トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
ガブリアスに乗るか乗らないかの論議は、結局折衷案としてオレンジが一人で乗って先に向かうことになった。
断続的に聞こえる破壊音の方に飛んでいると、観光客が遺跡の方を向いてざわざわしているのが見えた。あれを見る限りでは、遺跡の方で騒ぎがあったのは間違いないようだ。
そして遺跡の上に到着したのだが......。
「嘘だろ......」
オレンジはその光景を見て目を疑った。
なぜなら轟音の正体はゾウ型のポケモンが遺跡の絵を破壊している音であり、それを指示していたのはビートだったのだ。
オレンジはガブリアスから飛び降りる。
「......何をしているんですかビート」
そう言うオレンジの声は怒りとも悲しみとも感じられるものだった。
たしかにビートは人を見下すところはあったのだが、最近それも改善傾向にあった。それに彼は人には厳しいが、ポケモンのことはとても大事にしていた。ポケモンを大事にする人間には悪い人間はいない。そう信じていたからこそ、オレンジは生意気なビートをかわいがっていた。
どこか裏切られたような気持だった。
しかし、ビートは動揺した様子もなく淡々と答える。
「どうも、お久しぶりです。何をやっているのかという質問には、遺跡を壊しているところですと答えましょう」
「だからなぜそんなことをしているのかと聞いているんです。分かっているんですか? 遺跡を破壊するのは明確な犯罪行為です! これが公になればジムチャレンジの資格を剥奪されてもおかしくないんですよ!?」
「ジムチャレンジ......そんなものどうでもいい。僕はローズ委員長の役に立つためにねがいぼしを集める必要があるんです!」
「ねがいぼし」
ねがいぼしとはダイマックスなどのエネルギーになる原材料のようなものである。オレンジも、その存在はマグノリア博士の論文を通じて知っていた。
ねがいぼしは鉱山などに埋まっている。
前にガラル鉱山でビートが何やらやっていたが、あれはねがいぼしを集めていたのだと理解した。
「これはローズ委員長の指示なのですか?」
「それは断じて違います。ローズ委員長がねがいぼしを欲しているのは事実ですが、これは僕の独断です!」
ここまでむきになるということは本当なのだろう。
それにローズは経済よりもガラルの環境を守ることを優先するほどの愛国者だ。歴史的に希少な遺跡を壊すことを容認するはずがない。
「それでも貴重な遺跡を壊すことを研究者として容認できません! 今すぐやめなさい!」
「お断りします」
「なるほど。では、力づくにでも止めさせていただきます」
「ガバァ!」
オレンジの言葉にガブリアスがやる気満々にすごむ。
ビートは大して面白くもない喜劇を見たかのように冷たい瞳で笑う。
「あなたが僕よりも強いのは承知していますが、このダイオウドウはローズ委員長のポケモンです。以前あなたは言いましたよね? どんなにトレーナーが優れていようとも、結局ポケモンが強い方が勝つと。ローズ委員長はガラル地方でもトップクラスの実力者であり、ジムリーダーをも凌ぐ強さを持っています。研究者ごときが相手になるようなポケモンではないのですよ!」
他人の威を借りるようなビートらしくない言葉に違和感を持つ。しかし、今はそんなことよりもビートを止めることが優先である。
「僕の生きる道をふさがせるか! ダイオウドウ! 100まんばりき!」
「ダイオウゥぅ!」
「ガブリアス、受け止めなさい」
「ガバァ」
ガブリアスはがっぷりよつで受け止めた。
ダイオウドウは押そうと足に力をいれるが、ガブリアスはピクリとも動かない。まるで屋久杉の大木を相手しているかのような絶望感にダイオウドウは冷や汗が頬を伝う。
違和感に気が付いたビートは焦ったように。
「何をしているんですかダイオウドウ! 早くそのガブリアスを倒してください!」
「無駄ですよ。ダイオウドウは完全に力負けしていますから」
「黙れっっ! ダイオウドウ、はかいこうせん!」
「ダイオォォォ......」
「ドラゴンクローを口につめなさい」
「ガバァ!」
ガブリアスはダイオウドウがエネルギーを溜めるために開けていた口にドラゴンクローをつっこむ。ドラゴンクローのエネルギーとはかいこうせんのエネルギーがぶつかりあい、ダイオウドウの口の中で爆発した。
「ダイオッッッ!?」
「なっ!?」
「至近距離ではかいこうせんは軽率ですよ。撃つのに時間がかかる上に、口をあけている状態では隙だらけですから」
「こんな時にまで助言ですか。随分余裕があるんですね」
「ええ、余裕です。今のあなた程度なら仕事をしながらでも、相手できます」
「っっっ! その人を食ったような態度が本当に気に入らないんですよ! ダイオウドウ、ヘビィーボンバー!」
「ダイオォォォォ!」
巨体を揺らしながらバックステップしたダイオウドウは高くジャンプする。特性ヘビィーメタルにより一tを超える体重を誇るダイオウドウにとってこの技は再高威力の技。
体重も相まって、並みのトレーナーでは簡単にぺしゃんこにされてしまうほどの威力だ。ジムリーダーを超える実力差というのは嘘ではないと理解できる技だ。
避けるのも容易だが、それでは地盤が割れてしまう可能性がある。
「仕方ありませんね。ガブリアス連続でドラゴンクロー」
「ガバァァァ!」
ガブリアスはジャンプすると、落ちてくるダイオウドウに連続のドラゴンクローを与えていく。そして、ダイオウドウの技の威力が落ちたところで。
「ガブリアス、だいちのちから!」
「ガバァァァ!」
「ダイオッッッッッ!?」
普段なら地面に突き立てて地面からエネルギーが噴出してダメージを与える技だが、そのエネルギーを直接ポケモンにぶつければ威力は数倍である。
地に落ちたダイオウドウは目を回して倒れていた。
「ダイオウドウ戦闘不能ですね」
「っ......そんなはずが」
「あなたらしくありませんね。感情に任せた力任せなバトル。あなたの持ち味は相手の戦法を潰しながら自らのペースに持ち込むことでしょう」
そうまるでバトルを覚えたての子供のように何の戦略性も感じさせない。はっきり言って持ち味の一ミリも出せていないのだ。
言葉の端々にも余裕を感じない。オレンジはビートに何かしらあったのだと察した。
「何があったのですかビート? こんなことをしなければならない事情があるなら話していただけませんか?」
手をさし出すが、ビートはその手をはじいてキッと睨んでくる。
「あなたに話してどうなるんですか! あなたのように人に恵まれた人間に僕の気持ちなんてわかるはずがない! 色んな人間に慕われ、信頼されているような人に……。僕にはローズ委員長しかいないんです。あの人に見捨てられ僕に存在価値なんてないんです!」
「たしかに私が人に恵まれていたことはその通りです。しかし......」
「黙れ! あなたの詭弁に満ちた言葉なんて聞きたくない!」
ビートは興奮していて話を聞き入れる様子すらない。
対応に困っていると、ざっと土を踏む音が聞こえてきた。二人はそちらを見ると、息をわずかに切らせたローズとオリーブが立っていた。
わずかに汗をにじませている様子から見て、騒ぎを聞いて急いできたようだ。
予想外の人間の登場にオレンジは目を見開かせながら。
「ローズ委員長? なぜここに?」
「いや、ユウリ君のバトルを見に来たんだけどね。そうしたら、遺跡を破壊している人間がいると騒ぎを聞きつけてきてみたんだが......」
テレビでは触れていなかったが、ローズもユウリのバトルを見に来ていたようだ。おそらくお忍びだったのだろう。同時になぜビートがローズ委員長のポケモンを借りられたのかも合点がいった。
そしてローズとオリーブは、状況を見てすべてを察したようだ。
「ビート選手! ローズ委員長のダイオウドウをお借りしたいって、何事かと思えば、まさか遺跡を壊すなんて!」
「1000年先の未来に比べ遺跡が何だというんですか! そんなあまいかおりよりも甘ったるい考えで委員長のサポートができますか? 秘書として失格といっても過言ではないでしょう」
1000年先の未来? 唐突な言葉にオレンジは首を傾げる。
また、その言葉を聞いていたローズは、厳しい顔をしながらゆっくりと前に出てくる。
「ビートくん......。声を絞り出すけれど本当に残念ですよ。たしかに幼い頃孤独だった君を見出した。才能を伸ばすためにトレーナースクールに通わせたし、昔の私を思い出しチャンスも与えましたよね。ですが、希少な遺跡を壊すようなガラルを愛していない君のような選手はジムチャレンジに相応しくない! 申し訳ないが、君からジムチャレンジの資格を剥奪させてもらう!」
ローズの怒号が広場に響き渡る。
そして下された判決はジムチャレンジ資格の剥奪。それは同時にローズに見放されたのと同義だ。ビートにとってはある意味死よりも厳しい罰である。
ビートはその言葉をまだ受け入れられないのか、顔を真っ白にしながら。
「嘘......ですよね? 僕が失格ということは選んだあなたのミスですよ? 100ある選択肢の中で最も最悪のチョイスです!」
ローズに撤回を願おうと駆け寄ろうとするが、そこにオリーブが立ちはだかり。
「ビート選手。あなたが集めていたねがいぼしは預かっておきます」
「くっ、やめろ! 放せ!」
ビートも抵抗するが、しょせんは子供と大人だ。男女差があろうとも力で相手になるはずがなかった。
持っていた唯一の委員長とのつながりすら奪われ、文字通りビートはすべてを失ったのだ。
オレンジはその行動に口は挟まない。当事者のことに部外者が口を出すのは悪手だからだ。それに今回の処分に関しては100%ビートに非がある。
「嘘だ......嘘だ......」
わなわなと身体を震わせながら、壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返している。いまだに現実が受け入れられていないようだ。
それはそうだ。彼は子供だ、子供に受け入れろというにはこの現実は酷すぎる。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああああああ!」
「ビート!?」
ショックのあまり駆け出して行った。
しかし、ローズもオリーブももはや興味がないかのように平静だ。
「ローズ委員長! なぜ追いかけようとしないのですか!」
「なぜローズ委員長が追いかける必要が? 彼はすでに委員長から見放された人間です。そんな義務はないでしょう」
「あなたには聞いてません」
「んなっ!?」
オリーブは青筋を立てて目を怒らせるが、オレンジは無視してローズに詰め寄る。
「ローズ委員長、今あなたの秘書が言った言葉はあなたの本心でしょうか?」
「......すべてがその通りではないけど、大まかにはあっているよ」
「そうですか。正直、私もあなたの言葉は正しいと思います。ビートは許されないことをしました。ジムチャレンジの資格を剥奪されても仕方ないでしょう。委員長として私情を挟まずに公正な判断をしたことは素晴らしい」
そうオレンジは処分自体に意見があるわけではない。それ以降のことだ。
「しかし、あなたはビートの親代わりでもあるはずだ。 子供というのは道を踏み外すものです。 その時親がするべきことは見捨てることことじゃない、道を正してあげることだ! 見捨てる程度の覚悟しかないのなら、初めから親代わりになどなろうとしないでください!」
同じくずっと期待をかけられていた親にあっさりと見捨てられたオレンジには、その痛みはよくわかるのだ。
それを簡単に切って捨てるローズたちに我慢ならなくなったのだ。
ローズは驚いた様子で目を見開かせているが、オレンジにとって心配なのはビートだ。
「失礼します。ガブリアス、ビートを追ってください!」
「ガバァ!」
オレンジはガブリアスに乗って、ビートの後を追いかけた。
Q.子供の時から今のしゃべり方なんですか?
橙「いいえ。カントーやジョウトを旅している時は偉そうな少年のような口調でしたよ。研究者になるにあたって、失礼がないように矯正したんです」
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オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
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オレンジが女の子だったら
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オレンジの日常