万象の半精霊   作:宇宙豆

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7話

編入試験受付終了まで後20分、図書館から学園まで徒歩10分位なのでギリギリ受付する事が出来そうだ。

 

「そう言えば、ソール君は魔導師なんでしょ?何でそんなに保有魔力量が少ないのかしら、多分その魔力じゃ大した魔法は使えないと思うわよ?」

 

街を歩いているとふとネリムさんが思い出した様に聞いてきた。

 

「私も..気になった...どうして?」

 

ネリムさんに続く様にルールラさんも聞いてきた。

 

「えっとですね...実は師匠に魔力低下を掛けられまして、今解除している途中何ですけどまだ2割も解除できてないので多分そのせいで魔力が低いんですよ。」

 

「まぁ、予想はしてたけど師匠がいたのね...それにしてもどうして師匠に魔力低下を掛けられたの?」

 

「うっ...」

 

ネリムさんの質問に一瞬ギクリとしてしまう。

 

「何か...悪い事した?」

 

「いや、実は今日試験がある事をすっかり忘れていて少し寝坊をしてしまったので、スキルの《ゲート》を使って行こうとしたら師匠に止められてしまって...スキル封印のついでに魔力低下も掛けられてどうにもならなくなったので走ってたんですよ。」

 

「貴方ゲートまで使えたのね、確かに道具でスキルを発動させればスキル封印の効果の対象外になるけど....でも普通はスキルが使えたとしてもそこで中間地区まで走ろうとは思わないけど、貴方が走っていた経緯は分かったわ。もしかして封玉を見せてくれた時"今出せる分"て言ったのは魔力低下が関係してるの?」

 

「ええまぁ、すぐ使うものはこの魔導衣の内側や拡張ポーチの中にしまっているのですが、大きな物や大半の持ち物は自分の《固有空間》にしまっているのですよ。

ですがその空間を開く魔力すら無かったので、すぐ取り出せる物しか見せられなかったという訳です。」

 

「へぇ〜、固有空間を持ってるなんて結構腕の立つ魔導師なんだな。」

 

「そうね、固有空間を持っている数や空間の許容量はその人の潜在的魔力の強さが影響している物だし、一つ持っているだけでも魔法の練度がそれなりに高い証拠だわ。」

 

話に出てきた《固有空間》とは、全ての生物が共通して持っている不干渉領域で、今現在自分達が存在している空間とは別の空間の事を指している。

固有空間は自分を中心に広がっているとされており、個人が保有する数や空間の許容量は様々で、特に潜在的魔力が高い人ほどより大きく、多くの空間を持つと言われている。

しかし、この空間を自在に扱える様にするには、魔力の練度上げるのと自らの固有空間の存在を意識的に認知出来なければならない為、それなりのセンスや努力を要求される。

その為、一つ持っているだけでもその人が魔導師として評価される位の実力を持っているとされ、魔導師としての力量の判断基準の一つにもされている。

 

「いくつ....保有してる?」

 

ルールラさんが質問してきた。

 

「そうですね、空間の正確な大きさは分かりませんが多分十個ほど持っていますね。一応それぞれの空間ごとに役割を決めていて....ってどうしました?」

 

俺が質問に答えると、ネリムさんが驚愕の表情をして固まっていた。

 

「あの〜、どうしました?のんびりしてられる程時間に余裕が無いので歩いて貰わないと...」

 

「ソール君!」

 

「ぉお!ビックリした!」

 

固まっていたネリムさんが突然、俺の肩を掴み名前を叫んだ。

余りの声の大きさに周りの人達が何事かとこちらを注目する。

 

「あ、貴方!じゅ..じゅじゅ、十個って!はぁ⁉︎貴方、え!はぁあ⁉︎」

 

かなり驚いたのか言葉になっていない事を、口をわなわなさせながら言った。

 

「お、おいネリム、十個ってそんなに凄いのか?」

 

「ネリムも...同じくらい...使えるんじゃ...」

 

二人は彼女の反応について行けてない様子で、質問をした。

 

「凄いとかそんなレベルじゃ無いわ....こんなの英雄級の潜在魔力が無ければ有り得ない事よ!」

 

「英雄級のって...冗談だろ⁉︎」

 

「いえ、冗談じゃ無いわ...私が知る限り固有空間の保有数が一番多い人は十二聖天の四天であらせられる、《レイラ・シンフォニム・ユリア》様の弟子である《マーライト・セーニャ》様が八個の固有空間を持つと言われていて、その師匠であるシンフォニム様はきっとそれ以上の保有数を有していると思われるわ。けど、彼が言った事が本当なら保有数を基準に判断をすると、セーニャ様より彼の方が潜在的な魔力が上と言うことになるのよ!そうで無くてもあの方達に近い潜在的魔力を秘めていると言うだけでも凄....おかしいわ!」

 

(何故今言い直したんだろ...)

 

「マジかよ...」

 

「そんなに...凄いの...」

 

説明を聞いた二人は、何故彼女がここまで慌てているのか理解したらしい。

と言うか、俺がそれ程までの潜在魔力を秘めていたとは、今まで考えもしなかった。

まぁしかし、あくまで潜在的な魔力の目安と言うだけであって、その人の現時点での強さを指し示す物では無い。

現に俺は、まだそこまで強くは無いのだから。

 

「私でも五個までが限界よ...本当に貴方何者なの?もしかして、実は血筋を辿ると遠い祖先に英雄が居たとか。」

 

「それは無いと思います...多分潜在魔力が高いのは精霊族の母も魔法を使えたのでその影響かもしれないですね。」

 

「そうね...確かに貴方精霊の血を引いてるって言ってたもんね。それなら納得だけど完全には信じられないわ。」

 

「しかし、見た目だけで言えば何となく精霊っぽい雰囲気はあるよな?髪の色とか目の色とか。」

 

「ディール...精霊..見た事...あるの?」

 

「いや無いけどよ、何て言うかイメージ的にだな...」

 

「言いたい事は分かるわ、私もどこか幻想的な雰囲気というか....第一印象は幻人とかそっちの種族かと思ったもの。」

 

彼らは俺の事をまじまじ見ながら話す。

鏡で見た自分の見た目だが、確かに人族では珍しい雰囲気がある。

髪は白銀で目は赤と金色のオッドアイだが瞳の奥には魔法陣の様な紋様が写っているという、人族にしては見ない容姿なのだ。

 

「けど変ねぇ。」

 

ネリムさんが何やら違和感を感じたらしい。

俺はネリムさんに質問してみた。

 

「何がですか?」

 

「いや、貴方がそれ程の潜在魔力を秘めているのなら、魔力低下を掛けられても殆ど魔力が使えないなんて事にはならない筈よ?まぁその師匠が貴方と同格レベルの魔力を持っていたら話しは別だけどそんな存在が簡単に居る訳がないし.....ん?そう言えば、話がガラッと変わるけど貴方がきている魔導衣って店で買った物?もしかしてこれも自作とかかな?」

 

と、思い出したかの様にネリムさんが聞いてきた。

 

「いや、これは師匠が作ってプレゼントしてくれたんですよ、僕の10歳の誕生日の日に。」

 

「へぇ、それじゃあその人は貴方にとって師匠であり親代わりでもあるのね、中々良い人じゃない。その魔導衣触っても良いかしら?」

 

「私も..触りたい...」

 

「良いですよ。」

 

そう言って俺は、魔導衣の裾を二人に触らせた。

 

「あら、良い触り心地、かなりの高級品かしら?けど貴方の師匠が作ったのなら、何らかの魔法が掛けられてるかもしれないわね。ちょっと調べさせて貰っても良いかしら?一魔導師としてこう言った物には個人的に興味があるの。」

 

「え、えぇ良いですよ。」

 

そんなにキラキラした目で頼まれては断りづらい。

師匠にはあまり見せびらかすなと言われているが、この人なら信用できるので良いだろう。

 

「それじゃあ....《追憶解析(アナライズトレース)》」

 

《追憶解析》、本来は鑑定士などが保有するスキル《鑑定》を使って魔道具などを調べたりする。しかし、そのスキルを持っていない時は《解析(アナライズ)》と言う魔法を使い調べるのが一般的なのだが、"解析"は“鑑定“より調べた物から得られる情報量が低い為、より詳しく調べるには"鑑定"のスキルが必須になる。

しかし、彼女が使った魔法“追憶解析“は鑑定とほぼ同じ効果を発揮する魔法で、これを使えば発動効果、材質、耐久性、持ち主の名前など、様々な情報を得る事ができる。

 

「成る程...ユニコーンの角繊維、バイコーンの立髪、不死鳥の尾羽、万年魔法樹の葉の繊維と皮繊維、ドラゴンの鱗、アダマンタイト繊維、それと何かの髪?凄いわ!中々手に入らない一級品の素材が使われてるわね、それにそれぞれの繊維で魔導衣に魔法陣を編み込んでるし特にベースになっているこの霊獣の毛皮なんて.....ぇええええ!」

 

突然ネリムさんが叫んだ。

あまりの大声に周りの人達がこちらを注目する。

 

「おいおい、今度はどうしたんだ?」

 

「こ、ここ、これ?神霊獣カーバンクル?の毛皮?」

 

「カーバンクル...別に...そこまで珍しい...物じゃない...」

 

「そうなんですか?」

 

ネリムさんの魔導衣の裾を持つ手に力が入る。

 

「凄いなんてレベルじゃ...ちょっと待って、さっきから驚きすぎて目眩がしてきた...」

 

そう言うと俺の裾を持ったままその場に座り込んでしまう。

 

「あの〜、さっきも言ったんですが、のんびり出来ないので歩いてくれませんか?」

 

「貴方...こんな凄い物を見せておいて腰を抜かすなと言う方が無理な話よ....」

 

(その言い方はなんか誤解を生みそうだな...)

 

「ネリム...淫乱...」

 

「ちがっ!そう言う意味は含んで無いわよ!て言うか貴方達神霊獣カーバンクルを知らないの⁉︎」

 

「カーバンクルですよね?時々森の奥で見かける可愛いやつ。」

 

「俺の知り合いがペットで1匹飼ってるぜ。」

 

「カーバンクルの...毛皮は...中々良い...」

 

「それは通常種のカーバンクルよ!私が言っているのは神霊獣カーバンクル!希少種よ!」

 

俺らが少し冗談を言うと座り込んでたネリムさんが立ち上がり強く訂正した。

 

「冗談だって、あれだろ?仙獣カーバンクルとか、大霊獣カーバンクルとかそんな感じだろ?カーバンクルは種類が多くて覚えきれねぇからなぁ。」

 

「その...神霊獣..珍しいの?」

 

「はぁ...確かに、この種類は情報自体が少ないから知らないのも無理は無いわね。」

 

そう言って何やらネリムさんは呆れた様子を見せた。

 

「仕方ないわね...歩きながら聞いて。」

 

そう言って再び歩き出す。

 

「良い?この世界に生息しているモンスター達には、それぞれランクが付けられている、これは知っているわよね?」

 

俺達は彼女の問いにうなずく。

 

「基本的にDランクからAランクの四段階に分けられているわ。ランクの判断基準としては、そのモンスターの強さと遭遇率からおおよそなランクを《モンスター協会》と呼ばれる文部管理局直轄の組織がランク付をしてそのモンスターの情報を発信しているわ。」

 

「主に《ギルド》や《冒険組合》と言った、モンスター絡みの依頼を出すとこがその情報を元に依頼の難易度を決め、仕事を探しにきた人達に斡旋したりしているんだろ?それくらいは知ってるさ。現に俺達の所にもそう言った依頼が来たりするからな。」

 

彼女の説明に続く様にディールさんが仕組みについて話す。

 

「まぁね...けどAランクの更に上があるのよ?Sラ...」

 

「Sランク...SSランク...それも...知ってる....」

 

「貴方達ちょいちょい私の説明を遮るわね...」

 

「それは俺も知ってますね。何回かギルドに行った時に仕事を探しにきた人達が話してたのを聞きました。」

 

「ソール君も知ってるのね....じゃあM(マスター)ランクは聞いたことあるかしら?」

 

「いや、そのランクは聞いた事有りませんね。」

 

「それ...ただの噂話...」

 

「フフッ...実は噂話じゃ無いのよねぇ〜。」

 

彼女はようやく求めていた反応が返ってきたらしく、どこか嬉しそうな顔をした。

 

「噂じゃ無いなら、お前はそのMランクの依頼を受けた事があるのか?」

 

「私はやった事はないわ...けどバッツはあるみたいね。」

 

「マジか!そんな話聞いた事ないぜ?」

 

「まぁ、私も詳しくは聞いてないから...なんだか余り話したく無さそうだし。」

 

「それ程...過酷なの?」

 

「それは分からないわ....けど」

 

ネリムさんは何か言いかけたところで黙ってしまう。

 

「それで、ランクについて説明してのはもしかして、神霊獣カーバンクルはMランクの依頼に登場する程のモンスターって言いたいのですか?」

 

「え?そ、そうよ。」

 

彼女は少し反応に遅れた感じで答えた。

 

「で?そのMランクってのはどれ程の難易度なんだ?」

 

「そうね、表現が難しいのだけれど....単純に数で表すとすれば、最低限一つの大国の全軍クラスの戦力数を集めてようやく挑戦出来るくらいかしら?現にバッツも誰かのMランクの依頼に付き添った感じだったし。」

 

「い...一国?」

 

「冗談ですよね?一国の中には優秀な戦士もいますけど、それらを入れてもですか?」

 

「勿論、優秀な戦士は数に入れて無いわ。けどそうね、もしまともに狩るなら十二聖天クラスの実力を持った人が五人は必要ね。」

 

とんでもない事を彼女は口にする。

 

十二聖天とはこの大陸で最強の十二人と言われている人達で、それぞれ十二種族の中からその代最強の人物が選ばれる。

その戦力は一人頭、小国の全勢力を持ってしても敵わないとまで言われる程強い存在だ。

 

「おいおい...そんなにヤバいのかよ。」

 

「当然よ、名称に神が付いてるのだから神格クラスのモンスター...カーバンクル達の神とも言える存在なの。私達で言うところの《神祖》ね。」

 

「理解...けど...」

 

ネリムさんの説明で俺達は大体のことが理解できた。

しかし、ルールラさんは何やら疑問が残るらしい。

 

「ルールラ?何か気になる所があったの?」

 

「それ程まで...強力なモンスター...彼の師匠..よく倒せた..」

 

「....確かに!珍し過ぎる素材に意識が奪われてそこを見落としてたわ!ソール君!」

 

「うぉっ!何ですか⁉︎」

 

物凄い勢いで肩を掴まれ揺さぶられる。

 

「貴方の師匠!何者なの!教えて!名前だけども良いから!」

 

「うをぉお!おち、落ち着いて下さい!そんなに、揺さぶらると、喋れない!」

 

「はっ!ごめんなさい!私ったらつい...」

 

そう言って彼女は揺さぶるのを止めた。

 

「ハァ、ハァ、えっとですね..名前は、ルナールって言います。身長はこれくらいの見た目は15歳前後の少女、髪は黒髪で吸血鬼です。」

 

「吸血鬼?珍しいわね...それにその名前と容姿、何処かで見たことある様な...」

 

「本人曰く、大陸でも有名な魔導師らしいので、もしかしたら何処かで見た事ある....あっ!あの校門の前に居る人に似てます...ってもう学園に着きましたね。それなら多分あの校門の前に居るのが師匠です...いや〜何とか間に合って良かった。」

 

話している間にどうやら学園まで着いたらしい。

校門の前には受付のテントと受付員、それに師匠も腕を組み立っている。

 

「へ〜、あれが貴方の師匠ね...本当に貴方の言った通りな見た目....えっ?」

 

俺の師匠を見た彼女はまたしても固まってしまう。

しかしもう学園には着いたのでいくらでも固まってもらって構わない。

 

「受付があるので早く行きましょう。後5分ほどしか...」

 

「遅いわ!このバカ弟子がぁああ‼︎」

 

「グハァアア!」

 

「うぉおお!ソール君大丈夫か!」

 

俺はいつの間にか師匠に投げ飛ばされ、門に激突する。

 

「ったく!本当にお前は!家からここまで本気で徒歩で来る奴があるか!道具を使い私を呼んで頼れば良いだろ!謝れば許したものを...ん?お前達は何だ?治安部隊か?」

 

俺を投げ飛ばした師匠は一通りの言葉を浴びせると、先程から固まっているネリムさん達に気づく。

 

「み、見えなかった...」

 

「私も...反応..出来なかった..」

 

どうやら、二人は俺を投げ飛ばすまでの師匠の動きが全くみえなかったらしい。

現に俺も反応が少し遅れた。

 

「あ、あ、貴方様は...」

 

「ん?」

 

先程まで固まっていたネリムさんが、体を震わせながら喋り出した。

 

「おいおい⁉︎どうしたネリム?」

 

「汗...凄い...」

 

どうやら、ネリムさんは震えだけじゃなく冷や汗もかいてるらしい。

 

「《常闇に顕現する紅月の魔女》ルナティアール・セカンド・ブラッド様!何故貴方様がここに...」

 

ピッ!

 

「むぅ!ん〜」

 

突然ネリムさんが喋らなくなった。 

多分師匠の魔法で口を塞がれたのだろう、突然の出来事に彼女は驚いている。

 

「どうやら貴様は私の事を知っている様だ...ならここまで弟子を運んでくれたのも貴様だろ?その恩に報いて今回は許してやる...余り私の本名を人目がつく場所で叫ばないでくれ、あと少し防音結界を張るのが遅ければここにいる大勢に私の正体が知れてしまう。自分がそれ程まで驚く存在が、他の者達に与える影響もそれなりにある事は少し考えればわかる事だ、違うか?」

 

ネリムさんが怯えている。

自分に向けられたもので無くても師匠の殺気が伝わってくる。

隣にいる二人も怯えて動かない。

 

「コクコク」

近づいて来る師匠にネリムさんは理解したと首を縦に振る。

 

「よろしい...」

 

その答えを確認すると、師匠は指を鳴らす。

それと同時にネリムさんの口が自由になり、彼女は口をパクパクさせている。

 

「大丈夫?」

 

「何されたんだ?て言うかこいつは誰だ⁉︎」

 

「ほう?こいつ呼ばわりされたのは久しぶりだな、しかし初対面の相手に向かってそれは些か礼を欠くとは思わんか?」

 

「すいません!仲間の無礼をお許し下さい。」

 

喋れる様になったネリムさんがすぐ様謝る。

 

「おいおい⁉︎どうしてそんな怯えて...」

 

「ディール...貴方も態度を慎みなさい...目の前の御方はこの大陸で最も有名な三人の魔導師と同格の御人、貴方は魔法に興味が無いから知らないと思うけど。」

 

「な!それって《深淵三大魔導師》と同格って事かよ⁉︎」

 

「そんな...」

 

「それ以上はよしてほしい...今の私はルナール、ランスダイト学園の魔法講師で、あそこに転がっているバカ弟子の師匠だ...それ以上でもそれ以下でも無い...」

 

三人は師匠の言葉の意味を理解したらしい。

その場で首を縦にふる。

 

「それでは...あぁ、バカ弟子をここまで送ってくれたのは本当に感謝する、書類には既にサインをしておいた。安心しろ、一応今の名前もある程度世間からの信用もある。上からとやかく言われる事は無いだろう。」

 

「え?サイン...うわっ!いつの間に...」

 

彼女の足元には、用意しておいた身元保証人の書類が落ちており、そこにはちゃんとサインがされていた。

 

「ネリム?」

 

「え、えぇ...一応彼の身元保証は出来たし、私達は帰りましょう。」

 

「そうだな...」

 

三人はそう言って、この場を後にする。

 

「あ!そうだわ!」

 

ネリムさんは思い出した様に俺の方を見ると、大きな声で叫ぶ。

 

「ソール君!試験頑張ってね!応援してるわ!」

 

「また何処かで会おうぜ!」

 

「....ガンバ」

 

それに続いて二人も言葉を送ってくれた。

それからすぐ、三人は転移魔法で消えていった。

 

「ん〜...何や感やで良い人たちだったなぁ〜...」

 

俺は壊れた校門の残骸から起き上がると、頭をさすりながら呟く。

 

「お前は感情に浸ってないでさっさと受付を済ませろ!」

 

パンッ!

 

「痛って!分かってるよ師匠。」

 

平手打ちを喰らった俺はのそのそ起き上がると、苦笑いで座っている受付の人の説明で書類にサインをする。

 

「はい、これで受付は完了です。」

 

「分かりました。」

 

受付が完了すると師匠の方を見る。

師匠は壊れた校門を魔法で修復している所だった。

 

「師匠、取り敢えず受付は済んだよ。」

 

「そうか...それと一つ言っておく。家では構わんが、学園にいる時は師匠では無く先生と呼べ。別にお前との師弟関係を秘密にする訳ではないが、公私は出来るだけ分けておくべきだろう...良いな?」

 

「オッケー師しょ....じゃなかった、先生。」

 

「出来れば敬語を...ハァ〜まぁ最初は良いだろう...それより試験開始までもうすぐだ、早く筆記試験会場に行け。」

 

「了解!んじゃ出来る限り頑張って来る。」

 

「ちなみに試験に落ちたら、貴様に二百種類以上のありとあらゆる呪いを掛けるからな。」

 

「サラッとえげつないこと言った!ちょっとそれは勘弁して!」

 

「いいから早く行け!じゃないと《身体能力低下》の魔法も掛けるぞ!」

 

「それは勘弁!」

 

俺は急いで筆記試験会場に向かった。

 

 

...............

 

 

「全く...」

 

「お弟子さん想いですね、ルナール先生。」

 

ソールが去った後、片付けを始めた受付の人がルナールに話しかける。

 

「ん?そうか、これ位が普通だろう。」

 

「そんな事ないですよ?キツイ言葉でもその中には愛が含まれてました、それはとても素敵なことです。」

 

「愛なんて下らない。しかしその性格は相変わらずだな...まぁ、お前なら私の弟子を任しても大丈夫だろう。」

 

体の前で手を組み祈りを捧げる仕草をする彼女にルナールは言った。

 

「ふふっ、それはつまり私のクラスで彼を受け持つ事になると?けど、貴方のお弟子さんならそれは無いんじゃないでしょうか?私《・》()()()()()()()()()E()()()()()()()?そんなに彼は実力が低いのですか?」

 

「馬鹿を言うな!実力は間違いなくSクラスだ、私はそんな生温い教え方はして無い。」

 

「やっぱり...」

 

「なんだ?」

 

クスクス笑う彼女にルナールは質問する。

 

「私の今の言葉を否定した時の先生は、本気でしたから。」

 

「なっ!...はぁ、お前は苦手だ...」

 

「ウフフッ...」

 

ルナールの反応を見て彼女は笑う。

結構プライドが高めなルナールだが、彼女の態度を許しているのはそれだけ彼女と親密な関係なのだろう、他の者が同じ態度を取れば只では済まない。

 

「しかし、それでは何故彼がEクラスに落ちると言えるのですか?」

 

素朴な疑問を彼女は聞いた。

 

「まぁ、私が色々とソールに細工しておいた、それに....」

 

ふと、ルナールの表情がほんの少しだけ険しくなる。

それを見た彼女もルナールの考えを理解してか、顔が険しくなる。

 

「例の、この学園に紛れ込んだ異物ですか....全く腹立たしいですね。」

 

「まぁそう言う事だ、今回の試験も何かしら仕掛けて来るに違いない。」

 

「でしたら尚更危ないのでは?大切なお弟子さんに何かあったら...」

 

「無用な心配だ...言っただろ?私の弟子はそんな生温い教え方をしていないと、昨年程度の事なら何の障害にもならない。」

 

「成る程、もし今年も事件が起きたら、私達教師が表立って事の対処に当たるのでは無く、敢えて受験者が理解していない状態で対処できてしまった...と言う形を取れば主犯の警戒心を煽らず今後の調査を楽にする、そして事を解決する受験者を一人に絞る事が出来れば他の受験者達への影響も少ないと...中々スパルタ教育ですね。」

 

「勿論、私達も警戒はする、特にあいつ以外の受験者の身の安全は私が保証しよう。昨年の様な失態は私がいる限りあり得ない。」

 

「彼以外ですか...よほど信頼してるのですね頼もしいです、では私もそろそろ準備してきます。」

 

「悪いが手筈通り頼む...私が予想した事が当たるなら、今回はあれが使われるだろう。」

 

「分かっていますよ、あれをソール君が相手にする様に調整しておきます。」

 

「よし、くれぐれも他の先生には気づかれない様にしてくれ、リディア先生。」

 

「了解です。」

 

そう言って、片付けを終えた彼女は校門を戸締りして体育館に向かった。

 

「さて、ようやく準備が出来た。後はアイツの成長次第だな...全く、人を育てると言うのは苦労するな。」

 

そう呟くと、ルナールは学園の敷地内に強力な《防御結界》を張ってから自分の持ち場に戻った。

 

 

..............

 

 

ソールと別れてから、ネリム達三人は中間地区にある治安管理局でバッツと合流した。

そこで、彼女達は彼が報告をしている間の出来事を説明する。

 

「成る程、では一応身元保証は出来たんだな?」

 

「ええ、これで何とか上には報告できるわね。」

 

ひとまず区切りがついた彼らは、治安管理局にあるカフェで休憩を取っていた。

周りにいる職員から多くの視線を浴びるが、四人は全く気にする様子がない。

彼らは、複数の管理局内でも有名な部隊のエリートで、名前を知らない人は居ないくらいだ。

 

「それにしても、まさかその様な御仁の弟子だったとは、彼もまた将来は名が通る強者になるかも知れないな。」

 

「いやいや、もしかしたら既に俺達より強いかもしれないぜ?」

 

「可能性ある....雰囲気が...違う」

 

「そうね、少なからず私より凄腕な魔導師になるのは間違い無いわね。」

 

「おいおいそりゃスゲェなw、お前よりって《天門魔導師》序列十位以内に入るって事かよ。」

 

彼は笑いながら答える。

 

「実際、序列なんて当てにならないわ。この世には私より優れた魔導師なんて幾らでも居るし、まぁあまり考えたくは無いけどね。」

 

「確かに...貴方以上は...本物の...化け物。」

 

「常人魔導師の限界到達点なんて呼ばれてるからな。」

 

「その言われ方、裏を返せば魔導師としてそれ以上は強くなれないって事なんだけどね。」

 

ネリムは軽く笑いながらコーヒーを飲む。

 

「そう言えば、報告の際に一つ任務が伝達された。」

 

話はガラリと変わり、バッツは上から指示された事を話し出した。

 

「えぇ、それでどんな指示が来たわけ?」

 

「取り敢えず、トラム線路破壊事件はこのまま調査を続行、しかし優先度は一つ下げ、新たに指示された任務、()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()を最優先事項にしろと。」

 

「また、唐突な指示だねぇ。」

 

「上は...私達の...使い方...荒い」

 

「まぁ、それはいつもの事として、何か有力な情報とか無いわけ?流石に何も無しで調査を開始しろとは言われて無いでしょ?」

 

「あぁ、いくつか情報がある..しかし、その中で一つ気になる事があってな、これを見てくれ。」

 

そう言ってバッツは情報を表示した、《マテリアル端末》をテーブルの中央に置き、三人に見せる。

 

「ふんふん昨年の事件ね....学園の編入試験にて不可解な傷害事件が発生か...え?これってソール君が受ける学園じゃない⁉︎」

 

ネリムは椅子から立ち上がり声を上げた。

 

「ネリム...少し落ち着く」

 

「あ、ごめんなさい...」

 

直ぐルールラに静止され、彼女は少し顔を赤くして椅子に座る。

 

「けどよ、どうして学園をターゲットにするんだ?基本的に奴らの反逆対象は《中央機関》に対するものだろ?」

 

「....将来性」

 

「ッ⁉︎何だと....」

 

ディールはルールラの呟いたことに反応する。

そして、徐々に眉間に血管が浮き出る程の怒りの表情を露わにし、凄まじい殺気を帯びる。

 

「ディールも...少し落ち着く」

 

「うぉっと、すまねぇ..」

 

彼の殺気が少し収まった。

しかし、周りにいた職員の殆どがカフェから居なくなっていた。

 

「あー....やっちまったか?」

 

「そうね...けどまぁ、貴方が怒りを感じるのは無理ないわ...私も少し腹が立った。」

 

「あぁ、奴らは真なる平和だの平等などを謳っているが、ただの悪だ、自分達の都合のいい様な事だけを並べて酔いしれる、どうしようもない悪だ!」

 

「バッツ...」

 

「分かっている...」

 

ルールラが静止しようとしたが既に彼は落ち着きを取り戻していた。

 

「しかし、この感情は今の俺らにとって最も共通している物の一つではないか?」

 

バッツが三人に尋ねると無言で、しかし強く同意する意思が籠もった頷きが返ってくる。

 

「そうだな...所で疑問に思ったんだが...」

 

そう言うと彼はルールラの方をじっと見たまま黙る。

 

「どうしたのバッツ?」

 

「ルールラに何か変なとこでも見つけたのか?」

 

二人は黙るバッツに質問する。

 

「ルールラ....」

 

「....何?」

 

バッツが彼女の名前を呼ぶと、落ち着いたいつもの表情で返事をする。

そして、バッツは彼女に質問する。

 

「何でそんな喋り方してるんだ?」

 

一瞬の静寂...そして直ぐにルールラは口を開く。

 

「だってこの方がガンナーっぽくない?マジ普段の喋り方したら箔がつかないじゃん?やっぱり口数少ないクールスナイパーエルフの方が舐められなくて済むし。」

 

「ふっ...プフフッ!」

 

「あはははっ‼︎」

 

バッツ以外の二人が彼女の口調を聞いて笑い出した。

 

「やっぱり変よw何でそんな真顔でそんな喋り方出来るのwお腹痛いw」

 

「いやw本当にどこでツッコミ入れようか迷ったぜw彼を前にしたら途端に口調変えたからなw」

 

「何?そんな理由であの口調をしてたのか⁉︎」

 

「だってカッコつけたかったし、姉さんキャラを演じてみた。」

 

そう言って彼女は顔の前でピースする。

 

「はぁ〜深く考えた俺がバカだった...」

 

そんな感じ彼らは休憩時間を過ごした....

 




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