万象の半精霊 作:宇宙豆
「さて、どうしたものか...」
その場に留まっても無駄に時間が過ぎるだけなので、取り敢えず学園に向けて歩く事にした。
この町の一番外側の地区に当たるこの場所は、一部エリアに森があるのだが、その森の中程に俺達が住む家はある。
地域住民からは木漏れ日の森と言われて、時折薬草を取りに来たりする人がいる。
中央街の人から見れば、こんな辺鄙な所になぜ住んでるのか疑問に思うらしいが理由は簡単で、師匠が賑やかな所にあまり住みたく無いらしい。
俺も最初は、師匠が吸血鬼だから日の光が当たりにくいこの場所に住んでるんだろうなと思ったが、普通に晴れの日でも日傘も差さずに出歩くし、何なら師匠と旅していた時期にビーチと呼ばれる、海に面した観光地にある砂浜で、水着を着て遊んだりもした事がある。
師匠は賑やかな場所は苦手なのに、何故ビーチで遊んだ事に疑問を持つかもしれないが、その時は俺にも師匠にも色々あった時期で......
まぁこの事については、いつか話す機会があると思うから、その時に話そう。
「それにしてもあの人、普段は冷静で淡白な性格や行動をしているのに、たまに無茶苦茶な事をするよなぁ〜、今回だってスキル封印くらいで良いはずなのに、魔力低下まで掛けるとは....」
《魔力低下》とは、弱体化の魔法の中で基礎的な部類に入る付与魔法で、その名の通り単純に相手の魔力を全体的に下げる効果がある。
しかし、シンプルが故に使用者の技量や魔力に依存する部分があり、魔力が低い者がこの魔法を使っても若干能力が低下するだけで、効果時間も短い。
しかし、師匠程の魔導師がこの魔法を使えば相手によって若干の効果の差は現れるが、本来の魔力から9割、下手したら全魔力を低下させられ、魔法が一切使えなくなる場合だってある。
しかも、元より余り魔力を宿してない者が喰らえば、暫く動けなくなり場合によっては命に関わる事だってある。
そんな人にこの魔法を掛けられてしまったのだ。
手加減をしてくれたと思うのだが、それでも今の俺は魔法面においては実力の9割も出せないだろう。
一応、この魔法を解除できない事は無いが、完全に解くまで1日はかかると思う。
多分、試験を受ける際はギリギリ7割出せるか出せないかまでの解除しかできない。
「もう少し加減してくれても良いのに....」
そんな文句を垂れながら歩いていると、森の出口まで着いた。
「森を出るまで15分弱、残り1時間15分くらいか.....
はぁ〜、やっぱり無理だろ。」
森を抜けると、穏やかな街が少し先に広がっていた。
この都市は、大まかに三つの地区とその中にある複数のエリアで形成される、かなり大きな領地だ。
王都に匹敵するほどの広さを持つこの町と領地は、アルトリス王国の中で三本の指に入る大貴族、ラーンロット家が統治する領地内の町で、領地の5割を占める程町としての広さはとても広大だ。外周地区なんて殆ど街の外と言ってもいいくらいだ。
この町は《心央地区》《中間地区》《外周地区》の三つの地区で人々が暮らしている。
心央地区は、主に富裕層ないしこの領地の管理職に携わる人達が住む地区で、そこで売られている物や食料などは高級で良品質な物が多く、雰囲気がとても華やかな街だ。
中間地区は、この町の中で最も面積が広く多種多様な店があり多くの物品や食料が出回る商業地区だ。
この町の住人の7割はこの地区に住んでおり、今回俺が通う予定の学園もこの地区に建っている。
また職業地区とも呼ばれ、領地を管理していく上で欠かせない《管理局》もこの地区にある。
《金融管理局》《治安管理局》《商業管理局》《文部管理局》《資源管理局》五つの管理局がこの領地の全てを回している。
そんな多様なものが入り混じり沢山の人が住む街が、中間地区だ。
そして外周地区、俺と師匠が住む森があるここは完結に言うと田舎だ。
牧場や畑など主に食糧生産を行っている所が多く存在する地区で、内地で出回る食料の殆どがこの地区で取れた物になる。
後、この地区にはダンジョンと呼ばれるものがあり、全部で三つあるのだがこの町がここまで発展しているのも、このダンジョンの存在が大きいだろう。
ダンジョンの説明は長くなりそうなので、これもまた今度話す事にする。
まぁ、食料面においてこの領地を支えている地区がここ、外周地区になる。
森を出て少しばかり歩くと外周地区の街エリアに着く。
その街の中を少し歩いていると。
「さて、お目当の乗り物はあれだけど....まぁそうだよなぁ」
俺はお目当の乗り物を見つける事ができた。
ちなみに街エリアといっても、外周地区の中で少し栄えている場所と言うだけで、大したものではない。
まぁ少し栄えている理由としては、駅があるからと言うのが一番大きいだろう。
目の前には少し大きめな乗り場があり、そこには長蛇の列ができていた。
そして並ぶ人の先から、レールに乗って走る一台の乗り物がちょうど駅に着いた所だった。
この乗り物は《トラム》と言う。
機構について簡単に説明すると、溝の様なレールに《魔力生産工場》から送られる《資源魔力》を流して、それを車体に組み込まれている《抽出マテリアル》で取り入れ、その魔力を《雷マテリアル》の変換器に流し、それによって生まれる電気エネルギーを使って動かす乗り物だ。
このトラムは速度こそ馬くらいの速さだが、一度に多くの人を運べるので、この地区に住む人で中間地区まで働きに出る者の多くはこのトラムを使う。
特にこの時間帯はトラムの利用者が多く、通勤ラッシュと言うらしいが、今日は祝日なので通勤では無く、中間地区まで遊びに出るひとが殆どだろう。
ちなみに王都にはこれより早い、《エルクトレイン》と言う列車に似た乗り物があるらしく速度も比べ物にならないくらい早いらしい。
他にも長距離移動の時は蒸気列車や馬車、数は少ないが魔道車と言われる乗り物などを使ったりもする。
改めて考えるとこの大陸の文明レベルはかなり高いと思う。
他の大陸では、未だに列車が無いとこもあると師匠から聞いた事がある。
「それにしても、予想はしてたがこの混み具合は中々だな、多分乗れるまで後30分は待たないと......」
30分待ったとして、トラムで片道30分、そこの駅から学園まで歩いて30分、普通に走っても街の構造上20分はかかる。
走っても5分遅刻で受付は締め切られてしまうだろうし、仮に受けさせて貰えたとしても面接での評価はかなり低くなるだろう。
(やっぱり詰んだな!)
俺は心の中でそう言ってから項垂れる。
(もういっその事このまま帰ってしまおうか...師匠にも何とか言い訳して、多分大目玉喰らうだろうけど仕方ない....て言うか、師匠が魔力低下まで掛けなければこんな事には....いや)
一番非があるのは俺だ。
師匠から前もって編入試験について聞いてたはずだし、何より自分の責任で起きる事ができなかったのが一番の原因だ。
師匠を責める事はできない、自分のだらし無さが招いた事だ。
今なら師匠がここまで過剰に魔法を掛けたのも納得が行く。
それに、学園の編入試験もタダではない。
師匠はそれなりに財は有るだろうけど、それは師匠の財であって俺のでは無い。
拾って...いや、半ば強制的に連れて来られたが、ここまで育てて貰い学園にも通わせてくれると言っているのだ。
通えない者もいる中でこんな自分勝手な事をする事はできない。
「はぁ〜.........ちょいと疲れるけどやるしかないか。」
そう呟き、懐の中からポーションを一つ取り出す。
それを豪快に飲み干し、空になった瓶を放り投げ.....ようとしたが、もう一度加工すれば再利用できるので懐にしまった。
そして、大きく深呼吸をしてから目的地の方角を確認し、睨みつける。
「........走るか。」
そう言って俺は学園に向けて走り始めた。
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