万象の半精霊 作:宇宙豆
受付を終えた俺達は、その時に渡されたグループごとに集合する場所が書かれた案内図を見ながら、その場所に向かっている所だった。
「そう言えば今更なんだけど...」
俺はふと疑問に思うことがあったのでリクに話しかける。
「どうしたの?」
「いや、昼飯食ってる時に俺と同じグループって言ってたけど、つまりリクもSクラス候補って事なのか?てっきりSクラス候補の奴らって中等部からこの学園に通って良い成績を残している人しか居ないと思ってたんだけど。」
「それは僕も疑問に思ったよ....だってあの場所に行った時、明らかに雰囲気が違ったもん。」
「ふーん、リクも理由は分からない感じかぁ...」
「でも確かにおかしいよね、だって外部受験者の僕らと中等部から居る人達とは明らかに実力差があるのに、受験グループを一緒にするってどうかと思う。」
どうやら、彼も俺と同じ疑問を持っていたらしい。
彼が言った通り、外部受験者と中等部からの受験者とではかなり実力が離れているものだ。
ましてや中等部で高い成績を残しているSクラス候補者と比べられれば現時点で天と地ほどの差があるはずだ。
まぁ、外部受験でもそれなりの実績や実力を持っている者もいるだろうから全員が当てはまる訳じゃないが、そんなのはごく一部の人だけだと思う。
(まぁ大体の予想はつくが....)
「あれだろ?優秀な奴との明確な差分を付けて、特別な奴らの評価を良くする為の言わば生贄みたいなものだと思うけどな。」
「ん〜、やっぱりそう言った感じに捉えちゃうよね?」
「まぁ、そんな事気にしても仕方が無いしな、それに実はSクラス候補のグループじゃないって可能性もある。」
「あははw確かにそうかもね。」
そんな他愛無い話をしながら、歩いていると何やら人集りが出来ていた。
(似たような光景見たなぁ〜....)
「似たような光景見たなぁ〜....」
リクは、見事に俺の思った事を声に出して言った。
「ん〜...何か俺らの試験会場ってあそこみたいだぞ?」
「え?あの先にあるの?僕あんまり人混み好きじゃ無いんだよね。」
「まぁ、そんなこと言ってても仕方ないからとにかく抜けるぞ。」
そう言って俺とリクは試験会場の部屋に向かう為、人集りに近づいた。
近づくにつれて声が聞こえてくるのだが、何やら昼食前の時とは違い張り詰めた空気が漂う会話が聞こえてきた。
「ちょっとどうしようあれ...」
「うん、何か結構ヤバイ感じするんだけど...」
「お、おい、お前止めてこいよ。」
「嫌だよ、あれに巻き込まれたら洒落にならんわ...」
どうやら、集まっている全員が何かに怯えてるようだ。
(事件でもあったのだろうか...この先の部屋からちょっと殺気みたいなものが感じ取れるし...喧嘩でもしてるのか?)
気になった俺は、一番後ろにいる一人に声をかけた。
「ごめん、この部屋に入りたいから道を開けてくれない?」
「え?あぁすまん...ってお前はあの部屋で見た!」
「はいはい、ちょっとどいてね〜。」
何か言っていたが無視して、俺らはズイズイっと人混みを掻き分けながら進んで行く。
もう一度、あのペンダントを使おうと思ったが、今はその必要が無いくらい皆の意識は別の方に向いていた。
最前列を抜けると、予想していた通り目の前で二人の女の子が何やら険悪な表情で向かい合って喧嘩をしていた。
一人は見覚えがある、筆記試験後の説明会場で俺に絡んできた、ヘレンだ。
そしてもう一人は...
「あんた!もう一度言ってみなさいよ!」
「良いわよ、貴方は力と耐久力しか取り柄がないのだから、前に出て敵の注意を引きつけながら味方を守る盾の役割を担って頂戴、こんな役割分担すら理解出来ないの?」
「そんな事は分かるわよ!私が言いたいのは、
「戦士にとって力と耐久力を評価される事は、何も悪い事では無いと思うのだけれど....何故怒っているのか理解出来ないわね。」
「私は力と耐久力に自信があるけど、それだけじゃ無いわ!
魔力も高いし有能なスキルだって持ってる!
(あぁ〜、そう言う事か...)
どうやら、あそこにいる黒髪の獣人族の子の発言に、ヘレンが突っかかっただけのようだ。
彼女は事あるごとに他人に突っかかる癖があるらしい。
「何か本当にヤバそうだね....止めなくても良いかな?」
「別に良いだろ、いくら頭に血が上っているからって試験中に問題を起こすほどの冷静さは失ってないだろ....」
そんな事を言いながら事の成り行きを見守っていると、黒髪の子が口を開く。
「なぜ私が言った事を訂正しないといけないのかしら?事実を言ったまでよ、実際貴方の魔力は大した事ないわ。」
黒髪の子も無意識なのか、彼女を煽る様な言動をする。
「なっ!」
彼女の言葉にヘレンは一瞬たじろいだ様子を見せたが、直ぐに怒りの表情に変わり全身から強い殺気を放つ。
それに釣られたのか黒髪の子も殺気を放ち始めた。
(ん〜...ちょっとまずい雰囲気になってるな、ヘレンが過剰に反応するのもそうだが、黒髪の子も中々譲る気配が見られないし...Sクラス候補生ってこんなにもガキっぽい奴が多いのか?)
俺は目の前の光景に呆れた。
この学園の顔に成るであろうSクラス候補生が、こんな体たらくじゃ本格的に学園の未来が危ぶまれる。
「そう...」
殺気を放ったヘレンが口を開く。
「さすがは
「っ!」
ヘレンは仕返しとばかりに一部の言葉を強調して彼女を煽った。
その言葉に、冷静を保っていた黒髪の子も少し表情を歪ませるが直ぐに言い返す。
「卒業成績が4位の貴方に言われたくないわ、私より低いのに良く堂々と人を煽れたものね?貴方の言った言葉そのまま返すわ。」
(えぇ...アイツ、自分より成績が良い奴を煽ってたのかよ?本当にどう言う神経してんだろ...)
そんな事を思いながら、特大ブーメランを喰らったヘレンの様子を見ると、慌てる様子もなく少し涼しげな表情をしていた。
「そうね... でも私は貴方みたいに自信満々で"首席を取れるから" 何て慢心的な事言ってないもの、自分の実力は分かっているから... 自らの実力も把握しないで良くもあんなこと言えたなぁって思っただけよ?実戦なら私の方が貴方より成績が良いし。」
「それは随分と前の話よ?今は私の方が貴方より上だわ、卒業成績も実戦成績も...過去の事ばかりを自慢げに話すなんてそれこそ恥ずかしくないのかしら?」
「私とまともに戦った事ないくせに...ミャーミャー良く鳴く猫ちゃんだこと、可愛くて微笑ましいわ。」
黒髪の子は
(まずいな... こんな所で喧嘩を始めたら試験に影響が出てしまう、どこかでこの部屋を監視している筈の試験官が仲裁に入る気配も無い、周りを見た所あのランハットとか言う奴もまだ来てない、他の奴らも関わらないようにしている為、止めもしないか...仕方ないな)
俺はもしもの事態に備えて、
当然そんな事に気づかない目の前の二人の喧嘩は更にヒートアップしている。
「私は誇り高き猫型の獣人、シズクだ!ミャー、何て情けなく鳴くわけないでしょ!混じり者の癖に種族の事で良く煽れたわね?この不純種!」
プチッ!
彼女の言葉にヘレンの堪忍袋の緒が切れた様な音がした気がした。
どうやらヘレンは
雰囲気から察するに、多分鬼人と人族の混血種だと思われる。
対するシズクは猫型獣人族の
「相変わらずの純血主義ね、この御時世にそんな古臭い考え方に拘るなんて...かつて異国の英雄の血を引く一族として、この国で名を馳せた聖獣の名を冠する名家、"蒼龍院"が衰退した理由も分かるわ。」
「衰退なんかしていない! 今でも王国内で名のある名家だ!」
家の事を馬鹿にされ、黒髪の子の怒りが頂点に達したらしい、会場に響き渡る程の怒声だ。
そんな様子を見たヘレンは、更に追い討ちをかける。
「いつも冷静沈着な貴方が怒鳴るなんて珍しいわね...事実を言われて怒っちゃったのかしら、子猫ちゃん?」
ヘレンがその言葉言った瞬間...
「なっ!」
シズクが超スピードで間合いを詰めて刺突攻撃を仕掛けた。
その攻撃をヘレンはギリギリで反応して躱すがシズクは間髪入れずに連撃を繰り出す。
しかしその全てをヘレンは防ぎ、少しの斬り合いの後お互いに距離を取る。
(へぇ〜...ヘレンはあのタイミングの攻撃を全て防ぐのか、反射神経で言えば一流の戦士レベルだな...シズクの方も間合いを一瞬で詰めるほどのスピードを持ってる、並の奴ならあの速度に反応出来ないだろうし、戦闘面の実力はトップクラスと言われても納得できる、あの二人は口だけの奴じゃないって事か...正面からまともにやり合ったら俺では勝ち目が薄いな)
「殺す!」
シズクはそう言いうと、殺気と共に冷気を放つ。
「やれる物ならやってみなさいよ!」
それに合わせてヘレンも刀身に炎を纏わせる。
互いに高密度の魔力攻撃をぶつける気らしい、衝突すれば結構な被害が起きるだろう。
周りを見ると先程までいた部屋の外の野次馬達がいつの間にか居なくなっていた。
どうやら二人の攻防が始まる前に全員逃げていったようだ。
「死ねぇええ‼︎」
互いにそう叫びながら攻撃を仕掛ける。
(流石にアレがぶつかれば、仕掛けた魔法だけじゃ被害は抑えられないな、二人には悪いが少々動きを止めさせてもらう)
俺は二人に向けて魔法を行使しようと狙いを定める...がどうやらその必要は無くなったらしい。
俺が魔法を使うよりも少し早く、二つの影が二人の間に割り込んだ。
瞬間、二人の攻撃は間に入った者たちに止められた。
その者たちの仕業なのか、被害が大きくなると予想された二人の攻撃は思いの他最小限で収まった。
見るとそこには、盾でヘレナの攻撃を止めているランハットともう一人、素手でシズクのレイピアを止めている少女の姿があった。
突然二人に介入された事に対してか、それとも自分たちの攻撃が簡単に止められてしまった事に対してか...いやきっとその両方だろう、ヘレナとシズクの二人は揃って驚きの表情をしている。
「お前達!大事な試験の前に何をやっているんだ!」
唖然としている二人に対してランハットは、険しい顔で怒鳴った。
その声に周りにいる者達に一瞬の緊張が走る。
少しの静寂が辺りを包み、殺気を放っていた二人も少し落ち着いた様だ。
彼は二人が落ち着いたのを確認すると、怒りを帯びながらも落ち着いたらトーンで喋りだす。
「お前たちは今が試験中である事を理解しているのか!少し自覚が足りないんじゃ無いか?」
「貴方は関係ないわランハット、これは私達の問題だから。」
「そうよ!あと少しでコイツを消し炭に出来たのに邪魔しないで!」
身を挺して仲裁に入った彼に対して、彼女達は邪魔するなと言った。
そんな二人を見た彼は呆れたように溜め息をつく。
「まぁそう猛るでない子猫に小鬼、矮小な其方らとて畜生よりは賢い頭を持っているであろう?」
止めに入ったもう一人の少女が二人に言った。
「誰が小鬼...」
「猛るなと言っとるであろう?」
「ッ!」
何か言いかけたヘレナに、彼女が威圧すると直ぐ様黙ってしまった。
どうやら、ヘレナは彼女を格上の存在として認識しているらしい、シズクの時とは全く違う態度だ。
「フェディエル、お前も煽るような言葉を使うな。」
ランハットはそう言いながら、持っていた盾を一瞬のうちに消した。
(ほうほう、体の中に武器を宿す憑依武具を使ってるのか...しかも先程ヘレナの攻撃を簡単に防いでいたので、かなり強い武具を宿しているな...凄く調べてみたい)
「別に煽っている訳では無いぞ?事実を言っているだけだが...我の言葉に腹を立てると言う事は、自分でも少し思っている証拠では無いか?」
そう言うと彼女は、スタスタとその場から離れて行った。
どうやら彼女はかなり傲慢な性格のようだ、よほど自分に自信があるのだろう、言動や雰囲気からそれを感じ取ることが出来る。
「全くどいつもコイツも...俺達はSクラス候補なんだぞ、自覚が足りない奴が多すぎる。」
彼はそう呟きながらやれやれと言った感じで頭を抱えた。
喧嘩をしていた二人も、少し落ち着いた様子だが今だにまだ睨み合っている。
「お前達も、もう直ぐ試験が始まるのだから睨み合うのはやめ...」
「何をしているのですか?」
睨み合う二人を離そうとランハットが言葉をかけると、部屋の入り口の方から声がし、全員の視線が一斉にそちらに向く。
その先には実技試験の試験官、リディア先生が立っていた。
その姿を見た全員が黙った。
彼女が放つプレッシャーが凄まじかったからだ。
表情が穏やかな分、放つ雰囲気との差で余計に萎縮して仕まう。
彼女は周りを見渡すと、ゆっくりとした足取りで喧嘩をしていた二人に近づく。
流石にまずいと思ったのか、二人の表情が一気に強張る。
二人に近づくにつれて先生のプレッシャーが徐々に増してゆく。
見るとランハットも先生のプレッシャーに押されている様だ。
先生はそんな三人の前で立ち止まるとゆっくりと、重みを帯びた雰囲気で喋りだす。
「単刀直入に聞きます、ヘレンさん、シズクさん、私が来る前に貴方達は喧嘩をしてましたね?」
「......」
二人は同時に黙る。
「先生!」
黙っている二人に変わり、ランハットが先生に話しかけた。
「彼女達は確かに喧嘩してました、しかしちょっとした小競り合い程度で...」
「貴方には質問してませんよ?ランハット君。」
しかし、彼の言葉は途中で遮られてた。
「私はそこの二人に聞いているのです、貴方が話す事はありません。」
「...すいません。」
彼女の言葉にランハットは一歩引いて謝罪した。
「さて、もう一度聞きます、二人は先程まで喧嘩をしてましたね?」
「...はい。」
「すいませんでした...」
二度目の問いでようやく二人は口を開いた。
その言葉を聞いた彼女は、目を閉じて少し溜め息を吐いた後話し出す。
「ヘレンさん、シズクさん、貴方達二人の実技試験は不合格です、今すぐにこの会場から出て行きなさい。」
彼女は静かに言い放った。
その言葉を聞いた二人は目を見開き固まっていた。
「彼女達だけではありません、二人が喧嘩しているのをただ見ていた周りの受験者も全員不合格です、速やかに会場から出て行きなさい。」
その言葉に周りの受験者が騒めきだす。
当然だ、明らかに二人のとばっちりを受けただけなのだから。
「先生!それは流石に酷すぎます!喧嘩をしていた二人ならまだしも、それに関与していない周りの受験者達まで不合格にするのはおかしい!」
ランハットがすかさず先生に抗議する。
その言葉を聞いた彼女は、笑顔を見せて話しだす。
「何がおかしいのですか?喧嘩をしていた二人は当然ですが、二人の喧嘩を止めもしないで傍観に走っていた者達も同罪だと私は思うのですが?」
「そこが理解できません!周りの皆は大事な試験前に問題を起こさない為に大人しくしていた、その行動のどこが間違っているのですか⁉︎」
「何もしないで大人しくしていた事が問題なのです。」
「ッ!」
彼の反論に彼女は少し強めのトーンで喋る。
その表情は先程とは打って変わり、真面目な顔をしている。
「確かに、試験前に問題を起こさない様に大人しくする、その行動は本来なら正しいでしょう...しかし、貴方も言った通り今は大事な試験中です...そんな中、喧嘩を始めた二人は論外ですが騒ぎが大きくなる前に止める事ができたのでは?
それをしなかった他の受験者には一切責任が無いと言い切れますか?」
その言葉を聞いた周りの者達は下を向いて仕まう。
そんな様子に構う事なく彼女は続ける。
「止める事ができたはずなのにそれをしなかった、自らの保身の為ただ傍観していた、それは喧嘩の当事者で無くとも二人とほぼ同罪だと私は思っています、大事な試験なら尚更止めに入らなければいけなかった筈です...なので私は連帯責任として全員を不合格にしたのです。」
ここまでの彼女の話を聞いた周りの者達は、何も言い返す事ができずにいた。
「しかし、学園側の用事で遅れてきた、ランハット君とフェディエルさんはこのまま試験を受けてください、貴方達二人に非はありません、むしろ遅れてきても尚周りの者達がやらなかった喧嘩の仲裁をしたのですから、むしろ褒められるべきです。」
その言葉を聞いたランハットはなんとも言えない顔をしている。
フェディエルの方は部屋の隅の方で当然だという感じで立っていた。
「待ってください!」
突然シズクが叫んだ。
「先生の言い分は理解できました、しかし!喧嘩をしていたのは私達で、他の受験者に責任は有りません!どうか不合格にするのは私達だけにして下さい!」
そう言って彼女は深々と頭を下げる。
「そうです!責任は私達だけに有ります!他の受験者は関係ありません!私達の問題で巻き込みたくない!どうかお願いします!」
そう言って、ヘレンも深々と頭を下げる。
謝る二人の肩は少し震えていた。
当然だ、自分達のせいで本来咎められる事はない周りの受験者を巻き込んでしまったのだから。
しかし、そんな泣き言を聞き入れるほど先生は甘くは無かった。
彼女は冷たい声で話す。
「非常に身勝手ですね...この様な状況を作った貴方達に懇願する権利はありません、謝るくらいなら何故喧嘩を始めたんですか?貴方たちは自制心が働かず冷静さを失い騒ぎを大きくしました、この事実は変わりません。なのに今更自分達の問題で周りを巻き込みたくない?そう思うのなら初めから喧嘩をしなければ良かっただけですよ?貴方達は自身が犯した間違いを理解していない様ですね...もう話は終わりです。」
そう言って先生は謝る二人を無視して試験の準備を始めようとした。
「おいおいマジかよ...」
「なんで俺達まで巻き込まれなくちゃいけないんだよ...そりゃ無いぜ。」
「私どうしよう...パパとママになんて言えば良いの...」
周りから絶望の声が聞こえる。
それと同時に二人に対しての憎悪の視線が向けられた。
(ん〜、俺としては不合格になっても特に問題ないんだが......いや待て!このまま不合格になったら師匠が許すわけが無い!絶対に半殺しにされる...)
そんな事を考えながら横を見ると、リクが絶望の表情を浮かべながらぶつぶつと喋っていた。
「終わった...ごめん母さん、せっかく送り出してくれたのに..俺、不合格になっちゃったよ...」
そんな表情を見た俺は溜め息を吐いた。
(仕方ない、俺も不合格にされるのは困るから何とかするかな...)
俺は覚悟を決めた。
「傍観していた奴らが二人と同罪なら、試験官のリディア先生も同罪じゃ無いですか?」
この状況を打開すべく、俺は試験の準備をしている彼女に大きな声で言い放つ。
ピクッ
俺の言葉に彼女は反応した。
それを確認した俺はゆっくりと先生の前まで歩きだす。
「試験官の私が貴方達と同罪、ですか...何を根拠にそんな妄言吐くのですか、ソール君?」
彼女は準備する手を止めてこちらに顔を向ける。
その表情は先程と同じ様な...いや、先程よりも更に穏やかな笑顔を見せていた。
それに比例してか、話していた時とは比べ物にならない程のプレッシャーを向けられている。
正直言ってかなり怖い...がこれくらいの威圧は日常的に向けられる事が多いので慣れている...寧ろ師匠の方がこの数倍は怖い。
威圧されながらも俺は話しだす。
「先程先生は、"止められた筈なのに止めなかった周りの受験者達も同罪"と言いましたが、それは何も受験者だけで無く先生にも同じ事が言えると俺は思います。」
「その根拠は?」
「だって先生は、ずっとこの試験会場の様子を監視していましたよね?」
その言葉を聞いた彼女は、ほんの少し驚いた表情を見せた後周りに気づかれない程度に少し嬉しそうに笑った。
他の受験者達も驚いた様子で騒めきだし、頭を下げていた二人も顔を上げ俺と先生のやり取りを見ている。
(やっぱり...この人初めから俺が出てくる事を分かっていたな...多分俺が部屋に仕掛けた魔法にも気づいているだろうし、うまい具合に炙り出されたのかも...)
そんな事を思いつつも、俺は話を続ける。
「会場の様子を監視していた先生なら、そこの二人が喧嘩を始めた原因や様子を知っている筈ですよね?なのに先生は止める事なくその様子を監視していた...その行為と周りの受験者が傍観していた行為に違いなんて無いと思いますが。」
「それは私が試験官なので、誰か止めに入るのを見守っていたんですよ?これも試験の一環と考えていたので。」
「試験の一環ですか...だったら何故先生はここまで騒ぎが大きくなる前に止めなかったんですか?」
「ふふっ、だから言ったじゃないですか試験の一環と考えていたから...」
「それは少し無責任だと思いますけど?」
俺は彼女の言葉を遮りながら言った。
「皆にとって大事な試験な筈なのに、
「貴方達の自主性を試していたのですよ、騒ぎが大きくなる前に誰か止めに入ると筈と思っていたので。」
「試験官を担当する人が受験者に対して、そんな身勝手な信頼を置いていたと?そう言いたいんですか?」
「身勝手とは...酷い言い方をしますね。」
「酷いのは先生の方です、初対面の俺達を勝手に信頼して、事態の収拾を押し付けたんですから。」
「成る程、そう言う事ならば確かに私にも非があります...
ですが、彼女達が喧嘩しているのを見つけたとして、そこから私が仲裁に入るまでに少々時間が掛かる可能性が有るとは思わなかったんですか?我々試験官が監視している部屋からこの会場まで少し距離が有ります、急いで来ても5分位はかかるでしょう...私が来るまでの時間稼ぎ位は出来たのでは無いのですか?」
「確かにそれ位の事は出来たと思います...しかし、この学園の中等部卒業成績がトップクラス同士の喧嘩です、並みの受験者じゃあ時間稼ぎをするのも酷だと思いますけど。」
「難しくとも仲裁に入る姿勢くらいは見せても良いと、私は思いますけど?」
「確かにそうすれば、今みたいな状態にならなかったかもしれませんが...しかし、
「ん?ただの口喧嘩?」
俺のその言葉に先生は笑顔を崩し首を傾げていた。
(俺の仕掛けが上手く機能していたなら、ここから突き崩せる筈だ...)
「何をそんな不思議そうな顔をしているのですか?彼女達はただ激しい口喧嘩をしていただけですよ?それなのに先生は止めなかった周りの者達まで不合格にしようとした様ですけど...流石に罰が重過ぎるなぁと思いませんか、ただの口喧嘩程度で。」
そこで先生は完全に言葉を無くした様だ。
それもそのはず、俺の仕掛けた魔法は部屋全体を監視から遮断する魔法だからだ。
二人が斬り合いを始める前にその魔法をかける事で、その様子は監視の目には届かなくなる。
したがって、先生が見れたものと言えば二人が斬り合う前の言い争っていた部分のみ...ともなれば、口喧嘩程度で不合格にするのは罰が重過ぎる可能性がある為、少しは考え直す余地ができる筈だ。
しかし先生は、迷いなく止めに入った二人以外の全員に不合格を言い渡した様子からして、何らかの方法で二人が斬り合った事実は把握していると思われる。
だが先程からの先生の言葉には、二人が斬り合いをした事が含まれていなかった、きっと先生自身の目では確認できて無い為、虚言にも近い形で皆に不合格を言い渡し、その反応を見てから確信した様だが、彼女自身の目で見ていない事もまた事実なので、その事に関しては強く発言し無かったのだろう。
(うまい具合に二人が、口喧嘩しかしていない事に出来れば少なくとも関与しなかった周りの受験者達の不合格は無くなる筈...)
俺は周りを見渡すと、皆揃って驚きの表情をしていた。
しかし、誰も俺の発言に異議を唱える者は居ない...皆が俺の使用としている事を理解しているからだ。
あの真面目なランハットでさえ、この発言には黙りを決めている。
「フフッ、そう来ましたか...」
先生は笑いながらも感心した様に言った。
「少しは考え直していただけましたか?喧嘩をした二人は難しいと思いますが、少なからず巻き込まれた他の者達の不合格は無いと思います。」
「そうですねぇ、私が不合格を言い渡した時の皆さんの反応を見る限り、口喧嘩程度では無いと予想していたのですが...どうやらそれは私の早とちりだった様です。」
(よし!かなり強引なやり方だったけど、何とか言いくるめる事が出来たか...当事者の二人には悪いが流石にそこまで弁護する余裕が無いので諦めてくれよ)
「では、当事者以外の不合格は無しと考えても良いですか?」
俺が先生にそう問いかけると、彼女は目を瞑り少し考え始めたが、すぐに目を開けて話しだす。
「分かりました、当事者の不合格は取り消しにしましょう。」
その言葉に周りの受験者達から安堵の声が漏れる。
当事者二人は少し安心した様な顔をしたが、どこか悲しそうな雰囲気も漂わせている感じだ。
(まぁ、口論のみで不合格になるのは少し過剰な気もするがここまで騒ぎが大きくなったのだからそれなりの責任に問われるのは仕方ないよなぁ...)
そんな事を考えていると、彼女は意を決したように喋り出した。
「では次に、私の処遇に着いて決めなければ行けませんね。」
彼女のその言葉に俺も含めた全員が、ん?と思った。
「試験官である私の早とちりで、皆さんに多大な不安を感じさせてしまいました...試験官として、私も何かしらの罰を受けてけじめをつけなければなりません。」
そう言うと彼女は立ち上がり、自身の目の前に魔法陣を展開させた。
(あの魔法は!)
俺は彼女が展開した魔法陣を見て驚愕した。
「自らの罪を棚に上げて、同じ罪を犯した受験者を裁こうとし、危険行為を止めようともせずに傍観していた...試験官と言う責任ある立場なのにその職務を怠慢した、当然貴方達より重い罰を受けるのは当然のこと...なので今この場で私は自らの命を持って償う事にします。」
彼女の言葉に全員が一斉に騒ぎだした。
しかし彼女はそんなのお構い無しで、魔法の詠唱を始める。
(いやいやいや!流石にこれは予想して無かったんだけど!)
彼女が詠唱している魔法、それは人に宿る命を永遠に葬り去る魔法だった。
(どうする⁈俺達の不合格は回避出来たが、あの人が死んだらマジでただ事じゃなくなるだろ!あの魔法を不発に終わらせる事は出来るが、それをすれば現状の魔力量は殆ど空になる...けどこのままじゃ試験どころじゃ無い!)
「先生!流石にそれは過剰過ぎます!何も命までかけなくても...」
「いいえ、ソール君。」
彼女は俺の言葉を遮った。
「私が犯した罪は、皆さんの未来を奪いかね無い程の事なのです、それを試験官と言う立場でありながら...いいえ、私の様な高い地位を賜った天使族なら、公平を重んじる事は絶対...それを犯した私は死を持って償うのは当然...いや、それすらも軽いと思います。」
そう言い切った彼女は再び詠唱を始めた。
(駄目だこの人!天使族特有の考え方が悪い方向に働いてるよ!)
天使族とは、主に公平や調律など世界のバランスを保つ役割を絶対視する事が多く、自身が公平さを害する行為をした場合は受ける罰を過剰に重くする傾向にあり、中々に癖のある種族なのだ。
(天使族は一度罰を与えると決めたら、その決定を覆す事はあまり無い...自らの誤ちに対する罰ならば尚更だ、例え俺があの魔法を一度防いだ所で彼女はまた同じ事をするだろう...)
この場を打開する
「やめて下さい先生!その魔法は危険です!周りの者達まで巻き込まれかね無い!」
その声に反応してか、先生が一瞬だけ詠唱を止めた。
(まだ打開策は浮かんで無い...が、あの魔法を止めるなら今しか無い!)
俺はその隙を突き、妨害する為の魔法を放った....