英雄に憧れて   作:NEW WINDのN

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よろしく、異世界

 

 

 

 

 

 

「人間を一度も見かけないな」

 俺とミクルが冒険を始めて三日が過ぎた。収納にあったアイテム無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)のお陰で水には困らない。食べ物は、野生動物を狩り川で魚を釣れば何とかなるものだ。

 ちなみに、水差しには無限という文字が入っているが実は使用量に制限はあるという名前負けアイテムだったりする。簡単には使い切れないが。同じように容量制限がある無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)なんてものもあるのだが。

 

「そうですね。獣人しかこの三日見ていませんものね」

 俺の言葉に答えてくれたのは、俺が、自らのパートナーとして作成したNPCのミクルだ。甘さと凛々しさが同居した良い声だな。本来は拠点防衛用の存在であり、こうして話たり、一緒に外出したり出来なかった。せいぜい"付き従え"と言って拠点内を連れて歩くくらいしか出来なかったし、一方的に話かけるくらいしか出来なかったな。

 それにしてもこんな事になるとは思ってなかったから、ミクルの存在は嬉しい半分に戸惑い半分ってところだろうか。

 何しろ"僕が考えた理想の可愛い恋人"設定だから、動いて話してってのは嬉しい。だけど·····だけど自分の趣味嗜好がそのまんま歩いてるってのはやはりあれだよね。

 "知り合いに見られたらめちゃくちゃ恥ずい気がするぜ"などと思いながら、俺達は指を絡ませる所謂恋人繋ぎで歩いているわけだ。現実世界ではしたことがない。ああ、デート経験はあるが、ガスマスクしながらおててつないでも、絵にならない。

 今の俺達は異世界散歩デートの真っ最中と言えば聞こえはよいのかもな。何しろ自然が綺麗だ。俺がいたリアル世界では失われてしまったもの。自然·····人は地球を傷つけ続け、星を弱らせてしまった。

 その昔、ある宇宙飛行士は、"地球は青かった"と言ったそうだが、今は黒かったではないかと思う。大気汚染·····人間は愚かな生き物だ。自ら命の源である水や空気を汚してしまうのだから。

 この世界は美しい。ミクルと歩きながら、ちょっとした自然の変化を楽しんでいる。

 初めて見る美しい鳥に二人して歓声をあげてしまって逃げられたり、可愛い花の良い香りを楽しもうと鼻を近づけたら、酷い臭いだったり。いや~楽しい! 

 こんな事をしていたら、宇宙刑事としての威厳なんか飛んでしまいそうだな。このままだとかつて俺が憧れた硬派な宇宙刑事には成れなさそうだ。だがミクルの可愛さは全てに勝る。いや、もう俺の好みっていうか趣味を詰め込みすぎたなぁ·····。可愛すぎて困る。

 だがなぁ、きっと俺だけじゃないはずだ。同じ事が起きればみんなそうなるんじゃないか。

 

 

 

「それにしても人に会えないから、未だにここがどこかわからないままなのは困るな」

「ですね·····獣人達は私達人間を餌と思っているようで、会話になりませんから」

 ミクルは顎に手をあて、やや眉間に皺を寄せならそう答えてくれた。

 ここまでに何度襲われたか正確な数は覚えていない。だが、この三日で両手の指を軽く超えて、二周目入っているのは間違いないだろう。邪魔をすり奴らさえいなければ、本当にデート気分なのだが。

 せめて情報が手に入ればなぁ。今の状況はユグドラシルでも、俺が暮らしていた日本でもない場所に、アバターのままミクルと一緒に転移した·····。うーん、初日から何ら変わりないな·····。

 

「よろしく、異世界」

 右手の人差し指と中指二本を額にあて、よっ! とでも言いたげに前に出しながら、とりあえずそう呟いておく。まあ、これは初代の真似なんだが。あの渋さは出ないけどな·····。

 

 関係ない話だが、ユグドラシルで出会って現実でも結婚までしたカップルもいたそうだが、ユグドラシルでの冒険がデートだったりしたのかな? 

 片方が骸骨で、片方がスライムだったりするケースでも? 異形種の場合なら有り得るだろ? ハラスメント行為は禁止だから手すら繋げなかっただろうけど。·····もっともスライムに手はないか。

 

 

 それにしても、獣人が襲ってくるのは、まあRPGによくあるランダムエンカウントだと思えばいいけど、不満点としては弱すぎて、せっかくの変身をするまでもなくあっさりと倒せてしまうのが物足りない。

 出来れば毎回強い怪人が出てきてくれれば良いのに。ああ、この場合は獣人だけど。

 で、その獣人さんだが、来てくれるのはよいが、毎回アイツらが発するセリフは、"やれ! ""やっちまえ! ""喰ってやる! "このあたりが定番だ。話にならない。

 

「マクーの奴らでも一応は会話になるのになぁ·····」

 マクーとは初代宇宙刑事ギャバンが戦っていた宇宙犯罪組織の名前だ。·····この世界にも犯罪組織などはあるのだろうか。

 

「魔空空間に引きずりこめぇー」

 ミクルが頑張って低い声を出しているが、元が可愛らしい声なので、微笑ましさしかない。

「って言ってたんですよね?」

 ミクルは映像を見た事はないはずたが、宇宙刑事の歴史に詳しいという設定のせいか、何故か知っている。何故だろう·····色々とある謎な部分の一つと言ってよいだろう。

 

「そうそう。そんな感じ·····ぷっ」

 堪えきれずに笑ってしまった。ミクルは頬をぷーっと膨らませている。可愛いなぁ·····。

「ちょっと爆、なんで笑うのよーっ!」

 ああ、楽しい。こんな冒険をユグドラシルでもしたかったんだ。

 

「·····どこからか血の臭いがしよる」

 俺は急にキリッとした顔になり、時代劇のような言い回しをしてみる。

 ·····そういうば、バイク乗り系ヒーローで、時代劇とコラボした映画を動画で観たなぁ。馬に乗った将軍とバイクに乗った仮面戦士が共演してたっけ。なかなか面白い事するよな。

 話を元に戻そう。俺は風に乗ってくる微かな血の臭いを嗅ぎとったのだ。以前──この世界に来る前──より嗅覚が鋭くなった気がする。まあ、もとの世界はガスマスクを付けてないと外歩けないから、鼻に関しては敏感じゃないくらいの方がよかったんだけどな。

 

「誤魔化すつも·····あ、本当ですね」

 最初は冗談だと思っていたようだが、彼女も気づいたか。戦闘よりもサポートに寄せた能力にしているから当然かもしれない。

「·····サーチできるか?」

 俺は小声で尋ねる。もちろん出来るのは知っているのだが。彼女は小さく可愛らしく頷き探知に集中する。

「·····反応が15。うち13は例によって獣人と思われます」

「残り二つは·····?」

「そうですね。人間かもしれませんが、かなり弱い反応なので断定できません。女性か子供かもしれませんね」

 ミクルの探索能力でも判別できないか。獣人どもが人を食す事はわかっている。グズグズしている時間はないだろうが、無警戒に突っ込んでいくわけにもいかないな。だから、俺達は警戒しながら慎重になるべく急いで進んでいく。

 この先に待ち受けているのが、今までの個体よりも強い可能性もあるのだ。先に見つかってしまうのは出来れば避けたいところだった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

「ゔ·····」

 しかし心配は杞憂であり奴らはまったくの無警戒だった。見張り一人置いていない。自分達の勢力圏だと油断しているのもあるのだろうな。

 俺達は物陰に隠れて様子を窺っている。

 ライオン男に虎男に虎女、狼男に黒豹男といった雑多な獣人達が車座になっていた。どうやら奴らは、お楽しみの最中だったようだ。奴らなりの宴会のつもりなのだろう。

 正直な所耐性スキルがなければ、もし現実世界の俺ならば、間違いなく胃の内容物を吐いていたであろう光景·····。人がエサとして喰われているその現場だった。宴会のご馳走は人そのものだったのだ。

 その証拠に人だったであろう残骸が散らばり、血溜まりが出来ている。円の中心には、震えたまま順番を待たされている少女が二人·····。その心中はいかばかりか·····。知り合いや友や親兄弟が貪り食われる様子をずっと見せられていたのだろう。服が一部濡れている所を見ると、先に喰われた方がマシだったのかもとしれないと思ってしまったが、命があるから救えるのだ。

 

「やるぞ。人質·····いや、少女達の保護を頼む」

 俺はやや離れた場所に控えているミクルにハンドサインで合図する。·····〈伝言(メッセージ)〉の魔法を使ってもいいのだが、ハンドサインの方が捜査官ぽいだろ? という理由でハンドサインだ。

 ちなみに俺は使えないのも不便だから多少の魔法は使えるんだ。いわゆるロマンビルドの中にちょっとだけ混ぜてある。まあ、テレパシーとか、通信機の代役と思えばよいだろう。結局ロマンビルドなんだけどさ。

 

「さあ、やっと本日のメインディッシュ! ご馳走の時間だ。若い女の踊り食いだ! 時間無制限。堪能しようぜ」

「待ってやした!」

「美味そうだぜ。若い女の肉は柔らかくていいからな。生きたまま腹を食いちぎるのが最高なんだよ」

 獣人達は涎を垂らし、舌舐めずりしながら生け贄となる二人の少女に近づいていく。

「まずは、こいつからだ」

「ひ、ひいっ」

 金髪の少女が連れ出された。赤毛の少女はそれを呆然と感情のない瞳で見送っている。二人とも衣服はボロボロで、体のあちこちに爪痕と思える傷がついていた。

 この世界にきて初めて見る人間の顔は恐怖で引き攣っている。このような状況ではそれも仕方ないだろう。何しろ彼女らは地獄にいるようなものなのだから。

(助けた後が心配だ。だが、全ては助けてからの話だよな)

 奴らの意識は完全に少女に集中している。今だ! 

 

「とおっ!」

 俺は奴ら円のド真ん中に向けてジャンプして飛び込む。もちろん空中での前転は忘れず、そのまま少女の腕を掴んでいる狼男の顔面を右足を伸ばして蹴り飛ばす。動きとしては仮面バイク乗りの技に近いかな。

「ブベッ!」

 話の通じない獣人達に手加減など必要がない。一撃で屠り、すかさずミクルが飛びこんでくる予定の場所へと向かうべく金髪の少女を右脇に抱えて跳び、少し離れた場所にいた赤毛の少女を着地とともに左脇に抱え込む。

 うーん、知らない人が見たら完全に人攫いだな。左右に少女を抱え込むとかなかなかない絵面だよ。もっともこんな人間離れした事が出来るのも、俺がユグドラシルのアバターのままこの世界に来たからだ。なにしろレベル100のパラメーターのままだからなぁ。

 

 走る俺の前に立ちふさがった獣人を蹴り飛ばし、道を開き飛びこんでくるミクルに二人を託す。

「ミクル!」

「任せて。さあ、こっちへ」

 ミクルの指示に金髪の少女は従うが、赤毛の少女は反応がない。

「仕方ないわ·····」

 ミクルは赤毛の少女の首を左肩に乗せ、右手でその足を持つ。

「うんしょっと」

 そのままうつ伏せの状態で担ぎ上げる。いわゆるファイアーマンズキャリーの体勢だ。火災現場で消防士が怪我人を担ぎ出すのに使ったことからこの名がついたらしい。

 かつて格闘技ではこの体勢からは様々な技を繰り出していたと聞いたことがある。いわく、死の谷落としとか、神風と言われるような名前だったか。

 もちろんミクルは、そんな技を使う設定ではないし、そもそも助けた少女を効率よく運ぶためにした事だ。 運び方として理にかなっているのだろうな。

 何せミクルも俺と同レベルのNPCである。支援タイプとはいえ、体力腕力も普通の人間とは違うのだ。担ぐ前と変わらぬスピードで走っていく。うん、可憐な美少女が女の子を肩に担いで走っていく光景なんてなかなか見れないな。

 

「逃がすな!」

「ここは通さないぜ」

 ここは俺の見せ場だ。主役の座は譲りはしない。

「やれ、やってしまえ!」

 ライオン男の指示に従い下っ端連中が咆哮しながら襲いかかってくる。

「とあっ! てやっ!」

 突っ込んできた狼男の顎をジャンプしての後ろ回し蹴り(ローリングソバット)で砕き、続いて黒豹男の顎をジャンピングダブルニーアタック──飛び膝蹴り──で潰す。

 一撃か。うーん、これまでと強さは変わらないようだ。獣人達の強さってこれがデフォルトなのか? 

 

「な、なんだとっ!?」

「人間ごときにっ!」

 さすがに獣人どもも驚いたらしいな。

「先程まで食っていた人間にあっさりやられてしまう気分はどうだ? まあ、弱肉強食って言葉もあるから、一方的にお前達を責めるのはどうかとは思うが、やはり人として人が食われるのは見逃せんよ。さて、もう少しじっくりと遊んでやった方がいいかい?」

 俺の中で燃えたぎるものがある。事情もわからずに勝手な言い分かもしれないが、人は食うものじゃない。まあ、俺たちが食材にしていた動物からすれば同じ気持ちなのかもしれないが。まったく人は身勝手なものだな。

 

「貴様ら、手を抜くな! こんな奴ぶっ殺せ!」

 檄に答え生き残りが襲いかかってくるが、もちろん俺の相手ではない。

「·····どうした。こんなものか?」

 副リーダーと思われた虎男も含めて、瞬く間に全て一撃で倒し、あっという間に残るはライオン男だけとなる。

 

「ば、馬鹿な·····人間如きに。くそっ、竜王国にこんな人間がいるとは聞いてないぞ。まさかアダマンタイト級の冒険者だとでも言うのか·····」

 喘ぐように呟くライオン男。いくつか気になる情報があるな。

「ここは竜王国と言うのか·····」

 竜王国。初めて聞く国の名前だ。うん、やはりここがユグドラシルではないのは間違いない。俺は後発プレイヤーだが、地名くらいは把握している。

 それに既にミクルが自由に動いて話して·····としている段階でそう思っていたし、ミクルも違う場所だと認識していた。裏付けがなかっただけだ。

 

「知らぬのか·····愚かな事よ。冒険者にしては無知すぎるな」

 冒険者·····未知を既知とする存在か? だとしたら、なかなか楽しそうだな。だが、間違っている。

 

「ふっ、俺は冒険者ではない」

「ならば、なんだ」

「俺は宇宙刑事だ!」

 まあ、意味は通じないだろうけどな。

「? よくわからんな。夢中警備? 衛兵か何か? まあ、人の職業など知らんわ。どうせ、俺がお前を食って終わるのだ。泣き叫びそのまま死んでいくがよい」

 まるで魔王のようなセリフだな。ライオン男から発せられる殺気が強くなる。

 ·····おそらくだが、爆ではないリアルの俺だったら、気を失っていただろう。だが、俺は百目城(どうめき) 爆。·····宇宙刑事だ。

 

「おっ!」

 取り巻き連中よりもかなり早い右のナックルパートが飛んでくるが、俺はそれを見切りギリギリで回避する。鋭い爪があるくせにナックルってのが気になるな。

 

「むっ!」

 さらにワン・ツーのように左右のナックルが振るわれたが、これもスッ、スッと躱してみせる。もちろんギリギリ紙一重の位置でだ。それにしても、こいつもしかして格闘家·····いや修行僧(モンク)のクラスを取っているのか? 動きが洗練されている。ただの暴力まかせじゃないぞ。

 

「おのれっ! チョコマカと!」

 お約束のようなセリフを吐きつつ殴りかかってくる。先程よりも早いが、俺からすれば遅い·····いや遅すぎる。

「シッ!」

 ギリギリで回避してみせて、今度は軽く左のジャブで鼻っ柱を殴りつけた。手を出さないとは言っていないぜ。

「グアッ」

 よく鼻をぶつけると鼻血が出たり、涙目になるものだが、それは獣人も同じらしい。これが馬面の奴──比喩ではなく、馬男ってことだ──だったら、鼻出血と表記すべきか? 

 そんな益体も無い事を思いつつ、涙目のライオン男の鼻っ柱をもう一発軽く殴る。先程よりは強めだが、まるっきり手を抜いた腰の入っていない手打ちパンチ·····いわゆる猫パンチ。そういやライオンもネコ科だったよな。まあ、こいつはライオンじゃなくてライオン男だけど。

 

「グヤアアアアッ」

 おやおや鼻折れたかな? 呻くライオン男のボディに軽く横蹴りを叩き込む。イメージは、設置してあるまな板を1㌢だけずらすくらいの力。つまり形だけで、威力は抑えたつもりだ。

「ヒブェッ」

 たが、この蹴りでケリがついた。強すぎたか·····調整が難しいな。

「また聞き出せなかったか」

 俺はまたも相手を全滅させてしまった。まあ仕方ないか。分かり合える相手でもないし、放置すれば、被害は出るだろう。俺としては正義を行ったつもりなんだが、実際はどうなんだろうな。  

 とにかく今回は救った少女達がいるわけだし、多少は状況がわかるかもしれない

 

「そして変身できなかった·····」

 次からはちゃんと装着してから戦おうかなぁ·····。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






続き書いてしまいました。
しかもいつもより長めだったり。

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