ここ最近、妙な夢をよく見るようになった。
途中まではいつも同じ、違いを挙げるならば現れる男から聞き取れる単語ぐらいなものだ。
(今回聞き取れたのは、暁、車輪.の二つ、今回は少ないな)
聞き取れる単語は日によって変わり、多いときだと7つほど聞き取れた。
会話そのものが聞き取れればいいのだが、未だに聞き取れたことはない。
少し聴いているだけで、いつものようにひどい頭痛が始まり、そこで夢が終わってしまうのだ。
自分の机に向かい。そして、引き出しを開け奥に隠すようにしまってある一冊のノートを取り出した。
ノートを開くと、曜日ごとに几帳面に枠で区切られ、その日いくつの単語を聴いたか、どんな単語か、状況はと、この年では考えられほどきれいにまとめられていた。
今日の日付を書き、夢で聴いた単語を忘れないうちに書き記す。
(今回も同じ単語はなしか、いったい何の意味があるんだ)
ノートに記されは単語はすでに60を超えた。
単語から、何かを示しているだろうと考えているのだが、さっぱりわからなかった。
(とりあえず、考えるのはあとにするか・・・汗で気持ち悪いし)
相当汗をかいたのか、寝間着はランニングでもしたかの様に濡れていた。
(シャワーでも浴びるかな)
ノートを閉じ、再び引き出しの奥へと隠し自分の部屋を後にする。
浴室へと向かうために一階へ降り、リビングにさしかかると香ばしい臭いが流れてきた。
そっと扉を開けのぞき込むと、イタチの母親であるミコトがテレビつけたまま朝食の準備をしていた。
「あら、イタチ今日も早いのね。まだ朝ごはんはできてないわよ」
テレビを見れば、朝のニュースがちょうど5時半を伝えていた。
子供が起きる時間にしては早いだろう。
「おはよう、母さん。ちょっと早く目が覚めて、それに結構汗をかいたからシャワーを浴びようと思ってもう起きたんだ」
「そうなの?少し顔色が悪いわよ。大丈夫?」
ミコトが作業の手を止めて、イタチの顔をのぞき込んだ。
「大丈夫だよ」
「そう、熱はないみたいね。もしかして、またあの夢をみたの?」
イタチの額に手をあてながら、心配そうに聴いてきた。
「もう見てないよ。風邪引くかもしれないからシャワー浴びてくる」
子供らしい笑顔を振りまいて、逃げるよにしてイタチはリビングを後にした。
「、、、そう 」
ミコトは少し言いよどむ。
嘘をついていることは、母親の感からすぐにわかった。しかし、それを聴いてもイタチはうまくごまかすのだろう。
浴室へ向かう息子の背中を見送り、再び朝食の準備に取りかかった。
子供なのだから、もっと親を頼ってほしい願いつつ。
浴室に入り、お湯の栓を開く。
熱いお湯が細身の体に降り注ぎ、体が温まっていくのを感じる。
ふと鏡を見ると、年相応の男の子姿が映った。短く切りそろえられた黒髪に黒い瞳、同年代としては少し細身の体が映し出される。
顔は、美少年といってもいいほどだ。
(あの夢を見るのは、これで、21回目いったい何を意味してるんだ?)
鏡に手をつき考える。
初めてあの夢を見たのは三ヶ月前だった。
最初はイタチ自身もテレビで放送していた映画の影響だろう考えていた。しかし、同じ夢を定期的に何度も見るようになると考えが変わった。
両親にも話したことはあったが、ホラー映画やドラマの影響だろうと言われるだけだった。
だが、同じ夢の話を何度もするたびに、最初は笑っていた両親の顔は次第に曇っていった。
ついには、病院へ連れていかれ精密検査するにまでに事が発展した。結果はとくに異常なしだったが。
そんなことがあって以来、イタチは両親に夢を見なくなったと嘘をついた。
両親に心配をかけたくないいう気持ちもあったが、このことは自分で解決しなければいけないとなぜか考えていた。
囁くのだ、心の奥が。
シャワーを浴び終え、リビングに戻るとすでに朝食準備は出来ていた。
イタチは自分の席に着く。
しばらくすると父親のフガクが起きてくる。
眠そう目をこすりながら、どことなくふらついているのが見て取れる。
「、、、お、イタチか早いな」
「あ、父さんおはよう」
「あら、あなた大丈夫。何だかふらついているけれど」
「ああ・・・少し研究の内容を詰めるのにるのに時間がかかってな。結局、寝るのが明け方になってしまったよ」
フガクの仕事は大学教授で、聖祥大学にて研究の傍、教鞭をとっている。なお、専攻しているのは生物学である。
なお、ミコトは製薬会社勤務である。
「そいえばイタチ、今日も図書館にいくの?」
朝食を食べているイタチに、ミコトは尋ねた。
「ん、そうだけど」
イタチは最近図書館に通い詰めている。あの夢について調べることが目的だ。
彼は私立幼稚園に通っていたが、あまりの聡明さには100年に一人の天才といわれるほどだった。
大人でも理解出来ないような本を読み理解し、驚くほど論理的に行動する。
時には、大人顔負けの発言をすることもあった。そのため、同年代の子供とは折り合いが悪く、あまり友達という存在がいなかった。
親もそのことについては思うことがあるらしく、せめて勉強だけでなく友達を作ってほしいと考えている。
「はやく、帰ってくるのよ。もう、春といっても、まだ日が落ちるのは早いのだから」
ミコトは心配した瞳でこちらを見ている。
イタチは調べ物に時間を忘れ、帰るのが夜になり両親を心配させたことがあった。
一応携帯を持っているのだが、どうも熱中すると見ることを忘れてしまう。
気がつくと閉館時間で外は真っ暗、着信多数という事態になっていた。
「今日も朝っぱらから行くのか、春先とはいえまだ寒いぞ」
「早くからいった方が長く本が読めるから朝からいくよ」
父親の問いにイタチは答えた。
「そうか、、、」
「じゃあ、お弁当作ってあげるから持って行きなさい。でも前みたいに夜までいちゃだめよ。最近物騒なんだから」
テレビへ視線を向けると、連日お茶の間を賑わせているニュースを放送していた。
どうも、凶悪犯が脱走しこの町に潜伏しているらしいという内容だった。
「はい」
朝食を食べ終わると、イタチは自分の部屋に戻り図書館に行く準備を始める。
黒いコートを羽織、引き出しに隠してあるノートを鞄に入れる。
鏡を見て髪型を整える。
(そんなに、顔色が悪かったかな?)
そんなことを考えながら自分の部屋を後にした。
支度が終わり、玄関で靴にひも結んでいると後ろから声がした。
「イタチこれ、お弁当」
「ありがとう、母さん」
きれいに包まれた弁当袋を手渡した。
「なにか心配ごとがあればいいなさい。あなたは一人じゃないのだから」
「大丈夫。わかってる」
ミコトはすでに気づいている。イタチが夢の事で悩んでいることを、そして、親に心配をかけまいと嘘をついていることに。
イタチにはどうも問題を一人で背負い込んでしまう癖がある。
本心をいえば、イタチにはもう少し親を頼ってほしいと考えていた。
子供なのだから甘えてほしいと。
「じゃあ、行ってきます」
元気よくドアを開け外に出た。
庭から空を見上げると、天気予報では晴れて春並みの気温になると伝えていた。
だが、空は、少しよどんでいた。