万象の半精霊 作:宇宙豆
《
俺の手から高密度の魔力が射出され、彼女が展開する魔法陣の一部の文字を吹き飛ばす。
その瞬間、魔法陣全体が徐々に崩壊して消えていった。
「ッ!」
自らの魔法が不発に終わった彼女は、驚きの表情を浮かべた。
周りの者達も一部を除いて、何が起きたかわからない様な表情をする。
(何とか防いだけどここからどうする...考えろ俺!)
一度魔法を解除したとはいえ油断はできない。
彼女がもう一度詠唱を始める前に何とかして説得しなければならない。
「ソール君。」
俺が考えていると、彼女の方から話しかけてきた。
その表情はそこはかとなく怒りを帯びている様に見える。
「なぜ私の贖罪を邪魔するのですか...」
「先生、冷静になって下さい。」
(こうなったら無理矢理にでも丸め込め!言葉は喋りながら考えろ!)
俺は慎重に言葉を選びながら喋り出す。
「ここで先生が死んでしまっては、事態が悪化します。先程の騒ぎは試験全体の一部だけで留まりました...しかし、試験中に死人が出たとなると騒ぎの大きさは先程の比じゃありません、ほぼ間違いなく試験事態が中止になります。先生もそれは望まないですよね?」
「そうですね...しかし、だとするならば私はどの様にして罰を受ければ良いのでしょうか? 私だけ罰を間逃れるなど公平さに欠いてしまいます。」
「天使族である先生がそう考えるのは理解出来ますけど、それじゃあ余りにも救いが無さすぎます。」
「救いが無い?」
「そうです...もし仮にあのまま先生が死んでしまっては、その後に起きる騒ぎに対しての贖罪が出来なくなります...
死んで楽になるなんて少し甘いんじゃ無いですかね?」
一同「はぁ?」
俺のその言葉に周りの者達から、疑問の声が聞こえてきた。
(ヤベェ...俺何言ってるんだ).
心の中で慌てながらも俺は続けた。
「なにせ、死ぬ事でその後に起きる罰から間逃れる結果になるのですから、そりゃ楽ですよね? 天使族である貴方がそんな方法で逃げるなんて正直失望しました。」
「おいお前!何めちゃくちゃな事言ってるんだ!頭がおかしくなったのか⁉︎」
俺の発言に対して我慢出来なくなったのか、今まで黙っていたランハットが口を開く。
「頭がおかしいなんて、心外だなランハット...」
「なに?」
「俺は天使族である先生の在り方を尊重して貰うために言ってるんだ、受けるべき罰を受けて罪を償う...それはこの世に生まれた者達に与えられる平等な権利だ、先生の行動はその権利を自ら奪う結果になる...こんな救いのない結末なんてあんまりだろ?」
「な!...ん?だからお前は...いや意味が分からない。」
「ランハット、お前がとても優秀なのは今日初めて会った俺にも十分に理解できたよ、けどもう少し各種族の性質や特徴、文化をもう少し理解した方がいい...人族の者達が同じ常識を持っていたからと言って全ての種族にそれが当てはまるとは限らない、もう少し広い価値観を持って考えよう。」
「お前...最初の時と人格が違くないか?」
「当然だ、お前が見たのは俺の性格の一部でしかないからな。」
「確かに、そう言えなくもないが...しかし今のお前の言動は奇怪過ぎる、それに今の話し...」
「もう良いですよランハット君...」
「先生...」
彼は先生にそう言われると黙ってしまった。
「ソール君。」
彼が静かになったのを見た後、彼女は俺に話しかける。
「では、どうしたらこの場を収める事が出来ますか?試験官であり学園の教師である私が、受験者に打開案を求めるのはたいへん好ましく無いのは理解してます...ですが先程種族の価値観について深い理解を示してくれた貴方に、是非とも聞いてみたいのです。」
彼女は、申し訳なくも興味ありげな様子で聞いてきた。
そんな彼女に、俺は一つの案を提示した。
「ではこうするのはどうでしょう?この騒ぎについては全員お咎め無しにするとか。」
俺のその言葉に全員が驚く。
「今回は若干騒ぎが大きくなり、それを見て不合格の判断をしたのは先生です。ならば、ここで先生が不合格を取り消して今回は特に何も起きなかった...そうすれば全て丸く収まります。」
「しかし、それでは私の罰も無くなってしまい...」
「分かってますよ先生。」
俺は先生の言葉を遮って言った。
「けど考えてみて下さい、先生は自分の価値観や考えを自ら捻じ曲げて嘘をつくんです、今回は特に何も無かったと...
それは先生にとって大変苦しいもので不本意なものだと思います、けどそんな感情を背負う事が先生にとっての罰になると思いませんか? 後ろめたさを抱えたままこの先暮らしていく中で、もし先生が自分を許せた時...そこで初めて先生の贖罪が為されるのです、死を選ぶよりとても辛い事ですが少なからず救いはあります。」
「ッ!」
「先生は救いのある罰を受ける事が出来る、これ以上この件に関しての騒ぎは無くなる、この場にいる受験者の全員が試験を受ける事が出来る、幸い俺達のグループの試験官はリディア先生お一人の様ですし、貴方の判断でどうにでもなります。打開案としてこれ以上なものを考えることは、俺には出来ません...どうするかは先生次第なので、俺からはこれ以上言う事はありません。」
俺の言葉を全部聞いた彼女は、目をつぶって考える。
(めちゃくちゃな理由だけどこれ以上はどうしようも無いし、後は先生がこの案に乗ってくれるのを祈るだけ...)
1分ほど考えた後、彼女は目を開き意を決したように話す。
「分かりました、ソール君の案に乗りましょう。」
その瞬間、周りの者達から小さいながらも喜びの声が聞こえてきた。
不合格を間流れない筈だった二人も、顔を上げて喜びの表情を浮かべている。
「この場にいる全員は同じ秘密を共有した仲間という事で...他言無用で頼むよ?勿論先生も。」
俺は全員に聞こえる声で言った。
俺の言葉に返答する声は無かったが、皆んな無言で頷いていた。
「ふぅ...ではこの件はここまでという事で、だいぶ時間が押していますが急いで準備しますので皆さんも試験の準備を始めて下さい。事前に持ち物を預けていた方はこちらに用意してありますので、他の受験者の物と間違わない様に取りに来てください。」
そう言ってパンッ!と手を鳴らすと彼女の横に突如として扉が現れる。
彼女がその扉を開くと、中には様々な武具が置いてある武器庫の空間が広がっていた。
それを確認した受験者達が列になって自らの武器を取りに行く。
(受験者が預けた武器を保管する倉庫に、スキルの"ゲート"を直接繋げたのか...出現した扉が物質みたいに見えるから、《スキル練度》はかなりのものだな...)
俺は感心しながらその様子を見ていると、先生が俺に近づき小声で話しかけて来た。
「今回は助かりました...ルナール先生から聞いていた通り、良いお弟子さんですね。」
「やっぱり...なんとなく思ってましたけど、師匠が絡んでましたか。」
俺は呆れた様に返す。
「いえいえ、今回は私の独断で行った事です... 彼女が信頼を置く弟子がどれ程の方かと興味が湧きまして。」
「人が悪すぎますよ...その様子だと初めから不合格にする気は無かったんですよね?」
「あら、どうしてそう思うのですか?」
「どう考えても先程の処罰は過剰でしたし、何よりこの学園の教師が自決するなんて、そんな考え無しの行動をとるとは思えません。」
「確かに、あれは私も無理があったかと思ってました...けど貴方は万が一を想定し、あんなおかしな言動と強引なやり方をしてまで解決しましたよね?」
「辞めてください...俺自身も恥ずかしいので。」
「フフッ...失礼な事なのですが少し笑っちゃいそうになりましたよ。」
「はぁ〜...本当に人が悪いですね。」
「ごめんなさい...けど万が一を想定して行動できるというのはとても良い事です。二人の喧嘩が始まったところで貴方が監視を遮断する魔法を使わなければ、他の試験官にも二人が戦闘する様子を見られていたと思いますし、そうなればどうにも出来なかったでしょう。」
「どうせその時は先生が何かしらフォローを入れるでしょうし、何より喧嘩を止めた二人がいなければ被害が大きくなりそれこそ誤魔化しが効かなかったですよ。」
「謙遜しないでください...貴方の迅速な行動によって、無事全員が試験を受ける事が出来るのですから...自分だけでなく他人も助ける、深い愛を持った素晴らしい人です。」
「愛なんて大袈裟な...自分が不合格にならない為に取った行動にたまたま周りが救われただけで、他人の為に動いた訳じゃ無いですよ。」
「そうですか...まぁ今はそういう事にしておきますよ。それより魔力量の方は大丈夫ですか?」
「お陰様で、使える魔力量が少なくなってしまいましたよ...自決するのにあんな高度な魔法を使わなくても良いのに...」
「生半可な魔法では直ぐに演技だとバレてしまいますし、貴方以外に簡単に防がれてしまっては意味が無いので。」
「一人だけ...先生が使おうとした魔法に反応した子が居ましたね、確かヘレンと一緒にいた...」
「リカテュエルさんですね、彼女の中等部においての魔法成績はトップですし、卒業成績も8位でとても優秀な方ですので...魔法においては貴方の良きライバルになると思いますよ。」
「別に俺はライバルとか求めてないんですけどね...それに初対面の時、魔導師を目指すのは辞めた方が良いとか言われたので、余り良い印象は持たれて無いだろうし。」
「それはきっと貴方が魔力低下を掛けられて全体的な魔力がが低く見えたからでしょう、ですが先ほどの魔法で貴方の実力がどれ程高いか知ったと思います... 彼女は聡明なので直ぐ貴方の実力を理解しますよ。」
「そうですかね?」
「えぇ、間違いありません。それに彼女だけでは無く他にも優秀な方が沢山いますし、貴方にとってこの学園はとても良き居場所になると私は保証しますよ。」
彼女は優しくそう言った。
「俺はそこまでこの学園には求めてないので、正直どうでもいいですね。」
俺は彼女の言葉に冷たく返した。
そんな様子を見た彼女は、少し悲しそうな表情を浮かべながら話す。
「ソール君...
とても優しい言葉だ。
しかし、俺の心には余り響かなかった。
歪んでる自覚はある、しかしこればかりはどうしようも無い...それは俺自身の問題で、師匠にも余り干渉されたく無い事だ。
信頼してないわけじゃ無いが、その事に関してはどうしても距離を置きたくなる。
「在学中にそんな時が来れば良いですね...まぁ俺がこの試験に合格できるかまだ分からないですし...」
「ソール君...」
「これ以上話をしていると試験に影響が出るので、先生は早く準備をして下さい。」
「分かりました、貴方に神の祝福があらん事を...」
そう言うと彼女は静かに離れて行った。
取り敢えず一段落ついたが油断は出来ない。
むしろ本番はここからだ、使える魔力が少ない状態でどうやって試験を乗り切るか考えなくてはいけない。
(はぁ〜もうなんか疲れたな...残り魔力は少ないし、さっきの言動で変人だと思われてるだろうし、なんかもう面倒い...)
試験の先行きに不安を感じながら、そんな事を考える。