万象の半精霊 作:宇宙豆
人数が少なくなった会場が、俺の一撃で静かにざわめく……
間合いの外から放たれた一撃は、人形の胴体に直撃し後方へ大きく吹き飛ばした。
「「なッ!」」
衝撃的な光景にチームの全員が驚きの声をあげた。それにかまうことなく俺は人形に追撃を仕掛ける。
(少し作戦の手順を繰り上げることになるが、この際仕方がないだろう……)
俺はチームに作戦を伝えた時のことを思いだす。
ーーーーーー
「あぁ、それと一つ作戦を思い付いたからそれも今から伝える。耳貸して。」
俺の呼びかけに全員が耳を寄せてくる。
「とりあえず基本的な作戦はアナが言った通り、俺たちでリクをサポートし前線を維持。とどめはリクの近接攻撃かリーリアの狙撃、余裕があればアナや俺が魔法で仕留める……まぁこれらは人形の急所が発見できてからの話だが。」
「ふむふむ、とりあえず基本的な役割分担は把握したよ……それで?思いついた作戦っていうのは何かな?」
俺の指示を一通り聞いたメルロウは二薄ら笑いを浮かべながら聞いてきた。
「あぁそれについては今から話そうと思うけど……さっき言った条件にも関係してくるからよく聞いてほしい。」
「オッケー。」
メルロウがそんな軽い返事を返すと、他の者たちもうなずく。
「よし、それで条件なんだけど、俺が今から話すことを他言しないでほしいんだ……知られると俺にとってめんどくさくなるから。」
「へぇー、そんな話を私たちに話してもいいの?」
「事前に話さないとお前達から信用を得ないし、意味不明な行動をしてると思われかねないからな……それじゃあーー」
「それって、意味不明な行動をこれからするって言ってるようなものだけど。」
「本当にそれが試験に必要なことなの?」
「僕はとっさの対応を求められることでなければ大丈夫、たぶん。」
俺の話を遮り、他の三人があからさまに不安な顔をしだした。無理もないとは思うができれば話を最後まで聞いてほしいものだ。
「話を最後まで聞けって、今から話すのは人形の急所を早いうちにで見つけ出す作戦だ。」
俺の言葉を聞き皆は目を丸くした。
「早いうちって、そんな効率の良い方法あるの?」
「そうだね、今のところ手数で人形の急所を絞るしかないから、それ以外の方法があるならぜひ教えてほしいな。」
リーリアとメルロウが疑るように聞いてきた。
「あぁ、それには俺が人形に直接触れる必要があるんだ。」
「触れるって、魔導士のソール君が前衛に出るってこと?それってかなり危ないじゃない、前衛で戦える技量はあるの?」
「まあな、近接戦の類は一通り扱えるから……むしろ短期決戦なら魔法を使うより近接の方が得意だぞ?まぁいろいろと条件はあるが……」
俺のその言葉に皆はさらに目を丸くする。
「どうした?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして。」
「いや!おかしい!おかしいわ!なんで魔導士のあなたが近接が得意なのよ!」
「そ、そうだよ!それにソール君、武器を一つも装備してないじゃないか!」
「そういえばそうね……魔導士なら魔法性能や魔力を補正したり強化できる杖を持っていないのは不自然だわ。」
次々に質問攻めをしてくる一同。
「あぁ、それは単純に俺の戦闘スタイルだと杖が邪魔になるからね、強力な魔法を使わなければ補正をかけなくても問題なく使えるしそれに……いや、それはどうでもいいか。」
「何よ!気になるじゃない!」
「とにかくだ、一応近接戦はできるけどメインの攻撃役になれるかは微妙なところだから、基本的に人形の弱点発見と不測の事態が起こった時以外は前に出ないから、少しの保険と考えていてくれ。」
「はぁ、分かったわ。」
「僕は最初から異論はないよ。」
「フゥ……前衛が一人増えたことに安堵する自分が情けない……」
「今は深く追求しないでおいてあげるわ。」
とりあえずこの作戦に四人は同意してくれたようだ。
「んで、本題の弱点を発見する方法だけど俺の能力を使って弱点を暴き出す、先ほど他言しないでほしいと言ったのはこの能力についてだ、そのため能力の詳細についてはあまり深く追求してくれると助かる。」
「つまり僕たちは、君にそういった能力がある事を言わなければいいんだね。」
「その通りだ。」
物わかりの良いメルロウは俺の言いたいことを察してくれたようだ。
「それって今後もずっとってこと?この先私たちが戦うことになっても?」
「う~ん、正直そこは何とも言えないが、むやみやたらに言いふらさなければ良いよ。」
「分かったわ。」
リーリアも承諾してくれ、それに続くように他の二人も頷く。
「よし、それじゃあ俺からの作戦は以上だ。まぁ、あくまでも人形の強さ次第で実行するか変わるから、初動はあくまでも様子見からで。」
「「了解!」」
俺たちは一通りの作戦を立てた後、試験に臨んだ……
ーーーーーー
(まったく、こんなにも早く不測の事態が起こるなんてな)
俺は内心で苦笑しながらも目の前の人形に集中する。吹き飛ばされた人形はすでに体制を立て直し、攻撃の体制に入っていた。
「さてと……んじゃ少しの間遊んでもらうぜ……
俺は自身に身体強化の付与魔法をかけ戦いに臨む。
「ギギッギィイイイイイ!」
人形は俺めがけ一直線に向かってくる。同様に俺も人形との距離を詰める。
お互いの間合いに入った瞬間、人形の素早い攻撃が俺を襲う。それを紙一重で回避、続く攻撃も体術でいなし複数本の腕から繰り出される攻撃を同様、次々に処理していく。
(チッ、流石に手数が多いな……一瞬でも隙ができればメインの胴体を調べれるんだけど)
既に能力は発動させており、攻撃をしてくる人形の手足には弱点はないようだった。
「ソール君!加勢するよ!【
メルロウがすかさず援護をする。しかし攻撃を察知した人形が素早く後方へ躱す。
「ゴメン!逃がしーー」
「【ラピッドアロー】!」
攻撃を外したメルロウの後方からリーリアが複数の高速の矢を放つ……が、人形はその矢を全て弾き落とす。
「これでもダメか……」
リーリアは悔しそうにそうつぶやいたが、人形に一瞬の隙ができた。
「二人ともナイス援護!」
俺はその隙を見逃さず、素早く人形の背後をとると先ほどの攻撃を今度は直接人形の胴体に食らわせる。
攻撃を食らった人形は機械が軋むような音を立てて吹き飛ぶ。
「メルロウ!もう一度拘束!アナは人形の下腹部めがけて魔法を撃て!」
「【糸突格子】!」
俺が素早く指示を飛ばすとメルロウがほぼ同じタイミングで技を繰り出す。
数本の太い糸が空中で体勢を崩す人形を貫通し拘束した。
「当たって!【エレクトロショック】!」
拘束された人形にアナの魔法が襲い掛かる。どうにかして人形は逃げ出そうと藻掻くがすでに遅く、放たれた魔法は見事人形の弱点に命中、人形は体を痙攣させ手からぐったりと動かなくなった。
「や、やったー!」
「フゥ、何とかなったようね。」
「はぁー、魔法当たってよかった……」
三人は人形を倒せたことに安堵していた。しかし俺とメルロウだけはいまだに警戒を解いていなかった。
(おかしい、人形は停止したはずなのに試験終了の合図が無い……まさか!)
「全員、臨戦態勢!人形から距離をとって集まれ!」
俺は大声で油断しきっている三人に指示を飛ばす。
「え?いやいや、人形は倒せたのだから何を言ってーー」
「ギ……ガギッ、ギィイイイイイイ!!」
目の前の出来事に皆が固まる。先ほど確実に停止させたはずの人形が突如動き出し、拘束から脱しようとしているからだ。
「な、何でよ……なんで停止したはずの人形がーー」
「いいから距離を取れ!」
「【遠操糸縛】!」
いち早く動いたのはメルロウだった、固まっている皆を糸で俺の近くまで引き寄せる。それとほぼ同時に人形が自身を貫く糸を無理矢理引き抜いた。
「ソール君!」
(ナイスだメルロウ!ちょいと魔力消費が多いが……)
「【ローズメイデン】!」
俺が魔法を放つと、地面から無数の薔薇が伸び人形を再び拘束する。しかし、人形は激しく抵抗し中々閉じ込められない。
「流石にこれだけじゃ抑えられないか、なら……【グラビティサークル】!」
俺は追加で重力魔法を発動させると、人形は身動きが取れなくなり、薔薇の箱に閉じ込められた。
「す、凄い……」
アナが俺のすぐ後ろで尻餅をつきながら驚いている。
「ソール君、これからどうする?」
「どうするも何も、もう一度弱点を見つけ直すしか無いじゃない……大方、彼が弱点を見誤っただけでしょうし。」
「いや、ソール君は間違えてないよ。さっきのは確実に弱点に当たった筈だ、それに人形は一度停止したしね。」
「じゃあ何でまた動いてるのよ?弱点に当たったなら動く筈ないわ。」
「そこら辺は僕も分からない……ソール君は何か思い当たる事は無いかな?」
「……」
二人の問いかけに俺は黙る。
(弱点は確実に捉えた、対人戦で相手が意図的に場所を偽造しない限り間違えるはずが無い……少なくともあの人形にはそれ程の知能が有るようには思えない。あったとしても、他の人形とのスペックに差が有りすぎて、試験の公平性が崩れてしまう……)
俺は頭の中で色んな可能性を考える。
「ちょっと!黙ってないで何とか言いなさいよ!」
痺れを切らしたアナが立ち上がり怒鳴る。
「まさか……」
アナの言葉を無視して俺はある一つの原因を思いついた。
「ソール君、何か分かったのかな?」
「あぁ、あまり考えたくは無いけど、可能性としてはこれが一番当てはまると思う……」
「へー?それで、貴方が思う可能性って?」
リーリアが疑う様子で聞いてきた。
「人形自体が不具合を起こしている可能性がある。」
「「はぁ?」」
俺の答えに一同が驚く。
「いやいやソール君、流石にそれは無いと思うよ。」
「そうよ、自分のミスを人形のせいにするのは良くないわ。」
リクとリーリアが呆れたようにそう言う。
「まぁまぁ二人とも、取り敢えずソール君の話を最後まで聞こうよ。」
そんな二人をメルロウは抑える。
「それで、そう思う根拠はなにかな?」
「対人戦ならいざ知らず相手は人形だ、俺の能力を欺く程の知恵や機能は備わってない筈だ。」
「で、でも、あの人形って学習能力があるんだよね?戦闘の中で学習したとかじゃ無くて?」
リクがそう言うと他の三人も頷く。
「いや、それは有り得ない。少なくとも、この短時間の戦闘だけじゃそんな芸当をするほど学習するとは思えない。」
「時間ならあるじゃない、私達が始まるまでの間が。他の人形が学習した記録を共有してしまえば済む話だわ。」
「確かに……ん?」
アナの得意げな言葉にリーリアも賛同しかけたが、途中である事に気付いたようだ。
「え?な、なに?私何か辺な事言った?」
「アナさん、もしそれが本当なら学園側が意図的に工作している事になる。この試験の戦闘記録を全部引き継いでいるのなら、圧倒的に最後のチームが不利になるから、試験の公平性が無くなっちゃうんだよ。」
「……ハッ!そ、それじゃあ、学園側が最後のチームを落とす為に……」
メルロウが言ったことを理解したアナは激しく動揺した。
「けどそれって、貴方の能力がしっかりと機能した前提の話でしょ?本当はそんな能力ないんじゃ無いの?」
今だに疑っているリーリアがそう言う。
「確かにその可能性もあるけど、僕のは彼がそんなくだらない嘘をつく人には見えないかな。」
「……」
「それでそのぉ、僕達はこれからどうすれば良いかな、多分時間はあと半分くらいしか無いと思うけど。」
リクの言葉で皆が一斉に俺の方を見る。
「リクの言う通りだな、そろそろ俺の魔法の効果も切れる頃だし……はぁ、もう一頑張りしますか。」
俺はそう言いながら、拘束されている人形の方に手を向ける。
「
俺が魔法を放つより少しはやく重力魔法が切れ、人形が薔薇の箱から飛び出てくる。が、出た瞬間に俺の魔法が直撃した。
「メルロウ、リーリア、少しの間人形の動きを止めてくれ、アナは二人の拘束が解けた時に備えて魔法の準備を、リクは俺のガードを頼む。アナは後方で魔法詠唱の準備を。」
「「了解!」」
五人がそう言うとそれぞれ動き出す。
「よいしょっ!これで良いかな?」
メルロウが糸で人形を拘束しながら聞いてくる。
「あぁ、そのまま1分ほど止めててくれ。」
「1分か……ちょっと厳しいかも、力が強すぎーー」
「【パラライズショット】!」
メルロウの言葉を遮るように、後方から矢が放たれ人形に命中した。
「これで余裕でしょう?」
リーリアが得意げな顔でそう言う。
(心なしかスッキリしたような顔をしてるな、まぁさっきから、攻撃を弾かれまくってたから少しイライラしてたのかもなぁ……)
「あはは、やっとまともに攻撃が入ったね。」
「あら?人を煽るほど余裕があるのなら私の援護は要らなかったわね?矢の効力を切ろうかしら。」
「あはぁ、それはちょっと洒落にならなそうだから、謝っておくよ、ごめんね?」
「チッ、後で靴舐めなさい。」
「おいおい二人とも、しっかり警戒しといてくれよ?」
俺は二人の言い合いに言葉で割って入る。
(はぁ、あの様子なら万が一って事は無いだろうな。さてと、弱点は先程の位置と変わらないからやはり正しい、なら人形の機能的な問題か?ならもっと深くまで覗く必要がありそうだ……)
俺は集中力を高め更に深くまで解析をする。
(人形を動かす動力の魔力炉、そこから細かく全身に伸びる魔力回路、人形の行動をプログラムされた擬似脳、そこから弱点部分まで伸びる比較的新しく組み込まれた一本の回路……っ⁉︎これは)
「分かった……」
「え?本当ソール君!」
俺がそう呟くとガードをしていたリクが嬉しそうに聞いてきた。
「あぁ、ただ厄介だ。」
「厄介?」
「ソール君!もう直ぐ限界だ!」
「私の攻撃にも耐性を持ち始めているから長くは持たないわ!」
二人ともかなりギリギリなのか、額に汗を滲ませながら必死で人形の動きを封じている。
(二人ともかなり限界だな……迷っている余地は無いか)
「リク、少し剣を貸してくれ。」
「え?でもガードがーー」
「時間が無い!早くしろ!」
「わ、分かったよ!」
俺が強く言うとリクは慌てて俺に大剣を渡した。
(うわっ重!こいつこんな物振り回してたのかよ……)
俺はリクの筋力に驚きつつも、すぐさま次の行動に移る。
(まずは人形に、
俺が付与魔法を施すとリクの大剣が淡い電気を浴びる。
「剣に魔法を付与しておいた、お前が付与するより長く持つ筈だ、これを使って俺と近接戦を仕掛けるぞ。」
「え?で、でも僕は……」
「大丈夫だお前ならできる。」
「……」
俺の言葉にリクは少し考える素振りを見せた。しかし、直ぐに顔を上げてこう言った。
「分かった、やるよ!」
「よし。それじゃあ簡単に原因を説明するが、弱点から脳に繋がっている筈の魔力回路が途中で短絡していたんだ、そのせいで弱点に当たった際の信号が人形の脳まで到達してないから停止しなかったんだろう。」
「そ、それじゃあどれだけ弱点に攻撃しても意味ないんじゃ……」
「あぁ、だから俺がその回路を繋げ直す。」
「え?」
俺の一言でリクが固まった。
「どうした?」
「繋げ直すってそんなことできるの!」
「出来る。けど繋げ直すには最低1秒以上触っている必要がある……だからーー」
そう言って俺は、後方で待機しているアナの方を見た。
「次の足止め頼んだぞアナ。」
「良いけど……貴方より強力な魔法使うなら、詠唱に時間かかるかも。」
「その時間は俺達が稼ぐ。それにそんな強力な魔法じゃなくても10秒くらい、動きを止めれればいいから。」
「なっ!……馬鹿にしないでよ!貴方より強力な拘束魔法を見せてあげるわよ!」
どうやらアナの気に触ったらしく、若干イラついた様子で魔法の詠唱に入った。
「よし!それじゃあ拘束が解けた後、二人は俺達の援護を頼む。」
「分かったわ!」
「了解だよ!」
俺の指示に力強く答える。
「僕も全力で行くよ!次は遅れを取らない。」
リクも気合十分な様子で答える。強化魔法のおかげか、手に持つ大剣を軽々と振り回した後、構える。
目の前では、二人の足留めが解けた人形が、ヨロヨロと動き出していた。
「よし、行くぞ!」
俺の合図と共に、チーム全員が一斉に動き出した。