魔法少女リリカルなのは〜暁の軌跡〜   作:komokuro

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第08話 依頼

 あの夜の会合の後、イタチの生活が特に変わったということはなかった。

 いつもの様に本人は学校に行き、分身は修行をする。全盛期にはほど遠いが、写輪眼を常に発動していることが苦にはならないレベルにはようやく達していた。

あのとき、忍から渡された携帯はGPS等の探知の可能性を考えて分身に持たせ、逐一森の中を移動している。バッテリーが切れそうになれば、コンビニで買った電池式の充電器で充電する。

なかなかの出費だが、ため込んだ月々の小遣いを切り崩して凌いでいる、

 

「あれから3日、今日も特に連絡はなしか」

 

 森の中で切り株に座るイタチの分身が呟いた。

 

「分解してみたが、特にGPS等は組み込まれていなかったしな。まあこちらにわからない様にシステムに細工がしてあるのならばお手上げだがな。

それにしても、意外とあっさりとこちらに協力してくれたな。まぁ、何か向こうにも意図があるのだろう」

 

 もともと月村家とは何とか協力関係を結ぶつもりだった。

 幼く、ほとんどの力を失っているこの身体ではできることが限られている。

イタチが上を向くと、片目に写輪眼が埋め込まれたカラスと目が合った。

 

「そういえば、あいつをすずかに預けたままだったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから特に何事もなく一週間が過ぎた。

 学校ですずかの様子をうかがっては見たが、特に何かが起きているわけではなさそうだ。

 今日もいつもの修行メニューをこなしていると、突然連絡用の携帯が鳴った。

イタチは、瞬時に術で姿を変え電話にでる。

 

「なんだ?」

 

「例の物が用意できたわよ。それと、悪いんだけど早速お願いしたいことがあるのだけれど」

 

「仕事の依頼か?」

 

「ええ……そんなところよ。突然で悪いんだけれど今日此方に来れるかしら」

 

「ああ、問題ない。時間は前回と同じでいいのか?

「え、ええ。前回と同じ時間でお願い。じゃあ宜しくね」

 

 ピッという音とともに通話を切る。

 前回の契約時、武器等の提供を約束させイタチはリストを渡していた。

忍からはいいままで武器の調達をどうしていたのと聞かれたが、イタチは知り合いが廃業したおかげでこの手の物が手に入らなくなった誤魔化した。

忍この返答に疑問を抱いていた様だが、特に追求はなかった。

 

「さて、ここからか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、時間になった。

 前回と同じように分身を向かわせる。

 月村の屋敷に着くとノエルがライトを持ち待っていた。目線が合うと門が開く。お互いに会話はなく、ノエルは後ろを振り向き屋敷へと向かう。

前回の事がまだ尾を引いているからか、明らかな警戒の気配を感じた。

 イタチはノエル後を追いながら呟いた。

 

「前回は済まなかったな」

 

「いえ、しかたがない事です。それに忍お嬢様があなたを信頼すると言われました………私はそれに従うだけです。

ですが!どうか忍お嬢様の信頼は裏切らないでください」

 

「ああ…」

 

 広大な庭を抜け屋敷に入る。

 前回はあまり気にしなかったが、豪華なシャンデリアが吊された吹き抜けのエントランスは、この家の財力を誇示していた。

隅々まで掃除されているらしく塵一つない。

 イタチはエントランス見回しながらふと考えた。

 

「どうされました?」

 

 何か気になることでもあったのだろうか?イタチの視線に気づいたノエルはイタチに問いかける。

 

「いや、前回来たときも思ったが、俺が来るたびに使用人に暇を出しているのか?これだけ広い屋敷なら在中の使用人がかなりの数は必要だろう。

それとも外部のサービスと契約しているのか?この屋敷は大きさの割に人の気配が少な過ぎると思ってな」

 

「月村家のプライベートの問題です。お話することは出来ません」

 

「そうだな」

 

「なぜそうお考えに?」

 

「単に疑問に思っただけだ。前回来たときあまりにも人の気配がしなかったからな」

 

「そうですか」

 

 こうは言ってはいるが、この屋敷に使用人いや人といっていいのかわからないが、その役割を持つ物が二人しかいないことをイタチはすでに知っている。

 カラスを使い調査したが、庭仕事でさえ外部の人間を雇った形跡がなかった。

 

(やはり変だな。なぜ、これだけの資産があるのに戦力があの程度なんだ。金でいくらでも依頼することが可能だろう。

信頼しているもの以外手元に置きたくないか、何か理由があるかだが……)

 

 イタチが思考を巡らせてると、上から聞きなれた声が聞こえた。

 

「あっシスイさん。こんばんは」

 

 見上げるとエントランスから延びる階段の上にすずかが立っていた。

 すずかはイタチに挨拶をしながら階段を降りてくる。

 

「もう時間も遅い。明日の学校に遅刻するぞ」

 

「このくらいぜんぜん平気です」

 

「はぁ~~すずかお嬢様。この前寝坊しかけた事をお忘れですか?」

 

「う~~余計なことは言わないでよ。ノエル」

 

 ノエルに痛いところを突かれたのか、膨れながら言うすずかに、イタチは会合の翌日の学校で受業中にアリサがすずかを必死に起こしている姿を思い出した。

 

「前回はすまなかったな。怖がらせてしまった」

 

「あのくらい大丈夫です。慣れてますから」

 

「そうなのか?」

 

 ノエルの方をイタチが向くとノエルが気まずそうな顔をしていた。

本当のようだ。

 あのようなことが日常的にあるとすれば、やはり警備を見直した方がいいと思うのだが。

 

「あの、シスイさんから預かってるあの子を。そろそろ返そうと思うのですけど」

 

「ああ……そう言えばそうだったな…ん?」

 

 何かに気づいたのか、すずかが降りてきた階段の先を見上げた。

 

「どうされました?」

 

 イタチの視線の先を同じく見たげたノエルに、悲鳴の様な声が聞こえてきた。

 

「まって、まってくださ~~い」

 

 なにやら少女の悲しそうな声が聞こえる。どうやらノエルは正体がわかったのか顔を顰めた。

すると、上階から見覚えのあるカラスが飛び出した。そして、すずかと同年代くらいのメイドが必死に追いかけている。

 

「ファリン!!」

 

 あのメイドの名前なのだろう、ノエルは叫びつつ頭を抱えた。

 カラスはファリンの声を無視し、急降下するとすずかの肩に優しく留まった。

そして、首を左右に振るとのんきに毛繕いを始める。

 

「すずかちゃん。は~~は~~ごめんなさい!その子がまた籠から抜け出しちゃってて」

 

「ファリン!それより気を付けなさい!」

 

 明らかにふらついて階段を降りてくるファリンにノエルは叫ぶ。

 

「これくらい、は~大丈夫です~~」

 

 ファリンは忠告を聞きつつも、は~は~と息を上げながら危なげに階段を降りてくる。

大丈夫じゃないだろう!全員はこれから起こることが何となく想像が出来た。

 

「「あっ!」」

 

そして、案の定足を踏み外した。

 

「へ?」

 

「「ファリン!」」

 

 ファリンの目に映る景色はまるでスローモーションのように流れていく。

 

(あ、私またやっちゃった……あ~~またねいさまに怒られる)

 

 ファリンは静かに目を瞑った。

自身が特異なことをしっているせいか、意外と頭は冷静だった。

 

(あれ?おかしいな)

 

 いつまでも痛みが来ないことに疑問を浮かべる。それになんだか不思議な感触がする。

ファリンは静かに目を開けると、知らない顔が表れた。

 

「やれやれ」

 

「……?……どちら様ですか?」

 

 ファリンの眼前には見覚えのない顔が表れた。黒髪と黒目の青年。それにものすごく呆れた顔をしている。

最初は恭也かと考えたがよく見れば違う。

 そういえば、今日これからお客様が来るのだと言うこと思い出したところで、横から叫び声が聞こえた。

 

「ファリン!あなたって子はいつもいつも……」

 

 ノエルの怒りに満ちた声で、ようやく自分の置かれている状況を理解した。

ファリンはいつの間にかエントランスで、イタチにお姫様だっこされていた。

 

「あっ…ご、ごめんなさ~~い」

 

「ファリン大丈夫」

 

 イタチの腕から下ろされるとすすがの心配そうな顔が見えた。

 すずかの肩に留まったカラスは、明らかに顔を背け自分は関係ないという感じだ。

 

「気を付けろ、その年でこの高さから落ちたら怪我ではすまないぞ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ごめんさないではないでしょう。ファリン!」

 

 ファリンをしかりつけながらも、ノエルは考えていた。

 

(明らかに人間が出せる速度超えている。御神流に似たような技がありますがあの技以上です。

やはり彼は底が見えない。いくら忍お嬢様言われたことですが、私は彼を信頼することは出来かねます)

 

 そんな事を考えているノエルを尻目に、イタチは別のことを考えていた。

 

(この少女も人形か、見たところ外部に操縦者もいない。この世界の技術には驚かされるな。

サソリおまえがこれを見たらどう思うのだろうな)

 

 サソリ……暁のメンバーで自身が完全な人形になることを願った人形遣い。

 

 身体の一部以外を人形へと変えた男。

 

 イタチはあまり話すことはなかった男だった。

 

「まったく…」

 

 イタチは昔を懐かしみつつも、すずかの肩に留まった元凶へと視線を向けた。

視線に気づいたカラスはぷいっと横を向いた。

 

「はぁ~~最近この子。勝手に籠からぬけだすんです、おかげで大変です」

 

 ぷんすか怒るファリンに目もくれず、カラスは毛繕いを続けている。

 

「迷惑をかけているな。今日には連れて行く」

 

「いえ、確かにファリンに対してはいたずらをするんですけど、私たちの言うことはちゃんと聞いてくれるし。

ウチの猫たちとも仲がいいみたいで、子猫の面倒も見てくれますし。そんな悪い子じゃないです」

 

 いいところもあるとすずかのフォローが入ると、カラスはあからさまに胸を張った。

なかなか感情表現が豊かだ。イタチもこのカラスがここまでの物だとは思わなかった。それでも迷惑を掛けていることには変わりない。

 

「そうか……まあいろいろと迷惑をかけたな。ほら、帰るぞ」

 

 イタチの声にまたもカラスは、ぷいっと首を振った。

イタチは苦笑しつつ、

 

(おかしいな?なぜ、血の契約を結んだ口寄せ動物がなぜ俺の命令を聞かない?世界が違うために、契約に何かのイレギュラーが出ているのか?)

 

 何度呼ぼうとも言うことを聞かないカラスにすずかが提案を出した。

 

「あの!シスイさん、もしよければなんですけど。この子、私がこのまま預かってもいいでしょうか?」

 

「え~~すずかちゃん本気!こんなやつ」

 

 すずか提案にファリンは驚愕の声を上げる。カラスの方は、よほど嬉しかったのか羽をバサバサと動かしている。

しかし、ファリンと目が合った瞬間カラスはプイッと首を振った。

 

「な!こいつ!」

 

「ファリン!」

 

 馬鹿にされて怒り心頭なファリンをノエルがなだめる。

 カラスの仲に明確にファリンは下だと序列が出来ているようだ。

 

「いや…しかしな……」

 

「大丈夫です!ちゃんと面倒は見ますから!」

 

 肩に乗ったカラスはすずかの頬に頭を擦りつけている。

イタチが視線を向けると、またもや首を振った 。イタチは左手を顔にあてため息をつく。

 

「すまないがもう少しこいつ頼む」

 

 もともとは口寄せ動物だ最悪どうにでもなる、イタチはとりあえず問題を頭の隅に追いやった。

 

「はい!あ、そういえばこの子名前はあるんですか?」

 

「いや、特につけてはいない。よければ付けてやってもいい」

 

「私が付けても良いんですか?」

 

 きらきらした瞳ですずかはイタチの顔を見つめた。

 

「俺が付けるより、君が名付けた方がよさそうだからな」

 

 イタチがカラスを見れば首を縦に振っていた。本当に感情表現が豊かなやつだ。

 

「じゃあ、良い名前をつけてあげるね」

 

 すずかがそうカラスに言うと、よほどうれしかったのかかぁ~と一声鳴いて羽をばたつかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後で名前を教えますと言ったすずかと、恨めしそうにカラスを見つめるファリンと別れ案内された部屋に入ると忍が待っていた。

 そこは応接間の様で、中央に大きなテーブルと左右にソファーのみが置かれているだけだった。

夜のためか窓は厚手のカーテンで締め切られ、壁に絵画等も掛かってあらず、無地の壁紙のみがのぞかせている。

 テーブルの上にはイタチが指定した武具、クナイ、手裏剣が並んでいた。ざっと100はあるだろうか。

その前に忍が立っている。

 

「こんな時間に悪いわね。指定どうりそろえたわよ」

 

「ああ………それより隠れていないで出てきたらどうだ」

 

 イタチの叫ぶと壁の一部が回転する。そして、道着に身を包んだ恭也と美由希が表れた。

二人とも怪訝な表情をしている。まあ、わからなくもない。前回あんな事があったのだ。

 

「この屋敷はカラクリ屋敷か?それよりもおまえ達、もう少し気配を消すすべを身につけた方がいい。丸わかりだ」

 

「く、言わせておけば」

 

 いきなりのイタチの指摘に、恭也は苦虫をかみ殺した表情をした。

 

「まあまあ、恭ちゃん。落ち着いて、試したわたし達も悪いんだからさ」

 

 怒りに震える恭也を美由希が、頭をたたきながら宥める。

 

「そうよ。恭也。今更喧嘩してもしょうがないでしょ。それよりどうかしら。あなたのために作られた特注品よ!」

 

 忍が自慢げに言い放った道具に目を向ける。

 イタチはテーブルに並べられた武具からクナイを手に取ると、重さを確かめ刃先を見る。

険しい瞳で品質を確かめるイタチに忍は唾を飲み込んだ。

 

「いい物だ。このレベルの物はそうやすやすみつからなかっただろう?」

 

 クナイをテーブルに戻し忍に素直な感想を述べた。

こちらで見かけた物は工芸品の域をでず、実用に耐えうる物ではななかった。

 

「ふぅ。よかったわ。今時こういう物をちゃんと武器として作れる人はなかなかいないからね」

 

 安堵の表情を浮かべる忍を尻目に、イタチはある物に気がついた。

 

「ん?これは」

 

 イタチは置かれた刀を手に取った。

見たところ刀と脇差しの中間程度の長さで、日本刀独特の反りは少なく直刀になっている。

 俗に言う「忍刀」だった。

 

「あ~~それ。リストにはなかったんだけど。あなたってリストを見る限り忍者って感じでしょう。

忍者ならやっぱり忍刀!って思ってね!恭也の小太刀もうまく扱っていたし~~絶対様になると思うわ!いいえ、なんと言おうと絶対使って貰うわよ!」

 

 忍は目を輝かせてイタチに詰め寄った。

突然の変貌にイタチは高町兄姉に振り向く。

 

「おい、こいつはいつもはこんな感じなのか?」

 

「ああ……」

 

「まぁ、こんな感じかなぁ~」

 

 二人は困った顔をしつつも肯定した。

 

「ゴホン、忍お嬢様」

 

「あっごめんなさい。私ったらもう。いつもの癖で」

 

「あまり刀は使わないんだがな。あって困るものではないからなありがたく貰っておく」

 

「そういえば自己紹介あのときしなかったわね。あの目つきが悪い方が高町恭也で眼鏡の方が高町美由希よ。この忍刀も恭也達が使う小太刀も同じ人物が制作しているわ。

今時、実践用の刀剣をまじめに制作している人なんてほんの一握りだからね。制作者は自然と同じ人物になってしまうわね。

あと、制作者が驚いていたわよ。刀で刀をこれほど滑らかに切るなんてって」

 

 忍の熱弁を聞き流しつつイタチは忍刀を引き抜き刀身見つめる。

微かにチャクラを流すと、刃全体に染み渡っていく。

 

(これはチャクラ刀か。この世界もチャクラ使える者がいるのか?それとも偶然の産物か)

 

 チャクラ刀とはチャクラ流し込んで切れ味を上げる事の出来る刀のことだ。

そんな事を考えつつ刀身を仕舞う。

 

「気に入ってもらえたかしら?」

 

「ああ。問題はない」

 

「よかったわ」

 

「それで、これだけではないのだろう。依頼の話を聞こうか」

 

 イタチは横目で忍を見ると、忍は口元をつりはげて言った。

 

「ええ、じゃあ場所を移しましょうか。はいはい恭也怖い顔しないで向こうに行くわよ」

 

「おい、忍!誰が怖い顔だって引きずるな~!」

 

 恭也は忍に引きずられながら部屋を後にした。

その後ろ姿を苦笑しながら追うノエルと美由希を見つつ、イタチはなんだか先が追いやられると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内された部屋はまるで秘密基地のようだった。

 大画面の液晶モニターがいくつも壁に掛けられ、街中の監視カメラの映像が映されていた。

なるほど、これで全ての街の様子を伺えしれるようだ。

 また、それを制御するための物なのか、明らかに家庭用ではないまるで大型冷蔵庫のようなスーパーコンピューターがいくつも置かれていた。

忍はモニターの前に立つと話し始める。

 

「どうやら、すずかを誘拐した連中の残党がこの町にまだ隠れているみたいなの。今回、みんなにはそいつらをを捕まえてほしいの」

 

「潜伏先は此方になります」

 

 ノエルは壁のモニターに場所を表示した。場所は山奥の別荘の様だった。

 この街は、山には温泉が沸くため観光用の温泉街がある。

この別荘も観光業に付随する目的で建てられた物だろう。

 

「この情報はどこから。前回の誘拐犯か?」

 

「誘拐犯は結局何も話さなかった。いいえ、それよりも何も知らなかったという感じかしら。

その後、街中の人間を一から詮索したの。結果、この別荘を借りている人間に不審な点が出たのよ」

 

 夜の一族には記憶を操作する術があるの知っていたが、今のまでの忍の言ったことに疑問を感じた。

 

「情報は確かなのか?」

 

「ええ。間違いないわ。念には念を入れて調べた結果、私たちの一族の一派がいるらしいのよ」

 

 自信満々に言い放つ忍に、イタチはあごに手をあて考える。やはりおかしい。

その様子が気になったのか美由希が声をかけた。

 

「あの~シスイさん?どうしたんですか?何か気になることでも?」

 

「いや。あれから10日以上経っている。誘拐が失敗した以上、この場から撤退するのが普通じゃないかと考えてな」

 

「確かに。そうですね」

 

「ええ。私たちもそう思ったんだけど、もしかしたら裏をかいてもう一度誘拐のチャンスを狙っているのかもしれないわ。

どちらにしろ、彼らをこのままこの街に置いておくことは出来ない以上、早急になんとかしてほしいのよ」

 

「その前に、おまえ達の一族について詳しく聞きたいのだがな」

 

 疑問を感じることはあるが、もしかしたら自分も知らない一族の特性があるのかもしれない。

それが、何か鍵になるのではと辺りをつける。

 

「それは向かう途中で話すわ。時は一刻を争うわ。急がないと逃げられるかもしれない」

 

(何かあるな)

 

「わかった忍」

 

 恭也は忍に何も疑問を思っていないのか、特に何も追求はない。

 

「では、いつもどうり私が車を出します」

 

 ノエルが立ち上がる。

どうやら、このまま話が進んでしまいそうだ。

 

「おい!おまえ。行くぞ」

 

「恭ちゃん。シスイさんだよ」

 

 強い口調で外に向かう恭也を、美由希はたしなめつつ後う。

イタチはやはり何か引っかかるのか、恭也の呼びかけに答えずモニターを見つめながら考えている。

 

「俺一人で行く」

 

「何?」

 

 突然イタチは呟いた。その答えに恭也が足を止め、怪訝そうにイタチに振り返った。

 

「俺一人で行くといったんだ。聞こえなかったか。はっきり言っておまえ達では足手まといだ」

 

「何!」

 

 恭也はイタチに詰め寄ると胸ぐらを掴んだ。

 

「ちょっと恭也!」

 

「恭ちゃん!」

 

 胸ぐらをつかまれながらイタチは冷静に話を続ける。

 瞳は紅くなっていた。

 

「短気的だな。おまえ達の実力は前回に見せて貰った。あの程度の状況に態様も出来ないようでは、不足の自体には態様できないだろう」

 

「俺は今まで何人も奴らと戦っている!」

 

 怒りを含んだ叫び上げる恭也を無視しつつも話は続く。

 

「たまたまおまえより実力が劣っていたに過ぎないのだろう。それに今回はフォーマンセルのチーム行動だ。

今まで4人でのチーム行動をしたことがあるのか?連携はわかっているのか?俺の実力をしっかりと理解しているのか?」

 

 美由希とノエルに視線を向けるが、二人とも視線を逸らした。

 

「おまえ達は俺に不満を持っている。実力的に俺がこのチームの先頭行くことになる。おまえは俺の指示に従えるのか?

チームでの任務はチームワークが物をいう。一つの間違いがチーム全体を危険にさらす。下手をすれば誰かが死ぬことになる」

 

「くっ!」

 

 痛いところを突かれたのか、恭也はイタチから乱暴に手を離すと扉へ向かって歩き出した。

そして、ドアノブに手をかけ立ち止まった。

 

「ついてこい!俺の実力を見せてやる!」

 

「ちょっと!恭也!そんな時間は!」

 

 忍は恭也に叫ぶが、

 

「忍。鍛錬所を借りるぞ」

 

 恭也は勢いよくドアを開けこの屋敷にあるのだろう、鍛錬所へと向かっていった。

忍とノエルもその後すぐにを追って行った。

 去りゆく恭也に、ふとイタチは懐かしさを感じた。そういえば弟ともこんなことがあったなと。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや。少し…な」

 

「すいません。恭ちゃんが。でも、シスイさん。あなたも失礼だよ。今は言い争っている時じゃないのに」

 

「………」

 

 窘める様に言う美由希の顔を覗きこむイタチに美由希は不思議そうな顔をした。

 

「いや。これでいい」

 

 そう言うとイタチは恭也の後を追った。

その表情は何かに気づいた様な微かな変化があった。

 

「ん?」

 

 美由希はよくわからなかったが、眼鏡の位置を直しみんなの後を追った。

 


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