
一見ソニアの研究に関係ないように思えるが、何がきっかけになるかは分からない。一応調べるのも研究者の常識であり、性分だ。
「ごめんねオレンジ付き合わせて」
「お気になさらず。謎を解明するのは好きなので」
「本当に謎があるといいんだけどね~」
「安心してください。ないことを証明するのも研究ですから」
「ない前提なんだ!?」
ソニアのツッコミがさく裂する。オレンジはくすりと笑った。
緩やかな坂を歩き、ついに壁画に到着した。
「ほお。これが例の壁画ですか......」
「うん。私も実物を見るのは初めてなんだけど......」
2人は何とも言えない表情で壁画を眺める。
壁画は花弁を青、花びらを赤、そして茎が緑という花がいくつか描かれ、真ん中に太陽っぽい丸が描かれているものだ。
「私のセンスの問題でしょうか? けっこう普通というか、絵というよりらくが......」
「オレンジ。それ以上はやめなさい」
「ですね」
触れない方がいいこともある。
そして二人は思った。多分、この絵は関係ないと。
「戻りましょうか」
「うん。本当にごめん、付き合わせて」
芸術の世界は難しいと、二人の研究者は思い知らされた。
その帰り道。
「おや?」
「どうしたの?」
「いいえ。あの辺りにビートがいた気がしたのですが気のせいでしょうか?」
オレンジが指さした先には人で賑わう露店があるだけで、ビートの姿はなかった。
「いないけど」
「気のせいですかね?」
「ビートくんって、もうラテラルジムは突破したんでしょ? なら、もっと先のジムがある街にいるんじゃない?」
「そうですね。たぶん気のせいですね」
気のせいだと納得して、二人は宿泊するホテルに向かった。
□
翌日、ジム戦の日となった。
今までは予約してから三日ほどかかっていたのだが、以前にも記した通りエンジンジムを突破するトレーナーは全体の10%程度なので、ここからは挑戦するトレーナーが激減するためすぐに挑戦可能なのだ。
もっとも、日にちが早まろうともチケットの倍率は変わらず、むしろ上がっているくらいだ。
そして当然のごとく抽選を外したオレンジはホテルの部屋から、ソニアと一緒に観戦となった。
画面ではいつものようにテンションの高い実況が、ジムリーダーと挑戦者の紹介している。
その紹介に合わせてユウリとジムリーダーが登場すると、会場が一斉に沸き立った。
「相変わらずすごい人気ですね~」
「ねー。これは今日もバトル後は対応が大変そう」
「仕方ありませんよ。その辺は大人の私たちが守ってあげなくてはなりませんから」
「ふふ」
くすりと笑うソニアに、何がおかしいのか分からないオレンジは首をひねる。
「何かおかしかったですか?」
「だって、私たち二人ともユウリが勝つ前提で話してるじゃない? 相手はジムリーダーですごい強いトレーナーなのに。なんかそれが面白くって」
「なるほど。そういえばそうですね」
たしかにと納得したオレンジはつられるようにくすりと笑った。
ソニアは用意していた紅茶に口をつけながら。
「それにしても、オニオンくん? でいいのかな? 多分だけどユウリと同い年か、下手したらそれ以下に見えるんだけど」
「実際年下のようですね。何でもガラルでは最年少のジムリーダーらしいですよ」
「へー、そうなんだ。あの年でジムリーダーになるなんて本当にすごいのね」
「ええ。特にゴーストタイプは動きがトリッキーですから、使いこなすのはなかなか難しいんです。なので、あの年でジムリーダーになれるほど使いこなすのはすごいですよ」
オレンジも受け取った紅茶に口をつけながら、疑問に答える。
雑談をしていると、観客の歓声が大きくなった。目を向けると、どうやらバトルが開始するようだ。
『それではただいまよりジム戦を始めます! 使用ポケモンは2体、シングルバトルです! 両者疑問はありませんか?』
2人は小さく頷く。
『それではバトル開始!』
『いくですよ、アオガラス!』
『アオガァ!』
『......頑張って、サニゴーン』
『サニ』
ユウリはアオガラス、オニオンはサニゴーンを繰り出した。
「ユウリはアオガラスなんだ。てっきりゴースト技を受けないホルビーだと思ったけど、オレンジが何かアドバイスしたの?」
「いいえ、基本的に私はジム戦に口は出しませんよ。おそらくですが、ホルビーを出せばゴースト技を受けませんが、同時にホルビーのメインウェポンも効かなくなりますから。対してアオガラスは空中が主戦場なので、ゴーストタイプの動きにも対応できる。なので、ユウリはタイプ相性よりも戦いやすさを優先したのでしょう」
「そうなんだ。タイプだけで決まらないのね。バトルって深いわ」
ソニアが感心していると、画面の中のバトルは動きを見せていた。
『アオガラス、こうそくいどうです!』
『アオガ!』
アオガラスは空中で残像が見えるほどの速度で飛び回る。まずはすばやさをあげて様子を見る作戦のようだ。
しかし、オニオンはその様子をじっと見ているだけで何も動きをみせない。
ユウリは不気味に感じながらも動かないならば仕掛けに行く。
『アオガラス、つばめがえしです!』
『アオガァ!』
こうそくいどうで上昇させた速度をそのままにサニゴーンに向かって突進していく。
「まずい」
「え?」
オレンジの呟きにソニアは反応する。
その間につばめがえしがサニゴーンに直撃し、画面の中から大歓声が沸き上がった。
ユウリはガッツポーズをしてアオガラスを褒めている。
それを見たソニアは何がまずいのか分からずに、オレンジに聞く。
「まずいって何がまずかったの? アオガラスの技は決まったじゃない」
「決まったからまずいんですよ。見てください、アオガラスの顔を」
「え!? 何あれ!?」
画面を見ると攻撃を当てたはずのアオガラスがしんどそうに顔を青くしていた。
『な、何があったです!?』
『......ほろびのボディ。サニゴーンの特性です』
『ほろびのボディ......』
ユウリは図鑑を取り出して検索する。
ほろびのボディ。物理攻撃を受けると、お互いに呪いをかける。時間が経過すると呪いを受けたポケモンをお互いに瀕死になる。
『いい!? まじですか!?』
ユウリは予想以上に極悪な特性に驚く。
しかし、ユウリはすぐに冷静になる。この特性に類似する技の存在を以前オレンジから聞いたことがあるのだ。
それはほろびのうた。同じく時間経過によりお互いのポケモンを戦闘不能にする技だ。そしてその技への対処法も聞いた。
『アオガラス戻るです。いくです、エースバーン!』
『エスバァ!』
そうポケモンを交代することだ。交代すればアオガラスから呪いの効果が消える。
『物理攻撃は危ないですから、遠距離でいくですよ! エースバーン、かえんボール!』
『エスバァ』
炎の球体をボレーシュートのように蹴りだす。
『サニゴーン、リフレクター』
『サニゴ』
サニゴーンが目を光らせると、目の前に壁が現れる。
『サニゴッッッ!?』
『サニゴーン!?』
壁をものともしないような威力に、引きずるように後退した。その跡は相撲の電車道のようになっていた。
想定外の威力だったのか、オニオンも仮面の下の目を見開かせる。
『さすがすごい威力......やっぱりあのエースバーンは危険』
オニオンの不穏な呟きが聞こえないユウリは、かえんボールが効くとわかり勢いにのる。
『もういっちょいくですよ! かえんボール!』
『エスバァ!』
かえんボールがもう一度向かっていく。
だがユウリもジムリーダーが一度受けた攻撃に対応しないなど思っていない。次の動きのために準備する。
『サニゴッッ!?』
『あれ?』
予想に反してサニゴーンはかえんボールが直撃した。ユウリは拍子抜けしたような声をだす。
そして倒れこんだサニゴーンを審判が確認する。
『サニゴーン戦闘不能!』
『よくわからねえですけどやったですよエースバーン!』
ガッツポーズをしながら、ユウリはエースバーンに声をかける。
しかし、気が付かない。審判は一言もエースバーンの勝ちと言っていないことを。
エースバーンはユウリの言葉に反応することなく、倒れこんだ。
『エースバーン!?』
『エースバーン、戦闘不能!』
『ええええ!? 何があったですか!?』
画面の中で絶叫しているユウリをよそに、同じく何があったか理解できていないソニアは。
「何があったの? ユウリは攻撃を一撃も受けてないはずなのに」
「みちづれですね。戦闘不能にされた相手を道連れにして戦闘不能にする技です」
「そんな技があるんだ。運が悪かったわね......」
「運ではありませんよ。術中にはまったんです」
オレンジの言葉にソニアは首をひねる。
「術中って?」
「最初にほろびのボディの効果を受けた時、私はまずいと言いましたが、あれはそれによりユウリがポケモンを交代させる可能性があるからまずいと言ったんです」
「でも、呪いを受けたら交代させないと戦闘不能になっちゃうじゃない」
「そう。呪いを消すには交代させるしかない。そして今回は2対2に置いて出てくる二体目は自動的にエースバーンになります。要するに、オニオン君の狙いは初めからアオガラスとの同士討ちではなく、エースバーンを引きずりだしてエースバーンとの同士討ちを狙うことだったということです」
「そんな高度な戦略を仕掛けてたんだ......全く気が付かなかった」
客観的に物事が見えるテレビ画面ですら気が付かないのだ。その場で目まぐるしく状況が変わり、常に気を張っているトレーナーに察しろというのはなかなか難しい。
ただ、この状況はなかなか厳しい。
エースを失ったユウリに対して、オニオンは今からエースポケモンを出すのだ。明らかに不利な状況である。
「それにしても、私はゴーストポケモンの特性をまとめた冊子を渡したはずなんですが、あの様子だと、見ていないようですね......バトルが終わったら少しお話が必要ですね」
「あはははは、ユウリどんまい」
説教を受けることを決定したユウリに、ソニアは心の中でご愁傷様と追悼する。
そんな話が進められているとも知らずフィールドのユウリは、相手の手のひらで転がらされていたことを悔やんでいた。
『戻るですエースバーン。ごめんね』
相手の作戦を見破れなかったことを一言ボールに向かって謝る。
しかし、はまってしまったものは仕方ないと切り替えるしかない。
『これで最後ですアオガラス!』
『アオガァ!』
元気に飛び出してきた。呪いが綺麗さっぱり消えて顔色もよくなっている。
『頑張って、ゲンガー』
『ゲンガァ!』
オニオンの最後のポケモンはゲンガー。カントーからおなじみのゴーストポケモンだ。すばやさととくこうの種族値の高さはぴか一である。
両者のダイマックスバンドが赤い光を帯びる。
ジム戦の最後の一体同士。当然のことながら、ダイマックスバトルである。
『アオガラス、ダイマックスタイムです!』
『キョダイゲンエイ......かげふみだよ。逃げられない......逃がさない......!』
2人はポケモンをボールに戻すと、そのボールにルビー色のエネルギーが流れ込んでいき巨大化した。
巨大化したボールを華奢な二人はフラフラになりながらフィールドに担ぎ投げた。
『アオガァァァァァ!』
『ゲンガァァァァァ!』
観客席から今日一の大歓声が上がる。
ゲンガーの姿はいつものピクシーのような姿ではなく、巨大な口に長いベロで下半身が地面に埋まっているかのようになっている。
姿が変わるダイマックス、いわゆるキョダイマックスだ。
『アオガラス、ダイジェット!』
『アオガァァァ!』
巨大な竜巻がまっすぐと向かっていく。
『ゲンガー、躱して』
『ゲンゲーン!』
ゲンガーは影の中に自分の身を隠す。その上を竜巻が通って行った。
『どこ行ったです!?』
『無駄だよ。ゲンガーの姿は誰にも分からない、僕以外には......ダイアシッド』
『ゲンガァ!』
横から巨大な毒の玉が飛んでくる。
『アオガラス、上に逃げろです!』
『アオガァ』
ダイジェットの効果で上昇していた素早さを活かしてギリギリ躱すことに成功した。
しかし、オニオンも攻撃の手を緩めない。
『逃がさない。ゲンガー、キョダイゲンエイ』
『ゲンゲンゲンガーァ』
紫色のエネルギーがカーテン上に広がってアオガラスを包みこもうとする。
『ダイジェットで吹き飛ばせです!』
『アオガァァ!』
竜巻が抵抗するようにカーテンを押し戻そうとする。しかし、ダイアシッドの効果でとくこうが上がったゲンガーの技は一つ威力が違った。
『アオガッッ!?』
ダイジェットが押し負け、キョダイゲンエイをまともにくらってしまった。
一瞬バランスを崩しかけたが、持ち前の負けん気で何とか持ち直した。しかし、なかなかのダメージだ。
『もう一度。キョダイゲンエイ』
『ゲンゲンゲンガーァ』
『アオガラス、ダイウォール!』
『アオガァ』
キョダイな壁がキョダイゲンエイからアオガラスの身を守った。
『一回上空に飛んで距離をとるです』
『アオガァ』
ラッシュの流れを切るために高度を上げて距離をとる。空中戦も仕掛けられるとはいえ、さすがに飛行ポケモンには分が悪い。
そう判断したオニオンも一度攻撃を休める。
息も詰まるような攻防に見ていた観客やソニアも息を吐きだした。
「ふうぅぅぅ......見てるだけなのに汗かいちゃいそう。でも、やっぱりユウリが押され気味だね。エースバーンが戦闘不能になったのが効いてる感じ」
「たしかにエースバーンが序盤で倒されたのはユウリも想定外だったでしょう。でも、ユウリだって何も考えずにバトルしているわけではありませんよ」
「え? 例えば?」
「見ていれば分かりますよ」
そう言って、オレンジは画面の方に視線を戻した。それ以上聞かずに、ソニアも画面に目線を戻した。
フィールドには張り詰めた空気が流れている。
相手の動きを読みあい、どう動くかけん制しあう。......そして先に動いたのは、ユウリだ。
『アオガラス、ダイジェット!』
『アオガァァァ!』
『ゲンガー、そのまま突進して』
『ゲンガァ!』
『ええっ!?』
ダイジェットに耐えながら、ゲンガーは距離を縮めてくる。
『キョダイゲンエイ』
『ゲンゲンゲンガー!』
オニオンは初めにかわされた速度から、大体のすばやさを計算していた。そしてその計算からすれば距離、範囲共にかわされるはずがない。
決まった、そう思った。しかし......
『アオガラス、避けるです!』
『アオガァ!』
『なっ!?』
アオガラスは目にもとまらぬ速度でキョダイゲンエイを躱した。
『ここで隠し玉いくですよ! ダイアーク!』
『アオガァァァァァ!』
『ゲンガッッッッ!?』
口から放たれた黒いエネルギー体はゲンガーに直撃し、ゲンガーは地面にたたきつけられた。
『とどめです! ダイジェット!』
『アオガァァァァァ!』
巨大な竜巻がゲンガを貫くと、土煙が上がる。そして土煙が晴れると小さくなったゲンガーが目を回して倒れていた。
『ゲンガー、戦闘不能! アオガラスの勝ち!よって勝者ユウリ選手!』
『よっしゃああああ!』
審判の判定を聞いて、ユウリは勢いよく拳を突き上げた。
□
「最後、アオガラスのスピードが上がったように見えたけど、ダイジェットの上昇速度って一段階だったよね?」
「はい。だからこそ、オニオン君もあの間合いでキョダイゲンエイがかわされるとは思っていなかったのでしょう。しかし、ユウリは最初の回避の速度を少し遅くすることで、相手に速度を誤認させたのです」
そして隙ができたところに、ゴーストタイプ対策で覚えさせたあくタイプのダイマックス技を叩き込んだというわけだ。
「さて、そろそろジムの方に行きましょうか。おそらく、またマスコミが入り口で張り込んでいるでしょうし」
「そうね。取材が落ち着いたら、おいしいものでも食べさせて......」
ーーードドドーン!!!
突然響いてきた轟音に地面が少し揺れる。
「何があったの!?」
「分かりません。ただ、遺跡がある方向から響いてきたようですね」
持ち前の驚異的な聴力で、音の方向を聞き分ける。
遺跡と聞いて、ソニアは血相を変える。
「すぐに行きましょう!」
「ええ、言われなくとも! ガブリアス乗ればすぐです!」
「それはやめて!」
ソニアは涙目になって拒否した。
Q.何でそんなに身体能力が高いんですか?
橙「私は大したことありませんよ。マイナス10°以下は防寒着がないと死にますし、水泳サメハダーには勝てませんし、がけからまともに落ちたらねん挫しますし......」
見たいのは?
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オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
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オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
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オレンジが女の子だったら
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オレンジの日常