トラブルホイホイな男が、ガラル地方に行くようですよ 作:サンダー@雷
キーンとどこかアラレちゃんを思い出すエンジン音がロビーに響いてくる。旅行シーズンだからか、ラフな格好に身を包んだ人々が笑顔で談笑している姿が目立つ。
私は現在クチバ空港のロビーで自分の乗るガラル地方行きの飛行機を待っていた。
資料や旅支度の確認は昨日の内に一通り終わらせてある。後は向こうに着いた時に考えよう。
そのため、今は特にやることがなく手持ち無沙汰な私は、グリーンと電話をしていた。
『ほぉー。じゃあ今日からガラル地方に行くのか』
「ええ。ガラル地方のポケモンの生態調査にちょっとね」
『そりゃ楽しそうだな……え、大丈夫か? ガラル地方が』
「どういう意味だ」
『惚けんなよ。マサラが産んだトラブルメーカーと呼ばれたお前が、何の事件にも巻き込まれないはずがないだろ』
「喧嘩売ってるんですか? そもそもそのあだ名ツッコミどころが多すぎるんですよ! 私はマサラではなくヤマブキシティ出身です、マサラは産んでません! あとトラブルメーカーではなくトラブルがあちらから寄ってくるんです! よって私はトラブルメーカーではなく、トラブルホイホイです!」
『あんまり変わらねぇだろ……』
失敬な、印象はかなり違う。トラブルメーカーだとただの破天荒な人間のようだが、トラブルホイホイならば巻き込まれてかわいそうな人という印象になる。
私は破天荒とは対角にいる人間だ。
トラブルメーカーとはジョウト地方のゴールドのような人間を指すのだ。少なくとも私には当てはまらない。
『まあお前なら、いざとなれば自力でどうにかできるから、心配ないだろうけどよ』
「その『いざ』は起こってほしくないんですが……」
『諦めろ』
「マジトーンで言うのやめてくださいよ。私だってたまには平和な旅をしたいんですから」
『自分で『たまに』って自覚がある時点でお察しだな』
ぐうの音も出ない。
『まあ、ちゃんと無事で帰ってこいよ。……あ、土産もちゃんと買ってこいよな』
「ええ。昨日臨時報酬が入ったので、そのお金でしっかり買って来ますよ」
『それ元々俺の金じゃねえか!? あれ? 俺もしかしてお前に取られた自分の金でお土産買って来てもらうのか?』
「あなたが負けるのが悪いんでしょう。私だって毎回たくさんのお金をいただくのは心苦しいんですよ?」
『なら、おまもりこばん持たせるのやめろよ!』
「それとこれとは話が別です」
貰えるものはもらう。それが私の座右の銘だ。
それと、そろそろフライトの時間だ。
「では、グリーン。暇潰しに付き合ってもらいありがとうございました。なかなか楽しかったです」
『……楽しめてもらえたなら良かったよ』
皮肉めいたニュアンスだった。
「お土産は『ベトベトン印のドクダミ茶』を一年分買ってくるので、ちゃんと飲んでくださいね」
『おまっ! それくそ不味いで有名なやつじゃねえか!? しかもカントーでも買えるだろ!』
「ふふふ、健康にはいいですよ」
『精神衛生的には不健康だろうがあああああ……プツッ』
ツーツーと音が聞こえる。なぜか電話が切れてしまった(棒)。
私は電話をポケットに仕舞い、立ち上がってううーんと伸びをする。
アナウンスからは『ガラル地方行きの飛行機がまもなく出発します。お乗りになるお客様はお早めにお乗りください』という音声が流れていた。
「さて、向かいましょう。新たな地へ」
□
数十時間のフライトの末、私は遂にガラル空港に到着した。
その後数時間電車に揺られ、ようやく研究所の最寄駅であるブラッシータウン駅に来れた。
すでに長時間座る姿勢を取っていたせいで身体は疲れきっているのだが、電車の窓から見た新世界に私は胸の高鳴りが抑えられそうになかった。
正直今すぐにでも草むらに飛び込みに行きたい。しかし、私はあくまで招待されている身だ。あまり勝手な行動はできない。
一度マグノリア博士に挨拶に行かなくてはならない。だから、現在私は研究所からの迎えを待っているのだ。
相手の写真を渡されたが、それらしき
色黒に紫色の髪で顔には輪郭にペイントのようなものをしている。こちらの文化なのだろうが、タトゥーが嫌われるカントー人から見ればかなり奇抜な外見だった。
名前はダンデというらしい。研究員ではなく、博士の昔からの知り合いだと聞いている。
まあ、こんな風貌の男が入って来たら、すぐに気がつくだろう。
焦りすぎるのは旅を楽しくさせなくする。ゆるりと待っていよう。約束の時間まで、まだ少しあるのだから。
私は『ヌメルゴン探偵の事件簿〜長ネギ殺し、尻は大丈夫か』を読んで、迎えを待つことにした。
□
「ふぅ。面白かったですね」
私は読んでいた小説を静かに閉じる。そして目を閉じて顔を上げ余韻に浸った。
まさかの展開だった。
本当に……
まさか、ハードカバーの300ページにもなる小説を読み終えてしまうとは思わなかった。
時計を確認すると約束の時間はとっくに過ぎ去り、現在2時間オーバーに到達しようととしている。
ここまで来ると怒りを通り過ぎて何かしら事件に巻き込まれたのではないかと心配になってくる。
連絡を取る手段があれば良かったのだが、あいにく私の電話はこの地方では使えないらしい。アローラでも使えたから、この地方でも使えるだろうと安易に考えていたのが仇になった。地図アプリでどうにかしようにも、私の位置情報が知らなくては効果がない。最悪だ。
この際駅員に事情を話して電話を借りてしまおうか。
ーーーダッダッダ!
しかし、私はマグノリア研究所の電話番号を知らない。そのため一度オーキド研究所を経由しなくてはならないから、今回の携帯の失態が知られてしまう。
普段から、やれ天然だなんだと言う戯言を否定して来たのに、ここで電話などすればまた天然だと言われてしまう。
それは不本意だ。
「はっはっはっ! ……やっと着いた!」
考え事をしているところに、汗だくで息を切らせた女性が駅に入って来た。突然のことに私は身体をビクつかせて、その女性を見る。
サイドテールの独特なオレンジ色の髪に、白い肌は上気して綺麗に赤く染まっている。そして何より顔がかなり整っている。それこそ素材だけならイッシュのジムリーダーカミツレに劣っていない。
彼氏さんとの待ち合わせに遅れそうになったのだろうか。
構内を眺めるが、彼女のお目当てそうな男性は見当たらない。
では、電車に乗り遅れそうになったのか。しかし、次の電車が来るまで20分近くある。そんなに急ぐ必要があるのだろうか。
まぁ、少なくとも私ではないだろう。私の迎えはこの男なのだがら。
女性は息を整えてから、駅の中を見回す。
そして私の方を見ると顔を明るくして、こちらに向かって来た。
「あなたがカントーから来たオレンジさんですか?」
突然名前を言われ私は面を食らう。しかし、かろうじで返事を返した。
「え、ええ。そうですけど」
そう答えると、女性はサイドテールを浮かせる勢いで頭を下げた。
「こちらの不手際で長時間待たせてしまい、本当にごめんなさい!」
「ほえ?」
一瞬なぜ彼女に謝られなくてはならないのかと状況が飲み込めずにいたが、少し頭の中で整理し、ようやく理解できた。
「あなたが代わりのお迎えの方ですか?」
「はい。私はソニア。おばあさま……いえ、マグノリア博士の助手をしてる……います」
言い直しが片言のように聞こえて、少しおかしくなってしまう。
「敬語は苦手ですか?」
「い、いいえ……その……はい。あまり得意ではないです」
「崩されて結構ですよ。見たところ歳もあまり離れているように見えませんから。呼び方もオレンジで構いませんし」
「うーん。でも……」
「何なら、お前やそれでも構いませんよ」
「いや、それは駄目でしょ!? ……はっ」
つい素が出てしまい、ソニアは反射的に口を隠す。
「ふふふ、今崩れましたね」
「うう……」
「お前やそれが嫌でも、オレンジならいいですよね? 私もソニアで呼びますので。はい、決まりです」
「もう、分かったわよ……」
ついに観念したようで、ソニアは渋々口調を崩した。
「じゃあ、改めて私はソニア。よろしくねオレンジ」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。ソニア」
「そっちは敬語崩さないのね……」
「はい。この話し方は私のトレードマークですので」
「あっそう。じゃあ、待たせてたところ悪いけど、さっそく研究所に向かいましょう。おばあさまも研究所で待ってるから」
「おばあさま? マグノリア博士のことですか?」
「うんそう。マグノリア博士は私の祖母なの」
「ほぉー、そうなんですか。たしかによく見ると面影がありますね」
「それ微妙に嬉しくないんだけど……」
たしかに妙齢の女性が、高齢の女性に面影を見出されても複雑かもしれない。それがもしも尊敬する祖母であろうとも。女性の心は難しいのだ。
「それにしても孫が研究者の道に行くとはマグノリア博士も喜ばれたでしょうね」
「……うーん。そうでもないと思うけど」
最後の言葉はよく聞こえなかった。しかし、複雑そうな表情をしている。あまり触れない方が良さそうだ。
私は少し影を帯びた後ろ姿に追随して駅を出た。
簡単キャラ紹介
オレンジ→本作の主人公。好きな本のジャンルはミステリー。天然と周りに言われることが不満。あまり自分に何かされても怒らない。
グリーン→オレンジの暇つぶし相手。何だかんだオレンジを心配している。
ダンデ→言わずと知れた方向音痴。今回もそれを発揮して見事にソニアに迷惑をかける。
ソニア→今回色々振り回された人。招待客をすでに1時間以上待たせているという連絡を受けて血の気が引いた。敬語が苦手なのは独自設定。その方が萌える。
マグノリア博士→おばあさま
ベトベトン印のドクダミ茶→臭い、不味い、(蓋を)開けるな危険! がキャッチコピー。危険すぎてテレビ番組の罰ゲームにも使用不可。一度テレビ番組でベトベトンと対決した時は、あまりの匂いにベトベトンが失神したという伝説が残っている。
見たいのは?
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オレンジがアニメ世界に迷い込んだら
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オレンジがポケスペ世界に迷い込んだら
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オレンジが女の子だったら
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オレンジの日常