万象の半精霊 作:宇宙豆
少しの間の静寂...
それを破ったのはディールさんだった。
「えーと....それって《半精霊》って事かい?...いや、そうだよな!それ以外に無いもんな...なぁ、そうだろ?」
ディールは俺と周りにいる仲間に質問する形で喋り出した。
「そ、そう言う事よね?そうよ、それ以外あり得ない...ソール君、要するに
先程まで冷静だったネリムさんが、物凄い慌てぶりを見せ、ルールラさんに俺の言った事への真偽を確かめる。
「信じられない...彼の言葉....嘘なんて....感じ無い。」
ネリムに質問されたルールラさんも、口調は変わらないが目を見開き驚いている。
バッツさんも黙っているが、理解できないと言わんばかりの驚きの表情を見せている。
何故、彼らがここまで驚いているのか説明をしよう。
この世界には十二種族が存在している。
天使、悪魔、吸血鬼、竜人、精霊、幻人、鬼人、エルフ、ドワーフ、獣人、妖精、そして人族だ。
これらの種族の関係性は様々な理論で表されるが、現在最も広く認知されているのは、50年も前に定説された《
十二種族を時計の数字に当てはめて、主に種族間の
また、自分の数字から離れた位置にある数字の種族とも子供が出来にくい傾向にあり、自分の数字から近い種族になるにつれて、子供が出来やすいと言った関係性を表している。
人族と精霊族はこの関係上対極に位置する種族なのだ。
実際にこの考え方を検証する為、ある生物学者が実験を試みたらしい。
確か5年くらいかけて行われた実験で、その間に50組の男女のペアがこの条件のもと実験に参加したが、その全てのペアに子供ができる事が無かった。
これにより、種族時計の理論の信憑性が高くなり、今ではこの理論がほぼ絶対的に正しいと認知されており、人と精霊の間に産まれた俺は生物学上あり得ない存在とされるのだ。
しかし、ディールさんとネリムさんが言った様に《半精霊》と言う者は存在する。
この場合の半精霊とは、人族と精霊族との子供という事ではなく、精霊と契約した者、契約者のことを指す言葉である。
《半精霊》とは、種族は関係なく精霊と契約を交わす事ができれば、その者は否応なしに半精霊とされる。
契約を交わした者は精霊の加護を受け、様々能力を手に入れたり、元の能力を底上げされたりと、大幅に能力が向上する。
勿論、契約を交わす精霊とは精霊族のことだ。
同じ十二種族の一つなのに、何故精霊族は特別なのか疑問に思う者が多いが、この世界の種族には《上位種族》と《下位種族》の二分類が存在する。
天使、悪魔、吸血鬼、精霊が上位種族
幻人、鬼人、竜人、エルフ、ドワーフ、妖精、獣人、人族が下位種族とされている。
この二種類の違いとしては、種族的に生まれ持った《魔力質》が高いか低いかで決まっている。
当然高い方が上位種族で低い方が下位種族だ。
《魔力質》とは文字通り魔力の質の事で、魔力の質が高いと魔法や魔力を消費する際の量が少なく済む。
また、魔力質が高くないと使用が困難な魔法も存在する為、保有する魔力量よりも魔力質を高める方が重要と考える人の方が多い傾向にある。
そして、契約を交わす時にも大量の魔力と極めて高い魔力質を要求されるため、必然的に生まれつき魔力質が高い上位種族達が契約を与える側に立つ事が多くなるだ。
その中でも特に精霊族は高い魔力質を保有するため、例に挙げられることが多いのだ。
さらに、十二種族の中で全体数が一番少ないのもあって精霊と契約できる機会自体が極めて少ない為、《半精霊》と言うのは他の契約者よりさらに希少な存在とされる。
精霊族の血が混じる混血種や半血種に至っては、一切の存在が確認されていない。
なので、彼らはきっと半精霊と言う希少な存在である俺が身元を登録する際に、信用されなかった、もしくはただの手違いかで身元登録書に半精霊である事が記載されて無い、と思っているのだ。
しかし、事実俺は人と精霊の子供だしその自覚もちゃんとある。
まぁ、信用してくれなくても別段困るわけでも無いし身元保証書を発行してくれた人も、少し頭がおかしいやつと思ったのだろう、大した問題では無いと判断して"人族"と記載したと思うし、そもそも半精霊は自己申告なので記載されてないからと言って何か法的裁きを受けるわけでは無い。
ただ、種族の欄を間違えると偽証罪になる為、そこは間違ってはいけないところだ。
「ん〜....どうしようかしら。」
ネリムさんが悩ましげな表情で俺とカードを交互に見る。
「まぁ、信じてもらえ無くても大丈夫ですよ、とにかく故意に種族欄を偽った訳でない事を理解して貰えれば。」
「まぁ、それで良いんじゃねぇか?ルールラは彼が嘘をついてないと言ってるし、俺も彼がそこまで悪人とは思えねぇしよ....」
俺が彼女にそう言うと、ディールさんも俺の言葉に同意してくれた。
「まぁ....そうねぇ....生物学上有り得ない存在だとされていても、それが必ずしも絶対不変の真実って訳ではないし、それに貴方が人と精霊の半血種だったとしても半分は人族の血が混じっている訳だしこの表記も絶対に間違っている訳では無いし....」
「ネリム...私も...未だに信じられない....けど彼の主張....信じて良いと思う...もし嘘ついたら...私が対処している」
「ルールラがそう言うなら...でも上にはどう報告しようかしら...」
ネリムさんはルールラさんの言葉を聞いてもまだ迷っている様子だ。
きっと上に報告する時のことを考えているのだろう、容疑が晴れたとはいえ身元が不確かな者を見逃した事を簡単に上には報告できないだろう。
更に理由が理由だけに、深く追求される事は間違いない。
きっと彼女は、その時の言い訳と俺について説明する材料が自分の中で不足している事を懸念してここまで悩んでいると思われる。
「そんなに悩むなら、青年を容疑者兼、監察対象として見張るのはどうだろうか。」
そんな彼女にバッツが一つ提案を申し出た。
「観察対象ねぇ....」
「現時点で青年の容疑が晴れたとは言え、不安要素が残されているのも事実だ。ので、容疑者であった青年の動向を観察する事を現時点の対処として上に報告、その後青年の編入試験が終えたのを確認した後、中間地区の治安維持局まで同行してもらい詳しい内容を確認する。
またその間に、青年の身元を保証できる社会的に信頼のおける人物が居たのなら、その人に彼の身元保証人としてこちらが用意した書類にサインしてもらい、身元を確定する。
まぁ、これに関してはその人の同意が必要になるが、どう考える?」
(驚いた...)
突然口を開いたかと思えば、彼はとても流暢に現時点で最も最適な案を提示した。
こう言っては失礼だが、最初の印象ではこう言った話は苦手な人だと勝手に思ってしまったが、中々賢い人だと分かった。
それに彼の案は自分達だけで無く俺の編入試験の事も考慮して考えてくれたもので、こちらとしてはこの提案に同意しない理由はない。
「僕はそれで構いません。むしろ俺にとっても凄くありがたい提案です。」
俺はすぐさま同意の意思を伝えた。
「編入試験の時は私達の誰かが彼を見張るとして、上はこの処置について何か言ってくると思うのだけれど....怪しい人物を領地直轄の学園に編入試験を受けさせた事とか.....」
「上への報告は俺がする。この状況で上から何か言われないなんて事は無い、どうせ言われるのならある程度言い訳の立つ内容を自分達で作るしかないだろう....それにもし彼に何かしらの罪が挙がったのならその時点で学園に、我々王都治安管理局直轄《治安維持第四部隊》が掛け合い、合否の有無に関わらず彼の試験結果を取り消しにしてもらう。これで良いんじゃないか?」
「確かに....じゃあ頼めるかしら?」
「分かった、それじゃあ中間地区の治安管理局まで転送してくれないか。そこの端末から王都の管理局に連絡を入れる。」
「了解」
そう言うと彼女はバッツの足元に魔法陣を展開させた。
(あれは転送魔法陣.....魔法陣構築から展開までの時間が1秒以下だった....やはり彼女は凄腕の魔導師だったか....しかし王都の治安管理局の部隊がなぜ管轄外のこの領地に来ているのだろうか...この領地の治安管理局から応援要請が来たからだとは思うが、トラム線路破壊事件がそこまで対策を強化する程のものとは思えないし、別にこの領地の治安維持部隊が力不足だとも思えないし、もしかしたら何か別の事件、もしくはこの事件の延長線上に王都まで危機が迫る何かがあるのか....いや、これは今考えても仕方がない事だ、今はとにかく試験に間に会う可能性が出てきた事を喜ぼう)
俺は、すぐさまネリムさんにある事を伝える。
「ネリムさん、もし良かったら俺を試験会場の学園まで送ってもらえませんか?」
「ん?良いわよ、元々私達が貴方に同行する予定だったし....それじゃあバッツ、悪いけどよろしくお願いね。」
そう言うと彼女はバッツにウインクをしてから魔法を発動させ彼を転送した。
目の前から彼が消えるとすぐさま俺の足元に魔法陣を展開させる。
半径二メートルくらいの魔法陣を展開させるとルールラさんとディールさんも俺の近くに寄ってきた。
俺達が魔法陣に入ったのを確認すると、最後にネリムさんが一緒に入り魔法を発動させる。
すると目の前には先ほどとは全く違う街の景色が視界に入ってきた。
瞬きする暇すらない程一瞬で移動したのだ。
「.......本当は学園の目の前まで送りたいのだけど、人が多くて危ないから、人のいないここに転送したわ。」
「えぇ、全然構いませんよ。」
「ネリム....少し座標....ミスした」
「いや!そんな事ないわよ?....本当に...ただ安全を考えてここに転送したのよ...」
「私の前で....嘘つけない...」
「くっ!」
「はいはい、取り敢えず周りの目もあるから早くここから降りようぜ。」
「降りるって...ここから?」
一通りのやり取りをした後、ネリムさんは下を見下ろした。
そう俺らは今、中間地区の観光名所の一つである《中央図書館》にある時計等の天辺にいるのだ。
「まぁ、これくらい高いと逆に人目につかないんじゃないですか?」
「そう言う問題....て言うかソール君、こんな状態でも落ち着いているなぁ。」
「いやまぁ...転送される前魔法陣の座標に少し間違いがあるのが分かったので学園前には転送されないと思っていただけです。」
「ちょっと!間違ってるなら言ってよ!」
俺の言葉にネリムさんが少し怒った様子で言った。
「とにかく、ディールさんが言った様に早く降りましょう。」
そう言って俺は時計塔から飛び降りる。
「ちょっ!ええ!そのまま行くの⁉︎」
「んじゃ俺もっ!」
「ネリム....早くしてね...」
俺に続いてディールさんとルールラさんも飛び降りる。
「貴方達!それじゃあ目立つでしょ!ねぇ~聞いてるの⁉︎あぁもうっ!」
最後にネリムさんも飛び降りる。
この図書館の時計は地表から約三十メートル程の高さがあり中々高い。
しかし....
(ちょうどあの噴水前あたりが空いてるな...)
俺は着地地点に狙いを定めて図書館の壁を蹴った。
「よっと!」
そして地面に着く前に体勢を整えてから着地した。
俺に続く様に二人も着地する。
半血種の俺と身体能力が高い種族の二人が着地する事は案外簡単なのである。
「ふぅ〜、ソール君中々いい動きするな!将来優秀な兵士になれるんじゃないか?」
「私は...諜報員...の方が...良いと思う...賢そう...」
結構な高さから飛び降りたが、流石にこの二人は余裕で着地して見せた。
「僕は魔導師なので将来は魔法研究に没頭できる様になればと考えてます。」
「マジかよ!そんな良い体格と運動神経してんのに勿体ないな。」
「意外過ぎ....けど格好は魔導師....嘘も...感じられない...けれど...」
「ちょっと貴方達!」
三人で話していると上の方から声が聞こえた。
見上げるとネリムさんが空からゆっくりと降りてきている所だった。
「ネリム....早くって...言った」
「十分早く降りたでしょ?貴方達みたいに身体能力だけで飛び降りれないんだから!私人族の魔道士よ?一般人と比べれば身体能力は高いけど、戦士クラスの身体能力と比べないでほしいわ。」
「まぁまぁ、それはそうと周り見てみろよ。」
そう言ってプンスカ怒るネリムさんにディールさんが一言言った。
言われた通りネリムさんは周りを見渡した。
すると彼女はやってしまったと少し頬を赤らめる。
周りには図書館を利用していたであろう人達が全員こちらに注目している。
中には少し顔を赤くさせている者もいる。
多分、ネリムさんが降りてくる時に少し下着か見えたのだろう。
「一番注目を浴びてるのはネリムさんですね。」
俺もネリムさんに一言言った
「貴方達のせいでしょ!」
「取り敢えず...学園に..行こ...」
そう言って頬を赤らめながら怒る彼女にネリムさんが早く行こうと催促する。
「ちょっ!....はぁ〜、もう良いわよ...」
俺達の反応に諦めたのか彼女は学園に向けてトボトボ歩き出す。
それに続いて俺らも歩き出した。
最後まで読んで頂きありがとうございました。