修行を初めてすでに一年がたった。あの事件以降吸血鬼の襲撃はない。
学校では相変わらずはやて以外の友達はいない。ただ、クラスメイトのアリサという金髪の少女だけは定期的にイタチに突っかかってきていた。
どうやらイタチの成績が気に食わないらしい。イタチの成績は常に学年一位。アリサの成績も同列一位と並んでいる。そのことでどうやらアリサにライバル視されているらしい。
この前テストで一点差でイタチが勝った時など。
「今回は調子が悪かっただけよ。わかる!今回調子は悪かっただけなの。だからあんたに負けたわけじゃないんだからね!」
などと聞いてもいないこと目尻に涙をためながらを話して消えていった。イタチは特に気に様子もなく毎回聞き流している。
とまあ、そんな事が定期的にありつつもイタチの平和な学園生活が続いている。
ある晴れた日の休日、木漏れ日が漏れる森の中でイタチはいつものように修行していた。
服装は黒いTシャツに黒い短パンと黒一色。
最近、両親を説得してようやく自由に外出できるようになったおかげで、こうして昼間に堂々と修行ができるようになった。
まあ、影分身ができるようになってからあまり関係ないのだが。学校生活も本体は受業を受け、分身は修行するという二重生活が半年前から続いている。
円状の的の書かれた丸太に手製のクナイが連続で突き刺さる。クナイと言ってはいるが、見た目は薄い鋼鉄のヘラだ。
「だめか……」
腕を組みつつイタチは呟いた。
数本のクナイは見事に円の中心を射抜いているのだが、よく見ると数ミリずれていた。
このクナイはイタチ自ら削り出したものだ。深夜に工場に忍び込み、工作機械を拝借して制作したものだ。
だが、所詮素人が制作したもの。精度にばらつきがあった。こういうものは、精度が均一でないと修行に支障が出る。
イタチは優秀な忍だが、道具作りの達人とまではいかない。
前世では、道具関係は優秀な裏の職人から買っていた。しかし、今のイタチにはそんな伝手はない。ネット通販で仕入れようと考えてはみたが、物が明らかに殺傷用ではなく鑑賞も主に作られているものがほとんどだったためあきらめていた。
一年の修行により、そこそこチャクラは増えてきたものの全盛期には程遠い。
「やはり、専門の職人が作ったものがほしいな。とわ言え、この世界ではこんなものを作る職人は知らないしな。どうしたもか」
前世の世界より進んだ銃器を使うことも考えたが、消炎反応やらなんやらと科学的に調べる方法が現代には多いことを知り、結局慣れ親しんだものに落ち着いた。
「ん?」
一羽のカラスがイタチの肩に止まった。
このカラスはイタチの使役している。口寄せ動物だ。
口寄せの術は血で契約した生物を好きな時・好きな場所に呼び出す術で諜報戦や戦闘などで活躍する。だが、このカラスは少し特別だった。
カラスの左目に写輪眼が埋め込まれていた。もちろんイタチのものではない。
この写輪眼は前世の親友、うちはシスイの目だ。シスイはイタチとともにクーデターを止めるために奔走し、志半ばでイタチに目を託して死んだ。
このカラスが現れた時、イタチはとても驚いた。初めは口寄せの実験にと普通のカラスと契約し、呼び出してみたらこいつが現れたのだから。
これも長門の力なのかはわからないが長門には感謝している。一部とはいえ前世の親友に会えたのだから。
いつもの修行場からの帰り道、海が見える街道を歩いていると見知った二人組が目の入った。
「あれは、月村とバニングスか」
どこかへ遊びに帰りだろうか、何かが入った紙袋を持って二人仲良く歩いている。
イタチはあの二人が仲が良いことは知っていた。あともう一人、高町というツインテールがトレードマークの少女とよく学校で仲く話しているのを見かけていたからだ。
「月村か……」
チャクラが増えたこの一年、月村について調べようと何度か試したことがある。変化の術で屋敷の近くに行ってみたり、口寄せの術で使役しているカラスを送ってみたりしていた。
だが、有益な情報は得られなかった。得られたのは、月村の屋敷がまるで城塞のように迎撃装置や監視カメラ仕掛けられ、侵入することが困難だと分かったくらいだ。
イタチがしばらく遠目で二人を眺めていると、二人の前方から黒塗りのバンがやってきた。
黒塗りのバンは二人の横に止まったと思うと、突如急発進する。
バンが過ぎ去ったあとには二人の姿は忽然と消えていた。さながら、映画のような光景だ。
「まさか、白昼に堂々と誘拐をするとはな。まったく、映画じゃあるまいしセオリーがなってないな。月村が誘拐されたとなると例の件か。バニングスも資産家の令嬢だからそっちの線もあるが
さて、どうするかな……」
イタチは街路樹に視線を向ける。
そこには一匹のカラスが止まっていた。
廃墟のとなった工場。すでに設備は錆びつき、二度と動かされることはないだろう。
地権者も解体コストから放置され、完全に忘れ去られている。時折、不良グループがたまり場にしていたのか色とりどりのスプレーでの落書きが見える。
すすがとアリサは縛られた状態でイスに座らされていた。
場所は工場の倉庫部分。昔はたくさんの荷物があったようだが、今はただ薄暗い広い空間が広がるだけ。
すすがはすでに目を覚ましていたが、アリサは隣でまだ眠っている。倉庫にただ一つある出入り口から誰かが入ってきた。
「すみませんねすずかお嬢様。こんなような錆びれたところにお越しいただいて」
きっちりとスーツを着込んだ優男がすすがに非礼を詫びながら近づく。
口元から鋭い犬歯が見えることから、彼も吸血鬼なのだろう。
「あなたたちが無理やり連れてきたんじゃない。アリサちゃんは関係ない!解放してあげて!」
「まあ、これからの保険というやつですよ。あなたのお姉様がおとなしく我々の要求を飲んで頂けさえすれば、すぐにでも解放いたします。
それに、大声で叫ばれてはご友人が起きてしまいますよ。知られたくないでしょう?大事な友人に自分は化け物だったと」
「う……」
吸血鬼の言葉にすずかはアリサを見た。
誘拐された時に嗅がされた薬が、よくきいているのかアリサは起きる気配がない。
すずかは自分が吸血鬼だと言うことを友人にも秘密にしていた。一族の掟ということもあるが、ばれれば今のような友人関係では居られなくなるとわかっているからだ。
すずかは俯いたまま、口を閉ざす。
「まあ、もうしばらくお待ちください。時期に別の者がお迎えに上がりますので」
「年増もいかない少女相手に、真昼間から誘拐とはセオリーがなってないな」
薄暗い倉庫に声が響いた。
「「!」」
すすがと吸血鬼は声のした方を向くと一人の男が立っていた。
身長は170台後半、黒髪で黒地に赤い雲の模様がついた外套を着込んでいた。
その男で一番特徴的なのは瞳だろう。
紅い瞳。それには勾玉模様が一つ浮かんでいた。
「誰だ。」
吸血鬼が叫ぶ。
「その質問に答える意味はあるのか?ここにいる以上、お前たちの敵以外ありえないだろう」
「外にいた部下たちはどうした!」
「彼らには眠ってもらった」
「馬鹿な、十人以上いたのだぞ。それを、音もなくやってのけたというのか」
すぐ外には十数名の部下たちが配置されていた。
だが、彼らからは何の音さたもない。多少抵抗したのならこちらに何かが聞こえるはずだった。
「それができるからここにいるのだが」
「クソ!」
吸血鬼はスーツの懐から銃を取り出し赤い目の男に銃身向け引き金を引く。
だが、銃口から火が噴くことはなかった。
なぜなら、銃そのものが吸血鬼の手から離れ、はるか後方に飛んでいったからだ。
軽い金属音がむなしく響く。
「なにが…」
吸血鬼が後方の銃を見ると、鉄のヘラのような物が刺さっていた。
前にいる男が投げたに違いないのだろう。だが、吸血鬼には相手が手を振る動作も、飛んでくる物も目に入らなかった。
吸血鬼はゆっくりと男に向き直る。男は現れた時と同じくただ直立していた。
「戦闘中によそ見とはな」
「なに!」
男は静かに右腕を胸元まで上げると、指を鳴らす。
パチンという音とともに男の姿がたくさんのカラスとなって飛散した。
「なに!」
「え!」
これには、吸血鬼もすずかも驚いた。
人間がまるで手品のように、消えたのだから仕方ないことだろう。
「さて、終わりにするか」
男の声がどこらともなく響く。
「どこだ!どこへ行った!」
吸血鬼はあたりを見回しながら叫ぶ。
叫び声は、倉庫中に木霊している。だが、男の姿は見えない。
「ここだ」
「な!」
声の方を振り向くと、吸血鬼のすぐ目の前に男の顔があった。
赤い瞳が目に入る。
幻術・写輪眼
「!!」
写輪眼による幻術で吸血鬼は意識を失い崩れるように倒れた。
男はすすが達に近づくと、二人の拘束を解く。
「これだけの騒ぎの中寝ているとは、すごい神経だな」
アリサはまだ眠っていた。
「たぶん、人には強い薬だったんだと思います。ええと、あの、あなたはいった。あ!もしかして、恭也さん達の関係者ですか?」
すすがの質問に答える前に、一羽のカラスが飛んできて男の肩に止まった。
すすがは入ってきたカラスを不思議そうに見つめる。
「意外と早いな」
「え?」
こちらに誰か迫ってくる足音が聞こえる。
「すずか!大丈夫か」
「すずかお嬢様!」
現れたのは胴着姿の青年とメイド姿の女性。
明らかに場違いな二人だが、まとう気配は明らかに有段者の気配だった。。
胴着姿の青年は赤い瞳の男とすすがを視線に収めると、先手必勝とばかりに二刀の小太刀で切りかかった。
突然のことにすすがは驚いたが、男は冷静にそれをよける。
青年はすすがを守るように間に立ち小太刀を男に向ける。メイドも男の後ろで構えをとっている。
「恭也さん!ノエル!違うの!この人は私たちを助けてくれたの」
「なんだと!」
すずかが青年、恭也の胴着をつかんで彼を止める。
「まず人質を優先する。その判断は間違ってはいなが相手の力量を確かめることが先決だと俺は考えるがな」
「なに!これはお前がやったのか!お前は何者だ!」
「今はそんなことよりその子を病院に運ぶことが先ではのいのか?」
男はアリサをを指差した。
薬で眠らされているとはいえ、万が一があるかもしれない。
「く、確かにそうだな」
「では、あとはまかせたぞ」
「何!」
男は振り向くと、後ろにいたメイドのことなど気にもとめずに横切り出口へと向かう。
後のことは、すべて恭也たちに任して帰るつもりらしい。
「お待ちください!」
メイドが声を張り上げた。
「なんだ?」
男は脚を止めた。
「わたくし月村家にてメイド長をしておりますノエル・K・エーアリヒカイトと申します」
「それで、それがどうした?」
「今回の状況についていくつかお聞きしたいことがあります」
「今からか?」
「いえ、受けて頂けるならそちらのご都合のよい時間帯で構いません。ただし、場所はこちらで指定させていただけないでしょうか」
ノエルも要求が通るとは思ってはいない。
目的はただ、相手の脚を止めるため。この事件に何かしら関わりがある以上調べなくてはならない。もし、この一方的な要求が通らなければ、最悪相手を捕縛しなければならなかった。
相手の力量を恭也が測る時間を稼ぐ為にノエルは声をかけたのだ。
男が前を向いているため、表情は見えないが考えているらしい。
「このカラスで連絡する」
男がそう言うと肩にとまったカラスが飛び立ちすずかの肩に止まった。
すずかは突然のことにぽかんとしつつカラスを見つめた。男はそう言うとそのまま、帰ってい行った。
「恭也様、彼に勝てますか?」
「わからない。俺でも実力を測りきれなかった」
去って行く男の背中を見つめながら恭也は男について考えていた。
廃工場から離れた森の中男が印を結ぶと、ボンという煙とともに姿が変わる。
現れたのは、イタチだ。
「接触するには早い気もするがまあいい」
イタチは今回の事で月村に接触するつもりだ。
「再び吸血鬼が現れた以上早急に情報を得る必要があるな」
全盛期に満たないイタチにとっては賭でしかないが、情報が何よりもほしかった。
イタチは空を見上げる。
時はすでにオレンジ色に染まっていた。