万象の半精霊 作:宇宙豆
8話
俺が筆記試験会場に着いた時は、あと1分で試験が開始されるという、本当にギリギリの所で滑り込んだ。
その為、試験会場にいた皆から視線がとても痛かったが、何とか試験には参加できたので良しとした。
試験は最大3時間、その間に《基本魔法学》《基本薬学》《基本数学》《基本言語学》《基本歴史学》《基本生物学》
《基本魔道学》の七つの教科が対象だ。
基本と付いてるだけあって本当に基本的な問題が多く、少し難易度が高い応用問題があるだけで、しっかりと基礎を勉強している者なら解ける問題ばかりだ。
(まぁ、基本魔法学のある一問だけが少し分かりづらいけど、これなら満点者は結構居るのでは無いだろうか)
そんな感じで2時間くらいを使って回答と見直しをして、後の1時間は魔法学の問題用紙の裏に試験の点数には関係ないチャレンジ問題があったので、それを解いて時間を潰すことにした。
古代スペルマ帝国の古代魔法陣を可能な限り解読せよ見たいな問題だった。
古代スペルマ帝国のこの魔法陣は現代魔法陣の原型と言われこれを元により効率化された現代魔法陣が完成したらしい。
魔法陣に使われている文字は古代語が使われているので、解読するにはそれなりの知識がいるが、実は裏技的な物が存在する。
この魔法陣を鏡にに写すと、実は現代魔法陣に使われている文字にかなり近い物が見えて来る。
しかも、文字の意味も現代に近いので現代の方式に従って解いていけば、全てではないが殆どの魔法陣が展開可能なのだ。
実際に結構な数を試した事あるから信憑性は高い。
しかし、試験では道具の使用と魔法による不正行為は禁止されているので当然鏡などは持ち込めないし、魔法によるカンニングもできない。
しかし、あくまで不正行為...要はカンニング行為は禁止というだけであって、魔法そのものを使う事は許されている。
現に魔法陣を回答用紙に構築して展開せよ、と言う感じの問題もある。
試験会場は広く特殊な防護壁で隣の受験者の魔方陣をカンニングする事も干渉する事も出来ない為、魔法を用いた回答も使うことが出来る、しかしこの問題は魔法陣を用いた方法では解くことができない。
ならば、この問題を解く上で魔法陣を展開させずに読み取る事ができる方法があるとすれば魔眼しかないだろう。
一応俺も先天性魔眼持ちなのだが、俺の場合は先天性魔眼に新たに別の魔法を埋め込み人工的な魔眼も取得している。
つまり、先天性と後天性のハイブリット魔眼を自分で作り上げたのだ。
しかも、それぞれの魔法が干渉して効果が低下しない様にいろんな工夫もしている。
自分の身体は魔術的にいじっている部分が多い為、魔眼の他にも様々な魔術的機能ををこの身体は使うことができる。
そんな中、俺がこう言った古代の魔法を読み解く為に自分の魔眼に埋め込んだ魔法の一つとして、《
この魔法は俺のアレンジ魔法で、
当然、古代魔法陣も例に漏れずこの魔眼を使えば鏡で写したかの様に魔法陣を見る事が出来るのだ。
(まさか、こんな形で役に立つとは....魔眼の研究も、もう少し深くやっても良いかもな...)
「そこまで!以上で筆記試験を終わります。回答が途中でも書くのをやめ、筆記用具をしまって下さい。」
試験官が終了の合図をした。
無事全部の問題を解く事ができ、見直しもしたので多分満点だろう。
少なからず筆記試験が原因で落とされる事は無くなった。
試験官が回答用紙を回収し、全ての用紙が集まったのを確認した後に部屋からの退出許可が降りた。
試験会場からでた俺は、少しの間ぶらぶらしながら次の実技試験の説明を受ける部屋に向かっていた。
「さてと、次は確か受験票に書かれた部屋に行き、実技試験の内容説明を聞いて一旦昼休憩に入る....実技は午後からねぇ...」
実技試験まで少し時間があるので、その頃には魔力低下の解除も進み完全解除まで6割程度の所まで行くだろう。
となると、実技試験では4割の魔力で臨む事が出来る。
学園の編入試験程度なら4割でも充分こなせると思うし、案外合格するのは簡単そうに思えてきた。
(けど、油断や慢心は失敗の元なので試験の時は集中力を切らさない様にしなければ....)
そんな事を考えながら歩いていると、俺が試験の説明を受ける部屋の前に何やら人混みが出来ていた。
その人混みからはコソコソと黄色い声が聞こえて来る。
よく見ると、その殆どが女子の集まりで所々に男子が混じっている様な、側から見たら結構目立つ光景が目の前にあった。
(ん〜、誰か有名人でもいるのか?地方から来た有名貴族とか、もしくは噂に聞く《勇者紋》を持った新しい勇者様が居るとか...確かに、筆記試験は四つの部屋に分かれて行われていたけどその所々から強い魔力や気配を持った奴が何人か居たしな...その説は充分あり得る)
しかし、部屋の入り口を塞がれていては中で説明を受けたい者に迷惑がかかる。
特に俺とか....
だが、女子率が物凄く高いあの人混みの中を強引に掻き分けていくほどの度胸は無い、かと言ってあの雰囲気が漂う人集りに、退いてくれなどの言葉をかければ凄く反感を買うのは目に見えている。
と言うのも前に似た様な状況で経験しているのでそれに基づいての考察だ。
(ならどうすれば、この状況を切り抜けれるのか....実はスペシャルな道具を使ってこの場を切り抜けれる事が出来る)
俺は懐からペンダントを一つ取り出す。
それを首に掛けると先ほどまで躊躇していた人集りの中に歩いていく。
近づくといろんな人たちの声が聞こえてきた。
「おいおい、あの子って去年の中等部の大会の決勝にいた...」
「あぁ、俺こんな近くで見たの初めてだぜ...やっぱり美人だなぁ〜。」
「その子だけじゃねえよ、後ろにいるエルフの女の子もスタイルめちゃくちゃ良いぜ...」
「やっぱり、Sクラス候補の奴らは色んな意味でレベル高いよな〜、少しでも良いからお近づきになりたいぜ。」
「おいおい、分不相応過ぎるぞ?俺達なんて相手にすらされないって...」
少数の男子達はこの部屋にいる女子達の話題で盛り上がっている様だ。
そして大多数の女子達は....
「きゃ〜、ランハット様よ!去年見た時よりも凛々しさが増してるわ!」
「シュノイツ君やカリム様も居るわ!素敵すぎ!」
「ちょっと!そんな大きな声出したら迷惑よ!」
「貴方こそ!目立ちたいからって...」
と、何とも言いようの無い争いを繰り広げている。
そんなやり取りには気に求めずに人混みの中に割り込んでいった。
すると、割り込んだ側から次々に人混みが俺を避けている。
しかも、こちらの事を気にも留めずに先程と同じ様な会話をしていた。
俺が着けているペンダントは“気配遮断“、“視線逸らし“、“人除け“の三つの魔法が付与された魔道具で、これを身につけるとこのように人から認識されにくくなる。
今のような人混みを掻き分けて進みたい時などに大変便利なペンダントなのだ。
しかし、今の俺のようにすぐ近くを通っても他の人から全く気にも留められない、と言う状況は少し条件必要になる。
それは、その人混みにいる人達が自分以外の別の何かを注目している状態でいる事だ。
視線逸らしは、あくまで自分に向けられる視線をある程度逸らすだけの物で、自分自身を意識している人に対しては効果が無い。
ので、こう言ったある多くの人が注目する対象がある状況で無いと使えない代物なのだ。
しかし、条件さえ揃ってしまえばこの様に小規模の魔法効果でも充分効果を発揮出来るので、俺の《お手軽便利セット》の一つに入っている。
ちなみにこの名称は師匠に付けられたもで、全て俺の自作魔道具になる。
そんな感じで人混みを抜け部屋に入ると既に何人かの受験者が席についていた。
(ほうほう...これは偶然か、もしくは意図的にこう言った組み合わせなのか...)
俺は部屋に入った瞬間に外にいる人達が何に惹きつけられているか理解した。
既にこの部屋に居た全員から強い魔力と気配を感じた。
筆記試験の時に所々に居た気配の者たちがこの部屋に集められていたのだ。
実技試験は、説明を受ける部屋がそのまま試験のグループとなり、試験の時は同じ部屋で受けた受験者たちと一緒に受ける方式だ。
毎年試験の細かい内容は変わるらしいが、基本的に戦闘系の内容になっている。
受験者同士の一対一の試合、学園が用意した《
そしてグループごとに試験官が受験者の評価をする為、必然的にグルーは内の受験者同士で評価差が出てくる。
つまりは、優秀な受験者が多いグループに入ってしまうと自身の評価を上げるのが困難になる。
それを考慮して学園側はある程度実力が均等になるように、受験者の事前情報などを調べて部屋を割り振りするらしいが.....
(どう考えてもおれがこの部屋に割り当てられたのはおかしい気がする...)
この学園は、初等部、中等部、高等部の三つが一貫している学園で、受験者の6割が中等部からの進学希望者で外部から受験してくる者たちは4割ほどだ。
しかし、合格率は当然中等部からの進学者の方が高く、毎年の平均で合格者の8割が進学者達になり、俺のように外部からの受験者は2割しか合格できない事が現状である。
そして、8割が合格する事ができる進学者たちの中でも、特に優秀な成績を持つ者達が
外部受験者で有名な者や推薦受験者がこの部屋に割り当てられるのは分かる、しかし俺は田舎から来た受験者でそもそもこの年まで学校にすら通った事が無いのだ、そんな無名の受験者がこの部屋に割り当てられるのは些か公平に欠いた事じゃないのだろうか。
(まぁ多分師匠が仕組んだ事だとは思うが....しかし、こんな事を仕組んでおいて尚且つ弱体化させて受験に臨ませるとか、どんだけ鬼なんだよあの人は....いやまぁ吸血鬼なんだけど)
そんなアホな事を思いつつ、俺の受験番号の札が置かれた席に着くため並べられた机と椅子の間を通って行く。
部屋にいる何人が俺に気付いているか分からないが、外の連中は全く俺に気付く様子がない。
俺はそのまま席に着くとペンダントを懐にしまい静かに待つ事にした。
目の前には既に座っていた二人の受験者が隣の者とリラックスした雰囲気で話している。
「この前中間地区にできた新しい
「それは多分、複数の強化魔法を組み合わせた複合型の魔法だと思う。前衛で戦う貴方なら使っても良いんじゃない?」
「私もそう思ったけど値段が高かったの、私のお小遣いじゃ買えなかったわ。」
「魔法絵巻は物価が高いからしょうがないよ、まぁ私なら似た様な強化魔法を使えるから必要な時は言ってくれれば、幾らでも魔法をかけてあげる。」
「流石は中等部最強の魔導師リカちゃん、頼りになるわ。」
「人前でその呼び方はやめてよ、私の名前はリカテュエルよ、そして高等部に入ったら最強じゃ無くなるわ。」
「まぁそんな恥ずかしがる事無いわよ、未だ私達の周りの席の人は来て無いみたいだし.....ッ!」
そんな事を言いながら彼女が周りを見ると、丁度後ろの席に座っていた俺と目が合った。
「どうも〜。」
俺は目があった彼女に笑顔で挨拶する。
「......あなた誰!」
「ソールだけど。」
「だから誰よ!」
俺のアホな返答に彼女は更に大きな声で話す。
余りの声の大きさに部屋にいる者だけでなく、廊下にいる者たちもこちらを注目する。
(あれ〜、なんか予想以上に注目されてるなぁ〜...何人か俺の存在に気付いていると思ってたのに....)
周りの全員が驚いた表情をしているので少し拍子抜けな感じだ。
まぁ、こんな所で常に周囲を細かく警戒する事は無いと思うので気付かなくても仕方ないのかもしれない。
「貴方ここが何処だか分かってるの?」
「実技試験の説明を受ける部屋だろ?」
「そうだけど!ここはSクラス候補生が集まる部屋って事よ!」
「あぁやっぱりか...まぁお手柔らかに。」
「ちがっ、そういう事じゃなくて...あぁもう!」
何やら俺と彼女の認識がズレているのか、どうやらすこし怒らせてしまったらしい。
「落ち着いてヘレン、もう少し詳しく説明をした方が良い。」
「うぅ...分かったわよ。」
そう言ってヘレンは少し後ろに下がった。
「いきなりゴメン、彼女も悪気があったわけじゃ無いから。」
「別に気にして無いから良いよ、それよりここがSクラス候補生が集まる部屋だとして、俺がいると何かまずい感じなの?」
「別にまずいわけじゃ無いけど、貴方本当にここの部屋で合ってるの?」
「合ってると思うけど...ほら、この受験番号が俺が座っている机の札に書いてあるだろ?」
そう言って俺は、受験票の番号と札の番号が同じか彼女に見せた。
「確かに合ってるね....ヘレン、彼は同じグループで試験を受ける人だよ。」
「嘘でしょ?だってどう見ても弱そうじゃない。」
(おいおい、初対面なのに堂々と弱い宣言されたよ?まぁ実際自分がどれ程の実力があるか分からないけど...)
「うん、魔力量は豊富とは思えないし...かと言って戦士系の戦闘をする様な感じもしない....良くて
「いや、一応魔導師だよ。」
「それで魔導師はやめた方が良いよ。」
速攻でやめろと推奨されてしまった。
まぁ実際今の俺は実力の半分も出せないが、そこまで言われる筋合いもない。
しかし、何を目指そうが俺の勝手だ!などと言う気もしないので取り敢えずこの場は無難にやり過ごす事にする。
「訳あって今は魔力が低下してるからね、普段はもう少し魔力量は多いから魔法を使うのに支障は無いよ。」
「言い訳なんて見苦しいわね!自分の実力の無さを認めたら?」
突然ヘレンが会話に横槍を入れてきた。
(せっかく人が突っかからずにやり過ごそうとしたのに、空気の読めない奴だな)
流石の俺も少しイラッとしたので反論する事にした。
「別に自分が強いとは思って無いんだけどなぁ....それに君と俺って初対面だし、俺の実力を見ても無いのにその発言は少しどうかと思うけど。」
「そんなの見なくても分かるわよ、見た目からして弱そうだし本当に実力がある奴はもっと雰囲気という物が有るのよ?貴方からはそれを一切感じ無い、だから実力が無いって言ってんの!分かったかしら。」
(あぁ...コイツ話が通じ無いタイプだな)
俺の反論に対して自分の価値観を前面に出して否定してきたので、少し呆れた気分になった。
初対面なのだからもう少し遠慮と言うものを覚えてほしいし、どう見ても実戦経験が少ないのに雰囲気とかそんな事を言われたくは無い。
まぁ多分彼女は中等部時代で皆んなから慕われる程良い成績だったに違いない、それらが彼女の自尊心を大きくしてしまったのだろう、初対面の相手を見下す様な態度はそのせいかもしれない。
(もしSクラス候補生の殆どがこの価値観の持ち主なら、少し学園の未来が不安になる気がするな...まぁ俺には関係ないが...)
とにかく、これ以上話していても無駄なので何とか話を切るきっかけを探す。
「話している所すまない、少し彼と話をしても良いか?」
話の落とし所を探していると、前の方の席に座っていた一人の受験者が話しに入ってきた。
「いま私がコイツと話してるんだけど、後にしてくれない?」
ヘレン話に入ってきた彼にきつい口調で返す。
「話している、か.....俺が見た感じ、お前が彼とリカテュエルの会話に割って入り一方的に自分の意見を述べている様にしか見えなかったが?」
「はぁ?事実を言っているだけでしょ?現にコイツの魔力量は大した事ないもの。」
「それについても、彼は理由があるからと言っていただろう?」
「私はそれを言い訳って言ってんの!」
「彼が言い訳している証拠でもあるのか?」
「逆にコイツが言い訳してない証拠でもあるの?」
「そんなのは無い、しかし彼が言い訳している証拠もない、それに魔力量が実力の全てという考え方は二流だぞ?」
「誰が二流よ!首席だからって周りを見下しすぎるのはどうかと思うけど?」
「その言葉そのまま返すよ。」
どちらが良い分が正しいかは目に見えている、しかし彼女は引き下がらないだろう。
何か二人の間に因縁でもあるのか、何やらお互いを敵視している様子だ。
「ヘレン熱くなりすぎ、ここら辺で引こう?」
「っ!....分かったわ...」
リカテュエルの一言でヘレンは嘘の様に大人しくなった。
(ん〜、弱みでも握られてるのかな?けど二人からはそんな感じはないし...まぁどうでも良いか)
取り敢えず、彼女との話は一区切りがついたので良しとした。
「それで、彼に話があるんだよね?貴方が外部の人に興味を持つなんて珍しいね、どうしたの?」
ヘレンを宥めた彼女は、先程俺に話があると言った彼に質問をした。
「別に興味があるわけではない、少し注意しようと思ってな。」
彼女の質問に応えた彼は、握手をしたいのか手を差し伸べてきた。
「俺の名前はランハットだ、今し方知り合いが失礼な態度を取ったことを謝りたい。」
彼はとても紳士的な態度で挨拶をして来た。
「なっ!何勝手に謝っ!」
「ヘレン?」
「うぅ....」
彼の言葉にヘレンが反応しかけたがリカテュエルがすぐさま彼女を静止した。
彼の反応には少し驚いたが、どうやら先程俺が懸念していた事は杞憂に終わったらしい。
「別にそれほど気にして無いから良いよ。」
「それなら良いんだが....」
「そう言えば俺はまだ名乗ってなかったな。」
そう言って俺は差し伸べてきた手を握り握手をした。
「俺の名前はソールだ、助けてくれてありがとな。」
「........ん?」
違和感を感じたのか、彼は握っている俺の手をまじまじと見ていた。
「えっと....そろそろ良いか?」
「あぁ、すまない。」
そう言うと彼は握っていた手を離したが、その後も握っていた手の感触を確かめる様に自分の手を動かしていた。
「それで話って?」
「そうだったな....ふむ、まず言っておくが俺はお前を助けたつもりは無いから礼など不要だ...そんな事よりお前に聞きたい事がある。」
そう言った彼の表情は少し険しい雰囲気を見せた。
「一つ目は、お前はこの試験にどの程度の意識で臨んでいる?」
「意識?」
「あぁ、俺から見たお前の様子だと余りこの試験に対して少し真剣味が足りない様な気がした。」
(おっと、コイツは意識が高い感じの人かな?だとしたら余り俺と気が合わないかもしれん)
「お前は筆記試験の時、開始ギリギリで会場入りしただろう?その際でどれ程の者達の集中力を掻き乱したか分かるか?」
「うっ....」
どうやら彼は、俺がギリギリで試験に参加した事で周りに迷惑をかけてしまった事を咎めているらしい。
確かにあれは俺に非があったから何も言えない。
「あと少しで試験が開始する緊張感、頭の中でどんな問題が出るか思考を巡らせていた者も多いだろう...目の前の試験に意識を集中させている中、思いもしない物が横から飛び込んできた時、張り詰めていた集中力がすべて切れてしまい本来の実力が出せなかった...魔導師であるならその時の不快感は理解できるだろう?」
「あぁ...魔法を行使しようとしている時も邪魔されるのは確かに不快だ...」
「それと同じ様な事をお前はあの試験会場にいた全ての者にした事だ、この意味も分かるな?」
「あぁ....」
彼の言っている事は正論で改めて聞かされると結構な事をしでかしてしまったと心の中で反省する。
部屋は少しの間静かになる。
その間に俺は、何をすべきか頭の中でまとめて行動に移す事にした。
「ふぅ....確かに俺が悪かった、ギリギリで試験を受ける事になった理由も俺の不手際が招いた事だしそれについては本当に反省している...この通り、本当に悪かった。」
そう言って俺は目の前にいる彼に頭を下げる。
次に部屋に居る者と廊下の外にいる者に聞こえる様な声で話す。
「この中に俺と一緒の試験会場にいた人に....俺のせいで皆の集中力を掻き乱した事を謝罪します...本当に悪かった。」
俺は部屋に居る者と廊下の者にも頭を下げる。
言われてみれば少し罪の意識が足りなかったと自分でも思う。
もしこれで試験の成績に大きく影響してしまったのなら取り返しのつかない事だ。
「そうだぞ!もし試験に落ちたらお前のせいだからな!」
「そ、そうよ!私も少し筆記試験の出来が微妙だったもの!落ちたら貴方のせいよ!」
俺の同じ会場にいた者か、廊下にいる者達から怒りの声が聞こえる。
中には周りに便乗して落ちた時の言い訳で言っている者もいるかも知れないが、俺に何か言い返す資格もない。
「だかしかしだ。」
野次の飛び交う中、彼は全員に聞こえる声で話し出した。
「起きてしまった事は仕方が無い、お前は反省している様だから俺は許す...それに、俺は試験開始ギリギリで乗り込んで来た者が居ようが居るまいが関係ない、そんな程度で集中力を乱す程やわでは無いからな。」
彼の言葉に先程まで飛んでいた野次がピタリと止んだ。
「逆にだ...この程度で集中力を乱し実力が発揮出来ない者がこの学園に合格するはずが無い、少なくとも俺はそんな事を不合格の理由にはしない、逆にそんな行為はラーンロット家に泥を塗る行為だからな...俺は今回の件は集中力が試される試験の一環だと捉えている。」
彼のその言葉が周りに伝わったのか、気づけば廊下にいた者達も自分達の指定された部屋に向かっている所だった。
「なんか本当に済まないな...大きな借りができたよ。」
「先ほども言ったが別にお前を助けたつもりは無い、俺は俺の思った事を言ったまでだ、しかしこの試験の合否に関わらずこれからは十分に気をつけた方が良いぞ?」
「あぁ、気をつけるよ。」
そう言って彼は自分の席に戻って行った。
(ラーンロット家と言う事は、この領地の次期党首候補だろうな...なる程、彼ならその器に相応しい物を持っているかもしれない...)
「そうだ、聞き忘れたことがあった。」
一段落着いたところで俺も席に戻ろうとしたが、彼が思い出したかの様に呼び止めた。
「何?」
「いや、大した事ではないのだが、お前は何を目指してこの学園に入ろうとしている?」
「いや、特に目指している物は無いな....強いて言えばこの学園の図書館にある貴重文書の閲覧と卒業資格かな?」
「それでは入りたいクラスとかも無いのか?」
「無いな、一応クラスごとにレベル分けされている様な噂を聞いた事が有るけど、俺にとっては余り関係ない事だ。」
そんな事伝えると彼は少し悩ましげな表情を浮かべ、徐に学園のクラス制度について話し始めた。
「そうか...外部からだとそこら辺の認識が少し甘い様だな...この際だから少し説明をしよう。一応形式上はAからDクラスは皆平等な待遇を受ける事が出来る、特別なのはSクラスとEクラスだな。」
「Eクラス?」
俺が師匠に聞かされたのは、SからDクラスの5クラスまでだったのでEクラスがあるなんて知らなかった。
「まぁ知らないのも無理はないか...Sクラスが学園の中で最高クラスの実力を持った者が集まる所ならば、Eクラスは学園でも最低クラスが集まる所とされている...本来はその様な格付けなど存在しないが、そのせいもあってか学園側はEクラスについて余り説明をしないんだ。」
「成る程...表向きはSクラス以外はそんな格付けはされてないが事実そう言った物が存在すると...と言う事は学園に合格できたとしても、そのEクラスに入ってしまうと学園生活を送る上では障害が多い感じか...」
「まぁ、そう言う事だ...それを踏まえてだ、お前はクラスに拘りは無いのか?」
俺に伝えたかった事は言い終わったのか、彼はもう一度俺に質問をした。
確かに、Sクラスに入れれば学園生活のみならずこの先の進路にも大きなアドバンテージを得る事が出来るだろう、逆にEクラスになれば進路どころか学園卒業すらも怪しい感じになる可能性がある...そう考えればSクラスないし、Eクラス以外を目指す方が良いだろう、だが....
「それでも俺はクラスに拘らないかな、本当にやりたい事があるならどんな環境でもやると思うから。」
「........そうか。」
そんな俺の返答に彼は少し驚いた様子を見せるが直ぐに元の顔に戻り一言返事してから自分の席に戻った。
そんな彼に近くにいた者が何やら話しかけているが、特に気にする事もないので俺も席に戻る事にした。
............
「本当にどうしたんだ?ランハット、お前があんなに目をかけるなんて珍しいぜ?今日は雪でも降りそうだな。」
彼の近くに座っていた者が、先程のやり取りについて話していた。
「ちょっとな....彼と握手した時に違和感を覚えた。」
彼はソールと握手した手を改めて見つめる。
「何だ?もしかしてお前そっちの癖があるのか?首席様の意外な一面発見。」
その者は少し茶化す様に彼に言った。
「そう言うんじゃない....ただ。」
「ただ?」
彼は視線を変えないまま彼に自分が感じた違和感を話し出した。
「ぱっと見では女性に近いくらいの綺麗な手をしていると思ったのだが、いざ握手してみるとその手の皮は厚く硬かった、それに裸が白いせいで目立たないが所々に傷跡もあった....そして何より握手した時に伝わってくる力と彼の姿勢にも違和感を感じた。」
「だから何が言いたいんだ?」
彼の説明が余り理解出来ないのか、その者は更に質問する。
「つまりな、魔道士にしては余り必要とされていない戦士の雰囲気を感じたんだ...多分彼は剣術、もしくは近接戦闘も出来るかもしれないと言う事だ。」
「んじゃ、実は純粋な魔道士じゃなくて魔法も使える戦士なんじゃ無いか?」
「そんな中途半端な雰囲気じゃなかった...ヘレンが言っていた魔力がそこまで多くないのもみれば分かった、しかしもし彼が何らかの原因で使える魔力が少なく実際はあれよりもっと多い魔力を保有していたとしたら...」
「したら何だよ?」
「ガリウス学園にいる
「いやいやそれはないって、あいつだろ?去年の国内学園対抗戦、ガリウス学園の優勝に大きく貢献したり国内総合武術大会優勝、大陸武術大会でも三位に入ったって言う奴だろ?」
「あぁ、俺の思い過ごしなら良いんだがな...もしそうだとしたら面白いと思わないか?」
「まぁ確かに、強い奴が身近にいて戦えるのは楽しいけどよ、なる程...だからお前はあんなに気にかけてやったのか?」
「あいつを見て、弱そうだの大した事ないなと思っている奴は後悔するかもしれんな。」
「へへっ、んじゃあいつはSクラスに上がってくるわけだな?」
「いや、多分彼はEクラスだろう....筆記試験に遅れてきたのが大きい減点になるはずだ。」
「そりゃ残念、卒業するまでにあいつが潰されちまったら、実力を見る事も出来ないな?」
「いや、そんなので潰される様な奴はそれこそ大した事は無いだろう、そうなったら俺の予想が外れただけの事だ。」
「厳しいねぇ。」
「そろそろ試験官が説明に来る頃だろう、お前も気を引き締めないとSクラスに入れないぞ?カリム。」
「俺がSクラスに入れねぇ訳がねぇだろ?」
「あぁ、それこそあり得ないな....」
そんな会話を終えた二人は試験官が来るまで、静かに待つ。
............
ランハットと話を終えて少し経つと、この部屋に割り当てられた受験者達が全員揃っていた。
それから直ぐに扉から一人の試験間が部屋に入ってきて、教壇の前に立つ。
「はい、ではこれから実技試験の説明を始めます。」
朗らかな女性の試験官だ。
「まずは自己紹介から、今回この受験グループの担当になった、リディア・F・エイプリルと申します。今回このグループの試験は私一人が、皆さんを審査し点数を決定します。尚、他のグループも同様の形式で採点されます。」
彼女の言葉を聞いて部屋の全員が驚いた。
本来、試験は公平に行われるのが絶対条件なのだ。
学園の入学試験では無いかもしれないが、国規模もしくは、大陸規模で行われる重要な大会の審判や罪を裁く裁判など、重要な決定が下される時は、その役目を担う者には《絶従の刻印》と呼ばれる呪法がかけられる。
これは、刻印を刻まれた者と刻んだ者との対等な条約を絶対遵守させる呪いで、《
もし破られる様な事があれば破った者にはあらかじめ決めておいた罰が破った者に執行される効力がある、大変高度で危険な呪いだ。
その様な物を刻まれるほど重要な決定をする者は責任が重たい。
程度に違いはあれど学園の入学試験も似た様な物で、その合否に関わる審査を一人だけに委ねるという事になるが、どれほど公平を遵守する人物だとしても必ずどこかに身贔屓とまでは言わないが、偏りが出てくる審査になるはずだ。
なので、本来この様な決定をする者は余程の高位な権利を持つ者以外は、複数人で審査するのが普通なのだが....
(何か怪しいな....俺がこのグループに入れられたのは別に構わないとして、学園自体がこんな大胆な事をするなんてあり得るのだろうか?もしかしたら今年の試験は何か起きるかもしれないな....)
何にせよ、油断せずに試験に臨めば不足の事態が起きようともある程度までは対処出来るだろうからこれと言って問題は無いはずだ。
そんな俺やその他の受験者達の不信感を無視して、彼女は試験の説明を続ける。
「今回皆さんには4人1組になって戦闘を行なってまらいます。皆様が戦う対象は、軍事訓練などにも用いられる《
説明した特定の魔法はこちらがあらかじめ用意してある魔法陣を使用して貰いますが、攻撃を当てる場所はそれぞれの機体ごとに場所や数などが違うので、皆さんはその場所を探り当て、対象の攻撃を凌ぎつつ攻撃を当てなければなりません。
また、自律型戦闘人形の強さはこちらがあらかじめ調べさせて頂いた、皆さんの情報を基に設定するので受験者の組み合わせ事に対象の強さは変わってきます。
制限時間は15分、それまでに対象を停止させるか時間切れまで戦闘不能にならなければ点数として着きますが、途中で戦闘不能になってしまったらその時点でその受験者の実技試験での点数は0点とさせていただきます。
尚、この自立型戦闘人形は条件に満たない限りは止まる事が無なく損傷した部分は即座に再生するので破壊は無理な物と考えて下さい。審査基準は極秘なのでそれに類似する質問は無しとさせて頂く上で、何か御不明な点や質問はあるでしょうか?」
一通り説明を終えた彼女は部屋にいる全員に質問をした。
少し経っても質問をする者は居なかった。
(まぁ、何人かは違和感を覚えている奴もいるかも知れないけどわざわざ掘り下げて聞こうとする奴も居ないかぁ...)
質問が無いのを確認した彼女は話し出した。
「それでは、質問が無さそうなのでこれにて終わりにさせていただきます。皆様に神の御加護がありますよう祈ってます。」
そう言って彼女は手を組み祈る様な仕草をした。
(ふむふむ、羽は仕舞ってあるけど多分この人は天使族の人だろうな、天使族は名前に特徴があるから分かりやすいし何より神を崇拝している様な仕草も見せたので十中八九そうだろう)
「それでは、ここから1時間は昼休憩になります。休憩した後、各自受験票に記載されている試験会場に集まって下さい....これにて解散です。」
その言葉を聞いた受験者達は部屋からぞろぞろと出て行った。
(まぁ、取り敢えず実技試験も油断せずに手堅くやってけばいいかな...)
そんな事を考えながら俺も昼食を食べるため部屋を後にする。
しかし俺はまだ知るよしもなかった、この実技試験でこれから起きる事件を....
読んで頂きありがとうございました。