七星の悪夢 作:クソ雑魚ナメクジ
何時からだっただろうか。この世界がフィクションの世界で、遊戯王の世界だと思い出したのは。
大人らしく成長した遊戯を見てから?
高笑いをしながらカードを宇宙に飛ばすことを宣言した海馬を見てから?
プロ決闘者として活躍している城之内をテレビで見てから?
建設されたデュエルアカデミアの教師を求人しているのを知ってから?
確かにそれらも要因だろう。しかしそれをハッキリと認識し、もはや古くなった記憶を目覚めさせたのはそれらだけではない。思い出す切っ掛けとなったのは、一人の老人だろう。
突然話を変えるが、俺の余命は残り少ない。俺を置いて蒸発した親に押し付けられた借金を返す為に文字通り死に物狂いでデュエル大会を荒らしまくり、賞金稼ぎとして悪名が広がり始めた頃、俺は疲労によって体を壊してしまった。デュエルだけじゃなく、時にリアルファイトにも発展した苛烈な戦いの日々と寝不足、それに加えての不摂生は俺の体が壊れるには充分だった。
それでも生き長らえてるのは、きっと精霊たちが生命力を分けてくれているからだろう。
他人にも自分にも優しく出来ないこんな出来損ないの俺を慕ってくれる精霊たちに、俺は涙が止まらず病室のベッドの上で泣き続けた。
しかしそれで生き長らえても、少しだけ延命されているだけだ。治療法が未確立な病気は根本的にはどうしようもない。親戚だって俺を邪魔者扱いするだけで、友人なんているわけもない。
父親からは理由のない暴力を振るわれ続けていた。
母親からは生まれてこなければ良かったのにと言われた。
そして挙げ句に溜まりに溜まった借金だけを息子の俺に押しつけて蒸発しやがった。
……ふざけるな。お前らの身勝手な行動に俺を巻き込むな。俺は望んでお前らの元に生まれた訳じゃない。お前らの我が儘で磨り潰される為に生まれた訳じゃない。
俺はお前らの都合のいい道具なんかじゃねぇ!
病室のベッドで横たえながら、俺はずっと考えていた。
どうすれば糞どもに復讐出来る?
どうやれば糞どもの心中を掻き乱せる?
どういうことで糞どもに不快感を与えることが出来る?
……そうだ。生きるんだ。生きて、生き続けて、そんで見せつけてやるんだ。俺はお前らの施しが無くたって生きてこれたんだと、お前らが死ねばいいと思ってた奴が平気な顔で姿を現されてどういう気持ちだ、と。
見下して蔑んでいた存在が人並みの人生を歩む姿をみたらどう思うだろうか。俺なら腸が煮えくり返る程憎くなる。だからそれを味合わせてやりたい。
それ以上の報復はこの先生き残る方法を見つけてから考えればいい。今はなんとしても生き長らえる方法を探さねばならない。
そんな時に俺に目を付けた奴がいた。それがその老人、影丸理事長だ。
奴は俺のこれからの治療費と残りの借金を肩代わりし、その対価としてとあるカードを奪い取る駒になれと言った。
その時に全てを思い出したんだろう。それと同時に生き長らえる方法も思い付いた。
三幻魔。それこそが物語のキーパーソンであり、俺が生きられる方法だった。
幸いといって良いものか、転生した際に所持していたカードは全て引き継がれていたのか三幻魔も手元にある。
その力は強大な精霊とは思えない程の微力なものであり、原作のような力は今のところ期待できない。
だから、俺はこの世界の三幻魔を奪い取ることにした。
原作の流れは十中八九崩壊するだろう。ユベルすら欲したキーカードなのだから、その分危険もあるだろう。
だが死ぬよりは幾分もマシだ。別に不老不死になりたい訳でもないし、世界を支配しようなんて下らないことは考えてはいないし必要ない。
まだ死にたくない。まだ生きねばならない。糞どもに復讐したい。それだけの理由で俺は世界を敵に回すことになるだろう。
だからどうした。まだ生きたいと、人並みの人生を送りたいと願って何が悪い。
俺は世界の為に自分の死を選ぶなんてまっぴら御免だ。
俺は見知らぬ誰かの為に自分を犠牲にするなんて到底認められない。
だから俺も覚悟しよう。彼らに殺される可能性が充分過ぎるほどあるのだと。
三幻魔争奪戦に負ければ死。
三幻魔を手に入れても手放せば死。
ならば俺に敗北は許されない。
敵を欺き、味方も騙せ。精霊以外に俺の味方なんて存在しない。他人を一切信用するな。
こうして俺は影丸からの誘いを、快く受けた。
「任せてくれ。あんたの期待は裏切らない。絶対にな」
この日、俺は正真正銘の悪魔になることを決めた。
────────
─────
───
俺がセブンスターズに任命されてから数ヵ月後、俺は奴の計らいでデュエルアカデミアの講師をすることになった。そのタイミングは奇しくも原作主人公と同じのようで、この時から既に影丸に目を付けられていたらしい。
全く不幸なものだ。主人公故の精霊力の高さが仇となってこうして奴に目を付けられ、俺みたいな悪党に利用されようとしているのだから。
だが可哀想とも思わないし、助けようとも余計に関わろうとも思わない。全ては俺が生きるために、人並みの人生を送るための道具に過ぎないからだ。
この世界が遊戯王の世界だろうが、フィクションの世界だろうが知ったことか。使える物は何でも使うし、軽蔑されようと蔑まれようともどうでもいい。
全ては俺の為に使う。それだけだ。
既にアカデミアにはセブンスターズの一人、アムナエルが潜入している。彼と協力していけば計画は奴の思うように進むだろう。それは俺にとっても都合がいい為従うとしよう。狙いどころはレッド寮の副寮長くらいか。ブルー寮はあの白塗りがいるし、イエロー寮は目にいれる必要すらない。
「────て!」
「─────しろ!」
カツカツと革靴を鳴らしながら歩いていると、路地裏の方から何やら言い争う声が聞こえてくる。男女の関係のもつれだろうか。こんなテンプレ染みた光景など滅多に見れる訳でもない。
俺は野次馬気分で路地裏へと踏み込んだ。
──────
────
──
そこでは茶番とも言える光景が繰り広げられていた。
見るからにチャラい男どもが寄って集って一人の女子学生に迫る光景。既に両腕は押さえられており、股の間に足を入れられている。もはやいつ事が起きても可笑しくはない。
女子学生は嫌々と泣きながら抵抗するものの、男三人がかりに勝てるわけもない。とんだ茶番を見せられたものだ。後は無理矢理ヤられて終わりだろう。
別段強姦現場を見るほどの暇も無ければ、性的興奮を得た訳でもない。こいつらが何をしてどうなるかなんて微塵も興味ない。俺は女子学生を見捨てることにした。幸いにも両者の視界に俺は入っていない。立ち去ることは容易だろう。
「止めてください!放して!」
「ちっ!るっせぇな!少し黙ってろよ!」
「あぐっ!?」
黙らせる為だろうか、抵抗する意思をへし折る為だろうか。男の拳が女子学生の腹へと入り、打撃特有の鈍い音が聞こえてきた。それと同時に脳裏に流れてきたのは過去の俺の姿だ。
抵抗する術を持たず、いいように殴り蹴られる、排他すべき忌まわしい弱い頃の自分。そして沸き上がる不快感。気付けば俺は苛立たしげに舌打ちをしていた。
別に女子学生がどうなろうと知ったことではない。正義感から来る行動でもない。他人の為と取る行動なんて論外だ。
「……おい」
「あ?なんだよおっさん───」
苦しげに咳き込む女子学生を見てニマニマとしているチャラ男に背後から声を掛け、こちらを振り向いた瞬間、拳をそいつの顎に向かって思い切り振り抜いた。
バキッ!という小気味いい音と共に意図も容易く吹き飛んでいくチャラ男の姿に少しだけ溜飲が下がった気分だ。
「てめ!?なにしやがる!」
「この────」
「うっせぇな。死ね」
続けて襲い掛かってきた男2人に対して、一人はハイキックで顎を砕き、もう一人は急所を蹴り潰してやった。もしかすると男としての機能が不全となってしまったかもしれないが、それはそれで面白いので放っておく。
2人とも動かなくなったことを確認し、懐から財布とデッキを奪い取る。財布に関しては中身だけ取り出して、本体は海にでも投げ捨てればいい。デッキに関してはどれもこれも金にすらならないものばかりだが、俺を無駄に苛立たせた罰として押収することにした。決闘者に罪があっても、こいつらには罪はない。精霊たちも心配そうに俺を見ているため、別に捨てはしないことを目線で訴えてからバッグにしまった。
「……」
「ひっ……」
事の顛末を見てしまった女子学生はガタガタと震えており、伸びきったチャラ男どもと俺を交互に見比べている。まだ目には涙が浮かんでおり、先程脳裏に浮かんだ過去の姿と重なって見えた。それが更に俺を不愉快にさせる。
「……いけ」
「あっ…うっ……」
「さっさといけ!」
「はひぃ!」
射殺すような視線で怒鳴りつけてやると、女子学生は顔を青くして走り去っていった。全くもって、予想以上に時間の無駄だった。でも、こんな無駄な時間を過ごすことも人並みの人生と言えるのだろう。
取り敢えずこの連中はこのまま放置していても良いことは無いため、業務用のゴミ箱へと捨てておくことにした。
まさかこの日の行動が、後に俺が頭を悩ませる始まりになるとは微塵も考えてはいなかった。