万象の半精霊 作:宇宙豆
第15話
「......はぁ⁈」
彼らの突然な発言に思わず声をあげてしまった。
「何もそんな声あげなくてもいいでしょ?」
「いや!そりゃあ声も出るわ!そんな話さっきから一度も出てなかったし!」
「それはそうよ、私が今初めて言ったもの。けど皆んなも私と同じ意見とは思わなかったわね。」
「あはは、むしろ僕は君がこの話を切り出す方が意外だったよ。」
「なんで?」
「だって一応君はSランク候補生でしょ?現状の学園側の評価では僕達より上な訳だし、自分の評価を上げるって意味では重要な役目の司令塔を他人に譲るのは、君にとってはマイナスになるんじゃ無いかと思ってね。」
「はぁ...確かにあなたの言う通りだけど、私はそこまで自分の評価だけ上げる事に固執なんかしてないわ。」
「なるほどね。」
メルロウとリーリアはそんな事を話している......
俺を置いてけぼりにして。
「いや!俺の意思も尊重しろよ!勝手に話を進めるな!」
「あら?貴方はやりたく無いの?司令塔。」
「いや、別にどうしてもってわけじゃ無いが...皆んなは俺の指示を信頼出来るのか?」
俺は四人に聞いてみた。
「まぁ、余りにも頭が悪い指示をするなら分からないけど、少なくとも私達が貴方を推したのだから、大人しく指示に従うわ。」
リーリアの言葉に他の全員が頷く。
そんな全員からの身勝手な信頼に少しだけ頭を悩ませた。
(ん〜...確かに司令塔に据えるなら後方で支援しつつ戦況の全体を見渡せる俺を置くのは分かるけど...正直そんな重要な役目は余り引き受けたく無いんだよなぁ、めんどくさいし)
そんな事を考えつつ少しの間悩んでから俺は意を決してこう言った。
「分かった、皆んながそこまで言うならやるよ。」
俺のその言葉に皆んなが嬉しそうに顔を見合わせた。
「その代わりと言っては何だけど、一つだけ条件を出させてもらうぞ。」
「「条件?」」
四人は首を傾げた。
「あぁ、それと一つ作戦を思い付いたからそれも今から伝える。耳貸して。」
そう言って俺は四人を集めて他の受験者に聞こえない様に伝えた。
「はぁ⁈」
俺の話した内容にアナが大きな声を上げた。
「うるさいな、もう少し静かにしてくれ。」
「いや、でも...本当にソール君って何者?」
「俺が何者かはどうでも良いが、今喋った事は今後も内密にして欲しい。余り多くの人には知られたく無いからな...」
俺の問いに四人は静かに頷いた。
その後は他の受験者達の試験を観察しながら作戦の細かい内容を決めて行き、試験開始から1時間半頃...いよいよ次が俺たちの順番が回ってきたという所で、一同が驚愕する出来事が再度起こったのだ。
「はぁああああ!」
一人の受験者の渾身の一撃により部屋全体...いや、試験会場全部を揺らす程の衝撃が響き渡った。
衝撃が収まりステージの方に視線を戻すと、激しく砕けたステージの上に無惨にもバラバラになった残骸とその元凶たる一人の受験者がぽつりと立っていた。
ステージの端の方では他のメンバー達が腰を抜かして地面に座り込んでいた。
「あ、あれ?ちょっとやり過ぎちゃったかな?あはは...」
立っている一人の受験者はそんな事を言いながら腑抜けた様に笑っている。
「こ、これが新しく顕現した"勇者"...力の次元が違いすぎるよ...」
俺の隣でリクが声を震わせながら言った。
そう、目の前のステージ立つ彼こそ現代に生まれた"三人目の勇者"....レイヴンズ・フォーランド。
(噂に聞いた程度だけど、本当に新 勇者が同じ試験に居たとは...いや、説明会の部屋に入った時に薄々は気付いてたけど、勇者の力がこれ程凄まじいとは想像してなかったな)
俺は苦笑いを浮かべながらそんな事を考えていると、ステージに立つ彼と目が合った。
目が合った彼は、俺の方を見ながらにこやかに手を振ってきたのだ。
俺は咄嗟に顔を逸らして気づかないフリをした。
何故だか分からないが、そうしなければ後々面倒な事に巻き込まれると直感で感じたからだ。
「え、えーと、Gチーム!これにて試験終了です!速やかにステージから降りて下さい。Hチームの方はステージを修復するのでステージの近くまで来て待機して下さい。」
いよいよ俺達の出番が回って来た。
「それじゃあ、行きますか。」
俺はチームの皆んなにそう言うと、ゆっくりとした足取りでステージに向かった。
メルロウは平気そうな顔をしているが、他の三人は動きも若干固くなっている様に見えた。
自分達の前にあんな激しい出来事があったのだから、頭の処理が追いつかず少し慌てているのだろう。
「どうした三人とも?そんなガチガチ緊張して。」
俺は後ろを振り向き三人にそう言った。
「いや、緊張するでしょ?今から試験なんだよ...」
「そうよ!それにあんなものを見せられた後なんだから尚更よ!」
「私も分かってはいるけど、精神をコントロールできなくてね...不甲斐ないわ。」
「あはは、三人ともそんな緊張しないで、別に死ぬわけじゃ無いんだから気楽に行こうよ、気楽に。」
「メルロウはもう少し緊張感を持って欲しいけどな、気軽にやられちゃ困る。」
「手厳しいねぇ。」
そんなやり取りをしながらステージの目の前まで来ると、先生が急いでステージを修復しているのが視界に入る。
みるみるうちにステージが元通りになっていくのを見て、他の三人が目を見張っていた。
「流石先生だね、あんなにボロボロだったステージがあっという間に修復されているよ。どんな魔法を使ってるんだろう?」
「そうね、私もあんな魔法は知らないわ。ソール君はあの魔法見たことある?」
「あれは《カーペント》って言う錬金術だね。」
「え?あれって錬金術なの?」
俺の回答にアナは驚いた様子で言った。
「けど、魔法を行使する時に感じる"マナ"が伝わって来るんだけど...」
リーリアも不思議そうにそう言ってきた。
どうやら彼女は魔力に対して鋭敏な感覚を持っている様だ。
「よく気づいたな、普通は魔導師じゃ無いと気付かないくらい微弱な物だと思うんだけど。」
「まぁ、私はエルフの中でも少し特殊な部類だから、魔導師じゃ無くても魔法を知覚する感覚がとても鋭いのよ。それよりも私の質問に答えて欲しいのだけど。」
「はいはい、まぁ簡潔に言えば魔法と錬金術の違いって、操る物が純粋なエネルギーか物質かの違いなんだよね。」
「ん?魔法がエネルギーで錬金術が物質って事?」
「そうだよ。」
「けど、それだったら魔法だって物質を操るじゃない?土魔法とか水魔法とか。」
「あ〜、なんて言ったら良いのかな...直接干渉する対象が物質なのかエネルギーなのかって話なんだけど。」
「ん〜、いまいち理解が出来ないわね。」
「僕はさっぱりだよ。」
「リク君は考えても無いでしょ?」
「な!メルロウ君!それは酷いよ。」
「あはは。」
二人が思った事を口にするので中々スムーズに話が進まない。
「もう少し詳しく説明できないかしら?」
リーリアが無茶要求をして来た。
正直、詳しく説明するとなると数時間を要するので試験開始までの短い時間で話す様な内容では無いのだ。
「ん〜、何に例えれば分かりやすいか...」
「準備が出来ましたので、最後のチームの方集まって下さい。」
そんな話をしていると、ステージの修理が終わったらしく先生が召集をかけた。
「お、試験が始まるぞ。続きは試験が終わった後にしようか。」
「むっ...なんかモヤモヤするけど仕方ないわね。後でちゃんと説明しなさいよ。」
「僕も教えてもらって良いかな?」
「了解、ちゃんと説明するから今は試験に集中してくれよ。」
そう言って俺たちは先生の所に集まった。
「それでは、早速試験を始めようと思いますが、試験の説明は欲しいですか?」
「いえ、問題無いです。」
「ではこれよりHチームの試験を開始します。」
そう言って先生は高らかに宣言するとステージから降りていった。
先生が降りたと同時に、最後の一体の人形がステージに飛び乗る。
「それじゃあ、作戦通りに行くぞ!」
「了解!」
俺の言葉に皆んなは気合十分に返事をした。
(他のチームの試験を見る限り、人形はこちらが攻撃を仕掛けない限り動くことはない...それに強さの設定はチームの総合戦力に合わせて設定している様だ、だから最初は攻撃を仕掛けず入念に準備をしてから動く)
そんな事を考えながら俺は付与魔法の詠唱に入る。
同時にアナも詠唱を始め他の三人はいつでも動けるように構えていた。
しかし....
「ギガギギギ!」
人形は俺達の予想に反して、突如として攻撃を仕掛けて来た。
「なにっ!」
俺も含め全員が人形の動きに身を固めた。
人形は真っ先に前衛のリクに向かって突撃していった。
「うっ!」
人形の拳がリク目掛けて襲いかかる。
しかし、事前に構えていたリクはギリギリで人形の攻撃を大剣で受け止める。
しかし、相当な威力なのか体格の良いリクが後方に大きく吹き飛ばされた。
「リク君!クソッ!」
リーリアは急いで弓を構えて人形目掛けて射った。
しかし、人形は容易く矢を弾き飛ばすと、攻撃して来たリーリアではなくリクに向かって追撃を仕掛けて行った。
「どうして!」
そんな予想外な人形の動きにアナは驚愕の声を上げた。
「アナ!そのまま詠唱を続けろ!作戦を少し繰上げてリクが体制を整えるまで俺が前衛であいつの攻撃を受ける!」
そう言って俺は人形に向かって走り出した。
しかし、この距離では俺より先にリクに人形が近づいてしまう。
見ると、リクはまだ体制が整っていない。
人形とリクの距離がみるみる内に縮まって行き、二人の間合いがぶつかる寸前。
「拘束糸陣!」
人形とリクの間に突如として無数の糸が張り巡らされた。
人形は咄嗟に後方へ飛び退くが、既に糸は人形の周りを取り囲み退路を塞いでいた。
「ソール君!」
「助かる!」
短いやり取りをメルロウと取り、俺はそのまま人形に向かって接近して行った。
「ふんっ!」
メルロウが力を込めて糸を引くと、人形を囲っていた糸が収束し瞬く間に人形を拘束した。
その糸を人形は力尽くで千切ろうとする。
しかし...
「エレクトロショック」
それよりも早く接近した俺が、至近距離で人形に魔法を撃ち込む。
魔法を受けた人形は体を痙攣させて硬直した。
「リク、大丈夫か。」
俺は人形と一旦距離を取りリクに声をかける。
「大丈夫!それより攻撃を畳み掛けて!」
俺が人形に視線を戻すと、既に硬直から立ち直り糸を引きちぎろうとしていた。
「ソール君!長くは持たない!」
必死に人形を拘束しているメルロウが言った。
「アナ!今の魔法の詠唱が終わったら、リクに回復魔法を!リーリアは引き続き人形の動きを牽制!メルロウはタイミングを見て俺の援護に回ってくれ。」
俺は皆に素早く支持を飛ばすと、人形に向かって突撃した。
それとほぼ同時に、人形は糸を引きちぎり俺の方に攻撃を仕掛けて来た。
(スキルや魔力を制限されている状態で、どこまで出来るか分からないがやるだけやって見ようか...)
俺は人形に近接戦を挑む覚悟を決めた。
人形の狙いは既にリクから俺に変わっているらしい、向かってくる俺に対して大きく腕を振り被る.....がしかし。
ドンッ!
俺が人形めがけて掌底を繰り出すと、人形の体は後方に大きく吹き飛んでいた。
俺以外の殆どの受験者達は何が起きたか分からないのか、皆一様に驚愕の表情を浮かべていた。
それもそのはずだ...俺の攻撃は明らかに届くはずない距離から放たれた物なのだから。