手を繋いだ二人は無言のまま、薄暗い帰り道を歩いていた。イタチは俯いたままだ。
沈黙を破ったのは母親だった。
「そういえば、あれだけ警官がいたのにもう姿が見えないわねぇ」
あれほど、昼間にいた警官の姿が今はまったく見えなかった。それどころか、人っ子一人いない。完全に無人だ。
周りの民家は全て電気が消えておりまるでゴーストタウンのようだ。
「もしかして、もう捕まったんじゃないかな」
「そうだといいけれどね」
その時、奥のブロック塀物陰で何かが動いた。
「ん……?猫……かな?」
「どうしたのイタチ」
「いや、あそこで何かいたような」
「やあね~脅かさな・・・」
母親の言葉が突然途切れた。握られていた手が離れるのをイタチは感じた。
「え……母さん?」
鈍い音が響と母親はイタチから10メートルほどのところに倒れていた。
「か……母さん!」
イタチはすぐさまミコトへ駆け寄よった。母親を抱き起こすと手に生暖かい液体が触れたのを感じた。血だ。
イタチの手は真っ赤に染まっていた。
「あ…あああ……」
イタチの顔から血の気が引いていく。
「ふむ……どうやら人違いだったか」
突然声が響く。低い、どこか不気味な声だった。よどんだ雲の隙間から月明かりが漏れる。
イタチは声のした方振り向くとそこには異様な姿の優男が立っていた。身につけている黒いスーツはぼろぼろで、左腕を怪我をしているのだろうか布が巻かれ紅く滲んでいた。髪型だけはしっかりとオールバックに決めているところをみると、そこだけは男の譲れないところなんだろう。
開かれた口の犬歯は月明かりに照らされ人間しては異様に長いく見えた。まるで、吸血鬼のように。
「く、だ……だれ」
イタチはすぐに助けを呼ぼうと声を張り上げる。
だが、叫び終える前にイタチは男に蹴り飛ばされブロック塀にぶつかる。
「くは……」
イタチから嗚咽が漏れた。
男はイタチからは5メートル以上ななれていたはずが一瞬で距離を詰めたようだ。常人が見たら男が瞬間移動でもしたのかと思うだろう。
倒れたイタチは身悶えた。どうやら、肋が折れたようだ。今まで味わったことのない痛みが全身を駆け苦悶の表情を浮かべる。
「辞めてもらえないか。せっかくここまで逃げれたと言うのに。母親にならわなかったのかな?夜になる前に家に帰りなさいと」
男は髪をかき上げながら言う。
その言葉にイタチは後悔した。
(そうだ・・・僕が・・僕が・早く帰らなかったから・・こんなことに。あんな夢のことなんて調べなかれば・・・こんな・・・・こんな・・・)
自責の念が脳裏を巡る。
「私はこう見えても博愛主義者なのだが、今の私に記憶操作なのどしている暇がない。己が不運を呪ってくれ」
優男は顔を手で覆い隠しながら、一歩一歩近づいてくる。
静かに、確実に近づいてくる死の音にイタチは目をつむった。
(く…くそ…………)
「何をしている?」
そのとき声が聞こえた。聞いたこのある声だ。
目を開くと周りがいつの間にかあの夢の光景に様変わりしていた。
町並みは消え、野原が広がり、空は紅く烏が中を舞う。しかし、今回は倒れている死体はなかった。鼻につく血の匂いもない。
そして、傷の痛みもなかった。
「ここは……夢の…………」
「思い出せ。自分が何者であったかを、でなければ死ぬ事になるぞ」
声の方を見るとあいつがいた。
いつものように黒地に赤雲の模様がついた外套と、笠を身につけて男が居た。
男から放たれる言葉はいつもと違いはっきりと聞こえた。
「何を言ってるんだ。おまえは!」
イタチは腕を振り抜き男に向かって叫んだ。
「思い出さなければ死ぬぞ。また、母さんを殺すのか?」
「何を…また…………どういうことだ?」
突然現れ母親を襲った男、血を流し倒れる母親、訳のわからない言葉を吐く夢の男、すでに思考はパンク寸前だった。
男は笠に手をかけると笠を外した。初めて男の顔が現れたる。その顔はどことなくイタチに似ているように感じた。
「思い出すんだ、自分が何者であったかを」
そう言うと男の紅い瞳の模様が変化を始める。三つの勾玉模様が三枚刃の手裏剣へ。
「!」
その瞬間、イタチの脳裏に様々な情景がよぎった。
四人の顔が掘られた岩抱いた町・・・
木の葉のマークが掘られた額宛して様々な術を使う忍・・・
紅い瞳、写輪眼を持つ一族、うちは一族・・・
うちはの自分と同じ名前、同じ顔をもつ少年、その軌跡・・・
そして、赤髪螺旋の浮かんだ紫色の瞳を持つ男・・・
暁・・・
それには、全ての答えが詰まっていた。
(・そうか、だから・・僕は・・いや俺は・・・この夢に固執していたのか)
周囲は現実へ回帰する。刹那の出来事であったが、イタチにはとても長い時間に感じていた。
イタチは静かに立ち上る。
「おや、立ち上がれるとは」
俯いているために男にはイタチの顔がよくみえない。
イタチは静かに顔を上げる。閉ざされた瞳が静かに開かれた。
「な・なんですかすれは・・・」
そこにあったのは紅い瞳だった。
夢の男が持っていたものと同じ紅い瞳。
黒かった瞳は赤く染まり。黒い勾玉模様が一つ浮かんでいた。
瞳を見た男は身震いした。
(な……体が動かない!)
男は恐怖した。イタチの瞳見た瞬間まるで金縛りに遭ったかのように体が動かなくなったからだ。
イタチは歩き出し、倒れている母親に寄る。
(腕、それに肋も数本いってるか、内蔵が損傷している可能性もある。早急に処置が必要か)
「く……あなた何者で「だまれ!」
男が何とかひねり出した言葉はイタチの一言で遮られた。
イタチは立ち上がり男に近寄る。
(なんなのだ・・・この子供はもしや、同族だとでも言うのか)
男は必死に体を動かそうとするが、無駄なあがきだった。
立場すでに逆転していた。
「教えてもらうぞ、全てを」
「な…に…………」
(幻術・写輪眼)
術式構成。トリガーを引き、イタチは男の瞳を見る。
すると、男の目はうつろい。焦点が消える。まるで催眠術にかかっているようだ。
「おまえは何者だ?」
「夜の……一族」
「夜の一族とは?」
「吸血鬼」
「なぜ、逃げていた?」
「月村の令嬢の誘拐しに失敗した、や・・やつらも同族だ。だが、失敗し俺だけがなんとか生き残った。みんな、あの男達に倒された」
「あの男とは?」
「わからない。小太刀を二本武器にしていた。剣士だった」
「最近の騒ぎの原因はおまえか?」
「そうだ、やつ・・らは表の力も使い私を追い詰めそうとした」
「そうか……」
イタチが質問を終えると男は人形のように倒れた。完全に気絶しているようで、動く気配はなかった。
「ふぅ~~」
イタチは息を吐と瞳がいつもの色に戻る。
(この程度で、これほど疲労するとは修行を始めたころと同等のチャクラ量か)
今、イタチのチャクラはないに等しかった。チャクラとは術を使用するためのエネルギーで、身体と精神エネルギーの事を言う。
「身体エネルギー」とは、人間の身体を構成する膨大な数の細胞一つ一つから取り出すエネルギーで「精神エネルギー」は、修行や経験によって蓄積したエネルギーのことをいう。
なんの修行もしない状態イタチはこの量がほぼない。むしろ、術を発動できるだけあってよかったようなものだ。
さらにこの瞳、写輪眼は展開しているだけでもチャクラを消費する。
(ん?人の気配がする。近いな。増援か、だが奴は一人といっていたな。ということは奴の仲間を倒した男達か?)
感覚を研ぎ澄ますと人の気配がする。
周囲を見回す。倒れた男。血を流す母親。優先すべきは母親だ。怪我の状態がひどく早く病院に連れて行かなければならない。
だが、もし相手が敵だったらとイタチは考える。チャクラはすでになく。術も、写輪眼も使えない。無理をすれば一回くらい使えるかもしれないが、その後倒れてしまうだろう。
(天に、祈るしかないか…………天か…)
イタチの脳裏に一人の男の顔が浮かぶ、赤髪螺旋の浮かんだ紫色の瞳を持つ男。
「長門」
イタチは母親に寄り添う形で横になる。ごまかしていた折れた肋骨痛みが響く。
「父さんこっちだ!」
かん高い声が聞こえる。もうすぐそこに迫っていた。
「大丈夫か……ん?どうなってるんだ?それより、救急車だ。父さん!」
どうやら、イタチは賭けに勝ったようだ。
しばらくして、救急車が到着しイタチたちは運ばれていった。
「いったい何があったんだ?」
イタチを発見した男・・・高町恭也は思う。
あの吸血鬼は気絶していた。第三者がいたのだろうか、だがそんな気配はしなかった。
見上げた夜空には、雲の隙間から赤い月が輝いていた。