万象の半精霊 作:宇宙豆
俺と話をした後、先生は手際良く試験の準備をこなして行く。
自らの武具を受け取った受験者達は、精神統一する者、知り合いと喋る者、神に祈りを捧げる者など、各々の方法でリラックスしていた...ただ一人を除いて。
「や、ヤバいよ、緊張で手が震えてきた..それになんか気持ち悪くもなってきた...」
「落ち着けよリク、別に死ぬ分けじゃ無いんだからリラックスしようぜ。」
俺は彼の肩を軽く叩きながら言った。
「何で君はそんなに冷静で居られるだよ...いやまぁ、あんな大胆な事するくらいだしこれくらい何とも無いんだろうけど。」
「俺だって緊張はしてるぞ、けどさっきの事で色々やったからなんか気張っても仕方ないかなぁと思って。」
俺はやれやれと言った感じで話す。
「やっぱり...先生の魔法が不発だったのって、君がやったんだね。」
「お?よく分かったな、皆んな先生の方に注目してたから気付いてないと思ってたんだけど。」
「そりゃ最初は何が起こったか分からなかったけど、あのタイミングで先生の邪魔出来るのは君くらいかなって思ったし、魔力が飛んできた方向に君が立っていたから。」
「それもそうだな。」
「けど、あんな高密度の魔力を撃って大丈夫?残り魔力とか結構少ないでしょ。」
「あぁ、使える魔力は結構少なくなったから試験では補助程度しか出来ないと思う。」
「それはキツイね...それに、君のおかげで助かったのにお礼を言う人は一人もいないし...」
彼は悲しそうな表情で言った。
(優しい奴だな、自分が不安な時に他人の事を考える事ができるなんて...仕方ないからコイツの緊張を少し解いてやるか)
「俺は別に構わない、あの事は無かったことにしたから変にお礼を言って他の試験官に怪しまれても困るし。」
「リディア先生が喧嘩の事を知っているから、他の試験官も気付いてるんじゃ無いの?」
「いや、俺が部屋に監視を遮断する魔法を張ってたから、よっぽど見られては無いと思う...まぁ、いきなり監視が遮断されたから怪しまれてるだろうけど、そこは先生がなんとかしてくれるでしょ。」
「君って本当色々出来るよね、固有空間を持ってるし先生の魔法を無効化しちゃうし、更には部屋全体に魔法の結界を張っちゃうし...薄々気付いてたけど凄腕の魔導師なんだね。」
彼は感心した様に頷きながら言った。
「この程度で凄腕って言われても困るけどな、固有空間以外はただの小細工だし、そんな難しい魔法は使ってないよ。」
「魔法を使えない僕から見れば充分凄いよ、実技試験も君と一緒のチームなら安心出来るんだけどなぁ...」
「おいおい、そんな他人を頼った考え方は良く無いぞ?あくまで自分の力で試験を合格しないと後々大変になるだけだ。」
「えへへ、そうだよね。」
「まぁ、俺もリクと組めたら楽だと思うけどな。」
「え?どうしてそう思うの?」
「そりゃチームで臨む試験だから当然連携は必須になってくる分けだし、コミュニケーションがしっかり取れてないと満足な結果は出さないからな。」
「そっか...初めて会う人とチームを組まないとだから、上手く意思疎通が出来ないとバラバラになっちゃうもんね。」
「それに、試験で使われる自律型戦闘人形の強さは、あらかじめ調べられた情報を元に決められるって言ってたから、変に実力が離れた者同士で組まされると更に難易度が増すからな。」
「成る程...戦闘が始まる前にチームの一人一人が仲間の実力を性格に把握してないと、動きが合わせられないもんね。」
「だから、チーム分けが終わったらまず最初に決め無いといけないのは、チーム内の司令塔を立てないと話にならない。」
「司令塔ってことはリーダーだね、僕は君にリーダーをやって欲しいな。」
「まぁ、基本的に魔導師である俺が後方から全体を見て指示を出すってのがチーム連携の常識だけど、状況によっては前で戦っている者が今の前線の状況を感じ取って指示を出すってのもありだ、白兵戦に置いてはその方が正しい判断をできる場合もある。」
「けど、冷静な判断力が無いとそれも意味無いよね。」.
「時には頭で考えた事より、肌身で感じ取った感覚による判断の方が正しい時もある、それは接近戦で戦っている者の方が一番感じ取りやすいから...それに、いくら冷静な判断が出来たとしても、その者の言葉を信頼出来ないと迷いなく動けない。」
「僕は君の事を信頼しているよ?」
「ありがとな、けどリク一人が信頼を置いていても他の奴がそうじゃ無かったら意味無いだろ?さっきの事で多分俺は周りから変人認定されてるだろうから、そんな奴を簡単に信用できないと思うし、俺だったら間違いなく信用しない。」
「自分で言うんだね...」
「自覚はあるからな、まぁ何はともあれ誰とチームになるか分からない今はそんな心配しても無駄だから考えるな。」
「そうだね、誰と組むか分かってから考えた方が良いよね。」
「そうだ、それにこれだけ話をすればもう緊張は解れただろうし、お前は何も心配する必要は無いぞ。」
「え?あ、本当だ...手の震えが収まってる、まさか僕の緊張を解く為に僕と話してくれてたの?」
「いやそれは違う。」
「そこはそうだよって言って欲しいな...」
そんな感じて彼と会話をしていると、試験の準備を終えた先生が戦闘が行われるであろうステージの上に立って話し始めた。
「皆さん、大変お待たせしました。 只今より実技試験を開始します。」
彼女の言葉で周りに緊張が走る。
全員が自分に注目したのを確認してから彼女はゆっくりと話し出す。
「...では、チーム分けをしますので名前を呼ばれた方からステージの方に上がって下さい。」
そう言って先生はチーム分けが書かれた紙を取り出して、読み上げる。
「ではまずAチームから、ランハット君、シュノイツ君、カリム君、リカテュエルさん、メルルさん、ステージに来てください。」
名前を呼ばれた5名がステージに上がる。
「おっしゃああ!俺とランハットが一緒だぜ!こりゃ楽に試験を突破できるな!なぁランハット?」
「少し静かにしろシュノイツ、試験中にそんな慢心してどうする。」
「そんな緊張すんなって、俺とお前が組んで悪くなった事なんて無かっただろ?」
「緊張などしていない...が、確かにお前と一緒なのは心強いな。」
「だろだろ?それにカリムやリカテュエルもいる、更にメルルも一緒ときた、こりゃ負け無しだろ!」
「君にそう言って貰えるのは嬉しいな、しかし僕達は同じチームであり合格を目ざすライバルでもある、君たち二人に負けないつもりだよ、ランハットともそうだろ?」
「ふふ、相変わらず良い心がけだな...その通りだ、俺もお前達に負けるつもりは無い。」
「ヘヘ、面白ぇじゃねえか!おれも負けないぜ!」
呼ばれた内の三人が何やら楽しそうに話している。
(あのランハットが信頼を置く奴らか...あの二人も相当な実力者だろうな、一人は獣人族の槍使い...シュノイツって名前か、保有魔力量は少ないが肉体の完成度が高い、服越しでも鍛え抜かれた体を持っている事が分かる。 それにカリムという悪魔族も...変わった武器を持ってるな、見た目は双剣のようだが掬と持ち手の部分が駆動しそうな形状をしている...銃剣の類だろう、それに保有魔力量が高い)
「競い合うのは勝手だけど連携だけは崩さないで、援護する私たちが大変だから。」
「相変わらずリカちゃんはドライですね、私達も彼らのように競い合いましょう。」
「メルルも悪ノリしないの、それとリカちゃんって呼ばないで。」
「は〜い。」
彼らに続いて二人もステージに上がる。
(一人はリカテュエル、話した時も感じていたがかなりの保有魔力量だな、それにもう一人のメルルって子も彼女に負けてない程の魔力量だ、羽根はしまっているが雰囲気的に妖精族だろう...立場的には
「Aチームの方達は私が呼ぶまで待機してて下さい。 勿論その間に作戦を練っても構いません。」
「分かりました。」
先生の言葉にランハットが答えた後、五人で作戦会議を始めだした。
「では続いてBチーム、フェディエルさん、シズクさん、
ヘレナさん、ファウスト君、ディアベル君、ステージに来てください。」
続いて呼ばれた5名がステージに上がる。
フェディエルは余裕のある足取りで上がるが、後に続く四人の足取りがどこか重い感じだ。
特に喧嘩をしていた二人は若干俯きながら歩いている。
あんな状態ではまともに連携は出来ないだろう。
二人の後ろにいる男達もそれを感じ取ってか、何処か不安げな表情をしている。
「不安だぁ〜、マジ不安だぁ〜...何でよりによってあの二人がいるチームなんかに...はぁ〜...」
「ディアベル君、そんな不安がっていては試験に差し支えますよ?安心して下さい私の信仰の力で貴方達に神の御加護を授けましょう。」
(へぇ〜、あのディアベルって男幻人か...感じ取れる魔力が特殊だ、もう一人は先生と同じ天使族だな...個々の実力は高そうだけど、連携が上手くとれるか...)
「其方が崇拝する神の加護なぞ必要は無い。」
突然、フェディエルが後ろの四人に向かって言い放つ。
「神官の身である私にとって、それは聞き捨てなりませんね...フェディエルさんは神の存在を否定するのですか?」
彼女の発言にファウストが腹を立てたように言う。
神官ならば神の存在を無碍に扱われれば黙ってないのが普通だ。
「否定などせん、現に神はいる...でなければ妾の存在は一体何になるのだ。」
彼女の言葉にその場に居た全員が目を丸くする。
「妾は竜人の祖である神、神竜の血を引く神竜族の末裔...
言わば妾こそ現代に生きる神ぞ。」
彼女の追撃発言に全員が更に目を丸くする。
(えぇ...いくら自信があるからって自分を神っていうか普通...
まぁ本当に神竜族の末裔ならあながち間違いでは無いけど...)
十二種族にはそれぞれ神となる存在がいる...神とはその種族の原点に位置し崇拝される存在なのだ。
竜人族にとっての神とは神竜と呼ばれ、その一族を神竜族と呼ばれる。
何百年も前にその一族は
ちなみに、龍族と竜人族は起源は同じだが別種族とされている。
龍と呼ばれる存在は言わばモンスターの枠組みに入り、竜人は人型種の枠組みに入る。
故に龍と竜の二つの文字で分けられているのだ。
まぁ、竜人族は龍族から進化した種族で《原点回帰》即ち龍に回帰する事を何よりも望んでいる為、当人達は使われる文字に差ほど興味は無いらしい...むしろ龍の文字が使われると喜ぶ傾向にある。
「貴方は相変わらず傲慢極まりますね...」
「褒め言葉として受け取っておこう。」
彼は呆れた様に言ったが、彼女は寧ろそれを喜んでいる様子だ。
「故に、祈るのはやめるがよい...妾がいる時点で既に其方らには加護が付いておる...少しばかり協調性が失われようが微々たるものじゃ。」
彼女の言葉を聞いた四人は若干腑に落ちない様子だが、同時に何処か安心した様子も感じ取れる。
「確かに、お前がいるなら少しはマシになるか...」
先程まで不安だと言っていたディアベルが、彼女の言葉に頷く。
「しかし...妾が率いる
「な!また私たちの事を!」
「少し調子に乗りすぎじゃないかしら?」
俯いてた二人も流石に癇に障ったか、彼女に食ってかかる。
「ふむ、ようやく目に生気が戻った様じゃな...その意気で精々妾の引き立て役になる様頑張れ。」
その言葉に二人は歯軋りするがそれ以上はなにも言わなかった。
「何か凄い人だねフェディエルさんって...」
「いろんな意味でな...まぁ意図してかは知らないけど、彼女の言葉で不安要素だった二人は何とかなりそうだけど。」
「え!今ので?」
「あぁ、連携できるかは別として少なくとも二人はやる気を取り戻したからな。」
「なるほどね、彼女の言葉に二人の対抗心が燃やされた訳か。」
リクはそう言うと手をポンと叩き納得した。
その後も次々と名前が呼ばれ、いよいよ最後のチームの番になった。
「最後はやっぱり俺たちか...」
「そうだね、何か一番期待されてない様な感じになっちゃうよ。」
「実際そう言う意図も含めた組み合わせじゃないか?変に期待されるよりはマシだ。」
「君って本当ストレートに物を言うよね...まぁ僕もその方が気が楽だけど。」
呼ばれていない受験者も残るは5人、必然的に残った5人が同じチームになるんだが...
「では最後にHチーム...リーリアさん、アナさん、リク君、メルロウ君、ソール君、来て下さい。」
残りの5人がステージに向かう。
「大丈夫、大丈夫、私はやれば出きる...」
「へぇー、私以外全員外部受験者なのね...良いわ、やってやろうじゃない。」
「ふむふむ、先程僕達を不合格から救ってくれた彼と一緒か...これは中々面白いね!」
「遂に呼ばれちゃったよ...あぁ、神さまどうか僕を合格に...」
「神に祈ったって意味ないぞ?合格は自分の力でしろ、神官じゃないんだから。」
そう言って俺はリクの背中を叩く。
「痛い!もう少し優しく叩いてよ。」
「これくらいしないと緊張が解れないだろ?」
「君は本当に魔導師なの?ノリが如何にも戦士職の様な...」
「まぁそれも間違いじゃないけど...俺は魔導師だ。」
「君ってなんか色々訳ありな感じなんだね。」
「訳ありって何だよ...」
パンパン!
「はいはい、私語はそれくらいにしてください。」
全員が集まったのを確認した先生は手を叩き言った。
「それでは皆さんに今から10分間時間を与えます...チームの作戦会議の時間です、10分後にAチームから順に戦闘を開始します。 因みに皆さんが戦う自律型戦闘人形はこちらです。」
そう言うとステージに八体の人形が現れる。
(あれは、先生が出した奴じゃないな...あのステージに魔法的仕掛けがある感じか。)
「それでは作戦会議を始めて下さい。」
その言葉を聞いた受験者達はチームごとに集まり、作戦会議を始めた。
「10分しかないよ!早く僕達も作戦決めなきゃ!」
周りが始めたのを見てリクも慌てて言った。
「まぁ慌てるなよ、まずは自己紹介からでしょ。」
「なに悠長なこと言ってるのさ!僕達の実力だと10分じゃ足りないよ!確かに自己紹介は大事だけど。」
「そ、そうよ!お互いの名前と出来ることだけ言ってどう動くか決めましょう!」
同じチームのアナと言う少女が言った。
「まぁまぁ、二人とも慌てない...それに名前ならさっき先生に呼ばれた時に覚えたし。」
「うんうん、ソール君の言う通り!まずはしっかりと自己紹介をし会おう。」
俺の言葉にメルロウと言う男子が賛同してきた。
「えぇ...何か一人普通に仲良く会話に入ってきてる...」
「距離感の詰め方が凄いわ...」
慌ててた二人は俺たちの様子に唖然としている。
「おお?何かお前とは話が合いそうだなメルロウ君。」
「あはは、僕も同じ事を思ったよソール君...それと君付けは辞めないか?君とは仲良くなりたいからさ。」
「そうか、なら俺の事も君付けはしなくて良いよ、よろしくなメルロウ。」
「よろしく、それと僕が君付けするのはポリシーみたいなものだから続けさせて。」
「まぁそれで良いなら俺は構わないよ。」
俺達は握手しながら談笑する。
「何か...慌ててるのがバカらしく思えてくる。」
「私も...」
「あ、僕はリクって言います...よろしくお願いします。」
「え?あ、これはご丁寧どうも...私はアナと言います。」
俺たちの様子を見ていた二人も同じ様に自己紹介をする。
「二人の言い分は正しいわ、まずはゆっくりで良いからお互い出来るだけ各々の実力を把握するわよ。」
最後の一人、リーリアが話に入ってくる。
「けど、10分だけじゃ流石に短いと思うわ。」
「僕もそう思うよ。」
慌ててた二人が言った。
「いや、時間は10分だけじゃない...俺達は最長で2時間近くの時間が与えられてる。」
「その通りだね、僕達には他のチームより長く時間を割り当てられてるよ。」
「へぇ、そこの二人は理解しているわね。」
「え?それってどう言う事?」
俺たちの会話にいまいちピンと来てないようだ。
「まぁそれも今から話すよ、取り敢えず自己紹介して作戦会議を始めるか。」
そう言って俺達は作戦会議を始める事にした。